(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605233
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】トリポード型等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/205 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
F16D3/205 M
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-109759(P2015-109759)
(22)【出願日】2015年5月29日
(65)【公開番号】特開2016-223510(P2016-223510A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】牧野 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】山崎 健太
【審査官】
増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−156401(JP,A)
【文献】
特開昭57−149624(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0253050(US,A1)
【文献】
特開昭55−51125(JP,A)
【文献】
国際公開第98/27348(WO,A1)
【文献】
特開2007−100835(JP,A)
【文献】
特開昭55−159328(JP,A)
【文献】
特開2002−54649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に軸線方向に延びる3本のトラック溝を設けると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面を設けた外側継手部材と、三本のトラニオンジャーナルを有するトリポード部材と、前記トラニオンジャーナルに回転自在に支持されるとともに前記外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されたローラと、前記トラニオンジャーナルとローラとの間に配設された複数の針状ころとを備え、前記トラニオンジャーナルの先端部に抜け止め用の止め輪が嵌着される周方向凹溝が形成されたトリポード型等速自在継手であって、
前記トラニオンジャーナルの前記周方向凹溝より基端側外径面のみが仕上げ加工面とし、前記トラニオンジャーナルの周方向凹溝よりも先端側外径面を熱処理面のままとし、かつその外径寸法を、トラニオンジャーナルの前記周方向凹溝より基端側外径寸法以下とし、トラニオンジャーナルの周方向凹溝の深さをhとし、止め輪の線径の半径をSRとしたときに、h>SRとし、かつ、周方向凹溝の幅を止め輪の線径よりも大きくして、止め輪が周方向凹溝の溝底に接触した状態で周方向凹溝に嵌合することを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【請求項2】
前記トラニオンジャーナルの先端縁部をアール形状部としたことを特徴とする請求項1に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項3】
前記トラニオンジャーナルの先端縁部をアール形状部が旋削加工で成形されてなることを特徴とする請求項2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項4】
前記トラニオンジャーナルの先端縁部をアール形状部が鍛造で成形されてなることを特徴とする請求項2に記載のトリポード型等速自在継手。
【請求項5】
前記仕上げ加工面が熱処理後に焼入鋼切削された面であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や産業機械等における動力伝達に使用される摺動式のトリポード型等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
トリポード型等速自在継手は、
図8に示すように、円周方向の三等分位置に軸方向に延びる3本のトラック溝12を有し、各トラック溝12の対向する側壁にローラ案内面14,14を形成した外側継手部材10と、三本のトラニオンジャーナル22を有するトリポード部材20と、トリポード部材20の各トラニオンジャーナル22の回りに複数の針状ころ32を介して回転自在に装着されたローラ30とを備える。このローラ30が外側継手部材10のトラック溝12に収容され、ローラ30の外球面がトラック溝12の両側壁に形成されたローラ案内面14,14によって案内されるようになっている(特許文献1)。
【0003】
トリポード部材20はボス21とトラニオンジャーナル22とを有する。ボス21の軸孔には雌スプライン23が形成され、このボス21の軸孔に、図示省略のシャフトの端部の雄スプラインが嵌入され、雌スプライン23に嵌合している。
【0004】
前記針状ころ32は、トラニオンジャーナル22の基端方向では、トラニオンジャーナル22の基端側外周面に装着されたインナーワッシャ38で位置規制される。トラニオンジャーナル22の先端方向では、トラニオンジャーナル22の先端側に設けられたアウターワッシャ34によって位置規制と抜け止めがされる。トラニオンジャーナル22の先端側外周面には周方向凹溝26が形成され、この周方向凹溝26に止め輪36が装着される。止め輪36の内側(トラニオンジャーナル基端側)のトラニオンジャーナル外周面に上記アウターワッシャ34が嵌合される。なお、トリポード部材20、針状ころ32、及びローラ30等で、外側継手部材10に収納される内部部品と呼ぶことができる。
【0005】
ところで、前記のようなトラニオンジャーナル22を仕上げ加工する場合、従来においては、
図10(a)に示すように、研削加工を行っていた。すなわち、研削砥石1をトラニオンジャーナル22の外径面に押し付ける。この際、トリポード部材20をチャック(図示省略)して、仕上げ加工するトラニオンジャーナル22を、その軸心廻りに回転させる。
【0006】
これによって、トラニオンジャーナル22の外径面が周方向凹溝26を省いて、
図10(b)に示すように仕上げ代分だけ研削される。すなわち、研削前のトラニオンジャーナル22の外径寸法をD12とし、研削後のトラニオンジャーナル22の外径寸法をD11とすれば、仕上げ代G1は、(D12−D11)/2となる。
【0007】
近年では、クーラントレス化のために、研削に代わって切削加工(焼入鋼切削)にてトラニオンジャーナル22の仕上げを行うようになってきている。焼入鋼切削する場合、
図11(a)に示すように、旋削チップ2を用いて、この旋削チップ2を、例えば、トラニオンジャーナル22の先端から基端に向って移動させる。この際、トリポード部材20をチャック(図示省略)して、仕上げ加工するトラニオンジャーナル22を、その軸心廻りに回転させる。
【0008】
この場合も、トラニオンジャーナル22の外径面が周方向凹溝26を省いて、
図11(b)に示すように仕上げ分だけ研削される。このため、切削前のトラニオンジャーナル22の外径寸法をD12とし、切削後のトラニオンジャーナル22の外径寸法をD11とすれば、仕上げ代G2は、(D12−D11)/2となる。
【0009】
このため、
図9に示すように、基端側のトラニオンジャーナル外径面22aは、針状ころ32を介してローラ30が外嵌される範囲を含むものであり、構成部品摺動範囲H1と呼ぶことができ、先端側のトラニオンジャーナル外径面22bは、このようなローラ等が外嵌される範囲ではないので、構成部品非摺動範囲H2と呼ぶことができる。また、構成部品摺動範囲H1内のH3は針状ローラ転走範囲であり、D0が、トラニオンジャーナル22の研削径(仕上げ加工後の最終径)である。
【0010】
前記のように仕上げ加工されてなるトリポード部材20には、
図12に示すように、ローラ30等が装着される。この場合、まず、
図12(a)に示すように、トラニオンジャーナル22に、インナーワッシャ38を外嵌する。その後、
図12(b)に示すように、ローラ30をトラニオンジャーナル22に遊嵌状に外嵌し、
図12(c)に示すように、針状ころ32を、トラニオンジャーナル22の外径面とローラ30の内径面との間の隙間に嵌入する。次に、
図12(d)に示すように、アウターワッシャ34をトラニオンジャーナル22に装着して、
図12(e)に示すように、止め輪36をトラニオンジャーナル22の周方向凹溝26に嵌着する。これによって、
図12(f)に示すように、インナーワッシャ38、針状ころ32、ローラ30、アウターワッシャ34、及び止め輪36の装着が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−330049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、
図9に示す構成部品非摺動範囲H2は、インナーワッシャ38、針状ころ32、ローラ30、及びアウターワッシャ34がトラニオンジャーナル22に組み付けられ、かつ、止め輪36を周方向凹溝26に嵌合させることができて、組み付けられたローラ30等が抜けなければよい。
【0013】
このため、構成部品非摺動範囲H2においては、仕上げ加工を必要としない。しかしながら、従来では、この構成部品非摺動範囲H2においても、研削や焼入鋼切削を行っていた。このため、工具の短命化を招くとともに、加工時間も長くなって生産性に劣り、高コストを招くことになっていた。
【0014】
そこで、本発明は、トラニオンジャーナルにおける仕上げ加工の工具の長寿命化や加工時間の短縮化を図って、低コストを達成できるトリポード型等速自在継手を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のトリポード型等速自在接手は、内周に軸線方向に延びる3本のトラック溝を設けると共に各トラック溝の内側壁に互いに対向するローラ案内面を設けた外側継手部材と、三本のトラニオンジャーナルを有するトリポード部材と、前記トラニオンジャーナルに回転自在に支持されるとともに前記外側継手部材のトラック溝に転動自在に挿入されたローラと、前記トラニオンジャーナルとローラとの間に配設された複数の針状ころとを備え、前記トラニオンジャーナルの先端部に抜け止め用の止め輪が嵌着される周方向凹溝が形成されたトリポード型等速自在継手であって、前記トラニオンジャーナルの前記周方向凹溝より基端側外径面のみが仕上げ加工面とし、前記トラニオンジャーナルの周方向凹溝よりも先端側外径面を熱処理面のままとし、かつその外径寸法を、トラニオンジャーナルの前記周方向凹溝より基端側外径寸法以下と
し、トラニオンジャーナルの周方向凹溝の深さをhとし、止め輪の線径の半径をSRとしたときに、h>SRとし、かつ、周方向凹溝の幅を止め輪の線径よりも大きくして、止め輪が周方向凹溝の溝底に接触した状態で周方向凹溝に嵌合することを特徴とするトリポード型等速自在継手。
【0016】
本発明のトリポード型等速自在継手によれば、周方向凹溝よりも先端のトラニオンジャーナル外径面の外径寸法を、トラニオンジャーナルの前記周方向凹溝より基端側外径寸法以下とすることによって、ローラ、針状ころ、及び止め輪等のトラニオンジャーナルの組み付けを安定して行うことができる。しかも、前記トラニオンジャーナルの前記周方向凹溝より基端側外径面のみを仕上げ加工面とし、前記トラニオンジャーナルの周方向凹溝よりも先端側外径面を熱処理面のままとでよく、焼入鋼切削等の仕上げ加工を行う必要がない。
【0017】
また、
h>SRとすることにより、周方向凹溝よりも先端のトラニオンジャーナルに、止め輪の線径の中心を越えるいわゆるオーバーハング領域を設けることができ、周方向凹溝からの止め輪の外れを有効に防止できる。
【0018】
前記トラニオンジャーナルの先端縁部をアール形状部とするのが好ましい。この際、アール形状部が旋削加工で成形されていても、鍛造で成形されていてもよい。また、前記仕上げ加工面が熱処理後に焼入鋼切削された面であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、周方向凹溝よりも先端のトラニオンジャーナル外径面においては、熱処理面のままとでよいので、焼入鋼切削等の仕上加工を行う必要がない。このため、加工時間の短縮を図ることができ、生産性に優れ、しかも、切削工具の使用時間の短縮を図ることができて、工具の長寿化を図ることができて、低コスト化を達成できる。
【0020】
トラニオンジャーナルの先端縁部をアール形状部とすることによって、トラニオンジャーナルの先端縁部にエッジ部が無くなり、トラニオン単体状態での搬送時等において、傷付いたり、傷付けたりするのを有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のトリポード型等速自在継手を示し、(a)は正面図であり、(b)は断面側面図である。
【
図2】
図1に示すトリポード型等速自在継手の内部部品の側面図である。
【
図3】
図1に示すトリポード型等速自在継手の内部部品の一部断面で示す正面図である。
【
図4】トリポード部材を示し、(a)はトラニオンジャーナルに焼入鋼切削を行っている状態の断面図であり、(b)は焼入鋼切削の仕上げ代を示す要部拡大図である。
【
図5】本発明のトリポード型等速自在継手の要部拡大図である。
【
図6】本発明の他のトリポード型等速自在継手のトリポード部材を示し、(a)はトラニオンジャーナルに焼入鋼切削を行っている状態の断面図であり、(b)は焼入鋼切削の仕上げ代を示す要部拡大図である。
【
図7】
図6のトリポード型等速自在継手の正面図である。
【
図8】従来のトリポード型等速自在継手を示し、(a)は正面図であり、(b)は断面側面図である。
【
図9】従来のトリポード型等速自在継手の内部部品の断面図である。
【
図10】従来のトリポード部材を示し、(a)はトラニオンジャーナルに対して研削を行っている状態の断面図であり、(b)は研削の仕上げ代を示す要部拡大図である。
【
図11】従来のトリポード部材を示し、(a)はトラニオンジャーナルに対して焼入鋼切削を行っている状態の断面図であり、(b)は焼入鋼切削の仕上げ代を示す要部拡大図である。
【
図12】従来のトリポード部材にローラ等を組み付ける工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を
図1〜
図7に基づいて説明する。
図1〜
図3は本発明に係るトリポード型等速自在継手を示し、
図1に示すように、外側継手部材51と、内側継手部材としてのトリポード部材52と、トルク伝達部材としてのローラ53を主要な構成要素としている。
【0023】
外側継手部材51はカップ部54とステム部(軸部)55とからなる。カップ部54は一端で開口したカップ状であり、内周の円周方向三等分位置に軸方向に延びるトラック溝56が形成してある。カップ部54は、大径部54aと小径部54bとが交互に表れる非円筒形状であり、大径部54aの径方向内側にトラック溝56が形成されている。各トラック溝56の円周方向に向き合う側壁に、ローラ案内面57,57が形成されている。
【0024】
トリポード部材52は、
図1〜
図3に示すように、ボス58とトラニオンジャーナル59とを有する。ボス58の軸孔には雌スプライン61が形成され、このボス58の軸孔にシャフト(図示省略)の端部の雄スプラインが嵌入され、雌スプライン61に嵌合している。
【0025】
トラニオンジャーナル59はボス58の円周方向三等分位置から半径方向に突出している。トリポード部材52の各トラニオンジャーナル59はローラ53を回転可能に支持している。トラニオンジャーナル59とローラ53との間には複数の針状ころ62が配設されている。これらの針状ころ62は、トラニオンジャーナル59の基端方向では、トラニオンジャーナル59の基端側外周面に装着されたインナーワッシャ63で位置規制される。トラニオンジャーナル59の先端方向では、トラニオンジャーナル59の先端側に設けられたアウターワッシャ64によって位置規制と抜け止めがされる。トラニオンジャーナル59の先端側外周面には周方向凹溝65が形成され、この周方向凹溝65に止め輪66が装着される。止め輪66の内側(トラニオンジャーナル基端側)のトラニオンジャーナル59外周面に上記アウターワッシャ64が嵌合される。なお、トリポード部材52、針状ころ62、及びローラ53等で、外側継手部材51に収納される内部部品と呼ぶことができる。
【0026】
トリポード部材52のトラニオンジャーナル59は、焼入鋼切削にて仕上げ加工される。ここで、焼入鋼切削とは、熱硬化処理(焼入れ)後に切削することである。すなわち、焼入鋼切削は、単に切削のことであり、切削は通常生材の状態で行うので、熱処理後(焼入れ後)の切削であることを明確にするために焼入鋼切削と称した。焼入れ後に切削を行うため、素材の熱処理変形をこの切削過程で除去することができる。また、焼入鋼切削により研削で通常必要とされる研削油剤を必要とせず、ドライでの加工が可能となり、環境に与える負荷を小さくすることができる。
【0027】
このため、高周波焼入れ等の公知公用の焼入れ処理を行ったトラニオンジャーナル59に対して、
図4(a)に示すように、切削チップ70を先端から基端に向って移動させる。この際、トリポード部材52をチャック(図示省略)して、仕上げ加工するトラニオンジャーナル59を、その軸心廻りに回転させる。
【0028】
この場合、トラニオンジャーナル59の前記周方向凹溝65より基端側外径面のみが仕上げ加工面とし、トラニオンジャーナル59の周方向凹溝65よりも先端側外径面を熱処理面のままとする。すなわち、周方向凹溝65よりも基端側のトラニオンジャーナル外径面59aにおいては、焼入鋼切削を行い、先端側のトラニオンジャーナル外径面59bにおいては、この焼入鋼切削を行わない。すなわち、
図4(b)に示すように、トラニオンジャーナル外径面59aの切削前の外径寸法をD2とし、トラニオンジャーナル外径面59aの切削後の外径寸法をDとし、トラニオンジャーナル59の周方向凹部溝65よりも先端側の外径面59bの外径寸法をD1としたときに、D1≦D<D2とする。すなわち、この焼入鋼切削によって、(D2−D)/2の仕上げ代分だけ切削される。これによって、トラニオンジャーナル59の仕上げ加工が終了する。
【0029】
また、トラニオンジャーナル59の先端縁部を、
図4(b)に示すように、アール形状部71とするのが好ましい。構成部品非摺動範囲H2(トラニオンジャーナル外径面59b)及びアール形状部71として、旋削仕上げであっても、鍛造成形であってもよい。構成部品非摺動範囲H2(トラニオンジャーナル外径面59b)及びアール形状部71は熱処理の後は加工を施さない範囲であり、構成部品非摺動範囲H2(トラニオンジャーナル外径面59b)及びアール形状部71は熱処理面(黒皮)のままである。
【0030】
ところで、トラニオンジャーナル59の周方向凹溝65には止め輪66が嵌合されるが、この場合、周方向凹溝65の断面形状が半円弧形状とされ、周方向凹溝65の深さを止め輪66の線径の半径以上とする。すなわち、
図5に示すように、周方向凹溝65の深さをhとし、止め輪66の線径の半径をSRとしたときに、h>SRとし、トラニオンジャーナル59の周方向凹部溝65よりも先端側の外径面59bの外径寸法をD1とし、溝径(周方向凹溝の底径)をDcとし、止め輪66の線径の半径をSRとしたときに、D1>Dc+(2×SR)とする。ここで、h−SR=t1とした場合、トラニオンジャーナル59の周方向凹部溝65よりも先端側の構成部品非摺動範囲H2(トラニオンジャーナル外径面59b)が、止め輪66の線径の中心Oからt1だけトラニオンジャーナル径方向に突出することになる。
【0031】
周方向凹溝65よりも先端のトラニオンジャーナル外径面の外径寸法を、トラニオンジャーナル59の周方向凹溝65より基端側外径寸法以下としたこと、すなわち、周方向凹溝65よりも先端のトラニオンジャーナル外径面の外径寸法を、焼入鋼切削されたトラニオンジャーナル59の針状ころ対応部の外径寸法以下とすることによって、ローラ53、針状ころ64、及び止め輪66等のトラニオンジャーナル59の組み付けを安定して行うことができる。しかも、前記トラニオンジャーナル59の前記周方向凹溝より基端側外径面のみが仕上げ加工面とし、前記トラニオンジャーナル59の周方向凹溝よりも先端側外径面を熱処理面のままとしたことによって、トラニオンジャーナル59の前記針状ころ対応部のみが焼入鋼切削され、周方向凹溝65よりも先端のトラニオンジャーナル外径面においては、焼入鋼切削する必要がない。このため、加工時間の短縮を図ることができ、生産性に優れ、しかも、切削工具の使用時間の短縮を図ることができて、工具の長寿化を図ることができて、低コスト化を達成できる。
【0032】
また、周方向凹溝65の深さを止め輪66の線径の半径以上とすることによって、周方向凹溝65よりも先端のトラニオンジャーナル59に、止め輪66の線径の中心Oを越えるいわゆるオーバーハング領域を設けることができ、周方向凹溝65からの止め輪66の外れを有効に防止できる。
【0033】
図7は他のトリポード型等速自在継手を示し、このトリポード型等速自在継手は、前記
図1等に示すトリポード型等速自在継手において必要としていたインナーワッシャ63を省略している。
【0034】
すなわち、トラニオンジャーナル59の付け根部において、凹アール形状の針状ころ62を受ける受け部75を設けている。すなわち、この付け根部にぬすみ形状のない隅部を形成し、針状ころの端面隅アール部とこの隅部(受け部75)との干渉にて、付け根部側への針状ころの軸方向移動を規制するものである。
【0035】
また、トリポード型等速自在継手の外側継手部材51は、その外径面が円筒面とされ、その内周に円周方向の三等分位置に軸方向に延びるトラック溝56が形成されたものである。そして、トラック溝56の対向する側壁にローラ案内面57,57が形成される。このローラ案内面57,57は、円筒面の一部、すなわち部分円筒面で形成されている。
【0036】
外側継手部材51の内径は、円周方向に交互に現れる小内径D3の大内径部80と大内径D4の小内径部81とで構成される。そして、外側継手部材51の内部に組み込まれるトリポード部材52は、そのトラニオン胴部(ボス)58にスプライン大径(軸径)dのスプライン孔61が形成され、トラニオンジャーナル59の円筒形外周面59a(構成部品摺動範囲H1)は外径Djを有する。トリポード部材52の外径はSDjであり、トラニオン胴部58の外径はdrである。ローラ53は、その外径がDsであり、ローラ53の幅はLsである。針状ころは長さLnを有する。ローラ案内面57のピッチ円直径はPCDである。
【0037】
トリポード型等速自在継手の強度はシャフト強度以上とすることを基本としているが、その次に強度の確保が必要な部材がトリポード部材52とローラ53となることから、本実施形態に係るトリポード型等速自在継手はトリポード部材52とローラ53の強度の確保を前提とした寸法設定になっている。
【0038】
基本指針としては、ジョイントサイズ毎に決められる軸径dを一定として、トルク負荷方向のトラニオンジャーナル59の付根部におけるトラニオン胴部58の最小肉厚tを確保しながら、ローラ案内面57のピッチ円直径PCDが大幅に縮小されている。
【0039】
上記の基本指針を実現するためには、上記のようにローラ案内面57のピッチ円直径PCDを縮小しても、トルク負荷方向のトラニオンジャーナル59の付根部におけるトラニオン胴部58の最小肉厚tを確保する必要がある。このために、トラニオンジャーナル59の外径Djを拡大した寸法設定となっている。そして、トラニオンジャーナル59の外径Djに合わせてローラ53の外径Dsも大きくなっている。
【0040】
ローラ53の外径Dsを大きくすると、外側継手部材51の外径も大きくなるので、ローラ53の幅Lsを縮小することにより外側継手部材51の外径を縮小している。
【0041】
ローラ53の幅Lsを縮小すると、外側継手部材51の外径が縮小され、小内径D3/大内径D4(D3/D4)が大きくなり、小内径D3と大内径D4との凹凸が縮小される。小内径D3と大内径D4の凹凸が縮小されるので、軽量化と鍛造加工性に優位となる。
【0042】
寿命(耐久性)の観点からは、トラニオンジャーナルの外径Djが大きくなることにより、装填する針状ころの本数が増加し面圧が減少するので、従来と同等の寿命を確保している。
【0043】
この
図7に示すトリポード型等速自在継手の具体的な寸法比率を次の表1に示す。
【表1】
【0044】
この
図7に示すトリポード型等速自在継手のトリポード部材52のトラニオンジャーナル59における周方凹溝65は、その断面形状を矩形状としている。この場合も、周方向凹溝65の深さを止め輪66の線径の半径以上とする。
【0045】
また、このトリポード部材52においても、浸炭焼き入れ・高周波焼入れ等の公知公用の焼入れ処理を行ったトラニオンジャーナル59に対して、
図6(a)に示すように、切削チップ70を先端から基端に向って移動させる。この際、トリポード部材52をチャック(図示省略)して、仕上げ加工するトラニオンジャーナル59を、その軸心廻りに回転させる。
【0046】
この場合も、周方向凹溝65よりも基端側のトラニオンジャーナル外径面59aにおいては、焼入鋼切削を行い、先端側のトラニオンジャーナル外径面59bにおいては、この焼入鋼切削を行わない。すなわち、
図4(b)に示す場合と同様、トラニオンジャーナル外径面59aの切削前の外径寸法をD2とし、トラニオンジャーナル外径面59aの切削後の外径寸法をDとし、トラニオンジャーナル59の周方向凹部溝65よりも先端側の外径面59bの外径寸法をD1としたときに、D1≦D<D2とする。すなわち、この焼入鋼切削によって、(D2−D)/2の仕上げ代分だけ切削される。これによって、トラニオンジャーナル59の仕上げ加工が終了する。
【0047】
トラニオンジャーナル59の先端縁部を、
図6(b)に示すように、アール形状部71とするのが好ましい。この場合も、構成部品非摺動範囲H2(トラニオンジャーナル外径面59b)及びアール形状部71として、旋削仕上げであっても、鍛造成形であってもよい。構成部品非摺動範囲H2(トラニオンジャーナル外径面59b)及びアール形状部71は熱処理の後は加工を施さない範囲であり、構成部品非摺動範囲H2(トラニオンジャーナル外径面59b)及びアール形状部71は熱処理面(黒皮)のままである。
【0048】
従って、この
図7に示すトリポード型等速自在継手としても、前記
図1等に示すトリポード型等速自在継手と同様の作用効果を奏する。
【0049】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、
図4及び
図6では、切削チップ70を先端側から基端側(付け根部側)へ移動させていたが、逆に、切削チップ70を基端側(付け根部側)から先端側へ移動させてもよい。また、焼入鋼切削後において、前記各実施形態では、D=D1であったが、D>D1であってもよい。また、トラニオンジャーナル59の先端縁のアール形状部のアールとしては、「トラニオンジャーナルの先端縁部にエッジ部が無くなり、トラニオン単体状態での搬送時等において、傷付いたり、傷付けたりするのを防止できる」範囲において任意に設定できる。
【符号の説明】
【0050】
51 外側継手部材
52 トリポード部材
53 ローラ
56 トラック溝
57 ローラ案内面
59 トラニオンジャーナル
65 周方向凹溝
66 止め輪
71 アール形状部