特許第6605489号(P6605489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6605489デヒドロゲナーゼ化した変異酵素及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605489
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】デヒドロゲナーゼ化した変異酵素及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20191031BHJP
   C12N 9/04 20060101ALI20191031BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20191031BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20191031BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20191031BHJP
   C12Q 1/60 20060101ALI20191031BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   C12N15/53
   C12N9/04 AZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12Q1/60
   C12Q1/32
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-556613(P2016-556613)
(86)(22)【出願日】2015年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2015080466
(87)【国際公開番号】WO2016068218
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-219593(P2014-219593)
(32)【優先日】2014年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000216162
【氏名又は名称】天野エンザイム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114362
【弁理士】
【氏名又は名称】萩野 幹治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和典
(72)【発明者】
【氏名】西尾 享一
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−500528(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/026576(WO,A2)
【文献】 特開2003−149247(JP,A)
【文献】 J. Mol. Catal., B Enzym., 2013, Vol.88, p.41-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/00− 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の同一性を示す、微生物由来コレステロールオキシダーゼのアミノ酸配列において、以下の(2)のアミノ置換、以下の(2)のアミノ酸置換と(4)のアミノ酸置換、以下の(2)のアミノ酸置換と(6)のアミノ酸置換、以下の(2)のアミノ酸置換と(7)のアミノ酸置換、又は以下の(2)のアミノ酸置換と(8)のアミノ酸置換が行われたアミノ酸配列からなり、前記微生物由来コレステロールオキシダーゼに比較して、コレステロールオキシダーゼ活性に対するコレステロールデヒドロゲナーゼ活性(CHDH活性/CHO活性)が高い、変異酵素
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列の362位アミノ酸に相当するアミノ酸のプロリンへの置換;
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列の412位アミノ酸に相当するアミノ酸のチロシンへの置換;
(6)配列番号1に示すアミノ酸配列の483位アミノ酸に相当するアミノ酸のメチオニン又はトリプトファンへの置換
(7)配列番号1に示すアミノ酸配列の518位アミノ酸に相当するアミノ酸のグリシン、ロイシン、トレオニン又はアラニンへの置換
(8)配列番号1に示すアミノ酸配列の519位アミノ酸に相当するアミノ酸のシステイン、イソロイシン、セリン又はトレオニンへの置換
【請求項2】
配列番号3、8〜18のいずれかのアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の変異酵素。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変異酵素をコードする遺伝子。
【請求項4】
配列番号21、26〜36のいずれかの塩基配列を含む、請求項に記載の遺伝子。
【請求項5】
請求項又はに記載の遺伝子を含む組換えDNA。
【請求項6】
請求項に記載の組換えDNAを保有する微生物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の変異酵素を用いて試料中のコレステロールを測定することを特徴とする、コレステロール測定法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の変異酵素を含むことを特徴とするコレステロール測定用試薬。
【請求項9】
請求項に記載のコレステロール測定用試薬を含む、コレステロール測定用キット。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の変異酵素を含有する酵素剤。
【請求項11】
以下のステップ(I)〜(III)を含む、変異酵素の調製法:
(I)配列番号3、8〜18のいずれかのアミノ酸配列をコードする核酸を用意するステップ;
(II)前記核酸を発現させるステップ、及び
(III)発現産物を回収するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酵素の変異技術及びその利用に関する。詳しくは、デヒドロゲナーゼ化したコレステロールオキシダーゼ及びその遺伝子、並びにそれらの調製法や用途等に関する。本出願は、2014年10月28日に出願された日本国特許出願第2014−219593号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
電気化学的バイオセンサを用いた簡易型のコレステロール測定器が広く用いられている。当該バイオセンサにはコレステロールを基質とする酵素であるコレステロールオキシダーゼ(以下「CHO」と略称する)やコレステロールデヒドロゲナーゼ(以下「CHDH」と略称する)が利用される(例えば特許文献1〜3を参照)。CHOとCHDHはいずれもコレステロールに対して高い特異性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−002618公報
【特許文献2】特開2001−343348公報
【特許文献3】特開2000−329738公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Katsuhiro Kojima et al., Journal of molecular catalysis B: Enzymatic 88(2013) 41-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CHOを用いた測定はバイオセンサ測定サンプル中の溶存酸素の影響を受ける可能性があり、溶存酸素が測定結果に影響を及ぼす恐れが指摘されている。対照的に、CHDHを用いた測定はバイオセンサ測定サンプル中の溶存酸素の影響を受けない利点を有している。しかし、CHDHは補酵素としてNADを必要とするため、測定系にNADを別途添加する必要がある。従って、CHDHを用いた測定は操作が煩雑化することはもとより、NADが比較的高価であることから、特に産業利用する際にはコスト面で不利となる。そこで、溶存酸素の影響を受けず、NADを添加する必要の無い酵素が求められる。このような要望に応えるべく、本発明の課題は、コレステロールの測定に利用可能な、実用性に優れた酵素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する方策として、CHOをCHDHに近づける方法(デヒドロゲナーゼ化)が考えられる。この方法によれば、CHOの利点、即ち、補酵素としてFADを内包していることを備えた酵素が得られる可能性がある。当該酵素によれば、NADを添加することなく、且つ溶存酸素の影響を受けずにコレステロールの測定が可能になる。尚、これまでにも、遺伝子改変技術を用いた酵素改変によりCHOのデヒドロゲナーゼ化が試みられているが(非特許文献1)、活性値の観点から産業利用することは困難である。
【0007】
後述の実施例に示す通り、本発明者らは「CHOのデヒドロゲナーゼ化」という戦略の下で様々な実験を行い、CHOのデヒドロゲナーゼ化に有効な変異点(アミノ酸残基)を特定することに成功した。特定された変異点に変異(アミノ酸置換)を加えた変異体では、既報のもの(非特許文献1)を遙かに凌ぐ、驚異的なデヒドロゲナーゼ化が生じた。
【0008】
ところで、効果的な二つのアミノ酸変異を組み合わせることによって相加的又は相乗的効果が生まれる可能性が高いことも多く経験するところである。実際、変異点を組み合わせた場合の効果も検討し、変異点の併用が有効であること、及び特に有効な変異点の組合せを特定することに成功した。
【0009】
また、同種の酵素については構造(一次構造、立体構造)の類似性が高く、同様の変異が同様の効果を生む蓋然性が高いという技術常識に鑑みれば、後述の実施例に示したストレプトマイセス属微生物(Streptomyces sp.)由来CHOとの間で構造上の類似性が高い他のCHOについても、本発明者らが見出した変異手法を適用可能といえる。
【0010】
以下の発明は、主として以上の成果及び考察に基づく。
[1]微生物由来コレステロールオキシダーゼのアミノ酸配列において、以下の(1)〜(8)からなる群より選択される一又は二以上のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなり、前記微生物由来コレステロールオキシダーゼに比較して、コレステロールオキシダーゼ活性に対するコレステロールデヒドロゲナーゼ活性(CHDH活性/CHO活性)が高い、変異酵素:
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列の113位アミノ酸に相当するアミノ酸;
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列の362位アミノ酸に相当するアミノ酸;
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列の402位アミノ酸に相当するアミノ酸;
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列の412位アミノ酸に相当するアミノ酸;
(5)配列番号1に示すアミノ酸配列の468位アミノ酸に相当するアミノ酸;
(6)配列番号1に示すアミノ酸配列の483位アミノ酸に相当するアミノ酸;
(7)配列番号1に示すアミノ酸配列の518位アミノ酸に相当するアミノ酸;
(8)配列番号1に示すアミノ酸配列の519位アミノ酸に相当するアミノ酸。
[2]前記微生物由来コレステロールオキシダーゼのアミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列と65%以上の同一性を示す配列である、[1]に記載の変異酵素。
[3]置換されるアミノ酸が(2)のアミノ酸であり、置換後のアミノ酸がプロリンである、[1]又は[2]に記載の変異酵素。
[4]置換されるアミノ酸が、(2)のアミノ酸と(4)のアミノ酸の組合せ、(2)のアミノ酸と(6)のアミノ酸の組合せ、(2)のアミノ酸と(7)のアミノ酸の組合せ、又は(2)のアミノ酸と(8)のアミノ酸の組合せである、[1]又は[2]に記載の変異酵素。
[5]置換後のアミノ酸が、(2)のアミノ酸についてはプロリンであり、(4)のアミノ酸についてはチロシンであり、(6)のアミノ酸についてはメチオニン又はトリプトファンであり、(7)のアミノ酸についてはグリシン、ロイシン、トレオニン又はアラニンであり、(8)のアミノ酸についてはシステイン、イソロイシン、セリン又はトレオニンである、[4]に記載の変異酵素。
[6]配列番号2〜18のいずれかのアミノ酸配列からなる、[1]に記載の変異酵素。
[7][1]〜[6]のいずれか一項に記載の変異酵素をコードする遺伝子。
[8]配列番号20〜36のいずれかの塩基配列を含む、[7]に記載の遺伝子。
[9][7]又は[8]に記載の遺伝子を含む組換えDNA。
[10][9]に記載の組換えDNAを保有する微生物。
[11][1]〜[6]のいずれか一項に記載の変異酵素を用いて試料中のコレステロールを測定することを特徴とする、コレステロール測定法。
[12][1]〜[6]のいずれか一項に記載の変異酵素を含むことを特徴とするコレステロール測定用試薬。
[13][12]に記載のコレステロール測定用試薬を含む、コレステロール測定用キット。
[14][1]〜[6]のいずれか一項に記載の変異酵素を含有する酵素剤。
[15]以下のステップ(I)〜(III)を含む、変異酵素の調製法:
(I)配列番号2〜18のいずれかのアミノ酸配列をコードする核酸を用意するステップ;
(II)前記核酸を発現させるステップ、及び
(III)発現産物を回収するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ストレプトマイセス由来CHOのアミノ酸配列の比較。ストレプトマイセス sp.由来CHO(図中のCHO)のL113、M362、L412、D468、Y483が高度に保存されていることがわかる。ストレプトマイセス sp.由来CHOのアミノ酸配列(配列番号1)に対する各CHOのアミノ酸配列の相同性は以下の通りである。 ストレプトマイセス・アルブラス(Streptomyces albulus)由来CHO(配列番号37):81% ストレプトマイセス・バージニエ(Streptomyces virginiae)由来CHO(配列番号38):85% ストレプトマイセス・ラベンデュラエ(Streptomyces lavendulae)由来CHO(配列番号39):84% ストレプトマイセス・チャタノオゲンシス(Streptomyces chattanoogensis)由来CHO(配列番号40):82% ストレプトマイセス・ナタレンシス(Streptomyces natalensis)由来CHO(配列番号41):82% ストレプトマイセス・エバミティリス(Streptomyces avermitilis)由来CHO(配列番号42):82% ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)由来CHO(配列番号43):81% ストレプトマイセス・ハイグロスピノサス(Streptomyces hygrospinosus)由来CHO(配列番号44):81% ストレプトマイセス・リモサス(Streptomyces rimosus)由来CHO(配列番号45):84% ストレプトマイセス・ダルハネンシス(Streptomyces durhamensis)由来CHO(配列番号46):83% ストレプトマイセス・スクレロティアルス(Streptomyces sclerotialus)由来CHO(配列番号47):82% ストレプトマイセス・ミュタビリス(Streptomyces mutabilis)由来CHO(配列番号48):82% ストレプトマイセス・スカビエイ(Streptomyces scabiei)由来CHO(配列番号49):67% ストレプトマイセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)由来CHO(配列番号50):67% ストレプトマイセス・セルロサエ(Streptomyces cellulosae)由来CHO(配列番号51): 67% ストレプトマイセス・プルニカラー(Streptomyces prunicolor)由来CHO(配列番号52):67% ストレプトマイセス・ボトロペンシス(Streptomyces bottropensis)由来CHO(配列番号53):66%
図2図1の続き。
図3図2の続き。
図4】ランダム変異ライブラリーを用いた実験の結果。ランダム変異プライマーを用いたPCRにより、ストレプトマイセス sp.由来CHOの基質結合部位周辺のアミノ酸残基(18箇所)と活性中心周辺のアミノ酸残基(9箇所)にランダム変異を導入した。
図5】飽和変異ライブラリーを用いた実験の結果。20種類のアミノ酸のそれぞれに対応するプライマーを用いたPCRにより、基質結合部位周辺の変異点(5箇所)に飽和変異を導入した。
図6】二重変異体の評価。変異M362Pと別の変異(基質結合部位周辺の変異であるL113E、L113T、L113V、L113M、L113L、L412K、L412Y、L412P、L412T、L412G、M402D、M402N、M402G、M402W、M402T、D468P、D468Q、D468H、D468Y及びD468F)を組み合わせた場合の効果を検討した。
図7】二重変異体の評価。変異M362Pと別の変異(活性中心周辺の変異であるY483の飽和変異、S518の飽和変異、V519の飽和変異)を組み合わせた場合の効果を検討した。
図8】活性比(CHDH活性/CHO活性)の比較。CHDH活性(比活性)及びCHO活性(比活性)を測定し、活性比(CHDH活性/CHO活性)を算出した。野生型を基準として各変異体の活性比を比較した。
図9】ストレプトマイセス sp.CHOとブレビバクテリウム・ステロリカムCHOの構造比較。ストレプトマイセス sp.CHOでは、前駆体(プレプロ体)のプレ配列の先頭のメチオニンを1番目として順番を付け、各アミノ酸残基の位置を特定している。ブレビバクテリウム・ステロリカムCHOでは、成熟体の先頭のメチオニンを1番目として順番を付け、各アミノ酸残基の位置を特定している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
説明の便宜上、本発明に関して使用する用語の一部について以下で定義する。
(用語)
用語「変異酵素」とは、本明細書が開示する手法によって、「基になる酵素」を変異ないし改変して得られる酵素である。「変異酵素」、「変異型酵素」及び「改変型酵素」は置換可能に用いられる。基になる酵素は典型的には野生型酵素である。但し、既に人為的操作が施されている酵素を「基になる酵素」として本発明に適用することを妨げるものではない。尚、「基になる酵素」のことを本明細書では「変異対象酵素」とも呼ぶ。
【0013】
ある酵素(説明の便宜上A酵素と呼ぶ)を別の酵素(説明の便宜上B酵素と呼ぶ)に近似させること、即ちA酵素の一つ以上の特性をB酵素の対応する特性に近づけるように改変することを「A酵素をB酵素化する」と称する。本発明ではコレステロールオキシダーゼ(CHO)をコレステロールデヒドロゲナーゼ(CHDH)に近づけること、即ち、CHOのオキシダーゼ活性を低下させる一方でコレステロールデヒドロゲナーゼ活性を付与又は高めることが行われる。このような改変を本発明では「デヒドロゲナーゼ化」と呼ぶ。デヒドロゲナーゼ化した本発明の変異酵素は、元の酵素(デヒドロゲナーゼ化前のCHO)に比べて、CHO活性に対するCHDH活性の比率(CHDH活性/CHO活性)が高い。
【0014】
本発明では、変異ないし改変として「アミノ酸の置換」が行われる。従って、変異酵素と変異対象酵素を比較すると、一部のアミノ酸残基に相違が認められる。
【0015】
本明細書では慣例に従い、以下の通り、各アミノ酸を1文字で表記する。
メチオニン:M、セリン:S、アラニン:A、トレオニン:T、バリン:V、チロシン:Y、ロイシン:L、アスパラギン:N、イソロイシン:I、グルタミン:Q、プロリン:P、アスパラギン酸:D、フェニルアラニン:F、グルタミン酸:E、トリプトファン:W、リジン:K、システイン:C、アルギニン:R、グリシン:G、ヒスチジン:H
【0016】
また、変異点のアミノ酸残基(置換の対象となるアミノ酸残基)を、アミノ酸の種類を表す上記1文字とアミノ酸の位置を表す数字との組合せで表現する。例えば、362番目のメチオニンが変異点であれば「M362」と表現される。
【0017】
(コレステロールオキシダーゼを変異させた酵素)
本発明の第1の局面は微生物由来のコレステロールオキシダーゼ(CHO)を変異させた酵素(以下「変異CHO」とも呼ぶ)に関する。本発明の変異CHOは、微生物由来のCHO(変異対象酵素)のアミノ酸配列において、以下の(1)〜(8)からなる群より選択される一又は二以上のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を有する。
(1)配列番号1に示すアミノ酸配列の113位アミノ酸に相当するアミノ酸
(2)配列番号1に示すアミノ酸配列の362位アミノ酸に相当するアミノ酸
(3)配列番号1に示すアミノ酸配列の402位アミノ酸に相当するアミノ酸
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列の412位アミノ酸に相当するアミノ酸
(5)配列番号1に示すアミノ酸配列の468位アミノ酸に相当するアミノ酸
(6)配列番号1に示すアミノ酸配列の483位アミノ酸に相当するアミノ酸
(7)配列番号1に示すアミノ酸配列の518位アミノ酸に相当するアミノ酸
(8)配列番号1に示すアミノ酸配列の519位アミノ酸に相当するアミノ酸
【0018】
後述の実施例に示す通り、配列番号1に示すアミノ酸配列の113位アミノ酸、362位アミノ酸、402位アミノ酸、412位アミノ酸及び468位アミノ酸は、ストレプトマイセス sp.CHOの基質結合部位周辺にあり、基質との相互作用に重要な役割を果たすと考えられる。一方、配列番号1に示すアミノ酸配列の483位アミノ酸、518位アミノ酸及び519位アミノ酸は、ストレプトマイセス sp.CHOの活性中心周辺に位置し、酵素活性に重要な役割を果たすと考えられる。本発明では、CHOの特性に重要な役割を果たすと考えられる、これらのアミノ酸に相当するアミノ酸を変異させることによって、デヒドロゲナーゼ化を図る。本発明の変異酵素は、変異前の酵素(即ち、変異対象酵素である微生物由来コレステロールオキシダーゼ)に比較して、コレステロールオキシダーゼ活性に対するコレステロールデヒドロゲナーゼ活性の比率(CHDH活性/CHO活性)が高いという特徴を示す。変異酵素の「CHDH活性/CHO活性」(比活性で算出)は例えば5以上、好ましくは10以上、更に好ましくは20以上、より一層好ましくは30以上である。変異対象酵素と比較すると、変異酵素は例えば1.0×106倍以上、好ましくは1.5×106倍以上、更に好ましくは2.0×106倍以上、より一層好ましくは1.0×107倍以上の「CHDH活性/CHO活性」を示す(比活性で比較)。
【0019】
ここで、本明細書においてアミノ酸残基について使用する場合の用語「相当する」とは、比較されるタンパク質(酵素)間においてその機能の発揮に同等の貢献をしていることを意味する。例えば、基準のアミノ酸配列(即ち配列番号1のアミノ酸配列)に対して比較対象のアミノ酸配列を、一次構造(アミノ酸配列)の部分的な相同性を考慮しつつ、最適な比較ができるように並べたときに(このときに必要に応じてギャップを導入し、アライメントを最適化してもよい)、基準のアミノ酸配列中の特定のアミノ酸に対応する位置のアミノ酸を「相当するアミノ酸」として特定することができる。一次構造同士の比較に代えて、又はこれに加えて立体構造(三次元構造)同士の比較によって「相当するアミノ酸」を特定することもできる。立体構造情報を利用することによって信頼性の高い比較結果が得られる。この場合は、複数の酵素の立体構造の原子座標を比較しながらアライメントを行っていく手法を採用できる。変異対象酵素の立体構造情報は例えばProtein Data Bank(http://www.pdbj.org/index_j.html)より取得することができる。
【0020】
X線結晶構造解析によるタンパク質立体構造の決定方法の一例を以下に示す。
(1)タンパク質を結晶化する。結晶化は、立体構造決定のためには欠かせないが、それ以外にも、タンパク質の高純度の精製法、高密度で安定な保存法として産業上の有用性もある。この場合、リガンドとして基質もしくはそのアナログ化合物を結合したタンパク質を結晶化すると良い。
(2)作製した結晶にX線を照射して回折データを収集する。なお、タンパク質結晶はX線照射によりダメージを受け回折能が劣化するケースが多々ある。その場合、結晶を急激に−173℃程度に冷却し、その状態で回折データを収集する低温測定技術が最近普及してきた。なお、最終的に、構造決定に利用する高分解能データを収集するために、輝度の高いシンクロトロン放射光が利用される。
(3)結晶構造解析を行うには、回折データに加えて、位相情報が必要になる。目的のタンパク質に対して、類縁のタンパク質の結晶構造が未知の場合、分子置換法で構造決定することは不可能であり、重原子同型置換法により位相問題が解決されなくてはならない。重原子同型置換法は、水銀や白金等原子番号が大きな金属原子を結晶に導入し、金属原子の大きなX線散乱能のX線回折データへの寄与を利用して位相情報を得る方法である。決定された位相は、結晶中の溶媒領域の電子密度を平滑化することにより改善することが可能である。溶媒領域の水分子は揺らぎが大きいために電子密度がほとんど観測されないので、この領域の電子密度を0に近似することにより、真の電子密度に近づくことができ、ひいては位相が改善されるのである。また、非対称単位に複数の分子が含まれている場合、これらの分子の電子密度を平均化することにより位相が更に大幅に改善される。このようにして改善された位相を用いて計算した電子密度図にタンパク質のモデルをフィットさせる。このプロセスは、コンピューターグラフィックス上で、MSI社(アメリカ)のQUANTA等のプログラムを用いて行われる。この後、MSI社のX-PLOR等のプログラムを用いて、構造精密化を行い、構造解析は完了する。目的のタンパク質に対して、類縁のタンパク質の結晶構造が既知の場合は、既知タンパク質の原子座標を用いて分子置換法により決定できる。分子置換と構造精密化はプログラム CNS_SOLVE ver.11などを用いて行うことができる。
【0021】
変異対象酵素である微生物由来CHOとして、ストレプトマイセス sp.由来CHO(配列番号1にアミノ酸配列(一例)を示す)、又はストレプトマイセス sp.由来CHOと相同性の高いものを採用することが好ましい。後者の具体例は、配列番号1のアミノ酸配列に対して65%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上の相同性を示すアミノ酸配列を有するCHOである。このような相同性の高いCHOとして、ストレプトマイセス・アルブラス由来CHO(配列番号37)、ストレプトマイセス・バージニエ由来CHO(配列番号38にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・ラベンデュラエ由来CHO(配列番号39にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・チャタノオゲンシス由来CHO(配列番号40にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・ナタレンシス由来CHO(配列番号41にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・エバミティリス由来CHO(配列番号42にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・グリセウス由来CHO(配列番号43にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・ハイグロスピノサス由来CHO(配列番号44にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・リモサス由来CHO(配列番号45にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・ダルハネンシス由来CHO(配列番号46にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・スクレロティアルス由来CHO(配列番号47にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・ミュタビリス由来CHO(配列番号48にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・スカビエイ由来CHO(配列番号49にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・モバラエンシス由来CHO(配列番号50にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・セルロサエ由来CHO(配列番号51にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・プルニカラー由来CHO(配列番号52にアミノ酸配列(一例)を示す)、ストレプトマイセス・ボトロペンシス由来CHO(配列番号53にアミノ酸配列(一例)を示す)を挙げることができる。配列番号1、37〜53のアライメント比較を図1〜3に示す。一方、微生物由来CHOの別の具体例として、ブレビバクテリウム・ステロリカム由来CHO(配列番号54にアミノ酸配列(一例)を示す)、ノカルディア sp.(Nocardia sp.)由来CHO(配列番号55にアミノ酸配列(一例)を示す)、バークホルデリア・セパシエ(Burkholderia cepacia)由来CHO(配列番号56にアミノ酸配列(一例)を示す)を挙げることができる。これらのCHOについては、例えば、立体構造(三次元構造)同士の比較によって「相当するアミノ酸」を特定すればよい。
【0022】
配列番号1のアミノ酸配列を有するストレプトマイセス sp.由来CHOを変異対象酵素としたとき、上記(1)のアミノ酸は配列番号1の113位アミノ酸となり、上記(2)のアミノ酸は配列番号1の362位アミノ酸となり、上記(3)のアミノ酸は配列番号1の402位アミノ酸となり、上記(4)のアミノ酸は配列番号1の412位アミノ酸となり、上記(5)のアミノ酸は配列番号1の468位アミノ酸となり、上記(6)のアミノ酸は配列番号1の483位アミノ酸となり、上記(7)のアミノ酸は配列番号1の518位アミノ酸となり、上記(8)のアミノ酸は配列番号1の519位アミノ酸となる。
【0023】
一方、配列番号54のアミノ酸配列を有するブレビバクテリウム・ステロリカム(Brevibacterium sterolicum)由来CHO(プロテインデータバンク(PDB): 3COX、配列番号54)を変異対象酵素としたとき、上記(1)のアミノ酸は配列番号54の76位アミノ酸となり、上記(2)のアミノ酸は配列番号54の325位アミノ酸となり、上記(3)のアミノ酸は配列番号54の365位アミノ酸となり、上記(4)のアミノ酸は配列番号54の375位アミノ酸となり、上記(5)のアミノ酸は配列番号54の431位アミノ酸となり、上記(6)のアミノ酸は配列番号54の446位アミノ酸となり、上記(7)のアミノ酸は配列番号54の481位アミノ酸となり、上記(8)のアミノ酸は配列番号54の482位アミノ酸となる。
【0024】
置換されるアミノ酸は、好ましくは、(1)のアミノ酸又は(2)のアミノ酸である。これらは、後述の実施例に示す通り、単独でデヒドロゲナーゼ化に極めて有効であることが確認されたアミノ酸である。これらのアミノ酸が置換された変異CHOでは、変異前の酵素に比較して格段に高い活性比(CHDH活性/CHO活性)を発揮する。
【0025】
置換後のアミノ酸の種類は特に限定されない。置換後のアミノ酸の例を挙げると、(1)のアミノ酸についてはグルタミン酸、トレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファンであり、(2)のアミノ酸についてはプロリン、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、トリプトファンであり、(3)のアミノ酸についてはアスパラギン酸、アスパラギン、グリシン、トリプトファン、トレオニンであり、(4)のアミノ酸についてはリジン、チロシン、プロリン、トレオニン、グリシンであり、(5)のアミノ酸についてはプロリン、グルタミン、ヒスチジン、チロシン、フェニルアラニンであり、(6)のアミノ酸についてはメチオニン、トリプトファンであり、(7)のアミノ酸についてはグリシン、ロイシン、トレオニン、アラニンであり、(8)のアミノ酸についてはシステイン、イソロイシン、セリン、トレオニンである。
【0026】
以上の変異を適用して得られる変異酵素の具体例(ストレプトマイセス sp.由来CHOに対して上記変異を適用して得られる変異CHO)を以下に示す。
変異酵素L113E:配列番号2:(1)の変異であり、置換後のアミノ酸はグルタミン酸。
変異酵素M362P:配列番号3:(2)の変異であり、置換後のアミノ酸はプロリン。
変異酵素M362E:配列番号4:(2)の変異であり、置換後のアミノ酸はグルタミン酸。
変異酵素M362R:配列番号5:(2)の変異であり、置換後のアミノ酸はアルギニン。
変異酵素M362A:配列番号6:(2)の変異であり、置換後のアミノ酸はアラニン。
変異酵素M362W:配列番号7:(2)の変異であり、置換後のアミノ酸はトリプトファン。
【0027】
上記(1)〜(8)のアミノ酸の内、二つ以上のアミノ酸が置換されていてもよい。置換されるアミノ酸の好ましい組合せを以下に列挙する。
(2)と(4)の組合せ
(2)と(6)の組合せ
(2)と(7)の組合せ
(2)と(8)の組合せ
【0028】
以上の組合せを適用して得られる変異酵素の具体例(ストレプトマイセス sp.由来CHOに対して上記変異の組合せを適用して得られる変異CHO)を以下に示す。
変異酵素(M362P+L412Y):配列番号8:(2)と(4)の組合せであり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(4)の置換後のアミノ酸はチロシン。
変異酵素(M362P+Y483M):配列番号9:(2)と(6)の組合せであり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(6)の置換後のアミノ酸はメチオニン。
変異酵素(M362P+Y483W):配列番号10:(2)と(6)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(6)の置換後のアミノ酸はトリプトファン。
変異酵素(M362P+S518G):配列番号11:(2)と(7)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(7)の置換後のアミノ酸はグリシン。
変異酵素(M362P+S518L):配列番号12:(2)と(7)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(7)の置換後のアミノ酸はロイシン。
変異酵素(M362P+S518T):配列番号13:(2)と(7)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(7)の置換後のアミノ酸はトレオニン。
変異酵素(M362P+S518A):配列番号14:(2)と(7)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(7)の置換後のアミノ酸はアラニン。
変異酵素(M362P+V519C):配列番号15:(2)と(8)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(8)の置換後のアミノ酸はシステイン。
変異酵素(M362P+V519I):配列番号16:(2)と(8)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(8)の置換後のアミノ酸はイソロイシン。
変異酵素(M362P+V519S):配列番号17:(2)と(8)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(8)の置換後のアミノ酸はセリン。
変異酵素(M362P+V519T):配列番号18:(2)と(8)の組合せあり、(2)の置換後のアミノ酸はプロリン、(8)の置換後のアミノ酸はトレオニン。
【0029】
後述の実施例(変異の組合せの効果の確認)に示した実験結果を踏まえると、以上の組合せの中でも、(2)と(6)の組合せ、(2)と(7)の組合せ、及び(2)と(8)の組合せが好ましい。特に好ましい組合せは、(2)と(6)の組合せである。(2)と(6)の組合せを適用した変異体(配列番号10)は、極めて高い活性比(CHDH活性/CHO活性)を示した。
【0030】
ところで、一般に、あるタンパク質のアミノ酸配列の一部を変異させた場合において変異後のタンパク質が変異前のタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちアミノ酸配列の変異がタンパク質の機能に対して実質的な影響を与えず、タンパク質の機能が変異前後において維持されることがある。この技術常識を考慮すれば、上記(1)〜(8)からなる群より選択される一又は二以上のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列からなる変異CHOと比較した場合に、アミノ酸配列の僅かな相違が認められるものの(但し、アミノ酸配列の相違は上記アミノ酸置換が施された位置以外の位置で生ずることとする)、特性に実質的な差が認められないものは、上記変異CHOと実質同一の酵素とみなすことができる。ここでの「アミノ酸配列の僅かな相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。「実質同一の酵素」のアミノ酸配列と、基準となる上記変異CHOのアミノ酸配列との同一性(%)は、好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上であり、更に更に好ましくは98%以上であり、最も好ましくは99%以上である。尚、アミノ酸配列の相違は複数の位置で生じていてもよい。「アミノ酸配列の僅かな相違」は、好ましくは保存的アミノ酸置換により生じている。
【0031】
(変異CHOをコードする核酸等)
本発明の第2の局面は本発明の変異CHOに関連する核酸を提供する。即ち、変異CHOをコードする遺伝子、変異CHOをコードする核酸を同定するためのプローブとして用いることができる核酸、変異CHOをコードする核酸を増幅又は突然変異等させるためのプライマーとして用いることができる核酸が提供される。
【0032】
変異CHOをコードする遺伝子は典型的には変異CHOの調製に利用される。変異CHOをコードする遺伝子を用いた遺伝子工学的調製法によれば、より均質な状態の変異CHOを得ることが可能である。また、当該方法は大量の変異CHOを調製する場合にも好適な方法といえる。尚、変異CHOをコードする遺伝子の用途は変異CHOの調製に限られない。例えば、変異CHOの作用機構の解明などを目的とした実験用のツールとして、或いは酵素の更なる変異体をデザイン又は作製するためのツールとして、当該核酸を利用することもできる。
【0033】
本明細書において「変異CHOをコードする遺伝子」とは、それを発現させた場合に当該変異CHOが得られる核酸のことをいい、当該変異CHOのアミノ酸配列に対応する塩基配列を有する核酸は勿論のこと、そのような核酸にアミノ酸配列をコードしない配列が付加されてなる核酸をも含む。また、コドンの縮重も考慮される。
【0034】
変異CHOをコードする遺伝子の配列の例を配列番号20〜36に示す。これらの配列はストレプトマイセス sp.由来CHOに特定のアミノ酸置換が施された変異CHOをコードする遺伝子である。各配列におけるアミノ酸置換は次の通りである。
配列番号20:L113E
配列番号21:M362P
配列番号22:M362E
配列番号23:M362R
配列番号24:M362A
配列番号25:M362W
配列番号26:M362P及びL412Y
配列番号27:M362P及びY483M
配列番号28:M362P及びY483W
配列番号29:M362P及びS518G
配列番号30:M362P及びS518L
配列番号31:M362P及びS518T
配列番号32:M362P及びS518A
配列番号33:M362P及びV519C
配列番号34:M362P及びV519I
配列番号35:M362P及びV519S
配列番号36:M362P及びV519T
【0035】
本発明の核酸は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって、単離された状態に調製することができる。
【0036】
本発明の他の態様では、本発明の変異CHOをコードする遺伝子の塩基配列と比較した場合にそれがコードするタンパク質の機能は同等であるものの一部において塩基配列が相違する核酸(以下、「相同核酸」ともいう。また、相同核酸を規定する塩基配列を「相同塩基配列」ともいう)が提供される。相同核酸の例として、本発明の変異CHOをコードする核酸の塩基配列を基準として1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、変異CHOに特徴的な酵素活性(即ちCHDH活性)を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該核酸がコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。
【0037】
以上のような相同核酸は例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などによって得られる。また、紫外線照射など他の方法によっても相同核酸を得ることができる。
【0038】
本発明の他の態様は、本発明の変異CHOをコードする遺伝子の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する核酸に関する。本発明の更に他の態様は、本発明の変異CHOをコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列に対して少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、99%、99.9%同一な塩基配列を有する核酸を提供する。
【0039】
本発明の更に別の態様は、本発明の変異CHOをコードする遺伝子の塩基配列又はその相同塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する核酸に関する。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃〜約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
【0040】
本発明の更に他の態様は、本発明の変異CHOをコードする遺伝子の塩基配列、或いはそれに相補的な塩基配列の一部を有する核酸(核酸断片)を提供する。このような核酸断片は、本発明の変異CHOをコードする遺伝子の塩基配列を有する核酸などを検出、同定、及び/又は増幅することなどに用いることができる。核酸断片は例えば、本発明の変異CHOをコードする遺伝子の塩基配列において連続するヌクレオチド部分(例えば約10〜約100塩基長、好ましくは約20〜約100塩基長、更に好ましくは約30〜約100塩基長)にハイブリダイズする部分を少なくとも含むように設計される。プローブとして利用される場合には核酸断片を標識化することができる。標識化には例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素を用いることができる。
【0041】
本発明のさらに他の局面は、本発明の遺伝子(変異CHOをコードする遺伝子)を含む組換えDNAに関する。本発明の組換えDNAは例えばベクターの形態で提供される。本明細書において用語「ベクター」は、それに挿入された核酸を細胞等のターゲット内へと輸送することができる核酸性分子をいう。
【0042】
使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
【0043】
本発明のベクターは好ましくは発現ベクターである。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
【0044】
本発明の核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
【0045】
宿主細胞としては、取り扱いの容易さの点から、大腸菌(エシェリヒア・コリ)、出芽酵母(サッカロマイセス・セレビシエ)などの微生物を用いることが好ましいが、組換えDNAが複製可能で且つ変異CHOの遺伝子が発現可能な宿主細胞であれば利用可能である。大腸菌の例としてT7系プロモーターを利用する場合は大腸菌BL21(DE3)pLysS、そうでない場合は大腸菌JM109を挙げることができる。また、出芽酵母の例として出芽酵母SHY2、出芽酵母AH22あるいは出芽酵母INVSc1(インビトロジェン社)を挙げることができる。
【0046】
本発明の他の局面は、本発明の組換えDNAを保有する微生物(即ち形質転換体)に関する。本発明の微生物は、上記本発明のベクターを用いたトランスフェクション乃至はトランスフォーメーションによって得ることができる。例えば、塩化カルシウム法(ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(J.Mol. Biol.)、第53巻、第159頁 (1970))、ハナハン(Hanahan)法(ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー、第166巻、第557頁 (1983))、SEM法(ジーン(Gene)、第96巻、第23頁(1990)〕、チャング(Chung)らの方法(プロシーディングズ オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシーズ オブ ザ USA、第86巻、第2172頁(1989))、リン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))等によって実施することができる。尚、本発明の微生物は、本発明の変異CHOを生産することに利用することができる(後述の変異酵素の調製法の欄を参照)。
【0047】
(変異CHOの用途)
本発明の第3の局面は変異CHOの用途に関する。この局面では、変異CHOを用いたコレステロール測定法が提供される。本発明のコレステロール測定法では本酵素による酸化還元反応を利用して試料中のコレステロール量を測定する。本発明は例えば血中コレステロール量の測定、食品中コレステロール量の測定などに利用される。
【0048】
本発明はまた、本酵素を含むコレステロール測定用試薬を提供する。当該試薬は上記の本発明のコレステロール測定法に使用される。
【0049】
本発明は更に、本発明のコレステロール測定法を実施するためのキット(コレステロール測定用キット)を提供する。本発明のキットは、本酵素を含むコレステロール測定用試薬の他、反応用試薬、緩衝液、コレステロール標準液などを任意の要素として含む。また、本発明のコレステロール測定キットには通常、使用説明書が添付される。
【0050】
(変異CHOの調製法)
本発明の更なる局面は変異酵素の調製法に関する。本発明の変異酵素調製法の一態様では、本発明者らが取得に成功した変異CHOを遺伝子工学的手法で調製する。この態様の場合、配列番号2〜18のいずれかのアミノ酸配列をコードする核酸を用意する(ステップ(I))。ここで、「特定のアミノ酸配列をコードする核酸」は、それを発現させた場合に当該アミノ酸配列を有するポリペプチドが得られる核酸であり、当該アミノ酸配列に対応する塩基配列からなる核酸は勿論のこと、そのような核酸に余分な配列(アミノ酸配列をコードする配列であっても、アミノ酸配列をコードしない配列であってもよい)が付加されていてもよい。また、コドンの縮重も考慮される。「配列番号2〜18のいずれかのアミノ酸配列をコードする核酸」は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって、単離された状態に調製することができる。ここで、配列番号2〜18のアミノ酸配列はいずれも、ストレプトマイセス sp.由来CHOのアミノ酸配列に変異を施したものである。従って、ストレプトマイセス sp.由来CHOをコードする遺伝子(配列番号19)に対して必要な変異を加えることによっても、配列番号2〜18のいずれかのアミノ酸配列をコードする核酸(遺伝子)を得ることができる。位置特異的塩基配列置換のための方法は当該技術分野において数多く知られており(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照)、その中から適切な方法を選択して用いることができる。位置特異的変異導入法として、位置特異的アミノ酸飽和変異法を採用することができる。位置特異的アミノ酸飽和変異法は、タンパクの立体構造を基に、求める機能の関与する位置を推定し、アミノ酸飽和変異を導入する「Semi-rational,semi-random」手法である(J.Mol.Biol.331,585-592(2003))。例えば、Quick change(ストラタジーン社)等のキット、Overlap extention PCR(Nucleic Acid Res. 16,7351-7367(1988))を用いて位置特異的アミノ酸飽和変異を導入することが可能である。PCRに用いるDNAポリメラーゼはTaqポリメラーゼ等を用いることができる。但し、KOD-PLUS-(東洋紡社)、Pfu turbo(ストラタジーン社)などの精度の高いDNAポリメラーゼを用いることが好ましい。
【0051】
ステップ(I)に続いて、用意した核酸を発現させる(ステップ(II))。例えば、まず上記核酸を挿入した発現ベクターを用意し、これを用いて宿主細胞を形質転換する。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
【0052】
次に、発現産物である変異酵素が産生される条件下で形質転換体を培養する。形質転換体の培養は常法に従えばよい。培地に使用する炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えばグルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0053】
一方、培養温度は30℃〜40℃の範囲内(好ましくは37℃付近)で設定することができる。培養時間は、培養対象の形質転換体の生育特性や変異型酵素の産生特性などを考慮して設定することができる。培地のpHは、形質転換体が生育し且つ酵素が産生される範囲内に調製される。好ましくは培地のpHを6.0〜9.0程度(好ましくはpH7.0付近)とする。
【0054】
続いて、発現産物(変異酵素)を回収する(ステップ(III))。培養後の菌体を含む培養液をそのまま、或いは濃縮、不純物の除去などを経た後に酵素溶液として利用することもできるが、一般的には培養液又は菌体より発現産物を一旦回収する。発現産物が分泌型タンパク質であれば培養液より、それ以外であれば菌体内より回収することができる。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理して不溶物を除去した後、減圧濃縮、膜濃縮、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを利用した塩析、メタノールやエタノール又はアセトンなどによる分別沈殿法、透析、加熱処理、等電点処理、ゲルろ過や吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー(例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(GEヘルスケアバイオサイエンス)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL-6B (GEヘルスケアバイオサイエンス)、オクチルセファロースCL-6B (GEヘルスケアバイオサイエンス)、CMセファロースCL-6B(GEヘルスケアバイオサイエンス))などを組み合わせて分離、精製を行ことにより変異酵素の精製品を得ることができる。他方、菌体内から回収する場合には、培養液をろ過、遠心処理等することによって菌体を採取し、次いで菌体を加圧処理、超音波処理などの機械的方法またはリゾチームなどによる酵素的方法で破壊した後、上記と同様に分離、精製を行うことにより変異酵素の精製品を得ることができる。
【0055】
上記のようにして得られた精製酵素を、例えば凍結乾燥や真空乾燥或いはスプレードライなどにより粉末化して提供することも可能である。その際、精製酵素を予めリン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液、トリス塩酸緩衝液やGOODの緩衝液に溶解させておいてもよい。好ましくは、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液を使用することができる。尚、ここでGOODの緩衝液としてはPIPES、MES又はMOPSが挙げられる。
【0056】
通常は、以上のように適当な宿主−ベクター系を利用して遺伝子の発現〜発現産物(変異酵素)の回収を行うが、無細胞合成系を利用することにしてもよい。ここで、「無細胞合成系(無細胞転写系、無細胞転写/翻訳系)」とは、生細胞を用いるのではく、生細胞由来の(或いは遺伝子工学的手法で得られた)リボソームや転写・翻訳因子などを用いて、鋳型である核酸(DNAやmRNA)からそれがコードするmRNAやタンパク質をin vitroで合成することをいう。無細胞合成系では一般に、細胞破砕液を必要に応じて精製して得られる細胞抽出液が使用される。細胞抽出液には一般に、タンパク質合成に必要なリボソーム、開始因子などの各種因子、tRNAなどの各種酵素が含まれる。タンパク質の合成を行う際には、この細胞抽出液に各種アミノ酸、ATP、GTPなどのエネルギー源、クレアチンリン酸など、タンパク質の合成に必要なその他の物質を添加する。勿論、タンパク質合成の際に、別途用意したリボソームや各種因子、及び/又は各種酵素などを必要に応じて補充してもよい。
【0057】
タンパク質合成に必要な各分子(因子)を再構成した転写/翻訳系の開発も報告されている(Shimizu, Y. et al.: Nature Biotech., 19, 751-755, 2001)。この合成系では、バクテリアのタンパク質合成系を構成する3種類の開始因子、3種類の伸長因子、終結に関与する4種類の因子、各アミノ酸をtRNAに結合させる20種類のアミノアシルtRNA合成酵素、及びメチオニルtRNAホルミル転移酵素からなる31種類の因子の遺伝子を大腸菌ゲノムから増幅し、これらを用いてタンパク質合成系をin vitroで再構成している。本発明ではこのような再構成した合成系を利用してもよい。
【0058】
用語「無細胞転写/翻訳系」は、無細胞タンパク質合成系、in vitro翻訳系又はin vitro転写/翻訳系と交換可能に使用される。in vitro翻訳系ではRNAが鋳型として用いられてタンパク質が合成される。鋳型RNAとしては全RNA、mRNA、in vitro転写産物などが使用される。他方のin vitro転写/翻訳系ではDNAが鋳型として用いられる。鋳型DNAはリボソーム結合領域を含むべきであって、また適切なターミネータ配列を含むことが好ましい。尚、in vitro転写/翻訳系では、転写反応及び翻訳反応が連続して進行するように各反応に必要な因子が添加された条件が設定される。
【実施例】
【0059】
実用性の高い、コレステロール測定用の酵素の創出を目指し、コレステロールオキシダーゼをデヒドロゲナーゼ化するという戦略の下、以下の検討を行った。
【0060】
A.変異点の特定
既知のコレステロールオキシダーゼ(Streptomyces sp. SA-COO)の立体構造情報(プロテインデータバンク(PDB): 1MXT)をもとに、ストレプトマイセス sp.由来コレステロールオキシダーゼ(CHO)(配列番号1)の立体構造を予測し、変異点を選択した。変異点は、基質結合部位周辺(18箇所)、及び活性中心周辺(9箇所)を選択した。
【0061】
B.デヒドロゲナーゼ化に効果的な変異点の選抜
A.で特定した変異点からデヒドロゲナーゼ化に効果的な変異点を、ランダムライブラリーを用いて選抜することにした。
【0062】
<方法>
デヒドロゲナーゼ化に効果的な変異点を以下の方法で選抜した。
1. PCR(反応液:25μL/チューブ)により、ランダム変異を導入した。尚、テンプレートにはpC4-CHOA1 No.1(プラスミド:pColdIV、挿入遺伝子:cho遺伝子(BspHI-HindIII))を使用した。
2. PCR反応液(25μL/チューブ)に、制限酵素DpnI(1.5μL/チューブ)を添加して処理(37℃、1h)した。
3. DpnI処理液(2μL)を用いて、ライゲーション処理(16℃、2h)した。
4. ライゲーション反応液(10μL/チューブ)を用いて、E.coli DH5αに形質転換した。
5. SOC(100μL/チューブ)を添加して、復帰培養(37℃、1h)した。
6. 全量をLB+Amp(100μg/mL)プレートに塗布して、培養(37℃、O/N)した。
7. QIA Prep(Qiagen)を用いてプラスミドを抽出した。
8. 抽出したプラスミド(4μL)を用いて、E.coli BL21(pGKJE-8)を形質転換した。
9. SOC(1mL/チューブ)を添加して、復帰培養(37℃、1h)した。
10. LB+Amp(100μg/mL)+Cm(20μg/mL)プレートに塗布して、培養(37℃、O/N)した。
11. LB Broth(invitrogen)にて前培養後、Teriffic Broth(invitrogen)にて本培養した。
12. 本培養後、菌体を回収して、B-per(TaKaRa)を用いて酵素を抽出した。
13. CHO活性測定法、CHDH活性測定法を用いて、活性を確認した。
14. 活性比(CHDH/CHO)で比較した。
【0063】
<CHO活性測定法>
菌体から抽出した酵素(又は菌体から抽出し、精製した酵素)を希釈バッファー(50mM PIPES, 0.1% Triton X-100, 0.1% BSA (pH7.0))で1〜1,000倍希釈したサンプル0.02mLと反応液(0.1M りん酸緩衝液 (pH7.0) 25.5mL、基質溶液 (5.3% コレステロール溶液 (w/v)) 2 mL、1.76 g/dL 4-A.A溶液 0.5 mL、5 g/dL フェノール溶液 1 mL、250 U/mL PO-3 (PO "Amano" 3)溶液 1 mLを混合)0.2mLを混合した後、37℃で0.5時間反応させ、吸光度500nmを測定する。本測定条件下で1分間に1μmolのH2O2を生成する酵素量を1Uとして酵素活性(U)を算出する。
【0064】
<CHDH活性測定法>
菌体から抽出した酵素(又は菌体から抽出し、精製した酵素)を希釈バッファー(50mM PIPES, 0.1% Triton X-100, 0.1% BSA (pH7.0))で1〜1,000倍希釈したサンプル0.02mLと反応液(0.1M りん酸緩衝液 (pH7.0) 25mL、基質溶液 (5.3% コレステロール溶液 (w/v)) 2 mL、3 mmol/L PMS溶液 2 mL、6.6 mmol/L NTB溶液 1 mLを混合)0.2mLを混合した後、37℃で0.5時間反応させ、吸光度570nmを測定する。本測定条件下で1分間に0.5μmolのジホルマザン色素を生成する酵素量を1Uとして酵素活性(U)を算出する。
【0065】
<結果>
結果(実験データの一部。M402及びL412のデータは省略)を図4に示す。活性比(ΔΔ570nm/Δ500nm)をもとに、基質の結合部位周辺の変異点として5箇所(L113、M362、M402、L412、D468)と、活性中心周辺の変異点として3箇所(Y483、S518、V519)を選抜した。尚、Δ570は、CHDH活性測定法における0.5時間の反応終了時のサンプルのOD値と同ブランクのOD値の差であり、Δ500はCHO活性測定法における0.5時間の反応終了時のサンプルのOD値と同ブランクのOD値の差である。
【0066】
C.デヒドロゲナーゼ化に効果のある置換後のアミノ酸の特定
B.で選抜した変異点について、デヒドロゲナーゼ化に効果のあるアミノ酸を飽和ライブラリーを用いて検討することにした。
【0067】
<方法>
デヒドロゲナーゼ化に効果の高いアミノ酸を以下の方法で特定した。尚、反応条件や培養条件等はB.の方法と同様である。
1. PCR(反応液:25μL/チューブ)により、飽和変異を導入した。尚、テンプレートにはpC4-CHOA1 No.1(プラスミド:pColdIV、挿入遺伝子:cho遺伝子(BspHI-HindIII))を使用した。
2. PCR反応液(25μL/チューブ)に、制限酵素DpnI(1.5μL/チューブ)を添加して処理(37℃、1h)した。
3. DpnI処理液(2μL)を用いて、ライゲーション処理(16℃、2h)した。
4. ライゲーション反応液(10μL/チューブ)を用いて、E.coli BL21(pGKJE-8)を形質転換した。
5. LB+Amp(100μg/mL)+Cm(20μg/mL)プレートに塗布して、培養(37℃、O/N)した。
6. LB Broth(invitrogen)にて前培養後、Teriffic Broth(invitrogen)にて本培養した。
7. 本培養後、菌体を回収して、B-per(TaKaRa)を用いて酵素を抽出した。
8. CHO活性測定法、CHDH活性測定法を用いて、活性を確認した。
9. 活性比(CHDH/CHO)で比較した。
【0068】
<結果>
結果を図5に示す。各変異点について、以下の通り、有効な置換後のアミノ酸が特定された。尚、活性中心周辺の変異点(Y483、S518、V519)については、他の変異点と組合せた場合の効果(図7)も考慮して有効な置換後のアミノ酸を特定した。尚、図5〜7における活性比(CHDH/CHO)は、活性測定法における0.5時間の反応中、20分の時点と30分の時点(反応終了時)のサンプルのOD値の差から、CHOとCHDHの各々についてU/mLを算出し、比率で表したものである。
L113:グルタミン酸、トレオニン、バリン、メチオニン、トリプトファン
M362:プロリン、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、トリプトファン
M402:アスパラギン酸、アスパラギン、グリシン、トリプトファン、トレオニン
L412:リジン、チロシン、プロリン、トレオニン、グリシン
D468:プロリン、グルタミン、ヒスチジン、チロシン、フェニルアラニン
Y483:メチオニン、トリプトファン
S518:グリシン、ロイシン、トレオニン、アラニン
V519:システイン、イソロイシン、セリン、トレオニン
【0069】
D.変異点の組合せの効果
変異点の組合せの効果について検討した。
【0070】
<方法>
変異点を組み合わせた場合の効果を以下の方法で検討した。尚、反応条件や培養条件等はB.の方法と同様である。
1. PCR(反応液:25μL/チューブ)により、飽和変異を導入した。尚、テンプレートにはpC4-CHOA1 No.1 - M362P(プラスミド:pColdIV、挿入遺伝子:M362P変異を含むcho遺伝子(BspHI-HindIII))を使用した。
2. PCR反応液(25μL/チューブ)に、制限酵素DpnI(1.5μL/チューブ)を添加して処理(37℃、1h)した。
3. DpnI処理液(2μL)を用いて、ライゲーション処理(16℃、2h)した。
4. ライゲーション反応液(10μL/チューブ)を用いて、E.coli BL21(pGKJE-8)を形質転換した。
5. LB+Amp(100μg/mL)+Cm(20μg/mL)プレートに塗布して、培養(37℃、O/N)した。
6. LB Broth(invitrogen)にて前培養後、Teriffic Broth(invitrogen)にて本培養した。
7. 本培養後、菌体を回収して、B-per(TaKaRa)を用いて酵素を抽出した。
8. CHO活性測定法、CHDH活性測定法を用いて、活性を確認した。
9. 活性比(CHDH/CHO)にて比較した。
【0071】
<結果>
結果を図6及び図7に示す。変異点の組合せにより、デヒドロゲナーゼ化の向上が確認された。M362P(単独)よりも活性比(CHDH/CHO)が高い変異の組合せを以下に示す。これらの組合せの中で、組合せ1(M362P+L412Y)は特に高い活性比を示した。尚、各組合せについて、変異酵素のアミノ酸配列を配列番号8(組合せ1)、配列番号9(組合せ2)、配列番号10(組合せ3)、配列番号11(組合せ4)、配列番号12(組合せ5)、配列番号13(組合せ6)、配列番号14(組合せ7)、配列番号15(組合せ8)、配列番号16(組合せ9)、配列番号17(組合せ10)、配列番号18(組合せ11)に示す。
組合せ1:M362P+L412Y
組合せ2:M362P+Y483M
組合せ3:M362P+Y483W
組合せ4:M362P+S518G
組合せ5:M362P+S518L
組合せ6:M362P+S518T
組合せ7:M362P+S518A
組合せ8:M362P+V519C
組合せ9:M362P+V519I
組合せ10:M362P+V519S
組合せ11:M362P+V519T
【0072】
E.変異酵素の活性評価
デヒドロゲナーゼ化された変異酵素を精製し、比活性の確認をした。
【0073】
<方法>
デヒドロゲナーゼ化された変異酵素(M362P、M362P+L412Y、M362P+Y483W、M362P+S518T、M362P+V519C)の比活性を以下の手順で求めた。尚、比較のために、野生型酵素と既報の変異酵素(V228A)の比活性も算出した。
1. 各変異酵素について、形質転換後の大腸菌を培養(前培養・本培養)した。培養条件は上記の実験に準じた。
2. 培養液から菌体を回収して、精製(集菌→菌体破砕(ビーズ破砕)→上清回収→凝集処理→カラム精製(DEAE Sepharose、Buthyl-S Sepharose)→脱塩濃縮)した。
3. 活性測定(CHO、CHDH)、タンパク濃度を測定して、比活性を算出した。
4. CHDH/CHO(比活性)を比較した。
【0074】
<結果>
結果を図8に示す。各変異酵素は野生型よりも優位にデヒドロゲナーゼ化していることが確認された。驚くべきことに、活性比(CHDH活性/CHO活性)は、単独の変異(M362P)であっても野生型の約1.9×106倍に向上した。デヒドロゲナーゼ化の程度は、既知の変異(Katsuhiro Kojima et al., Journal of molecular catalysis B: Enzymatic 88(2013) 41-46で報告されたV191A)に対応する変異酵素(V228A:V191に対応するアミノ酸残基V228がアラニンに置換された変異体)を遙かに凌駕する。また、変異を組み合わせることにより、単独の変異よりも活性比(CHDH活性/CHO活性)が約2〜20倍となった。尚、図8における活性値U/mLは、活性測定法における0.5時間の反応中、3分の時点と5分の時点のサンプルのOD値の差より算出している。
【0075】
F.ストレプトマイセス sp.CHOとブレビバクテリウム・ステロリカムCHOの構造比較
各変異酵素の調製に使用したストレプトマイセス sp.CHO(配列番号1)とブレビバクテリウム・ステロリカムCHO(配列番号54)の構造を、コンピュータソフトウエア(Molecule Operating Environment(Chemical Computing Group社製))を用い、FADにてスーパーポーズをかけて重ね合わせた。両者の構造は高い同一性を示し、各アミノ酸残基は概ね一致した。ストレプトマイセス sp.CHOにおいてデヒドロゲナーゼ化に関与することが判明したアミノ酸残基(L113、M362、M402、L412、D468、Y483、S518、V519)に対応する、ブレビバクテリウムCHOのアミノ酸残基を図9に示した。これらのアミノ酸残基(L113に対応するP76、M362に対応するM325、M402に対応するL365、L412に対応するL375、D468に対応するD431、Y483に対応するY446、S518に対応するN481、V519に対応するV482)を同様に変異させることにより、ブレビバクテリウム・ステロリカムCHOもデヒドロゲナーゼ化することが当然に予想される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の変異CHOは、試料中のコレステロールの検出・定量に有用である。本発明の変異CHOは、CHOの利点(測定の際に補酵素の添加が不要であること)とCHDHの利点(溶存酸素の影響を受けないこと)を合わせ持ち、その利用価値は高い。本発明の変異CHOは補酵素FADを内包しているため、補酵素(CHDHの場合にはNAD)の添加が不要となり、簡便且つ低コストの測定が可能となる。
【0077】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]