特許第6605247号(P6605247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605247
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】トレランスリング
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
   F16D7/02 F
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-146160(P2015-146160)
(22)【出願日】2015年7月23日
(65)【公開番号】特開2017-26064(P2017-26064A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151597
【氏名又は名称】株式会社東郷製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕司
(72)【発明者】
【氏名】蔵地 啓文
(72)【発明者】
【氏名】市川 彰孝
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−517065(JP,A)
【文献】 特開2009−222186(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0275076(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0043375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02, 1/09,43/21
F16C 27/06,35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の本体部と、前記本体部の径方向の外側又は内側に隆起する複数の隆起部とを有し、シャフトの外周面と同シャフトが挿入されるスリーブの内周面との間に嵌合されるトレランスリングにおいて、
前記複数の隆起部の少なくとも一つには、当該隆起部の隆起の起点となる部位と前記隆起部の頂部との間の部分である立ち上がり部を少なくとも貫通して前記隆起部の内外を連通する連通孔が設けられ、前記連通孔は、前記隆起部の頂部を避けて同隆起部に設けられており、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間にある潤滑油は、前記隆起部に設けられた前記連通孔を通じた前記隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている
ことを特徴とするトレランスリング。
【請求項2】
円筒状の本体部と、前記本体部の径方向の外側又は内側に隆起する複数の隆起部とを有し、シャフトの外周面と同シャフトが挿入されるスリーブの内周面との間に嵌合されるトレランスリングにおいて、
前記複数の隆起部の少なくとも一つには、当該隆起部の隆起の起点となる部位と前記隆起部の頂部との間の部分である立ち上がり部を少なくとも貫通して前記隆起部の内外を連通する連通孔が設けられ、前記本体部は、合口部を有し、前記連通孔は、前記複数の隆起部のうち、前記本体部の周方向において前記合口部を挟んで当該合口部に最も近接する一対の隆起部を少なくとも除いた他の隆起部に設けられており、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間にある潤滑油は、前記隆起部に設けられた前記連通孔を通じた前記隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている
ことを特徴とするトレランスリング。
【請求項3】
前記複数の隆起部は、前記本体部の周方向に沿って並設されるものであり、
前記連通孔は、前記本体部の軸方向における前記隆起部の端部に設けられている請求項1又は2に記載のトレランスリング。
【請求項4】
前記隆起部には、複数の前記連通孔が設けられている請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のトレランスリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレランスリングに関する。
【背景技術】
【0002】
トレランスリングには、シャフトの外周面と同シャフトが挿入されるスリーブの内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されることによってトルクリミッタの一部を構成するものがある。こうしたトレランスリングを用いたトルクリミッタでは、シャフトとスリーブとの間の伝達トルクがトレランスリングとシャフト及びスリーブとの間の最大摩擦力によって定まる許容値を超えた場合に、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間に滑り回転が生じることにより、上記伝達トルクが許容値以下に制限される。
【0003】
特許文献1には、こうしたトレランスリングの一例が開示されている。このトレランスリングでは、円筒状の本体部にその径方向の外側に隆起する複数の隆起部が形成されている。この複数の隆起部と本体部の径方向の内側に配置されるシャフト(モータ軸34)との間には、トレランスリングに滑り回転が生じる際の摩耗を抑えるための潤滑油が貯留可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−197927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トレランスリングに繰り返し滑り回転が生じることによって発生する摩耗粉は、トレランスリングの複数の隆起部とシャフトとの間、すなわち隆起部の内部に溜まる。この隆起部の内部に溜まった摩耗粉の一部がシャフトやスリーブとトレランスリングとの間の滑り面に介在した状態でトレランスリングに滑り回転が生じると、摩耗粉によりトレランスリング又はシャフトやスリーブの滑り面が削られることで摩耗粉が発生し摩耗が促進され、ひいては摩耗粉の発生が助長されるおそれがある。
【0006】
なお、このような課題は、シャフトとスリーブとの間の保持力が上記許容値を超えた場合に、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間に軸方向の滑りが生じることにより、上記保持力が許容値以下に制限されるリミッタにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、摩耗を好適に抑えることのできるトレランスリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するトレランスリングは、円筒状の本体部と、本体部の径方向の外側又は内側に隆起する複数の隆起部とを有している。そして、上記トレランスリングにおいて、複数の隆起部の少なくとも一つには、当該隆起部の隆起の起点となる部位と隆起部の頂部との間の部分である立ち上がり部を少なくとも貫通して隆起部の内外を連通する連通孔が設けられている。
【0009】
ここで、隆起部の頂部とは、同隆起部において隆起の高さ、すなわち本体部の径方向における長さが最も長い部位及び同部位の周囲の部分である。より具体的には、シャフトの外周面とスリーブの内周面との間にトレランスリングが弾性変形した状態で嵌合されたときに、シャフトの外周面やスリーブの内周面と接触する部分である。
【0010】
上記構成によれば、隆起部に設けられた連通孔を通じて潤滑油が隆起部の内外に流入及び排出されるようになる。そして、このように流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリングに繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を隆起部の内部から排出させて隆起部の内部に溜まり難くすることができる。これにより、トレランスリングに滑り回転が生じる場合、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間の滑り面に介在する摩耗粉を少なくすることができるため、更なる摩耗粉の発生を抑えることができる。その結果、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。なお、連通孔は例えば本体部の軸方向において隆起部の端部に設けられていることが望ましい。
【0011】
ところで、上記連通孔が隆起部の頂部を貫通している場合、その頂部は剛性が低下して変形しやすくなるため、シャフトやスリーブから頂部に作用する圧縮荷重が低下する。このため、シャフト及びスリーブとトレランスリングとの間に生じる最大摩擦力が低下し、トレランスリングを用いたトルクリミッタにおける伝達トルクの許容値の低下を招くおそれがある。
【0012】
このため、上記トレランスリングにおいて、連通孔は隆起部の頂部を避けて同隆起部に設けられていることが望ましい。こうした構成によれば、上述したような伝達トルクの許容値の低下を抑えることができる。
【0013】
また、上記トレランスリングにおいて、隆起部には、複数の連通孔が設けられていることが望ましい。
上記構成によれば、隆起部の内外に流入及び流出する潤滑油の量が増えるため、トレランスリングに繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を隆起部の内部から好適に排出させることができる。これにより、隆起部の内部に上記摩耗粉をより好適に溜まり難くすることができる。
【0014】
また、上記トレランスリングにおいて、本体部に合口部が設けられている場合、合口部に近接する部分は他の部分と比較して剛性が低くなる。このため、合口部近傍の隆起部に連通孔が設けられていると、同部分の剛性はさらに低くなる。これにより、シャフトやスリーブから合口部近傍の隆起部の頂部に作用する圧縮荷重は低下する。その結果、トレランスリングとシャフト及びスリーブとの間に発生する最大摩擦力の低下、換言すればトレランスリングを用いたトルクリミッタにおける伝達トルクの許容値の低下を招くこととなる。
【0015】
このため、上記トレランスリングにおいて、連通孔は、複数の隆起部のうち、本体部の周方向において合口部を挟んで当該合口部に最も近接する一対の隆起部を少なくとも除いた他の隆起部に設けられていることが望ましい。こうした構成によれば、合口部を有するトレランスリングの隆起部に連通孔が設けられる場合であっても、上記許容値の低下量をできるだけ小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】トレランスリングを示す斜視図。
図2】トレランスリングについてその展開した状態を示す正面図。
図3図2のIII−I II線断面図。
図4】(a)は図2のIV−IV線断面図、(b)は隆起部についてその径方向から視た場合の正面図。
図5】トレランスリングが用いられるトルクリミッタを示す断面図。
図6】トレランスリングの有孔隆起部近傍を示す断面図。
図7】別例のトレランスリングについてその展開した状態を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、トレランスリングの一実施形態を説明する。
図1に示すように、トレランスリング10は、円筒状の本体部11を備える。本体部11は、長辺及び短辺を有する矩形状の金属板を円筒状に湾曲させて形成されている。本体部11は、本体部11の周方向で対向する一対の端部13の間に形成され、同本体部11の軸方向に沿って延びる直線状の隙間を形成する合口部12を有する。
【0019】
なお、以下の説明において、「軸方向」は本体部11の軸方向を意味し、「径方向」は「軸方向」に直交する方向を意味し、「周方向」は「軸方向」を中心とした回転方向を意味する。
【0020】
図1及び図2に示すように、本体部11には、当該本体部11の内周面から径方向の外側に隆起する複数の隆起部14が設けられている。それぞれの隆起部14は、径方向視においてその外形が長辺及び短辺を有する矩形状をなし、その長手方向と本体部11の軸方向とが一致している。複数の隆起部14は、本体部11の周方向に沿って並設されている。
【0021】
また、合口部12の近傍では、その他の部位に比べて隆起部14と隆起部14との間隔が短い。すなわち、合口部12を構成する一方の端部13から数えて6つ目から9つ目までの隆起部14は、周方向に間隔をあけて設けられている。これに対し、合口部12を構成する両端部13からそれぞれ数えて1つ目から5つ目までの隆起部14は、周方向に間隔をあけることなく連続的に設けられている。これにより合口部12の近傍における本体部11の剛性が高められている。
【0022】
また、隣り合う隆起部14同士は、軸方向に互い違いに設けられている。これによりトレランスリング10とシャフト30やスリーブ40との間で面圧が作用する部位を軸方向に分散させ、トレランスリング10の摩耗が低減されている。
【0023】
ここで、隆起部14について詳しく説明する。
図3に示すように、隆起部14は、当該隆起部14の隆起の起点となる起点部位15を有する。起点部位15は、径方向視における隆起部14の外郭辺を構成する。
【0024】
また、隆起部14は、当該隆起部14における隆起の高さ、すなわち本体部11の径方向における長さが最も長い部位及びその周囲の部位によって構成される頂部16を有する。なお、複数の隆起部14のうち、合口部12に最も近接する一対の隆起部14(以下、特にこの一対の隆起部を指すときは「合口隆起部」という)は、その頂部16が合口部12を構成する一対の端部13によって形成されている。このため、合口隆起部は、他の隆起部14よりもその大きさが小さく、他の隆起部14を頂部16に沿って分割した一つの大きさ及び形状とほぼ等しい。
【0025】
また、隆起部14は、起点部位15と頂部16との間の部分である立ち上がり部17を有する。立ち上がり部17は、起点部位15から頂部16に向かって径方向外側に緩やかに傾斜している。隆起部14の径方向の内側の内部には、起点部位15と頂部16と立ち上がり部17の内壁によりくぼみが画成されている。
【0026】
図1及び図2に示すように、複数の隆起部14のうち、合口隆起部を除いた他の隆起部14には、隆起部14の内外を連通する円形状の連通孔18が設けられている。以下、複数の隆起部14のうち、この連通孔18が設けられた隆起部14を合口隆起部と区別するときは有孔隆起部という。こうした連通孔18は、本体部11の軸方向における有孔隆起部の両端部にそれぞれ一つずつ設けられている。
【0027】
具体的には、図4(a)及び図4(b)に示すように、連通孔18は、有孔隆起部の起点部位15のうち、本体部11の軸方向において対向する短辺端部19にそれぞれ設けられている。連通孔18は、本体部11において、短辺端部19の周囲の部位から同短辺端部19を跨いで立ち上がり部17の一部の部位までを貫通している。このように、連通孔18は、有孔隆起部の頂部16を避けた態様にて同有孔隆起部に設けられている。また、連通孔18は、有孔隆起部の起点部位15のうち、本体部11の周方向において対向する長辺端部20に架からないようにして同有孔隆起部に設けられている。換言すれば、それぞれの連通孔18は、隆起部14の一対の長辺端部20を軸方向に延長したとき、その延長線によって挟まれた領域からはみ出していない。すなわち、いずれの連通孔18も、本体部11の周方向において隣り合う隆起部14と隆起部14との間の部分を避けた態様にて有孔隆起部に設けられている。
【0028】
以下、本実施形態のトレランスリング10の作用を説明する。
図5に示すように、トレランスリング10は、シャフト30の外周面と同シャフト30が挿入されるスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されることによってトルクリミッタの一部を構成する。この場合、隆起部14の頂部16は、スリーブ40の内周面に接触することとなる。
【0029】
そして、図6に矢印で示すように、トレランスリング10が嵌合されているシャフト30の外周面とスリーブ40の内周面との間において、潤滑油Lbは、有孔隆起部(合口隆起部以外の隆起部14)に設けられた連通孔18を通じた有孔隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている。
【0030】
ここで、図6の拡大図に示すように、トレランスリング10とシャフト30との間において、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じる場合には、トレランスリング10とシャフト30の外周面との間、特に有孔隆起部の内部にトレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉Dが溜まりやすい。
【0031】
しかし、こうした摩耗粉Dは、連通孔18を通じて潤滑油Lbが有孔隆起部の内外に流入及び排出される過程において、有孔隆起部の内側から、例えば有孔隆起部の外側へと排出される。
【0032】
このように特定隆起部の内部に流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を有孔隆起部の内部から排出させて有孔隆起部の内部に溜まり難くすることができる。
【0033】
ところで、トレランスリング10がシャフト30の外周面とスリーブ40の内周面との間に嵌合されることにより弾性変形すると、隆起部14の頂部16には、圧縮荷重が作用し、周方向で互いに隣り合う隆起部14と隆起部14との間の部分にも同様に圧縮荷重が作用する。ここで、隣り合う隆起部14と隆起部14との間の部分に連通孔18が存在していると、同部分は剛性が低下するため、その圧縮荷重によって変形しやすくなる。その結果、隆起部14の頂部16に作用する圧縮荷重は小さくなり、トレランスリング10とシャフト30及びスリーブ40との間に発生する最大摩擦力の低下、換言すればトレランスリング10を用いたトルクリミッタにおける伝達トルクの許容値の低下を招くこととなる。
【0034】
その点、本実施形態では、隣り合う隆起部14と隆起部14との間の部分を避けて連通孔18が設けられている。したがって、隣り合う隆起部14と隆起部14との間の部分は、同部分に連通孔18が設けられている場合に比べて変形しにくくなる。その結果、上述したようなトレランスリング10を用いたトルクリミッタにおける伝達トルクの許容値の低下を抑えることができる。
【0035】
また、連通孔18が隆起部14の頂部16を貫通している場合、その頂部16は剛性が低下して変形しやすくなるため、シャフト30やスリーブ40から頂部16に作用する圧縮荷重が低下する。このため、トレランスリング10を用いたトルクリミッタにおける伝達トルクの許容値の低下を招くおそれがある。
【0036】
このため、本実施形態では、隆起部14の頂部16を避けて連通孔18を設けるようにしている。したがって、上述したような伝達トルクの許容値の低下を抑えることができる。
【0037】
また、本実施形態において、有孔隆起部のそれぞれには、2つの連通孔18が設けられている。したがって、有孔隆起部の内外に流入及び排出される潤滑油の量が増えるため、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を有孔隆起部一つ一つの内部から好適に排出させることができる。
【0038】
また、本実施形態のように、本体部11に合口部12が設けられている場合、合口部12に近接する部分は他の部分と比較して剛性が低くなる。このため、合口部12近傍の合口隆起部に連通孔18が設けられていると、同部分の剛性はさらに低くなる。これにより、シャフト30やスリーブ40から合口部12近傍の合口隆起部の頂部16に作用する圧縮荷重は低下する。その結果、トレランスリングを用いたトルクリミッタにおける伝達トルクの許容値の低下を招くこととなる。
【0039】
このため、本実態形態では、複数の隆起部14のうち、合口隆起部を除いた有孔隆起部に連通孔18を設けるようにしている。したがって、合口部12を有するトレランスリング10の隆起部14に連通孔18が設けられる場合であっても、上記許容値の低下量をできるだけ小さくすることができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に示す効果を奏することができる。
(1)有孔隆起部に設けられた連通孔18を通じて有孔隆起部の内外に流入及び排出させる潤滑油により、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を有孔隆起部の内部から排出させて有孔隆起部の内部に溜まり難くすることができる。これにより、更なる摩耗粉の発生を抑えることができるため、トレランスリング10の摩耗を好適に抑えることができる。
【0041】
(2)有効隆起部に設けられた連通孔18を通じて有孔隆起部の内部に潤滑油が流入されることにより、例えば、連通孔18を設けていない場合と比較して、有孔隆起部の内部に留まりうる潤滑油の量を増加させることができる。
【0042】
(3)連通孔18は、隣り合う隆起部14と隆起部14との間の部分を避けて設けられている。したがって、隣り合う隆起部14と隆起部14との間の部分は、同部分に連通孔18を設ける場合に比べて変形しにくくなる。その結果、上述したようなトレランスリング10を用いたトルクリミッタにおける伝達トルクの許容値の低下を抑えることができる。
【0043】
(4)連通孔18は、隆起部14の頂部16を避けて同隆起部14に設けられている。したがって、隆起部14の頂部16はその剛性の低下が抑えられ変形しにくくなるため、上述したような伝達トルクの許容値の低下を抑えることができる。
【0044】
(5)有孔隆起部のそれぞれには、2つの連通孔18が設けられている。したがって、有孔隆起部の内外に流入及び排出される潤滑油の量が増えるため、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を有孔隆起部一つ一つの内部から好適に排出させることができる。
【0045】
(6)連通孔は、複数の隆起部14のうち、合口隆起部を除いた有孔隆起部に設けられている。したがって、合口部12近傍の部分はその剛性の低下が抑えられる。その結果、合口部12を有するトレランスリング10の隆起部14に連通孔18が設けられる場合であっても、上記許容値の低下量をできるだけ小さくすることができる。
【0046】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・合口隆起部に対しても有孔隆起部と同様にして合口隆起部の内外を連通する連通孔を設けるようにしてもよい。
【0047】
・有孔隆起部に設ける連通孔18は、それぞれ1つずつとしてもよいし、3つ以上としてもよい。また、有孔隆起部として、連通孔18を1つ設けるものと2つ(複数)設けるものとが混在していてもよい。
【0048】
・合口隆起部を除く隆起部14として、連通孔18が設けられるものと連通孔18が設けられないものとが混在していてもよい。
・連通孔18は、隆起部14における立ち上がり部17を少なくとも含んでいればよい。例えば、トルクリミッタの伝達トルクの許容値として高い値が要求されない場合、頂部16を含む態様で連通孔18を形成してもよい。
【0049】
同様にトルクリミッタの伝達トルクの許容値として高い値が要求されない場合、有孔隆起部の起点部位15のうち、本体部11の周方向に対向する長辺端部20に連通孔18を設けてもよい。この場合、短辺端部19には、連通孔18が設けられてもよいし設けられていなくてもよい。
【0050】
・本体部11には、連通孔18の他、隆起部14に重ならない位置において本体部11の径方向の内外を貫通して形成される貫通孔を設けることもできる。
・複数の隆起部14は、本体部11の外周面から径方向の内側に隆起するものであってもよい。この場合、トレランスリング10がシャフト30の外周面と同シャフト30が挿入されるスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されると、隆起部14の頂部16はシャフト30の外周面に接触することとなる。ここで、トレランスリング10とスリーブ40との間において、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じる場合には、トレランスリング10とスリーブ40の内周面との間、特に有孔隆起部の内部に摩耗粉Dが溜まりやすい。しかし、こうした摩耗粉Dは、連通孔18を通じて潤滑油Lbが有孔隆起部の内外に流入及び排出される過程において、有孔隆起部の内側から、例えば有孔隆起部の外側へと排出される。このように、複数の隆起部14は、本体部11の径方向の内側に向かって隆起するものであっても、上記実施形態や各別例同様の作用及び効果を奏する。
【0051】
・複数の隆起部14は、合口部12を構成する一対の端部13を避けて設けるようにしてもよい。
・本体部11には、本体部11の周方向に沿って複数の隆起部14が並設される列を軸方向に2列や3列以上配置するようにしてもよい。また、こうした配置は、各別例においても同様に採用することができる。
【0052】
図7に示すように、隣り合う隆起部14同士は、軸方向にずれることなく直線状に設けられるようにしてもよい。
・本体部11は合口部12を有していたが、合口部12を連結するように他の部材を介在させる等して円環状の本体部11として実現することもできる。
【0053】
・上記実施形態は、上記許容値を超えた場合に、トレランスリング10がシャフト30やスリーブ40に対して滑り回転するトルクリミッタへの適用例を示したが、保持力が上記許容値を超えた場合に、シャフト30やスリーブ40とトレランスリング10との間に軸方向の滑りを生じるリミッタへの適用も可能である。
【符号の説明】
【0054】
10…トレランスリング、11…本体部、12…合口部、14…隆起部(有孔隆起部、合口隆起部)、15…起点部位、16…頂部、17…立ち上がり部、18…連通孔、19…短辺端部、20…長辺端部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7