特許第6605358号(P6605358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605358
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】鉄筋構造
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/01 20060101AFI20191031BHJP
   E04B 1/21 20060101ALI20191031BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   E04C5/01
   E04B1/21 B
   E04B1/58 504A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-38952(P2016-38952)
(22)【出願日】2016年3月1日
(65)【公開番号】特開2017-155467(P2017-155467A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 義行
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−224533(JP,A)
【文献】 特開2014−114603(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3147699(JP,U)
【文献】 特開2015−014097(JP,A)
【文献】 特開2015−014096(JP,A)
【文献】 特開平01−244040(JP,A)
【文献】 中国実用新案第204163283(CN,U)
【文献】 中国特許出願公開第101503890(CN,A)
【文献】 韓国登録特許第10−0946274(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/01
E04B 1/21
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱部と、梁部と、前記柱部及び前記梁部を接合する柱梁接合部とを備えた鉄筋コンクリート造に用いられ、
前記梁部と前記柱部の一方に配置される第一主筋と、前記第一主筋に端部が接続される継手金物と、前記継手金物に端部が接続され少なくとも一部が前記柱梁接合部に配置される第二主筋とを備え、
前記第一主筋は、普通強度部分と、前記普通強度部分に一体形成され前記普通強度部分よりも強度が大きい高強度部分とを有し、
前記第二主筋は、前記普通強度部分より強度が大きい高強度鉄筋を折り曲げて形成され、かつ、前記継手金物と先端が接続された一辺部と、前記一辺部に対して交差する方向に延びる他辺部とを備えたL型鉄筋であり、
前記継手金物は、前記第一主筋の高強度部分と前記第二主筋の一辺部とを連結し、
前記普通強度部分と前記高強度部分との境界部分が降伏ヒンジ位置にある
ことを特徴とする鉄筋構造。
【請求項2】
請求項1に記載された鉄筋構造において、
前記普通強度部分は降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定され、前記高強度部分と前記第二主筋とは、それぞれ前記普通強度部分よりも降伏点又は0.2%耐力が大きく設定され、前記第一主筋は、前記普通強度部分と同じ強度の1本の普通鉄筋を部分焼入れして前記高強度部分とする
ことを特徴とする鉄筋構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された鉄筋構造において、
前記L型鉄筋の他辺部には定着金物が接続されている
ことを特徴とする鉄筋構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載された鉄筋構造において、
前記柱梁接合部はL形接合の柱梁接合部であり、前記第一主筋は前記梁部に配置される
ことを特徴とする鉄筋構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載された鉄筋構造において、
前記第一主筋は前記柱部に配置される
ことを特徴とする鉄筋構造。
【請求項6】
請求項4に記載された鉄筋構造において、
前記継手金物は前記柱梁接合部の梁部の付け根より離れて配置され、前記第二主筋の強度A、前記第一主筋の高強度部分の強度B、前記第一主筋の普通強度部分の強度Cは、
C<B<A である
ことを特徴とする鉄筋構造。
【請求項7】
請求項4に記載された鉄筋構造において、
前記継手金物は前記柱梁接合部の内部に配置され、前記第二主筋の強度A、前記第一主筋の高強度部分の強度B、前記第一主筋の普通強度部分の強度Cは、
C<B B=A である
ことを特徴とする鉄筋構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱部、梁部及び柱梁接合部を備えた鉄筋コンクリート造に用いられる鉄筋構造に関する。
【背景技術】
【0002】
柱部と、梁部と、柱部及び梁部を接合する柱梁接合部とを備えて鉄筋コンクリート造が構成されており、この鉄筋コンクリート造には柱用や梁用の主筋が配置されている。柱用の主筋や梁用の主筋は、柱梁接合部まで伸びている。柱梁接合部には、柱部と梁部とが十字に交差する十字形接合や、建物外部側に位置するト形接合、L形接合がある。
従来には、梁用又は柱用の主筋を、普通強度部分と、普通強度部分より強度が大きい高強度部分とを有する1本の鉄筋から構成し、高強度部分を柱梁接合部に配置した鉄筋構造がある(特許文献1)。
【0003】
梁用の主筋のコンクリートとの付着が劣化して抜け出しすることがないように、主筋の端部は柱梁接合部に定着していなければならない。
従来、ト形接合の柱梁接合部の内部では、梁用の主筋の端部に定着金物と称される円盤のついた定着金物を取り付けることで定着することが可能であるが、最上階のL形接合の柱梁接合部のようにひび割れが生じて定着能力が失われるおそれのある部分では、梁部に設置された主筋のうち柱梁接合部に到達した端部を必ず90°に折り曲げなければならない(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3147699号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説(日本建築学会2010年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ト形接合やL形接合の柱梁接合部に端部が90°に折り曲げ形成される主筋は、部材中間の強度より、高強度であることが望ましい。特許文献1の従来例では、主筋は梁部又は柱部に設けられることが前提とされており、ト形接合やL形接合の柱梁接合部に端部を定着することが前提とされていない。
特許文献1の主筋は、JISG3112「鉄筋コンクリート用鋼棒」の普通強度鉄筋を部分的に熱処理して高強度化することにより製造される。そして、特許文献1で製造された鉄筋を用いてト形接合又はL形接合の柱梁接合部に定着させるには、高強度部分を90°折り曲げることが考えられる。
【0007】
JISG3112で規定される普通強度鉄筋は、もともと熱処理用に製造されていないため、高強度部分の端部を90°に折り曲げると割れ等が生じやすい。
割れ等が生じないようにするには、鉄筋の曲げ半径を大きくすればよいが、曲げ半径の大きなL型鉄筋は、施工が困難である。
以上の課題は、梁部と柱梁接合部とに配置される鉄筋構造だけでなく、柱部と柱梁接合部とに配置される鉄筋構造にも当てはまる。
【0008】
本発明の目的は、主筋の折り曲げ定着を容易に行うことができる鉄筋構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鉄筋構造は、柱部と、梁部と、前記柱部及び前記梁部を接合する柱梁接合部とを備えた鉄筋コンクリート造に用いられ、前記梁部と前記柱部の一方に配置される第一主筋と、前記第一主筋に端部が接続される継手金物と、前記継手金物に端部が接続され少なくとも一部が前記柱梁接合部に配置される第二主筋とを備え、前記第一主筋は、普通強度部分と、前記普通強度部分に一体形成され前記普通強度部分よりも強度が大きい高強度部分とを有し、前記第二主筋は、前記普通強度部分より強度が大きい高強度鉄筋を折り曲げて形成され、かつ、前記継手金物と先端が接続された一辺部と、前記一辺部に対して交差する方向に延びる他辺部とを備えたL型鉄筋であり、前記継手金物は、前記第一主筋の高強度部分と前記第二主筋の一辺部とを連結し、前記普通強度部分と前記高強度部分との境界部分が降伏ヒンジ位置にあることを特徴とする。
【0010】
本発明では、普通強度部分と高強度部分とから一体に形成された鉄筋を第一主筋として用い、予め全体が高強度に形成されたL型鉄筋を第二主筋として用いる。第二主筋の少なくとも一部を柱梁接合部に配置し、第一主筋を梁部又は柱部に配置する。第一主筋の配置にあたり、第一主筋の普通強度部分と高強度部分との境界部分が梁部又は柱部の降伏ヒンジ位置となるようにする。そして、第一主筋と第二主筋とを継手金物で互いに接続する。
このような構成の鉄筋構造では、第二主筋のL型鉄筋に既存の高強度鉄筋を利用する。
既存の高強度鉄筋は、曲げ加工を前提とし、成分調整された原材料を用いて圧延加工等により製造されるため、曲げ半径の小さなL型鉄筋を高強度化することは容易である。そのため、L型鉄筋を用いる場合は普通強度鉄筋を部分的に焼き入れて高強度にする場合に比べて、小さな曲げ半径の定着部分を容易に形成することができる。
また、柱部又は梁部に配置される第一主筋の高強度部分と第二主筋とを継手金物で接続するので、1本の鉄筋から高強度部分を構成した場合と同様に、柱部又は梁部と柱梁接合部とに連続した高強度領域が形成される。そのため、柱部又は梁部と柱梁接合部との連続した領域での鉄筋強度を高いものにできる。しかも、第一主筋の普通強度部分と高強度部分との境界部分が降伏ヒンジ位置であるため、最大級の外力が作用した時に、柱梁接合部の柱部又は梁部の付け根ではなく、高強度部分と普通強度部分との境界部に変形が集中する。降伏ヒンジ位置を柱梁接合部の付け根ではなく、この付け根から離れた境界部分とすることで、設計用曲げモーメントの大きさが小さくてもよい。つまり、設計用曲げモーメントは、柱梁接合部の付け根で最も大きく、柱梁接合部から離れるに従って大きさは小さくなるため、降伏ヒンジ位置を、付け根ではなく、付け根から離れた境界部分とすることで、設計用曲げモーメントのモーメント値が小さくなり、その分、鉄筋量が少なくてすむことになる。
【0011】
本発明では、前記普通強度部分は降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定され、前記高強度部分と前記第二主筋とは、それぞれ前記普通強度部分よりも降伏点又は0.2%耐力が大きく設定され、前記第一主筋は、前記普通強度部分と同じ強度の1本の普通鉄筋を部分焼入れして前記高強度部分とする構成が好ましい。
この構成では、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定される1本の普通鉄筋を部分焼入れして普通強度部分と高強度部分とを形成しているので、柱梁接合部に配置される高強度部分の太さを太くすることを要しない。しかも、普通強度部分と高強度部分とが1本の鉄筋から構成されるので、現場での取り扱いが容易となる。なお、本明細書では、強度と降伏点又は0.2%耐力とは同義語として記載されている。
【0012】
本発明では、前記L型鉄筋の他辺部には定着金物が接続されている構成が好ましい。
この構成では、第二主筋に定着金物が接続されているので、第二主筋のコンクリートとの付着が劣化して抜け出しすることがない。
【0013】
本発明では、前記柱梁接合部はL形接合の柱梁接合部であり、前記第一主筋は前記梁部に配置される構成が好ましい。
この構成では、最も強度が必要とされスペースの小さなL形接合の柱梁接合部においても、主筋の折り曲げ定着を容易に行うことができる。
【0014】
本発明では、前記第一主筋は前記柱部に配置される構成が好ましい。
この構成では、柱部と、この柱部に連続する柱梁接合部とに第一主筋、継手金物及び第二主筋を配置した場合でも、前述と同様の効果を奏することができる。
【0015】
本発明では、前記継手金物は前記柱梁接合部の梁部の付け根より離れて配置され、前記第二主筋の強度A、前記第一主筋の高強度部分の強度B、前記第一主筋の普通強度部分の強度Cは、C<B<Aである構成が好ましい。
この構成では、第二主筋の一部、継手金物及び第一主筋が梁部の内部に配置される。梁部に大きな外力が生じ、第一主筋と第二主筋との接続部分である継手金物に外力が集中しても、継手金物の強度は、第一主筋の高強度部分の強度Bより大きく設定されているので、第一主筋の高強度部分の強度Bと第二主筋の強度Aを接続した後の主筋の強度は、強度が低いほうの第一主筋の強度Bで決定される。この場合、梁部の付け根の設計は、第二主筋の強度Aを用いて行われることになるが、継手金物の位置においても、第一主筋の強度Bを用いて設計し、安全であることを確認する必要がある。
【0016】
本発明では、前記継手金物は前記柱梁接合部の内部に配置され、前記第二主筋の強度A、前記第一主筋の高強度部分の強度B、前記第一主筋の普通強度部分の強度Cは、C<B、B=Aである構成が好ましい。
この構成では、第二主筋、継手金物、及び第一主筋の高強度部分の少なくとも一部が柱梁接合部の内部に配置されている。梁部に大きな外力が生じた場合、梁部の上部に主筋が配置されていると、この主筋の上部に位置するコンクリートが薄く、十分に拘束されていないため、主筋の付け根に生じた応力は、90度に折り曲げた部分までほとんど減少せず伝達される。そのため、第二主筋の強度Aと第一主筋の高強度部分の強度Bとは同等であることが最も合理的となる。
なお、第一主筋の高強度部分の強度Bと第二主筋の強度Aとが等しい(B=A)とは、厳密な意味に限定されるものではなく、効果を奏する範囲での微差は許容される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態にかかる鉄筋構造が適用される鉄筋コンクリート造の概略図。
図2】鉄筋構造の要部を示す正面図。
図3】本発明の第2実施形態にかかる鉄筋構造の要部を示す正面図。
図4】本発明の第3実施形態にかかる鉄筋構造の要部を示す正面図。
図5】本発明の変形例にかかる鉄筋構造の要部を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ここで、各実施形態の説明において、同一構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
[第1実施形態]
第1実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。
図1には第1実施形態にかかるコンクリート造の全体構成が示されている。
図1において、建物は、複数の梁部2と、梁部2の両端部をそれぞれ接合する複数の柱部3と、梁部2と柱部3とを接合する柱梁接合部200とを備えた複数階建てである。建物は、鉄筋構造1にコンクリート100が打設された鉄筋コンクリート造である。
柱梁接合部200の形態としては、ト形接合S1、L形接合S2、基礎接合S3、十字形接合(図示せず)がある。ト形接合S1及びL形接合S2は建物外部と接する部分であり、このうちL形接合S2は建物最上階の部分に相当する。
第1実施形態の鉄筋構造1は、L形接合S2の柱梁接合部200に適用される。
【0019】
図2にはコンクリート造に適用される鉄筋構造1の具体的な構成が示されている。
図2において、鉄筋構造1は、水平方向に延びた梁用の第一主筋21と、第一主筋21に端部が接続される継手金物4と、継手金物4に端部が接続された第二主筋22と、第一主筋21の下方において第一主筋21と平行に配置された梁用鉄筋材20と、を備えている。
第一主筋21及び梁用鉄筋材20の軸方向と交差する平面内において、梁部2のせん断力に対して補強する複数のせん断補強筋2Aが配置されている。せん断補強筋2Aは、第一主筋21及び梁用鉄筋材20を囲んで等間隔に配筋されている。
第一主筋21は、梁部2において、複数本が図2の紙面貫通方向に配置されている。
【0020】
第一主筋21は、降伏点又は0.2%耐力が、JISG3112で規定する普通鉄筋(以下、単に普通鉄筋という)の降伏点又は0.2%耐力よりも大きい高強度部分211と、当該普通鉄筋と同じ降伏点又は0.2%耐力の普通強度部分212とを備える。
高強度部分211の強度B、つまり、降伏点又は0.2%耐力は、600MPa(N/mm)以上1200MPa(N/mm)以下である。普通強度部分212の強度C、つまり、降伏点又は0.2%耐力は、295MPa(N/mm)以上490MPa(N/mm)以下である。また、第一主筋21は、丸鋼でも、異形棒鋼でもよいが、継手金物4と接続するために、少なくとも、端部は雄ねじ部を有する。第一主筋21の鉄筋径はD25以上D41以下である。
第1実施形態では、高強度部分211が柱梁接合部200に近接する端部側に配置され、普通強度部分212が梁部2の中央側に配置されている。普通強度部分212と高強度部分211との境界部分は降伏ヒンジ位置Hにある。降伏ヒンジ位置Hは柱梁接合部200の梁部2の付け根から梁部2の中央に向けて所定寸法離れている。
【0021】
梁用の第二主筋22は、1本の高強度鉄筋を圧延処理等で折り曲げて形成されたもので、継手金物4と先端が接続された一辺部221と、一辺部221に対して直交する方向に延びる他辺部222とを備えたL型鉄筋である。
第二主筋22の一辺部221と他辺部222とは、少なくとも先端に雄ねじ部が形成されている。
L型鉄筋は、JISで規定する公知の鉄筋であり、強度A、つまり、降伏点又は0.2%耐力が490MPa(N/mm)以上1200MPa(N/mm)以下である。L型鉄筋は、例えば、JISの規格がSD490、SD590、SD685等が例示される。
第二主筋22は、一辺部221の先端を除いて柱梁接合部200に配置されている。
第二主筋22の他辺部222の先端には定着金物5が接続されている。定着金物5は、他辺部222の先端に螺合されるナット部材等が例示される。
【0022】
継手金物4は、第一主筋21の高強度部分211と第二主筋22の一辺部221とを連結するナット部材である。継手金物4は柱梁接合部200の梁部2の付け根より離れて配置されている。
継手金物4の強度は、第一主筋21の高強度部分211及び第二主筋22の強度より大きい。
ここで、第二主筋22の強度A、第一主筋21の高強度部分211の強度B、第一主筋21の普通強度部分212の強度Cは、C<B<Aが好ましい。つまり、継手金物4が梁部2の付け根より離れて配置されている場合、応力(曲げモーメント)は付け根ほど大きいので、最も好ましいのは、付け根に向かって応力が順番に大きくなるC<B<Aである。
なお、本実施形態では、C<A=Bとしてもよく、C<A<Bとしてもよいが、A<BよりもA=Bのほうが有利である。
【0023】
梁用鉄筋材20は、第一主筋21とともに梁部2の主筋として機能するものであり、梁部2から柱梁接合部200にかけて配置されている。
梁用鉄筋材20とせん断補強筋2Aとは、第一主筋21の普通強度部分212と同じ強度を有する鉄筋から構成されている。梁用鉄筋材20の先端には定着金物5が接続されている。
【0024】
柱部3の鉄筋構造1は、垂直方向に延びて所定間隔を空けて配筋された複数の柱用鉄筋材31と、柱用鉄筋材31の軸方向と交差する平面内において柱用鉄筋材31を囲んで等間隔に鉄筋材延出方向に配筋されて柱部3のせん断強度を補強する複数のせん断補強筋32とを備える。
柱用鉄筋材31の上端には定着金物5が接続されている。
柱用鉄筋材31及びせん断補強筋32は、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定されている普通鉄筋である。柱用鉄筋材31及びせん断補強筋32の強度、つまり、降伏点又は0.2%耐力は、第一主筋21の普通強度部分212と同じである。
【0025】
第1実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)鉄筋構造1を、梁部2に配置される第一主筋21と、第一主筋21に接続される継手金物4と、継手金物4に接続され一部が柱梁接合部200に配置される第二主筋22とを備えて構成し、第二主筋22を、高強度鉄筋を折り曲げて形成されたL型鉄筋とした。主筋の定着端部を形成するにあたり、普通鉄筋を部分的に焼入れして形成された高強度部分を折り曲げるのではなく、予め小さな折り曲げ半径とされた既存のL型鉄筋を用いることで、鉄筋の90°の折り曲げを容易に行うことができる。
【0026】
(2)普通強度部分212と高強度部分211とを一体形成して第一主筋21を構成し、高強度部分211と第二主筋22とを継手金物4で連結したので、1本の鉄筋から高強度部分を構成した場合と同様に、梁部2と柱梁接合部200とに連続した高強度領域が形成されることになり、当該領域での鉄筋強度を高いものにできる。
【0027】
(3)普通強度部分212と高強度部分211との境界部分を降伏ヒンジ位置Hとしたため、最大級の外力が作用した時に、柱梁接合部200の梁部2の付け根ではなく、高強度部分211と普通強度部分212との境界部分に変形が集中する。降伏ヒンジ位置Hを柱梁接合部200の付け根から離れた境界部分とすることで、設計用曲げモーメントのモーメント値が小さくなり、その分、鉄筋量が少なくてすむことになる。
【0028】
(4)普通強度部分212を降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定し、高強度部分211と第二主筋22とを、それぞれ普通強度部分212よりも降伏点又は0.2%耐力が大きく設定し、普通強度部分212と同じ強度の1本の普通鉄筋を部分焼入れして高強度部分211とした。そのため、1本の普通鉄筋を部分焼入れして普通強度部分と高強度部分とを形成しているので、柱梁接合部200に配置される高強度部分211の太さを太くすることを要しない。しかも、普通強度部分212と高強度部分211とが1本の鉄筋から構成されるので、現場での取り扱いが容易となる。
【0029】
(5)L型鉄筋の他辺部222に定着金物5を接続したから、第二主筋22のコンクリートとの付着が劣化して抜け出しすることがない。
【0030】
(6)柱梁接合部200をL形接合S2に適用し、第一主筋21を梁部2に配置したので、最も強度が必要とされスペースの小さなL形接合S2の柱梁接合部200においても、主筋の折り曲げ定着を容易に行うことができる。
【0031】
(7)第二主筋22の強度A、第一主筋21の高強度部分211の強度B、第一主筋21の普通強度部分212の強度Cは、C<B<Aの関係とすれば、梁部2に大きな外力が生じ、第一主筋21と第二主筋22との接続部分である継手金物4に外力が集中しても、継手金物4の強度が第一主筋21の高強度部分211の強度Bより大きく設定されるので、継手金4での脆性的な破損等を防止できる。
【0032】
[第2実施形態]
第2実施形態を図3に基づいて説明する。第2実施形態は継手金物4の位置が第1実施形態と異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。
図3において、継手金物4は柱梁接合部200の内部に配置されている。第1実施形態に比べて第一主筋21の高強度部分211は長く形成されており、その先端が柱梁接合部200の内部に位置する。第二主筋22の一辺部221は、第1実施形態に比べて短く形成されている。
第二主筋22の強度A、第一主筋21の高強度部分211の強度B、第一主筋21の普通強度部分212の強度Cは、C<B、A=Bが好ましい。つまり、上層階の上側主筋の応力は、柱梁接合部200の内部でほとんど変化しないと仮定しているため、C<B、A=Bが最も好ましい。ここで、A=Bとは後述する効果を奏するものであれば、微差、つまり、A≒Bが含まれる。
なお、本実施形態では、C<B≦Aでもよく、C<A<Bでもよい。ここで、B≦Aでも、A>Bでもよいが、主筋の本数は、柱梁接合部200の付け根の応力で決まるので、A>Bのほうが、A<Bよりよい。A<Bの場合は、強度が低い強度Aで鉄筋本数を算定しなければならず、好ましくない。
【0033】
第2実施形態では、第1実施形態の(1)〜(6)と同様の効果を奏することができる他、次の効果を奏することができる。
(8)最上階の上側の主筋は、上部のコンクリートが薄く、十分に拘束されていないため、上側の主筋の付け根に生じた応力は、90度に折り曲げた部分までほとんど減少せず伝達される。第二主筋22の強度A、第一主筋21の高強度部分211の強度B、第一主筋21の普通強度部分212の強度Cは、C<B、B=Aの関係があるので、梁部2に大きな外力が生じた場合、柱梁接合部200の内部では、付け根に生じた応力が、継手金物4を介して90度に折り曲げた部分まで問題なく伝達される。
【0034】
[第3実施形態]
第3実施形態を図4に基づいて説明する。第3実施形態は、鉄筋構造1が適用される柱梁接合部200が第1実施形態と異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。
図4において、第3実施形態の鉄筋構造1が適用される柱梁接合部200の形態は、基礎を含む梁部2と柱部3とを接合する基礎接合S3の柱梁接合部200である。
鉄筋構造1は、鉛直方向に延びた柱用の第一主筋61と、第一主筋61に端部が接続される継手金物4と、継手金物4に端部が接続された第二主筋62と、を備えている。
第一主筋61の軸方向と交差する平面内において、複数のせん断補強筋32が配置されている。
【0035】
第一主筋61は、高強度部分211と普通強度部分212とを備える。
高強度部分211が柱梁接合部200に近接する端部側に配置され、普通強度部分212が柱部3の中央側に配置されている。普通強度部分212と高強度部分211との境界部分にある降伏ヒンジ位置Hは、柱梁接合部200の柱部3の付け根から上方に向けて所定寸法離れている。
【0036】
第二主筋62は、第1実施形態と同様に、1本の高強度鉄筋を折り曲げて形成されたもので、継手金物4と先端が接続された一辺部621と、一辺部621に対して直交する方向に延びる他辺部622とを備えたL型鉄筋である。
第二主筋62は、一辺部621の先端を除いて柱梁接合部200に配置されている。
継手金物4は、第一主筋61の高強度部分211と第二主筋62の一辺部621とを連結するナット部材である。継手金物4は柱梁接合部200の内部に配置されている。
【0037】
ここで、第二主筋62の強度A、第一主筋61の高強度部分211の強度B、第一主筋61の普通強度部分212の強度Cは、<A≦Bである。
最上階の梁部2の上側に配置された主筋は、上部のコンクリートが薄く、十分に拘束されていないため、主筋の強度は、90度に折り曲げた部分まで付け根の強度と同一であることが好ましい。柱脚部分においても、主筋の応力は付け根で最大であるが、柱脚部分の主筋は、コンクリートによる拘束が十分であり、鉄筋とコンクリートの付着が十分に確保できる。このため、柱部2の付け根に生じた主筋の応力は、付け根から下方にいくに従い徐々に減少する。従って、第二主筋62の強度Aは、第一主筋61の高強度部分の強度Bの同等以下でよく、さらに接続部分が付け根から下方に離れた位置にある場合には、接続部分の応力に応じた強度以上であればよい。
第3実施形態では第1実施形態の(1)〜(4)、(7)と同様の効果を奏することができる他、次の効果を奏することができる。
(9)柱梁接合部200を基礎接合S3に適用し、第一主筋61を柱部3に配置したので、基礎接合S3の柱梁接合部200においても、主筋の折り曲げ定着を容易に行うことができる。
【0038】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、第1実施形態及び第2実施形態では、第二主筋22を構成するL型鉄筋の他辺部222に定着金物5を接続したが、図5に示される通り、定着金物5を省略するものであってもよい。
【0039】
また、第1実施形態及び第2実施形態において、L形接合S2を例にとって説明したが、本発明では、ト形接合S1でもL形接合S2と同様に適用することができる。
さらに、本発明では、建築構造物以外にも、橋等の土木構造物にも適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…鉄筋構造、100…コンクリート、2…梁部、20…梁用鉄筋材、200…柱梁接合部、21…第一主筋、211…高強度部分、212…普通強度部分、22…第二主筋、221…一辺部、222…他辺部、2A…断補強筋、3…柱部、4…継手金物、5…定着金物、61…第一主筋、62…第二主筋、621…一辺部、622…他辺部、H…降伏ヒンジ位置、S1…ト形接合、S2…L形接合、S3…基礎接合
図1
図2
図3
図4
図5