特許第6605661号(P6605661)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アディダス アーゲーの特許一覧

<>
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000005
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000006
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000007
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000008
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000009
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000010
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000011
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000012
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000013
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000014
  • 特許6605661-特別設計の編組チューブ 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605661
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】特別設計の編組チューブ
(51)【国際特許分類】
   D04C 1/06 20060101AFI20191031BHJP
   A43B 23/02 20060101ALI20191031BHJP
   A43B 23/04 20060101ALI20191031BHJP
   A41B 11/00 20060101ALI20191031BHJP
   A41D 27/10 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   D04C1/06 Z
   A43B23/02 101A
   A43B23/04
   A41B11/00 A
   A41B11/00 Z
   A41D27/10
【請求項の数】39
【外国語出願】
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-116960(P2018-116960)
(22)【出願日】2018年6月20日
(65)【公開番号】特開2019-23372(P2019-23372A)
(43)【公開日】2019年2月14日
【審査請求日】2018年10月17日
(31)【優先権主張番号】10 2017 210 821.5
(32)【優先日】2017年6月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510204998
【氏名又は名称】アディダス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】トム オヘア
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー イップ
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102015116398(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/245633(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0345676(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/100488(WO,A1)
【文献】 特表2016−511801(JP,A)
【文献】 特表2018−516668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04C1/00−7/00
D04G1/00−5/00
A41B11/00−11/14
A41D27/00−27/28
A43B1/00−23/30
A43C1/00−19/00
A43D1/00−999/00
B29D35/00−35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣料または履物の物品用の編組構成要素を編組機で形成する方法であって、
(a)複数の編組糸を編組して、管状構造の編組構成要素を形成するステップと、
(b)編組の間に複数の軸糸を統合して管状構造とするステップであって、少なくとも2つの異なるタイプの軸糸が編組構成要素へと統合される、ステップとを含む方法。
【請求項2】
第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なる組成を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なるテックス値を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なる弾性および/または曲げ剛性を含む、請求項1から3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
軸糸の構成が編組構成要素の管状構造の円周にわたって変化する、請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
編組角度が編組構成要素の軸線方向に沿って変化する、請求項1から5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
編組糸および/または軸糸が少なくとも1つの溶融糸を含む、請求項1から6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
第1のタイプの軸糸が、編組構成要素の第2の範囲ではなく第1の範囲に配置され、第2のタイプの軸糸が、第1の範囲ではなく第2の範囲に配置される、請求項1から7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
編組構成要素の編組が本質的に円筒状の形態の上で実施される、請求項1から8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
本質的に円筒状の形態が溶融可能な構成要素を含み、方法が、前記溶融可能な構成要素の上に編組構成要素を編組した後に、前記溶融可能な構成要素を溶融することによって、編組構成要素および溶融可能な構成要素が1つの統合単位体を形成するステップを更に含む、請求項1から9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
編組機が3D編組機である、請求項1から10のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1つにしたがって製造された編組構成要素を備える、履物物品のアッパーを形成するステップを更に含む、請求項1から11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
第1の範囲がアッパーの下側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの足甲部分に配置される、請求項8または12に記載の方法。
【請求項14】
第1の範囲がアッパーの外側および/または内側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの足甲部分に配置される、請求項8または12に記載の方法。
【請求項15】
第1の範囲がアッパーの外側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの内側部分に配置される、請求項8または12に記載の方法。
【請求項16】
編組構成要素を足型上に配置するステップと、ラスティングした編組構成要素を圧密化するステップとを更に含む、請求項1から15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
圧密化のステップが、結合剤、ポリマーコーティング、および/または編組構成要素の少なくとも一部の加熱を使用することを含む、請求項1から16に記載の方法。
【請求項18】
圧密化のステップが積層技術の適用を含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
積層技術が、ポリウレタン、TPU、ポリアミド、ポリオレフィン類、またはビニル系フィルムの使用を含む、請求項1から18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
積層技術が真空成形を含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から20のいずれか1つの方法にしたがって製造されている編組構成要素を備える、履物物品用のアッパー。
【請求項22】
管状構造を有する衣料または履物物品用の編組構成要素であって、編組構成要素が複数の統合された軸糸を備え、少なくとも2つの異なるタイプの軸糸が編組構成要素へと統合される、編組構成要素。
【請求項23】
第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なる組成を有する、請求項22に記載の編組構成要素。
【請求項24】
第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なるテックス値を含む、請求項22または23に記載の編組構成要素。
【請求項25】
第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なる弾性および/または曲げ剛性を含む、請求項22から24のいずれか1つに記載の編組構成要素。
【請求項26】
前記軸糸の構成が編組構成要素の管状構造の円周にわたって変化する、請求項22から25のいずれか1つに記載の編組構成要素。
【請求項27】
編組角度が編組構成要素の軸線方向に沿って変化する、請求項22から26のいずれか1つに記載の編組構成要素。
【請求項28】
編組糸および/または軸糸が少なくとも1つの溶融糸を含む、請求項22から27のいずれか1つに記載の編組構成要素。
【請求項29】
第1のタイプの軸糸が、編組構成要素の第2の範囲ではなく第1の範囲に配置され、第2のタイプの軸糸が、第1の範囲ではなく第2の範囲に配置される、請求項22から28のいずれか1つに記載の編組構成要素。
【請求項30】
請求項22から29のいずれか1つに記載の編組構成要素を備える、履物物品用のアッパー。
【請求項31】
第1の範囲がアッパーの下側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの足甲部分に配置される、請求項30に記載のアッパー。
【請求項32】
第1の範囲がアッパーの外側および/または内側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの足甲部分に配置される、請求項30または31に記載のアッパー。
【請求項33】
第1の範囲がアッパーの外側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの内側部分に配置される、請求項30または31に記載のアッパー。
【請求項34】
編組構成要素が足型上に配置され、圧密化された、請求項30から33のいずれか1つに記載のアッパー。
【請求項35】
編組構成要素が、結合剤、ポリマーコーティング、および/または編組構成要素の少なくとも一部の加熱を使用して圧密化された、請求項30から34のいずれか1つに記載のアッパー。
【請求項36】
編組構成要素が積層技術の適用によって圧密化された、請求項34または35に記載のアッパー。
【請求項37】
積層技術が、ポリウレタン、TPU、ポリアミド、ポリオレフィン類、またはビニル系フィルムの使用を含む、請求項30から36のいずれか1つに記載のアッパー。
【請求項38】
積層技術が真空成形を含む、請求項36または37に記載のアッパー。
【請求項39】
(a)請求項30から38のいずれか1つに記載のアッパーと、
(b)アウトソールとを備える、靴。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料および履物の用途向けに性質を特別設計した編組チューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料または履物物品の着用の快適さと機能性は、多くの要因によって決まる。例えば履物の場合、歩行、走行、ロッククライミング、サッカー、サイクリングなど、特定のタイプの活動にとって十分なレベルの支持が必要である。必要な支持のレベルは、足の領域に応じて決まり、例えば、中足領域は爪先領域よりも高い支持レベルを要する場合が多い。履物物品または任意の衣料の更なる関連する性質は、材料の通気性、透水性のレベル、および重量を含む。履物物品の場合、アッパーはその性質を決定するのに重要な役割を果たす。したがって、アッパーまたは一着の衣料の性質を、特定のニーズに合わせて特別設計することが非常に重要である。
【0003】
例えば、特別設計の編地および織地を履物に使用して、編地および織地構造を変化させることによって靴の剛性を変化させることができる。しかしながら、編組技術によって、特別設計の編地または織地では不可能な性能と調整可能性のレベルを達成する、幾何学的構成と様々な編組が可能になる。
【0004】
靴のアッパーは、足型を編組機に挿入し、編組機を通して足型をガイドしながら足型の上で編組することによって製造することができる。履物物品の編組アッパーを作成する別の方法は、編組機の編組地点としても知られる編組区域の近傍に位置する成形マンドレルの上で編組し、第2のステップで、足型を編組構成要素に挿入して前記編組構成要素を形作ることによるものである。
【0005】
米国特許第8,757,038号明細書は、着用の快適さを向上させた靴の、特に運動靴のアッパー部分を作成する方法を開示している。方法は、靴のアッパー部分の内部形状に対応する足型を、三軸に沿った織成および/または編組向けに設計された環状クリールを有する径方向編組機に供給することと、クリールの中央を通して少なくとも1つの足型をガイドすると同時に、繊維材料を使用して三軸に沿って足型の外周の周りで織成および/または編組することと、織成および/または編組を終了し、織成および/または編組材料を足型から除去することとを伴う。
【0006】
米国特許出願公開第2016/0345677号明細書は、編組地点の第1の側から編組地点の第2の側へと進む成形足型の上に編組することを含む、編組機およびアッパーを形成する方法を開示している。
【0007】
米国特許出願公開第2016/0166007号明細書は、ミッドソール構造を足型に一時的に取り付けることと、ミッドソール構造および履物の足型を編組機に挿入することを含む、履物物品の作成方法を開示している。アッパーの形態の編組構造が形成される。アッパーは、アッパーの内部空洞内に配設されたミッドソール構造を含む。
【0008】
米国特許出願公開第2016/0345676号明細書は、成形マンドレルを編組機の編組地点の上方に配置することと、複数の撚糸を編組して三次元編組構成要素を形成することと、編組構成要素を引っ張って成形マンドレルに被せることと、足型を編組構成要素に挿入して編組構成要素を形作ることとを含む、編組アッパーを形成する方法を開示している。
【0009】
米国特許出願公開第2016/0345674号明細書は、複数の編組構成要素から形成される履物物品を開示している。編組構成要素は、異なる伸張性要素から形成される編組撚糸であってもよい。伸張性要素は異なる断面を有してもよい。伸張性要素は異なる材料によるものであってもよい。異なる編組撚糸を、次に、足型の上にオーバーブレードして、履物物品用の編組アッパーが形成されてもよい。
【0010】
米国特許出願公開第2016/0345675号明細書は、異なる編組部分を統合することによって形成される履物物品のアッパーを開示している。アッパーは、第1の編組部分を第2の編組部分と統合することによって形成されてもよい。アッパーの上側部分は第1の編組部分を有してもよい。アッパーの下側部分は第2の編組部分を有してもよい。
【0011】
米国特許出願公開第2015/0007451号明細書は、単一の編組構造で構成された編組アッパーを含む履物物品を開示している。編組アッパーの単一の編組構造は、特定の活動に合わせて調整された特定の特徴を有して特別設計されてもよい。アッパーの異なる領域は異なる編組構成を有してもよい。例えば、追加の構造的支持または圧縮をもたらすため、より高い編組密度が履物の特定の範囲に使用されてもよい。また、履物の編組アッパーの範囲に特定の性質を提供するため、編組アッパーの異なる領域に異なる材料の撚糸が組み込まれてもよい。
【0012】
しかしながら、編組された靴のアッパーを作成するこれら既存の方法には、いくつかの不利な点がある。足型の形状が複雑なため、足型の上に編組するプロセスは低速であり機械的に複雑である。成形マンドレルの上に編組するプロセスも同様に低速である。したがって、高価な編組機を受け入れるのに要する面積に関してフットプリントが通常は大きく、またかかる機械の日産が比較的低いため、両方の作成方法のコストが高い。更に、あらゆる靴のサイズおよびスタイルに対応するため、高価な足型を作成しなければならない。
【0013】
既存の方法の別の不利な点は、足型および編組機が物理的に同じ場所になければならないため、作成プロセスをモジュール化するのが困難なことである。更なる結果として、個別にカスタマイズされた構成要素を既存の方法で作成するのは困難である。更に、既存の方法にしたがって作成される編組構成要素は、単純な方法で履物以外の用途に使用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第8,757,038号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/0345677号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2016/0166007号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2016/0345676号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2016/0345674号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2016/0345675号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2015/0007451号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Goff, J. R. (1976) "The geometry of tubular braided structures", MSc Thesis, Georgia Institute of Technology.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、軽微な修正以外は必要とせずに衣料および履物における応用範囲を有するように特別設計することができる、軽量で機械的に高性能の編組構成要素を作成することである。特別設計はまた、編組構成要素を基礎とした製品を既存の方法よりも簡単に個別にカスタマイズできるように、よりモジュール化した作成プロセスを可能にすべきである。更に、作成方法は、既存の方法よりも高速でコスト効率が良い方法であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、衣料または履物の物品用の編組構成要素を編組機で形成する方法に関し、方法は、(a)複数の編組糸を編組して、管状構造の編組構成要素を形成するステップと、(b)編組の間に複数の軸糸を統合して管状構造とするステップであって、少なくとも2つの異なるタイプの軸糸が編組構成要素へと統合される、ステップとを含む。
【0018】
編組とは、3本以上の糸を互いに交絡させ、非平行の編成で共に撚るようにして織り合わせて、平らなまたは管状の構造の幅が狭いストリップを形成することである。編組によって、織成または編成では不可能な三軸の編組の幾何学的構成が可能になる。
【0019】
経糸(standing yarn)としても知られている場合がある軸糸、または長手方向糸は、管状構造の軸線方向(長手方向とも呼ばれる)に沿って通る。各タイプの軸糸は1つ以上の軸糸を含む。ここで、管状構造またはチューブは、数学的に完全な円筒からの偏差を含んでもよい円筒状構造を意味するものと解釈される。前記偏差は、意図的に組み込まれることがあり、または製造プロセスの技術的な不完全さに基づくことがある。編組糸は軸糸を結合して管状構造にする。結果として得られるチューブは、軸線方向ではかなり剛性であることができるが、チューブの径方向に沿って伸長可能および弾性であってもよい。
【0020】
チューブはまた、応力−ひずみ応答の少なくとも2つの異なるレジームを提供するように特別設計することができる。第1のレジームでは、チューブは実質的に線形の応力−ひずみ関係に従い、ここでは、材料は実質的に弾性または柔軟性であり、チューブが引っ張られたとき、回復力は均衡状態からの伸長に実質的に比例する。第1のレジームでは、チューブは、フックの法則に従うばねと実質的に同様に挙動する。第2のレジームでは、チューブは実質的に非線形の応力−ひずみ関係に従い、回復力は、均衡状態からの伸長に対して第1のレジームの場合よりも急速に増加する。これら2つのレジーム間の遷移点は「ロックアウト」と呼ばれる場合がある。この挙動は、衣料または履物において有利な技術的効果を有する場合がある。例えば、第1のレジームは、特別設計されたチューブを備える靴にプレーヤーが足を快適に入れることができ、プレーヤーが快適に走れるようにチューブが十分な弾性を有する一方で、プレーヤーが方向転換したいときに靴が剛性であり、プレーヤーの足に対して十分な支持レベルを提供するようにチューブが特別設計されるように、特別設計することができる。
【0021】
この方法に対して他の重要な利益がある。第一に、少なくとも2つの異なるタイプの複数の軸糸を編組構成要素に組み込むことで、別の方法で達成できるよりも高度な編組構成要素の性質の調整可能性をもたらすことができる。軸糸は、例えば異なるモデルの編組構成要素に対して、単純な方法で変化させることができる。編組構成要素の製造安定性を妨げることなく、完全に異なるタイプの軸糸を互いに近接させて使用することが可能である。完全に異なる軸糸とは、性質が著しく異なる軸糸である。これらの性質としては、例えば、組成、テックス値、弾性、曲げ剛性、コーティング、断面積、および溶融糸含量(melt yarn content)を含む。これは、このことが不可能であろう織成または編成を上回る明確な利点である。織成または編成の場合、完全に異なる糸の使用によってしわなどの欠陥が起こることがある。更に、編成プロセスでは糸自体が曲げられるので、編成の場合は糸がより柔軟でなければならない。編組では、編組プロセスの間に糸は曲げられないので、糸がより剛性であることができ、したがってより多様な糸を使用することができる。更に、織成および編成の場合、糸の選択は針のゲージまたはおさの密度によって決定される場合が多い。したがって、細糸と太糸を混合するのが難しくなる。編組では、各パッケージが完全に独立しており、糸が貫通する必要がある共通のアイレットまたは「ゲージ」がない。唯一の要件は、糸がある程度の摩擦接触で互いの上下を通過できることである。第二に、編組プロセス中に履物物品のアッパーを形成する成形マンドレルまたは足型が不要になるように、編組構成要素の性質を特別設計することができる。したがって、編組アッパーの作成速度を向上することができ、既存の方法を用いて作成されるアッパーに対して編組アッパーのコストを減少させることができる。
【0022】
足型の上に編組することと比較した別の利点は、作成プロセスのモジュール性が向上することである。例えば、1つ以上の編組構成要素をスプールに巻き付け、別の場所で更に組み立てるために搬送することができる。この方法はまた、アッパーの一部のみを、例えば径方向で高い剛性を有する管状領域を作成するのに使用することもできる。
【0023】
この作成方法の適合性および利点は、履物物品のアッパーの作成に限定されない。この方法を使用して作成される編組構成要素は、例えば袖または靴下などの衣料に等しく使用することができる。
【0024】
編組セットアップに使用する糸の選択およびボビンの数によって、結果として得られる編組チューブの既定の直径が決まり、チューブの圧潰が防止されるであろう。所与の編組角度に対して、必要な糸の直径と利用されるボビンの数は互いに依存し、反比例する。編組に使用されるボビンの数が少ないほど、必要な糸のテックス値またはデニール数が多くなる。逆もまた真であり、チューブの同じ休止直径を確立するためには、細い糸ほど多くのボビンを必要とする。例えば、編組用に64個のボビンと軸糸用に32個のボビンを有する機械セットアップでは、好ましくは少なくとも12テックス、より好ましくは少なくとも18テックスの編組糸を使用することが必要であろう。糸は、例えば、レンズ状としても知られる非円形の断面を有してもよく、糸は、第1の直径の第1軸および第2の直径の第2軸を有する楕円形の断面を有してもよい。糸の代わりに、または糸に加えて、リボンまたはテープも使用することができる。
【0025】
糸の充填空間(filling space)またはカバーファクタは糸の体積である。この充填空間はチューブ壁の密度を表す。充填空間が小さすぎる場合、チューブの密度が小さすぎ、成形マンドレルが必要である。充填空間が十分に大きければ、特別設計のチューブは、編組の間に既に(またその後、更なる処理を要することなく)その形状を維持することができるので、成形マンドレルが不要になる。
【0026】
第1のタイプの軸糸は、第2のタイプの軸糸とは異なる組成を有してもよい。ここでは、異なる組成は、綿、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、エラステーン、セルロース系材料、ケブラー、他のポリアミド類、PET、またはそれらの組み合わせなどの異なる材料を含むことができる。前記材料は軽量であり、編組機での処理が簡単である。異なる組成はまた、一方ではマルチフィラメント、他方ではモノフィラメント糸を意味する場合がある。これにより、編組構成要素の性質を特別設計できる程度が改善される。異なる組成は、例えば、通気性または耐水性のレベルにしたがって編組構成要素の性質を修正するのに使用することができる。
【0027】
第1のタイプの軸糸は、第2のタイプの軸糸とは異なるテックス値を含んでもよい。これは、編組構成要素の性質を特別設計できる代替または追加の方法である。例えば、特定の性質、例えば摩擦が同じである材料で構成された糸を使用するのが有益なことがあるが、異なるテックス値を使用することによって、編組構成要素の性質を特別設計する方法がまだ残っている。テックス値の変化によって、編組構成要素の安定性および強度を調整することが可能になる。
【0028】
第1のタイプの軸糸は、第2のタイプの軸糸とは異なる弾性および/または曲げ剛性を含んでもよい。これは、編組構成要素の性質を特別設計できる別の代替または追加の方法である。例えば、第1のタイプの糸が弾性の低い糸を含み、第2のタイプの糸が弾性の高い糸を含んで、材料の弾性を調整するのを可能にすることができる。別の方法として、またはそれに加えて、実質的に剛性である編組構成要素の一部分と、実質的に可撓性である別の部分とを特別設計するために、第1のタイプの軸糸は第2のタイプの軸糸よりも高い曲げ剛性を有してもよい。
【0029】
軸糸の構成は管状構造の円周にわたって変化してもよい。かかる構成によって、履物または衣料物品の特に良好なフィット性および快適さを達成する方法が可能になる。例えば、弾性の糸をチューブの片側に使用し、弾性の低い糸を反対側に使用することによって、編組張力が解放され、弾性糸が収縮して形状を変形させたときに、非円筒状の構造がもたらされる。機械的性質も、管状構造の円周にわたって、例えばそれらの曲げ剛性によって、他の方法で付加的または代替的に変化することができる。軸糸の密度も編組構成要素の円周の周りで変化することができる。これによって編組構成要素が、例えば、左右および/または上下の曲がりを展開して、足型などの任意の成形物を要することなく、例えば左足または右足など、身体部分の解剖学的構造に適合することが可能になる。更に、編組構成要素の各部分に対して所望のレベルの構造的支持を達成して、最終製品の性能および/または運動選手が経験する反応を改善することができる。
【0030】
編組糸は軸糸を結合して管状構造となり、軸糸よりも細くてもよい。編組糸の組成、弾性、テックス値、または曲げ剛性などの性質を選択することによって、管状構造の径方向弾性の程度を特別設計し、着用の快適さおよび機能性を改善することが可能である。
【0031】
編組角度は編組構成要素の軸線方向に沿って変化してもよい。編組角度は、編組糸の方向と軸線編組方向との間の角度である。編組角度の変化によって、チューブの長さ全体を通して異なる機械的性質がもたらされる。好ましくは15°〜45°の小さい編組角度の領域は、径方向に拡張しやすく、動的移動の間に適合するように拡張可能にすることができる。他方で、好ましくは46°〜80°の大きい編組角度の領域は、径方向に伸長しにくく、より剛性である。非常に大きい編組角度では、編組糸が非軸線方向で詰まる。詰まりは、編組の構造的観点からそれ以上自然に拡張しなくなり、更なる拡張がフィラメントとその中の糸のひずみに結び付けられる地点である。靴のアッパーの場合、この詰まりを安定性が必要な領域に使用して、補強構造を補足するかまたはそれに置き換えることができる。
【0032】
編組糸および/または軸糸は、少なくとも1つの溶融糸を含んでもよい。溶融糸は、好ましくは編組構成要素の他の糸の分解温度よりも低い、特定の温度で溶融する。溶融糸を含むことには、選択された糸が特定の温度で溶融し融合するのが可能になるという利点がある。
【0033】
第1のタイプの軸糸は、編組構成要素の第2の範囲ではなく第1の範囲に配置されてもよく、第2のタイプの軸糸は、第1の範囲ではなく第2の範囲に配置される。特定の範囲に1つのタイプの軸糸を、別の範囲に別のタイプを選択的に選ぶことによって、編組構成要素の性質を局所的に修正することが可能である。このように、履物または衣料物品の特に良好なフィット性、快適さ、および改善された機能性を達成することができる。
【0034】
編組構成要素の編組は、本質的に円筒状の形態の上で実施されてもよい。本質的に円筒状の形態は、円筒を大まかに模倣した任意の形態であり、数学的に完全な円筒形状に限定されない。形態は、製造プロセスの不完全さによる完全な円筒からの偏差を含んでもよく、または完全な円筒からの意図的な変形を含んでもよい。本質的に円筒状の形態の上に編組することによって、使用される糸全体の空間によって決定される天然の空隙よりも大きくてもよい、所望の編組直径を達成することが可能である。編組は、好ましくは、本質的に円筒状の形態の長手方向(または軸線方向)に沿って行われる。
【0035】
本質的に円筒状の形態は、溶融可能な構成要素を含んでもよく、方法は、前記溶融可能な構成要素の上に編組構成要素を編組した後に、前記溶融可能な構成要素を溶融することによって、編組構成要素および溶融可能な構成要素が1つの統合単位体を形成するステップを更に含んでもよい。このように、編組構成要素とも呼ばれる、形成された統合単位体の安定性が改善される。更に、編組構成要素はより防水性が高い。
【0036】
編組機は、一組の糸が時計方向に回転し、第2の組の糸が反時計方向に回転する、クリールに配置された複数の糸キャリアを含んでもよい。編組糸が合わされ、糸の重なり合いによって編組構造が作られる。糸パッケージが回転を通して移動する速度が編組速度である。編組機は、編組糸と同じパッケージ構成から、または別のクリール構成から来てもよい軸糸を含む能力を有する。
【0037】
編組構成要素は、ある速度(「巻取り速度」)で機械的デバイス(「巻取りデバイス」としても知られる)によって引っ張ることができる(「巻取り」としても知られる)。巻取りデバイスは、ローラもしくはプーリーシステム、または多軸制御を備えたロボットデバイスであることができる。巻取り対編組速度の比の変化が可能である。これと糸の張力とを併せて、編組角度に影響を与え、結果としてチューブの領域の機械的性質に影響を与えることができる。巻取りデバイスは、切断の間の構造を固定し、編組の解れを防ぐために、編組の特定の領域を溶融するいくつかの直接加熱された表面を含んでもよい。巻取りデバイスはまた、張力が長手方向に伝達されるのを防ぐ一方で編組角度の変化をもたらす、編組形成区域付近に配設されたニップローラを含んでもよい。
【0038】
チューブを構築するのに異なる編組機を使用することができる。パッケージが編組アパーチャの周りでリング状に装填される、いわゆる「メイポール編組機」を使用することができる。この構成では、軸糸を従来のクリールに装填して、大きい糸パッケージを装填することを可能にすることによって、パッケージ交換時間を最小限に抑えることができる。あるいは、編組糸および軸糸のパッケージが編組区域の周りで径方向に装填される、「径方向編組機」を使用することができる。かかる構成によって、デバイスの総フットプリントが最小限に抑えられる。
【0039】
編組機は3D編組機であってもよい。3D編組機は、糸の方向が必ずしも線形ではないデカルト格子の構成で糸パッケージを装填することを伴う。3D編組機では、糸パッケージは、糸パッケージの運動が編組区域周りの規定の軌道に拘束されるメイポールまたは径方向編組機とは反対に、二次元位置で自由に動くことができる。この構成では、編組の形状および構造が、糸のプログラム可能な動きに強く影響を受ける場合がある。これには、径方向編組機または軸線方向(メイポール)編組機などの他の編組機では不可能な方法で、糸を配置することができるという利点がある。また、3D編組機を使用することで、経糸が所与の地点で編組糸となるように、またはその逆に交絡し始めることが可能になる。また、この方法によって、編組の一部でなくなる位置に糸の経路を「一時的に置く」ことが可能であることによって、編組構成要素の異なる領域に色を導入し、続いて色を隠すことが可能になる。このように、軸糸がチューブの長手方向に沿ったある地点で始まり、または終わることが可能である。これによって、例えば、第1のタイプの軸糸を、第2のタイプの軸糸を含む第2の領域とは長手方向で、即ち軸線方向で分離された、第1の領域に配置することが可能になる。色付きの糸と共に、剛性の領域も、ケブラーまたは他のポリアミド類などの剛性要素に編組することによって、この方法で導入することができる。
【0040】
方法は更に、本明細書に記載するように製造された編組構成要素を備える履物物品のアッパーを形成するステップを含んでもよい。前記編組構成要素から形成されたアッパーは、特に良好なフィット性を提供し、良好な機械的性質を有し、軽量である。
【0041】
第1の範囲はアッパーの下側部分に配置されてもよく、第2の範囲はアッパーの足甲部分に配置されてもよい。かかる構成では、下側部分および足甲部分のアッパーの異なる要件に簡単に適合する。例えば、ソールは足の下側に耐水性をもたらす主要な要素なので、アッパーの底部分は必ずしも特に防水性でなくてもよい。実際は、着用者の快適さのため、高い通気性が望ましいことがある。他方で、足甲部分では、アッパーは足をほこりおよび雨から保護する主要な要素であり、したがって良好なレベルの耐水性が求められることがある。同様に、アッパーは着用者の足を足甲領域で支持する主要な要素であり、したがって安定しているが可撓性のある編組部分が足甲領域に求められることがある。アッパーの下側部分は履物物品のソールに取り付けられるので、アッパーの下側部分は着用者の足を支持する必要はなく、したがって安定性が低くてもよく、着用者の快適さを改善する緩衝性の柔軟な材料を含むことができる。
【0042】
第1の範囲はアッパーの外側および/または内側部分に配置されてもよく、第2の範囲はアッパーの足甲部分に配置されてもよい。かかる構成では、一方ではアッパーの外側および/または内側部分の、他方では足甲部分の異なる要件に簡単に適合する。例えば、足は、一般的に、足甲部分で要するよりも外側または内側部分でより一層の支持を要する。
【0043】
第1の範囲はアッパーの外側部分に配置されてもよく、第2の範囲はアッパーの内側部分に配置されてもよい。かかる構成では、一方ではアッパーの外側部分の、他方では内側部分の異なる要件に簡単に適合する。例えば、弾性糸をアッパーの内側部分に、非可撓性の糸をアッパーの外側部分に使用することによって、編組張力が解放されたときに人間の足に本質的に適合する、自然な曲がりがもたらされる。
【0044】
方法は更に、編組構成要素を足型上に配置するステップと、ラスティングした編組構成要素を圧密化するステップとを含んでもよい。本明細書の別の箇所で言及した利点に加えて、本明細書に記載するように特別設計した編組構成要素は、ラスティング段階の間、足型は標準化した足型であることができ、あらゆる靴のスタイルまたはサイズ、例えば欧州式の40、40.5、41、41.5など、または米国式の8、8.5、9、9.5などを網羅する必要はないという利点を有する。その代わりに、編組構成要素の特別設計された性質によって、使用される更に標準化された足型は、例えば、ある範囲の靴のスタイルおよびサイズ、例えば欧州式の40〜42、または米国式の8〜10を網羅することが可能になる。特別設計された編組構成要素を足型上に配置し、ラスティングした編組構成要素を圧密化することによって、快適な着用特性のための特に良好なフィット性を達成することが可能である。また、ラスティングおよび/または圧密化は、顧客用に個別にカスタマイズされた足型に基づいて、店舗内で行うことが可能である。
【0045】
圧密化のステップは、結合剤、ポリマーコーティング、および/または編組構成要素の少なくとも一部の加熱を使用することを含んでもよい。この方法によって、十分な弾性を維持すると共に、好ましいレベルの耐水性および通気性を提供しながら、編組構成要素をラスティングした形態で恒久的に固定することが可能になる。編組構成要素を加熱することによって、例えば、溶融糸が編組構成要素に統合された場合に、全体の軽量性と優れた通気性を維持しながら、構造を重要な位置で圧密化することが可能である。
【0046】
圧密化のステップは更に、積層技術を適用することを含んでもよい。積層技術は、防水性および均等な圧密化を提供するのに有用であり、したがって積層されたアッパーは魅力的な視覚的外観を有する。
【0047】
積層技術は、ポリウレタン、TPU、ポリアミド類、ポリオレフィン類、またはビニル系フィルムを使用することを含んでもよい。これらの材料は、良好な接着性および封止性を有し、工業規模で処理がしやすく、毒性が低い。ケブラーなどのポリアミド類は、それらの熱抵抗および構造的強度により、特に有用である。
【0048】
積層技術は真空成形を含んでもよい。真空成形によって、特に魅力的な視覚的外観を有する、著しい防水性および均等な積層を達成することが可能である。
【0049】
本発明は更に、本明細書に記載するように製造されている編組構成要素を備える、履物物品用のアッパーに関する。
【0050】
本発明は更に、管状構造を有する衣料または履物物品用の編組構成要素に関し、編組構成要素は複数の統合された軸糸を備え、少なくとも2つの異なるタイプの軸糸が編組構成要素へと統合される。
【0051】
経糸としても知られている場合がある軸糸、または長手方向糸は、管状構造の軸線方向(長手方向とも呼ばれる)に沿って通る。各タイプの軸糸は1つ以上の軸糸を含む。ここで、管状構造またはチューブは、数学的に完全な円筒からの偏差を含んでもよい円筒状構造を意味するものと解釈される。前記偏差は、意図的に組み込まれることがあり、または製造プロセスの技術的な不完全さに基づくことがある。編組糸は軸糸を結合して管状構造にする。結果として得られるチューブは、軸線方向ではかなり剛性であることができるが、チューブの径方向に沿って伸長可能および弾性であってもよい。
【0052】
チューブはまた、応力−ひずみ応答の少なくとも2つの異なるレジームを提供するように特別設計することができる。第1のレジームでは、チューブは実質的に線形の応力−ひずみ関係に従い、ここでは、材料は実質的に弾性または柔軟性であり、チューブが引っ張られたとき、回復力は均衡状態からの伸長に実質的に比例する。第1のレジームでは、チューブは、フックの法則に従うばねと実質的に同様に挙動する。第2のレジームでは、チューブは実質的に非線形の応力−ひずみ関係に従い、回復力は、均衡状態からの伸長に対して第1のレジームの場合よりも急速に増加する。これら2つのレジーム間の遷移点は「ロックアウト」と呼ばれる場合がある。この挙動は、衣料または履物において有利な技術的効果を有する場合がある。例えば、第1のレジームは、特別設計されたチューブを備える靴にプレーヤーが足を快適に入れることができ、プレーヤーが快適に走れるようにチューブが十分な弾性を有する一方で、プレーヤーが方向転換したいときに靴が剛性であり、プレーヤーの足に対して十分な支持レベルを提供するようにチューブが特別設計されるように、特別設計することができる。
【0053】
前記編組構成要素の他の重要な利益がある。第一に、少なくとも2つの異なるタイプの複数の軸糸を編組構成要素に組み込むことで、別の方法で達成できるよりも高度な編組構成要素の性質の調整可能性をもたらすことができる。軸糸は、例えば異なるモデルの編組構成要素に対して、単純な方法で変化させることができる。編組構成要素の製造安定性を妨げることなく、完全に異なるタイプの軸糸を互いに近接させて使用することが可能である。完全に異なる軸糸とは、性質が著しく異なる軸糸である。これらの性質としては、例えば、組成、テックス値、弾性、曲げ剛性、コーティング、断面積、および溶融糸含量を含む。これは、このことが不可能であろう織成または編成を通して作成される編組構成要素を上回る明確な利点である。織成または編成の場合、完全に異なる糸の使用によってしわなどの欠陥が起こることがある。更に、編成プロセスでは糸自体が曲げられるので、編成の場合は糸がより柔軟でなければならない。編組では、編組プロセスの間に糸は曲げられないので、糸がより剛性であることができ、したがってより多様な糸を使用することができる。更に、織成および編成の場合、糸の選択は針のゲージまたはおさの密度によって決定される場合が多い。したがって、細糸と太糸を混合するのが難しくなる。編組では、各パッケージが完全に独立しており、糸が貫通する必要がある共通のアイレットまたは「ゲージ」がない。唯一の要件は、糸がある程度の摩擦接触で互いの上下を通過できることである。第二に、編組プロセス中に履物物品のアッパーを形成する成形マンドレルまたは足型が不要になるように、編組構成要素の性質を特別設計することができる。したがって、編組アッパーの作成速度を向上することができ、既存の方法を用いて作成されるアッパーに対して編組アッパーのコストを減少させることができる。足型の上に編組することと比較した別の利点は、作成プロセスのモジュール性が向上することである。例えば、1つ以上の編組構成要素をスプールに巻き付け、別の場所で更に組み立てるために搬送することができる。編組構成要素はまた、アッパーの一部のみを、例えば径方向で高い剛性を有する管状領域を作成するのに使用することもできる。
【0054】
編組構成要素は、例えば袖または靴下などの衣料に等しく使用することができる。
【0055】
編組セットアップに使用する糸の選択およびボビンの数によって、結果として得られる編組チューブの既定の直径が決まり、チューブの圧潰が防止されるであろう。所与の編組角度に対して、必要な糸の直径と利用されるボビンの数は互いに依存し、反比例する。編組に使用されるボビンの数が少ないほど、必要な糸のテックス値またはデニール数が多くなる。逆もまた真であり、チューブの同じ休止直径を確立するためには、細い糸ほど多くのボビンを必要とする。例えば、編組用に64個のボビンと軸糸用に32個のボビンを有する機械セットアップでは、好ましくは少なくとも12テックス、より好ましくは少なくとも18テックスの編組糸を使用することが必要であろう。
【0056】
糸の充填空間またはカバーファクタは糸の体積である。この充填空間はチューブ壁の密度を表す。充填空間が小さすぎる場合、チューブの密度が小さすぎ、成形マンドレルが必要である。充填空間が十分に大きければ、特別設計のチューブは、編組の間に既に(またその後、更なる処理を要することなく)その形状を維持することができるので、成形マンドレルが不要になる。
【0057】
第1のタイプの軸糸は、第2のタイプの軸糸とは異なる組成を有してもよい。ここでは、異なる組成は、綿、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、エラステーン、セルロース系材料、ケブラー、他のポリアミド類、PET、またはそれらの組み合わせなどの異なる材料を含むことができる。前記材料は軽量であり、編組機での処理が簡単である。異なる組成はまた、一方ではマルチフィラメントを、または他方ではモノフィラメント糸を意味する場合がある。これにより、編組構成要素の性質を特別設計できる程度が改善される。異なる組成は、例えば、通気性または耐水性のレベルにしたがって編組構成要素の性質を修正するのに使用することができる。
【0058】
第1のタイプの軸糸は、第2のタイプの軸糸とは異なるテックス値を含んでもよい。これは、編組構成要素の性質を特別設計できる代替または追加の方法である。例えば、特定の性質、例えば摩擦が同じである材料で構成された糸を使用するのが有益なことがあるが、異なるテックス値を使用することによって、編組構成要素の性質を特別設計する方法がまだ残っている。テックス値の変化によって、編組構成要素の安定性および強度を調整することが可能になる。
【0059】
第1のタイプの軸糸は、第2のタイプの軸糸とは異なる弾性および/または曲げ剛性を含んでもよい。これは、編組構成要素の性質を特別設計できる別の代替または追加の方法である。例えば、第1のタイプの糸が弾性の低い糸を含み、第2のタイプの糸が弾性の高い糸を含んで、材料の弾性を調整するのを可能にすることができる。別の方法として、またはそれに加えて、実質的に剛性である編組構成要素の一部分と、実質的に可撓性である別の部分とを特別設計するために、第1のタイプの軸糸は第2のタイプの軸糸よりも高い曲げ剛性を有してもよい。
【0060】
軸糸の構成は管状構造の円周にわたって変化してもよい。かかる構成によって、履物または衣料物品の特に良好なフィット性および快適さを達成する方法が可能になる。例えば、弾性の糸をチューブの片側に使用し、弾性の低い糸を反対側に使用することによって、編組張力が解放され、弾性糸が収縮して形状を変形させたときに、非円筒状の構造がもたらされる。機械的性質も、管状構造の円周にわたって、例えばそれらの曲げ剛性によって、他の方法で付加的または代替的に変化することができる。軸糸の密度も編組構成要素の円周の周りで変化することができる。これによって編組構成要素が、例えば、左右および/または上下の曲がりを展開して、足型などの任意の成形物を要することなく、例えば左足または右足など、身体部分の解剖学的構造に適合することが可能になる。更に、編組構成要素の各部分に対して所望のレベルの構造的支持を達成して、最終製品の性能および/または運動選手が経験する反応を改善することができる。
【0061】
編組糸は軸糸を結合して管状構造となり、軸糸よりも細くてもよい。編組糸の組成、弾性、テックス値、または曲げ剛性などの性質を選択することによって、管状構造の径方向弾性の程度を特別設計し、着用の快適さおよび機能性を改善することが可能である。
【0062】
編組角度は編組構成要素の軸線方向に沿って変化してもよい。編組角度は、編組糸の方向と軸線編組方向との間の角度である。編組角度の変化によって、チューブの長さ全体を通して異なる機械的性質がもたらされる。好ましくは15°〜45°の小さい編組角度の領域は、径方向に拡張しやすく、動的移動の間に適合するように拡張可能にすることができる。他方で、好ましくは46°〜80°の大きい編組角度の領域は、径方向に伸長しにくく、より剛性である。非常に大きい編組角度では、編組糸が非軸線方向で詰まる。詰まりは、編組の構造的観点からそれ以上自然に拡張しなくなり、更なる拡張がフィラメントとその中の糸のひずみに結び付けられる地点である。靴のアッパーの場合、この詰まりを安定性が必要な領域に使用して、補強構造を補足するかまたはそれに置き換えることができる。
【0063】
編組糸および/または軸糸は、少なくとも1つの溶融糸を含んでもよい。溶融糸は、好ましくは編組構成要素の他の糸の分解温度よりも低い、特定の温度で溶融する。溶融糸を含むことには、選択された糸が特定の温度で溶融し融合するのが可能になるという利点がある。
【0064】
第1のタイプの軸糸は、編組構成要素の第2の範囲ではなく第1の範囲に配置されてもよく、第2のタイプの軸糸は、第1の範囲ではなく第2の範囲に配置される。特定の範囲に1つのタイプの軸糸を、別の範囲に別のタイプを選択的に選ぶことによって、編組構成要素の性質を局所的に修正することが可能である。このように、履物または衣料物品の特に良好なフィット性、快適さ、および改善された機能性を達成することができる。
【0065】
本発明は更に、本明細書に記載するような編組構成要素を備える、履物物品のアッパーに関する。前記編組構成要素から形成されたアッパーは、特に良好なフィット性を提供し、良好な機械的性質を有し、軽量である。
【0066】
第1の範囲はアッパーの下側部分に配置されてもよく、第2の範囲はアッパーの足甲部分に配置されてもよい。かかる構成では、下側部分および足甲部分のアッパーの異なる要件に簡単に適合する。例えば、ソールは足の下側に耐水性をもたらす主要な要素なので、アッパーの底部分は必ずしも特に防水性でなくてもよい。実際は、着用者の快適さのため、高い通気性が望ましいことがある。他方で、足甲部分では、アッパーは足をほこりおよび雨から保護する主要な要素であり、したがって良好なレベルの耐水性が求められることがある。同様に、アッパーは着用者の足を足甲領域で支持する主要な要素であり、したがって安定しているが可撓性のある編組部分が足甲領域に求められることがある。アッパーの下側部分は履物物品のソールに取り付けられるので、アッパーの下側部分は着用者の足を支持する必要はなく、したがって安定性が低くてもよく、着用者の快適さを改善する緩衝性の柔軟な材料を含むことができる。
【0067】
第1の範囲はアッパーの外側および/または内側部分に配置されてもよく、第2の範囲はアッパーの足甲部分に配置されてもよい。かかる構成では、一方ではアッパーの外側および/または内側部分の、他方では足甲部分の異なる要件に簡単に適合する。例えば、足は、一般的に、足甲部分で要するよりも外側または内側部分でより一層の支持を要する。
【0068】
第1の範囲はアッパーの外側部分に配置されてもよく、第2の範囲はアッパーの内側部分に配置されてもよい。かかる構成では、一方ではアッパーの外側部分の、他方では内側部分の異なる要件に簡単に適合する。例えば、弾性糸をアッパーの内側部分に、非可撓性の糸をアッパーの外側部分に使用することによって、編組張力が解放されたときに人間の足に本質的に適合する、自然な曲がりがもたらされる。
【0069】
アッパーは、足型上に配置され圧密化された編組構成要素を備えてもよい。本明細書の別の箇所で言及した利点に加えて、本明細書に記載するように特別設計した編組構成要素は、ラスティング段階の間、足型は標準化した足型であることができ、あらゆる靴のスタイルまたはサイズ、例えば欧州式の40、40.5、41、41.5など、または米国式の8、8.5、9、9.5などを網羅する必要はないという利点を有する。その代わりに、編組構成要素の特別設計された性質によって、使用される更に標準化された足型は、例えば、ある範囲の靴のスタイルおよびサイズ、例えば欧州式の40〜42、または米国式の8〜10を網羅することが可能になる。特別設計された編組構成要素を足型上に配置し、ラスティングした編組構成要素を圧密化することによって、快適な着用特性のための特に良好なフィット性を達成することが可能である。また、ラスティングおよび/または圧密化は、顧客用に個別にカスタマイズされた足型に基づいて、店舗内で行うことが可能である。
【0070】
圧密化のステップは、結合剤、ポリマーコーティング、および/または編組構成要素の少なくとも一部の加熱を使用することを含んでもよい。したがって、完成したアッパーは、十分な弾性を維持すると共に、好ましいレベルの耐水性および通気性を提供しながら、ラスティングした形態の編組構成要素を備える。編組構成要素を加熱することによって、例えば、溶融糸が編組構成要素に統合された場合に、全体の軽量性と優れた通気性を維持しながら、構造を重要な位置で圧密化することが可能である。
【0071】
アッパーは積層されてもよい。積層された編組構成要素を備えるアッパーは、特に防水性であり、均等な表面を有し、製造プロセスによる不完全さのレベルはわずかであり、したがって魅力的な視覚的外観を有する。
【0072】
積層材料は、ポリウレタン、TPU、ポリアミド類、ポリオレフィン類、またはビニル系フィルムを含んでもよい。これらの材料は、良好な接着性および封止性を有し、工業規模で処理がしやすく、毒性が低い。ケブラーなどのポリアミド類は、それらの熱抵抗および構造的強度により、特に有用である。
【0073】
積層のステップは真空成形を含んでもよい。真空成形によって、著しい防水性および均等な積層を達成し、したがって特に魅力的な視覚的外観を有することが可能である。
【0074】
本発明は更に、本明細書に記載するようなアッパーとアウトソールとを備える靴に関する。本明細書に記載するアッパーを備える靴、例えば運動靴は、特に軽量であり、特定のタイプの活動または更には顧客の個々の解剖学的構造に合わせて、製造プロセスで簡単に修正することができる、優れた機械的性質を有する。
【0075】
本発明は以下の実施形態を含む。
【0076】
[1]衣料または履物の物品用の編組構成要素を編組機で形成する方法であって、
(a)複数の編組糸を編組して、管状構造の編組構成要素を形成するステップと、
(b)編組の間に複数の軸糸を統合して管状構造とするステップであって、少なくとも2つの異なるタイプの軸糸が編組構成要素へと統合される、ステップとを含む方法。
【0077】
[2]第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なる組成を有する、[1]に記載の方法。
【0078】
[3]第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なるテックス値を含む、[1]または[2]に記載の方法。
【0079】
[4]第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なる弾性および/または曲げ剛性を含む、[1]から[3]のうち1つに記載の方法。
【0080】
[5]軸糸の構成が編組構成要素の管状構造の円周にわたって変化する、[1]から[4]のうち1つに記載の方法。
【0081】
[6]編組角度が編組構成要素の軸線方向に沿って変化する、[1]から[5]のうち1つに記載の方法。
【0082】
[7]編組糸および/または軸糸が少なくとも1つの溶融糸を含む、[1]から[6]のうち1つに記載の方法。
【0083】
[8]第1のタイプの軸糸が、編組構成要素の第2の範囲ではなく第1の範囲に配置され、第2のタイプの軸糸が、第1の範囲ではなく第2の範囲に配置される、[1]から[7]のうち1つに記載の方法。
【0084】
[9]編組構成要素の編組が本質的に円筒状の形態の上で実施される、[1]から[8]のうち1つに記載の方法。
【0085】
[10]本質的に円筒状の形態が溶融可能な構成要素を含み、方法が、前記溶融可能な構成要素の上に編組構成要素を編組した後に、前記溶融可能な構成要素を溶融することによって、編組構成要素および溶融可能な構成要素が1つの統合単位体を形成するステップを更に含む、[1]から[9]のうち1つに記載の方法。
【0086】
[11]編組機が3D編組機である、[1]から[10]のうち1つに記載の方法。
【0087】
[12][1]から[11]のうち1つにしたがって製造された編組構成要素を備える、履物物品のアッパーを形成するステップを更に含む、[1]から[11]のうち1つに記載の方法。
【0088】
[13]第1の範囲がアッパーの下側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの足甲部分に配置される、[8]または[12]に記載の方法。
【0089】
[14]第1の範囲がアッパーの外側および/または内側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの足甲部分に配置される、[8]または[12]に記載の方法。
【0090】
[15]第1の範囲がアッパーの外側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの内側部分に配置される、[8]または[12]に記載の方法。
【0091】
[16]編組構成要素を足型上に配置するステップと、ラスティングした編組構成要素を圧密化するステップとを更に含む、[1]から[15]のうち1つに記載の方法。
【0092】
[17]圧密化のステップが、結合剤、ポリマーコーティング、および/または編組構成要素の少なくとも一部の加熱を使用することを含む、[1]から[16]に記載の方法。
【0093】
[18]圧密化のステップが積層技術の適用を含む、[16]または[17]に記載の方法。
【0094】
[19]積層技術が、ポリウレタン、TPU、ポリアミド、ポリオレフィン類、またはビニル系フィルムの使用を含む、[1]から[18]のうち1つに記載の方法。
【0095】
[20]積層技術が真空成形を含む、[18]または[19]に記載の方法。
【0096】
[21][1]から[20]のうち1つの方法にしたがって製造されている編組構成要素を備える、履物物品用のアッパー。
【0097】
[22]管状構造を有する衣料または履物物品用の編組構成要素であって、編組構成要素が複数の統合された軸糸を備え、少なくとも2つの異なるタイプの軸糸が編組構成要素へと統合される、編組構成要素。
【0098】
[23]第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なる組成を有する、[22]に記載の編組構成要素。
【0099】
[24]第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なるテックス値を含む、[22]または[23]に記載の編組構成要素。
【0100】
[25]第1のタイプの軸糸が第2のタイプの軸糸とは異なる弾性および/または曲げ剛性を含む、[22]から[24]のうち1つに記載の編組構成要素。
【0101】
[26]前記軸糸の構成が編組構成要素の管状構造の円周にわたって変化する、[22]から[25]のうち1つに記載の編組構成要素。
【0102】
[27]編組角度が編組構成要素の軸線方向に沿って変化する、[22]から[26]のうち1つに記載の編組構成要素。
【0103】
[28]編組糸および/または軸糸が少なくとも1つの溶融糸を含む、[22]から[27]のうち1つに記載の編組構成要素。
【0104】
[29]第1のタイプの軸糸が、編組構成要素の第2の範囲ではなく第1の範囲に配置され、第2のタイプの軸糸が、第1の範囲ではなく第2の範囲に配置される、[22]から[28]のうち1つに記載の編組構成要素。
【0105】
[30][22]から[29]のうち1つに記載の編組構成要素を備える、履物物品用のアッパー。
【0106】
[31]第1の範囲がアッパーの下側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの足甲部分に配置される、[30]に記載のアッパー。
【0107】
[32]第1の範囲がアッパーの外側および/または内側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの足甲部分に配置される、[30]または[31]に記載のアッパー。
【0108】
[33]第1の範囲がアッパーの外側部分に配置され、第2の範囲がアッパーの内側部分に配置される、[30]または[31]に記載のアッパー。
【0109】
[34]編組構成要素が足型上に配置され、圧密化された、[30]から[33]のうち1つに記載のアッパー。
【0110】
[35]編組構成要素が、結合剤、ポリマーコーティング、および/または編組構成要素の少なくとも一部の加熱を使用して圧密化された、[30]から[34]のうち1つに記載のアッパー。
【0111】
[36]編組構成要素が積層技術の適用によって圧密化された、[34]または[35]に記載のアッパー。
【0112】
[37]積層技術が、ポリウレタン、TPU、ポリアミド、ポリオレフィン類、またはビニル系フィルムの使用を含む、[30]から[36]のうち1つに記載のアッパー。
【0113】
[38]積層技術が真空成形を含む、[36]または[37]に記載のアッパー。
【0114】
[39](a)[30]から[38]のうち1つに記載のアッパーと、
(b)アウトソールとを備える、靴。
【0115】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
図1図1AおよびBは、本発明による靴アッパーの一例を示す図である。
図2】本発明による靴アッパーの別の例を示す図である。
図3】本発明による編組構成要素の一例を示す図である。
図4】本発明による編組構成要素の別の例を示す図である。
図5】本発明による履物物品用の編組構成要素およびアッパーを製造する一例の方法を示す図である。
図6図6AおよびBは、編組機の一例を示す図である。
図7図7AおよびBは、編組構成要素をラスティングする一例の方法を示す図である。
図8】編組構成要素を真空積層する一例の方法を示す図である。
図9】編組角度を示す一例の編組パターンを示す図である。
図10】編組角度に対する編組チューブの直径の依存を示す一例のグラフである。
図11図11AおよびBは、編組チューブの一例の軸線方向の応力−ひずみ関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0117】
本発明の可能な実施形態について、主に運動靴を参照して以下の詳細な説明に記載する。しかしながら、本発明はこれらの実施形態によって限定されないことが強調される。特に、編組構成要素および前記編組構成要素の製造方法は、履物物品用の、または例えば袖もしくは靴下などの衣料用のアッパーの一部のみとして使用されてもよい。
【0118】
以下、本発明のいくつかのみの可能な実施形態について詳細に記載する。当業者であれば、これらの可能な実施形態は、適合性があれば多数の方法で修正することができ、互いに組み合わせることができること、また特定の特徴が不必要と思われる限りにおいてそれらを省略してもよいことに気づく。
【0119】
図1Aは、本発明による靴アッパー11の一例を示している。アッパー11は、第1のタイプの軸糸13aと第2のタイプの軸糸13bとを備える。
【0120】
第1のタイプの軸糸13aはアッパーの外側部分に配置され、第2のタイプの軸糸13bはアッパーの足甲部分に配置される。あるいは、第1の範囲はアッパーの下側部分に配置することができ、第2の範囲はアッパーの足甲部分に配置することができる。別の代替例では、第1の範囲はアッパーの外側部分に配置され、第2の範囲はアッパーの内側部分に配置される。少なくとも2つのタイプの軸糸は、それらが形成される材料、またはそれらのフィラメントの性質(単一フィラメント、マルチフィラメントなど)など、それらの組成が異なってもよい。例えば、軸糸13bは、比較的強いが可撓性であって快適なアッパーの足甲部分を提供する、エラステーン、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、セルロース系材料、またはそれらの組み合わせを含む、マルチフィラメント糸を含んでもよい。軸糸13aは、上記に列挙した材料の代わりに、もしくはそれらに加えて、ケブラーおよび/または他のポリアミド類などの剛性要素を含んでもよい。このように、足に対する良好なレベルの支持を提供する、比較的剛性の外側部分を達成することができる。それに加えて、またはその代わりに、第1のタイプの軸糸は、第2のタイプの軸糸とは異なるテックス値を含んでもよい。それに加えて、またはその代わりに、第1のタイプの軸糸は、第2のタイプの軸糸とは異なる弾性および/または曲げ剛性を含んでもよい。
【0121】
編組糸12は、それらが軸糸を共に結合するように形成されて、編組構成要素31を形成する。アッパーは、好ましくは、結合剤、ポリマーコーティング、および/または編組構成要素の少なくとも一部の加熱を使用して、足型上に配置され圧密化される。それに加えて、またはその代わりに、圧密化は積層技術の適用を含んでもよい。積層された靴アッパーは特に防水性であり、積層された表面は特に均等であり、したがって魅力的な視覚的外観を有する。積層は、ポリウレタン、TPU、ポリアミド類、ポリオレフィン類、またはビニル系フィルムの材料を含んでもよい。これらの材料は、良好な接着性および封止性を有し、工業規模で処理がしやすく、毒性が低い。ケブラーなどのポリアミド類は、それらの熱抵抗および構造的強度により、特に有用である。積層技術は、特に防水性のシール、および視覚的に魅力がある平滑で均等な仕上げのための真空成形を含んでもよい。
【0122】
図1Bは、本発明による靴アッパー11の別の例示的な実施形態を示している。アッパー11は、軸糸13a、13b、13cと、編組糸12a、12bとを備える。ここで、軸糸13cは溶融糸を含むが、軸糸13a、13bは溶融糸を含まない。編組糸12bも溶融糸を含むが、他の編組糸12aは溶融糸を含まない。溶融糸12b、13cは、好ましくは、ラスティングしたアッパーの圧密化を容易にするため、アッパーが足型上に配置された後に溶融される。溶融糸を備えるアッパーの利点は、圧密化の間に必要とされる追加の接着剤またはシーラントまたは積層の量が最小限である点である。いくつかの実施形態では、追加の接着剤またはシーラントまたは積層は全く必要ないことがある。このように、アッパーの優れた通気性が維持され、作成されたアッパーは非常に軽量である。
【0123】
図2は、本発明によるアッパー11の一例を示している。この例では、アッパーは、軸糸13a、13bと編組糸12とを備える。編組角度は、軸糸13a、13bの方向と本質的に平行である編組方向と、所与の編組糸12の方向との間の角度である。この実施形態では、編組角度は編組構成要素の軸線方向に沿って変化する。編組角度は前足領域16の方が小さく、前足領域の可撓性および快適さが可能になる。中足領域15では、編組角度がより大きく、中足領域15の安定性が可能になる。
【0124】
図3は、一例の編組構成要素31を示している。図3は、チューブの長手方向に沿った編組角度の変化を示している。編組構成要素は、第1のタイプの軸糸13aと第2のタイプの軸糸13bとを備える。この実施形態では、軸糸13a、13bの構成は、編組構成要素31によって形成される管状構造の円周にわたって変化する。編組構成要素は、軸糸13a、13bを結合して編組構成要素31を形成する編組糸12を更に備える。
【0125】
図3の例示的な実施形態では、編組角度は編組構成要素の軸線方向に沿って変化する。編組角度は、第1の領域35の方が第2の領域36よりも大きい。したがって、結果として得られる編組構成要素は、第1の領域35の方が第2の領域36よりも径方向で剛性が高くなり、可撓性が低くなる。
【0126】
一例では、編組構成要素31は靴下を形成するのに使用することができ、剛性領域35は靴下の踵領域に配置することができ、可撓性領域36は靴下の爪先領域に配置することができる。可撓性領域36はまた、靴下のふくらはぎ領域に配置することができる。可撓性領域36はまた、圧縮効果を提供するなどのため、靴下を着用した状態で、高い弾性張力下で設計することができる。この圧縮効果は、医療目的および/または運動目的で望ましいことがある。
【0127】
別の例では、編組構成要素31は袖を形成するのに使用することができ、剛性領域35は肘の過度の伸展を防ぐために袖の肘領域に配置することができ、可撓性領域36は着用の快適さのために袖の前腕領域に配置することができる。
【0128】
別の例では、編組構成要素31は、追加の構成要素を含んでもよい靴アッパーの一部を形成する、剛性領域35のみを備える剛性「ケージ」を形成するのに使用することができる。
【0129】
別の例では、編組構成要素は靴アッパーを形成するのに使用することができ、剛性領域35は好ましい支持レベルおよび安定性を提供するために中足領域15に配置することができ、可撓性領域36は着用の快適さを提供するために爪先領域16および/または踵領域14に配置することができる。
【0130】
編組構成要素31は、本質的に円筒状の形態37の上に編組することによって形成することができる。しかしながら、これは任意であり、本発明の本質的な態様ではない。
【0131】
本質的に円筒状の形態は、円筒状の形態37の製造プロセスの不完全さによる、数学的に完全な円筒状の形態からの偏差を有してもよく、または完全な円筒からの意図的な偏差を有してもよい。本質的に円筒状の形態37は溶融可能な構成要素を含んでもよい。更なるステップでは、本質的に円筒状の形態37の溶融可能な構成要素は、溶融可能な構成要素を含む本質的に円筒状の形態37の上に編組構成要素を編組した後に、加熱し溶融することができる。編組構成要素および溶融可能な構成要素が1つの統合単位体を形成するように、製品を冷却し硬化させることができる。次にこの統合単位体を更に処理する。例えば、それを切り開いて、更なる処理に使用することができる軽量で防水性の材料の平坦な個片を作ることができる。更なる処理は、編組構成要素とも呼ばれる統合単位体を足型上に配置することを含んでもよい。次に、ラスティングした編組構成要素を、他の例に記載したように圧密化することができ、圧密化は第2の加熱サイクルを含んでもよい。第1のタイプの軸糸13aは比較的高い弾性のものであってもよく、第2のタイプの軸糸13bは比較的低い弾性のものであってもよい。このように、円筒状の形態37の溶融プロセスの間、あるいは編組構成要素31が円筒状の形態37から除去されるとき、張力の損失によって、編組構成要素31が自然に変形して、自然な上下および/または左右の変形を有する非円筒状の形状になる。
【0132】
図4は、本発明による編組構成要素の一例の長手方向に沿った図を示している。編組構成要素は、第1のタイプの軸糸13aと第2のタイプの軸糸13bとを備える。この例では、軸糸13a、13bの構成は、編組構成要素31によって形成される管状構造の円周にわたって変化する。第1の側45には第1のタイプの軸糸13aのみが配置され、第2の側46は、第1のタイプ13aおよび第2のタイプ13bの両方の軸糸を含む。更に、軸糸の円周方向密度は、第1の側45の方が第2の側46よりも高い。編組構成要素は、軸糸13a、13bを結合して編組構成要素31を形成する編組糸12を更に備える。
【0133】
一例では、編組構成要素を使用して靴アッパーを形成することができる。第1の側45はアッパーの外側部分に配置されてもよく、第2の側46はアッパーの内側部分に配置されてもよい。かかる構成では、一方ではアッパーの外側部分の、他方では内側部分の異なる要件に簡単に適合する。例えば、第1のタイプの軸糸13aの弾性が第2のタイプの軸糸13bよりも低い場合、アッパーは、編組張力が解放されたときに人間の足に本質的に適合する自然な曲がりを得る。
【0134】
別の例では、第2のタイプの軸糸13bは溶融糸であるが、第1のタイプの軸糸13aは溶融糸ではない。溶融糸13bは、例えば、編組後または圧密化段階での解れを防ぐため、編組構成要素を恒久的に固定する目的に役立つ。
【0135】
図5は、本発明による履物物品用の編組構成要素およびアッパーを作る方法の概略的な一例を示している。第1のステップで、径方向、軸線方向、または3Dの編組機であることができる編組機57を使用して、編組構成要素31aが編組される。編組構成要素は、少なくとも2つのタイプの軸糸13a、13bおよび編組糸12を備える。編組糸12は、ボビンに装填された多数の編組糸パッケージ58によって提供される。いくつかの異なるタイプの軸糸13a、13bを、例えば、静的な編組フレームに装填された多数の軸糸パッケージ56を介して提供することができる。あるいは、軸糸パッケージ56を、編組機を外してクリール(図示なし)に装填することができ、軸糸13は管材またはアイレットを介して編組装置へとガイドされる。巻取りデバイス(図示なし)を、編組構成要素を引っ張って編組区域から離すのに使用することができる。これは、図6Aおよび6Bに示されており、それらの図を参照して更に詳細に考察する。
【0136】
編組セットアップに使用する糸の選択およびボビンの数によって、結果として得られる編組チューブの既定の直径が決まり、チューブの圧潰が防止されるであろう。所与の編組角度に対して、必要な糸の直径と利用されるボビンの数は互いに依存し、反比例する。編組に使用されるボビンの数が少ないほど、必要な糸のテックス値またはデニール数が多くなる。逆もまた真であり、チューブの同じ休止直径を確立するためには、細い糸ほど多くのボビンを必要とする。例えば、編組用に64個のボビンと軸糸用に32個のボビンを有する機械セットアップでは、好ましくは少なくとも12テックス、より好ましくは少なくとも18テックスの編組糸を使用することが必要であろう。糸は、例えば、レンズ状としても知られる非円形の断面を有してもよく、糸は、第1の直径の第1軸および第2の直径の第2軸を有する楕円形の断面を有してもよい。糸の代わりに、または糸に加えて、リボンまたはテープも使用することができる。
【0137】
糸の充填空間またはカバーファクタは糸の体積である。この充填空間はチューブ壁の密度を表す。充填空間が小さすぎる場合、チューブの密度が小さすぎ、成形マンドレルが必要である。充填空間が十分に大きければ、特別設計のチューブは、編組の間に既に(またその後、更なる処理を要することなく)その形状を維持することができるので、成形マンドレルが不要になる。このように、編組構成要素の作成速度を増加させることができる。
【0138】
第2のステップで、編組構成要素31aは、顧客の足の個別のモデルに基づいて形成することができる、足型59の上に配置される。第2のプロセスは、工場または店舗で実施されてもよい。第3のステップで、ラスティングした編組構成要素31bが圧密化される。
【0139】
編組構成要素を足型上に配置し、ラスティングした編組構成要素を圧密化することによって、快適な着用特性のための特に良好なフィット性を達成することが可能である。本明細書の別の箇所で言及した利点に加えて、本明細書に記載するように特別設計した編組構成要素は、ラスティング段階の間、足型は標準化した足型であることができ、あらゆる靴のスタイルまたはサイズ、例えば欧州式の40、40.5、41、41.5など、または米国式の8、8.5、9、9.5などを網羅する必要はないという利点を有する。その代わりに、編組構成要素の特別設計された性質によって、使用される更に標準化された足型は、例えば、ある範囲の靴のスタイルおよびサイズ、例えば欧州式の40〜42、または米国式の8〜10を網羅することが可能になる。
【0140】
圧密化のステップは、結合剤、ポリマーコーティング、および/または編組構成要素の少なくとも一部の加熱を使用することを含んでもよい。この方法によって、十分な弾性を維持すると共に、好ましいレベルの耐水性および通気性を提供しながら、編組構成要素をラスティングした形態で恒久的に固定することが可能になる。編組構成要素を加熱することによって、例えば、溶融糸が編組構成要素に統合された場合に、全体の軽量性と優れた通気性を維持しながら、構造を重要な位置で圧密化することが可能である。
【0141】
圧密化のステップは更に、積層技術を適用することを含んでもよい。積層技術は、防水性および均等な圧密化を提供するのに有用である。
【0142】
積層技術は、ポリウレタン、TPU、ポリアミド類、ポリオレフィン類、またはビニル系フィルムを使用することを含んでもよい。これらの材料は、良好な接着性または封止性を有し、工業規模で処理がしやすく、毒性が低い。ケブラーなどのポリアミド類は、それらの熱抵抗および構造的強度により、特に有用である。
【0143】
積層技術は真空成形を含んでもよい。真空成形によって、著しい防水性および均等な積層を達成することが可能である。
【0144】
圧密化された編組構成要素31cを、履物物品のアッパーとして使用することができ、それを次に、例えば接着剤、積層技術、溶接、および/または縫製(例えば、ストロベルのミシンを用いる)を使用して、アウトソールに取り付けて、機械的に高性能な軽量の靴を形成することができる。
【0145】
図6Aおよび6Bは、本発明による編組構成要素を作成するのに使用することができる編組機57の一例を示している。この場合、編組機は径方向の編組機であるが、軸線方向、メイポール、または3Dの編組機を同等に使用して、本発明による編組構成要素を作成することができる。編組糸パッケージ58は、ボビンに装填されて、編組構成要素31が形成される編組区域55に編組糸12を提供する。いくつかの異なるタイプの軸糸を、例えば、静的な編組フレーム(図示なし)に装填された多数の軸糸パッケージを介して提供することができる。あるいは、軸糸パッケージを、編組機を外してクリール(図示なし)に装填することができ、軸糸は管材またはアイレットを介して編組装置へとガイドされる。
【0146】
巻取りデバイス64は、巻取り速度で編組構成要素31を引っ張る。リング65は編組区域55の安定性を担保する。巻取りデバイス64は、ローラもしくはプーリーシステム、または多軸制御を備えたロボットデバイスであることができる。巻取り対編組速度の比の変化が可能である。これと糸の張力とを併せて、編組角度に影響を与え、結果としてチューブの領域の機械的性質に影響を与えることができる。巻取りデバイス64は、切断の間の構造を固定し、編組の解れを防ぐために、編組の特定の領域を溶融するいくつかの直接加熱された表面を含んでもよい。この構成では成形マンドレルは不要である。
【0147】
図7Aおよび7Bは、編組構成要素31aを足型59上に配置することができる一例の方法を示している。ここでは、明瞭にするために軸糸は省略されていることに留意のこと。しかしながら、この方法が、本発明による軸糸を備える編組構成要素と完全に適合性があることは、当業者には明白である。ラスティングした編組構成要素31bは、履物物品用のアッパーを形成するために、本明細書に記載するように更に圧密化することができる。
【0148】
図8は、履物物品用のアッパーを作成するため、ラスティングした編組構成要素31bの真空積層に使用することができる、オーブンを示している。気密積層材料84が編組構成要素31b上に配置される。次に、積層材料84と編組構成要素31bとの間の空間が排気される。積層材料は、編組構成要素に面する側に接着剤層を有してもよい。それに加えて、またはその代わりに、積層材料を溶融して恒久的な取付けおよび良好な封止を提供するために、オーブンを使用して熱を提供することができる。結果として得られるアッパーは特に防水性であり、特に魅力的な視覚的外観を有する均等な積層を備える。
【0149】
図9は、二軸編組を有する編組構成要素31の一例の一部の小規模図を示している。編組糸12は、軸糸13と共に編組されて、編組構成要素31を形成する。編組角度α91は、編組糸の方向と、編組構成要素31の軸線方向に実質的に沿った軸糸13との間の角度である。単純にするため、単一の軸糸のみを示している。第2のタイプの軸糸は、編組構成要素の異なる位置に配置される。編組糸は、レンズ状としても知られる非円形の断面を有してもよい。この例では、編組糸は実質的に楕円形の断面を有し、第1の軸線の長さはw93、第2の軸線の長さはd94である。
【0150】
編組構成要素31は、隣接する単位セルと実質的に類似した単位セルを有するが、全ての単位セルが軸糸を含むわけではない。斜格子パラメータL92は、対角方向に分離された交絡地点間の距離である。
【0151】
編組チューブの直径は、以下の形式で、斜格子パラメータL92と、糸パッケージとも呼ばれる糸キャリアの数nとに応じて決まることが知られている。
【0152】
【数1】
【0153】
例えば、Goff, J. R. (1976) "The geometry of tubular braided structures", MSc Thesis, Georgia Institute of Technologyを参照のこと。
【0154】
斜格子パラメータL92は、編組糸の第1の軸93の長さwおよび第2の軸94の長さd、編組角度α91、軸糸の厚さ、編組パターン、ならびに他のパラメータを含む、いくつかのパラメータの関数である。
【0155】
【数2】
【0156】
この関数は、糸の圧縮可能性および糸同士の摩擦を含む様々な複雑な因子により、分析的に示されていない。
【0157】
本明細書の考察から、編組チューブの直径は、糸キャリアの数nに伴って実質的に線形的に増加することが明白である。
【0158】
図10は、図9に示される編組パターンに実質的に類似している二軸編組の編組チューブにおける、PETのテクスチャードマルチフィラメント糸から作られた編組チューブの測定直径D102を示している。編組チューブは、66.8テックスのテックス値を有する編組糸を使用する、n=144個の糸キャリアを用いて編組した。チューブは統合された軸糸を有していなかったが、当業者であれば、本明細書に例示される方法は軸糸を備える編組チューブと実質的に類似することが認識されるであろう。チューブは、4つの異なる編組角度α91を有するこれらの設定を使用して編組され、次に編組チューブの直径102が測定された。
【0159】
図10に示されるような測定によって、編組チューブの性質を特定の目的向けに特別設計することが可能になる。
【0160】
ラスティング後の編組角度αnewは、次式によって推定することができる。
【0161】
【数3】
式中、Dnewは、ラスティング後の編組チューブの新しい直径である。したがって、足型の幾何学形状に基づいて、ラスティング後のチューブの直径が分かっている場合、特定の編組チューブの直径Dおよび編組角度α91を選択して、意図される編組角度αnewを有する靴アッパーを設計することができる。
【0162】
図11Aは、Goff, J. R. (1976) "The geometry of tubular braided structures", MSc Thesis, Georgia Institute of Technologyに記載されているような、異なる編組角度を有する管状編組の非線形ひずみ応答を概略的に示している。
【0163】
図11Aは、図9に示されるパターンに実質的に類似した局所的な編組パターンを有する、編組チューブの軸線方向応力111を示している。例示目的のため、軸糸の影響はここでは省略されている。35度の第1の編組角度91aを有する第1の編組チューブ、および45度の編組角度91bを有する第2の編組チューブの応力ひずみ曲線が示されている。低い値の軸線方向ひずみ112では、対応する応力111はほぼ線形である。しかしながら、より高いひずみ値では、対応する応力ははるかに急速に増加する。この始まりは、小さい編組角度91aの方が大きい編組角度91bよりも早く起こる。
【0164】
図11Bは、軸線方向ひずみ112の正の領域(伸長)および負の領域(圧縮)の両方を網羅する、軸線方向ひずみ(任意単位)に対する軸線方向応力111(任意単位)の類似の概略図を示している。
【0165】
ゼロひずみで始まり、ひずみが増加すると、応力が、編組自体が構造的に伸長することができる線形レジーム123内でほぼ線形的に増加する。実質的に引っ張り詰まり地点(tensile jamming point)124付近で、ひずみと共に応力ははるかに急速に増加する。つまり、チューブを伸長するには、低いひずみ値の場合よりもはるかに大きい力(応力)を要する。撚糸ひずみレジーム125では、編組構造の拡張が厳しく制限されるので、チューブのいずれの拡張も主に撚糸自体の伸長によるものである。
【0166】
ゼロひずみで始まり、ひずみを減少させ、即ち軸線方向に沿ってチューブを圧縮して、応力がほぼ線形的に減少し、つまり線形レジーム123内でほぼ線形的に大きさが増加する。実質的に圧縮詰まり地点122付近に始まりがあり、その下方で、座屈レジーム121におけるひずみの減少に伴って応力がはるかに急速に減少する。座屈レジーム121では、編組構成要素31は座屈する程度に圧縮され、結果として、チューブが更に圧縮されると応力の大きさが大きく増加する。
【0167】
軸糸は、その機能的依存性が軸糸の弾性を実質的に反映する、応力−ひずみ曲線に対する追加の成分に寄与する。
【0168】
図11Aおよび11Bに示される挙動を使用して、特定のひずみ範囲内の十分な可撓性を提供するチューブを特別設計することができるが、線形レジーム123も、ひずみがこのレジーム外にあるとき、運動選手に対して十分な支持を提供する。
【符号の説明】
【0169】
11 アッパー
12 編組糸
13 軸糸
14 踵領域
15 中足領域
16 爪先領域
31 編組構成要素
35 第1の領域
36 第2の領域
37 円筒状形態
45 第1の側
46 第2の側
55 編組区域
56 軸糸パッケージ
57 編組機
58 編組糸パッケージ
59 足型
64 巻取りデバイス
65 リング
80 オーブン
84 積層材料
91 編組角度
92 斜格子パラメータ
93 第1の糸軸の長さ
94 第2の糸軸の長さ
101 目のガイド
102 編組直径
111 軸線方向応力
112 軸線方向ひずみ
121 座屈レジーム
122 圧縮詰まり地点
123 線形レジーム
124 引っ張り詰まり地点
125 撚糸ひずみレジーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11