【文献】
VOSMANN, K. et al,Applied Microbiology and Biotechnology, Springer,Belin, De,,2008年,Vol.80,pp.29-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
不活性ガスが、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノンおよびクリプトンからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
金属触媒が、チタン系触媒、スズ系触媒、アンチモン系触媒、およびジルコニウム系触媒からなる群から選択される1種以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルは、水酸基と疎水基を有する構造を有し、その構造的特徴から、可塑剤、相溶化剤、界面活性剤などの用途が提案されている。
【0003】
一般的に化合物のエステル化は、原料カルボン酸とアルコールとを、硫酸等のプロトン酸触媒の存在下で反応させ、得られた反応液から触媒と未反応のカルボン酸を除去し、必要により晶析や蒸留などの精製を行うことによって製造する方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
4−ヒドロキシ安息香酸のエステル化に関しても、炭素原子数1〜6の短鎖アルコールとの反応によって、比較的容易に4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルを得ることが知られている。
【0005】
しかしながら、4−ヒドロキシ安息香酸を、炭素原子数が16以上の長鎖アルコールと反応させて4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを得ようとした場合、同様にプロトン酸触媒の存在下で反応させると、長鎖アルコールが2量化したエーテル体や、長鎖アルコールとプロトン酸触媒との反応による硫酸エステルなどの副生物の生成が避けられないものであった。
【0006】
これらの副生物は、目的物である4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルと類似した物性であるため、晶析や蒸留によって除去することが困難であり、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが得られないという問題があった。
【0007】
そこで本発明者等は、金属触媒の存在下で、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと脂肪族アルコールとを反応させることにより、副生物の生成が抑制された4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの製造方法を提案した(特願2015−93389)。この製造方法は、長鎖アルコールが2量化したエーテル体や、長鎖アルコールとプロトン酸触媒との反応による硫酸エステルなどの生成が抑制され、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを高収率で得られるという利点を有する。
【0008】
しかし、上記製造方法について工業的にスケールアップを図った場合、反応性が低下し、目的物の収率が減少するため、スケールアップに際して反応条件の見直しや更なる改良が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、出発原料である式(1)で表される4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルは、4−ヒドロキシ安息香酸と、直鎖または分岐を有していてもよい炭素原子数1〜11のアルコールとのエステル体である。
【0017】
式(1)で表される4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルの具体例としては、4−ヒドロキシ安息香酸メチル、4−ヒドロキシ安息香酸エチル、4−ヒドロキシ安息香酸プロピル、4−ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、4−ヒドロキシ安息香酸ブチル、4−ヒドロキシ安息香酸イソブチル、4−ヒドロキシ安息香酸ペンチル、4−ヒドロキシ安息香酸ヘキシル、4−ヒドロキシ安息香酸へプチル、4−ヒドロキシ安息香酸オクチル、4−ヒドロキシ安息香酸ノニル、4−ヒドロキシ安息香酸デシル、4−ヒドロキシ安息香酸ウンデシルおよび4−ヒドロキシ安息香酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0018】
【化4】
(mは1〜11の整数を示す)
【0019】
これらの中でも、入手容易性および反応性に優れる点で、4−ヒドロキシ安息香酸メチル、4−ヒドロキシ安息香酸エチル、4−ヒドロキシ安息香酸プロピル、4−ヒドロキシ安息香酸イソプロピル、4−ヒドロキシ安息香酸ブチルおよび4−ヒドロキシ安息香酸イソブチルが好ましく、特に反応性に優れることから、4−ヒドロキシ安息香酸メチルがより好ましい。
【0020】
本発明に使用される4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルは、市販のものを用いても良く、また、4−ヒドロキシ安息香酸と炭素原子数1〜11の脂肪族アルコールとを、プロトン酸触媒の存在下で反応させる一般的なエステル化反応によって得られたものを用いてもよい。
【0021】
本発明に使用される脂肪族アルコールは、式(2):
【化5】
(nは15〜23の整数を示す)
で表される炭素原子数16〜24の脂肪族アルコールである。その具体例としては、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、イコサノール、ヘンイコサノール、ドコサノール、トリコサノールおよびテトラコサノールからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0022】
本発明に使用される脂肪族アルコールは、市販のものを用いてもよく、また当業者に知られた方法で製造したものを用いてもよい。
【0023】
本発明に使用される脂肪族アルコールは、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステル1モルに対し、0.1〜3モル、好ましくは0.5〜1.5モル、より好ましくは0.8〜1.2モル、特に好ましくは0.9〜0.98モル反応させるのがよい。
【0024】
4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステル1モルに対し、脂肪族アルコールの量が0.1モルを下回る場合、副反応を生じ易くなる傾向があるとともに、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルが過剰となり原料の無駄となる。脂肪族アルコールの量が3モルを上回る場合、過剰量の脂肪族アルコールが残存し、純度が低下する傾向がある。
【0025】
本発明においては、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと炭素原子数16〜24の脂肪族アルコールとの反応に際し、金属触媒を存在させることによって、長鎖アルコールの2量化エーテル体や、長鎖アルコールと触媒との反応による硫酸エステルなどの副生物の生成を抑止し、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを得ることができる。
【0026】
本発明に使用される金属触媒としては、チタン系触媒、スズ系触媒、アンチモン系触媒およびジルコニウム系触媒からなる群から選択される1種以上が挙げられるが、入手容易性および反応性に優れる点で、チタン系触媒が好適に使用される。
【0027】
チタン系触媒の具体例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラ2−エチルヘキソキシチタンおよびテトラオクタデソキシチタンが挙げられる。反応性および入手容易性に優れる点で、テトライソプロポキシチタンが好ましい。
【0028】
スズ系触媒の具体例としては、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシド、ジブチルスズラウレート、ジオクチルスズラウレートおよびジブチルジイソプロポキシスズが挙げられるが、反応性および入手容易性に優れる点で、モノブチルスズオキシドおよびジブチルスズオキシドが好ましい。
【0029】
アンチモン系触媒の具体例としては、酢酸アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、トリメトキシアンチモン、トリエトキシアンチモン、トリn−プロポキシアンチモンおよびトリフェニルアンチモン等が挙げられるが、反応性および入手容易性に優れる点で、酢酸アンチモンが好ましい。
【0030】
ジルコニウム系触媒の具体例としては、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラn−プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラn−ブトキシジルコニウム、テトライソブトキシジルコニウム、テトラ2−エチルヘキソキシジルコニウム、テトラオクタデソキシジルコニウムおよび酢酸酸化ジルコニウムが挙げられるが、反応性および入手容易性に優れる点で、テトラn−ブトキシジルコニウムが好ましい。
【0031】
これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明に使用される金属触媒の量は、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステル100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜7重量部、より好ましくは1〜5重量部であるのが良い。
【0033】
4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステル100重量部に対し、金属触媒の量が0.1重量部を下回る場合、反応が十分進行しない傾向がある。金属触媒の量が10重量部を上回る場合、脂肪族アルコールの2量化エーテル体等の副生物が生成する傾向があるとともに、経済的にも不利となる。
【0034】
4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと、炭素原子数16〜24の脂肪族アルコールとの反応は、120〜200℃の温度下で行うのが好ましく、150〜180℃の温度下で行うのがより好ましい。反応温度が120℃を下回る場合、反応が十分に進行しない傾向があり、反応温度が200℃を上回る場合、副生物が生成する傾向があるとともに、エネルギーの損失となる。
【0035】
反応時間は、反応温度等の条件によって変動するため特に限定されないが、1〜20時間、好ましくは3〜15時間、より好ましくは5〜10時間の間で適宜選択される。
【0036】
本発明において、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと炭素原子数16〜24の脂肪族アルコールとの反応は、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと脂肪族アルコールの合計量1g当たり、0.10〜0.50mL/minの流量の不活性ガス気流下で行われる。
【0037】
不活性ガスとしては、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと脂肪族アルコールとの反応を阻害しないガスであればよく、具体的には、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノンおよびクリプトンからなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中で、入手容易性および経済性に優れる点で、窒素が好ましい。
【0038】
反応系内における不活性ガスの流量は、好ましくは0.15〜0.45mL/minであり、より好ましくは0.20〜0.40mL/minであるのがよい。不活性ガスの流量が0.10mL/minを下回る場合、反応性が低下する傾向にあり、0.50mL/minを上回る場合、副生物の生成が増加する傾向がある。4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルおよび脂肪族アルコールの合計の量に応じて不活性ガスの流量を調節することによって、反応をより効率的に行うことができる。
【0039】
不活性ガスは、原料である4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルおよび脂肪族アルコールを収容する反応容器の反応液上部の空間部に吹き込んでもよく、あるいは、反応液中に直接吹き付けてもよい。
【0040】
本発明において、反応系に吹き込む不活性ガスの流量を、反応原料である4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルおよび脂肪族アルコールの合計量(g)を基準にして設定することにより、小スケールの反応容器であっても、工業的にスケールアップした反応設備であっても、適正流量の不活性ガスの存在下で反応させることが可能となる。
【0041】
すなわち、反応容器の容量や反応系の規模が変更された場合であっても、反応性が低下することなく、高収率で4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを得ることができる。
【0042】
かかるエステル交換反応により得られた反応液を分液、再結晶、分取操作等の公知の方法により分離し、回収することにより、式(3):
【化6】
(式中、nは15〜23の整数を示す。)
で表される4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが得られる。
【0043】
具体的には、式(3)で表される4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルとしては、4−ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、4−ヒドロキシ安息香酸へプタデシル、4−ヒドロキシ安息香酸オクタデシル、4−ヒドロキシ安息香酸ノナデシル、4−ヒドロキシ安息香酸イコシル、4−ヒドロキシ安息香酸ヘンイコシル、4−ヒドロキシ安息香酸ドコシル、4−ヒドロキシ安息香酸トリコシルおよび4−ヒドロキシ安息香酸テトラコシルが挙げられる。
【0044】
このようにして、副生物の生成が抑制された高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが得られるが、さらに高純度化するために、得られた4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを精製操作に供することができる。精製方法としては、特に限定されないが、例えば得られた4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを溶融した後、あるいは非水溶性溶媒で希釈した後、水またはアルカリ水で抽出する方法、および得られた生成物を固化し、水またはアルカリ水で懸濁洗浄する方法等が挙げられる。これらの精製方法は、単独または組み合わせて行うことができる。
【0045】
本発明では、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと脂肪族アルコールとのエステル交換反応により得られた反応液中に残存する金属触媒を除去した後、精製するのが好ましい。この場合、触媒除去および精製は、特に限定されないが、4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルと脂肪族アルコールとの反応によって得られた反応液に酸水溶液を添加して有機層と水層に分離した後、有機層を抽出する工程、および抽出した有機層に有機溶媒を添加して晶析する工程によって行うことができる。
【0046】
反応液に酸水溶液を添加して有機層と水層に分離した後、有機層を抽出する工程(以下、抽出工程という)は、具体的には、反応液に酸水溶液を添加した後、攪拌下で加熱して反応液中の有機物を溶融し、攪拌を継続することによって触媒を失活させる。その後、反応系を静置して有機層と水層に分離し、有機層を回収することにより行われる。
【0047】
抽出工程において酸水溶液に用いる溶媒は、水と低級アルコールとの混合物が好ましい。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノールおよび2−プロパノールからなる群から選択される1種以上が挙げられ、これらの中でも、収率および経済性に優れる点でメタノールが好ましく使用される。
【0048】
水と低級アルコールの重量比(水/低級アルコール)は、用いるアルコールの種類によって変動するため特に限定されないが、5/5〜2/8、好ましくは4/6〜2/8であるのがよい。
【0049】
水と低級アルコールの重量比が5/5を上回る場合、反応液と酸水溶液が乳化し、触媒が十分に除去できない傾向があり、水と低級アルコールの重量比が2/8を下回る場合、反応系全体が均一な溶液となるため、やはり触媒を十分に除去できない傾向がある。
【0050】
酸水溶液に用いる酸は、触媒を不活性化させるものであり、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、カルボン酸およびスルホン酸からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中でも、得られる4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルの色調が改善される点でリン酸が好ましい。
【0051】
酸水溶液に用いる酸の量は、溶媒に対して酸が0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜8重量%、より好ましくは1〜5重量%であるのがよい。
【0052】
酸の量が溶媒に対して0.1重量%を下回る場合、触媒を十分に除去できない傾向があり、10重量%を超える場合、酸が不純物として残存する傾向がある。
【0053】
酸水溶液の量は、原料の4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルに対し、3倍重量以上、好ましくは5倍重量以上とするのが良い。酸水溶液の量が3倍重量を下回る場合、有機層と水層の分液性が悪くなり、触媒を十分に除去できない傾向がある。
【0054】
抽出工程は、反応系内の有機物を溶融させるために、50℃以上、好ましくは60℃以上に加熱し、その温度下で撹拌を継続して触媒を失活させた後、有機層と水層とが十分に分離するまで反応系を静置し、分離した有機層を回収する。
【0055】
抽出工程で回収された有機層は、次いで抽出した有機層に有機溶媒を添加して晶析する工程(以下、晶析工程という)に供される。晶析工程は、有機層に有機溶媒を添加し、加熱して溶解させた後、冷却することによって目的物を晶析させる。析出した結晶を濾過等により固液分離し、洗浄、乾燥することによって、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを得ることができる。
【0056】
晶析工程で使用される有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、N,N’−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ピリジン等のアミド系化合物、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系化合物、クロロホルム、ジクロロメタン等の有機ハロゲン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類が挙げられる。これらの中で、入手容易性および乾燥効率などの工業的生産性に優れる点で、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ヘキサン、ヘプタン、トルエンおよびキシレンが好ましく、収率に優れる点から、メタノールが特に好ましい。
【0057】
晶析工程で使用される有機溶媒の量は、用いる溶媒の種類によって変動するため特に限定されないが、原料の4−ヒドロキシ安息香酸短鎖エステルに対し1〜20倍重量、好ましくは3〜10倍重量、より好ましくは5〜7倍重量が良い。
【0058】
有機溶媒の量が1倍重量を下回る場合、晶析時に撹拌不良が生じる傾向があり、20倍重量を超える場合、収率が低下する傾向があるとともに、経済的にも不利となる。
【0059】
晶析工程は、有機溶媒を添加した後、加熱して有機層中の有機物を完全に溶解させた後、撹拌を継続しながら、ゆっくりと冷却して晶析させることにより行われる。
【0060】
晶析の際に過飽和現象が生じた場合は、種結晶を適宜添加して結晶化を促進させても良い。
【0061】
晶析工程によって析出した結晶は濾過等の常套手段により固液分離し、目的物である4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを回収する。固液分離に際し、適宜有機溶媒を注いで結晶を洗浄するのが好ましい。固液分離の際に用いる有機溶媒としては、晶析工程で使用される有機溶媒と同様のものが使用される。
【0062】
固液分離によって回収された結晶は、減圧下、50℃以下の温度下で結晶状態のまま乾燥するか、あるいは50℃以上に加熱して結晶を溶融させた後、溶媒を留去することによって、高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを得ることができる。
【0063】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
[転化率および残存率]
脂肪族アルコールの仕込量に対する各成分の生成量のモル比を転化率とした。また、各出発物質の仕込量に対する残存量のモル比を残存率とした。
【0065】
各成分の生成量および出発物質の残存量は、以下の条件にて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)による定量分析により求めた。
【0066】
[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)]
装置: Waters アライアンス 2487/2996
カラム型番: L−Column
液量: 1.0mL/min
溶媒比: H
2O(pH2.3)/CH
3OH=58/42(30min)→5min→10/90(55min)、グラジエント分析
波長: 229nm/254nm
カラム温度: 40℃
【0067】
[ガスクロマトグラフィー(GC)]
装置: 株式会社島津製作所製GC−2014/GC−14A
カラム型番: G−100
注入量: 1.0μL
オーブン温度: 310℃
キャリアガス: ヘリウム
検出器: FID
【0068】
実施例1
撹拌機、温度センサーおよびディーンスターク装置を備えた2Lの4つ口フラスコ(反応容器)に、ヘキサデカノール(CeOH)185gを加え、窒素気流下、70℃まで昇温し溶融させた。次いで、4−ヒドロキシ安息香酸メチル(MOB)129g、および触媒としてテトライソプロポキシチタン6.5gを加え、1時間かけて150℃まで昇温し、同温度で8時間反応させた。この間、反応容器内の窒素流量は50mL/min(MOBとCeOHの合計量1g当たり0.16mL/min)に設定した。
得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)にて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0069】
実施例2
窒素流量を65mL/min(MOBとCeOHの合計量1g当たり0.20mL/min)としたこと以外は、実施例1と同様にして反応液を得た。得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)にて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0070】
実施例3
窒素流量を97mL/min(MOBとCeOHの合計量1g当たり0.30mL/min)としたこと以外は、実施例1と同様にして反応液を得た。得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)にて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0071】
比較例1
窒素流量を16mL/min(MOBとCeOHの合計量1g当たり0.05mL/min)としたこと以外は、実施例1と同様にして反応液を得た。得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)にて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0072】
実施例4
撹拌機、温度センサーおよびディーンスターク装置を備えた2Lの4つ口フラスコ(反応容器)に、ヘキサデカノール(CeOH)832gを加え、窒素気流下、70℃まで昇温し溶融させた。次いで、4−ヒドロキシ安息香酸メチル(MOB)580g、および触媒としてテトライソプロポキシチタン29.2gを加え、1時間かけて150℃まで昇温し、同温度で8時間反応させた。この間、反応容器内の窒素流量は429mL/min(MOBとCeOHの合計量1g当たり0.30mL/min)に設定した。
得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)にて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0073】
実施例5
反応容器として5Lの4つ口フラスコを用いた以外は、実施例4と同様にして反応液を得た。得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)にて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0074】
比較例2
窒素流量を71mL/min(MOBとCeOHの合計量1g当たり0.05mL/min)としたこと以外は、実施例4と同様にして反応液を得た。得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)にて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0075】
比較例3
窒素流量を923mL/min(MOBとCeOHの合計量1g当たり0.65mL/min)としたこと以外は、実施例4と同様にして反応液を得た。得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびガスクロマトグラフィー(GC)にて定量分析を行った。結果を表1に記す。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例6
撹拌機、温度センサーおよび冷却管を備え、底部にコック付きの排出口を2Lの底抜き4つ口フラスコに、水387g、メタノール903gおよび85重量%リン酸15gの混合溶液を仕込んだ。次いで、実施例1で得られた反応液306gを110℃まで冷却した後、混合溶液に加えた。溶液を60℃まで昇温して溶融させた後、同温度で1時間撹拌し、撹拌を停止して同温度で1時間静置することにより有機層と水層に分離し、下層の有機層を底部の排出口から回収した。
回収した有機層にメタノール710gを加え、再度60℃まで昇温して溶解させた後、15℃まで冷却して晶析させた。晶析で得られた固形物を濾別によって取り出し、メタノール240gで洗浄した後、45℃、10mmHgの条件で乾燥させて、結晶207gを得た。
【0078】
得られた結晶を、HPLCおよびGCにて定量分析を行ったところ、純度99.4重量%であり、MOBは検出されず、CeOH0.2重量%、チタン含有量1.2ppmであり、収率は74.3%となった。
【0079】
比較例4
反応液を比較例1で得られた反応液に変更したこと以外は、実施例6と同様にして結晶を得た。得られた結晶は158gであった。得られた結晶を、HPLCおよびGCにて定量分析を行ったところ、純度98.4重量%であり、MOB0.1重量%、CeOH1.4重量%、チタン含有量1.1ppmであり、収率は56.0%となった。
【0080】
このように、本発明によれば、4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルを高収率で得ることができ、スケールアップした場合においても反応性が低下しないことがわかる。また、反応液中の金属触媒を除去し、精製操作を行うことで、さらに高純度の4−ヒドロキシ安息香酸長鎖エステルが高収率で得られることが理解される。