特許第6605403号(P6605403)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605403
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】調節ボルト付き機器
(51)【国際特許分類】
   F16B 41/00 20060101AFI20191031BHJP
   F16B 21/20 20060101ALI20191031BHJP
   F16B 39/18 20060101ALI20191031BHJP
   F16B 39/02 20060101ALI20191031BHJP
   F16B 37/14 20060101ALI20191031BHJP
   F02M 59/44 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   F16B41/00 Q
   F16B21/20
   F16B39/18
   F16B39/02 F
   F16B37/14 C
   F02M59/44 S
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-125411(P2016-125411)
(22)【出願日】2016年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-227311(P2017-227311A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2018年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】尾曽 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 直也
(72)【発明者】
【氏名】福田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】奥田 貢
(72)【発明者】
【氏名】岩永 渉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄介
(72)【発明者】
【氏名】梶原 崇弘
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−137820(JP,A)
【文献】 特開2002−130235(JP,A)
【文献】 特開2003−194034(JP,A)
【文献】 特開平08−128339(JP,A)
【文献】 特開昭53−122056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/18,39/12,39/02,
37/14,41/00,21/20,
21/16
F02M 59/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじ孔が形成されているボルト取付壁と、
前記雌ねじ孔に螺合されて前記ボルト取付壁に装着されている調節ボルトと、
前記調節ボルトに螺合されているロックナットと、
前記調節ボルト及び前記ロックナットを囲繞する筒状部を有して前記ロックナットに嵌装されているカバーと、
前記カバーを前記ロックナットに対して抜止め状態とする抜止め部、
を備えている調節ボルト付き機器であって、
前記抜止め部は、C形の止め輪と、前記止め輪を抜止め状態で内装可能に前記カバーに形成されている装着内周部と、前記止め輪を外装可能に前記ロックナットに形成されている外周溝とを有してなり、
前記外周溝は、前記装着内周部に内装されている前記止め輪の前記装着内周部からの縮径による外れを許容する溝底を備え、
前記外周溝における反ボルト取付壁側の側周面の外周部には、前記装着内周部に内装されている前記止め輪とのボルト軸方向での当接により前記止め輪を拡径する力を生じさせる傾斜面が形成され
前記止め輪は、反ボルト取付壁側の面とボルト取付壁側の面とを備えた矩形の断面形状を有している調節ボルト付き機器
【請求項2】
前記カバーの内周部には、自由状態の前記止め輪の外径よりも大径の開口部を備えて奥窄まりとなるテーパー内周面が、前記装着内周部のボルト取付壁側に形成されている請求項1に記載の調節ボルト付き機器。
【請求項3】
前記止め輪が螺旋状のものに形成されている請求項1又は2に記載の調節ボルト付き機器。
【請求項4】
前記装着内周部が内周溝により構成されている請求項1〜3の何れか一項に記載の調節ボルト付き機器。
【請求項5】
前記ロックナットは、前記ボルト取付壁に作用する第1ロックナットと、前記第1ロックナットに作用する第2ロックナットと、によるダブルナット構造に構成されている請求項1〜4の何れか一項に記載の調節ボルト付き機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調節ボルト付き機器に係り、詳しくは、調節ボルトの調節位置の改竄を防止するカバーの抜き取りを抑制させるための調節ボルト付き機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メネジ孔が形成されたボルト取付壁と、メネジ孔にネジ嵌合され、ボルト取付壁に取り付けられた調節ボルトと、調節ボルトにネジ嵌合されたロックナットと、ロックナットに回転可能に外嵌されたカバーと、カバーを抜け止めする抜け止め部を備えた、調節ボルト付き機器がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の機器では、調節ボルトでエンジンの最大出力時の燃料噴射量等を調節した後は、ロックナットをカバーで覆い、調節ボルトの調節位置の改竄を防止することができる利点がある。
【0004】
特許文献1の発明では、カバーの抜け止め部は、カバーの周壁の開口端部で構成されるカシメ部と、カシメ部を係止するロックナットの係止部を備え、カバーの周壁には、カシメ部の変形を容易にする変形用スリットが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−71345号公報(特に、図1図5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発明では、調節ボルトの調節位置を改竄するため、変形用スリットにマイナスドライバー等の工具が差し込まれ、カバーの周壁の変形や破壊により、カバーが不正に抜き取られるおそれがあった。つまり、従来技術の問題点としては、カバーが不正に抜き取られるおそれがある、ということである。
【0007】
このような実状に鑑みて、本発明の目的は、調節ボルトの調節位置の改竄を防止するカバーの不正な抜き取りを防止することができる調節ボルト付き機器を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、雌ねじ孔1が形成されているボルト取付壁2と、
前記雌ねじ孔1に螺合されて前記ボルト取付壁2に装着されている調節ボルト3と、
前記調節ボルト3に螺合されているロックナット4と、
前記調節ボルト3及び前記ロックナット4を囲繞する筒状部5Aを有して前記ロックナット4に嵌装されているカバー5と、
前記カバー5を前記ロックナット4に対して抜止め状態とする抜止め部6と、
を備えている調節ボルト付き機器において、
前記抜止め部6は、止め輪10と、前記止め輪10を抜止め状態で内装可能に前記カバー5に形成されている装着内周部11と、前記止め輪10を外装可能に前記ロックナット4に形成されている外周溝7とを有してなり、
前記外周溝7は、前記装着内周部11に内装されている前記止め輪10の前記装着内周部11からの縮径による外れを許容する溝底7aを備え、
前記外周溝7における反ボルト取付壁側の側周面26の外周部には、前記装着内周部11に内装されている前記止め輪10とのボルト軸方向での当接により前記止め輪10を拡径する力を生じさせる傾斜面27が形成され
前記止め輪10は、反ボルト取付壁側の面10aとボルト取付壁側の面10bとを備えた矩形の断面形状を有していることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の調節ボルト付き機器において、
前記カバー5の内周部には、自由状態の前記止め輪10の外径よりも大径の開口部18aを備えて奥窄まりとなるテーパー内周面20が、前記装着内周部11のボルト取付壁側に形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の調節ボルト付き機器において、
前記止め輪10が螺旋状のものに形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の調節ボルト付き機器において、
前記装着内周部11が内周溝により構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の調節ボルト付き機器において、
前記ロックナット4は、前記ボルト取付壁2に作用する第1ロックナット4Aと、前記第1ロックナット4Aに作用する第2ロックナット4Bと、によるダブルナット構造に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、出荷後の調節ボルトの再調節ができないように、調節ボルトを封印するカバーの不正な抜き取りが防止される効果が得られる。
即ち、詳しくは実施形態の項にて説明するが、ボルト取付壁から離れる向きにロックナットから抜き取られようとするカバーは、止め輪を介してロックナットに係止されるように構成されている。故に、特許文献1の発明と異なり、カバーの周壁に変形用スリットのような工具差し込み口が形成されないことに加え、強烈な力を必要とする止め輪のせん断破壊を行わない限りカバーを抜き取ることができないから、カバーの不正な抜き取りが防止されるようになる。
【0014】
その結果、カバー内周に形成されている装着内周部から止め輪が外れるための縮径を許容する溝底と、止め輪とのボルト軸方向の当接により拡径する力を生じさせる傾斜面と、が設けられた外周溝をロックナットに設けるなどの創意工夫により、調節ボルトの調節位置の改竄を防止するカバーの不正な抜き取りを防止することができる調節ボルト付き機器を提供することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、自由状態の止め輪の外径よりも大径の開口部を備えて奥窄まりとなるテーパー内周面が、カバーの内周部における装着内周部のボルト取付壁側に形成されているから、次の通りの作用効果が得られる。
即ち、ロックナットに止め輪を外嵌装着して外装した状態で、調節ボルトに螺装されているロックナットに被せるようにカバーをボルト軸方向に移動させると、テーパー内周面との当接によって止め輪が第2溝部において縮径変化し、遂には止め輪は装着内周部に拡径移動して内嵌装備される。
つまり、カバーをボルト取付壁側に動かすだけで、カバーを抜止め状態でロックナットに装着させることができる、という簡単な組付作業で済む便利さがある。
【0016】
請求項3の発明によれば、止め輪の螺旋形状により、装着内周部や外周溝に嵌っている状態では、それら装着内周部や外周溝とボルト軸方向で常時押圧付勢されて当接する状態をもたらすことが可能となる。その結果、振動による止め輪の振動によるビビリ音の軽減又は抑制など、騒音抑制や防止に役立つ利点がある。
【0017】
請求項4の発明によれば、止め輪が外装される装着内周部が内周溝で構成されているから、ボルト軸方向でカバーとロックナットとの位置決めも行える利点がある。
【0018】
請求項5の発明によれば、ロックナットが、ボルト取付壁に作用する第1ロックナットと、第1ロックナットに作用する第2ロックナットとによるダブルナット構造に構成されているから、シングルナット構造に比べて、より強固で確実に調節ボルトの位置決め固定が行える。また、カバーの取付構造部が必須となる第2ロックナットを、ボルトのロック機能が求められる第1ロックナットとは別体としてあるので、カバーの抜止め構造部の設計自由度が向上する利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】燃料噴射量の調節ボルトの構造を示す一部切欠きの正面図
図2図1の調節ボルトを備えるディーゼルエンジンの要部の縦断断面図
図3】(a)自由状態での袋ナットの装着溝と止め輪との位置関係を示す要部断面図、(b)カバー下降操作開始時における止め輪の縮径変形を示す要部断面図
図4】(a)カバー下降による止め輪のカバー内周溝への拡径変形を示す要部断面図、(b)図1に示すカバー装着時の状態を示す要部断面図
図5】カバー引上げに伴う調節阻止機構の作用を示す要部の断面図
図6】(a)止め輪の平面図、(b)止め輪の正面図
図7】カバーの回止め構造を示す要部の平面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による調節ボルト付き機器の実施の形態を、その一例として、立形で直列複数気筒の燃料調節ボルト付きディーゼルエンジンについて、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図2に示されるように、実施形態1によるディーゼルエンジンは、燃料噴射装置30を備えている。燃料噴射装置30は、ポンプ収容ケース31と、燃料噴射ポンプ32と、メカニカルガバナ29とを備えている。
ポンプ収容ケース31は、クランクケース(図示省略)の幅方向を横方向として、クランクケースの横側にクランクケースと一体鋳造で形成され、上壁33にポンプ差込み口34を備え、ポンプ差込み口34の開口周縁部にポンプ取付け座35が設けられている。
【0022】
燃料噴射ポンプ32はボッシュ型のプランジャ式列形ポンプで、ポンプ収容ケース31内にはポンプ差込み口34から燃料噴射ポンプ32のプランジャ部36が差し込まれ、燃料噴射ポンプ32のフランジ部37が六角穴付ボルトなどによってポンプ取付け座35に取り付けられ、プランジャ部36がポンプ収容ケース31内に収容されている。
【0023】
図2に示されるように、メカニカルガバナ29は、ポンプ収容ケース31内に収容され、燃料噴射ポンプ32を調量制御し、負荷変動に拘わらず、エンジン回転数を調速レバー28で設定された目標回転数に維持する。メカニカルガバナ29は、ガバナスプリング(図示省略)のバネ力とフライウェイト(図示省略)のガバナ力との不釣合い力で揺動するガバナレバー38を備え、ガバナレバー38の揺動を介して燃料噴射ポンプ32の燃料調量ラック39が調量される。
【0024】
図2に示されるように、ポンプ収容ケース31の上壁33には、燃料調節装置40が設けられている。この燃料調節装置40は、エンジンの定格回転数での最大燃料噴射量が調節され、エンジンの最大出力が調節される。
図1に示されるように、燃料調節装置40は、ボルト先端部3aと基端部の回し調節溝3bとを有してボルト取付壁2(ポンプ取付け座35)に螺着されている軸ボルト状の調節ボルト3と、ロックナット4とを備えて構成されている。つまり、工具係合部である回し調節溝3bを用いてマイナスドライバーなどで調節ボルト3を回して調節し、その後にロックナット4を操作して調節ボルト3を位置決め固定させることができる。なお、12は平ワッシャである。
【0025】
燃料調節装置40の要の部品である調節ボルト3は、雌ねじ孔1に螺合されてボルト取付壁2に貫通装着されており、そのボルト先端部3aはポンプ収容ケース31内に突出している。ボルト先端部3aは、ガバナレバー38の燃料増量揺動側に位置されており、ガバナレバー38を受け止めて、ガバナレバー38の燃料増量側の揺動位置を決めている。従って、調節ボルト3の締め込み量の調節により、最大燃料噴射量が調節可能に構成されている。
【0026】
〔実施形態1〕
図1図2に示されるように、調節ボルト3の回し操作を不可として、燃料調節装置40の調節機能が行えないように阻止する調節阻止機構Sが装備されている。
調節阻止機構Sの機能は、図1に示されるように、調節ボルト3でエンジンの最大出力の燃料噴射量を調節した後は、ロックナット4をカバー5で覆って封印し、調節ボルト3の調節位置の改竄を防止する、というものである。カバー5は、一旦ロックナット4に装着すると、破壊させない限り抜き出すことができないように構成されている。次に、その調節阻止機構Sについて詳述する。
【0027】
調節阻止機構Sは、図1図2に示されるように、雌ねじ孔1が形成されているボルト取付壁2と、調節ボルト3と、調節ボルト3に螺合されているロックナット4と、調節ボルト3及びロックナット4に囲繞する筒状部5Aを有してロックナット4に嵌装されているカバー5と、カバー5をロックナット4に対して抜止め状態とする抜止め部6と、を備えて構成されている。
【0028】
ロックナット4は、平ワッシャ12を介してボルト取付壁2に接する第1ロックナット4Aと、平ワッシャ13を介して第1ロックナット4Aに接する第2ロックナット4Bと、を有するダブルナット構造に構成されている。第2ロックナット4Bは、円柱状の胴部14、ナット部15、及び半円球面状の袋部16を有する袋ナットで構成されている。
【0029】
抜止め部6は、C形の止め輪10と、止め輪10を抜止め状態で内装可能にカバー5に形成されている装着内周部11と、止め輪10を外装可能に第2ロックナット4Bの胴部14に形成されている外周溝7とを有して構成されている。ここで、装着内周部11の一例として、内周溝11が採用されている。
【0030】
外周溝7は、図5に示されるように、内周溝11に内嵌装着、即ち内装されている止め輪10の縮径による内周溝11からの外れを許容する溝底7aを備えている。そして、外周溝7における反ボルト取付壁側(上側)の上方側周面26の外周部には、内周溝11に内装されている止め輪10とのボルト軸方向21での当接により止め輪10が拡径される力を生じさせる傾斜面(傾斜周面)27が形成されている。傾斜面27としては、C面取り加工によるものが挙げられる。
【0031】
図5に示されるように、カバー5において止め輪10を強制縮径させて通過させる最も小さい径を持つ主内周面19、詳しくは、テーパ内周面20と内周溝11との間の主内周面(通過制限内周面)19の径(直径)をD、止め輪10の径方向幅をw、外周溝7の溝底7aの径(直径)をdと定義する。この場合、「前記装着内周部11に内装されている前記止め輪10の前記装着内周部11からの縮径による外れを許容する溝底7a」を実現するために、次の式(1)が成り立つように構成されている。
(1)…d<D−2w
この場合、内周溝11の径(直径)をΦとすると、内周溝11に嵌っているときの止め輪10の外径が内周溝11の径Φに一致している状態、即ち、内周溝11の径Φが止め輪10の自由状態の外径と同じ又は少し小さい状態が望ましいが、内周溝11の径Φが止め輪10の自由状態の外径より少し大きくても良い。
【0032】
図5に示されるように、外周溝7の上方側周面26の外周側端には、内周溝11に嵌っている状態の止め輪10の内上角部10cが当接する傾斜面27が形成されている。この傾斜面27は、ボルト軸方向21に対する角度θが45〜70度に、好ましくは55〜65度に設定されている。図5においては、θは60度で描かれている。従って、止め輪10がボルト軸方向21で傾斜面27に押し付けられると、その傾斜角度θによる径外側への分力(図5のF3を参照)が発生する。つまり、傾斜面27の上記角度θにより、「外周溝7における反ボルト取付壁側の側周面26の外周部には、装着内周部11に内装されている止め輪10とのボルト軸方向での当接により止め輪10を拡径する力を生じさせる傾斜面27が形成されている」という構成が可能となっている。
【0033】
カバー5は、図1図2に示されるように、円筒断面を有する筒状部5Aと、中心に円形の孔17を備える蓋部5Bとを有して構成され、筒状部5Aの開口側は径の大きい補強部22に形成されている。
筒状部5Aの内周部は、最も径が大きく均一径を備えてボルト取付壁側(先端側)に形成されている開口内周面18と、開口内周面18よりも小径で反ボルト取付壁側(基端側)に形成されている主内周面19と、ボルト軸方向21で径を徐変させて開口内周面18と主内周面19とを繋ぐテーパー内周面20とにより構成されている。
つまり、カバー5の内周部には、自由状態の止め輪10の外径よりも大径の開口部18aを備えて奥窄まりとなるテーパー内周面20が、内周溝11のボルト取付壁側に形成されている。主内周面19におけるテーパー内周面20との境目付近に形成されている。
【0034】
なお、カバー5の補強部22には、図7に示されるように、断面形状がD形状となるように、一部が削られたような面である平坦面22Aが形成されている。その平坦面22Aは、ロックナット4への装着状態において、燃料噴射ポンプ32のフランジ部37の平坦な側面37aに隙間少なく近接配置される状態に、その寸法や形状が設定されている。従って、ロックナット4に装着された状態では、平坦面22Aと側面37aとの近接対向配備構成により、カバー5の回動操作ができないように構成されている。
【0035】
止め輪10は、図6(a)に示されるように、径方向幅aが一定のサークリップ、即ちC形の止め輪10に構成されている。そして、図6(b)に示されるように、止め輪10は、その厚み方向に捻られたは螺旋状のものに形成されている。例えば、コイルバネを作る要領により、その螺旋状の止め輪10が製作されている。この螺旋形状により、内周溝11や外周溝7に嵌っている状態では、それら内周溝11や外周溝7とボルト軸方向21で常時押圧付勢されて当接する状態をもたらすことが可能であり、振動によるビビリ音などの騒音防止に役立つ利点がある。
【0036】
次に、調節阻止機構Sにおけるカバー5のロックナット4への装着手順と作用について説明する。まず、図6に示す止め輪10を、調節ボルト3に螺着固定されている第2ロックナット4Bの外周溝7に嵌め入れる。
次いで、図3(a)に示されるように、カバー5を補強部22が下となる姿勢で、調節ボルト3の上方から被せるように下降させる。このとき、開口内周面18は自由状態の止め輪10の外径より大きいので、止め輪10は、外周溝7の下方側周面23に載っている状態が維持されている。
【0037】
カバー5の嵌め入れ下降を続けると、図3(b)に示されるように、テーパー内周面20が止め輪10に外接し、そのテーパー内周面20のボルト軸方向21に対する緩い傾斜角度によって径内側方向への強い力が生じ、止め輪10は、外周溝7の下方側周面23に接した状態のまま強制的に縮径変形される。
【0038】
引き続きのカバー5の下降により、図4(a)に示されるように、相対的に止め輪10は、テーパー内周面20の終端(上端)に続く主内周面19を乗越えて内周溝11に位置した途端、弾性復元力によって瞬間的に拡径変形して内周溝11に嵌り込んで内嵌装着される。そして、図4(b)に示されるように、カバー5は、内周溝11の反ボルト取付壁側(上側)となる上側周面24が、止め輪10の上面10aに当接する位置まで下降して止まり、それが図1に示す装着状態である。なお、止め輪10の拡径弾性力が強い場合は、下端位置までカバー5が降りないこともありうる。
【0039】
さて、第2ロックナット4Bに組付けられた装着状態(図1図5を参照)のカバー5を外そうとして、上方に引っ張った場合について説明する。
図4(b)に示される装着状態にあるカバー5を引き抜こうとすると、図5に示されるように、内周溝11のボルト取付壁側(下側)となる下側周面25が、外周溝7の下方側周面23に載っている止め輪10に当接して連れ上り移動させ、止め輪10が上方側周面26に当接して止まる。
【0040】
図5に示される状態から、なおもカバー5を引き上げようとしても、内周溝11の下側周面25で連れ上り移動しようとする止め輪10の上面10aが外周溝7の上方側周面26に当接しているので、それ以上のカバー5の引き上げがストップされる。
このとき、図5に示されるように、止め輪10における内周側かつ上側の丸みを帯びた内上角部10cは、上方側周面26の外周部に形成された傾斜面27に当接している。
故に、図5に力のベクトルを矢印で示すように、カバー5の抜き取り力F1により、止め輪10を拡径させようとする方向の力F3を生じさせることになり、止め輪10が外周溝7の径内側に移動して内周溝11から外れる縮径外れが起きないように牽制阻止される。
【0041】
このとき、内周溝11の下側周面25の内周端のC面取り加工部25aと、止め輪10における外周側かつ下側の丸みを帯びた外下角部10dとのそれぞれの大きさや相互の関係によっては、外下角部10dがC面取り加工部25aに当接する場合があり、その場合には止め輪10を縮径させようとする力F2が生じる。
しかしながら、F3>F2となるように、止め輪10の各角部10c、10d、傾斜面27、及びC面取り加工部25aの角度や寸法が定められているので、やはり、止め輪10は内周溝11の溝底11aに当接する状態が維持され、従って、カバー5の抜き出しは阻止されるように機能する。
【0042】
図5に示される例では、傾斜面27と内上角部10cとが当接し、その当接箇所のボルト軸方向21に対する角度は約60度になっている。これに対して外下角部10dは、C面取り加工部25aそのものではなく、それ25aと下側周面25との境目の角部に当接し、その当接箇所のボルト軸方向21に対する角度は約75度になっている。つまり、内上角部10cと傾斜面27とが当接している部位のボルト軸方向21に対する角度は、外下角部10dとC面取り加工部25aとが当接している部位のボルト軸方向21に対する角度よりも小さくなるよう構成されている。このような構成により、F3>F2となるのである。
【0043】
以上述べたとおり、止め輪10を有するロックナット4が螺装された調節ボルト3に、カバー5を、その内周溝11に止め輪10が内装されるまで下降移動させて組付けると、その後は、カバー5を引き上げて取り外すことは不可能となる調節阻止機構Sが構成されている。故に、カバー5のロックナット4への(調節ボルト3への)装着により、調節ボルト3の回し操作ができないように調節阻止機構Sが機能する。
【0044】
カバー5を無理やり外すには、止め輪10をせん断破壊させる必要があり、例えば、カバーをロックナットなどに圧入させる手段や、或いはカバーの下端を部分的に径内側に切り折り曲げてロックナットに引っ掛ける手段に比べて、カバー5の引き上げ耐力が格段に向上(例:耐荷重が1〜2トン)する利点がある。
【0045】
〔別実施例〕
実施形態1においては、二つのロックナット4A,4Bによりロックナット4が構成されているが、カバー5の係止可能な一つのロックナット4を有する調節ボルト付き機器であっても良い。
装着内周部11としては、内周溝11のほか、溝底11aがカバー5の上端まで延びて上側周面24が省略された異径段付部に構成されても良い。
【符号の説明】
【0046】
1 雌ねじ孔
2 ボルト取付壁
3 調節ボルト
4 ロックナット
4B 袋ナット
5 カバー
5A 筒状部
6 抜止め部
7 外周溝
7a 溝底
10 止め輪
11 装着内周部
18a 開口部
20 テーパー内周面
26 側周面
27 傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7