【実施例】
【0046】
製造例1:モノメトキシポリエチレングリコール及びD,L−ラクチドからなるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の合成及び昇華法による精製
撹拌機を備えた500mLの丸底フラスコにモノメトキシポリエチレングリコール(mPEG、数平均分子量=2,000)150gを入れ、真空条件下120℃にて2時間撹拌して、水分を除去した。反応フラスコにトルエン200μLに溶解させたオクタン酸第1スズ(Sn(Oct)
2)0.15gを加え、真空条件下1時間さらに撹拌して、トルエンを蒸留除去した。次いで、D,L−ラクチド150gを加え、窒素雰囲気下撹拌して溶解させた。D,L−ラクチドを完全に溶解させた後、反応器を密封し、120℃で10時間重合反応させた。反応終了後、マグネチックバーで撹拌下、反応器を真空ポンプに接続し、生成物を1torr以下の圧力下昇華法により7時間精製して、溶融状態のmPEG−PDLLA 262gを得た。モノメトキシポリエチレングリコールの末端基である−OCH
3を基準にして適切なピークの相対強度(intensity)を得る
1H−NMRで分析することにより、分子量(Mn:約3740)を計算した。
【0047】
製造例2:昇華法によるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の精製
精製工程を行う前の製造例1の重合反応工程で得られたmPEG−PDLLA 30gを1口フラスコに入れ、80℃で溶解させた。マグネチックバーで撹拌下、反応器を真空ポンプに接続し、生成物を1torr以下の圧力下昇華法により24時間及び48時間精製した。
【0048】
製造例3:昇華法によるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の精製
精製温度を100℃にしたことを除いて、製造例2と同じ方法により精製を行った。
【0049】
製造例4:昇華法によるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の精製
精製温度を120℃にしたことを除いて、製造例2と同じ方法により精製を行った。
【0050】
製造例5:酸化アルミニウム(Al
2O
3)を用いる吸着法によるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の精製
精製工程を行う前の製造例1の重合反応工程で得られたmPEG−PDLLA 30gを1口フラスコに入れ、アセトン(60mL)を加えることにより溶解させた。酸化アルミニウム(15g)をそこに加え、完全に混合した。1口フラスコをロータリーエバポレーターに接続し、50℃、60rpmで2時間混合した。その後溶液を室温にてPTFEろ過紙(1μm)でろ過して、酸化アルミニウムを除去した。ろ過したアセトン溶液は、真空下60℃にてロータリーエバポレーターを用いて蒸留して、アセトンを除去し、これにより、精製されたmPEG−PDLLAを得た。モノメトキシポリエチレングリコールの末端基である−OCH
3を基準にして適切なピークの相対強度(intensity)を得る
1H−NMRで分析することにより、分子量(Mn:約3690)を計算した。
【0051】
上記製造例2〜5における精製条件に伴うmPEG−PDLLAの分子量変化を下記表1に示す。
【表1】
【0052】
表1の結果から、精製温度が高くなるほどmPEG−PDLLAの分子量の減少量が増加することが分かる。80〜100℃24〜48時間、特に100℃24時間の精製条件が効率的と考えられる。
【0053】
比較例1:パクリタキセル含有高分子ミセル組成物の製造
パクリタキセル1gと製造例1で得られたmPEG−PDLLA 5gを秤量し、エタノール4mLをそこに加え、混合物が完全に溶解して澄明な溶液を形成するまで60℃で撹拌した。次いで、エタノールを、丸底フラスコを備えたロータリーエバポレーターを用いて減圧下60℃で3時間除去した。その後、温度を50℃に下げ、室温の蒸留水140mLを加え、溶液が青色の透明な溶液になるまで反応させて、高分子ミセルを形成させた。凍結乾燥補助剤として、無水ラクトース2.5gをそこに加え、完全に溶解させ、孔径200nmのフィルターを用いてろ過し、凍結乾燥して、粉末状のパクリタキセル含有高分子ミセル組成物を得た。
【0054】
実施例1:パクリタキセル含有高分子ミセル組成物の製造
製造例3において24時間精製されたmPEG−PDLLAを用いたことを除いて、比較例1と同じ方法によりパクリタキセル含有高分子ミセル組成物を製造した。
【0055】
実施例2:パクリタキセル含有高分子ミセル組成物の製造
製造例5において精製されたmPEG−PDLLAを用いたことを除いて、比較例1と同じ方法によりパクリタキセル含有高分子ミセル組成物を製造した。
【0056】
実験例1−1:液体クロマトグラフィーによる類縁物質の単離
6カ月の加速試験(温度:40℃)に付したパクリタキセル含有高分子ミセル組成物100mgを含むバイアルに、脱イオン水(DW)16.7mLを加え、完全に溶解させ、この液体全量を取り、20mLメスフラスコに移し、標線を合わせて、全量を20mLにした(5.0mg/mL)。この液体2mLを取り、10mLメスフラスコに移し、アセトニトリルで標線を合わせて、全量を10mLにした(1mg/mL)。上記組成物に対して、下記の液体クロマトグラフィーを用いて類縁物質を単離及び分取した。
【0057】
液体クロマトグラフィーの条件
1) カラム:Poroshell 120 PFP(4.6×150 mm, 2.7 μm, Agilent)
2) 移動相:A:DW/ B:アセトニトリル
【表2】
3) 流速:0.6 ml/min
4) 注入量:10μL
5) 検出器:UV吸光光度計(測定波長:227 nm)
【0058】
HPLC分析の結果クロマトグラムを
図1に示す。
【0059】
実験例1−2:LC/MS/MSを用いる類縁物質の定性分析
実験例1−1において単離された類縁物質(RRT:1.10±0.02(1.08〜1.12)及び1.12±0.02(1.10〜1.14))を液体クロマトグラフィー−質量分析計(LC/MS/MS)のMSスキャンにより定性分析した。LC/MS/MSとして、液体クロマトグラフィー1200シリーズ及びエレクトロスプレーイオン化質量分析計6400シリーズ(Agilent, 米国)を用いた。分析条件は、以下の通りである。
【0060】
液体クロマトグラフィー条件
1) カラム:Cadenza HS-C18(3.0×150 mm, 3μm, Imtakt)
2) 移動相:A:0.03%酢酸を含む0.5 mM酢酸アンモニウム/ B:アセトニトリル
【表3】
3) 流速:0.4 ml/min
4) 注入量:2μL
5) 検出器:UV吸光光度計(測定波長:227 nm)
【0061】
エレクトロスプレーイオン化質量分析計条件
1) イオン化:エレクトロスプレーイオン化、ポジティブ(ESI+)
2) MS法:MS2スキャン/ プロダクトイオンスキャン
3) イオン源:Agilent Jet Stream ESI
4) ネブライザーガス(圧力):窒素(35 psi)
5) イオンスプレー電圧:3500 V
6) 乾燥ガス温度(流速):350℃(7 L/min)
7) シースガス温度(流速):400℃(10 L/min)
8) フラグメンター:135 V
9) ノズル電圧:500 V
10) セル加速電圧:7 V
11) EMV:0 V
12) 衝突エネルギー:22 V
13) 前駆イオン:m/z 1020.2
14) 質量スキャン範囲:m/z 100〜1500
【0062】
単離されて検出段階から現れた分析物質は、質量分析計に流入するように設定されており、このとき、類縁物質の検出イオンは、質量スペクトルの特徴的イオン[M+Na]を選択して定性分析した。
【0063】
LC/MS/MS分析の結果スペクトルを
図2に示す。
【0064】
実験例2:パクリタキセルとラクチドの反応の誘導及び反応生成物のHPLC分析
実験例1−1においてパクリタキセル含有高分子ミセル組成物から分取した類縁物質中に、多くの高分子が一緒に存在しているので、直接的な実験が極めて困難であった。実験例1−2による定性分析の結果、RRT1.10及び1.12の位置の類縁物質は、パクリタキセルとラクチドの結合から生成した化合物と推定された。従って、パクリタキセルにラクチドを直接加えることにより反応を誘導して反応生成物を分析する実験を、推定した類縁物質が生成されるかを確認するために行った。
【0065】
まず、パクリタキセル5mgとL−ラクチド/D−ラクチド3mgを、それぞれアセトニトリル(ACN):DW=70:30(v/v)溶液1mLに溶解させ、その後溶液を混合した。この溶液をLCバイアルに移した後、HPLCにより分析した。HPLC分析の結果スペクトルを
図3に示す。
【0066】
分析の結果、L−ラクチド/D−ラクチドとパクリタキセルの反応生成物から新たに出現したピークは、高分子ミセル医薬組成物の6カ月の加速試験後HPLC分析においてRRT1.10及び1.12に示される不純物のピークと全く同一であった。また、これと共に、パクリタキセルとL−ラクチドの結合体の化合物がHPLC上で最初に溶出され、その後パクリタキセルとD−ラクチドの結合体が溶出されることが確認された。さらに、同量を用いる実験の場合、パクリタキセルとD−ラクチドの結合体がパクリタキセルとL−ラクチドの結合体より多く形成されることが確認された。これから、6カ月の加速試験に付したパクリタキセル含有高分子ミセル組成物からのRRT1.10及び1.12の位置に出現する不純物は、それぞれパクリタキセルをL−ラクチド又はD−ラクチドと反応させた結果形成される物質であることが分かった。
【0067】
実験例3:LC/MS/MSを用いるパクリタキセルとラクチドの反応生成物の分析
LC/MS/MSを用いて、最初に、パクリタキセルのみを含有する試料をMSスキャンし、その結果、[M+H]
+であるm/z854.2amu、[M+Na]
+であるm/z876.2amuが現れた。その後、L−ラクチドとD−ラクチドをパクリタキセルに加えたとき、パクリタキセルのみを含有する試料において示されなかったm/z1020.0amuが現れ、経時的にその強度が連続して増加することが確認された。LC/MS/MS分析の結果スペクトルを
図4に示す。
【0068】
これから、実験例1−1により得られた類縁物質の構造が、パクリタキセルとラクチド異性体の結合により生成される[M+Na]
+である1020.0amu化合物であることが再度確認された。
【0069】
実験例2及び3の結果並びに有機化学の反応についての従来知識から、高分子ミセル組成物のRRT1.10及び1.12の類縁物質は、パクリタキセルと(L/D−)ラクチドの結合により生成された下記化合物であることが分かった。
【化8】
パクリタキセルとラクチドの結合形態:C
53H
59NO
18(998.03g/mol)
【0070】
実験例4:苛酷条件(80℃)における薬物含有高分子ミセルの保存安定性の比較試験
比較例1並びに実施例1及び2において製造されるパクリタキセルの高分子ミセル組成物を、80℃のオーブン中に3週間保存し、その後、組成物をHPLCで分析して、類縁物質の量を比較した。試験溶液を、ミセル組成物を80%アセトニトリル水溶液に溶解させ、パクリタキセル濃度600ppmに希釈することにより、調製した。HPLC分析の結果スペクトルを
図5に示しており、苛酷試験時間による類縁物質の量(%)の変化を下記表2に示す。
【0071】
HPLC条件
カラム:径2.7 μm, poroshell 120PFP(4.6×150 mm, 2.7 μm)(Agilent製カラム)
移動相
【表4】
検出器:UV吸光光度計(227 nm)
流速:0.6 mL/min
各類縁物質の量(%)=100(Ri/Ru)
Ri:試験溶液分析で検出された各類縁物質の面積
Ru:試験溶液分析で検出された全てのピーク面積の合計
【0072】
【表5】
*RRT 0.87±0.02:パクリタキセル、オキセタン環開環化合物
RRT 0.96±0.02:パクリタキセル、オキセタン環開環化合物
RRT 1.00: パクリタキセル
RRT 1.10±0.02:パクリタキセル、L-ラクチド反応化合物
RRT 1.12±0.02:パクリタキセル、D-ラクチド反応化合物
RRT 1.44±0.05:パクリタキセル、水除去化合物
【0073】
表2及び
図5から、実施例1又は2の高分子ミセル医薬組成物の安定性が、比較例1の組成物に比べて向上し、パクリタキセル量の減少が相対的に小さく、これにより組成物中に含まれる薬物の効果をより安定的に保持し得ることが分かった。
【0074】
実験例5:加速条件(40℃)における薬物含有高分子ミセルの保存安定性の比較試験
比較例1及び実施例1において製造されるパクリタキセルの高分子ミセル組成物をそれぞれ40℃の安定性試験機中に6カ月間保存することを除いて、実験例4と同様の方法により試験を行った。加速試験時間による類縁物質の量(%)の変化を下記表3に示す。
【表6】
【0075】
上記試験結果は、異なるバッチの3個以上の高分子ミセル組成物について行った試験における各類縁物質及びパクリタキセル量の平均値を示す。
【0076】
実験例5より、実施例1の組成物は、加速保存温度(40℃)で6カ月間保存したとき、比較例1の組成物より類縁物質の量が低いことが立証された。