特許第6605253号(P6605253)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605253
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】トレランスリング
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
   F16D7/02 F
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-157754(P2015-157754)
(22)【出願日】2015年8月7日
(65)【公開番号】特開2017-36784(P2017-36784A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151597
【氏名又は名称】株式会社東郷製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕司
(72)【発明者】
【氏名】蔵地 啓文
(72)【発明者】
【氏名】市川 彰孝
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第2532907(EP,A1)
【文献】 国際公開第2012/119312(WO,A1)
【文献】 特開2012−197927(JP,A)
【文献】 特開2015−137732(JP,A)
【文献】 特開2002−181068(JP,A)
【文献】 実開平6−65625(JP,U)
【文献】 国際公開第2013/172313(WO,A1)
【文献】 米国特許第3061386(US,A)
【文献】 特表2015−517065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の本体部と、前記本体部の内周面から径方向の外側に向かって隆起する複数の隆起部とを有し、シャフトの外周面と前記シャフトが挿入されるスリーブの内周面との間に嵌合されるトレランスリングにおいて、
前記複数の隆起部の少なくとも一つにおいて、当該隆起部と前記本体部の端部との間には、当該隆起部の一部を前記本体部の端部まで延ばした延長部が設けられ、前記隆起部の内部に通じる凹部が前記延長部の内壁により画成され、前記隆起部は前記スリーブの内周面に当接し、前記延長部は前記スリーブの内周面に当接しないように構成されており、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間にある潤滑油は、前記凹部を通じた前記隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている
ことを特徴とするトレランスリング。
【請求項2】
円筒状の本体部と、前記本体部の外周面から径方向の内側に向かって隆起する複数の隆起部とを有し、シャフトの外周面と前記シャフトが挿入されるスリーブの内周面との間に嵌合されるトレランスリングにおいて、
前記複数の隆起部の少なくとも一つにおいて、当該隆起部と前記本体部の端部との間には、当該隆起部の一部を前記本体部の端部まで延ばした延長部が設けられ、前記隆起部の内部に通じる凹部が前記延長部の外壁により画成され、前記隆起部は前記シャフトの外周面に当接し、前記延長部は前記シャフトの外周面に当接しないように構成されており、前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との間にある潤滑油は、前記凹部を通じた前記隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている
ことを特徴とするトレランスリング。
【請求項3】
前記本体部の内周面及び外周面の少なくとも一方には、リン酸マンガン皮膜が設けられている請求項1又は2に記載のトレランスリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレランスリングに関する。
【背景技術】
【0002】
トレランスリングには、シャフトの外周面と同シャフトが挿入されるスリーブの内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されることによってトルクリミッタの一部を構成するものがある。こうしたトレランスリングを用いたトルクリミッタでは、シャフトとスリーブとの間の伝達トルクがトレランスリングとシャフト及びスリーブとの間の最大摩擦力によって定まる許容値を超えた場合に、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間に滑り回転が生じることにより、上記伝達トルクが許容値以下に制限される。
【0003】
特許文献1には、こうしたトレランスリングの一例が開示されている。このトレランスリングでは、円筒状の本体部にその径方向の外側に隆起する複数の隆起部が形成されている。この複数の隆起部と本体部の径方向の内側に配置されるシャフト(モータ軸34)との間には、トレランスリングに滑り回転が生じる際の摩耗を抑えるための潤滑油が貯留可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−197927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トレランスリングに繰り返し滑り回転が生じることによって発生する摩耗粉は、トレランスリングの複数の隆起部とシャフトとの間、すなわち隆起部の内部に溜まる。この隆起部の内部に溜まった摩耗粉の一部がシャフトやスリーブとトレランスリングとの間の滑り面に介在した状態でトレランスリングに滑り回転が生じると、摩耗粉によりトレランスリング又はシャフトやスリーブの滑り面が削られることで摩耗粉が発生し摩耗が促進され、ひいては摩耗粉の発生が助長されるおそれがある。
【0006】
なお、このような課題は、シャフトとスリーブとの間の保持力が上記許容値を超えた場合に、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間に軸方向の滑りが生じることにより、上記保持力が許容値以下に制限されるリミッタにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、摩耗を好適に抑えることのできるトレランスリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するトレランスリングは、円筒状の本体部と、本体部の内周面から径方向の外側に向かって隆起する複数の隆起部とを有している。そして、このトレランスリングにおいて、複数の隆起部の少なくとも一つにおいて、当該隆起部と本体部の端部との間には、当該端部から延びて隆起部の内部に通じる凹部が設けられている。
【0009】
その他、上記課題を解決するトレランスリングは、円筒状の本体部と、本体部の外周面から径方向の内側に向かって隆起する複数の隆起部とを有している。そして、このトレランスリングにおいて、複数の隆起部の少なくとも一つにおいて、当該隆起部と本体部の端部との間には、当該端部から延びて隆起部の内部に通じる凹部が設けられている。
【0010】
これら構成によれば、隆起部の内部に通じる凹部を通じて潤滑油が隆起部の内部に流入するようになる。そして、このように流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリングに繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を隆起部の内部から排出させて隆起部の内部に溜まり難くすることができる。これにより、トレランスリングに滑り回転が生じる場合、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間の滑り面に介在する摩耗粉を少なくすることができるため、更なる摩耗粉の発生を抑えることができる。その結果、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。
【0011】
こうした凹部の一例は、隆起部の一部を本体部の端部まで延ばした延長部の内壁により画成されるものあるいは、本体部の内周面又は外周面に設けられる場合に当該本体部の厚さよりも深さの浅い溝である。
【0012】
また、上記トレランスリングにおいて、本体部の内周面及び外周面の少なくとも一方には、リン酸マンガン皮膜が設けられていることが望ましい。
上記構成によれば、トレランスリングの摩耗を更に抑えることができるため、トレランスリングの使用状態においてトルク許容値の低下を抑えることができる。なお、スリーブとトレランスリングとの間に滑り回転が生じる場合には、本体部の少なくとも外周面にリン酸マンガン皮膜を設けることが望ましい。一方、シャフトとトレランスリングとの間に滑り回転が生じる場合には、本体部の少なくとも内周面にリン酸マンガン皮膜を設けることが望ましい。
【0013】
その他、トレランスリングは、円筒状の本体部と、本体部の内周面から径方向の外側及び本体部の外周面から径方向の内側のいずれか一方に向かって隆起する複数の隆起部とを有している。そして、このトレランスリングにおいて、本体部には、当該本体部の端部と隆起部との間を当該隆起部に至る態様で切り欠いた切り欠き部を設けるようにしてもよい。
【0014】
上記構成によれば、隆起部の一部が切り欠き部により切り欠かれているため、その切り欠かれた部分を通じて潤滑油が隆起部の内部に流入するようになる。そして、このように流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリングに繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を隆起部の内部から排出させて隆起部の内部に溜まり難くすることができる。これにより、トレランスリングに滑り回転が生じる場合、シャフトやスリーブとトレランスリングとの間の滑り面に介在する摩耗粉を少なくすることができるため、更なる摩耗粉の発生を抑えることができる。その結果、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態におけるトレランスリングを示す斜視図。
図2】第1実施形態におけるトレランスリングについてその展開した状態を示す正面図。
図3図2のIII−III線断面図。
図4図2のIV−IV線断面図。
図5】(a)は図2のV−V線断面図、(b)は隆起部についてその径方向から視た場合の正面図。
図6】トレランスリングが用いられるトルクリミッタを示す断面図。
図7】トレランスリングの特定隆起部近傍を示す断面図。
図8】(a)は第2実施形態におけるトレランスリングについてその展開した状態を示す正面図、(b)は第2実施形態におけるトレランスリングについてその矢視A方向からみた図。
図9】(a)は第3実施形態におけるトレランスリングについてその展開した状態を示す正面図、(b)は第3実施形態におけるトレランスリングについてその矢視B方向からみた図。
図10】別例におけるトレランスリングを示す斜視図。
図11】別例におけるトレランスリングを示す斜視図。
図12】別例におけるトレランスリングを示す斜視図。
図13】別例におけるトレランスリングを示す斜視図。
図14】別例におけるトレランスリングについてその展開した状態を示す正面図。
図15】別例におけるトレランスリングについてその展開した状態を示す正面図。
図16】別例におけるトレランスリングについてその展開した状態を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、トレランスリングの第1実施形態を説明する。
図1に示すように、トレランスリング10は、円筒状の本体部11を備える。本体部11は、長辺及び短辺を有する矩形状の金属板を円筒状に湾曲させて形成されている。本体部11は、本体部11の周方向で対向する一対の端部13の間に形成され、同本体部11の軸方向に沿って延びる直線状の隙間である合口部12を有する。
【0018】
なお、以下の説明において、「軸方向」は本体部11の軸方向を意味し、「径方向」は「軸方向」に直交する方向を意味し、「周方向」は「軸方向」を中心とした回転方向を意味する。
【0019】
図1及び図2に示すように、本体部11には、当該本体部11の内周面から径方向の外側に隆起する複数の隆起部14が設けられている。それぞれの隆起部14は、径方向視においてその外形が長辺及び短辺を有する矩形状をなし、その長手方向と本体部11の軸方向とが一致している。複数の隆起部14は、本体部11の周方向に沿って一列に並設されている。
【0020】
また、合口部12の近傍では、その他の部位に比べて隆起部14と隆起部14との間隔が短い。すなわち、合口部12を構成する一方の端部13から数えて6つ目から9つ目までの隆起部14は、周方向に間隔をあけて設けられている。これに対し、合口部12を構成する両端部13からそれぞれ数えて1つ目から5つ目までの隆起部14は、周方向に間隔をあけることなく連続的に設けられている。これにより合口部12の近傍における本体部11の剛性が高められている。
【0021】
ここで、隆起部14について詳しく説明する。
図3及び図4に示すように、隆起部14は、当該隆起部14の隆起の起点となる起点部位15を有する。起点部位15は、径方向視における隆起部14の外郭辺を構成する。
【0022】
また、隆起部14は、当該隆起部14における隆起の高さ、すなわち本体部11の径方向における長さが最も長い部位及びその近傍の部位によって構成される頂部16を有する。なお、複数の隆起部14のうち、合口部12に最も近接する一対の隆起部14(以下、特にこの一対の隆起部を指すときは「合口隆起部」という)は、その頂部16が合口部12を構成する一対の端部13によって形成されている。このため、合口隆起部は、他の隆起部14よりもその大きさが小さく、他の隆起部14を頂部16に沿って分割した一つの大きさ及び形状とほぼ等しい。
【0023】
また、隆起部14は、起点部位15と頂部16との間の部分である立ち上がり部17を有する。立ち上がり部17は、起点部位15から頂部16に向かって径方向外側に緩やかに傾斜している。隆起部14の径方向の内側の内部には、起点部位15と頂部16と立ち上がり部17の内壁によりくぼみSが画成されている。
【0024】
図1及び図2に示すように、複数の隆起部14のうち、合口隆起部を除いた他の隆起部14には、隆起部14の一部を本体部11の軸方向の両側の端部11aまで直線状に延ばした延長部18が設けられている。以下、複数の隆起部14のうち、この延長部18が設けられた隆起部14を合口隆起部と区別するときは特定隆起部という。こうした延長部18は、本体部11の軸方向における特定隆起部の両端部から延びている。
【0025】
図3及び図4それぞれの拡大図に示すように、延長部18の径方向の内側、すなわち本体部11の内周面には、その内壁により本体部11の板厚に関係なく、同等であってもよいしそれより深い深さでも浅い深さであってもよい凹部18aが形成される。凹部18aは、本体部11の両側の端部11aから直線状に延びて隆起部14の内部、すなわちくぼみSに通じている。
【0026】
図5(a)及び図5(b)に示すように、延長部18は、特定隆起部の起点部位15における短辺端部19及び長辺端部20のうち、本体部11の軸方向において対向する短辺端部19から延びている。延長部18は、本体部11において、立ち上がり部17の途中の部位から延びている。すなわち、くぼみSと延長部18の径方向の内側の凹部18aとは互いに連通している。
【0027】
また、図3及び図4の拡大図に示すように、本体部11の径方向の内側及び外側の内周面及び外周面のそれぞれには、耐摩耗皮膜処理の一種であるリン酸マンガン皮膜処理が施されている。
【0028】
リン酸マンガン皮膜処理では、処理前の本体部11の内周面及び外周面の油分を取り除く脱脂工程が行われる。次に、脱脂工程を経た本体部11の内周面及び外周面に細かな凸凹を形成する表面調整工程が行われる。次に、表面調整工程を経た本体部11の内周面及び外周面に所定厚さのリン酸マンガン皮膜層を形成する皮膜形成工程が行われる。次に、皮膜形成工程を経た本体部11を乾燥させてその内周面及び外周面にリン酸マンガン皮膜層を定着させる熱処理であるベーキング工程が行われる。なお、ベーキング工程は必須ではない。次に、ベーキング処理工程を経た本体部11の内周面及び外周面に防錆油を塗布する防錆塗布工程が行われる。上記各工程を経た本体部11の内周面及び外周面には、多孔質なリン酸マンガンの結晶体からなるリン酸マンガン皮膜FLが形成される。
【0029】
以下、本実施形態のトレランスリング10の作用を説明する。
図6に示すように、トレランスリング10は、シャフト30の外周面と同シャフト30が挿入されるスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されることによってトルクリミッタの一部を構成する。この場合、隆起部14の頂部16は、スリーブ40の内周面に当接している。一方、隆起部14のうち、特定隆起部の延長部18は、スリーブ40の内周面に当接していない。
【0030】
そして、図7に示すように、トレランスリング10が嵌合されているシャフト30の外周面とスリーブ40の内周面との間において、潤滑油Lbは、トレランスリング10の本体部11の両側の端部11aから延長部18の凹部18aを通じた特定隆起部の内外への流入及び排出が可能となっている。
【0031】
ここで、トレランスリング10とシャフト30との間において、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じる場合には、トレランスリング10とシャフト30の外周面との間、特に特定隆起部の内部(くぼみS)にトレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉Dが溜まりやすい。
【0032】
しかし、こうした摩耗粉Dは、凹部18aを通じて潤滑油Lbが特定隆起部の内外に流入及び排出される過程において、特定隆起部の内側から、例えば特定隆起部の外側へと排出される。
【0033】
このように特定隆起部の内部に流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を特定隆起部の内部から排出させて特定隆起部の内部に溜まり難くすることができる。これにより、トレランスリング10に滑り回転が生じる場合、シャフト30やスリーブ40とトレランスリング10との間の滑り面に介在する摩耗粉を少なくすることができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に示す効果を奏することができる。
(1)特定隆起部に設けられた凹部18aを通じて特定隆起部の内外に流入及び排出させる潤滑油により、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を特定隆起部の内部から排出させて特定隆起部の内部に溜まり難くすることができる。これにより、更なる摩耗粉の発生を抑えることができるため、トレランスリングの摩耗を好適に抑えることができる。
【0035】
(2)本体部11の内周面及び外周面には、リン酸マンガン皮膜FLが設けられている。これにより、トレランスリング10の摩耗を更に抑えることができるため、トレランスリング10の使用状態においてトルク許容値の低下を抑えることができる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、トレランスリングの第2実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0037】
図8(a)に示すように、本体部11の径方向の内周面には、当該本体部11の両側の端部11aから直線状に延びて隆起部14の内部、すなわちくぼみSに通じる溝21が設けられている。本実施形態では、複数の隆起部14のうち、この溝21が内部に通じる隆起部14を特定隆起部という。こうした溝21は、本体部11の軸方向において対向する短辺端部19からくぼみSに通じる。
【0038】
図8(b)に示すように、溝21は、本体部11の板厚hよりも深さの浅い溝である。そのため、本体部11の径方向の外周面には、溝21に対応する部位において本体部11の径方向の外側に隆起する部位が存在しないこととなる。
【0039】
以下、本実施形態のトレランスリング10の作用を説明する。
トレランスリング10がトルクリミッタの一部を構成する場合、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉Dは、溝21を通じて潤滑油が特定隆起部の内外に流入及び排出される過程において、特定隆起部の内側から、例えば特定隆起部の外側へと排出される。
【0040】
このように特定隆起部の内部に流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を特定隆起部の内部から排出させて特定隆起部の内部に溜まり難くすることができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果(1),(2)に相当する効果を奏することができる。
(第3実施形態)
次に、トレランスリングの第3実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
【0042】
図9(a)及び図9(b)に示すように、本体部11には、当該本体部11の両側の端部11aから直線状に延びて隆起部14の内部、すなわちくぼみSにまで至るスリット状の切り欠き部22が設けられている。本実施形態では、複数の隆起部14のうち、この切り欠き部22がくぼみSにまで至る隆起部14を特定隆起部という。こうした切り欠き部22は、本体部11の軸方向において対向する短辺端部19からくぼみSに通じる。切り欠き部22において、特定隆起部の内部に通じる連通口22aは、本体部11における立ち上がり部17の途中の部位にまで至る。
【0043】
以下、本実施形態のトレランスリング10の作用を説明する。
トレランスリング10がトルクリミッタの一部を構成する場合、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉Dは、切り欠き部22(連通口22a)を通じて潤滑油が特定隆起部の内外に流入及び排出される過程において、特定隆起部の内側から、例えば特定隆起部の外側へと排出される。
【0044】
このように特定隆起部の内部に流入した潤滑油が排出されるのに伴って、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉を特定隆起部の内部から排出させて特定隆起部の内部に溜まり難くすることができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果(1),(2)に相当する効果を奏することができる。
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
【0046】
・スリーブ40とトレランスリング10との間に滑り回転が生じる場合には本体部11の少なくとも外周面にリン酸マンガン皮膜FLを設けていればよい。一方、シャフト30とトレランスリング10との間に滑り回転が生じる場合には本体部11の少なくとも内周面にリン酸マンガン皮膜FLを設けていればよい。
【0047】
・各実施形態では、合口隆起部に対しても特定隆起部と同様にして合口隆起部の内部に通じる延長部(凹部)や溝や切り欠き部を設けるようにしてもよい。
・各実施形態において、特定隆起部に設ける延長部18(凹部18a)や溝21や切り欠き部22は、特定隆起部の軸方向の両側に設けるようにしたが、それぞれの片側については省略してもよい。また、特定隆起部として、片側の延長部18(凹部18a)や溝21や切り欠き部22を省略したものとそうでないものとが混在していてもよい。
【0048】
・各実施形態では、合口隆起部を除く隆起部14として、延長部18(凹部18a)や溝21や切り欠き部22が設けられるものと設けられないものとが混在していてもよい。
・各実施形態では、本体部11の周方向に沿って複数の隆起部14が並設される列を軸方向に2列や3列以上配置するようにしてもよい。また、こうした配置は、各別例においても同様に採用することができる。
【0049】
・各実施形態や各別例において、図10図12に示すように、複数の隆起部14は、本体部11の外周面から径方向の内側に隆起するものであってもよい。この場合、トレランスリング10がシャフト30の外周面と同シャフト30が挿入されるスリーブ40の内周面との間に弾性変形した状態で嵌合されると、隆起部14の頂部16がスリーブ40の内周面に当接している各実施形態に対して、隆起部14の頂部16はシャフト30の外周面に当接している。ここで、トレランスリング10とスリーブ40との間において、トレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じる場合には、トレランスリング10とスリーブ40の内周面との間、特に特定隆起部の内部(くぼみS)にトレランスリング10に繰り返し滑り回転が生じることによって生じる摩耗粉Dが溜まりやすい。しかし、こうした摩耗粉Dは、延長部18(凹部18a)や溝21や切り欠き部22を通じて潤滑油Lbが特定隆起部の内外に流入及び排出される過程において、特定隆起部の内側から、例えば特定隆起部の外側へと排出される。このように、複数の隆起部14は、本体部11の径方向の内側に向かって隆起するものであっても、各実施形態や各別例同様の作用及び効果を奏する。
【0050】
・第1実施形態では、図13に示すように、延長部18の軸方向の端部をその隆起する側に向かって切り欠いた切欠口23を設けるようにしてもよい。これにより、トレランスリング10の本体部11の端部11aに近接して図示しない周辺部材が配置される場合であっても、潤滑油は切欠口23を通じた特定隆起部の内外への流入及び排出が可能になる。
【0051】
・第1実施形態では、図14に示すように、隆起部14の一部を本体部11の周方向の端部13まで直線状に延ばした延長部24を設けるようにしてもよい。こうした延長部24は、合口隆起部を合口部12から離間して設けられるうえで、合口隆起部と本体部11の周方向の端部13との間に設けられる。なお、図14では、本別例の構成の特徴が現れ易くするために各隆起部14を周方向に所定間隔(図中、等間隔)をあけて配置している。そして、延長部24の径方向の内側、すなわち本体部11の内周面には、その内壁により本体部11の板厚に関係なく、同等であってもよいしそれより深い深さでも浅い深さであってもよい凹部24aが形成される。凹部24aは、本体部11の端部13から直線状に延びて合口隆起部の内部、すなわちくぼみSに通じている。なお、本体部11の各端部13に隣接しない合口隆起部を除く隆起部14については、周方向に隣り合う隆起部14と隆起部14との間において、それぞれの内部と本体部11の端部13が連通するように延長部24(凹部24a)を周方向に延ばして設けるようにすればよい。また、本別例の延長部24(凹部24a)は、延長部18(凹部18a)と併用してもよい。また、本別例の延長部24(凹部24a)は、第2実施形態及び第3実施形態においても同様に採用することができるし、上述の複数の隆起部14を本体部11の径方向の内側に向かって隆起する構成等を採用する各別例にも同様に採用することができる。
【0052】
・上記別例(図14)において各隆起部14を周方向に所定間隔(図中、等間隔)をあけて配置したが、こうした配置は、図15に示すように、第1実施形態においても同様に採用することができる。また、こうした配置は、第2実施形態及び第3実施形態や各別例においても同様に採用することができる。
【0053】
・第1実施形態では、図16に示すように、本体部11の周方向において隣り合う隆起部14同士を軸方向に互い違いに配置することもできる。これによりトレランスリング10とシャフト30やスリーブ40との間で面圧が作用する部位を軸方向に分散させ、トレランスリング10の摩耗を低減することができる。また、こうした配置は、第2実施形態及び第3実施形態や各別例においても同様に採用することができる。
【0054】
・上記各実施形態は、上記許容値を超えた場合に、シャフト30やスリーブ40とトレランスリング10との間に滑り回転を生じるトルクリミッタへの適用例を示したが、保持力が上記許容値を超えた場合に、シャフト30やスリーブ40とトレランスリング10との間に軸方向の滑りを生じるリミッタへの適用も可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…トレランスリング、11…本体部、11a…端部、12…合口部、14…隆起部(特定隆起部、合口隆起部)、18,24…延長部、18a,24a…凹部、21…溝、22…切り欠き部、22a…連通口、FL…リン酸マンガン皮膜、S…くぼみ(隆起部の内部)。
図1
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図16