(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605218
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】加熱方法
(51)【国際特許分類】
B29C 35/08 20060101AFI20191031BHJP
B29C 33/06 20060101ALI20191031BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
B29C35/08
B29C33/06
H05B6/10 331
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-66321(P2015-66321)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-185665(P2016-185665A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2018年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博隆
(72)【発明者】
【氏名】平松 良政
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−219280(JP,A)
【文献】
特開2004−353035(JP,A)
【文献】
特開2011−047037(JP,A)
【文献】
特表2008−546570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/06,35/08,
H05B 6/00−6/10,6/14−6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の加熱対象となる面に沿って、当該金属材の内部を通過する複数の貫通穴を並列に形成する貫通穴形成工程と、
複数の前記貫通穴に対して1つずつ間を飛ばして誘導加熱用のコイルを挿通して配置すると共に、前記コイルが挿通されていない前記貫通穴を冷却材を通過させる用途に使用するよう冷却具を配置するコイル配置工程と、
前記コイルに高周波電流を流して、前記金属材を誘導加熱する加熱工程と、
その後、前記コイルが挿通されていない前記貫通孔に冷却材を通過させる工程と、
を有する加熱方法。
【請求項2】
請求項1に記載の加熱方法であって、
前記貫通穴形成工程は、前記金属材の加熱対象となる面に対して平行な複数の前記貫通穴を形成する、
加熱方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加熱方法であって、
前記貫通穴形成工程は、前記金属材の加熱対象となる面からの距離が同一となるよう、複数の前記貫通穴を形成する、
加熱方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の加熱方法であって、
前記貫通穴形成工程は、相互に等間隔に配置されるよう複数の前記貫通穴を形成する、
加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱方法にかかり、特に、誘導加熱により金属材を加熱する加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、シリコーンゴムを金型成形する場合には、金型の温度を適切に設定する必要がある。例えば、まずは金型を低温に設定して液状シリコーンゴムを充填し、その後、金型を加熱してシリコーンゴムを硬化させる。そして、金型を加熱する方法として、当該金型の内部に高周波誘導加熱用のインダクターコイルを埋設することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−191380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したように、金型の内部にコイルを「埋め込んで設ける」場合には、金型作成時に金型自体にコイルを埋め込む必要がある。このため、金型の設計時に、コイルの埋め込み場所やスペースも考慮する必要があり、余計な工数が生じ、コストが高くなる、という問題が生じる。また、コイルの交換時に金型の解体が必要などの問題が生じる。そして、これらは金型に限らず、あらゆる金属材においても、上述した同様の問題が生じる。なお、一般的な誘導加熱方法として、パンケーキ型コイルも用いて金型成型面を誘導加熱する方法があるが、当該金型成形面といった加熱対象面を均一に加熱できない、という問題もある。
【0005】
このため、本発明の目的は、上述した課題である、加熱対象となる金属材のコストが高くなること、及び、加熱対象を均一に加熱できないこと、を解決することができる加熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態である加熱方法は、
金属材の加熱対象となる面に沿って、当該金属材の内部を通過する貫通穴を形成する貫通穴形成工程と、
前記貫通穴に誘導加熱用のコイルを挿通して配置するコイル配置工程と、
前記コイルに高周波電流を流して、前記金属材を誘導加熱する加熱工程と、
を有する、
という構成をとる。
【0007】
また、本発明の加熱方法では、
前記貫通穴形成工程は、前記金属材の加熱対象となる面に対して平行な複数の貫通穴を形成する、
という構成をとる。
【0008】
また、本発明の加熱方法では、
前記コイル配置工程は、複数の貫通穴に対して、隣り合う貫通穴に配置されるコイルと流れる電流の向きが異なるよう前記コイルを配置する、
という構成をとる。
【0009】
また、本発明の加熱方法では、
前記貫通穴形成工程は、前記金属材の加熱対象となる面からの距離が同一となるよう、複数の貫通穴を形成する、
という構成をとる。
【0010】
また、本発明の加熱方法では、
前記貫通穴形成工程は、相互に等間隔に配置されるよう複数の貫通穴を形成する、
という構成をとる。
【0011】
また、本発明の加熱方法では、
前記複数の貫通穴のいずれかを、冷却材を通過させる用途に使用する、
という構成をとる。
【0012】
上記構成の加熱方法によると、まず、予め形成された金属材に、その加熱対象となる面に沿って、金属材の内部を通過し、両端が外部に開口する貫通穴を形成する。そして、この貫通穴にコイルを挿通して配置して、当該コイルに高周波電流を流すことで、金属材の加熱対象となる面が、コイルに流れた高周波電流により誘導加熱される。
【0013】
このように、本願発明では、予め形成された金属材に後から貫通穴を形成しているため、コイルの配置を考慮することなく金属材を成型することができる。その結果、金属材の作成コストを低減しつつ、加熱対象となる面を有効に加熱することができる。特に、複数本のコイルが、平行、等間隔となるよう、また、加熱対象の面から等距離となるよう貫通穴を形成したり、隣り合うコイルに相互に逆向きの電流が流れるよう当該コイルを配置することで、効率良く加熱対象の面を加熱することができる。さらに、金属材に形成した貫通穴のいずれかを、冷却材を通過させる用途に使用することで、加熱後に冷却が必要な金属材に対する加熱及び冷却を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上のように構成されるため、金属材の作成コストを低減しつつ、加熱対象となる面を有効且つ均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の加熱方法で加熱する金属材を加工する一例を示す図である。
【
図2】
図1に開示した金属材にコイルを配置した様子を示す図である。
【
図3】本発明の加熱方法の動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図1に開示した金属材にコイルと冷却構造を配置した様子を示す図である。
【
図5】加熱方法の他の動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の加熱方法で加熱する金属材の他の例を示す図である。
【
図7】本発明の加熱方法で加熱する金属材を加工する他の例を示す図である。
【
図8】本発明の加熱方法で加熱する金属材を加工する他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
本発明の第1の実施形態を、
図1乃至
図3を参照して説明する。
図1は、加熱する金属材を加工した様子を示す図であり、
図2は、金属材にコイルを配置した様子を示す図である。
図3は、加熱方法の動作を示す図である。
【0017】
本実施形態では、加熱対象となる金属材10は鋼材であり、例えば、
図1に示すように、所定の厚みを有する板状のものである。そして、本実施形態では、この金属材10の一方または両方の板面を加熱する場合を説明する。
【0018】
但し、加熱対象となる金属材10は、後述するようにコイルに流れる電流にて誘導加熱可能であればいかなる材質のものでもよく、いかなる形状のものであってもよい。また、加熱対象とする面は、必ずしも平面であることに限定されず、曲面であってもよく、その広さはわずかな領域であってもよい。
【0019】
本発明の加熱方法では、まず、金属材10の加熱対象となる板面に沿って、金属材10の内部を通過する貫通穴11を形成する(貫通穴形成工程:
図3のステップS1)。例えば、
図1に示すように、板状である金属材10の特定の側面から反対側の側面に向かって、板面に対して複数本の貫通穴11を形成する。
【0020】
このとき、複数の貫通穴11は、板面に対して平行であり、また、相互に等間隔に配置されるよう、形成される。また、複数の貫通穴11は、板面からの距離が同一となるよう形成される。但し、複数の貫通穴11は、必ずしも板面に対して平行であったり、板面からの距離が同一である、ことに限定されず、また、相互に等間隔でなくてもよい。
【0021】
続いて、上述したように金属材10に形成した複数の貫通穴11に対して、外周に絶縁処理を施した誘導加熱用のコイル21を挿通して配置する(コイル配置工程:
図3のステップS2)。本実施形態では、コイル21は、両端が電源装置20に接続された1本の形状に形成された導体である。そして、コイル21は、並列に形成された複数の貫通穴11に対して、蛇行するよう挿通される。つまり、コイル21は、隣り合う貫通穴11に挿通されたコイル21同士に、相互に逆向き(異なる向き)の電流が流れるように配置される。
【0022】
但し、コイル21は、必ずしも蛇行するよう配置することに限定されず、それぞれに同一方向に電流が流れるよう配置してもよい。また、コイル21は、1本の形状で形成されていることに限定されず、複数のコイル21がそれぞれ異なる貫通穴11に挿通されて配置されてもよい。
【0023】
続いて、上述したように金属材10の貫通穴11に配置したコイル21に、電源装置20から高周波電流を流す(加熱工程:
図3のステップS3)。これにより、金属材10の加熱対象となる板面が、コイル21に流れた高周波電流により誘導加熱されることとなる。
【0024】
このとき、複数のコイル21は、平行かつ等間隔、さらには、板面から等距離となるよう配置されていることで、板面を均熱かつ効率良く誘導加熱することができる。
【0025】
そして、本発明では、上述したように、金型などの予め成型された金属材10に後から貫通穴を形成しているため、事前にコイル21の配置を考慮することなく金属材10を作成することができる。その結果、金属材10の作成コストを低減しつつ、加熱対象となる面を有効に加熱することができる。
【0026】
<実施形態2>
次に、本発明の第2の実施形態を、
図4乃至
図5を参照して説明する。
図4は、金属材にコイルと冷却構造を配置した様子を示す図である。
図5は、加熱方法の動作を示す図である。
【0027】
本実施形態の加熱方法は、上述同様に、まず金属材10を加熱するが、その後、冷却する必要がある場合を想定している。
【0028】
まず、
図4に示すように、実施形態1の場合と同様に金属材10に貫通穴11を形成する(
図5のステップS11)。そして、本実施形態では、形成した貫通穴11の一部にコイル21を挿通して配置する(
図5のステップS12)。例えば、
図4に示すように、並列に配置された複数の貫通穴11を一つ置きに、つまり、1つずつ間を飛ばして、当該貫通穴21にコイル21を蛇行させて挿通する。これにより、相互に隣り合うコイル21の間に、当該コイル21が挿通されていない貫通穴11が位置することとなる。
【0029】
そして、本実施形態では、コイル21が挿通されていない貫通穴11は、冷却材を通過させる用途、つまり、冷却水路として使用する。このため、
図4に示すように、コイル21が挿通されていない貫通穴11に、冷却装置30によって冷却水31が流れる冷却具を配置する(
図5のステップS12)。例えば、冷却具として、貫通穴11に直接冷却水を流すべく、各貫通穴11の両端に冷却水を流出入させる冷却水端子を設ける。あるいは、冷却具として、貫通穴11内部に、冷却水が流れる冷却管を配置してもよい。なお、冷却媒体は水であることに限定されない。
【0030】
ここで、コイル21や冷却水路の配置は、必ずしも
図4に示す配置であることに限定されない。例えば、コイル21や冷却水路は等間隔に配置されていなくてもよい。また、
図2で示したように全ての貫通穴11にコイル21を挿通すると共に、さらに別の貫通穴を形成して冷却用に使用してもよい。
【0031】
続いて、上述したように金属材10の貫通穴11に配置したコイル21に、電源装置20から高周波電流を流す(
図5のステップS13)。これにより、金属材10の加熱対象となる板面が、コイル21に流れた高周波電流により誘導加熱されることとなる。
【0032】
その後、上述したように冷却水路として設定した金属材10の貫通穴11に、冷却装置30から冷却水を流す(
図5のステップS14)。これにより、金属材10の加熱対象となる板面が、冷却水により冷却されることとなる。このとき、冷却水は、金属材10の内部を流れることとなり、また、冷却対象となる板面に近接しているため、効率良く金属材10の板面を冷却することができる。
【0033】
そして、本発明では、上述したように、金型などの予め成型された金属材10に後から貫通穴を形成しているため、事前にコイル21や冷却水路の配置を考慮することなく金属材10を作成することができる。その結果、金属材10の作成コストを低減しつつ、加熱対象となる面を効率良く加熱することができる。
【0034】
上記では、貫通穴11をコイル用と冷却水路用に分けて利用している場合を例示したが、コイル21を挿通している貫通穴11に冷却水を流して、コイル用及び冷却水路用に共用してもよい。
【0035】
<実施形態3>
次に、本発明の第3の実施形態を、
図6乃至
図8を参照して説明する。
図6乃至
図8は、金属材の加熱対象となる面と、貫通穴の配置を示す図である。なお、いずれの図においても、金属材の斜視図と断面図を示している。
【0036】
本実施形態では、加熱対象となる金属材100は金型である。例えば、金属材100は、
図6に示すように、板材よりもさらに厚みのある例えば直方体であり、この表面に、所定の深さを有する曲面状の金型面101が形成されている。
【0037】
図6のように、加熱対象となる金型面101が曲面で形成されている場合には、
図7(B)及び
図8(B)に示すように、曲面の位置、つまり、金属材100における曲面の深さに応じて、各貫通穴110を形成することになる。つまり、金型面101の深さが浅い箇所では、貫通穴11も深さが浅い位置に形成され、金型面101の深さが深い箇所では、貫通穴11も深さが深い位置に形成される。このとき、各貫通穴11は、金型面101からの距離が同一となるよう形成される。また、複数の貫通穴110は、相互に等間隔に配置される。
【0038】
ここで、
図7(A)の場合には、貫通穴110は、直方体の金属材100の表面に対する側面に両端が位置するよう形成されている。この場合には、貫通穴110の加工は容易である。一方で、
図8(A)に示すように、貫通穴110を、金型面101の形状に沿って形成することもできる。この場合には、貫通穴110は、金型面101に対して平行に配置されることとなり、金型面101の多くの位置で、同一距離に近接して貫通穴110が位置することとなる。
【0039】
そして、上述同様に、貫通穴101にコイルを配置して高周波電流を流すことで、金型面101を加熱することができる。また、実施形態2で説明したように、貫通穴101を冷却水路として利用し、加熱後に冷却水を流して金型面101を冷却してもよい。
【0040】
以上、上記実施形態等を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の範囲内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0041】
10 金属材
11 貫通穴
20 電源装置
21 コイル
30 冷却装置
31 冷却水路
100 金属材
101 金型面
110 貫通穴