(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
得られる微小酸化マグネシウム中空粒子が、中空室を有する殻を有し、殻の厚みが平均粒子径の1.6〜20.7%、中空率が20〜90%の微小酸化マグネシウム中空粒子である請求項1又は2記載の製造法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エマルジョン法や樹脂テンプレート法では、操作が複雑であり、単位時間あたりの生産量が少なく工業生産に適さないという欠点があった。一方、噴霧熱分解法は、樹脂等のテンプレートを用いない優れた方法であるが、特許文献5によれば酸化マグネシウム中空粒子を製造するには、1500〜1650℃という高温条件が必要とされており、電気炉設備の制約があり、安価に製造することはできなかった。また、高温条件にて噴霧すると、急激な加熱によって、中空粒子が割れやすくなるという課題があった。
【0006】
従って、本発明の課題は、低温かつ通常の設備で品質の良い酸化マグネシウム中空粒子の製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、酸化マグネシウム中空粒子の製造条件について種々検討した結果、原料として有機酸マグネシウム塩溶液を用い、これを特定の温度条件で乾燥及び熱分解する噴霧熱分解処理すれば、最高温度1200℃以下の条件で効率良く、安定して微小酸化マグネシウム中空粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔3〕を提供するものである。
【0009】
〔1〕有機酸マグネシウム塩溶液の液滴を、100〜450℃の乾燥温度ゾーン及び450〜1200℃以上の熱分解ゾーンを通過させる噴霧熱分解処理することを特徴とする微小酸化マグネシウム中空粒子の製造法。
〔2〕得られる微小酸化マグネシウム中空粒子が、平均円形度0.85以上、平均粒子径0.5μm〜20μmの微小酸化マグネシウム中空粒子である〔1〕記載の製造法。
〔3〕得られる微小酸化マグネシウム中空粒子が、中空室を有する殻を有し、殻の厚みが平均粒子径の1.6〜20.7%、中空率が20〜90%の微小酸化マグネシウム中空粒子である〔1〕又は〔2〕に記載の製造法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によれば、低温条件で、特別な設備を必要とせずに、真球度が高く、平均粒子径が小さく、品質の安定した酸化マグネシウム中空粒子が安定して、かつ効率良く得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の微小酸化マグネシウム中空粒子の製造法は、原料として有機酸マグネシウム塩溶液を用い、その液滴を、100〜450℃の乾燥温度ゾーン及び450〜1200℃の熱分解ゾーンを通過させる噴霧熱分解処理することを特徴とする。
【0013】
原料として用いられる有機酸マグネシウム塩としては、酢酸マグネシウム、プロピオン酸マグネシウム等の有機カルボン酸マグネシウム塩が挙げられる。ここで有機酸としては、有機カルボン酸、特に脂肪酸が好ましく、C
1−C
36脂肪酸がより好ましい。有機酸マグネシウム塩溶液としては、有機酸マグネシウム塩水溶液が好ましい。
硫酸マグネシウム塩のような無機酸マグネシウムは、分解温度が高い。
【0014】
有機酸マグネシウム塩溶液における有機酸マグネシウム塩濃度は、0.01〜2.0mol/Lが好ましく、0.1〜2.0mol/Lがより好ましい。
【0015】
有機酸マグネシウム塩溶液は、スプレーノズル、特に2流体ノズルで噴霧するのが、粒子径の調整、生産性の点で好ましい。ここで2流体ノズルの方式には、空気と有機酸マグネシウム塩溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で空気と有機酸マグネシウム塩溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。
【0016】
噴霧されたミスト(液滴)は、100〜450℃の乾燥ゾーン、次いで450〜1200℃の熱分解ゾーンを通過させることにより、熱分解され、酸化マグネシウム中空粒子となる。乾燥ゾーンの温度が100℃未満では速やかな乾燥ができず、450℃を超えると、水分の蒸発、外殻の析出反応が同時に起こるため、粒子が割れやすくなる。乾燥ゾーンの温度は、中空性を保つ点、割れを防ぐ点から150〜450℃が好ましく、200〜450℃がより好ましい。この乾燥ゾーンによりミストの外側が、乾燥されて有機酸マグネシウムの膜を形成し、それを起点に内部液が乾燥されるため、粒子が中空形状に形成される。
【0017】
熱分解ゾーンの温度は、有機酸マグネシウムを酸化マグネシウムに熱分解し、かつ酸化マグネシウムを分解させず、効率良く中空粒子を得る点から450〜1200℃が好ましく、500〜1200℃がより好ましく、600〜1200℃がさらに好ましい。熱分解ゾーンの温度が450℃未満では十分な熱分解反応が起こらず、1200℃を超えると、急激な加熱によって、中空体が破裂する。この熱分解ゾーンでは、高温で一気に熱分解反応を進めることで乾燥ゾーンにて形成された中空構造を強固にすることにより、中空室を区画する殻を有する酸化マグネシウム中空粒子であって、殻の厚さの薄い中空粒子が得られる。
【0018】
得られた酸化マグネシウム中空粒子は、冷却後、フィルターを通過させることにより、粒子径の調整をすることができる。
【0019】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子は、平均円形度が0.85以上、平均粒子径が0.5μm〜20μmであるのが好ましい。
【0020】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子の形状は、ほぼ球状であり、好ましくは平均円形度が0.85以上であり、より好ましい平均円形度は0.90以上である。
【0021】
ここで、円形度は、走査型電子顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定し、周囲長(PM)に対する真円の面積を(B)とすると、その粒子の円形度はA/Bとして表される。そこで、試料粒子の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の周囲長および面積は、それぞれPM=2πr、B=πr
2であるから、B=π×(PM/2π)
2となり、この粒子の円形度は、円形度=A/B=A×4π/(PM)
2として算出される。100個の粒子について円形度を測定し、その平均値でもって平均円形度とする。
【0022】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子の平均粒子径は、0.5μm〜20μmが好ましく、より好ましくは1μm〜20μmであり、さらに好ましくは1μm〜15μmであり、さらに好ましくは2μm〜12μmであり、さらに好ましくは3μm〜10μmである。平均粒子径が0.5μm未満の中空粒子は、超音波照射等の特殊な装置の使用を必要とし、20μmを超える場合は一部が不完全な真球となることがあり、好ましくない。なお、平均粒子径の調整は、噴霧に使用する流体ノズルの直径の調節によって行うことができる。ここで粒子径は、電子顕微鏡の解析によって測定でき、その平均は、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」、レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えばマイクロトラック(日機装株式会社製)などによって計算できる。
【0023】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子の粒子径分布(粒度分布)は、せまい程好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±5.0μmにあるのが好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±4.5μmにあるのがより好ましく、粒子の80%以上が平均粒子径の±4.0μmにあるのがさらに好ましい。
【0024】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子は、中空室を有する殻を有し、殻の厚みが平均粒子径の1.6〜20.7%であるのが好ましい。また中空率が20〜90%であるのが好ましい。中空室を有する中空粒子であることは、SEM像及びTEM像から確認できる。
殻の厚みは、強度、軽量化及び熱伝導率等の点から平均粒子径の1.6〜20.7%が好ましく、3.6〜20.7%がより好ましく、3.6〜16.4%がさらに好ましい。また、中空率は、20〜90%が好ましく、20〜80%がより好ましく、30〜80%がさらに好ましい。殻の厚みはSEM像及びTEM像から測定できる。50個の粒子について殻の厚みを測定し、その平均値をもって殻の厚みとした。中空率は以下の様に算出する。粒子および粒子内の空隙を真球と仮定する。粒子径を(A)、SEM像及びTEM像から求めた殻の厚みを(B)とすると、その粒子の空隙の半径はA/2−Bとして表される。試料粒子と同一の体積を持つ真円の体積は、V
1=4/3×π×(A/2)
3である。また空隙の体積はV
2=4/3×π×(A/2−B)
3となり、この粒子の中空率は、中空率=V
2/V
1×100として計算できる。
【0025】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子のかさ密度は、0.01〜0.4g/cm
3であるのが好ましく、0.02〜0.4g/cm
3であるのがより好ましく、0.03〜0.4g/cm
3であるのがさらに好ましい。かさ密度は、JIS R 1628「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」の測定方法、パウダーテスタ(ホソカワミクロン社製)などの粉体力学特性測定装置により測定できる。
【0026】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子のみかけ密度は、0.36〜2.92g/cm
3であるのが好ましく、0.73〜2.92g/cm
3であるのがより好ましく、0.73〜2.56g/cm
3であるのがさらに好ましい。みかけ密度は、JIS R 1620「ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」、アキュピック(株式会社島津製作所製)の乾式自動密度計などにより測定できる。
【0027】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子は、圧縮強度が0.3〜150MPaであるのが好ましく、1〜150MPaであるのがより好ましく、3〜150MPaであるのがさらに好ましい。圧縮強度は、微小圧縮試験機MCT−510(株式会社島津製作所製)により測定することができる。
【0028】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子のBET比表面積は、0.6〜5m
2/gであるのが好ましく、0.7〜5m
2/gがより好ましく、0.7〜2.6m
2/gがさらに好ましい。BET比表面積は、JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」、フローソープII 2300(株式会社島津製作所製)BET比表面積測定計などにより測定できる。
【0029】
本発明方法により得られる微小酸化マグネシウム中空粒子は、中空真球状であるから、フィルムやシートへの充填性が良好であり、軽量化達成できる。また熱伝導率が低いことから断熱性、遮熱性等の特性も付与できる。
【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0031】
実施例1
蒸留水1リットルに酢酸マグネシウム0.1モルを溶解した、酢酸マグネシウム水溶液を噴霧熱分解装置の溶液タンクに投入した。投入された水溶液を送液ポンプにより、2流体ノズルを介してミスト状に噴霧し、乾燥ゾーン(約400℃)、次いで熱分解ゾーン(約1000℃)を通過させた。バグフィルターを用いて酸化マグネシウム中空粒子を回収した。
【0032】
乾燥ゾーン400℃と熱分解ゾーン1000℃の温度条件で得られた酸化マグネシウム中空粒子の特性を表1に示す。また、SEM像を
図1に、XRDを
図2に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例2および3
実施例1で調製した0.1mol/Lの酢酸マグネシウム水溶液を二流体ノズルで噴霧し、温度を変えた乾燥ゾーン、熱分解ゾーンを通過させ、バグフィルターを用いて酸化マグネシウムを回収した。
実施例2は、乾燥ゾーン400℃、熱分解ゾーン600℃、また実施例3は、乾燥ゾーン400℃、熱分解ゾーン800℃とした。
乾燥ゾーンを400℃、熱分解ゾーンを600℃として実施例1と同様にして噴霧熱分解して得られた酸化マグネシウム中空粒子のXRDを
図3に示す。また、乾燥ゾーンを400℃、熱分解ゾーンを800℃として噴霧熱分解して得られた酸化マグネシウム中空粒子のXRDを
図4に示す。
図3及び
図4より、乾燥ゾーン400℃、熱分解ゾーン600〜800℃の噴霧熱分解でも、酸化マグネシウム中空粒子が得られた。
【0035】
比較例1
乾燥ゾーンを400℃、熱分解ゾーンを400℃として実施例1と同様に噴霧熱分解を行った。得られた粒子のXRDを
図5に示す。
図5より、酸化マグネシウムだけでなく炭酸マグネシウムが生成していた。