【実施例】
【0072】
上述した組成範囲の黄銅合金に対して、前記した本発明の熱間鍛造品の製造方法を用いて熱間鍛造品を成形することで、この鍛造品の全ての部位の耐脱亜鉛性を確保することが可能になる。以下に、その根拠を実施例と共に説明する。
先ず、本発明の課題を明らかにし、鉛フリー黄銅製の熱間鍛造品の耐脱亜鉛性を向上させるために、脱亜鉛性と銅合金のα相の結晶粒度との関係に着目し、結晶粒度の違いが銅合金の耐脱亜鉛性にもたらす影響を調査した。
この調査として、鍛造用素材の結晶粒度を測定し、この素材を熱間鍛造した鍛造品の部位別結晶粒度を再度測定し、その後、処理温度470℃、処理時間2.5時間でα化熱処理を行い、これに対してISO6509−1981の耐脱亜鉛試験腐食試験を行い、最大脱亜鉛腐食深さの測定を実施した。なお、本供試品における350℃から鍛造温度740℃に至るまでの加熱速度は0.53℃/sであり、鍛造後は放冷(空冷)とした。
【0073】
鍛造用素材として、直径φ38mm×66mmの円柱状の黄銅合金を用い、これを鍛造加工して、
図2に示したねじ込み型ツーピース構造のボールバルブ(バルブの呼び径1と1/4インチ)1におけるボデー2を成形する。このボデー2の化学成分を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
鍛造前の上記円柱状素材の結晶粒度を測定する場合には、例えば、JIS H 0501「伸銅品結晶粒度試験方法」における切断法によって行うようにする。この場合、円柱状素材の円形断面を観察面とし、この観察面の半径の外径より1/3の距離に位置する部分の金属組織を×500の倍率で電子顕微鏡により表示あるいは写真撮影の上、既知の長さの線分によって切断したときのα相の結晶粒数を数えて、その切断長さの平均値により結晶を測定した。本実施形態においては、被測定箇所として電子顕微鏡の表示部分から
図4、
図5に示すような長方形部分を切り出し、この長方形に2つの対角線を引き、各対角線がそれぞれ切断する結晶粒を測定の対象とし、これらより切断長さの平均値を求めた。
【0076】
続いて、ボデー2を鍛造成形する際には、
図3に示した型枠10と左右パンチ11、12によりおこなう。
図3(a)において、型枠10の内側は、
図2におけるボデー2の外周形状を形成可能な形状になっており、左右パンチ11、12の外側は、ボデー2の内周形状を形成可能な形状になっている。加工時には、型枠10内に加熱した鍛造用素材20を収納し、この状態で左パンチ11、右パンチ12により左右側から中央付近までプレスする。このとき、鍛造用素材20は、左右パンチ11、12により拡径方向に変形し、型枠10の内周形状に沿って所定の外観形状となり、左右パンチ11、12の外形により内周側も変形して所定の内周形状となる。このように、左右パンチ11、12による一度のプレス加工により、鍛造用素材20から外観及び内周側が所定形状のボデー2を成形する。
【0077】
図3(b)においては、熱間鍛造後のボデー2を示している。鍛造加工時には、円柱状の素材を用いている以上、左右パンチ11、12がボデー2内周側を貫通することはないため、図に示すようにボデー2の中央付近には余肉2aが残ることになる。この余肉2a切削加工により図に示した破線位置で切断して除去すれば、内部が貫通したボデー2を形成できる。
【0078】
このように素材20を熱間鍛造してボデー2を形成する場合、
図3(b)において、左パンチ11の外周側で拡径変形する変形部(キャップとの胴着ねじ部)Aでは、変形前の素材20の径に対する鍛造径が特に大きくなり、且つ、薄肉になる。すなわち、変形部Aでは、鍛造により素材20が相対的に大きく伸ばされる。右パンチ12の先方付近で変形する変形部(ボールバルブ1のキャビティ部)Bでは、素材20の径に対して鍛造径がやや大きく、且つ、肉厚が厚くなる。左パンチ11、右パンチ12で押圧されるように変形するボデー2内部中央付近の変形部(ボールバルブ1のキャビティ部の肉厚と、ボールシート4の保持部の肉厚と、ボールバルブの管用ねじ部の肉厚との3点が交差する部分)Cでは、素材20の径に対して鍛造径が変わりなく、且つ、肉厚が厚くなる。すなわち、変形部Cでは、鍛造により素材20が押される程度の変形状態となる。
【0079】
これらの変形部A〜Cにおける加工度、すなわち変形量を相対的に比較した場合、変形部Aの加工度>変形部Bの加工度>変形部Cの加工度となる。これに基づき、ここでは、以降において、変形部Aと同等の加工度となる部分を加工度大の領域、変形部Bと同等の加工度となる部分を加工度中の領域、変形部Cと同等の加工度となる部分を加工度小の領域とする。すなわち、加工度小の領域は、鍛造時に変形がほとんど見られない中心領域であり、加工度中の領域は、加工度小の領域に隣接し、素材が型内部の空隙に押し出されて形成される中間領域であり、加工度大の領域は、加工度中の領域に隣接し、素材が型内部の空隙に押し出されて形成される末端領域とする。
【0080】
ボデー(鍛造品)2の部位別に結晶粒度を測定する際においては、
図3(b)において、ボデー2を変形部A〜C付近で分割するように切断し、それぞれの部位の切断面の結晶粒度を前述のJIS H 0501における伸銅品結晶粒度試験方法に基づいて測定する。結晶粒度は、加工度が大きくなるにつれて小さい値となることから、測定結果に基づき、変形部Aを加工度大であって結晶粒度が最も微細な領域、変形部Bを加工度中であって結晶粒度が中程度の領域、変形部Cを加工度小であって結晶粒度が最も粗大な領域としてそれぞれ分類し、各領域におけるα相の平均結晶粒度、鍛造前素材20との比較による結晶粒度の粗大化率、最大脱亜鉛腐食深さ、加工度大の領域の場合に対する最大亜鉛腐食深さの比をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2の結果より、熱間鍛造品の結晶粒度を部位別に測定した結果、鍛造前の素材20に対して、ボデー2の熱間鍛造による加工度大の領域における結晶粒度の粗大化率は28%であり、最大脱亜鉛腐食深さは68μmとなった。
ボデー2の加工度中の領域の鍛造前素材20に対する結晶粒度粗大化率は53%であり、このときの最大脱亜鉛腐食深さは100μmになり、加工度大の領域の場合と比較して若干の耐脱鉛腐食性の低下が認められる。
これに対し、ボデー2の加工度小の領域の結晶粒度粗大化率は91%であり、このときの最大脱亜鉛腐食深さは191μmになり、加工度大の領域の場合と比較して約3倍の脱亜鉛腐食深さを示す結果となった。
【0083】
ここで、上記の表2の最大脱亜鉛腐食深さの絶対値は、結晶粒度や残留加工歪量に依存するため、形状・大きさ等が異なる全ての鍛造製品で必ずしも同一の結果が得られるものではない。
しかしながら、熱間鍛造による加工度小の領域の耐脱亜鉛腐食性を加工度大の領域と同等のレベルにするためには、後述するように、鍛造前素材のα相の結晶粒度の粗大化を抑制することが有効であることが判明した。
【0084】
そこで、ISO耐脱亜鉛腐食試験の最大脱亜鉛腐食深さ基準が200μmであることに基づいて、これに前記の測定結果を対応させるようにした場合、実用製品では脱亜鉛腐食深さが部位によって深くなることを考慮して、鍛造前素材の53%の最大脱亜鉛腐食深さを示した加工度中の領域のα相の結晶粒度粗大化率とほぼ同等の50%以下の結晶粒度粗大化率を目標にすれば、最大脱亜鉛腐食深さを200μm以下に抑えることが可能であるといえる。さらに、望ましくは、加工度大の領域と同等レベルの結晶粒度粗大化率30%以下にすれば、最大脱亜鉛腐食深さをより低く抑えることができる。
【0085】
以上のような知見に基づき、耐脱亜鉛性を向上させるために、熱間鍛造工程において結晶粒度の粗大化を抑制する手段を見出すことを目的として、熱間鍛造の各工程における結晶粒の成長に多大な影響を与えると思われる熱履歴について試験を行った。
【0086】
前記供試品の熱間鍛造による加工度が最も小さい部分と考えられるのは、変形がほぼゼロの部分であって、これは熱間鍛造前の素材とほぼ同等の結晶組織であることが考えられる。このことから、続いて行う試験に用いる供試品として熱間鍛造前の素材を使用し、この供試品を鍛造成形することなく熱履歴を加えたときの結晶粒度の変化及び耐脱亜鉛腐食性を検討した。この場合の供試品の化学成分を表3に示す。供試品の形状は、前述のボールバルブのボデー用素材20と同様に円柱状とし、その直径をボデー用素材20と略同様のφ35mmとし、その長さをボデー用素材20よりもやや短い40mmとした。このようにやや短い長さとしたのは、長さによる熱伝達の低下の影響を低くして、熱履歴の違いによる評価を正確に行うためである。
【0087】
【表3】
【0088】
表4において、熱履歴として各素材(No.1−1〜No.3−8の計24個の素材)に対して加熱速度、及び加熱終了後の冷却速度を変化させ、これらの結晶粒度及びISO耐脱亜鉛腐食性をそれぞれ評価した結果を示す。尚、鍛造前の加熱温度の保持時間はないものとする。また、加熱は、常温から700℃までおこなうものとする。このうち、350℃〜700℃までの間が再結晶温度域であり、表4ではこの温度域における加熱速度を示している。表中の「保温」とは徐冷をいい、例えば、断熱材等で包囲して外気を遮断することにより、徐々に冷却することをいう。また、表4では、説明の便宜上、鍛造工程欄を設けているが、想定する鍛造加工を施したものであり、本試験では鍛造加工は行っていない。
【0089】
【表4】
【0090】
表4の試験結果から、想定する鍛造加工温度での加熱、及び冷却後のα化焼鈍による熱処理の有無にかかわらず、これら加熱速度および加熱終了後の冷却速度が脱亜鉛腐食性に影響していることが明らかになった。すなわち、鍛造時における素材の加熱速度がより速く、更には、冷却速度がより速くなる熱履歴を加えるほど、耐脱亜鉛腐食性は改善されることが判明した。
【0091】
ここで、素材の加熱速度と結晶粒度との関係について、表4に示した加熱条件である、(1)加熱時間10分〜23分、(2)加熱時間6分〜9分、(3)加熱時間2〜3分の各条件毎に、素材No.1−1〜No.1−8(計8個)、素材No.2−1〜No.2−8(計8個)、素材No.3−1〜No.3−8(計8個)の加熱温度(℃/s)、加熱及び冷却後のα相の平均結晶粒度(μm)、これら平均結晶粒度の素材結晶粒度に対する粗大化率(%)の各値の平均値を求め、これら平均値により各加熱条件における結果を整理したものを表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
表5において、加熱速度と粒度粗大化率との関係をみると、加熱速度が速くなるに従って平均結晶粒度が小さくなり、加熱速度5.2℃/s以上(加熱時間2分〜3分のとき)の場合に、最大脱亜鉛腐食深さを200μm以下に抑えることが可能である、粒度粗大化率が50%以下である粒度粗大化率42%に結晶粒度の成長が抑制されていることが確認された。このときの平均結晶粒度は、8.5μmとなる。
【0094】
加熱速度を5.2℃/s以上としたのは、要求するレベルに結晶粒の粗大化を抑止できる加熱速度を定義したためであって、例えこれ以上の加熱速度を実現したとしても、結晶組織の構成が変化するものではなく、より結晶粒度の粗大化を抑止するのに有効であるのみである。従って、例え5.2℃/sを大きく超える加熱速度を実現したとしても、結晶粒度は加熱前の素材結晶粒度により近づくのみであって、結果として得られる鍛造品の結晶粒度は、加熱速度5.2℃/sの鍛造品と比較しても大きな違いはない。
このことから、加熱速度を5.2℃/s以上(上限は定義せず)、粒度粗大化率を50%以下(42%)に抑えるようなα相の平均結晶粒度8.5μm以下にすればよい。
【0095】
なお、表4における(3)加熱時間2〜3分では、加熱速度5.2〜5.6℃/sで試験を行っている。また、加熱は常温から鍛造温度まで行うものとする。このうち、350℃〜鍛造温度までの間が再結晶温度域であり、その温度域において、5.2℃/s以上の加熱速度で加熱する。
【0096】
本発明に係る鉛フリー黄銅は、発明者らによる熱間変形抵抗試験結果より、670〜790℃による鍛造加工が可能である。また、鍛造品の熱間割れや腐食性を考慮すると、針状組織が発生せず、熱間で十分な塑性加工性を有する700℃〜760℃が、より好適である。
従って、本発明に係る鍛造温度は、670℃〜790℃の間、より好ましくは、700℃〜760℃の間に設定すればよい。
【0097】
続いて、素材の加熱終了後の冷却時における冷却速度と結晶粒度との関係について、表4に示した冷却方法である、a.保温、b.放冷、c.強制空冷、d.水冷により冷却速度を変えたものについて、各条件毎に、素材の冷却温度(℃/s)、冷却後のα相の平均結晶粒度(μm)、これら平均結晶粒度の素材結晶粒度に対する粗大化率(%)の各値の平均値を求め、これら平均値により各加熱条件における結果を整理したものを表6に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
表6において、冷却速度とα相の平均結晶粒度との関係をみると、冷却速度が速くなるに従って平均結晶粒度が小さくなり、特に、冷却速度126.3℃/s以上では、表2の熱間鍛造による加工度大の領域の場合とほぼ同等な結晶粒度の粗大化率である、粗大化率30%以下を達成する結果となった。また、冷却速度1.9℃/s以上では、表2の加工度中の領域の場合とほぼ同等な結晶粒度の粗大化率である50%以下である48%を達成した。
【0100】
表4における冷却速度とα相の平均結晶粒度との関係について、特に、(3)加熱時間2分〜3分である、加熱速度5.2℃/s以上の場合の冷却速度と結晶粒度との関係を、平均値を用いてデータを整理した結果を表7に示す。
【0101】
【表7】
【0102】
表7の結果より、加熱速度5.2℃/s以上の場合において、c.強制空冷やd.水冷のように、冷却速度2℃/s以上にした場合に粒度の粗大化率30%以下を達成可能となる。
【0103】
以上のことから、本発明は、前述した組成範囲の鉛フリー黄銅合金を350℃から鍛造温度に至るまで5.2℃/s以上の加熱速度で加熱して鍛造加工を施すことにより、ボデー2の加工度の異なる変形部A〜変形部Cまでの何れの領域においても、α相の結晶粒度の粗大化を抑制して耐脱亜鉛性を向上できる。そのため、特に、加工度小の領域であって接液部付近である変形部C付近でも耐脱亜鉛性を十分に確保して流体による脱亜鉛腐食を防止できる。この場合、鍛造加工を行う素材の加熱温度を350℃から鍛造温度とした理由としては、この温度範囲にて結晶の粗大化が発生しやすいためである。前記のように5.2℃/s以上の加熱速度で加熱をおこなうことにより、結晶粒度の粗大化率を50%以下に抑えることが可能となる。
【0104】
さらに、加熱速度を350℃から鍛造温度に至るまで5.2℃/s以上とし、次いで、鍛造後の鍛造温度から350℃までの冷却速度を2℃/sとした場合には、この温度範囲に発生しやすい結晶の粗大化の発生を防止でき、特に、冷却温度を2℃/s以上とすることで、結晶粒度の粗大化率をより小さい30%以下に抑えることが可能になる。
【0105】
加熱速度を350℃から鍛造温度に至るまで5.2℃/s以上とし、鍛造後の鍛造温度から350℃までの冷却速度を2℃/s以上142℃/s未満、より好ましくは98℃/s未満とすることで、結晶の粗大化率を30%以下にしつつ、142℃/sを越えると生じるおそれのある、α化焼鈍後の結晶組織中に析出するγ相の細かい分断を防ぎ、これに起因する耐応力腐食割れ性の低下を防止することもできる。
【0106】
図4、
図5においては、表3の供試品について、表4に記載の試験条件に準じて熱処理した黄銅合金の金属組織の顕微鏡写真(倍率:500倍)を示している。この場合の熱処理の条件としては、双方ともに前述した組成範囲の黄銅合金を350℃から鍛造温度に至るまで5.2℃/sの加熱速度で加熱した。さらに、
図4においては、表4のa.保温時の冷却速度で冷却し、その後α化焼鈍を施したものであり、
図5においては、表4のd.水冷時の冷却速度で冷却し、その後α化焼鈍を施したものである。
【0107】
図に示すように、何れの場合にもα相の結晶粒の粗大化を抑えて微細化できる結果となり、これによって、α化焼鈍後に結晶粒間にSnなどの元素が拡散しやすくなり、耐脱亜鉛性を向上しながら鍛造成形できることが確認された。しかも、
図4のa.保温による冷却処理の場合よりも、
図5のd.水冷による冷却処理の場合のほうがα相の平均結晶粒度をより小さくし、耐脱亜鉛性をより向上した黄銅合金を製作できることが可能となった。
【0108】
ところで、上述した耐脱亜鉛性以外の代表的な耐食性として、耐応力腐食割れ性(耐SCC性)が挙げられる。この耐応力腐食割れ性を評価するために、本発明の熱間鍛造品の製造方法により成形した熱間鍛造品について以下の試験を行った。この場合の供試品としては、棒材を
図6に示すφ25×35(Rc1/2螺子込SCCサンプル)にNC加工機で加工する。
【0109】
試験の条件として、ステンレス製ブッシングのねじ込みトルクは9.8N・m(100kgf・cm)、アンモニア濃度は14%、試験室温度は20℃前後に管理する。また、各材質のサンプル数n=3で行う。応力腐食割れ試験は、ブッシングをねじ込んだサンプルを、アンモニア濃度14%雰囲気中のデシケータに設置後、任意の時間で取出し、10%硫酸にて洗浄後、観察を行う。観察は実体顕微鏡(倍率10倍)を用いて行い、割れが発生していないものを○判定、微細な割れ(肉厚の1/2以下)が発生しているものを△判定、肉厚の1/2以上の割れが発生しているものを▲判定、肉厚貫通亀裂が発生しているものを×判定とする。また、試験後の判定を定量的に表すために、○:3点、△:2点、▲:1点、×:0点とし、それぞれの点数と試験時間を掛け合わせた数値を水準毎に合計し、合計得点として評価した。
【0110】
耐応力腐食割れ性の評価基準としては、本発明の製造方法による黄銅の耐応力腐食割れ性を評価するため、これまで応力腐食割れによる問題が殆ど発生していない鉛入り黄銅材を基準とする。応力腐食割れ試験時間の水準は16時間、24時間、48時間、72時間とする。表8に鉛入り黄銅材の化学成分値を、表9に耐応力腐食割れ試験結果を、表10に点数評価結果をそれぞれ示す。
【0111】
【表8】
【0112】
【表9】
【0113】
【表10】
【0114】
上記の鉛入り黄銅材の耐応力腐食割れ試験結果から、合計得点は32点であり、満点の場合の1440点から考慮した得点割合は2.2%と算出でき、これを基準とする。即ち、開発材の耐応力腐食割れ試験を行った際の得点割合が2.2%以上の場合、概ね耐応力腐食割れ性に優れていると考えられる。
【0115】
また、鉛入り黄銅材の耐応力腐食割れ試験の結果、肉厚貫通亀裂が16時間時点で初めて発生した。従って、耐応力腐食割れ試験を行った際に、16時間以下で肉厚貫通亀裂が発生していないことも基準の1つとして挙げられ、安定したSCC性を有すると判断できる。
【0116】
これらのことから、耐応力腐食割れ性に優れる黄銅合金の条件として、上記の耐応力腐食割れ試験を行った際に、(1)得点割合が2.2%以上であること、(2)16時間以下で肉厚貫通亀裂の発生がないことが挙げられる。
【0117】
さらに、水冷、放冷により熱処理した場合について調べるために、本発明の製造方法により成形した熱間鍛造品と、比較材とについて応力腐食割れ試験を行った。以下に試験結果を示す。
【0118】
表11においてはこの試験で使用した試験片の化学成分値を示し、表12には耐応力腐食割れ試験結果と得点割合を示す。尚、本試験は試験時間水準16時間、24時間、48時間、72時間で行った。
【0119】
【表11】
【0120】
【表12】
【0121】
表12の結果より、水冷、放冷の得点割合は、それぞれ25.0%および50.6%であり、これは基準である2.2%を上回っており、いずれもC3771と同等以上の耐SCC性を有していることが分かる。また、水冷と放冷とを比較すると、放冷の場合の方が優れた耐SCC性を示していることが確認された。
【0122】
図7においては、ゲートバルブのボデーの一例を示している。
このようなボデー30を鉛フリー黄銅材料により熱間鍛造により成形する場合にも、前述のボールバルブのボデー2の場合と同様に、変形部Aが加工度大の領域、変形部Bが加工度中の領域、変形部Cが加工度小の領域になるため、ボデー2の場合と同様に熱間鍛造して成形するようにすれば、α相の結晶粒度の粗大化を防止して耐脱亜鉛性を向上でき、さらに、前記の場合と同様に耐応力腐食割れ性も向上できる。
さらに、本発明の熱間鍛造品の製造方法は、一つの鍛造品を熱間鍛造する場合に、その部位により加工度が大きく異なる鍛造品を成形する場合に特に有効であり、全体の結晶粒度の粗大化を防いで耐脱亜鉛性等の耐食性を向上させることができる。このため、バルブボデー以外の各種の鍛造品にも利用できる。
【0123】
本発明の発明による黄銅を用いた熱間鍛造品を材料として好適な部材・部品は、特に、
バルブや水栓等の水接触部品、即ち、ボールバルブ、ボールバルブ用中空ボール、バタフライバルブ、ゲートバルブ、グローブバルブ、チェックバルブ、バルブ用ステム、給水栓、給湯器や温水洗浄便座等の取付金具、給水管、接続管及び管継手、冷媒管、電気温水器部品(ケーシング、ガスノズル、ポンプ部品、バーナなど)、ストレーナ、水道メータ用部品、水中下水道用部品、排水プラグ、エルボ管、チーズ管、ベローズ、便器用接続フランジ、スピンドル、ジョイント、ヘッダー、分岐栓、ホースニップル、水栓付属金具、止水栓、給排水配水栓用品、衛生陶器金具、シャワー用ホースの接続金具、ガス器具、ドアやノブ等の建材、家電製品、サヤ管ヘッダー用アダプタ、自動車クーラー部品、釣り具部品、顕微鏡部品、水道メーター部品、計量器部品、鉄道パンタグラフ部品、その他の部材・部品に広く応用することができる。更には、トイレ用品、台所用品、浴室品、洗面所用品、家具部品、居間用品、スプリンクラー用部品、ドア部品、門部品、自動販売機部品、洗濯機部品、空調機部品、ガス溶接機用部品、熱交換器用部品、太陽熱温水器部品、金型及びその部品、ベアリング、歯車、建設機械用部品、鉄道車両用部品、輸送機器用部品、素材、中間品、最終製品及び組立体等にも広く適用できる。これらのうち、特に、エルボ管の鍛造品は、中空ではなく中実で鍛造される際に本発明の製造方法により成形することが好適である。