(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記定格電流が、前記第1ソース側に正電圧が印加された場合に前記第1SiC−MOSFETのボディダイオード部側に流れる電流が全体の1%以下になる電流範囲内に設定されたことを特徴とする、請求項1に記載の双方向ACスイッチ。
前記定格電流が流れた場合に前記第1SiC−MOSFETの前記第1ゲートをオンさせた状態における前記第1ドレインと前記第1ソースとの間に掛かる電圧の絶対値が1.0V以下になるように設定されたことを特徴とする請求項1または2に記載の双方向ACスイッチ。
前記m直列×n並列に接続された双方向ACスイッチのm段の内、各段毎に前記第1ドレインおよび前記第2ドレイン間に1つ以上接続されたサージキラー回路を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の双方向ACスイッチ。
前記m直列×n並列に接続された双方向ACスイッチの前記セル毎に前記第1ドレインおよび前記第2ドレイン間に接続されたサージキラー回路を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の双方向ACスイッチ。
前記サージキラー回路は、互いにカソードを向かい合わせに接続した第1アバランシェブレークダウンダイオードおよび第2アバランシェブレークダウンダイオードを備えることを特徴とする請求項4または5に記載の双方向ACスイッチ。
前記ゲート駆動回路は、入力に接続された発光素子と、前記発光素子からの光を受光する受光素子と、前記受光素子に接続された充放電回路を少なくとも備えた光電変換回路を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の双方向ACスイッチ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照して、実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0014】
また、以下に示す実施の形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
なお、以下の説明において、無電圧接点とは接点接触抵抗値が電流値によらず一定の値を有する接点であり、また少なくとも0V近辺での電流−電圧特性に線形性があり、電圧の正負切り替え時の電圧、電流波形歪みがない特性をいう。
【0016】
[比較例]
シリコンを材料とした比較例に係る双方向ACスイッチの個々のセルにおいて、逆並列ダイオードは金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)のソース側に正電圧が印加された場合に、MOSFET部でなく、動作電流に対するオン抵抗がより低いダイオード部に電流を流すことを目的として接続されている。
【0017】
双方向ACスイッチの個々のセルにおいて、MOSFETのゲートをオン状態にしてスイッチ出力端子間に交流電圧を印加すると、逆並列ダイオードが順方向バイアスされる側について、逆並列ダイオードのバリアハイト(barrier height)に相当する電圧以下の電圧領域ではほぼMOSFETのみを電流が流れ、それ以上の電圧領域ではMOSFETと逆並列ダイオードの両方を電流が流れる。
【0018】
ここで、Si製のMOSFETは耐圧を確保するための構造によって一般にオン抵抗が高く、かつSi製の逆並列ダイオード(もしくはボディダイオード)のpn接合拡散電位がナローバンドギャップ半導体であるSiでは1V以下程度のためオン抵抗が低く抑えられることから、基本的に前記2つの動作モードはSi製双方向ACスイッチの定格電流範囲内に必ず存在する。
【0019】
したがって、Si製双方向ACスイッチはゼロ電圧付近において電流−電圧特性の線形性が崩れており、接点スイッチ特性以外の特性や制約を持っているという点で厳密には無電圧接点(ドライ接点)とは言えない。また、低抵抗を目的として逆並列ダイオードを接続させている分、素子点数が多くなりシステム全体の大型化、高コスト化を招く。
【0020】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100の模式的回路構成は、
図1に示すように表される。
【0021】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100は、
図1に示すように、第1ゲートG1
ij(i=1,2、…、m、j=1、2、…、nであり、m、nは1以上の整数)、第1ソースS1
ijおよび第1ドレインD1
ijを有する第1SiC−MOSFET Q1
ijと、第1ゲートG1
ijおよび第1ソースS1
ijとそれぞれ短絡された第2ゲートG2
ijおよび第2ソースS2
ijを有し、かつ第2ドレインD2
ijを有する第2SiC−MOSFET Q2
ijと、互いに短絡された第1ゲートG1
ij・第2ゲートG2
ijにゲート電圧を印加するゲート駆動回路13
ijと、を備えたセル110
ijが、m直列×n並列に接続されている。
【0022】
ここで、第1SiC−MOSFET Q1
ijおよび第2SiC−MOSFET Q2
ijのそれぞれのドレインD1
ij・D2
ijが接続されたスイッチ出力端子間の通電時の定格電流が、第1SiC−MOSFET Q1
ijのソースS1
ij側に正電圧が印加された場合に第1SiC−MOSFET Q1
ijのチャネル部を流れるMOS電流I
MOSと第1SiC−MOSEFT Q1
ijのボディダイオード(BD1
ij)部に流れるBD電流I
BDを比較して、チャネル部側を流れるMOS電流I
MOSの方が大きくなる電流範囲内に設定される。ここで、定格電流については、
図7を参照して、後述する。
【0023】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100を構成するセル110
ijにおいて、ゲート駆動回路13
ijは、
図1に示すように、入力端子18A・18B間に印加する電圧を操作することで、オン・オフ制御可能な発光ダイオード(LED)8
ijを備える。第1SiC−MOSFET Q1
ijおよび第2SiC−MOSFET Q2
ijの互いに短絡されたゲートG1
ij・G2
ijには、発光ダイオード(LED)8
ijからの光を受光可能な受光素子と、受光素子に接続された充放電回路を少なくとも備えた光電変換回路などが接続されていても良いが、図示は省略する。すなわち、実施の形態に係る双方向ACスイッチ100を構成するセル110
ijにおいては、発光ダイオード(LED)8
ijを動作させ続け、これの動作を停止すれば、セル110
ijの動作も停止するような構成を備えるため、
図1においては、セル110
ijのゲート制御部は、単にG1
ij・G2
ij間を短絡して示している。
【0024】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100を構成するセル110
ijにおいては、1200V80mΩのSiC−MOSFET Q1
ij・Q2
ijを2つ向かい合わせで接続し、LED8
ijからの光信号を受光する受光素子と充放電回路でゲート制御を行う接点定格AC(700×m)V/(5×n)Aの双方向ACスイッチが構成可能である。
【0025】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチを構成するセル110
ijに適用可能なSiC−MOSFETの回路表現は、
図2に示すように表される。
図2の回路表現は、Si−MOSFETにおいても同様である。
【0026】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチを構成するセル110
ijに適用可能なSiC−MOSFETとSi−MOSFETの順方向および逆方向電流−電圧特性の説明図は、
図3に示すように表される。
【0027】
ここで、Si−MOSFETでは、オン状態においても順方向のMOS電流I
MOS(Si−MOS)は、
図3の破線に示すように、一般にオン抵抗が高い。かつSi製の逆並列ダイオード(もしくはボディダイオード)のpn接合拡散電位がナローバンドギャップ半導体であるSiでは1V以下程度のため、逆方向特性は、例えば、約0.6Vまでは、逆方向のMOS電流I
MOS(Si−MOS)特性に従い、更に約0.6V以上の逆方向電圧が印加されると、ボディダイオードBDの順方向電流が重畳されて、
図3の破線に示すように、I
BD(Si−MOS)の特性が得られる。
【0028】
一方、SiC−MOSFETは、Si−MOSFETに比べて、オン状態(例えばVgs=18V)において順方向のMOS電流I
MOS(SiC−MOS)は、
図3の実線に示すように、オン抵抗が低い。かつSiC製のボディダイオードBDのpn接合拡散電位がワイドギャップ半導体であるSiCでは約3V以下程度のため、ボディダイオードBDの電気特性は、例えば、
図3の(2)の曲線I
BD(SiC−MOS)に示されるように、約0.6Vまでは、ほぼ非導通である。このため、逆方向特性は、例えば、約0.6Vまでは、逆方向のMOS電流I
MOS(SiC−MOS)特性に従い、更に約0.6V以上の逆方向電圧が印加されると、印加電圧が大きくなるほどボディダイオードBDの順方向電流が大きく重畳されて、
図3の(1)の実線に示すように、I
MOS(SiC−MOS)+I
BD(SiC−MOS)の特性が得られる。
【0029】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100を構成するセル110
ijに適用可能なSiC−MOSFETの順方向および逆方向のドレイン電流−ドレイン電圧特性例は、
図4に示すように表される。
図4において、破線RAは、1個のSiC−MOSFETの空冷時の定格動作範囲の一例を示す。
【0030】
図4において、ゲート電圧Vgs=0Vにおいて順方向のMOS電流I
MOSはほぼ導通せず、逆方向電流は、ボディダイオードBDに導通する電流I
BDが示されている。一方、ゲート電圧Vgs=18Vにおいては、SiC−MOSFETはオン(導通)状態となり、順方向および逆方向のMOS電流I
MOSは破線RAの範囲内においてともに直線性の良好な電流−電圧特性が得られている。
【0031】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチを構成するセル110
ijに適用可能なSiC−MOSFETにおいて、ゲート電圧Vgs=18Vのオン状態におけるMOSFETのチャネル部を導通するMOS電流I
MOSの順方向電流−電圧特性例、およびボディダイオードBDを導通するBD電流I
BDの順方向−電圧特性例は、
図5に示すように表される。また、破線は、ボディダイオードBDに流れる電流割合I
BD/(I
BD+I
MOS)(%)を表している。
【0032】
SiC−MOSFETのドレイン電流−ドレイン電圧特性(150℃:定格ジャンクション温度)では、±5A以下の領域ではボディダイオードBDはほぼ動作せず、SiC−MOSFETのチャネル部の電気特性を反映した関係になっている。すなわち、
図5に示すように、5A時のSiC−MOSFETのドレイン−ソース間オン電圧は0.68Vであるため、ソース側に正電圧が印加された場合のチャネル部とボディダイオードに流れる電流
Dの比I
BD/(I
BD+I
MOS)(%)は0.002%以下となり、ほぼ完全にMOSFET部にのみ電流が流れる。この傾向は25℃時では電流比は0.001%以下になり、同様の効果が得られる。
【0033】
SiCはワイドバンドギャップ半導体であるが故に、pn接合を形成した場合の拡散電位はSiと比較して非常に大きい。このため、SiCを材料に使えば、ゲートオン状態においてMOSFETのソース側に正電圧が印加された場合にボディダイオードに流れる電流を抑制し、MOSFET部のみに選択的に電流を流すことができる。すなわち、SiCのpn接合拡散電位は3V程度と大きくボディダイオードが導通しにくいため、SiC−MOSFETのみで双方向スイッチ回路を作り、動作電流をボディダイオードを動かさずMOSFETのみに制限することで線形性の優れた双方向ACスイッチを作成することができる。
【0034】
図1に示される回路構成により、SiC−MOSFET Q1
ij・Q2
ijを向かい合わせに接続した双方向ACスイッチ100を構成するセル110
ijが形成される。ここでSiC−MOSFET Q1
ij・Q2
ijはボディダイオードBD1
ij・BD2
ijを内蔵しているが、そのpn接合の拡散電位はワイドバンドギャップ半導体であるSiCから形成されているため3V程度と高く、一方で絶縁破壊電界が高いためドリフト層の膜厚を薄く、キャリア濃度を高く設定でき、SiC−MOSFET Q1
ij・Q2
ijのドレイン−ソース間オン抵抗を低く設定することができる。例えば、SiC−MOSFET Q1
ij・Q2
ijは、耐圧1200V、入力容量2080pFで、ドレイン−ソース間オン抵抗は、約80mΩを実現可能である。
【0035】
このため、SiC−MOSFET Q1
ij・Q2
ijのソースS1
ij・S2
ij側に正電圧が印加されたとき、チャネル側電流経路のオン抵抗値をボディダイオードBD1
ij・BD2
ij側電流経路のオン抵抗より低く設定できる範囲がSi−MOSFETと比較して飛躍的に拡張でき、チャネル側に優先的に電流を流しやすくなる。Si−MOSFETにおいても大量に並列数を増やせばチャネル部のみに流せる電流範囲を増大させることはできるが、その場合MOSFET素子数とその数に応じた制御回路が必要になるため、双方向ACスイッチ全体のシステムが大きくなり現実的でない。
【0036】
ここで、双方向ACスイッチの定格電流をチャネル側電流経路の電流が主になる範囲に制限すれば双方向ACスイッチの電流−電圧特性はSiC−MOSFETのチャネル部を通る電流の電流−電圧特性によって決まり、途中で主の電流経路が変化しないため電流−電圧特性の急峻な変曲点が現れなくなる。また、SiC−MOSFETはオン抵抗が低く、SiC−MOSFETのみに電流が流れる場合でも電圧降下がほとんどない。スイッチ出力部の接点接触抵抗はSiC−MOSFETのオン抵抗のみとなり、接触抵抗以外による電圧降下がほぼ発生しない無電圧接点の双方向ACスイッチを構成することができる。
【0037】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100においては、SiC−MOSFETの線形領域特性のみを使用しているため、歪率の少なく線形性に優れた無電圧接点の双方向ACスイッチを構成することができる。また、逆並列接続されるボディダイオードとは別のダイオードがなく、部品点数が削減されるため、小型でかつ安価に製作でき、信頼性も向上する。
【0038】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100においては、
図5に示すように、定格電流が、第1SiC−MOSFETのソース側に正電圧が印加された場合に第1SiC−MOSFET Q1のボディダイオードBD1側に流れる電流が全体の1%以下になる電流範囲内に設定されていても良い。
【0039】
すなわち、ボディダイオードBD側に流れる電流I
BDをチャネル側に流れる電流I
MOSと合わせた全体の電流値の1%以下になるようにオン抵抗を設計すれば、実質的にチャネル部のみに電流が流せるようになるため、電流−電圧特性の歪率が少なく線形性に優れた双方向ACスイッチを構成することができる。
【0040】
また、第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100においては、
図5に示すように、定格電流が流れた場合に、SiC−MOSFETのゲートをオンさせた状態におけるドレイン−ソース間に掛かる電圧の絶対値が1.0V以下になるように設定されていても良い。
【0041】
すなわち、双方向ACスイッチの定格電流範囲内でSiC−MOSFETのゲートオン時のドレイン−ソース間オン電圧を1.0V以下にすることによって、実質的にほぼ完全にチャネル部のみに電流が流せるようになるため、電流−電圧特性の歪率が少なく線形性に優れた双方向ACスイッチを構成することができる。
【0042】
SiC−MOSFETのボディダイオードはそのチップ面積や集積量に関わらず順方向電圧が1.0V以下であればほぼ動作しないため、実質的にチャネル部のみに電流が流せるようになる。さらに、1.0V以下の微小電圧領域においてはMOSFETのチャネル部を通る電流経路の電流−電圧特性のうち、線形領域部分のみを使えるため、飽和領域特性の影響による出力電流波形の歪みも抑制され、電流−電圧特性の線形性の非常に優れた双方向ACスイッチを構成することができる。
【0043】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチを構成する単位セルの電流−電圧特性例であって、1200V80mΩのSiC−MOSFET×2から構成される双方向ACスイッチの電流−電圧特性は、
図6に示すように表される。破線RAは、SiC−MOSFET×2から構成される双方向ACスイッチを構成する単位セルの定格動作範囲を示す。
【0044】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチを構成する単位セルの電流−電圧特性上における定格電流動作範囲の説明図は、
図7に示すように表される。
【0045】
定格電流とは、第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチを構成する単位セルに適用されるSiC−MOSFETおよびこれらのSiC−MOSFETを2個直列接続した双方向ACスイッチにおいて、いずれも同様に定義可能である。すなわち、定格電流は、発熱量、熱抵抗、および冷却方法に依存し、一定の冷却条件において、定格接合温度T
jMAX以下になる最大の電流値で定義される。
【0046】
図7に示される第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチを構成する単位セルの線形範囲の電流−電圧特性上、電流値IDが定格電流で表される。+IDと−ID間の電流範囲ΔIで、第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチを構成する単位セルは、線形の電流電圧特性を示す。例えば、一定の空冷条件において、定格接合温度T
jMAX=150℃において、定格電流ID=5Aが得られている。
【0047】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチによれば、構成するそれぞれのMOSFETがボディダイオードとは別の逆並列ダイオードを有しない無電圧接点双方向ACスイッチを実現することができる。
【0048】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチによれば、所望の電流仕様範囲においてボディダイオードが動作しないようなSiC−MOSFETを適用可能であるため、電流−電圧特性の線形性が良好に保たれた無電圧接点双方向ACスイッチを実現することができる。
【0049】
また、セルの直並列数は1以上の任意の値を取ってよく、この双方向ACスイッチを使ってシーケンスを組む場合には、無電圧接点であるために設計の複雑化を抑えることができる。例えば、設計の簡易化、設計期間の短縮、スイッチ部の電圧降下に基づく動作不良の回避が実現可能となる。
【0050】
第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチによれば、電圧−電流特性の線形性に優れ、小型で安価、長寿命、高耐圧、大電流容量で高速応答可能な無電圧接点の双方向ACスイッチを提供することができる。
【0051】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係る双方向ACスイッチ102の模式的回路構成は、
図8に示すように、双方向ACスイッチ102の各セル111
ijの第1ドレインD1
ijおよび第2ドレインD2
ij間に接続されたサージキラー回路26
ijを備える。
【0052】
サージキラー回路26
iは、互いにカソードを向かい合わせに接続した第1アバランシェブレークダウンダイオード(ABD:Avalanche Breakdown Diode)ABD1
ijおよび第2アバランシェブレークダウンダイオードABD2
ijを備えていても良い。
【0053】
第2の実施の形態に係る双方向ACスイッチ102は、
図8に示すように、各段の出力端子間にABD1
ij・ABD2
ijを向かい合わせにしたサージキラー回路26
iを接続している。この構成により、例えば、接点定格負荷AC(700×m)V/(5×n)Aの双方向ACスイッチ102を提供することができる。また、i段目に接続されたサージキラー回路26
iにより、同じi段目のSiC−MOSFET Q1
ij・Q2
ijのドレイン−ソース間に掛かる電圧を制限することができる。
【0054】
SiC−MOSFETは材料であるSiCが高絶縁破壊電界であることを利用してドリフト層の膜厚を薄く、キャリア濃度を高く設定できる反面、ゲート絶縁膜に強い電界強度が掛かってしまう危険がある。これに対し、アバランシェ降伏電圧でなくゲート絶縁膜への電界集中緩和を目的としたドリフト層条件設定を行うため、デバイスのドレイン−ソース間定格電圧とアバランシェ降伏電圧が大きく乖離している特徴を持っていることが多い。
【0055】
ここで仮にSiC−MOSFETにSiCショットキーバリアダイオード(SiC−SBD:Silicon Carbide Schottky Barrier Diode)を逆並列接続させていた場合は、SiC−SBDのアバランシェ降伏によって電圧が制限されが、SiC−MOSFETのみで双方向ACスイッチを構成した場合は、意図せぬ巨大電圧が印加された場合に、アバランシェ降伏せずに印加電圧がデバイスのドレイン−ソース間定格電圧を継続的に超過する危険がある。
【0056】
ここで、双方向ACスイッチの各段の出力端子間に向かい合わせに接続したABD(アバランシェブレークダウンダイオード)を配置することで、双方向ACスイッチの各セルに掛かる電圧をABDのアバランシェ降伏電圧によって規定することができる。
【0057】
また、SiC−MOSFETの中間点と向かい合わせにしたABDの中間点とを接続しないため、ABDの順方向特性による双方向ACスイッチの電流−電圧特性への影響をなくすことができるため、ABDの順方向特性をデバイス選定基準から外すことができ、設計の自由度が向上する。
【0058】
第2の実施の形態に係る双方向ACスイッチによれば、双方向ACスイッチの各セルに掛かる電圧をABDのアバランシェ降伏電圧によって規定することができ、電圧−電流特性の線形性に優れ、小型で安価、長寿命、高耐圧、大電流容量、高速応答可能で、大電圧や分圧バランスの不均一に起因するSiC−MOSFETの破壊の危険が軽減した無電圧接点の双方向ACスイッチを提供することができる。
【0059】
また、サージキラー回路は双方向スイッチの各段毎に1つ以上接続されていても良く、各セル毎に接続されていても良い。さらに、ABDの耐圧を確保する目的でABDの直列数を増加させても良い。
【0060】
また、セルの直並列数は1以上の任意の値を取っても良く、この双方向ACスイッチを使ってシーケンスを組む場合には、無電圧接点であるために設計の複雑化を抑えることができる。例えば、設計の簡易化、設計期間の短縮、スイッチ部の電圧降下に基づく動作不良の回避を実現可能である。
【0061】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチ104の模式的回路構成は、
図9に示すように表され、双方向ACスイッチ104を構成する単位セル202
ijの模式的回路構成は、
図10に示すように表される。
【0062】
第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチ104は、
図9・
図10に示すように、向かい合わせに接続した2つのMOFET Q1
ij・Q2
ijと、MOFET Q1
ijのドレインD1
ijとMOFET Q2
ijのドレインD2
ij間に2つのABD1
ij・ABD2
ijを向かい合わせにしたサージキラー回路26
iを備える構成を単位セル202
ijとし、この単位セル202
ijをm直列×n並列に接続した構成を備える。
【0063】
また、ゲート駆動回路15
iは、入力端子18A・18Bに接続されたE/O変換器22
iと、直流電圧(DC+24V)が供給された絶縁型DC/DC変換器16
iと、E/O変換器22
iに接続された光ファイバー17
iと、光ファイバー17
iを介してE/O変換器22
iと接続され、かつ絶縁型DC/DC変換器16
iと接続されたO/E変換器14
iと、O/E変換器14
iに接続されたFETドライバ12
i1とを備える。E/O変換器22
iとO/E変換器14
iの間には絶縁型DC/DC変換器16
iと同等以上の耐圧が確保されている。同様に、i段目の他のセル202
i2・202
i3・…・202
inのFETドライバ12
i2・12
i3・…・12
inは、O/E変換器14
iと共通接続されている。
【0064】
第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチ104によれば、例えば、接点定格負荷AC(700×m)V/(5×n)Aの双方向ACスイッチを提供することができる。
【0065】
第3の実施の形態によれば、光ファイバーによる十分な絶縁距離の確保によって、制御側のノイズ耐性を強化し、ゲート電圧低下による電流の低下や、ゲート過電圧によるゲート破壊、スイッチング特性の悪化を抑制した双方向ACスイッチを構成することができる。
【0066】
また、第3の実施の形態によれば、サージキラー回路による印加電圧の保証をすることで故障しにくく、電圧−電流特性の線形性に優れ、小型で安価、長寿命、高耐圧、大電流容量、高速応答可能で、大電圧や分圧バランスの不均一に起因するSiC−MOSFETの破壊の危険が軽減した無電圧接点の双方向ACスイッチを提供することができる。
【0067】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態に係る双方向ACスイッチ106の模式的回路ブロック構成は、
図11に示すように、第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100のスイッチ出力端子の外側に直列に接続された断路器107をさらに備える。ここで、断路器107は、電磁式スイッチ等により構成可能である。また、双方向ACスイッチ100と断路器107との間には、制御回路109を備えていても良い。制御回路109は、双方向ACスイッチ100の電流遮断信号を受信し、断路器107のオフ動作のトリガ信号を断路器107に供給する動作を行っている。
【0068】
半導体を使った双方向ACスイッチ100は物理的に配線を切っているわけではないので、リーク電流が僅かながら存在する。これが問題にならないように、双方向ACスイッチ100で高速遮断した後に、断路器107を使って物理的に遮断することで、リーク電流に起因する電力損失や、オフ状態の双方向ACスイッチ100に異常が発生したときの事故を防止することができる。
【0069】
すなわち、半導体を使った双方向ACスイッチ100では出力端子間の物理的接続は切れておらず、リーク電流を完全にゼロにすることは困難である。半導体を使った双方向ACスイッチ100の出力端子に直列に断路器107が接続され、双方向ACスイッチ100が電流導通を遮断した後に断路器107により電圧をオフにする順序を経ることで、配線108に導通する電流を高い安全性を確保しつつ遮断するとともに、双方向ACスイッチ100のオフ時の電力消費が抑制できる。双方向ACスイッチは電流遮断を1μ秒以内の短時間で完了できるため、電磁式スイッチ特有の放電現象による遮断時間の遅れとそれに伴う巨大事故電流発生の可能性を完全に排除する。このことは、系統に接続される配線108や電子機器の電流許容設計の簡略化を実現する。
【0070】
なお、第4の実施の形態に係る双方向ACスイッチ106において、第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100を適用する例を開示したが、第1の実施の形態に係る双方向ACスイッチ100に限定されることはない。すなわち、第2の実施の形態に係る双方向ACスイッチ102や、第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチ104に対しても同様に適用可能である。
【0071】
(半導体デバイスの構成例)
―SiC−DIMOSFET―
第1〜第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチに適用可能な半導体デバイス200の例であって、SiC−DI(Double Implanted)MOSFETの模式的断面構造は、
図12に示すように表される。
【0072】
第1〜第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチに適用可能なSiC−DIMOSFETは、
図12に示すように、n
+SiC基板124と、n
+SiC基板124上にエピタキシャル成長されたn
-ドリフト層126と、n
-ドリフト層126の表面側に形成されたpボディ領域128と、pボディ領域128の表面に形成されたn
+ソース領域130と、pボディ領域128間のn
-ドリフト層126の表面上に配置されたゲート絶縁層132と、ゲート絶縁層132上に配置されたゲート電極138と、n
+ソース領域130およびpボディ領域128に電気的に接続されたソース電極134と、n
+SiC基板124の、n
-ドリフト層126と反対側の表面に電気的に接続されたドレイン電極136とを備える。
【0073】
図12では、半導体デバイス200は、pボディ領域128と、pボディ領域128の表面に形成されたn
+ソース領域130が、ダブルイオン注入(DI)で形成され、ソースパッド電極SPは、n
+ソース領域130およびpボディ領域128に接続されたソース電極134に接続される。ゲートパッド電極GP(図示省略)は、ゲート絶縁層132上に配置されたゲート電極138に接続される。また、ソースパッド電極SP・ソース電極134およびゲートパッド電極GP(図示省略)は、
図12に示すように、半導体デバイス200の表面を覆うパッシベーション用の層間絶縁膜144上に配置される。
【0074】
―SiC−TMOSFET―
第1〜第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチに適用可能な半導体デバイス200の例であって、SiC−TMOSFETの模式的断面構造は、
図13に示すように表される。
【0075】
第1〜第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチに適用可能なSiC−TMOSFETは、
図13に示すように、n
+SiC基板124と、n
+SiC基板124上にエピタキシャル成長されたn
-ドリフト層126Nと、n
-ドリフト層126Nの表面側に形成されたpボディ領域128と、pボディ領域128の表面に形成されたn
+ソース領域130と、pボディ領域128を貫通し、n
-ドリフト層126Nまで形成されたトレンチの内にゲート絶縁層132および層間絶縁膜144U・144Bを介して形成されたトレンチゲート電極138TGと、ソース領域130およびpボディ領域128に接続されたソース電極134と、n
+SiC基板124の、n
-ドリフト層126Nと反対側の表面に電気的に接続されたドレイン電極136とを備える。
【0076】
図13では、半導体デバイス200は、pボディ領域128を貫通し、半導体基板126Nまで形成されたトレンチ内にゲート絶縁層132および層間絶縁膜144U・144Bを介して形成されたトレンチゲート電極138TGが形成され、ソースパッド電極SPは、ソース領域130およびpボディ領域128に接続されたソース電極134に接続される。ゲートパッド電極GP(図示省略)は、ゲート絶縁層132上に配置されたゲート電極138に接続される。また、ソースパッド電極SP・ソース電極134およびゲートパッド電極GP(図示省略)は、
図13に示すように、半導体デバイス200の表面を覆うパッシベーション用の層間絶縁膜144U上に配置される。
【0077】
SiC−TMOSFETはドレイン電流経路にpボディ領域128から伸張するジャンクション抵抗が存在しないため、SiC−DIMOSFETと比較してさらに低オン抵抗のFETを提供することが可能であり、1素子当たりに100A以上のドレインパルス電流を許容することも可能になる。
【0078】
また、第1〜第3の実施の形態に係る双方向ACスイッチに適用可能な半導体デバイス200には、SiC系MOSFETの代わりに、GaN系FETなどを適用することもできる。
【0079】
SiCデバイスは、高絶縁破壊電界(例えば、約3MV/cmであり、Siの約3倍)であることから、Siに比べてドリフト層の膜厚を薄くし、かつキャリア濃度を高く設定しても耐圧が確保できる。絶縁破壊電界の違いから、SiC−MOSFETのピーク電界強度は、Si−MOSFETのピーク電界強度よりも高く設定可能である。
【0080】
SiC−MOSFETにおいては、必要なn
-ドリフト層126・126Nの膜厚が薄く、キャリア濃度と膜厚の双方のメリットによって、n
-ドリフト層126・126Nの抵抗値を低減し、オン抵抗R
onを低くすることができ、チップ面積を縮小化(小チップ化)可能である。さらにユニポーラデバイスであるMOSFET構造のままで、Si−IGBTに比肩し得る耐圧を実現可能であることから、高耐圧でかつ高速スイッチングできるとされ、スイッチング損失の低減が期待できる。
【0081】
以上説明したように、本実施の形態によれば、電圧−電流特性の線形性に優れ、小型で安価、長寿命、高耐圧、大電流容量で高速応答可能な無電圧接点の双方向ACスイッチを提供することができる。
【0082】
[その他の実施の形態]
上記のように、第1〜第3の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0083】
このように、本実施の形態ここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。