(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続運転において、反応帯域に存在するスラリーの固体濃度が400g/L位以上460g/L以下、反応帯域に存在するスラリーの滞留時間が20時間未満、以下の式で求められるスループットが25g/Lh超に制御されている、請求項1に記載の方法。
[スループット(g/Lh)=連続運転開始後の定常状態で取得した複合金属水酸化物からなる粒子の乾燥総重量(g)÷反応帯域容積(L)÷上記定常状態にあった時間(h)]
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の歴史は古く、その商業生産は1990年代に始まっている。しかしながら、リチウムイオン電池の開発は、2000年以降の携帯端末、スマートフォン、電気自動車などの普及によって本格的に発展したと言ってよい。リチウムイオン電池は、他の電池と同様に正極、負極、電解質、外装体を主な構成部材とするが、中でも正極に用いられる正極活物質はリチウムイオン電池の電池性能を左右する重要な材料である。リチウムイオン電池に用いられる正極活物質としては、コバルト酸リチウム、三元系複合酸化物、ニッケル系複合酸化物、スピネル型複合酸化物、オリビン型化合物等が知られており、中でもコバルト酸リチウム、三元系複合酸化物、ニッケル系複合酸化物は大きな放電容量を持つ、層状の結晶構造を持つ複合酸化物として知られている。
【0003】
一般的に、層状複合金属酸化物からなる正極活物質の製造は前駆体である複合金属水酸化物とリチウム化合物を粉体混合し、酸化雰囲気下で焼成することにより製造される。焼成工程では前駆体である複合金属水酸化物の粒子の形状がほぼ維持される。したがって正極活物質の製造において粒子形状が球状である前駆体を用いると粒子形状が同じく球状となった正極活物質が得られる。一般的に、粉体を充填・圧縮する場合は、粉体を構成する粒子がより球状に近いほど粒子間の空隙が少ないため、より高密度で粉体を充填・圧縮することができる。正極活物質粉体の場合、その充填時の密度(タップ密度)が高いことは、リチウムイオン電池で電極の単位体積当たりの正極活物質量が多いことを意味している。したがって、球状でより高いタップ密度を示す正極活物質の粒子は、リチウムイオン電池の充放電特性にとって好ましい。
【0004】
このような前駆体としての複合金属水酸化物は、一般的には、可溶性金属塩の水溶液にアルカリ水溶液及び錯化剤を加える共沈法により製造される。共沈反応において、反応スラリー中の複合金属水酸化物粒子同士が攪拌によって衝突し次第にその形状は球状に近づく。このような複合金属水酸化物粒子の球状化は、スラリー中の粒子の衝突頻度がより高い、高固体濃度のスラリーで顕著である。
【0005】
しかし、各種金属水溶液から金属水酸化物を沈殿させる場合には、反応帯域に供給される各種金属水溶液の濃度には制限があるため反応帯域のスラリーに含まれる金属水酸化物の濃度は制限される。例えば、飽和硫酸ニッケル水溶液と飽和水酸化ナトリウム水溶液を出発物質とした水酸化ニッケルの沈殿反応を取り上げる。出発物質として60℃の硫酸ニッケル飽和水溶液を用いる場合、その1リットルに含まれる硫酸ニッケルは約2.1molである。その1リットルを完全に中和して水酸化ニッケルを生成させるために必要な飽和水酸化ナトリウム水溶液は0.18リットルである。沈殿反応による体積変化を無視すると、1リットルの硫酸ニッケル飽和水溶液と0.18リットルの飽和水酸化ナトリウム水溶液とからなる合計1.18リットルの原料から沈殿反応によって約197gの水酸化ニッケルが生成する。化学量論的には、この沈殿反応帯域にあるスラリーの水酸化ニッケルの最大濃度は197/1.18≒167g/Lである。一方、飽和硫酸コバルト水溶液と飽和水酸化ナトリウム水溶液を出発物質とした水酸化コバルトの沈殿反応では、硫酸ニッケルに比べて硫酸コバルトは水に対する溶解性が低いために、沈殿反応帯域にあるスラリーの水酸化コバルトの最大濃度は上記水酸化ニッケルの最大濃度には達しない。
【0006】
このような制限に抗してできるだけ高濃度の複合金属水酸化物スラリーを製造する方法が提案されている。特許文献1には、反応原料水溶液を同時に且つ連続的に反応槽に供給し、形成される金属水酸化物粒子のスラリ−を、固液分離機能を有する装置、好ましくは、デカンタ−型遠心分離機を用いて媒体液のみを除去して、反応系の容量をほぼ一定に保持しながらスラリ−中の金属粒子濃度を連続的に高め、20〜50重量%の濃度に濃縮された金属水酸化物粒子含有スラリ−を連続的又は間欠的に取り出す製造方法が開示されている。特許文献2には、反応槽の外周部にスラリー沈降層を設け、生成粒子を含まない反応母液のみをオーバーフローにより抜き出す方法が開示されており、更に特許文献3には固液分離装置として、シックナー装置の他に、スクリューデカンタや液体サイクロンなどを用いることが開示されている。このようにスラリーの固液分離を行って母液のみを反応系外に取り出し、高濃度化されたスラリーを反応系内に戻すことで、化学量論量以上の固体濃度を実現することは可能である。
【0007】
しかしながら、スクリューデカンタや一般的な回転式遠心分離機を用いたスラリー濃縮方法は可動部を有する機械装置を用いるため、装置のコスト及びメインテナンスの為のコストが掛かる。一方、沈降層やシックナー装置の様な粒子の重力による自然な沈殿力にのみ依存する装置では粒子の沈降距離が長いため、母液と粒子が十分に分離するためには長時間を要する。さらに液体サイクロンは可動部は無いものの、十分な固液分離能を得るためにはスラリーの通過速度を上げなければならず、反応装置容量に対する装置能力の許容幅が小さいという難点を有していた。
【0008】
しかもこれらの従来技術では、商業生産上重要な、前駆体の時間当たり且つ装置容量当たりの収量(いわゆるスループット)について検討されていない。一般的には、スループットを向上させるため反応器への原料供給量を上げると反応器内で生成した複合金属水酸化物の滞留時間が短くなり、複合金属水酸化物粒子同士の衝突回数が減る。このため粒子形状が球状になりきらないうちに前駆体粒子が反応器外に排出される。そこで反応器内で生成した複合金属水酸化物の滞留時間を長くするために反応装置を大型化すれば、装置への投資コストが増大するという問題が生じる。
【0009】
一方、特許文献4には、傾斜板沈降装置を有する反応器を用いて球状で規則的な粒子形状を有するニッケル・コバルト複合金属水酸化物複合金属水酸化物を製造することが記載されている。特許文献4に開示された製造方法はニッケル及びコバルトを含む複合金属水酸化物を製造するための汎用性の高い手段ではある。しかし、特許文献4に記載された製造方法では、近年特に注目されているリチウム、ニッケル、コバルト、アルミニウムを含む正極活物質(NCA系正極活物質)の前駆体、すなわちニッケルとコバルトと任意にアルミニウムを含む複合金属水酸化物の製造に注目したものではなかった。
【0010】
このように、NCA系正極活物質の前駆体として好ましい、ニッケルとコバルトと任意にアルミニウムを含む複合金属水酸化物からなる球状粒子を高いスループットで製造する方法についてはこれまで満足出来る改良がなされていない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の方法を以下に詳述する。
(出発物質)
本発明の製造方法における出発物質は、ニッケル含有水溶性化合物、コバルト含有水溶性化合物と、必要に応じて使用するアルミニウム含有水溶性化合物である。ニッケル含有水溶性化合物としては硫酸ニッケルが好ましい。コバルト含有水溶性化合物としては硫酸コバルトが好ましい。アルミニウム含有水溶性化合物としてはアルミン酸ナトリウムが好ましい。これら好ましい水溶性化合物として市販物を制限なく用いることができる。以下、出発物質として硫酸ニッケル、硫酸コバルト、アルミン酸ナトリウムを用いる場合について説明する。出発物質が上記化合物以外の水溶性化合物の場合も以下に説明する条件を適宜変更して同等の複合金属水酸化物粒子を製造することができる。
【0020】
それぞれの出発物質は水溶液として準備される。すなわち硫酸ニッケルの、濃度が一般的には15重量%以上30重量%以下、好ましくは20重量%以上25重量%以下である水溶液を準備する。硫酸コバルトの、濃度が一般的には15重量%以上25重量%以下、好ましくは18重量%以上23重量%以下である水溶液を準備する。上記硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液とは、反応器外の別々の容器に投入される。
【0021】
ニッケルとコバルトと、さらに、NCA系正極活物質を構成するアルミニウム原子の一部以上に相当するアルミニウムとを含有する前駆体を製造する場合には、アルミン酸ナトリウム水溶液が出発物質に含まれる。この場合には、ニッケル、コバルト、アルミニウムを含む複合金属水酸化物である前駆体とリチウム化合物、さらに必要に応じて追加のアルミニウム含有化合物とからなる混合物を焼成することによってNCA系正極活物質が得られる。アルミニウム原子を含まずニッケル及びコバルトを含有する前駆体を製造する場合には、出発物質にアルミン酸ナトリウムは含まれない。この場合には、ニッケルとコバルトとを含む複合金属水酸化物である前駆体と、リチウム化合物と、アルミニウム化合物とからなる混合物を焼成することによってNCA系正極活物質が得られる。本発明でアルミン酸ナトリウムは水酸化ナトリウム水溶液に溶解された状態で、すなわちアルミン酸ナトリウムのアルカリ水溶液として、反応器外の硫酸ニッケル水溶液あるいは硫酸コバルト水溶液の容器とは異なる容器に投入される。
【0022】
本発明の方法では、反応帯域の沈殿反応を制御するために、補助的な出発物質として、沈殿剤すなわち水酸化ナトリウム水溶液と錯化剤すなわちアンモニア水、純水を準備する。水酸化ナトリウム水溶液とアンモニア水の濃度は反応帯域の容量と設定すべきpHによって適宜調節される。これらの補助的な出発物質は反応器外の上記各種水溶液の容器とは別の容器に投入される。
【0023】
(混合)
本発明の方法では、攪拌手段を有する反応器において上記出発物質が混合され出発物質の反応帯域が形成される。このような反応器には上記出発物質の容器が連結する。上記出発物質が連続的にあるいは間欠的に反応器に供給され、反応帯域で共沈反応が開始、進行する。
【0024】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液とは反応器外であらかじめ混合された後に反応器内に供給される。アルミン酸ナトリウムのアルカリ水溶液は硫酸ニッケルと硫酸コバルト水溶液との混合物とは異なる流路で反応器に供給される。
【0025】
出発物質は目的とする複合金属水酸化物の元素組成に応じた濃度あるいは体積で、すなわち、出発物質に含まれるニッケル元素とコバルト元素さらに必要に応じてアルミニウム元素が反応帯域において目標とする組成:Ni
aCo
bAl
c(OH)
d(a=0.7〜0.95、b=0.02〜0.2、c=0.0〜0.1、d=2〜2.1、a+b+c=1)を有する複合金属水酸化物を生成するような量比で、反応器内部で混合される。
【0026】
本発明で用いる攪拌手段を有する反応器としては公知のものが制限なく使用される。反応器本体の形状や材質に特に制限はなく、好ましくはタンク形状のステンレス容器が使用される。攪拌手段としては例えばプロペラ、パドル、傾斜パドル、タービン、コーン、スクリュー、リボンなど各種の形状のものが使用される。出発物質の反応器への供給路は通常のパイプ、ポンプ、流量センサーから構成されており、供給量が制御される。これらの供給路は一般的には反応器の頂部に連結する。
【0027】
(反応帯域)
本発明では反応器内の反応帯域において、水酸化ニッケル、水酸化コバルト、水酸化アルミニウムの共沈反応によって組成:Ni
aCo
bAl
c(OH)
d(a=0.7〜0.95、b=0.02〜0.2、c=0.0〜0.1、d=2〜2.1、a+b+c=1)を有する複合金属水酸化物が反応帯域の水溶液に分散した微小な粒子として生成する。このような複合金属水酸化物をNCA系正極活物質の前駆体として用いた場合には反応帯域で生成した複合金属水酸化物粒子の大きさと形状がNCA系正極活物質の粒子の大きさと形状に影響するため、本発明では反応帯域で生成する複合金属水酸化物粒子の大きさと形状を最適化するための手段を設けている。
【0028】
本発明の製造方法では、反応帯域のpHは共沈反応に適当な範囲、一般的には7〜14、好ましくは9〜12の範囲に制御される。反応帯域には過剰量の水酸化ナトリウムが供給される。
【0029】
反応帯域の液温は50℃以上、好ましくは50℃以上85℃以下に制御される。50℃未満の温度で反応を行うと粒子に割れが発生する。反応帯域の液温が高すぎるとアンモニアが系内から揮発し粒子成長が妨げられるので好ましくない。
【0030】
反応帯域に与えられる攪拌動力は、4.0kw/m
3以下、好ましくは0.5kw/m
3以上3.0kw/m
3以下に制御される。攪拌動力が小さすぎると複合金属水酸化物粒子形状が歪むために目的の球状もしくは近球状複合酸化物粒子が得られない。反応帯域の攪拌動力が4.0kw/m
3を超えると最終的に得られる複合金属水酸化物粒子に割れが発生する。
【0031】
反応器には、生成した複合金属水酸化物と各種出発物質を含む水溶液からなるスラリーの抜出口が設けられる。抜出口の位置は、反応器の上部から底部までの任意の位置でよい。抜出口にはスラリーを反応器外に導く管と、この管に連結するポンプが連結する。反応帯域における沈殿反応が定常状態に達すると、ポンプによって一定流量で複合金属水酸化物スラリーが反応器から取り出され、次の乾燥工程に移される。
【0032】
本発明で用いる反応器には、好ましくは、スラリーを高固体濃度スラリー(複合金属水酸化物が目的の粒子形状で存在する画分)と低固体濃度スラリー(複合金属水酸化物が目的形状に達していない微粒状で存在する画分)に分離する装置(分離装置)が連結する。分離機構として遠心分離装置やフィルターなどが用いられる。ポンプと吸引パイプを用いて一定量のスラリーが反応帯域から吸引され分離機構まで送られる。分離された低固体濃度スラリーの一部は反応器の外に排出され、残りの低固体濃度スラリーと高固体濃度スラリーは反応器帯域に戻される。戻されたスラリーを含む反応帯域で共沈反応がさらに進行し、目的の粒子形状を有する複合金属水酸化物が生成する。このように分離機構を介してスラリーが反応帯域を循環しながら目的の複合金属水酸化物の生成が進行する。このようなスラリーの循環によって反応帯域の複合金属水酸化物の濃度を制御することができる。
【0033】
(連続運転)
本発明では反応帯域に出発物質を連続的に供給し、反応帯域の液温、pH、攪拌動力を上述のように制御して反応を開始する。本発明では、反応帯域へ出発物質を連続的に供給する一方、反応帯域からスラリーを連続的に排出する。反応開始の後、反応帯域に生成する複合金属水酸化物を含むスラリーの固体濃度が安定した時点以降を、反応器の連続運転期間と称する。本発明の連続運転期間では、反応帯域から上記分離装置を介して反応帯域のスラリーが連続的に排出され、同時に反応帯域に出発物質が連続的に供給され、反応帯域におけるスラリーは反応帯域における滞留時間が30時間未満、好ましくは20時間未満となるように速やかに反応帯域から取り出される。本発明の連続運転中、目的の複合金属水酸化物粒子の生産効率は下の式で求められるスループットが20g/Lh超、好ましくは25g/Lh超となるように制御されている。本発明の連続運転中、反応帯域に生成する複合金属水酸化物を含むスラリーの固体濃度は好ましくは400g/L以上800g/L以下に維持される。
【0034】
スループット(g/Lh)=連続運転開始後の定常状態で取得した複合金属水酸化物からなる粒子の乾燥総重量(g)÷反応帯域容積(L)÷上記定常状態にあった時間(h)
(傾斜板沈降装置)
このような複合金属水酸化物スラリーの吸引、分離、循環を、特許第5227306号公報に開示された傾斜板沈降装置を用いて行うと効率的である。傾斜板沈降装置は、溶液から固体を沈殿させることにより化合物を製造するための装置及び方法に使用される。傾斜板沈降装置を備える沈殿装置を用いると、沈殿の際に形成される固体の粒子の物理的及び化学的な性質が極めてフレキシブルに及び互いに独立して調節されることができ、テーラーメードの生成物が極めて高い空時収率で製造される。本発明の方法でこの装置を用いれば、反応帯域の固体濃度を400g/L超に維持したまま長期連続運転が可能であり、連続運間中の装置のメインテナンスはほぼ不要である。
【0035】
傾斜板沈降装置の対象は、複合金属水酸化物が生成する反応器に接続され、反応器内のスラリーを分取、その高固体濃度スラリーと水溶液と微粒子とからなる低固体濃度スラリーを分離し、スラリーの一部を反応器に返送することのできる、体型反応器・清澄器系(IRKS)である。
【0036】
傾斜板沈降装置を備えるIRKSの使用によって、化合物の沈殿後に生成物及び母液からなる生成物懸濁液の形成下に、傾斜板沈降装置を経て母液及び粒子が除去されるので、固体濃度の増加が達成される。
【0037】
反応器には、開口部が設けられていてよく、これを経て場合によりポンプを用いて、懸濁液が除去されることができ、かつ反応器へポンプ返送されることができる。均質な沈殿生成物を得るために、出発物質が、反応器中への投入の際に良好に混合されることが重要である。この反応器は、撹拌反応器としても操作されることができる。傾斜板沈降装置が設置されたIRKS中の沈殿プロセスは、生成物に依存して温度を調整することができる。IRKSにおけるプロセス温度は、必要な場合には、熱交換器を介して加熱もしくは冷却により制御される。
【0038】
IRKSは、スラリーからの化合物の分離のために使用される。傾斜板沈降装置中で、母液は、微粒分級物と共に生成物懸濁液から分離される。微量の固体を含有するこの濁った液体は、大部分が反応器へ返送され、生成物懸濁液と再び合一される。この濁った液体の一部を取り出すことにより、生成物懸濁液から微粒分級物が取り除かれ、粒度分布はより高いD50値へ変位される。傾斜板沈降装置のさらなる目的は、スラリーが予め清浄化され、固体含有量が小さな液体を提供することであり、この液体からろ過等の単純な方法で澄明な母液を分離することができる。
【0039】
傾斜板沈降装置の分離性能を高めるために、1つ又はそれ以上のラメラが取り付けられることができ、それらの上で固体粒子は、これらが沈降によってラメラの表面に達した後に、下の方へ均質に混合された懸濁液中へ滑り落ちる。傾斜板沈降装置に設けられたラメラは
図1、
図2に模式的に表される。
【0040】
ラメラ(2、5)は傾斜板沈降装置(1、4)中でその床面に対して平行平面に配置されている。ラメラは、プラスチック、ガラス、木材、金属又はセラミックからなっていてよい長方形のプレートである。ラメラ(2、5)の厚さは、材料及び生成物に依存して10cmまでであってよい。好ましくは、0.5〜5cm、特に好ましくは0.5〜1.5cmの厚さを有するラメラが使用される。ラメラ(2、5)は、傾斜板沈降装置(1、4)中に固定して取り付けられる。これらは、取り外し可能であってもよい。この場合に、これらは、傾斜板沈降装置(1、4)の内側に側面で取り付けられたレールシステム(6)又は溝(3)を介して、傾斜板沈降装置(1、4)中へ入れられる。前記レールシステム(6)の高さが調節可能に設計されていてもよく、それにより傾斜板沈降装置(1、4)にラメラ(2、5)の間隔の選択に関して大きなフレキシビリティーが付与される。傾斜板沈降装置は、丸い断面を有する円筒形に又は四角形の断面を有する平行六面体形に構成されていてよい。粒子の滑り落ちが傾斜板沈降装置の閉塞なく機能するために、傾斜板沈降装置の角度は水平面に対して20〜85゜、好ましくは40〜70゜及び特に好ましくは50〜60゜である。傾斜板沈降装置は、フレキシブルな結合部を介して反応器に取り付けられていてもよい。この実施態様の場合に、角度はプロセス中に可変に調節されることができる。
【0041】
傾斜板沈降装置によるIRKSの機能様式をよりよく理解するために、以下に、
図3に基づいて詳細に説明する。
【0042】
固体粒子(7)は、傾斜板沈降装置中で、それらの形状及びサイズに応じて、一定速度で下の方へ沈降する。例えばストークス摩擦を前提とするならば、有効重力によって引き起こされる球状粒子の沈降速度は、粒子直径の2乗に比例する。この速度は傾斜板沈降装置中の層流の速度の上方成分と重なり合っている。沈降速度が液体流の上方成分よりも小さいか又は同じである全ての固体粒子は、ラメラ(8)の表面又は傾斜板沈降装置の床面までは沈降することはできず、かつ最終的に傾斜板沈降装置の溢流と共に排出される。
【0043】
粒子の沈降速度が液体流の上方成分よりも大きい場合には、粒子の下方運動は一定の沈降速度で生じる。そのように粒子が溢流と共に傾斜板沈降装置から排出されるかどうかは、液体の一定流量で、傾斜板沈降装置に入る際の粒子とラメラの垂直方向の間隔に、並びに傾斜板沈降装置の長さ及び傾斜角度に依存する。臨界粒子半径r0が存在することが容易にわかるので、r>r0を有する全ての粒子が、傾斜板沈降装置によって完全に保持される。
図3中の直線(9)は、限界半径r0を有する粒子の軌跡を示す。半径がより大きい全ての粒子の軌跡は、水平面に対してより小さい角度を有し、故にラメラ又は床板上に確実に衝突する。これは、これらの粒子が保持されることを意味する。傾斜板沈降装置中の比、特に液体の流量を調節することにより、傾斜板沈降装置を溢流で去る微粒子の粒子直径の上限を調節することができる。
【0044】
傾斜板沈降装置の溢流が、循環容器を経て撹拌反応器へ返送される限りは、全系では何も変わらない。ポンプを用いて、固体の微細含分により濁った液体量の一部を循環容器から取り出す場合には、微粒の定義された分率が排出され、かつ粒度分布へ直接干渉することができる。それにより粒度並びに粒度分布は、他のプラントパラメーターから独立して影響を与えることができる。
【0045】
循環容器中へ入る際の固体濃度が典型的には反応器中の固体濃度0.5〜5%である濁った流れの前記の取り出しにより、反応器中の懸濁液の固体濃度ももちろん同時に高められる、それというのも、微粒含分の意図的な取り出しと共に、全系から不釣り合いに多く母液が取り出されるからである。これは通例望ましいが、しかし、反応器中の固体濃度が低い水準に保持されるべき場合及び他の物質の流れの調節により固体濃度の増加を十分に打ち消されることができない場合に望ましくない。量及び仕様に応じて、この微細含分は引き続き、再び生成物懸濁液と混合されることができる。反応器−清澄器−系中での分離が決定的である。
【0046】
この場合に、混濁物の固体濃度を高めるために、フィルタエレメントを経て、母液を循環容器から取り出し、かつ反応器へ直接ポンプ返送することが考えられる。同じ量の微粒を排出する際に、母液がより少なく取り除かれる。サイズが粒度分布のD50値の30%を越えない粒子が微粒と呼ばれる。循環容器中で前記系から母液をフィルタエレメントを介して取り出すことも有利でありうる。これにより、反応器中の固体含量を、第一に化学量論的な固体濃度の数倍に高めることができ、かつ第二に場合により沈殿反応の際に生じる中性塩の濃度と固体濃度との間の切り離しを達成することができる。反応器中の固体対塩の濃度比は、母液の取り出しの可能性により、例えば一定の塩濃度での固体濃度の増加によってだけでなく、一定の固体濃度で反応器に塩不含の溶剤が添加され、かつ同時に等量の母液が、フィルタエレメントを介して前記系から取り出されることによっても、増加されることができる。
【0047】
傾斜板沈降装置によるIRKSのフレキシビリティーの増加と同時に付加的な自由度の達成は、双方のパラメーター塩濃度及び固体含量の例で一般的な反応AX+BY→AY固体+BX溶解についてより詳細に説明される。AX及びBYは、出発物質溶液中の出発物質を表し、かつBXは母液中の溶解された塩を表す。AYは、不溶性固体として生じる生成物を表す。
【0048】
傾斜板沈降装置によるIRKSは、バッチ式に行われる沈殿に使用されることができる。しかしながら好ましくは、このIRKSは連続式操作における沈殿プロセスにより好適に使用される。
【0049】
傾斜板沈降装置は、さらに、沈殿による化合物の製造方法に関するものであり、前記方法において、個々のプロセスパラメーター、例えば(出発物質の濃度、懸濁液中の固体含量、母液中の塩濃度)は、沈殿中に互いに独立して調節され、こうして沈殿プロセス中の粒度分布の展開への制御された干渉が行われ、かつ最終的に定義された物理的性質を有するオーダーメードの生成物が特に経済的に及び極めて高い空時収率で製造される。
【0050】
傾斜板沈降装置の対象は故に、次の工程からなる沈殿による化合物の製造方法である:
・少なくとも第一及び第二の出発物質溶液を準備する工程、
・少なくとも第一及び第二の出発物質溶液を請求項1記載の反応器中で合一する工程、
・反応器中に均質混合される反応帯域を発生させる工程、
・反応帯域中で化合物を沈殿させ、不溶性生成物及び母液からなる生成物懸濁液を製造する工程、
・沈殿された生成物から母液を、傾斜板沈降装置を介して部分的に分離する工程、
・沈殿生成物の濃度が化学量論的な濃度よりも高い沈殿生成物懸濁液を製造する工程、
・生成物懸濁液を反応器から取り出す工程、
・沈殿生成物をろ過、洗浄及び乾燥する工程。
【0051】
傾斜板沈降装置による方法における出発物質溶液は、反応器中へ、ポンプ系を用いて導通される。これが撹拌反応器を備えた傾斜板沈降装置によるIRKSである場合には、出発物質は、撹拌機を使用しながら混合される。IRKSが噴流型反応器の形で設計されている場合には、出発物質の混合は、ノズルから出てくるジェットにより行われる。出発物質のさらにより良好な混合を達成するために、付加的に空気又は不活性ガスも、反応器中へ導通されていてよい。均一な生成物品質を達成するために、出発物質が反応器の反応帯域中で均質に混合されていることが必要である。出発物質を混合するかもしくは均質化する間に既に、生成物及び母液が発生する沈殿反応が始まる。生成物懸濁液は、反応器下部中で所望の濃度まで豊富化される。生成物懸濁液の意図的な豊富化を達成するために、傾斜板沈降装置による方法において、母液は、傾斜板沈降装置を介して、部分的に除去される。好ましくは、傾斜板沈降装置の溢流の取り出しによる母液の部分的な分離は、ポンプを用いて行われる。
【0052】
傾斜板沈降装置による方法に従って、沈殿生成物の化学量論的に可能な濃度の何倍でありうる沈殿生成物懸濁液の濃度が達成される。これは、可能な化学量論値よりも20倍まで高くなりうる。懸濁液中の特に高い生成物濃度を達成するためには、大量の母液を部分的に除去することが必要である。それどころか95%までの母液が部分的に分離されることができる。部分的に分離すべき母液の量は、選択されたプロセスパラメーター、例えば出発物質濃度、母液の塩濃度並びに懸濁液の固体濃度に依存する。
【0053】
本発明の沈殿工程ではこのような傾斜板沈降装置を
図4に模式的に示すように反応器に結合して複合金属水酸化物を製造することができる。
【0054】
回転数を制御可能な撹拌機(10)、熱交換器(11)、傾斜板沈降装置(12)を備えた反応器(13)に、独立したパイプ及びポンプ(23)〜(27)からなる供給経路が接続する。ポンプ(23)〜(27)のそれぞれから連続的に硫酸ニッケル水溶液(a液)、硫酸コバルト水溶液(b液)、アルミン酸ナトリウム水溶液(c液)、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水が一体型反応器−清澄器−系(IRKS)の反応帯域中へ搬送される。反応器(13)で生じるスラリーは、ポンプ(14)を用いて液位の調節装置を介して取り出される。大きな粒子が製造される場合に、沈降の危険を予防するために、循環ポンプ(16)を運転することは有利でありうる。
【0055】
ポンプ(17)は、極めて低い濃度の微粒を有するスラリーを、撹拌機が備えられた循環容器(18)中へ搬送し、かつそこから反応器(13)中へ返送することができる。液体の体積流量及び傾斜板沈降装置の寸法決定に依存した分離サイズを下回る粒子のみが、循環容器(18)中へ搬送される。ポンプ(17)を用いて取り出された全ての濁った流れが、自由な溢流(19)を経て返送される限りは、反応器(13)について全く何も変わらない。
【0056】
循環容器(18)からから澄明な母液を取り出し、かつこれを第二の循環容器(20)中へ搬送することによって母液及び/又は固体粒子を前記系から取り出すこともできる。ポンプ(21)は第一の循環容器(18)から澄明な母液を取り出し、かつこれを第二の循環容器(20)中へ搬送する。第二の循環容器(20)内の溶液のpH値などを連続的に分析し、共沈反応器全体で母液の組成を制御することができる。
【0057】
また、第一の循環容器(18)に蓄積された澄明な母液をポンプ(22)によって排出することによって、澄明な母液に含まれるきわめて微粒の沈殿物を沈殿反応器から除去することもできる。
【0058】
(複合金属水酸化物の分離・乾燥)
反応器内で目的量の原料が反応し終わった時点で、反応器の排出口からスラリーを取り出し、濾過する。こうして複合金属水酸化物を含む固体画分が分離される。さらに固体画分を洗浄する。洗浄は常法に従えばよく、アルカリ性水溶液と純水を用いて複合金属水酸化物に含まれる硫酸塩、アルカリ成分が十分除去されるまで洗浄する。こうして、水分を含む複合金属水酸化物が分離される。
【0059】
次に、分離した水分を含む複合金属水酸化物を乾燥する。乾燥方法は、大気圧下での熱風乾燥、赤外線乾燥、高周波乾燥、真空乾燥などのいずれでもよい。短時間で乾燥することができる真空乾燥が好ましい。複合金属水酸化物中の水分が1重量%程度になるまで乾燥する。
【0060】
(前駆体)
こうして、リチウムイオン電池用正極活物質の前駆体としての複合金属水酸化物粒子が得られる。当該発明の方法によれば、大粒径から小粒径まで幅広い大きさの、球状でタップ密度の高い複合金属水酸化物粒子を製造することができる。すなわち平均粒径が10μm以上の球状で割れのない複合金属水酸化物粒子、平均粒径が5μm以上10μm未満の球状で割れのない複合金属水酸化物粒子、平均粒径が5μm未満の球状で割れのない複合金属水酸化物粒子のいずれもを製造することができる。このような複合金属水酸化物粒子は圧縮条件下での変形や割れがなく、高いタップ密度を示す。本発明の方法で得られた複合金属水酸化物粒子のタップ密度は2.0g/cm
3以上に達する。
【0061】
(正極活物質)
上記前駆体、リチウム化合物、及び必要に応じて用いるアルミニウム化合物とからなる混合物を酸素存在下に焼成することによって、リチウムイオン電池用正極活物質が得られる。焼成温度は450℃〜950℃の範囲、好ましくは600℃〜900℃の範囲である。焼成時間は2時間〜20時間、好ましくは3時間〜15時間である。焼成回数は1回でも複数回でもよい。焼成に用いる設備はこのような焼成条件を達成できるものであれば制限はない。一般的には管状炉、マッフル炉、ロータリーキルン(RK)、ローラーハースキルン(RHK)が用いられる。好ましくはRHKまたはRKが用いられる。正極活物質中のあ余剰アルカリ成分を除去するために、焼成された混合物を水洗、乾燥することが好ましい。水洗、乾燥の条件に特に制限はない。通常、焼成物100gに対して100ml以上の量の純水を加えて焼成物と水を十分に接触させ、その後リチウム金属複合酸化物粉末を分離し、酸素を含む気流中で乾燥する。得られた正極活物質を用いて正極を製造する方法にも制限はない。通常の方法により得られた正極活物質を含む正極活物質合剤を調製し、電極上に塗布乾燥して正極部材を製造することができる。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
以下に示す出発物質を用いた。
・硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、これらの混合物:ニッケル濃度8.2重量%の硫酸ニッケル水溶液を準備する。コバルト濃度8.2重量%の硫酸コバルト水溶液を準備する。上記硫酸ニッケル水溶液と上記硫酸コバルト水溶液を、硫酸ニッケル水溶液:硫酸コバルト水溶液=84:16(重量比)部で混合する。この混合物を反応器に供給路を介して連結する容器に投入した。
・アルミン酸ナトリウムのアルカリ水溶液:水酸化ナトリウム濃度200g/Lの水酸化ナトリウム水溶液1000gに、アルミン酸ナトリウム3.567gを溶解した。
・錯化剤:アンモニア濃度25重量%で含むアンモニア水。
・純水
図4に示す反応器内に濃度133.6g/Lの硫酸ナトリウム水溶液を満たし、傾斜板沈降装置を介して水溶液を循環させながら、反応帯域に0.63kw/m
3の攪拌動力が与えられるように撹拌回転数を500rpmに設定した。反応帯域の液温を65℃に維持した。上記硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液の混合物、上記アルミン酸ナトリウムのアルカリ水溶液、上記錯化剤を反応帯域に供給した。さらに反応帯域に水酸化ナトリウムが3.5g/Lの濃度で過剰に存在するように、上記水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応帯域のpHを11.7以上12.0に制御し、反応帯域内に出発物質を供給するとともに反応帯域外へスラリーを排出した。こうして反応帯域で共沈反応が開始した。
【0063】
反応帯域のスラリーの固体濃度が安定したことを確認した後、反応帯域において液量、固体濃度、スラリーの滞留時間を表1に示す値に維持して、72時間連続運転した。その後、反応帯域からポンプ14を介してスラリーを排出した。スラリーをろ過して複合金属水酸化物を分離、洗浄した。この複合金属水酸化物を大気中80℃で乾燥し、重量(g)を測定し、以下の式により連続運転におけるスループットを求めた。
【0064】
スループット(g/Lh)=連続運転開始後の定常状態で取得した複合金属水酸化物からなる粒子の乾燥総重量(g)÷反応帯域容積(190L)÷上記定常状態にあった時間(72h)
得られた複合金属水酸化物の組成はNi
0.825Co
0.155Al
0.02(OH)
2であった。こうして粉末の状態でニッケル・コバルト・アルミニウム複合金属水酸化物粒子を得た。このニッケル・コバルト・アルミニウム複合金属水酸化物の性状を以下の観点で評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(タップ密度) 得られた複合金属水酸化物粉体を約30g秤量し100mlのガラス製メスシリンダーにとる。メスシリンダーの口を密閉した後、3000回タッピングを行った。タッピング後の複合金属水酸化物粉体の体積と重量からタップ密度を求めた。
【0066】
(平均粒径) 得られた複合金属水酸化物粒子の平均粒径(D
50)をレーザー散乱型粒度分布測定装置(マルバーン製、マスターサイザー LS−230)を用いて測定した。
【0067】
(粒子の形状)得られた複合金属水酸化物を走査型電子顕微鏡(日本電子製)にて観察し、割れの有無、粒子形状を判別した。写真を
図2〜10として掲載する。
【0068】
[実施例2]
以下に示す出発物質を用いた。
・硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、これらの混合物:ニッケル濃度8.2重量%の硫酸ニッケル水溶液を準備した。コバルト濃度8.2重量%の硫酸コバルト水溶液を準備した。上記硫酸ニッケル水溶液と上記硫酸コバルト水溶液を、硫酸ニッケル水溶液:硫酸コバルト水溶液=85.8:14.2(重量比)部で混合した。この混合物を反応器に供給路を介して連結する容器に投入した。
・錯化剤:アンモニア濃度25重量%で含むアンモニア水。
・水酸化ナトリウム水溶液
・純水
図4に示す反応器内に濃度133.6g/Lの硫酸ナトリウム水溶液を満たし、傾斜板沈降装置を介して水溶液を循環させながら、反応帯域に2.32kw/m
3の攪拌動力が与えられるように撹拌回転数を1111rpmに設定した。反応帯域の液温を50℃に維持した。上記硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液の混合物、上記水酸化ナトリウム水溶液、上記錯化剤を、反応帯域に供給した。さらに反応帯域に水酸化ナトリウムが7g/Lの濃度で過剰に存在するように、上記水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応帯域のpHを11.7〜12.0に制御し、反応帯域内に出発物質を供給するとともに反応帯域外へスラリーを排出した。こうして反応帯域で共沈反応が開始した。
【0069】
反応帯域のスラリーの固体濃度が安定したことを確認した後、反応帯域において液量、固体濃度、スラリーの滞留時間を表1に示す値に維持して、72時間連続運転した。その後、反応帯域からポンプ14を介してスラリーを排出した。スラリーをろ過して複合金属水酸化物を分離、洗浄した。この複合金属水酸化物を大気中80℃で乾燥し、重量(g)を測定し、以下の式により連続運転におけるスループットを求めた。
【0070】
スループット(g/Lh)=連続運転開始後の定常状態で取得した複合金属水酸化物からなる粒子の乾燥総重量(g)÷反応帯域容積(190L)÷上記定常状態にあった時間(72h)
得られた複合金属水酸化物の組成はNi
0.858Co
0.142(OH)
2であった。こうして粉末の状態でニッケル・コバルト・アルミニウム複合金属水酸化物粒子を得た。このニッケル・バルト・アルミニウム複合金属水酸化物の性状を実施例1と同じ観点で評価した。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例3]
実施例2と同じ出発物質を用いて、
図4に示す反応器内に濃度133.6g/Lの硫酸ナトリウム水溶液を満たし、傾斜板沈降装置を介して水溶液を循環させながら、反応帯域に2.32kw/m
3の攪拌動力が与えられるように撹拌回転数を1111rpmに設定した。反応帯域の液温を50℃に維持した。上記硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液の混合物、上記水酸化ナトリウム水溶液、上記錯化剤を、反応帯域に供給した。さらに反応帯域に水酸化ナトリウムが5g/Lの濃度で過剰に存在するように、上記水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応帯域のpHを11.7〜12.0に制御し、反応帯域内に出発物質を供給するとともに反応帯域外へスラリーを排出した。こうして反応帯域で共沈反応が開始した。
【0072】
反応帯域のスラリーの固体濃度が安定したことを確認した後、反応帯域において液量、固体濃度、スラリーの滞留時間を表1に示す値に維持して、72時間連続運転した。その後、反応帯域からポンプ14を介してスラリーを排出した。スラリーをろ過して複合金属水酸化物を分離、洗浄した。この複合金属水酸化物を大気中80℃で乾燥し、重量(g)を測定し、以下の式により連続運転におけるスループットを求めた。
【0073】
スループット(g/Lh)=連続運転開始後の定常状態で取得した複合金属水酸化物からなる粒子の乾燥総重量(g)÷反応帯域容積(190L)÷上記定常状態にあった時間(72h)
得られた複合金属水酸化物の組成はNi
0.858Co
0.142(OH)
2であった。こうして粉末の状態でニッケル・コバルト・アルミニウム複合金属水酸化物粒子を得た。このニッケル・バルト・アルミニウム複合金属水酸化物の性状を実施例1と同じ観点で評価した。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例4]
以下に示す出発物質を用いた。
・硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、これらの混合物:ニッケル濃度8.2重量%の硫酸ニッケル水溶液を準備した。コバルト濃度8.2重量%の硫酸コバルト水溶液を準備した。上記硫酸ニッケル水溶液と上記硫酸コバルト水溶液を、硫酸ニッケル水溶液:硫酸コバルト水溶液=87.5:12.5(重量比)部で混合した。この混合物を反応器に供給路を介して連結する容器に投入した。
・錯化剤:アンモニア濃度25重量%で含むアンモニア水。
・水酸化ナトリウム水溶液
・純水
図4に示す反応器内に濃度133.6g/Lの硫酸ナトリウム水溶液を満たし、傾斜板沈降装置を介して水溶液を循環させながら、反応帯域に2.32kw/m
3の攪拌動力が与えられるように撹拌回転数を1111rpmに設定した。反応帯域の液温を50℃に維持した。上記硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液の混合物、上記水酸化ナトリウム水溶液、上記錯化剤を、反応帯域に供給した。さらに反応帯域に水酸化ナトリウムが5.2g/Lの濃度で過剰に存在するように、上記水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応帯域のpHを11.7〜12.0に制御し、反応帯域内に出発物質を供給するとともに反応帯域外へスラリーを排出した。こうして反応帯域で共沈反応が開始した。
【0075】
反応帯域のスラリーの固体濃度が安定したことを確認した後、反応帯域において液量、固体濃度、スラリーの滞留時間を表1に示す値に維持して、72時間連続運転した。その後、反応帯域からポンプ14を介してスラリーを排出した。スラリーをろ過して複合金属水酸化物を分離、洗浄した。この複合金属水酸化物を大気中80℃で乾燥し、重量(g)を測定し、以下の式により連続運転におけるスループットを求めた。
【0076】
スループット(g/Lh)=連続運転開始後の定常状態で取得した複合金属水酸化物からなる粒子の乾燥総重量(g)÷反応帯域容積(190L)÷上記定常状態にあった時間(72h)
得られた複合金属水酸化物の組成はNi
0.875Co
0.125(OH)
2であった。こうして粉末の状態でニッケル・コバルト・アルミニウム複合金属水酸化物粒子を得た。このニッケル・バルト・アルミニウム複合金属水酸化物の性状を実施例1と同じ観点で評価した。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例5]
以下に示す出発物質を用いた。
・硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、これらの混合物:ニッケル濃度8.2重量%の硫酸ニッケル水溶液を準備する。コバルト濃度8.2重量%の硫酸コバルト水溶液を準備する。上記硫酸ニッケル水溶液と上記硫酸コバルト水溶液を、硫酸ニッケル水溶液:硫酸コバルト水溶液=90:10(重量比)部で混合する。この混合物を反応器に供給路を介して連結する容器に投入した。
・アルミン酸ナトリウムのアルカリ水溶液:水酸化ナトリウム濃度200g/Lの水酸化ナトリウム水溶液1000gに、アルミン酸ナトリウム3.567gを溶解した。
・錯化剤:アンモニア濃度25重量%で含むアンモニア水。
・純水
図4に示す反応器内に濃度133.6g/Lの硫酸ナトリウム水溶液を満たし、傾斜板沈降装置を介して水溶液を循環させながら、反応帯域に0.89kw/m
3の攪拌動力が与えられるように撹拌回転数を600rpmに設定した。反応帯域の液温を65℃に維持した。上記硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液の混合物、上記アルミン酸ナトリウムのアルカリ水溶液、上記錯化剤を反応帯域に供給した。さらに反応帯域に水酸化ナトリウムが2.7g/Lの濃度で過剰に存在するように、上記水酸化ナトリウム水溶液を供給した。反応帯域のpHを11.7以上12.0に制御し、反応帯域内に出発物質を供給するとともに反応帯域外へスラリーを排出した。こうして反応帯域で共沈反応が開始した。
【0078】
反応帯域のスラリーの固体濃度が安定したことを確認した後、反応帯域において液量、固体濃度、スラリーの滞留時間を表1に示す値に維持して、72時間連続運転した。その後、反応帯域からポンプ14を介してスラリーを排出した。スラリーをろ過して複合金属水酸化物を分離、洗浄した。この複合金属水酸化物を大気中80℃で乾燥し、重量(g)を測定し、以下の式により連続運転におけるスループットを求めた。
【0079】
スループット(g/Lh)=連続運転開始後の定常状態で取得した複合金属水酸化物からなる粒子の乾燥総重量(g)÷反応帯域容積(190L)÷上記定常状態にあった時間(72h)
得られた複合金属水酸化物の組成はNi
0.882Co
0.098Al
0.02(OH)
2であった。こうして粉末の状態でニッケル・コバルト・アルミニウム複合金属水酸化物粒子を得た。このニッケル・バルト・アルミニウム複合金属水酸化物の性状を実施例1と同じ観点で評価した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
表1に示されるように、本発明の方法によって目的の複合金属水酸化物粒子が高いスループット値で製造された。得られた複合金属水酸化物粒子の形状は球状であり、正極活物質の前駆体として有用な複合金属水酸化物粒子が製造されたことが分かる。