特許第6605502号(P6605502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6605502高濃度に硫黄成分を含有する低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605502
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】高濃度に硫黄成分を含有する低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/04 20060101AFI20191031BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20191031BHJP
   F02M 26/35 20160101ALI20191031BHJP
   B01D 53/92 20060101ALI20191031BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20191031BHJP
   B01D 53/18 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   F01N3/04 Z
   F01N3/08 A
   F02M26/35 Z
   B01D53/92 215
   B01D53/92ZAB
   B01D53/14 210
   B01D53/18 160
   B01D53/92 331
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-566531(P2016-566531)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086295
(87)【国際公開番号】WO2016104731
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年10月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-265076(P2014-265076)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】古堅 宗勝
(72)【発明者】
【氏名】牧野 義
(72)【発明者】
【氏名】滝川 一儀
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−507680(JP,A)
【文献】 特開2003−126659(JP,A)
【文献】 実開昭55−73248(JP,U)
【文献】 実開昭54−178745(JP,U)
【文献】 特開昭55−22335(JP,A)
【文献】 特開昭64−67226(JP,A)
【文献】 国際公開第03/073031(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/04
B01D 50/00
B01D 53/14
B01D 53/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気マニホールドに連なる排気管もしくはEGR配管に配設して、処理水を鉛直管の内壁面に沿って膜状に流下させ、かつ排気ガスを鉛直管内に流して反応を行わせる濡壁方式のスクラバーであって、両端付近に冷却水流入管及び冷却水流出管を有する胴管の上下両端部に設けた上部管板と下部管板間に複数本の円管(濡壁流下管)を垂直に間隔配設すると共に、前記上部管板の上方には処理水流入管を有する上部チャンバーを、前記下部管板の下方には処理水流出管を有する下部チャンバーをそれぞれ胴管に設け、前記上部チャンバーの上方には前記円管内径より小径の外径を有しかつその下端開口端部と円管内面との所望間隔を保持する処理水ガイドパイプを各円管に対応位置させて配設した上部ガイドパイプ管板を設け、前記下部チャンバーの下方には前記円管内径より小径の外径を有しかつその上端開口端部が円管内面と所望間隔を保持するガスガイドパイプを各円管に対応位置させて配設した下部ガイドパイプ管板を設け、前記上部ガイドパイプ管板の上方に上部カバーを、前記下部ガイドパイプ管板の下方に下部カバーをそれぞれ有し、処理水ガイドパイプを介して供給される処理水を円管の内壁面に沿って膜状に流下させ、ガスガイドパイプより円管内に導入される排気ガスと反応させる構造となしたことを特徴とする、高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー。
【請求項2】
前記処理水ガイドパイプは、下端開口端部がラッパ状に拡径していることを特徴とする請求項1に記載の高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー。
【請求項3】
前記ガスガイドパイプは、上端開口端部が口すぼまり状に縮径していることを特徴とする請求項1又は2に記載の高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー。
【請求項4】
前記円管内の排気ガスの流れに渦流を生じさせるため、前記円管の軸心部に所望軸方向間隔で径方向に突出部を有するタービュレーターを設けて構成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー。
【請求項5】
前記円管内の排気ガスの流れに渦流を生じさせかつ前記円管の内周面の周方向への処理水の分散と、前記円管の内周面における処理水の滞留時間の長期化と表面積の増大を図るため、前記円管の内周面に沿うよう螺旋状に乱流促進部材又は乱流制御部材を配設して構成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー。
【請求項6】
前記円管の上端を上部管板より突出させ、該突出部相互の間に先端に前記円管先端高さより高い位置に溝底が位置する溝及び/又は壁部に貫孔もしくは壁部下端に溝を有し、前記突出部の高さより高さの高いパーテーション構造体を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー。
【請求項7】
前記パーテーション構造体は前記上部チャンバーと同心の外筒内に設けられ、かつ該外筒と前記上部チャンバーとの間に前記溝及び/又は前記貫孔を有する堰を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー。
【請求項8】
前記排気ガス浄化装置用スクラバーを垂直方向直列に複数配置して構成した多段構造もしくは多層構造であって、上方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの前記下部ガイドパイプ管板と下方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの前記上部ガイドパイプ管板との間に、前記上部あるいは下部チャンバー内径と同一内径で上下にアダプターフランジを有するアダプターを介在させて構成したことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる硫黄酸化物等の有害ガスを除去し浄化する船舶用、発電用、産業用等の特に高濃度に硫黄成分を含有する重油(Fuel Oil)は舶用工業界において、ディーゼル油(Diesel Oil:DO)、舶用ディーゼル燃料(Marine Diesel Fuel:MDF)又は舶用ディーゼル油(Marine Diesel Oil:MDO)、舶用燃料油(Marine Fuel Oil:MFO)、重質燃料油(Heavy Fuel Oil:HFO)、残差燃料油(Residual Fuel Oil:RFO)と標記されるが、本発明においてはこれらの標記を総称して重油等の低質燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス処理技術に係り、より詳しくは高い温度の排気ガスを排出する大排気量船舶用ディーゼルエンジンにおけるガスと粒子の拡散速度の相違を利用したスクラバーを配した排気ガス浄化装置の前記スクラバーに関する。
【背景技術】
【0002】
各種船舶や発電機並びに大型建機、さらには各種自動車等の動力源としてディーゼルエンジンが広範囲に採用されているが、このディーゼルエンジンから排出される排気ガスに含まれるカーボンを主体とする粒状物質(Particulate Matter:以下「PM」と称する)や硫黄酸化物(以下「SOx」と称する)、窒素酸化物(以下「NOx」と称する)は、周知の通り大気汚染をきたすのみならず、人体に極めて有害な物質であるため、その排気ガスの浄化は極めて重要である。このため、ディーゼルエンジンの燃焼方式の改善や各種排気ガスフィルタの採用、排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation:以下、「EGR」と称する。)法、選択式還元触媒脱硝法(Selective Catalytic Ruduction:以下、「SCR」と称する。)、コロナ放電を利用して電気的に処理する方法等、既に数多くの提案がなされ、その一部は実用に供されている。
【0003】
ここで、ディーゼルエンジンの排気ガス中のPM(粒状物質)の成分は、有機溶剤可溶分(SOF:Soluble Organic Fractions、以下、「SOF」と称する。)と有機溶剤不溶分(ISF:Insoluble Organic Fractions、以下、「ISF」と称する。)の2つに分けられるが、そのうちSOF分は、燃料や潤滑油の未燃分が主な成分で、発ガン作用のある多環芳香族等の有害物質が含まれる。一方、ISF分は、電気抵抗率の低いカーボン(すす)とサルフェート(Sulfate:硫酸塩)成分を主成分とするもので、このSOF分およびISF分は、その人体、環境に与える影響から、極力少ない排気ガスが望まれている。特に、生体におけるPMの悪影響の度合いは、その粒子径がnmサイズになる場合に特に問題であるとも言われている。
【0004】
コロナ放電を利用して電気的に処理する方法としては、例えば以下に記載する方法及び装置(特許文献1〜2)が提案されている。
即ち、本出願人は特許文献1において、図9にその概略を示すように、排気ガス通路121にコロナ放電部122−1と帯電部122−2とからなる放電帯電部122を設けて、コロナ放電された電子129を排気ガスG1中のカーボンを主体とするPM128に帯電させ、同排気ガス通路121に配置した捕集板123で前記帯電したPM128を捕集する方式であって、放電帯電部122における電極針124は排気ガス流の流れ方向長さが短く、かつ捕集板123は排気ガス流の流れ方向に対し直角方向に配設された構成となしたディーゼルエンジンの排気ガス用電気式処理方法及び装置を提案している。なお図中、125はシールガス管、126は高圧電源装置、127は排気ガス誘導管である。
【0005】
しかしながら、上記コロナ放電等を利用して電気的に排気ガス中のPMを処理するディーゼルエンジンの排気ガス処理技術においては、以下に記載する課題が生じている。即ち、船舶用ディーゼルエンジンにあっては、硫黄分の少ない軽油を使用する自動車用ディーゼルエンジンと比較して格段に大きな排気量を有しかつ重油以下の低質で硫黄分を多く含有する(重油は軽油に対し100〜3500倍程度の硫黄分を含有:JIS K2204:2007「軽油」;0.0010質量%以下、K2205−1990「重油」;0.5〜3.5質量%以下、による)燃料を使用する大排気量船舶用ディーゼルエンジンに、例えば先の特許文献1に記載の排気ガス浄化装置を用いた場合には、重油以下の低質燃料中の硫黄分が排気ガス及び又はEGRガス中にSOFとして含まれるだけでなくサルフェートとなりエンジン構成部品、特に排気関係部品を腐食するという課題を克服する必要がある。
【0006】
かかる対策として、本出願人は特許文献2に記載の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置を提案している。この船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置は、例えば図10にその概略を示すように、高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を燃料として使用するディーゼルエンジン(E)111の排気マニホールド(E/M)112下流の排気管のターボチャージャー(T/C)114のタービンホイール(図示せず)下流に排気ガスクーラー(G/C)115を配設し、さらに該排気ガスクーラーの下流に静電サイクロン排気ガス浄化装置(ESP/C/DPF(Diesel Particulate Filter)116を配設し、その下流配管に排気ガス中のSOxをその処理水に溶解するがPMは処理水にほとんど溶解・除去しないスクラバー(以下「PMフリースクラバー」と称する)113を配設し、エアーフィルター(A/F)117下流の吸気管にターボチャージャー(T/C)114のコンプレッサーホイール(図示せず)及びインタークーラー(I/C)118を経由してエンジンの吸気マニホールド(I/M)119に外部の空気を吸気させるよう構成される装置を提案している。
【0007】
この船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置におけるPMフリースクラバー113としては、図11にその一例を示すように、排気ガス又はEGRガス通路に設けられたスクラバーハウジング(図示せず)内に、繊維質で吸水性のあるエンドレスベルト120−1を処理水タンク120−2内で下部に設けた駆動ロール120−3及び上下両部に設けた従動ロール120−4間にサーペンタイン状(九十九折り状)に配設し、配管(図示せず)及びモータ(図示せず)にて駆動される循環ポンプ(図示せず)により前記処理水タンク120−2内の処理水を供給ノズル(図示せず)を介して、前記エンドレスベルト120−1の表裏両面の上部に設けた従動ロール120−4直下より処理水Wを流下させてエンドレスベルト表裏の全表面を常時湿潤させる構成となしたものが知られている。図中、120−5は排気ガス流路である。
【0008】
又、図12に他の例を示すように、ガラス繊維やカーボン繊維、アラミド繊維等を骨格とした好ましくは多孔質のセラミック製素材よりなる波板と平板を交互に積層して、波板と平板間のトンネル状の微小断面の排気ガス流路121−7で構成されるハニカム構造のハニカムコア(例えば、ニチアス株式会社製 商品名:ハニカムウォッシャー)を積層してハニカムユニットコア部121−1として設け、該ハニカムユニットコア部に略均一に給水する給水ノズルもしくは給水ダクトからなる給水部121−2を配置し、該給水部121−2より給水されたスクラバー処理水(洗浄水)Wが前記ハニカムユニットコア部121−1の斜行する各微小流路の表面を湿潤しながら流下し、アンダートレイ121−3に至りその後処理水タンク121−4からポンプPにて給水部121−2に送られ、循環使用される構成となしている。図中、121−5は処理水タンク、121−6はノズル孔である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2006/064805号公報
【特許文献2】特開2014−224527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した特許文献2等に記載のディーゼルエンジン排ガス浄化装置におけるPMフリースクラバーには、以下に記載する問題点がある。
即ち、図11に示すPMフリースクラバーは、当該スクラバーを構成するベルト状の各壁面に存在(一部流下)する処理水Wの薄膜層により、排気ガス中のSOxは排気ガス流路120−5の各壁面の処理水の表面付近に沿って流れる間に処理水に吸着され溶解してその濃度を激減させて排出されるが、排気ガス中のPMは処理水の表面に沿って流れるだけで、スクラバー処理水の表面に対し排気ガスが激しく衝突することがほとんどなく、PMフリースクラバー処理水の表面付近に一部が接しかつ沿いながら滑らかに流れるだけであるから、相互に混合することがない。しかし、処理水タンク120−2内の下部に設けた駆動ロール120−3と上下両部に離間して設けた従動ロール120−4間はエンドレスベルト120−1をサーペンタイン状に配設するため、上下ロール間に離間されて巻回されたエンドレスベルト120−1は、海のしけ等により船体が前後揺れ(サージング)、左右揺れ(スウェイイング)、上下揺れ(ヒービング)、船首揺れ(ヨーイング)、横揺れ(ローリング)、縦揺れ(ピッチング)により揺れた場合にその船体の揺れに伴ってはためくことになって、当該エンドレスベルト120−1の表面付近に飛沫を生じ、この飛沫が排気ガスと処理水との衝突を誘発してPM粒子の処理水との接触を促す危惧がある。
又、図12に示すハニカムウォッシャーを用いたPMフリースクラバーの場合は、処理水の水薄膜層表面に対し排気ガスが垂直に近い角度で激しく交差・衝突することがほとんど無く、相互に混合することがないので排気ガス中のSOxが排気ガス流路121−7内にて確実に除去されて、粒子であるPMはほとんど残留し含有された状態で排出されることとなる。しかし、このPMフリースクラバーは、スクラバー処理水の水流量レンジ幅が余り大きくなく、水流量を排気ガスの流量増加(船舶用ディーゼルエンジン負荷の増大や回転速度上昇)、燃料油の硫黄含有量の増加、航行海域の高規制海域への航行等に応じてスクラバー処理水の水流量を大幅に増減させて対応することが容易にできないという難点がある。
【0011】
なお、スクラバーには、加圧水式としてベンチュリースクラバー、ジェットスクラバー、サイクロンスクラバー、スプレー塔等があり、充填層式には充填塔、流動層スクラバー等種々の形態のものがあるが、いずれのスクラバーとも排気ガス流が処理水の表面に対し互いに交差的に激しく接触するため、排気ガス中の有機溶剤可溶分、即ち、燃料又は潤滑油由来のn−ヘキサン抽出物を主成分とする油性混合物の処理水への混合が避けられず、その排水処理には多大の工数と大規模装置(油分を含んだ処理排水の海洋へ排出しないための貯蔵設備を含む)が必要であった。
【0012】
一方、液を液膜の形で気相中に分散させる液分散型吸収装置があり、その代表例として処理液を垂直に配置した円管の内壁面に膜状に流下させ、円管下部より反応ガスを導入して反応を行わせる濡壁方式の吸収反応装置が知られている。しかし、この濡壁方式の吸収反応装置は陸上に設置・固定される設備用装置であって船舶用ではないため船体の揺れや傾きに対する配慮が全くなく、船体が揺れたり傾いたりした場合に円管は船体に同期して揺れあるいは傾き、傾斜の上部に位置する円管と下部に位置する円管とでは円管に流入する処理液の流量に大きな差が生じて内壁面を流下する水膜の膜厚が不均一となり、極端な場合には激しく流入して飛沫を生じさせて排気ガスと処理液とが衝突することが危惧され、あるいは又、膜切れ(処理液切れ)が生じて円管の内壁面が露出して排気ガスが処理液と非接触状態となり有害物質の含有量の低減がはかられないまま排出されることも危惧される等の難点を有していた。
【0013】
本発明は、上記した従来技術の問題に鑑み、特に高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する大排気量で高速及び/又は大流量の排気ガスが排出される舶用ディーゼルエンジンの排気ガス中のPMの処理水への混合を阻止しながらSOxを高効率に除去して排気ガスを浄化するとともに、PMのスクラバー処理水への混合を阻止することができるのみならず、海のしけ等による船体の揺れや傾きにも十分に対応して処理水と排気ガスの衝突を回避できてPM粒子と処理水との接触、混合を防止でき、さらに排気ガスの流量(船舶用ディーゼルエンジン負荷)、燃料油の硫黄含有量、航行海域の規制値等に容易に対応できる、高濃度に硫黄成分を含有する重油等の低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る高濃度に硫黄成分を含有する低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、基本的には処理水(処理液)を垂直に配置した管体の内壁面に膜状に流下させ、管体下部より管体内に排気ガスを導入して吸収反応を行わせる濡壁方式(気液接触方式)を採用したもので、その要旨は、エンジンの排気マニホールドに連なる排気管もしくはEGR配管に配設して、処理水を鉛直管の内壁面に沿って膜状に流下させ、かつ排気ガスを鉛直管内に流して反応を行わせる濡壁方式のスクラバーであって、両端付近に冷却水流入管及び冷却水流出管を有する胴管の上下両端部に設けた上部管板と下部管板間に複数本の円管(濡壁流下管)を垂直に間隔配設すると共に、前記上部管板の上方には処理水流入管を有する上部チャンバーを、前記下部管板の下方には処理水流出管を有する下部チャンバーをそれぞれ胴管に設け、前記上部チャンバーの上方には前記円管内径より小径の外径を有しかつその下端開口端部と円管内面との所望間隔を保持する処理水ガイドパイプを各円管に対応位置させて配設した上部ガイドパイプ管板を設け、前記下部チャンバーの下方には前記円管内径より小径の外径を有しかつその上端開口端部が円管内面と所望間隔を保持するガスガイドパイプを各円管に対応位置させて配設した下部ガイドパイプ管板を設け、前記上部ガイドパイプ管板の上方に上部カバーを、前記下部ガイドパイプ管板の下方に下部カバーをそれぞれ有し、処理水ガイドパイプを介して供給される処理水を円管の内壁面に沿って膜状に流下させ、ガスガイドパイプより円管内に導入される排気ガスと反応させる構造となしたことを特徴とするものである。
又、本発明における前記処理水ガイドパイプは、下端開口端部をラッパ状に拡径することを好ましい態様とするものである。さらに、前記ガスガイドパイプは、上端開口端部を口すぼまり状(ノズル状)に縮径することを好ましい態様とするものである。
さらに、本発明は前記円管(濡壁流下管)内の排気ガスの流れに渦流を生じさせるため、前記円管の軸心部に所望軸方向間隔で径方向に突出部を有するタービュレーターを設けて構成すること、あるいは前記円管内の排気ガスの流れに渦流を生じさせかつ前記円管の内周面の周方向への処理水の分散と、前記円管の内周面における処理水の滞留時間の長期化と表面積の増大を図るため、前記円管の内周面に沿うよう螺旋状に乱流促進部材又は乱流制御部材を配設して構成することを好ましい態様とするものである。
本発明は又、前記円管(濡壁流下管)の上端を上部管板より突出させ、該突出部相互の間に先端に前記円管先端高さより高い位置に溝底が位置する溝及び/又は壁部に貫孔もしくは壁部下端に溝を有し、前記突出部の高さより高さの高いパーテーション構造体を備えることを好ましい態様とするものである。
さらに、前記本発明のパーテーション構造体は前記上部チャンバーと同心の外筒内に設けられ、かつ該外筒と前記上部チャンバーとの間に前記溝及び/又は前記貫孔を有する堰を備えることを好ましい態様とするものである。
さらに又、本発明は前記排気ガス浄化装置用スクラバーを垂直方向直列に複数配置した多段構造もしくは多層構造であって、上方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの前記下部ガイドパイプ管板と下方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの前記上部ガイドパイプ管板との間に、前記上部あるいは下部チャンバー内径と同一内径で上下にアダプターフランジを有するアダプターを介在させて構成することを好ましい態様とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る高濃度に硫黄成分を含有する低質燃料を使用する船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、以下に記載する効果を奏する。(1).処理水(処理液)を垂直に配置した円管の内壁面に膜状に流下させその流下する水膜の膜厚が均一に保たれて膜切れが生じることもなく、円管下部より円管内に排気ガスを導入して排気ガスと処理水が激しく衝突することもなく吸収反応を行わせる濡壁方式であり、PMのスクラバー処理水への混合を効果的に阻止することができるのみならず、船体の揺れや傾きに対する配慮として、船体が揺れたり傾きが生じた場合には円管(濡壁流下管)に流入する処理水の流量に差が生じても円管の内壁面を流下する水膜の膜厚が均一に保たれると共に、排気ガスと処理水とが激しく衝突して飛沫が生じることもなく、さらに水膜に膜切れが生じることもないため円管の内壁面が露出して排気ガスが処理液と非接触状態となることも皆無となるように構成されているため、海のしけ等による船体の揺れや傾きにも十分に対応できる。又、ハニカムウォッシャーを用いたPMフリースクラバーに比べ処理水の水量のレンジ幅を大幅に増加できるので、排気ガスの流量増加(船舶用ディーゼルエンジン負荷の増大や回転速度上昇)、燃料油の硫黄含有量の増加、航行海域の高規制海域への航行等に応じて水量を増減させることにより容易に対応できるという優れた効果を奏する。
(2).円管の軸心部に所望軸方向間隔で径方向に突出部を有するタービュレーターを設けて円管内の排気ガスの流れに渦流を生じせしめ、あるいは断面三角形の線状部材であって円管の内周面に沿うよう螺旋状に乱流制御部材を配設させることによって排気ガスの流れに渦流を生じさせ、かつ円管の内周面の周方向への処理水の分散と、円管の内周面における処理水の滞留時間の長期化と表面積の増大をはかり前記(1)に記載する効果をより増大させることができる。
(3).円管の上端を上部管板より突出させ、この突出部相互の間に先端に円管先端高さより高い位置に溝底が位置する溝及び又は壁部に流通孔もしくは壁部下端に溝を有し、前記突出高さより高さの高いパーテーション構造体を配設することにより、海のしけ等により船体が前後揺れ(サージング)、左右揺れ(スウェイイング)、船首揺れ(ヨーイング)、横揺れ(ローリング)、縦揺れ(ピッチング)により揺れて傾きが生じ上部チャンバー内で処理水面に揺れが生じた場合に、パーテーションの存在により各パーテーション内に流入する処理水の水量のバラツキが大きくなることが防止出来て小さくなり、従って円管(濡壁流下管)に流入する処理水の流量のバラツキも小さくなって例え円管により多少の差が生じても円管の内壁面を流下する水膜の膜厚が均一に保たれると共に、排気ガスと処理水とが激しく衝突して飛沫が生じることもなく、さらに水膜に膜切れが生じることもないので円管の内壁面が露出して排気ガスが処理液と非接触状態となることもなく、海のしけ等による船体の揺れや傾きにも十分に対応して処理水は円管内面に沿って水膜となって流下するので前記(1)に記載する効果を安定して発現させることができる。
(4).本発明の排気ガス浄化装置用スクラバーを垂直方向直列に複数配置するとともに、上方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの下部ガイドパイプ管板と下方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの上部ガイドパイプ管板との間に、上部あるいは下部の各チャンバー内径と略同一内径で上下にアダプターフランジを有するアダプターを配設することにより多段あるいは多層の直列配置が可能となりSOxをその処理水により多く溶解させて排気ガスからのSOx除去率をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの第1実施例を示す要部拡大縦断面図である。
図2】同じく本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの第2実施例を示す要部拡大縦断面図である。
図3】同じく本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの第1、第2実施例の配管状況を含めた斜視図である。
図4】同じく本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの第3実施例の配管状況を含めた斜視図である。
図5】同じく本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの第4実施例を示す要部拡大縦断面図で、(a)は円管の断面図、(b)は円管の平面図である。
図6】同じく本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの第5実施例を示す要部拡大縦断面図で、(a)は円管の断面図、(b)は円管の平面図である。
図7】同じく本発明に係る船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの第6実施例を示す要部拡大縦断面図である。
図8図7に示す第6実施例の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの要部拡大図で、(a)はパーテーション構造体の上部の一部を示す平面図、(b)は同パーテーション構造体の下部の一部を示す横断平面図である。
図9】従来の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置の一例を示す概略図である。
図10】従来の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置の一例を示すブロック図である。
図11図10に示す船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置におけるPMフリースクラバーの一例を示す斜視図である。
図12図10に示す船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置におけるPMフリースクラバーの他の例を示す斜視図である。
【0017】
図1に第1実施例として示す船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、胴管(外壁管)内に配設した複数本の円管内で処理水(処理液)と排気ガスを吸収反応させる方式の濡壁多管式のスクラバーであり、その構造はスクラバー本体を構成する胴管1、冷却水流入管2−1、冷却水流出管2−2、上部管板3、下部管板4、円管5、上部チャンバー6、下部チャンバー7、処理水流入管8、処理水流出管9、上部ガイドパイプ管板10、下部ガイドパイプ管板11、処理水ガイドパイプ12、ガスガイドパイプ13、上部カバー14、下部カバー15とから構成されている。Wは処理水、W−1は水膜、Wcは冷却水、Gは排気ガスである。
即ち、上下両端付近に冷却水流入管2−1及び冷却水流出管2−2を有する胴管1の上下端部に上フランジ3−1及び下フランジ4−1を突設し、上フランジ3−1に上部管板(チューブシート)3を、下フランジ4−1に下部管板(チューブシート)4をそれぞれ設ける。この上部管板3と下部管板4との間には、処理水Wを内壁面に沿って膜状に流下させる円管5を垂直に配置すると共に相互に所望の間隔を保持して複数本配設する。その際、各円管5はその上下端部をそれぞれ上部管板3及び下部管板4より外側に突出させて垂直に配設する。さらに、前記上部管板3の上方位置には、該上部管板3と上下方向に所望の間隔を保持して上部ガイドパイプ管板10を前記上フランジ3−1に上部チャンバー6を介して取付けている。上部チャンバー6には処理水流入管8が設けられ、上部管板3と上部チャンバー6との間に処理水が流入されるようになっている。上部ガイドパイプ管板10には、前記円管5の内径より小径の外径を有しかつその下端が円管5に内嵌される長さを有すると共に好ましくはその下端開口端部を円管5内面と所望間隔(円管5内壁面を流下する水膜の膜厚に相当する)を保持するごとくラッパ状に拡径した処理水ガイドパイプ12を各円管に対応位置させて配設固定し、上部管板3と上部チャンバー6との間に流入した処理水Wが好ましくは各処理水ガイドパイプ12を介して円管5内に流入しかつ当該管内面に沿って水膜W−1となって流下する構造となっている。又、前記下部管板4の下方位置には、該下部管板4と上下方向に所望の間隔を保持して下部ガイドパイプ管板11が前記下フランジ4−1に下部チャンバー7を介して取付けられ、下部管板4と下部チャンバー7との間に溜まった処理水を流出させる処理水流出管9が下部チャンバー7に取付けられている。下部ガイドパイプ管板11には、前記円管5内径より小径の外径を有しかつその上端が円管5に内嵌される長さを有すると共にその上端開口端部が円管5内面と所望間隔を保持するごとく好ましくは口すぼまり状(ノズル状)に縮径したガスガイドパイプ13を各円管5に対応位置させて配設固定している。前記上部ガイドパイプ管板10の上方及び下部ガイドパイプ管板11の下方には、それぞれ上部カバー14と下部カバー15が固設され、下部カバー15側より流入した排気ガスGはガスガイドパイプ13より各円管5内に流入し当該管内を上昇し、上部ガイドパイプ管板10に取着された各処理水ガイドパイプ12を介して上部カバー14側へ流出する構造となっている。
なお、処理水ガイドパイプ12の下端開口部をラッパ状に形成したのは、円管5内壁面に所望厚さの水膜を形成させて流下させるためであり、又、ガスガイドパイプ13の上部開口部を口すぼまり状(ノズル状)に形成したのは、円管5内壁面を流下してきた処理水の水膜と排気ガスとの衝突による飛沫の発生を防止するためである。
【0018】
上記図1に示す構成の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーにおいて、処理水Wは胴管1の上部に設けられた上部チャンバー6に接続された処理水流入管8より上部管板3と上部ガイドパイプ管板10との間に供給され、処理水ガイドパイプ12を介して円管5の内壁面に沿って水膜W−1となって流下する。一方、下部カバー15側より胴管1内に流入した排気ガスGは、下部ガイドパイプ管板11に取付けられたガスガイドパイプ13を介して円管5内に導入され、円管5内を上昇する。この時、円管5の内壁面に沿って流下する水膜W−1と同円管5内を上昇してくる排気ガスGとが吸収反応し、水膜W−1に排気ガスG中のSOが吸収される。又、円管5内を流下して下部管板4と下部ガイドパイプ管板11との間に溜まった処理水は、下部チャンバー7に取付けられた処理水流出管9より排出する。一方、冷却水Wcは胴管1の側壁に設けられた冷却水流入管2−1より胴管1内に供給され、胴管1内部の円管5群を冷却しながら冷却水流出管2−2より流出させるが、円管5群を冷却する理由は、排気ガスG中のSOxの処理水Wへの吸収・溶解度が処理水Wの水温の上昇と共に低下するため各円管5を外表面から冷却して処理水Wの水膜W−1の温度を適温に維持するためである。
【0019】
このように図1に示す構成の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの場合、処理水Wは胴管1内に垂直に配設された多数の円管5内を所望膜厚の水膜W−1となって流下し、同円管5の下部よりガスガイドパイプ13を介して導入されて上昇してくる排気ガスと吸収反応させる構造となっているので、上部管板3と上部ガイドパイプ管板10との間に処理水Wを貯溜しておくことができることにより、供給される処理水の水流量レンジ幅を大幅に増加させることができる。従って、このPMフリースクラバーは、船体が揺れたり傾きが生じた場合には円管5に流入する処理水の流量に差が生じても円管5の内壁面を流下する水膜W−1の膜厚がほぼ均一に保たれると共に、排気ガスGと処理水Wとが激しく衝突して飛沫が生じることもなく、さらに水膜W−1に膜切れが生じることもないため円管5の内壁面が露出して排気ガスが処理水と非接触状態となることも皆無となる。又、排気ガスの流量増加(船舶用ディーゼルエンジン負荷の増大や回転速度上昇)、燃料油の硫黄含有量の増加、航行海域の高規制海域への航行等に応じてスクラバー処理水の水量を増減させて対応することが容易にできる。
【0020】
図2に第2実施例として示す船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、前記第1実施例の上部管板3と上部ガイドパイプ管板10との間の処理水タンク部と、下部管板4と下部ガイドパイプ管板11との間の処理水タンク部をそれぞれ大きく形成し、処理水ガイドパイプ12とガスガイドパイプ13を長尺とした以外は、前記第1実施例の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーと同様の構成となしたものである。
図2に示す構成の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーの場合、処理水Wは胴管1の上部に設けられた処理水流入管8より上部チャンバー6の上部管板3と上部ガイドパイプ管板10との間に供給され、長尺の処理水ガイドパイプ12を介して円管5の内壁面に沿って水膜W−1となって流下する。一方、下部カバー15側より胴管1内に流入した排気ガスGは、下部ガイドパイプ管板11に取付けられた長尺のガスガイドパイプ13を介して円管5内に導入され、円管5内を上昇する。この時、円管5の内壁面に沿って流下する水膜W−1と同円管5内を上昇してくる排気ガスGとが吸収反応し、水膜W−1に排気ガスG中のSOが吸収される。又、円管5内を流下して下部管板4と下部ガイドパイプ管板11との間に溜まった処理水は、下部チャンバー7に取付けられた処理水流出管9より排出する。一方、冷却水Wcは胴管1の側壁に設けられた冷却水流入管2−1より胴管1内に供給され、胴管1内部の円管5群を冷却しながら冷却水流出管2−2より流出する。
従って、この図2に示すスクラバーの場合も前記図1に示すスクラバーと同様に、処理水Wは胴管1内に垂直に配設された多数の円管5内を所望膜厚の水膜W−1となって流下し、同円管5の下部より長尺のガスガイドパイプ13を介して導入されて上昇してくる排気ガスと反応させる構造となっているので、上部管板3と上部ガイドパイプ管板10との間に処理水を貯溜しておくことができることにより、供給される処理水の水頭圧を大きく取ることができて水流量レンジ幅を大幅に増加させることができる。従って、このPMフリースクラバーの場合も、船体が揺れたり傾きが生じた場合に円管5に流入する処理水の流量に差が生じても円管5の内壁面を流下する水膜W−1の膜厚がほぼ均一に保たれると共に、排気ガスと処理水とが激しく衝突して飛沫が生じることもなく、さらに水膜W−1に膜切れが生じることもないため円管5の内壁面が露出して排気ガスが処理水と非接触状態となることも皆無となる。又、排気ガスの流量増加(船舶用ディーゼルエンジン負荷の増大や回転速度上昇)、燃料油の硫黄含有量の増加、航行海域の高規制海域への航行等に応じてスクラバー処理水の水量を増減させて対応することが容易にできる。
【0021】
なお、前記図1図2に示す本発明の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、図3に配管状況を含めた斜視図として示すように処理水Wを処理水タンク21よりモーター駆動ポンプ22にて圧送して当該スクラバーの処理水流入管8より上部チャンバー6内に供給し、円管5内での反応処理後、下部チャンバー7に取付けられた処理水流出管9より排出し、再び処理水タンク21に戻るように配管構成される。
【0022】
又、本発明の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、前記図3に示すような単一構成のものに限らず、必要に応じて単一構成のスクラバーを複数基例えばアダプターを介して垂直方向直列に配置して多段(多層)構造とすることも可能である。図4はその多段(多層)構造の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーを第3実施例として示したもので、例えば上方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの前記下部ガイドパイプ管板11と下方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの前記上部ガイドパイプ管板10との間に、前記下方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの上部チャンバー6又は前記上方配置の排気ガス浄化装置用スクラバーの下部チャンバー7の内径とほぼ同一内径で上下に各々アダプターフランジ16−1を有するアダプター16を配設させることにより、該アダプター16を介して直列に用いて多段構造とすることも可能である。この多段化(多層化)により排気ガス中のSOxをスクラバー処理水により多く溶解させて排気ガスからのSOx除去率をより向上させることができ、排出ガスをより浄化することができる。
【0023】
さらに、本発明の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、円管5内での処理水Wと排気ガスGの吸収反応を促進するため、円管5内の軸芯付近に排気ガスGの流れに渦流、好ましくは縦渦を生じさせるためのタービュレーター(乱流促進部材又は乱流制御部材)を設けることができる。図5はそのタービュレーターを備えた船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーを第4実施例として示したもので、円管5の軸心に設けたシャフト18に、当該シャフトの半径方向に突出する円板、十字・Y字・短冊状ブレード等からなるタービュレーター18−1を軸方向に所望間隔でかつ軸心に対し直角あるいは傾斜もしくは捻りを有して複数枚設けることができる。なお、タービュレーター18−1の前記傾斜角θとしては特に限定するものではないが90°〜140°程度が好ましく、又、十字・Y字・短冊状の各ブレードの周方向の配置位相角αはブレードの形状に応じて適宜定めることにする。
これらのタービュレーター18−1の設置により円管5の軸心付近を流れる排気ガスと流下する処理水の水膜付近を流れる排気ガスとを相互に循環(交換・入れ替え)させることができて排気ガス中のSOxをスクラバー処理水により多く溶解させて排気ガスからのSOx除去率をより向上させることができ、排出ガスをより浄化することができる。
【0024】
又、前記図6に第5実施例として示す本発明の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、円管5内の排気ガスGの流れに渦流、好ましくは縦渦を生じさせかつ円管5の周方向への処理水の分散と旋回、円管5内における処理水の滞留時間の長期化と接触表面積の増大をはかるために、例えば円管5の内周面に螺旋状に断面略三角形状の乱流促進部材19を付設することも可能である。なお、この断面略三角形状の乱流促進部材19は線状部材からなり、円管5と一体(母材と一体成型、ろう付け、溶接)又は別体で、半径方向の高さhは円管5の内径の1/5〜1/3程度の高さが好ましく、排気ガス流入側の傾斜角θ1は15°〜40°、流出側の傾斜角θ2は10°〜30°が好ましい。これらの断面略三角形状の乱流促進部材19の設置により、円管5の軸心付近を流れる排気ガスと流下する処理水の水膜付近を流れる排気ガスとを相互に循環(交換・入れ替え)させることができると共に処理水の表面積を増大させかつ処理水の乱流促進部材19のらせん方向への分散化・旋回化によって円管表面での滞留時間を長期化して排気ガスとの接触機会を増加させて排気ガス中のSOxをスクラバー処理水により多く溶解させて排気ガスからのSOx除去率をより向上させることができ、排出ガスをより浄化することができる。
【0025】
さらに、前記図7図8に第6実施例として示す本発明の船舶用ディーゼルエンジンの排気ガス浄化装置用スクラバーは、円管5の上端を上部管板3より突出させ、この突出部相互の間に先端に円管先端高さより高い位置に溝底が位置するオーバーフロー用の溝20−2及び壁部下端に通流溝20−3及び/又は壁部に貫孔20−4を有して前記突出部の突出高さより高さの高いパーテーション(仕切壁)20−1を各円管ごとにあるいは複数の円管5を囲繞するごとく外筒20−5内に配設して構成したパーテーション構造体20を、上部チャンバー6の内壁より離して上部管板3上に付設し、かつ上部チャンバー6と外筒20−5との間に複数個の貫孔20−4及び/又は壁部下端に通流溝20−3を設け且つ壁部上端にオーバーフロー用の溝20−2を有した堰20−6を間隔配設したものである。このように上部チャンバー6の内側に貫孔20−4、通流溝20−3、オーバーフロー用の溝20‐2付きの堰20−6を介してパーテーション構造体20を設けることにより、該パーテーション構造体20の壁部の前記オーバーフロー用の溝20−2、壁部下端の通流溝20−3の存在により各パーテーション20−1内の処理水Wの水面が低位置に保持されて円管5への流下・流入を均一化させることができると共に、海のしけ等により船体が前後揺れ(サージング)、左右揺れ(スウェイイング)、船首揺れ(ヨーイング)、横揺れ(ローリング)、縦揺れ(ピッチング)などにより揺れや傾きが生じて上部チャンバー内で処理水面に揺れが生じた場合でもパーテーション構造体20の存在によりパーテーション内に流入する処理水は前記複数個の貫孔20−4、壁部下端の通流溝20−3、壁部上端のオーバーフロー用の溝20−2から徐々に流入することとなり各パーテーション20−1間の水量のバラツキが大きくなることを防止できてバラつきが小さくなるので処理水Wの水面のパーテーション構造体20内でのヘッド差は小さく保持されて円管5への流下・流入を均一化させることができて、例え円管5により多少の差が生じても円管5の内壁面を流下する水膜の膜厚が均一に保たれると共に、排気ガスと処理水とが激しく衝突して飛沫が生じることもなく、さらに水膜に膜切れが生じることもないので円管5の内壁面が露出して排気ガスが処理液と非接触状態となることもなくなってスクラバーをより安定して稼働させることができる。
なお、前記パーテーション構造体20としては、各円管1本ごとに囲む場合は図8に示すようにハニカム構造が一般的であり円管5への流下・流入をより均一化させることができるが、円管5を複数本づつ囲む場合にはパーテーションを碁盤の目のような配置にした構造とすることもできる(図面省略)。
【符号の説明】
【0026】
1 胴管
2−1 冷却水流入管
2−2 冷却水流出管
3 上部管板
3−1 上フランジ
4 下部管板
4−1 下フランジ
5 円管
6 上部チャンバー
7 下部チャンバー
8 処理水流入管
9 処理水流出管
10 上部ガイドパイプ管板
11 下部ガイドパイプ管板
12 処理水ガイドパイプ
13 ガスガイドパイプ
14 上部カバー
15 下部カバー
16 アダプター
16−1 アダプターフランジ
18 シャフト
18−1 タービュレーター
19 乱流促進部材
20 パーテーション構造体
20−1 パーテーション
20−2 溝
20−3 通流溝
20−4 貫孔
20−5 外筒
20−6 堰
21 処理水タンク
22 モーター駆動ポンプ
W 処理水
W−1 水膜
Wc 冷却水
G 排気ガス
θ タービュレーターの傾斜角
θ1 排気ガス流入側の傾斜角
θ2 排気ガス流出側の傾斜角
h 断面三角形状の乱流促進部材の半径方向の高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12