(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605385
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】原子炉のコアキャッチャ
(51)【国際特許分類】
G21C 9/016 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
G21C9/016
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-84958(P2016-84958)
(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公開番号】特開2017-194359(P2017-194359A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2018年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】細井 秀章
(72)【発明者】
【氏名】木藤 和明
(72)【発明者】
【氏名】松崎 隆久
(72)【発明者】
【氏名】石井 佳彦
【審査官】
村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−045592(JP,A)
【文献】
特開平07−128476(JP,A)
【文献】
特開2015−125006(JP,A)
【文献】
特表平08−511103(JP,A)
【文献】
米国特許第05703917(US,A)
【文献】
特開平06−130169(JP,A)
【文献】
特開2014−137237(JP,A)
【文献】
特開2010−237070(JP,A)
【文献】
特開2014−185989(JP,A)
【文献】
特開2004−061192(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/068563(WO,A1)
【文献】
特開2017−090400(JP,A)
【文献】
米国特許第04342621(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C9/016
G21D1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉炉心を原子炉圧力容器内に持ち、前記原子炉炉心が溶融した際に発生する炉心溶融物を前記原子炉圧力容器及びサプレッションプールを内蔵する原子炉格納容器の床面で受け止めると共に、冷却水が流れる複数の冷却水配管を有し、かつ、前記複数の冷却水配管を流れる前記冷却水によって前記炉心溶融物を冷却するために前記原子炉格納容器の床面上に設置されている原子炉のコアキャッチャであって、
前記コアキャッチャは、枝分かれした複数の冷却水配管に冷却水を供給するヘッダ管、該ヘッダ管から前記冷却水が流れ、前記原子炉格納容器の床面中央部に近い配管が最も長く、この最も長い配管を中心に外側に向うに従い順次短い複数の配管から成り前記炉心溶融物を冷却する傾斜管、該傾斜管のそれぞれの端部に接続されると共に、前記炉心溶融物を冷却した後の前記冷却水が前記傾斜管から供給され、前記炉心溶融物を冷却した後の前記冷却水を前記原子炉格納容器内に排出する鉛直管から成る前記冷却水配管と、該冷却水配管の上方に設置され、前記炉心溶融物を前記原子炉格納容器の床面で受け止めるための犠牲層とを備え、
前記コアキャッチャの鉛直管の上端が、前記サプレッションプールの最大水面よりも高い位置に設置されると共に、前記コアキャッチャの鉛直管の側面で、かつ、前記サプレッションプールの最大水面よりも低い位置に、少なくとも前記原子炉格納容器の雰囲気温度の上昇によって溶解し、前記コアキャッチャの鉛直管が開放されて前記冷却水が放出される溶融開放機構を備え、
前記コアキャッチャのヘッダ管と前記サプレッションプールを接続する冷却水供給配管の途中に通常運転時は開いている弁を設置すると共に、前記コアキャッチャのヘッダ管にドレン配管を接続し、このドレン配管にドレン弁を設置し、
検査時には、前記弁を閉めて前記ドレン弁を開くことにより、前記コアキャッチャの傾斜管及び鉛直管に貯水された水を前記ドレン配管を介して排水することを特徴とする原子炉のコアキャッチャ。
【請求項2】
原子炉炉心を原子炉圧力容器内に持ち、前記原子炉炉心が溶融した際に発生する炉心溶融物を前記原子炉圧力容器及びサプレッションプールを内蔵する原子炉格納容器の床面で受け止めると共に、冷却水が流れる複数の冷却水配管を有し、かつ、前記複数の冷却水配管を流れる前記冷却水によって前記炉心溶融物を冷却するために前記原子炉格納容器の床面上に設置されている原子炉のコアキャッチャであって、
前記コアキャッチャは、枝分かれした複数の冷却水配管に冷却水を供給するヘッダ管、該ヘッダ管から前記冷却水が流れ、前記原子炉格納容器の床面中央部に近い配管が最も長く、この最も長い配管を中心に外側に向うに従い順次短い複数の配管から成り前記炉心溶融物を冷却する傾斜管、該傾斜管のそれぞれの端部に接続されると共に、前記炉心溶融物を冷却した後の前記冷却水が前記傾斜管から供給され、前記炉心溶融物を冷却した後の前記冷却水を前記原子炉格納容器内に排出する鉛直管から成る前記冷却水配管と、該冷却水配管の上方に設置され、前記炉心溶融物を前記原子炉格納容器の床面で受け止めるための犠牲層とを備え、
前記コアキャッチャの鉛直管の上端が、前記サプレッションプールの最大水面よりも高い位置に設置されると共に、前記コアキャッチャの鉛直管の側面で、かつ、前記サプレッションプールの最大水面よりも低い位置に、少なくとも前記原子炉格納容器の雰囲気温度の上昇によって溶解し、前記コアキャッチャの鉛直管が開放されて前記冷却水が放出される溶融開放機構を備え、
前記サプレッションプールに常設されている水浄化系配管の途中に設置された水浄化系弁の下流側に、前記コアキャッチャのヘッダ管と前記サプレッションプールを接続する冷却水供給配管に接続されるコアキャッチャ水浄化系配管を接続し、このコアキャッチャ水浄化系配管の途中にコアキャッチャ水浄化系弁を設置し、
必要に応じて前記コアキャッチャ水浄化系弁を開にし、前記コアキャッチャ水浄化系配管を介して前記コアキャッチャ内の冷却水を、前記水浄化系配管に排出することを特徴とする原子炉のコアキャッチャ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の原子炉のコアキャッチャにおいて、
前記溶融開放機構は、前記コアキャッチャの中心方向に向かって設けられていることを特徴とする原子炉のコアキャッチャ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の原子炉のコアキャッチャにおいて、
前記溶融開放機構の鉛直方向位置は、前記コアキャッチャの側壁上端と前記サプレッションプール内の水平ベント管の最上段との間に設置されていることを特徴とする原子炉のコアキャッチャ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の原子炉のコアキャッチャにおいて、
前記溶融開放機構は、前記コアキャッチャの鉛直管の一部が、少なくとも前記原子炉格納容器の雰囲気温度の上昇によって溶融する溶融金属であることを特徴とする原子炉のコアキャッチャ。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の原子炉のコアキャッチャにおいて、
前記溶融開放機構は、前記コアキャッチャの鉛直管に、該鉛直管から水平方向に伸延する水平配管が設置され、該水平配管に、少なくとも前記原子炉格納容器の雰囲気温度の上昇によって溶融する溶融弁が設置されているものであることを特徴とする原子炉のコアキャッチャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉のコアキャッチャに係り、特に、原子炉格納容器内に設置され、万が一過酷事故が発生して炉心の冷却が不十分となり、崩壊熱により炉心が溶融した際に、原子炉底部から落下する高温の炉心溶融物を受け止め冷却するものに好適な原子炉のコアキャッチャに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントが備えている原子炉格納容器は、万が一、その内部にある原子炉圧力容器内に配置された炉心が溶融するような事態が発生し、原子炉圧力容器外に放射性物質が放出された場合においても、放射性物質を原子炉格納容器内に閉じ込めて発電所敷地周辺への漏出を防ぐ役割がある。
【0003】
また、原子力発電プラントは、多重・多様な安全設備を設け、炉心の損傷や溶融が生じないように設計しているが、極めて小さい確率ではあるが、何らかの要因により炉心の冷却が不十分となり、崩壊熱により炉心が溶融し、高温の炉心溶融物が原子炉圧力容器の底部から原子炉格納容器の底部のコンクリート製の床面に落下する可能性を排除できない。万が一、高温の炉心溶融物が原子炉格納容器の底部のコンクリート製の床面に落下したときには、上方からの適切な注水で炉心溶融物を冠水すれば、炉心溶融物は上面側より冷却され固化できる。
【0004】
この炉心溶融物の落下に備えるさらなる安全性向上設備として、コアキャッチャがある。コアキャッチャにはいくつかの種類があるが、その1つにコアキャッチャ内部に冷却水配管を持ち、この冷却水配管に冷却水を流すことで、炉心溶融物を下面側から冷却する下面冷却型コアキャッチャがある。
【0005】
上記の下面冷却型コアキャッチャの構造に関する先行技術として、特許文献1、2及び3を挙げることができる。
【0006】
上記特許文献1には、炉心溶融が発生した場合に原子炉圧力容器から落下する炉心溶融物を受け止める面の下側に傾斜した冷却水配管を設け、この傾斜した冷却水配管に冷却水を導くことによって、炉心溶融物を下面側より除熱することが記載されている。上面から見た冷却水配管はくし型状に配置され、いずれの冷却水配管も出口付近の配管は鉛直方向に曲げられて原子炉格納容器内に開口し、冷却水と蒸気が排出される構造であり、排出された冷却水は、原子炉格納容器の下部床面上に流れ込み炉心溶融物を上部から冷却するものである。
【0007】
また、特許文献2には、原子炉格納容器内に設置されているサプレッションプールとコアキャッチャの冷却水配管出口の上方とを結ぶ配管を設置し、冷却水配管出口上方の配管の途中に溶融弁を設け、万が一、炉心溶融物がコアキャッチャに落下したときには、炉心溶融物の熱により溶融弁が開くことで、コアキャッチャ冷却水配管出口上方から圧力抑制プールの水を冷却水として供給することが可能となることが記載されている。
【0008】
一般に、コアキャッチャは、その内部の冷却水配管に冷却水が流れることで、コアキャッチャ自体が冷却されることにより、炉心溶融物を下面側より冷却するものである。コアキャッチャへの冷却水の供給は、過酷事故が電源の喪失を起因として発生する場合が多いので、ポンプなどの動的な駆動源無しで供給されるのが一般的である。コアキャッチャへの冷却水は、サプレッションプールや原子炉格納容器内部に配置されたタンク、コアキャッチャの床面上若しくはコアキャッチャ上の炉心溶融物上に溜まった冷却水などから供給するか、或いは原子炉格納容器内の蒸気を熱交換器で凝縮させた水を供給する場合が多い。
【0009】
このため、コアキャッチャに炉心溶融物が落下した時間と、コアキャッチャへの冷却水を供給する時間に差が生じる可能性がある。
【0010】
更に、特許文献3には、コアキャッチャの冷却水配管下方に水を貯蔵する構造で、炉心溶融物がコアキャッチャに落下した直後に、コアキャッチャ下面の冷却水配管に貯水された冷却水により、コアキャッチャの側面以外で冷却が開始され、何らかの注水機能により徐々に冷却量が増加していくことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−128142号公報
【特許文献2】特開2014−62859号公報
【特許文献3】特開2014−185989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した特許文献1及び2に記載のコアキャッチャでは、原子炉圧力容器から落下した炉心溶融物が、原子炉圧力容器を支えるペデスタル側壁まで拡がると、ペデスタル側壁で充分冷却できず、ペデスタル側壁が浸食される可能性がある。また、冷却水を供給するために必要な溶融弁が開くまでにある程度の時間を要するため、炉心溶融物が落下した直後に、コアキャッチャ下面から炉心溶融物を有効に冷却することができない可能性がある。更に、特許文献3では、注水機能により徐々に冷却量が増加していくため、何らかの注水機能が必要となる。
【0013】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、ペデスタル側壁付近の炉心溶融物の冷却を有効に行うと共に、コアキャッチャへの冷却水の供給を迅速に行い、炉心溶融物の冷却を早期に実現可能な原子炉のコアキャッチャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の原子炉のコアキャッチャは、上記目的を達成するために、原子炉炉心を原子炉圧力容器内に持ち、前記原子炉炉心が溶融した際に発生する炉心溶融物を前記原子炉圧力容器及びサプレッションプールを内蔵する原子炉格納容器の床面で受け止めると共に、冷却水が流れる複数の冷却水配管を有し、かつ、前記複数の冷却水配管を流れる前記冷却水によって前記炉心溶融物を冷却するために前記原子炉格納容器の床面上に設置されている原子炉のコアキャッチャであって、前記コアキャッチャは、枝分かれした複数の冷却水配管に冷却水を供給するヘッダ管、該ヘッダ管から前記冷却水が流れ、前記原子炉格納容器の床面中央部に近い配管が最も長く、この最も長い配管を中心に外側に向うに従い順次短い複数の配管から成り前記炉心溶融物を冷却する傾斜管、該傾斜管のそれぞれの端部に接続されると共に、前記炉心溶融物を冷却した後の前記冷却水が前記傾斜管から供給され、前記炉心溶融物を冷却した後の前記冷却水を前記原子炉格納容器内に排出する鉛直管から成る前記冷却水配管と、該冷却水配管の上方に設置され、前記炉心溶融物を前記原子炉格納容器の床面で受け止めるための犠牲層とを備え、前記コアキャッチャの鉛直管の上端が、前記サプレッションプールの最大水面よりも高い位置に設置されると共に、前記コアキャッチャの鉛直管の側面で、かつ、前記サプレッションプールの最大水面よりも低い位置に、少なくとも前記原子炉格納容器の雰囲気温度の上昇によって溶解し、前記コアキャッチャの鉛直管が開放されて前記冷却水が放出される溶融開放機構を備え
、
前記コアキャッチャのヘッダ管と前記サプレッションプールを接続する冷却水供給配管の途中に通常運転時は開いている弁を設置すると共に、前記コアキャッチャのヘッダ管にドレン配管を接続し、このドレン配管にドレン弁を設置し、検査時には、前記弁を閉めて前記ドレン弁を開くことにより、前記コアキャッチャの傾斜管及び鉛直管に貯水された水を前記ドレン配管を介して排水するか、
或いは、前記サプレッションプールに常設されている水浄化系配管の途中に設置された水浄化系弁の下流側に、前記コアキャッチャのヘッダ管と前記サプレッションプールを接続する冷却水供給配管に接続されるコアキャッチャ水浄化系配管を接続し、このコアキャッチャ水浄化系配管の途中にコアキャッチャ水浄化系弁を設置し、必要に応じて前記コアキャッチャ水浄化系弁を開にし、前記コアキャッチャ水浄化系配管を介して前記コアキャッチャ内の冷却水を、前記水浄化系配管に排出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ペデスタル側壁付近の炉心溶融物の冷却を有効に行うと共に、コアキャッチャへの冷却水の供給を迅速に行い、炉心溶融物の冷却を早期に実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のコアキャッチャの実施例1が適用される改良沸騰水型原子炉における原子炉格納容器内の概略構造を示す図である。
【
図2】
図1に示した改良沸騰水型原子炉に採用されている本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例1における冷却水配管を示す平面図である。
【
図3】本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例1における冷却水配管を示す部分斜視図である。
【
図4】
図1の状態から炉心溶融物が落下し、本発明の原子炉のコアキャッチャの犠牲層で受け止められた状態を示す概略構造図である。
【
図5】本発明の原子炉のコアキャッチャによる炉心溶融物の冷却開始時間と除熱量の関係を、特許文献2及び3の場合と比較して示す特性図である。
【
図6】本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例2が適用される改良沸騰水型原子炉における原子炉格納容器内の概略構造を示す図である。
【
図7】本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例3における冷却水配管を示す部分斜視図である。
【
図8】本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例4における冷却水配管を示す部分斜視図である。
【
図9】本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例5が適用される改良沸騰水型原子炉における原子炉格納容器内の概略構造を示す図である。
【
図10】本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例6が適用される改良沸騰水型原子炉における原子炉格納容器内の概略構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の原子炉のコアキャッチャを説明する。なお、各実施例において同一構成部品には同符号を使用する。
【0018】
本実施例では、サプレッションチャンバを備える圧力抑制型の原子炉格納容器を持つ沸騰水型原子炉に設置することを例として説明するが、本発明の原子炉のコアキャッチャは、同様な構成が可能な他の形式の原子炉においても適用可能である。
【実施例1】
【0019】
本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例1を、
図1〜
図5を用いて説明する。
【0020】
図1に、本発明の原子炉のコアキャッチャが適用される改良沸騰水型原子炉(ABWR)の原子炉格納容器内の概略構造を示す。
【0021】
該図に示す如く、内部に炉心17が収められた原子炉圧力容器1は、原子炉格納容器2内に配置され、ペデスタル側壁30で支えられている。改良沸騰水型原子炉の原子炉格納容器2は、鋼製ライナを内張りした鉄筋コンクリート製で、放射性物質の漏出を防ぐため気密性を有する。改良沸騰水型原子炉の原子炉格納容器2の形状は、ほぼ円筒形であり、原子炉格納容器2の内部は、原子炉圧力容器1などを取り囲むドライウェル3、原子炉圧力容器1からの水蒸気を凝縮するサプレッションプール4、そのサプレッションプール4を内側に持つサプレッションチャンバ5などから構成される。サプレッションプール4内には、水平ベント管6を備えている。
【0022】
本発明の原子炉のコアキャッチャ7は、原子炉格納容器2の下部床面8上に設置される。コアキャッチャ7の下部及び側部には、冷却水配管として、ヘッダ管9、傾斜管10、鉛直方向に延びる鉛直管11を備え、これらの冷却水配管を保護するために、コンクリート若しくは耐熱材で構成された犠牲層12とから構成されている。ヘッダ管9とサプレッションプール4の下部は冷却水供給配管13で接続されている。鉛直管11の出口部14は、サプレッションプール4の最大水位15よりも高い位置で開口している。この構成により、通常運転時にはヘッダ管9、傾斜管10、冷却水供給配管13は水で満たされており、鉛直管11にはサプレッションプール4と同じ水位で冷却水が貯水されている。
【0023】
そして、本実施例のコアキャッチャ7は、鉛直管11の側面に、コアキャッチャ7の中心方向に向かって溶融開放機構16を備えている。この溶融開放機構16の高さ位置は、サプレッションプール4の最大水位15よりも低い位置に備えている。溶融開放機構16は温度上昇によって溶融し、鉛直管11の側面が下部ドライウェル3aに開放されて冷却水を放出する役割がある。
【0024】
図2に、本実施例のコアキャッチャ7の冷却水配管の平面図を示す。
【0025】
該図に示す如く、本実施例のコアキャッチャ7における冷却水配管は、枝分かれした冷却水配管群に冷却水を供給する中央部に配置されたヘッダ管9、このヘッダ管9から冷却水が流れ、原子炉格納容器2の床面中央部に近い配管が最も長く、この最も長い配管を中心に外側に向うに従い順次短い複数の配管から成り、後述する炉心溶融物18を冷却する傾斜管10、この傾斜管10のそれぞれの端部に接続されると共に、炉心溶融物18を冷却した後の冷却水が傾斜管10から供給され、炉心溶融物を冷却した後の冷却水を原子炉格納容器2内に排出する複数の鉛直管11から構成されている。傾斜管10と鉛直管11は、それぞれ一本ずつ対となり冷却水流路を構成する。
図2は一例として示しているが、冷却水配管の本数や配置については限定されない。
【0026】
図3に、本実施例における冷却水配管の一部を示す。
【0027】
該図に示す如く、本実施例における冷却水配管は、中央部に配置されたヘッダ管9に複数の傾斜管10が連結されている。更に、傾斜管10の一方は鉛直管11に接続され、鉛直管11には出口部14が開口している。鉛直管11の側面には、コアキャッチャ7の中心方向に向かって、少なくとも1つの溶融開放機構16を備えている。
図3は一例として示しているが、冷却水配管の本数や配置、傾斜管10の傾斜角、溶融開放機構16の数については限定されない。
【0028】
図4に示すように、万が一、炉心17が溶融し、炉心溶融物18が原子炉圧力容器1の下部から落下すると、コアキャッチャ7の犠牲層12により受け止められる。犠牲層12の下部及び側面にあるヘッダ管9、傾斜管10及び鉛直管11には、予めサプレッションプール4の冷却水が貯水されているため、給水の時間遅れなく、炉心溶融物18が落下すると同時に炉心溶融物18の冷却が開始される。
【0029】
炉心溶融物18がペデスタル側壁30まで拡がるような場合でも、コアキャッチャ7の鉛直管11内に予め冷却水が貯水されていることから、炉心溶融物18がコアキャッチャ7の側壁面に接触すると同時に冷却を開始でき、ペデスタル側壁30への浸食を防ぐことが可能となる。また、炉心溶融物18の熱により冷却水が沸騰し、水蒸気と水の二相流となって傾斜管10を流れ、炉心溶融物18を犠牲層12の下面側から冷却する。水蒸気と水の二相流は、傾斜管10に接続された鉛直管11内を鉛直方向に流れ、鉛直管11の出口部14より水蒸気と水が排出される。排出された水は、炉心溶融物18の上面からの冷却に寄与する。
【0030】
そして、炉心溶融物18の落下により原子炉格納容器2内の雰囲気温度が上昇し、これが溶融開放機構16の溶融温度に到達すると溶融開放機構16が開放状態となり、溶融開放機構16から鉛直管11内の冷却水がコアキャッチャ7内に放出される。溶融開放機構16は、コアキャッチャ7の中心方向に向かって形成されていることから、鉛直管11内の冷却水が溶融開放機構16を通して犠牲層12の上に供給される。
【0031】
これにより、炉心溶融物18及び犠牲層12への冷却水量が増加し、炉心溶融物18の上面側からの冷却特性が向上する。また、冷却水配管内の冷却水量が増加することから、犠牲層12の下面側の冷却特性も向上する。冷却水はサプレッションプール4と溶融開放機構16の水頭差により、電源等を使用せずに供給される。その後、サプレッションプール4と犠牲層12の上に供給された冷却水の水位が等しくなり、傾斜管10内で生じた水蒸気と水の二相流は、溶融開放機構16から排出される。沸騰によって生じた蒸気は、原子炉格納容器2内に放出されるが、静的格納容器冷却系(図示せず)等によって凝縮させ、凝縮した水をサプレッションプール4等に戻されるため原子炉格納容器2が過圧されることはない。
【0032】
図5に、本実施例における時間と除熱量の関係を示す。即ち、特許文献2に示すサプレッションプールとコアキャッチャの冷却水配管出口の上方とを結ぶ配管に溶融弁を設置した構成では、
図5の一点鎖線矢印101に示すように、炉心溶融物がコアキャッチャに落下し(
図5のT0)、一定時間が経過して
図5のT1部分で雰囲気温度の上昇により溶融弁が開くと、炉心溶融物の冷却が開始される。一方、特許文献3に示すコアキャッチャの冷却水配管下方に水を貯蔵する構造では、
図5の破線矢印102に示すように、炉心溶融物がコアキャッチャに落下した(
図5のT0)直後に、コアキャッチャ下面の冷却水配管に貯水された冷却水により、コアキャッチャの側面以外で冷却が開始され、何らかの注水機能により徐々に冷却量が増加していく。
【0033】
これに対して本実施例の構成では、
図5の実線矢印103に示すように、炉心溶融物18がコアキャッチャ7に落下した(
図5のT0)直後にコアキャッチャ7の側面を含んだコアキャッチャ7の全面で冷却が開始されると共に、一定時間が経過して
図5のT1部分で雰囲気温度の上昇により溶融開放機構16が開くと、炉心溶融物18の冷却が開始される。溶融開放機構16の動作温度を低くすれば、先行技術よりも短い時間で犠牲層12上の炉心溶融物18に冷却水を供給でき、より早期の冷却が可能となる。
【0034】
従って、本実施例によれば、ペデスタル側壁30付近の炉心溶融物18の冷却を有効に行うことができると共に、コアキャッチャ7の冷却水供給配管13への冷却水の供給時間遅れを短縮し、かつ、コアキャッチャ7の上面への冷却水の供給を迅速に行うことが可能となる。なお、溶融開放機構16が開放となる溶融金属の溶融温度は、250℃程度が一例だが、特に限定されない。
【実施例2】
【0035】
本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例2を、
図6を用いて説明する。ここでは、実施例1との違いのみを説明する。
【0036】
図6に示す本実施例のコアキャッチャ7は、
図4に示した構成において、溶融開放機構16の鉛直方向設置位置を、コアキャッチャ7の側面上端19とサプレッションプール4内の水平ベント管6の最上段との間としたものである。
【0037】
このような本実施例の構成とすることにより、サプレッションプール4の水位は水平ベント管6の最上段が露出しないように制御されるため、溶融開放機構16を水平ベント管6の最上段より低い位置に設置することで冷却水の供給の持続が可能となり、実施例1の効果に加え、より安定した冷却が達成できる。なお、溶融開放機構16が開放となる溶融金属の溶融温度は、特に限定されない。
【実施例3】
【0038】
本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例3を、
図7を用いて説明する。ここでは、実施例1との違いのみを説明する。
【0039】
図7に示す本実施例のコアキャッチャ7は、
図3に示した構成において、溶融開放機構16として、鉛直管11の一部を溶融金属20で構成したものである。
【0040】
このような本実施例の構成とすることにより、炉心溶融物18による雰囲気温度の上昇または冷却水温度の上昇により溶融金属20の部分のみが溶融することで開放され、溶融した部分から冷却水が流出するので、実施例1と同様な効果を得ることができる。なお、溶融金属20の溶融温度は特に限定されない。
【実施例4】
【0041】
本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例4を、
図8を用いて説明する。ここでは、実施例1との違いのみを説明する。
【0042】
図8に示す本実施例のコアキャッチャ7は、
図3に示した構成において、溶融開放機構16として、鉛直管11に水平方向に伸延する水平配管21が設置され、この水平配管21の途中に溶融弁22を設置した構成としたものである。
【0043】
このような本実施例の構成とすることにより、炉心溶融物18による雰囲気温度の上昇または冷却水温度の上昇により溶融弁22が溶融することで水平配管21が開放され、水平配管21から冷却水が流出するので、実施例1と同様な効果を得ることができる。また、水平配管21の方向と長さを変更することにより、冷却水の供給方向と供給位置を任意に指定することが可能となる。なお、溶融弁22の溶融温度は、特に限定されない。
【実施例5】
【0044】
本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例5を、
図9を用いて説明する。ここでは、実施例1との違いのみを説明する。
【0045】
図9に示す本実施例のコアキャッチャ7は、
図1に示した構成において、冷却水供給配管13の途中に弁23を設置し、更に、ヘッダ管9にドレン配管24を接続し、このドレン配管24にドレン弁25を設置する構成としたものである。
【0046】
このような本実施例の構成とすることにより、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、弁23は通常運転時は開いており、定期検査などでコアキャッチャ7の検査等を実施する際に弁23を閉め、ドレン弁25を開くことにより、傾斜管10及び鉛直管11に貯水された水をドレン配管24を介して排水することが可能となる。
【実施例6】
【0047】
本発明の原子炉のコアキャッチャの実施例6を、
図10を用いて説明する。ここでは、実施例1との違いのみを説明する。
【0048】
過酷事故以外の事象、例えば、生じる可能性は極めて低いが、冷却材喪失事故などが生じた場合、サプレッションプール4の保有水量が増加すると、ドライウェル3の下部に放射化された冷却水が漏れ出す可能性がある。
【0049】
そこで、
図10に示す本実施例のコアキャッチャ7は、
図1に示した構成において、通常、サプレッションプール4に常設されている水浄化系配管26の途中に設置された水浄化系弁27の下流側に、他方がコアキャッチャ7の冷却水供給配管13に接続されているコアキャッチャ水浄化系配管28を接続し、この途中にコアキャッチャ水浄化系弁29を設置する構成としたものである。
【0050】
このような本実施例の構成とすることにより、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、万が一、冷却材喪失事故などが生じた場合に、コアキャッチャ水浄化系弁29を開にしてコアキャッチャ水浄化系配管28を介してコアキャッチャ7内の冷却水を、サプレッションプール水を処理する既存の水浄化系配管26に排出することで、適切に冷却水を処理することが可能となる。
【0051】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成を置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…原子炉圧力容器、2…原子炉格納容器、3…ドライウェル、3a…下部ドライウェル、4…サプレッションプール、5…サプレッションチャンバ、6…水平ベント管、7…コアキャッチャ、8…原子炉格納容器の下部床面、9…ヘッダ管、10…傾斜管、11…鉛直管、12…犠牲層、13…冷却水供給配管、14…鉛直管の出口部、15…サプレッションプールの最大水位、16…溶融開放機構、17…炉心、18…炉心溶融物、19…コアキャッチャの側面上端、20…溶融金属、21…水平配管、22…溶融弁、23…弁、24…ドレン配管、25…ドレン弁、26…水浄化系配管、27…水浄化系弁、28…コアキャッチャ水浄化系配管、29…コアキャッチャ水浄化系弁、30…ペデスタル側壁。