特許第6605274号(P6605274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6605274-燃料ポンプ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605274
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】燃料ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/44 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
   F02M59/44 U
   F02M59/44 Z
   F02M59/44 K
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-188188(P2015-188188)
(22)【出願日】2015年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-70277(P2016-70277A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2018年4月20日
(31)【優先権主張番号】10 2014 014 475.5
(32)【優先日】2014年9月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510153962
【氏名又は名称】マン・エナジー・ソリューションズ・エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】デニス・コヴァレフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング・ヴァグナー
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・マイクスナー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ハーマン
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−314408(JP,A)
【文献】 特開2003−201934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプシリンダ(11)内で案内されるポンプピストン(13)を備える燃料ポンプ(10)、とりわけコモンレール燃料システムの高圧燃料ポンプであって、前記ポンプピストン(13)が案内される前記ポンプシリンダ(11)の切欠部(12)の領域には、少なくとも1つのインレット孔部(20)を介して第1の圧力レベルに連通された上方インレット溝(17)と少なくとも1つのアウトレット孔部(22)を介して第2の圧力レベルに連通された下方アウトレット溝(19)とが、潤滑および場合により冷却に用いられる燃料のために形成されている、燃料ポンプにおいて、
前記ポンプシリンダ(11)の前記切欠部(12)の領域において前記上方インレット溝(17)と前記下方アウトレット溝(19)との間には、さらなる中央インレット溝(18)が形成されており、前記中央インレット溝(18)は、少なくとも1つのインレット孔部(21)を介して前記第1の圧力レベルに連通されており、前記下方アウトレット溝(19)の上方エッジ(23)と前記中央インレット溝(18)の下方エッジ(24)との間には、前記ポンプピストン(13)のための第1の案内ウェブ(25)が形成されており、前記中央インレット溝(18)の上方エッジ(26)と前記上方インレット溝(17)の下方エッジ(27)との間には、前記ポンプピストン(13)のための第2の案内ウェブ(28)が形成され
前記中央インレット溝(18)は、前記ポンプピストン(13)のピストンストローク(A)よりも大きな軸方向の溝の高さ(B)を有し、前記中央インレット溝(18)の軸方向の溝の高さ(B)に対しては、B>A−C1が当てはまり、
ここで、Aは前記ポンプピストン(13)のピストンストロークであり、C1は前記下方アウトレット溝(19)の前記上方エッジ(23)と前記中央インレット溝(18)の前記下方エッジ(24)との間の軸方向の間隔である、ことを特徴とする燃料ポンプ。
【請求項2】
前記ポンプシリンダ(11)の前記切欠部(12)の領域では、前記下方アウトレット溝(19)の下方で、前記ポンプシリンダ(11)の溝(29)の中にスクレーパエレメント(30)が収容されている、ことを特徴とする請求項に記載の燃料ポンプ。
【請求項3】
前記中央インレット溝(18)の軸方向の溝の高さ(B)に対しては、B>A−C1−Dが当てはまり、
ここで、Aは前記ポンプピストン(13)のピストンストロークであり、C1は前記下方アウトレット溝(19)の前記上方エッジ(23)と前記中央インレット溝(18)の前記下方エッジ(24)との間の軸方向の間隔であり、Dは前記下方アウトレット溝(19)の前記上方エッジ(23)から前記スクレーパエレメント(30)の接触点(31)までの軸方向の間隔である、ことを特徴とする請求項に記載の燃料ポンプ。
【請求項4】
前記中央インレット溝(18)に至る1以上の前記インレット孔部(21)は、少なくとも部分的に、前記上方インレット溝(17)に至る1以上の前記インレット孔部(20)よりも小さな横断面を有し、これにより、前記上方インレット溝(17)において前記中央インレット溝(18)におけるよりも高い供給圧が存在する、ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の燃料ポンプ。
【請求項5】
前記中央インレット溝(18)に至る1以上の前記インレット孔部(21)は、前記中央インレット溝(18)の下方エッジ(24)に隣接して前記中央インレット溝(18)に開口している、ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の燃料ポンプ。
【請求項6】
前記中央インレット溝(18)に至る1以上の前記インレット孔部(21)は、前記中央インレット溝(18)の前記下方エッジ(24)に対して面一に前記中央インレット溝(18)に開口している、ことを特徴とする請求項に記載の燃料ポンプ。
【請求項7】
前記インレット溝(17、18)は、前記インレット孔部(20、21)を介して前記コモンレール燃料システムの低圧領域に接続可能である、ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の燃料ポンプ。
【請求項8】
前記アウトレット溝(19)は、1以上の前記アウトレット孔部(22)を介して前記コモンレール燃料システムの領域に接続可能であり、前記領域は周囲圧にある、ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の燃料ポンプ。
【請求項9】
前記案内ウェブ(25、28)は、ワニス形成の際に生じる付着力であって、前記案内ウェブ(25、28)の面積に依存する前記案内ウェブ(25、28)での前記ポンプピストン(13)の付着力が、駆動バネ(15)の復帰力よりも小さくなるように寸法設定されている、ことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の燃料ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルによる燃料ポンプ、とりわけコモンレール燃料システムの高圧燃料ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ポンプはポンプシリンダを有し、このポンプシリンダ内ではポンプピストンが可動に支承または案内される。ポンプピストンは、ポンプシリンダ内で1以上のカムを介して上下運動され、これにより、燃料が吸引され、燃料ポンプから消費装置に、つまり例えば燃料システムの噴射弁に供給される。
【0003】
実際に公知の燃料ポンプは、ポンプピストンが可動に支承されたポンプシリンダの領域に、1以上のリンケージ溝を有し、これにより、ポンプシリンダとポンプピストンとの間に発生する漏れ燃料を排出する。とりわけ、燃料により潤滑され、場合により冷却される燃料ポンプが、燃料として重油が用いられる燃料システムで使用される場合、燃料ポンプの潤滑および場合により冷却に用いられる重油とカムの領域に使用される潤滑剤との反応によって、ポンプピストンおよび/またはポンプシリンダにワニス(Verlackung)と呼ばれる堆積物が形成されることがあり、この堆積物は、ポンプピストンとポンプシリンダとの間の案内領域において、ポンプピストンとポンプシリンダとの間の案内クリアランスを低減する。これにより、最終的に燃料ポンプにピストン焼き付き(Kolbenfresser)が形成されることがあり、そのため、この場合、燃料ポンプはもはや駆動できなくなる。したがって、ポンプピストンとポンプシリンダとの間の案内クリアランスを低減するこの種のワニスは、できる限り回避しなければならない。
【0004】
特許文献1から、ポンプシリンダの領域に形成された2つのリーケージ溝を備える燃料ポンプが公知であり、これらのリーケージ溝を介して、ポンプシリンダとポンプピストンとの間に発生する漏れ燃料を排出することができる。すなわち燃料システムおよび/または無圧でリーケージ循環路に排出することができる。ここではポンプピストンおよび/またはポンプシリンダにおけるワニスを低減するために、2つのリーケージ溝がポンプピストンを収容するポンプシリンダの切欠部の下方三分の一の箇所に位置決めされている。
【0005】
特許文献2から、ポンプシリンダとポンプシリンダの切欠部内に案内されるポンプピストンとを備える燃料ポンプが公知である。ここではポンプピストンを案内するポンプシリンダの切欠部の領域内に、一方では上方インレット溝が、他方では下方アウトレット溝が、燃料ポンプの潤滑および場合により冷却に用いられる燃料のために形成されており、上方インレット溝を介してポンプピストンの潤滑および冷却のために燃料を供給することができ、下方アウトレット溝を介して潤滑および冷却に使用された燃料を排出することができる。ここで特許文献2によれば、ワニスを低減するためにポンプピストンは、ポンプピストン内に取り付けられた中空空間を介して、インレット溝を介して供給されアウトレット溝を介して排出される燃料によって、内部から冷却可能である。
【0006】
従来技術から公知の燃料ポンプにより、ポンプピストンおよび/またはポンプシリンダにおけるワニスをすでにある程度低減することができるが、一方ではポンプピストンおよび/またはポンプシリンダに対するワニス形成の危険性が低減された燃料ポンプが、他方ではポンプシリンダの切欠部内においてポンプピストンに対して最適の案内が保証される燃料ポンプが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102007019909号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102006049759号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここから出発して本発明の基礎とする課題は、ワニス形成の危険性が低減されている新規の燃料ポンプを創出することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1による燃料ポンプによって解決される。本発明によれば、ポンプシリンダの切欠部の領域には上方インレット溝と下方アウトレット溝との間には、さらなる中央インレット溝が形成されており、この中央インレット溝は、少なくとも1つのインレット孔部を介して第1の圧力レベルに連通されており、下方アウトレット溝の上方エッジと中央インレット溝の下方エッジとの間には、ポンプピストンのための第1の案内ウェブが形成されており、中央インレット溝の上方エッジと上方インレット溝の下方エッジとの間には、ポンプピストンのための第2の案内ウェブが形成されている。本発明の燃料ポンプでは、一方ではポンプピストンおよびポンプシリンダの領域におけるワニス形成の危険性が低減されており、他方ではポンプシリンダ内でのポンプピストンの最適の案内が保証される。
【0010】
好ましくは、中央インレット溝は、ポンプピストンのピストンストロークAよりも大きな軸方向の溝の高さBを有し、中央インレット溝の軸方向の溝の高さBに対しては、とりわけB>A−C1が当てはまり、ここで、Aはポンプピストンのピストンストロークであり、C1は、下方アウトレット溝の上方エッジと中央インレット溝の下方エッジとの間の軸方向の間隔である。中央インレット溝に対する溝の高さのこの構成は、ワニス形成の危険性を低減するために特に好ましい。
【0011】
本発明の有利な一発展形態によれば、ポンプシリンダの切欠部の領域内では下方アウトレット溝の下方で、スクレーパエレメントがポンプシリンダの溝の中に収容されており、ここで中央インレット溝の軸方向の溝の高さBに対しては、とりわけB>A−C1−Dが当てはまり、ここでAはポンプピストンのピストンストロークであり、C1は下方アウトレット溝の上方エッジと中央インレット溝の下方エッジとの間の軸方向の間隔であり、Dは下方アウトレット溝の上方エッジとスクレーパエレメントの接触点との間の軸方向の間隔である。中央インレット溝のこの溝の高さにより、特に有利にワニス形成の危険性を低減することができる。
【0012】
好ましくは、中央インレット溝に至る1つのまたは各インレット孔部は、少なくとも部分的に、上方インレット溝に至る1つのまたは各インレット孔部よりも小さな横断面を有し、これにより、上方インレット溝においては中央インレット溝におけるよりも高い供給圧が存在する。このことは、ワニス形成の危険性のさらなる低減に有利である。
【0013】
本発明の好ましい発展形態は、従属請求項および以下の説明から得られる。本発明の実施例を、これに制限することなく図面に基づきより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】燃料ポンプの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、燃料ポンプ、とりわけ、例えば船舶ディーゼル内燃機関のような重油により駆動される内燃機関のためのコモンレール燃料システムの高圧燃料ポンプに関するものである。
【0016】
図1は、本発明の燃料ポンプ10の断面を示しており、燃料ポンプ10は、ポンプシリンダ11と、このポンプシリンダ11の切欠部12内に可動に支承されたポンプピストン13と、を有する。ポンプピストン13は、ポンプシリンダ11の切欠部12内で上下運動可能または往復運動可能であり、すなわちカム14を介して調整される。カム14は、駆動カムとも称される。カム14に起因するポンプピストン13の運動は、駆動バネとも称される復帰バネ15により提供される復帰力に対抗作用する。この駆動バネ15は、一方ではポンプシリンダ11に、他方ではポンプピストン13と結合された支持エレメント16に支持されている。
【0017】
図1に図示された燃料ポンプ10はコモンレール燃料システムの高圧燃料ポンプであり、この種の高圧燃料ポンプは、燃料をコモンレール燃料システムの低圧領域から吸引し、圧縮し、コモンレール燃料システムの高圧領域に提供する。ここで、ポンプピストン13は、ポンプシリンダ11の切欠部12内での燃料の圧縮に用いられ、ここでポンプシリンダ11の切欠部12内でポンプピストン13を介して圧縮された燃料は、ポンプシリンダ11の高圧孔部32を介して、コモンレール燃料システムの高圧領域への方向に搬送することができる。
【0018】
この種の燃料ポンプ10は、燃料により潤滑され、場合により冷却され、したがって、それによれば、ポンプシリンダ11の切欠部12内で可動に案内されるポンプピストン13の潤滑および場合により冷却のために燃料が用いられる。とりわけ燃料ポンプ10が燃料として重油を吸引し、圧縮する場合には、ポンプピストン13の潤滑にも用いられる重油が、カム14の領域でこのカムの潤滑のために使用され、駆動バネ15の周囲領域へ、ひいてはポンプシリンダ11から突出するポンプピストン13の部分の領域へと広がる潤滑剤と反応する危険性が存在する。そして、この場合に燃料とカム14の領域で使用される潤滑剤との反応生成物は、いわゆるワニスとしてポンプピストン13の領域に、および/またはポンプピストン13のストローク運動の結果、ポンプシリンダ11の切欠部12の領域に堆積することがあり、このワニスは、ポンプピストン13とポンプシリンダ11との間の案内クリアランスを低減する。案内クリアランスが減少すると、ポンプピストン13のピストン焼き付けを引き起こし得る。そして、本発明は、ポンプピストン13および/またはポンプシリンダ11におけるワニス形成の危険性を低減することができ、ポンプシリンダ11の切欠部12の領域でのポンプピストン13の最適の案内が保証される燃料ポンプ10の詳細に関するものである。
【0019】
すでに述べたように、ポンプシリンダ11の切欠部12内で可動に案内されるポンプピストン13の潤滑および場合により冷却のために燃料が用いられる。ポンプシリンダ11の切欠部12の領域には、複数のインレット溝17、18と1つのアウトレット溝19が、ポンプピストン13の潤滑および場合により冷却に用いられる燃料のために形成されている。すなわち、上方インレット溝17、下方アウトレット溝19、および上方インレット溝17と下方アウトレット溝19との間に位置決めされた中央インレット溝18が形成されている。したがって軸方向に、すなわちポンプピストン13の運動方向で見て、中央インレット溝18は上方インレット溝17と下方アウトレット溝19との間に位置決めされている。
【0020】
上方インレット溝17は、少なくとも1つの上方インレット孔部20を介して第1の圧力レベルに、中央インレット溝18は、少なくとも1つの中央インレット孔部21を介して第1の圧力レベルに、とりわけコモンレール燃料システムの低圧領域に連通されており、これに対して、下方アウトレット溝19は、少なくとも1つのアウトレット孔部22を介して第2の圧力レベルに、とりわけ周囲圧レベルに連通されている。したがって、インレット孔部20、21を介して、すなわち2つのインレット溝17、18を介して、潤滑および場合により冷却に用いられる燃料をシリンダピストン13への方向に搬送することができる。ここでは、アウトレット溝19および当該アウトレット溝19と共同作用する1つのまたは各アウトレット孔部22を介して、潤滑および場合により冷却に使用された燃料をポンプピストン13から排出することができる。下方アウトレット溝19の上方エッジ23と中央インレット溝18の下方エッジ24との間には、ポンプピストン13のための第1の案内ウェブ25が形成されており、中央インレット溝18の上方エッジ26と上方インレット溝17の下方エッジ27との間には、ポンプピストン13のためのさらなる案内ウェブ28が形成されている。中央インレット溝18の溝の高さBを介して、2つの案内ウェブ25及び28間の軸方向の間隔を調整することができる。
【0021】
好ましくは、中央インレット溝18は、ポンプピストン13のピストンストロークAよりも大きな軸方向の溝の高さBを特徴とする。
【0022】
とりわけ中央インレット溝18の軸方向の溝の高さBに対しては、式B>A−C1が当てはまり、ここで、Aは駆動カム14により決定されるポンプピストン13のピストンストロークであり、C1は下方アウトレット溝19の上方エッジ23と中央インレット溝の下方エッジ24との間の軸方向の間隔、すなわち下方案内ウェブ25の軸方向の高さである。
【0023】
図1から分かるように、下方アウトレット溝22の下方ではポンプシリンダ11の切欠部12の領域に溝29が形成されており、この溝の中にスクレーパエレメント30が収容されている。ピストンシリンダ11の溝29の中に収容されているスクレーパエレメント30は、好ましくはスクレーパリングであり、規定の接触点31でポンプピストン13に当接する。
【0024】
とりわけ中央インレット溝18の軸方向の溝の高さBに対しては、式B>A−C1−Dが当てはまり、ここで、Aはポンプピストン13のピストンストロークであり、C1は下方アウトレット溝19の上方エッジ23から中央インレット溝18の下方エッジ24までの軸方向の間隔であり、Dは下方アウトレット溝19の上方エッジ23とスクレーパエレメント30の接触点31との間の軸方向の間隔である。
【0025】
中央インレット溝18の軸方向の溝の高さBの上記構成により、上方インレット溝17を中央インレット溝18から分離する上方案内ウェブ28の領域に、ポンプピストン13に対する案内クリアランスを低減するワニスが形成され得るということを確実に回避することができる。
【0026】
すでに上に述べたように、好ましくはコモンレール燃料システムの高圧燃料ポンプとして形成された燃料ポンプの2つのインレット溝17、18は、それらのインレット孔部20、21を介して1つの同じ圧力レベルに連通されており、とりわけコモンレール燃料システムの低圧領域の圧力レベルに連通されている。ここで、低圧領域の圧力レベルは、周囲圧よりも上にあり、低圧燃料ポンプを介して調整される。ポンプシリンダ11の切欠部12の、燃料がポンプピストン13により圧縮される部分と上方インレット溝17との間で生じる燃料ポンプ内部の燃料漏れのため、およびこの漏れの結果として伝播する圧力波のため、上方インレット溝17内には、システムに起因して、中央インレット溝18内よりも高い圧力が存在する。これにより、上方インレット溝17から発して中央インレット溝18の中へ、上方インレット溝17を中央インレット溝18から分離する案内ウェブ28を介して燃料が搬送される。
【0027】
上方インレット溝17と中央インレット溝18との間のこの圧力落差は、中央インレット溝18に至るインレット孔部21が少なくとも部分的に、上方インレット溝17に至るインレット孔部20よりも小さな横断面を有することにより、すなわち中央インレット溝18に至るインレット孔部21を絞らないことにより高めることができる。そして、これにより、上方インレット溝17と中央インレット溝18との間の圧力落差を高めることができ、ひいては潤滑および場合により冷却に用いられる燃料を、上方インレット溝17から発して中央インレット溝18の中へ、中央インレット溝18を上方インレット溝17から分離する上方案内ウェブ28を介して搬送することを促進することができる。
【0028】
下方アウトレット溝19の領域では中央インレット溝18の領域よりも常に低い圧力レベルが存在するため、中央インレット溝18を下方アウトレット溝19から分離する下方案内ウェブ25の領域を介して常に十分な燃料の流れを調整することができる。
【0029】
中央インレット溝18から発して下方アウトレット溝19の中に入る燃料の搬送は、図1に示すように、中央インレット溝18に至るインレット孔部21が中央インレット溝18の下方領域に開口することによって、すなわち中央インレット溝18を下方アウトレット溝19から分離する下方案内ウェブ25に直接隣接して、またはこれに対して面一に開口することによって改善することができる。
【0030】
本発明の燃料ポンプ10の上記構成の結果、ポンプピストン13およびポンプシリンダ11の領域におけるワニス形成の危険性が低減される。案内ウェブ25及び28を介して、形成される圧力落差の結果、潤滑および場合により冷却に使用される燃料の十分な燃料搬送が常に保証される。中央インレット溝18の軸方向の溝の高さBを寸法設定することにより、ポンプピストン13のストローク運動があってもカム14の領域で使用された潤滑剤が、上方インレット溝17を中央インレット溝18から分離する上方案内ウェブ28の領域に達しないことが保証される。したがって、上方案内ウェブ28のこの領域には、ワニス形成の危険性が発生しない。中央インレット溝18を下方アウトレット溝19から分離する下方案内ウェブ25の領域には、確かにポンプピストン13のストローク運動によってカム14の領域で使用された潤滑剤が達することがあるが、しかしながら、中央インレット溝18と下方アウトレット溝19との間に大きな圧力差があることにより、下方案内ウェブ25の領域でのワニス形成を阻止するような、下方案内ウェブ25を介した大きい燃料の流れが存在する。
【0031】
2つの案内ウェブ25、28により、ポンプピストン13に対してそのストローク運動に沿った案内長が保証され、この案内長はピストン焼き付きの危険性をさらに低減する。ポンプピストン13に対するそのストローク運動の際の案内長は、2つの案内ウェブ25、28の間隔に依存し、すなわち中央インレット溝18の軸方向の溝の深さBに依存する。
【0032】
中央インレット溝18の半径方向の溝の深さは、必要に応じて、相反する過程に影響を与えるために利用することができる。例えば比較的小さな半径方向の溝の深さが中央インレット溝18に調整される場合には、燃料の流量が高められ、これにより、中央インレット溝18の領域におけるワニス形成の危険性が低減され得る。中央インレット溝18の半径方向の溝の深さが比較的大きい場合、この中央インレット溝の領域でのワニス形成の危険性は確かに高まるが、しかしながらワニス層は、中央インレット溝18の領域での案内クリアランスの危機的な低減が予期される前により厚くなって欠落することができる。
【0033】
2つの案内ウェブ25、28は、それらの領域におけるワニス形成の危険性を低減するために比較的短い軸方向の長さを有する。2つの案内ウェブ25、28が比較的短い軸方向の長さを有することにより、ポンプピストン13および/または案内ウェブ25、28にワニスが形成される場合であっても、燃料ポンプ10の機能性が維持される。なぜならこの場合でも、面積の小さな案内ウェブ25、28におけるポンプピストン13の付着力は、駆動バネ15の復帰力と比較して小さいからである。したがって案内ウェブ25、28の面積は好ましくは、ワニス形成の際に生じる付着力であって、案内ウェブ25、28の面積に依存する当該案内ウェブでのポンプピストン13の付着力が、駆動バネ15の復帰力よりも小さくなるように寸法設定されている。互いに軸方向の間隔を備える複数の案内ウェブ25、28が存在することにより、ポンプピストン13に対して比較的大きな軸方向の案内長が保証され、これにより、とりわけ燃料の圧縮中または搬送中でのポンプピストンの最適の案内が保証される。全体として本発明により、燃料潤滑される燃料ポンプ、とりわけ重油により駆動される船舶ディーゼル内燃機関のコモンレール燃料システムの高圧燃料ポンプとして使用される燃料ポンプにおけるワニス形成の危険性、ひいてはピストン焼き付きの危険性を低減することができる。したがって全体的に本発明による燃料ポンプは、従来技術から公知の燃料ポンプよりも比較的長い寿命を有する。
【符号の説明】
【0034】
10 燃料ポンプ
11 ポンプシリンダ
12 切欠部
13 ポンプピストン
14 駆動カム
15 駆動バネ
16 支持エレメント
17 インレット溝
18 インレット溝
19 アウトレット溝
20 インレット孔部
21 インレット孔部
22 アウトレット孔部
23 エッジ
24 エッジ
25 案内ウェブ
26 エッジ
27 エッジ
28 案内ウェブ
29 溝
30 スクレーパエレメント
31 接触点
32 高圧孔部
図1