【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者:社団法人日本音響学会、刊行物名:日本音響学会2015年春季研究発表会講演論文集、発行日:2015年3月6日 日本音響学会2015年春季研究発表会、開催場所:中央大学理工学部、後楽園キャンパス 5号館5階5533教室、開催日:2015年3月16日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ボルトの一部が埋設されて前記接着剤によって固定されている前記構造物の表面へ、音波発信源から音波を照射し、前記ボルトを振動させて前記ボルトの振動速度および/または位置情報を測定して、前記接着剤の充填率が不足しているか否かを判断する非接触音響探知システムであって、
前記構造物の表面を振動させ得る音波を発生させる音響発信源と、
前記ボルトの振動速度および/または位置情報を測定する計測器と、
得られた振動速度および/または位置情報の測定結果を用いて、振動エネルギー(VE)および/または共振周波数を求める解析装置と、を有し、
請求項1〜3のいずれかに記載の点検方法を行うことができる、非接触音響探知システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は鋭意研究開発を推し進め、空中放射音源とレーザドップラー振動計等を用いた非接触音響探査法によれば、アンカーボルト等に近接しなくても、正確にその接着剤充填不足を検出できることを見出した。
【0006】
本発明は、アンカーボルト等のボルトをトンネル等の構造物に設置するために用いられた接着剤の充填率を、ボルトに近接しなくても、正確に行うことができる点検方法およびそれを行うことができる非接触音響探知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討し、上記課題を解決する方法を見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下に説明する本発明の方法と本発明の非接触音響探知システムを含む。
また、本発明の方法は、以下に説明する2つの態様(本発明の第1の方法および本発明の第2の方法)を含む。
【0008】
本発明の第1の態様は、
ボルトを構造物に設置するために用いられた接着剤の充填率を点検する方法であって、
前記ボルトの一部が埋設されて前記接着剤によって固定されている前記構造物の表面へ、音波発信源から音波を照射し、前記ボルトを振動させて前記ボルトの振動速度を測定する工程と、
得られた振動速度の測定結果に基づいて、周波数と振動速度との関係を表す振幅スペクトル(Sf)を求めた後、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、特定の周波数範囲における積分値を求めて振動エネルギー(VE)を求める工程と、
得られた振動エネルギー(VE)の値から、前記接着剤の充填率が不足しているか否かを判断する工程と、を備える点検方法である。
このような点検方法を、以下では「本発明の第1の方法」ともいう。
【0009】
本発明の第2の態様は、
ボルトを構造物に設置するために用いられた接着剤の充填率を点検する方法であって、
前記ボルトの一部が埋設されて前記接着剤によって固定されている前記構造物の表面へ、音波発信源から音波を照射し、前記ボルトを振動させて前記ボルトの位置情報を測定する工程と、
得られた位置情報から振動波形を求め、得られた振動波形から共振周波数を求める工程と、
得られた共振周波数の値から、前記接着剤の充填率が不足しているか否かを判断する工程と、を備える点検方法である。
このような点検方法を、以下では「本発明の第2の方法」ともいう。
【0010】
また、本発明の方法は、上記の本発明の第1の方法と本発明の第2の方法とを組み合わせた方法、すなわち、
ボルトを構造物に設置するために用いられた接着剤の充填率を点検する方法であって、
前記ボルトの一部が埋設されて前記接着剤によって固定されている前記構造物の表面へ、音波発信源から音波を照射し、前記ボルトを振動させて前記ボルトの振動速度および位置情報を測定する工程と、
得られた振動速度の測定結果に基づいて、周波数と振動速度との関係を表す振幅スペクトル(Sf)を求めた後、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、特定の周波数範囲における積分値を求めて振動エネルギー(VE)を求める工程と、
得られた位置情報から振動波形を求め、得られた振動波形から共振周波数を求める工程と、
得られた振動エネルギー(VE)および共振周波数の値から、前記接着剤の充填率が不足しているか否かを判断する工程と、を備える点検方法であることが好ましい。
【0011】
本発明の非接触音響探知システムは、
前記ボルトの一部が埋設されて前記接着剤によって固定されている前記構造物の表面へ、音波発信源から音波を照射し、前記ボルトを振動させて前記ボルトの振動速度および/または位置情報を測定して、前記接着剤の充填率が不足しているか否かを判断する非接触音響探知システムであって、
前記構造物の表面を振動させ得る音波を発生させる音響発信源と、
前記ボルトの振動速度および/または位置情報を測定する計測器と、
得られた振動速度および/または位置情報の測定結果を用いて、振動エネルギー(VE)および/または共振周波数を求める解析装置と、を有し、
上記の本発明の方法(本発明の第1の方法および/または本発明の第2の方法)を行うことができる、非接触音響探知システムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アンカーボルト等のボルトをトンネル等の構造物に設置するために用いられた接着剤の充填率を、ボルトに近接しなくても、正確に行うことができる点検方法およびそれを行うことができる非接触音響探知システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について説明する。
上記のような本発明の方法および本発明の非接触音響探知システムによれば、構造物にその一部が埋設され接着剤によってその構造物に固定されているボルトにおける接着剤の充填率が不足しているか否かを、近接しなくても、正確に行うことができる。
【0015】
ここで構造物としては、トンネル、橋梁および建物等が挙げられる。
また、ボルトとしては、あと施工アンカーボルト(接着系および金属系)等が挙げられる。ここであと施工とは、すでに打設されたコンクリートに穴をあけてボルトを打つ方法である。また、接着系のアンカーボルトとは、接着剤で定着させるアンカーボルトを意味する。なお、ボルトを打ち込む対象がコンクリートではなく、岩の場合、アンカーボルトのことをロックボルトと呼ぶ場合もある。
【0016】
本発明の原理の概略を、
図1を用いて説明する。
図1はコンクリート壁にアンカーボルトの一部が埋設された状態を示す概略断面図である。なお、本発明の原理は、現時点における本願発明者の推測であり、また、
図1は本発明の原理を説明するための例示である。よって、本発明は
図1に示す構成に限定されない。
【0017】
空中放射音波によりコンクリート壁面を振動させることを考える。
図1に示すようにその振動エネルギーは壁面から接着剤を介してアンカーボルトに伝わる。この際にコンクリートからアンカーボルトへ伝達される振動エネルギーは、接着剤の量により変化すると考えられる。また、アンカーボルト自体の共振周波数も接着剤が存在する位置により変化すると考えられる。したがって、レーザドップラー振動計によりアンカーボルト先端の振動を計測し、アンカーボルト自体の振動エネルギーおよび共振周波数を調べることにより、アンカーボルトにおける接着剤充填不足を検出することが可能になると考えられる。
【0018】
本発明の方法は、本発明の非接触音響探知システムによって実現することが好ましい。
本発明の非接触音響探知システムとして、具体的には、例えば
図2に示す装置が挙げられる。
【0019】
図2は、構造物1の表面を振動させ得る音波を発生させる音響発信源11と、ボルト3の先端面の振動速度および/または位置情報を測定する計測器13と、得られた振動速度および/または位置情報の測定結果を用いて、振動エネルギー(VE)および/または共振周波数を求める解析装置151を含むコンピュータ15とを有する装置10を示す概略図である。
図2に示す装置10は、さらに、任意波形発生装置17およびアンプ19を有しており、加えて、コンピュータ15は制御装置152および表示部153を含んでおり、制御装置152によって任意波形発生装置17を制御して、所望の周波数の音波を音響発信源11から発生することができる。任意波形発生装置17が発生するトリガ信号に制御装置152を同期させて計測することもできる。表示部153には、振動エネルギー(VE)および/または共振周波数等を表示することができる。表示部とはディスプレイ画面等を意味する。
【0020】
このような装置10によって、ボルト3の一部が埋設されて接着剤によって固定されている構造物1の表面へ、音波発信源11から音波を照射し、ボルト3を振動させてボルト3の振動速度および/または位置情報を測定して、接着剤の充填率が不足しているか否かを判断することができる。
【0021】
図2に示す本発明の非接触音響探知システム(装置10)において、音響発信源11はフラットスピーカである。本発明の非接触音響探知システムにおいて音響発信源の数やスピーカの角度等は特に限定されない。
【0022】
音響発信源はフラットスピーカの他、パラメトリックスピーカも好ましく用いることができ、また、具体的に、アメリカンテクノロジー社製のLRAD(登録商標)を好ましく用いることができる。また、ラウドスピーカを用いることもできるが、この場合は、音響発信源と構造物との距離を比較的近くする。その他に用いることができる音響発信源としては、パルスレーザ、高圧ガスガン、衝撃波管が挙げられる。
【0023】
また、音響発信源から構造物へ照射される音波は、所望の周波数(ω)に調整することができ、かつ、ボルトの先端面をその振動速度および/または位置情報を計測器によって測定できる程度に、構造物の表面に平行方向ではない方向(好ましくは、構造物の表面に垂直方向)へ振動させることができる音波であればよく、空気中で振動振幅が減衰し難い可聴帯域の音波(音響波)が好ましい。
【0024】
音響発信源から構造物へ音波を照射することで、構造物の表面に90dB以上の音圧を発生させることが好ましく、100dB程度の音圧を発生させることがより好ましい。
【0025】
図2に示す本発明の非接触音響探知システム(装置10)において、計測器13はレーザドップラー振動計であることが好ましく、レーザ131をボルト3の先端面に照射して、ボルト3の先端面の振動速度および/または位置情報を測定することができる。得られた振動速度および/または位置情報のデータは解析装置151で解析される。
なお、本発明の非接触音響探知システムにおいて計測器は、ボルトの先端面の振動速度および/または位置情報を非接触で測定できるものであれば特に限定されず、例えばレーザ変位計を用いることができ、レーザドップラー振動計であることが好ましい。ボルトと計測器とが比較的離れていても、ボルトの表面の振動速度および/または位置情報を正確に測定することができるからである。
【0026】
図2に示す本発明の非接触音響探知システム(装置10)において、解析装置151は、ボルト3の先端面の振動速度および/または位置情報を特定するための特定の情報処理を行うことができるものであれば特に限定されない。この特定の情報処理は本発明の方法が備えるものであり、後に詳細に説明する。
【0027】
図2に示す本発明の非接触音響探知システム(装置10)において、任意波形発生装置17は、制御装置152の指令によって所望の周波数の音波を音響発信源11から発生させることができる装置である。例えば、ノイズ波やバースト波を発生可能な市販のファンクションジェネレータ等を用いることができる。送信する音波の波形は、通常、この任意波形発生装置により制御することができる。通常は簡単のために手動で制御するが、解析装置側から制御するようにシステムを構成することも可能である。任意波形発生装置17が発生するトリガ信号に制御装置152を同期させて計測することもできる。
また、アンプ19は特に限定されず、例えば、市販オーディオアンプ等を用いることができる。
【0028】
本発明の非接触音響探知システムは、本発明の方法を実施することができる構成を備えている。
【0029】
次に、本発明の方法について説明する。
本発明の方法は、例えば空中放射音源とレーザドップラー振動計を用いた非接触音響探査法による、トンネルのような構造物に埋設されたアンカーボルト等における接着剤充填不足の検出手法である。
そして、ボルトの一部が埋設され、接着剤によって固定されている構造物の表面へ、音波発信源から音波を照射し、本発明の第1の方法では前記ボルトを振動させて前記ボルトの先端面の振動速度を測定し、本発明の第2の方法では前記ボルトの先端面を振動させて前記ボルトの位置情報を測定する。
この工程は、例えば前述の本発明の非接触音響探知システムを用い、音響発信源から構造物へホワイトノイズを照射し、レーザドップラー振動計などの計測器を用いて、そのボルトの先端面における振動速度および/または位置情報を測定して行うことができる。振動速度および位置情報は測定時間(時刻)との関係として得ることができる。
【0030】
なお、ここでの計測結果についてゲート処理を施して、目的信号のみを抽出することが好ましい。ゲート処理とは、時間的、周波数的に計測したい信号を取り出す処理であり、本発明者が既に行った特願2012−258888号に記載の処理が例示される。
【0031】
本発明の方法は、さらに、以下に説明する特定の情報処理を行う工程を備える。
【0032】
本発明の第1の方法は、前工程によって得られた振動速度の測定結果に基づいて、周波数と振動速度との関係を表す振幅スペクトル(Sf)を求めた後、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係において特定の周波数範囲で積分値を求め、得られた積分値を振動エネルギー(VE)とする工程を備える。
【0033】
この工程では、前工程によって得られた振動速度の測定結果をフーリエ変換して振幅スペクトル(Sf)を求め、さらに周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求める。
振動エネルギー(PSD)は、振動速度の2乗に比例する値である。
【0034】
次に、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係について、次の式(1)より特定範囲で積分値を求める。
【0036】
積分する範囲(積分範囲:f
1〜f
2)は特に限定されないが、計測器の共振周波数を含まない範囲で積分することが好ましい。例えばレーザドップラー振動計等の共振周波数のノイズが存在する場合、そのノイズを含まない範囲を積分する範囲としてもよい。具体的には、例えばレーザドップラー振動計等の共振周波数のノイズが1kHz以下に存在する場合、1200Hz〜8195Hzの範囲を積分する範囲としてもよい。
【0037】
このようにして得られた振動エネルギー(VE)の値から、前記接着剤の充填率が不足しているか否かを判断することができる。
【0038】
本発明の第2の方法は、前工程によって得られた位置情報の測定結果に基づいて振動波形を求め、得られた振動波形から共振周波数を求める。
共振周波数は振動波形(減衰曲線)をフーリエ変換することで求めることができる。フーリエ変換することで、例えば
図3に示すような、横軸(X軸)を周波数、縦軸(Y軸)をパワースペクトル(振動エネルギーに対応した値)とする図が得られ、共振周波数を把握することができる。なお、
図3は、後述する実験3において得られた、接着剤の充填率を78%とした場合のパワースペクトルである。この
図3からは、共振周波数が約3.4kHzであることがわかる。
【0039】
このようにして得られた共振周波数の値から、前記接着剤の充填率が不足しているか否かを判断することができる。
【実施例】
【0040】
<実験1>
実験セットアップ図を
図4に示す。加振用音源であるLRADはアンカーボルトから3mの位置に正対させた。振動速度の計測を行うSLDVは15°の角度を付けて3.3mの位置に設置した。
ここで、使用したアンカーボルトは、直径:16mm、長さ:370mmであり、これを
図5に示すように、コンクリート構造物に形成した削孔(削孔径(直径):19mm、削孔長(深さ):130mm)へ装入し、さらに削孔内へ接着剤を充填した。ここで充填率(充填率(%)=深さD/130×100、Dの単位はmm)が55%、78%、100%となるように接着剤を充填したものを各々用意した。
そして、各々コンクリート構造物についてLRADにより面的な加振を行い、SLDVによりアンカーボルトの先端面の振動速度の計測を行った。実験では周波数500〜7100Hz、変調周波数200Hz、インターバル50msのトーンバースト波を用いた。
【0041】
次に、得られた振動速度の測定結果(振動速度と時間との関係)をフーリエ変換し、振幅スペクトル(Sf)を求めた。そして、得られた振幅スペクトル(Sf)に基づいて、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求めた。振動エネルギー(PSD)は、振動速度の2乗に比例する値である。
【0042】
次に、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係において、f
1=1200Hzからf
2=8192Hzまでの範囲で積分し、得られた積分値を振動エネルギー(VE)とした。
充填率が55%、78%、100%となるように接着剤を充填したコンクリート構造物の各々における振動エネルギー(VE)を
図6に示す。
【0043】
図6から、充填率が低下すると振動エネルギーが低下していることが確認できる。これは接着剤の充填率が下がることにより、アンカーボルトに伝わる振動が低下したと考えられる。
したがって、例えば
図6において所定値以上の振動エネルギーを示したアンカーボルトについては接着剤の充填率が十分であり、これに対して所定値未満の振動エネルギーを示したアンカーボルトについては接着剤の充填率が不十分であると判断し、これを修繕するとする判断を行うことができる。
【0044】
なお、上記の充填率が55%、78%、100%となるように接着剤を充填したコンクリート構造物の各々について、比較のためにハンマ加振を用いた実験も行ったところ、
図7に示す結果が得られた。
この結果からは接着剤の充填率と振動エネルギーとの関連性は確認できない。値がばらついた原因として、ハンマでは定量的な加振を行うことが困難であったことが挙げられる。
【0045】
<実験2>
実験セットアップ図を
図8に示す。空中放射(加振用)音源(ここではLRADを使用)はアンカーボルトから5.5mの位置に正対させた。振動速度の計測を行うレーザドップラー振動計(ここではSLDVを使用)は15°角度を付けて5.5mの位置に設置した。
ここで、使用したアンカーボルトは実験1の場合と同じであり、これを実験1の場合と同様に、
図5に示すように、コンクリート構造物に形成した削孔(削孔径、削孔長も実験1の場合と同様)へ装入し、さらに削孔内へ接着剤を充填した。ここで充填率が55%、78%、100%となるように接着剤を充填したものを各々用意した。
そして、各々コンクリート構造物についてLRADにより面的な加振を行い、SLDVによりアンカーボルトの先端面の振動速度の計測を行った。実験では周波数500〜7100Hz、変調周波数200Hz、インターバル50msのトーンバースト波を用いた。
【0046】
次に、実験1の場合と同様に、得られた振動速度の測定結果をフーリエ変換し、得られた振幅スペクトル(Sf)に基づいて、周波数と振動エネルギー(PSD)との関係を求め、得られた周波数と振動エネルギー(PSD)との関係において、f
1=1200Hzからf
2=8192Hzまでの範囲で積分し、得られた積分値を振動エネルギー(VE)とした。
充填率が55%、78%、100%となるように接着剤を充填したコンクリート構造物の各々における振動エネルギー(VE)を
図9に示す。
【0047】
図9から、充填率が低下すると振動エネルギーが低下していることが確認できる。これは接着剤の充填率が下がることにより、アンカーボルトに伝わる振動が低下したと考えられる。
したがって、例えば
図9において所定値以上の振動エネルギーを示したアンカーボルトについては接着剤の充填率が十分であり、これに対して所定値未満の振動エネルギーを示したアンカーボルトについては接着剤の充填率が不十分であると判断し、これを修繕するとする判断を行うことができる。
【0048】
<実験3>
実験2と同様にして実験セットアップを行った。使用した空中放射(加振用)音源およびレーザドップラー振動計ならびにこの配置も同様とした。また、使用したアンカーボルトも実験2の場合と同じであり、
図5に示すように、コンクリート構造物に形成した削孔(削孔径、削孔長も実験1の場合と同様)へ装入し、さらに削孔内へ接着剤を充填した。ここで充填率が55%、78%、100%となるように接着剤を充填したものを各々用意した。
そして、各々コンクリート構造物についてLRADにより面的な加振を行い、SLDVによりアンカーボルトの先端面の位置の計測を行った。実験では周波数500〜7100Hz、変調周波数200Hz、インターバル50msのトーンバースト波を用いた。
【0049】
次に、得られた振動波形(減衰曲線)をフーリエ変換し、得られたパワースペクトルから共振周波数を求めた。代表例として、接着剤の充填率を78%とした場合のパワースペクトルを
図3に示した。
充填率が55%、78%、100%となるように接着剤を充填したコンクリート構造物の各々における共振周波数を
図10に示す。
【0050】
図10から、充填率が低下すると共振周波数が低下していることが確認できる。これは接着剤の充填量によりコンクリート内部でのアンカーボルト支持位置が変化したものに起因すると考えられる。
したがって、例えば
図10において所定値以上の共振周波数を示したアンカーボルトについては接着剤の充填率が十分であり、これに対して所定値未満の共振周波数を示したアンカーボルトについては接着剤の充填率が不十分であると判断し、これを修繕するとする判断を行うことができる。