特許第6605706号(P6605706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6605706保存安定性が向上した医薬組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605706
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】保存安定性が向上した医薬組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/337 20060101AFI20191031BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20191031BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20191031BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   A61K31/337
   A61K47/10
   A61K47/34
   A61K9/10
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-504184(P2018-504184)
(86)(22)【出願日】2016年7月28日
(65)【公表番号】特表2018-521094(P2018-521094A)
(43)【公表日】2018年8月2日
(86)【国際出願番号】KR2016008265
(87)【国際公開番号】WO2017018816
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2018年3月22日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0106626
(32)【優先日】2015年7月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】511285358
【氏名又は名称】サムヤン バイオファーマシューティカルズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】SAMYANG BIOPHARMACEUTICALS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】キム・ボンオ
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ポムチャン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ジヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ヘリム
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ミンヒョ
(72)【発明者】
【氏名】イ・サウォン
(72)【発明者】
【氏名】イ・イルウン
(72)【発明者】
【氏名】チョ・ジュンウン
(72)【発明者】
【氏名】チェ・インジャ
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−509322(JP,A)
【文献】 特表2016−523302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/337
A61K 9/10
A61K 47/10
A61K 47/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40〜95重量%の量の親水性ブロック(A)と5〜60重量%の量の疎水性ブロック(B)とを含む精製された両親媒性ブロック共重合体;及び
パクリタキセル及びドセタキセルからなる群より選ばれる1種以上の難水溶性薬物
を含む、高分子ミセル医薬組成物であって、
該医薬組成物が、40℃で6カ月間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、下記一般式(1)
【化1】
(1)
(式中、Rは、H又はCOCHであり、Rは、フェニル又はO(CHである。)
で示される類縁物質を0.58重量部未満の量で含
親水性ブロック(A)が、ポリエチレングリコール、モノメトキシポリエチレングリコール又はこれらの組み合わせであり、
疎水性ブロック(B)が、ポリラクチド、ポリグリコリド又はこれらの組み合わせであり、
高分子ミセル医薬組成物が、エーテル溶媒を有しない、医薬組成物。
【請求項2】
一般式(1)の化合物が、下記一般式(1a)
【化2】
(1a)
(式中、R及びRは、請求項1に記載の定義と同義である。)
の化合物、下記一般式(1b)
【化3】
(1b)
(式中、R及びRは、請求項1に記載の定義と同義である。)
の化合物、又はこれらの両方を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1a)の化合物を0.22重量部未満の量で含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1b)の化合物を0.36重量部未満の量で含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
一般式(1)の化合物が、下記一般式(1c)
【化4】
(1c)
の化合物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
一般式(1c)の化合物が、下記一般式(1d)
【化5】
(1d)
の化合物、下記一般式(1e)
【化6】
(1e)
の化合物、又はこれらの両方を含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1)の類縁物質を0.5重量部以下の量で含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1)の類縁物質を0.2重量部以下の量で含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1)の類縁物質を0.1重量部以下の量で含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
80℃で3週間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1)の類縁物質を0.45重量部未満の量で含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
親水性ブロック(A)が、ポリエチレングリコール又はモノメトキシポリエチレングリコールであり、疎水性ブロック(B)が、ポリラクチドである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
親水性ブロック(A)の数平均分子量が、200〜20,000ダルトンであり、疎水性ブロック(B)の数平均分子量が、200〜20,000ダルトンである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
両親媒性ブロック共重合体、80℃以上120℃未満の温度、真空度10torr以下の圧力下、10〜74時間の昇華によって精製する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性が向上した医薬組成物及びその製造方法に関するものであり、より詳しくは、両親媒性ブロック共重合体を含む難水溶性薬物の医薬組成物であって、特定の類縁物質の含有量が規定限度内で保たれる医薬組成物、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
難水溶性薬物の可溶化は、薬物を経口又は非経腸投与により体内に送達するための重要な技術である。このような可溶化法は、水溶液に界面活性剤を加えてミセルを形成させ、その後難溶性薬物をそれに封入させる方法を含む。界面活性剤として用いられる両親媒性ブロック共重合体は、親水性高分子ブロック及び疎水性高分子ブロックを含む。親水性高分子ブロックは、インビボで血中タンパク質及び細胞膜と直接接触するため、生体適合性を有するポリエチレングリコール又はモノメトキシポリエチレングリコールなどが使用されてきた。疎水性高分子ブロックは、疎水性薬物との親和性を向上させ、生分解性を有するポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチック−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリアミノ酸又はポリオルトエステルなどが使用されてきた。特に、ポリラクチド誘導体は、優れた生体適合性を有し、インビボで無害な乳酸に加水分解されるため、様々な形態で薬物キャリアーに応用されている。ポリラクチド誘導体は、その分子量によって様々な物理的特性を有し、マイクロスフェア(microsphere)、ナノ粒子(nanoparticle)、高分子ゲル(polymeric gel)及びインプラント剤(implant agent)等の形態に開発されている。
【0003】
特許文献1は、高分子ミセル型薬物キャリアー及び難水溶性薬物からなる、難水溶性薬物を送達するための組成物であって、該高分子ミセル型薬物キャリアーは、架橋剤により架橋されていないジブロック又はトリブロック共重合体から形成され、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド−ポリグリコリド)、ポリカプロラクトン及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1つの生分解性疎水性ポリマー及び親水性ポリマーとしてのポリ(アルキレンオキシド)からなり、前記難水溶性薬物は、薬物キャリアーに封入されて、可溶化され、前記高分子ミセル型薬物キャリアーは、澄明な水溶液を形成し、体内へ難水溶性薬物を効果的に送達する、組成物を開示している。上記特許文献1によれば、モノメトキシポリエチレングリコールから水分を除去し、トルエンに溶解させたオクタン酸第1スズ(stannous octoate)をそれに加え、減圧下トルエンを除去し、得られた混合物にD,L−ラクチドを加え、重合反応させ、クロロホルムを加えて、生成したブロック共重合体を溶解させ、撹拌しながら過量のジエチルエーテルを少量ずつ滴下して、沈殿物を形成させ、形成した沈殿物をろ過し、それをジエチルエーテルで数回洗浄することにより、ポリエチレングリコール−ポリラクチドジブロック共重合体を合成する。しかしながら、この方法は大量生産に用いることが困難であり、それ故に、商業的に利用可能でない。また、精製に用いられるエーテルは、最終高分子ミセル組成物に残り得る。
【0004】
特許文献2は、(a)両親媒性ブロック共重合体を水混和性有機溶媒に溶解させる工程;(b)工程(a)で得られた高分子溶液に、アルカリ金属塩(重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸カリウム又は炭酸リチウム)の水溶液を添加して、混合する工程;(c)工程(b)で得られた溶液を塩析することによって有機層と水層を分離する工程;及び(d)工程(c)で得られた有機層を単離し、有機溶媒をそれから除去して、高分子を回収する工程を含む、両親媒性ブロック共重合体の製造方法を開示している。しかしながら、この方法は、複雑な工程を含み、アルカリ金属塩及び塩析用いられる塩(炭酸ナトリウム又は塩化カリウム)を除去するために更なる工程が必要とされ、そして除去後であっても残留金属塩を有し得る。
【0005】
医薬品の不純物は、様々な側面で厳格に管理されなければならない。特に、活性医薬成分(API)(active pharmaceutical ingredient)から由来した不純物の場合、各国は、医薬品承認指針において医薬品中のAPI由来の既知又は未知の不純物(類縁物質;related compound)の量の上限を定めている。また、国際的に用いられる基準がいくつかあり、ICHガイドラインQ3Aが代表的なものである。このガイドラインでは、医薬品承認時に医薬品中の各類縁物質の量を0.1%又は0.2%等までに制限しており、毒性関連データ等の提供しなければならない情報は、制限を超える類縁物質に対し区別して適用される。これは、医薬品の類縁物質がインビボでどのように作用するかが不明であるため、医薬品製造過程で類縁物質の量を低減させなければならないということを示唆する。従って、類縁物質を低減させるための製造方法、及び各類縁物質の特性(構造及び毒性)によって量に上限を設定することは、医薬品の品質管理に必須の要素である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,322,805号
【特許文献2】米国特許第8,853,351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一の目的は、両親媒性ブロック共重合体を含む難水溶性薬物の高分子ミセル型医薬組成物であって、特定の類縁物質を規定限度内の量で含む医薬組成物を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、前記医薬組成物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)とを含む精製された両親媒性ブロック共重合体;及びパクリタキセル及びドセタキセルからなる群より選ばれる1種以上の難水溶性薬物を含む高分子ミセル医薬組成物であって、該医薬組成物が、40℃で6カ月間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、下記一般式(1)
【化1】
(1)
(式中、Rは、H又はCOCHであり、Rは、フェニル又はO(CHである。)
で示される類縁物質を0.58重量部未満の量で含む、医薬組成物を提供する。
【0010】
本発明の別の一態様は、(a)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)とを含む両親媒性ブロック共重合体を精製する工程;(b)パクリタキセル及びドセタキセルからなる群より選ばれる1種以上の難水溶性薬物と前記精製された両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる工程;及び(c)工程(b)で得られた溶液に水性溶媒を加えて、高分子ミセルを形成させる工程を含む、高分子ミセル医薬組成物の製造方法であって、該医薬組成物が、40℃で6カ月間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、前記一般式(1)で示される類縁物質を0.58重量部未満の量で含む、製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、類縁物質を低減させ、保存安定性を向上させた難水溶性薬物の医薬組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、6カ月の加速試験に付した、実験例1−1において用いられたパクリタキセル含有高分子ミセル組成物についてのHPLC分析の結果クロマトグラムである。
図2図2は、実験例1−1で単離した類縁物質に対して、実験例1−2で行ったLC/MS/MS分析の結果クロマトグラム及びスペクトルである: (a)RRT1.10±0.02(1.08〜1.12)(以下、RRT1.10は、RRT1.10±0.02と相互交換可能に用いられる) (b)RRT1.12±0.02(1.10〜1.14)(以下、RRT1.12は、RRT1.12±0.02と相互交換可能に用いられる)
図3図3は、実験例2で得られた、誘導された反応生成物に対するHPLC分析の結果クロマトグラムである: (a)パクリタキセル含有高分子ミセル医薬組成物 (b)パクリタキセル (c)パクリタキセルとL−ラクチドの反応生成物 (d)パクリタキセルとD−ラクチドの反応生成物
図4図4は、実験例3で得られた、誘導された反応生成物に対するLC/MS/MS分析の結果スペクトルである: (a)パクリタキセル (b)パクリタキセルとL−ラクチドの反応生成物 (c)パクリタキセルとD−ラクチドの反応生成物
図5図5は、実験例4において行ったHPLC分析の結果クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0014】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)とを含む精製された両親媒性ブロック共重合体を含む。
【0015】
本発明の一実施態様によれば、両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)および疎水性ブロック(B)からなるA−B型ジブロック共重合体、又はB−A−B型トリブロック共重合体を含む。
【0016】
本発明の一実施態様によれば、両親媒性ブロック共重合体は、共重合体の総重量に対して、20〜95重量%、より具体的には40〜95重量%の量の親水性ブロックを含んでもよい。また、両親媒性ブロック共重合体は、共重合体の総重量に対して、5〜80重量%、より具体的には5〜60重量%の量の疎水性ブロックを含んでもよい。
【0017】
本発明の一実施態様によれば、両親媒性ブロック共重合体は、1,000〜50,000ダルトン、より具体的には1,500〜20,000ダルトンの数平均分子量を有してもよい。
【0018】
本発明の一実施態様によれば、親水性ブロックは、生体適合性を有する高分子であり、ポリエチレングリコール又はその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる1種以上を含んでもよく、より具体的には、ポリエチレングリコール、モノメトキシポリエチレングリコール及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる1種以上を含んでもよい。親水性ブロックは、200〜20,000ダルトン、より具体的には200〜10,000ダルトンの数平均分子量を有してもよい。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、疎水性ブロックは、生分解性を有する高分子であり、アルファ(α)−ヒドロキシ酸由来単量体の高分子であってもよく、具体的には、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリカーボネート及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる1種以上を含んでもよく、より具体的には、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる1種以上を含んでもよい。疎水性ブロックは、200〜20,000ダルトン、より具体的には200〜10,000ダルトンの数平均分子量を有してもよい。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、ポリ(アルファ(α)−ヒドロキシ酸)の疎水性高分子ブロックを含む両親媒性ブロック共重合体を、公知の開環重合法により、開始剤としてヒドロキシル基を有する親水性高分子、及びアルファ(α)−ヒドロキシ酸のラクトン単量体を用いて合成してもよい。例えば、L−ラクチド又はD,L−ラクチドを、開始剤としてヒドロキシル基を有する親水性ポリエチレングリコール又はモノメトキシポリエチレングリコールを用いて開環重合してもよい。開始剤である親水性ブロックに存在するヒドロキシル基の数に応じて、ジブロック又はトリブロック共重合体の合成が可能である。開環重合において、酸化第1スズ(tin oxide)、酸化鉛(lead oxide)、オクタン酸第1スズ(tin octoate)、オクタン酸アンチモン(antimony octoate)等の有機金属触媒を用いてもよく、生体適合性を有するオクタン酸第1スズが、好ましくは医療用途の高分子の製造において用いられる。
【0021】
本発明の一実施態様において、両親媒性ブロック共重合体として、精製されたものを用いる。本発明の好ましい実施態様によれば、両親媒性ブロック共重合体は、昇華によって精製されたものである。
【0022】
昇華による精製は、好ましくは80℃以上120℃未満、より好ましくは80〜100℃の温度にて、及び好ましく10torr以下、より好ましくは5torr以下、さらに好ましくは1torr以下の真空度の圧力下で、好ましくは10〜74時間、より好ましくは10〜48時間、さらに好ましくは24〜48時間行われてもよい。このような条件下で昇華による精製を行うことで、共重合体の分子量変化を最小化し、それらから不純物を除去することができる。
【0023】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、活性成分として、パクリタキセル(paclitaxel)及びドセタキセル(docetaxel)からなる群より選ばれる1種以上の難水溶性薬物を含む。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、医薬組成物は、更なる活性成分として、パクリタキセル及びドセタキセル以外の1種以上の難水溶性薬物をさらに含んでもよい。このような更なる活性成分として、7−エピパクリタキセル(7-epipaclitaxel)、t−アセチルパクリタキセル(t-acetylpaclitaxel)、10−デスアセチルパクリタキセル(10-desacetylpaclitaxel)、10−デスアセチル−7−エピパクリタキセル(10-desacetyl-7-epipaclitaxel)、7−キシロシルパクリタキセル(7-xylosylpaclitaxel)、10−デスアセチル−7−グルタリルパクリタキセル(10-desacetyl-7-glutarylpaclitaxel)、7−N,N−ジメチルグリシルパクリタキセル(7-N,N-dimethylglycylpaclitaxel)、7−L−アラニルパクリタキセル(7-L-alanylpaclitaxel)及びカバジタキセル(cabazitaxel)からなる群より選ばれる1種以上のタキサン抗癌剤を用いることができる。
【0025】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、両親媒性ブロック共重合体100重量部に対して、0.1〜50重量部、より具体的には0.5〜30重量部の量の難水溶性薬物を含んでもよい。難水溶性薬物の量が両親媒性ブロック共重合体と比較して少な過ぎると、薬物当たりに用いられる両親媒性共重合体の重量比率が高いため、再構成(Reconstitution)の時間が増大し得る。一方、難水溶性薬物の量が多すぎると、難溶性薬物が急速に析出する問題があり得る。
【0026】
本明細書において用いられる難水溶性薬物の「初期」量は、医薬組成物が製造されるときに組み入れられる難水溶性薬物の重量を意味する。
【0027】
本発明の一実施態様において、医薬組成物は、加速条件(40℃)で6カ月間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、下記一般式(1)
【化2】
(1)
(式中、Rは、H又はCOCHであり、Rは、フェニル又はO(CHである。)
で示される類縁物質を0.58重量部未満の量で含む。
【0028】
一般式(1)の化合物は、下記一般式(1a)
【化3】
(1a)
(式中、R及びRは、一般式(1)に記載の定義と同義である。)
の化合物、下記一般式(1b)
【化4】
(1b)
(式中、R及びRは、一般式(1)に記載の定義と同義である。)
の化合物、又はこれらの両方を含んでもよい。
【0029】
本発明の一実施態様によれば、難水溶性薬物は、パクリタキセルであり、類縁物質は下記一般式(1c)
【化5】
(1c)
で示される化合物を含んでもよい。
【0030】
一般式(1c)の化合物は、下記一般式(1d)
【化6】
(1d)
の化合物、下記一般式(1e)
【化7】
(1e)
の化合物、又はこれらの両方を含んでもよい。
【0031】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、加速条件(40℃)で6カ月間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1)(特に、一般式(1c))の類縁物質を0.58重量部未満、例えば、0.5重量部以下、好ましくは0.35重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下、さらに好ましくは0.1重量部以下、最も好ましくは0.07重量部以下の量で含んでもよい。
【0032】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、加速条件(40℃)で6カ月間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1a)(特に、一般式(1d))の類縁物質を0.22重量部未満、例えば、0.2重量部以下、好ましくは0.15重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下、さらに好ましくは0.06重量部以下、最も好ましくは0.05重量部以下の量で含んでもよい。
【0033】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、加速条件(40℃)で6カ月間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1b)(特に、一般式(1e))の類縁物質を0.36重量部未満、例えば、0.3重量部以下、好ましくは0.2重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下、さらに好ましくは0.04重量部以下、最も好ましくは0.02重量部以下の量で含んでもよい。
【0034】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、苛酷条件(80℃)で3週間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1)(特に、一般式(1c))の類縁物質を0.45重量部未満、好ましくは0.4重量部以下、より好ましくは0.2重量部以下、最も好ましくは0.16重量部以下の量で含んでもよい。
【0035】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、苛酷条件(80℃)で3週間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1a)(特に、一般式(1d))の類縁物質を0.18重量部未満、好ましくは0.15重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下、最も好ましくは0.08重量部以下の量で含んでもよい。
【0036】
本発明の一実施態様の医薬組成物は、苛酷条件(80℃)で3週間保存したとき、難水溶性薬物の初期量100重量部に対して、一般式(1b)(特に、一般式(1e))の類縁物質を0.27重量部未満、好ましくは0.2重量部以下、より好ましくは0.1重量部以下、最も好ましくは0.08重量部以下の量で含んでもよい。
【0037】
本発明の一実施態様において、特定の類縁物質を規定限度内の量で含む医薬組成物は、大規模で生産され得るため商業的に利用可能である。
【0038】
一実施態様において、本発明の医薬組成物は、エーテル、例えば、ジエチルエーテルを全く有しない。
【0039】
一実施態様において、本発明の医薬組成物は、金属塩、例えばアルカリ金属塩及び/又は塩析のための塩、例えばNaCl又はKClを全く有しない。
【0040】
本発明の一実施態様の医薬組成物を、(a)親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)とを含む両親媒性ブロック共重合体を精製する工程;(b)パクリタキセル及びドセタキセルからなる群より選ばれる1種以上の難水溶性薬物と前記精製された両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる工程;及び(c)工程(b)で得られた溶液に水性溶媒を加えて、高分子ミセルを形成させる工程を含む方法によって製造することができる。
【0041】
両親媒性ブロック共重合体の精製は、上記で説明されており、高分子ミセルの形成には従来法を使用することができる。
【0042】
本発明の一実施態様の医薬組成物の製造方法において、有機溶媒として、例えばアルコール(例えば、エタノール)、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸、アセトニトリル及びジオキサン及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれる水混和性有機溶媒を使用し得るが、これらに限定されない。また、水性溶媒として、通常の水、蒸溜水、注射用蒸溜水、生理食塩水、5%ブドウ糖、緩衝液及びこれらの組み合わせからなる群より選ばれるものを使用し得るが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の一実施態様の医薬組成物の製造方法は、前記工程(a)の後に、有機溶媒を除去する工程をさらに含んでもよい。
【0044】
一実施態様において、前記方法は、凍結乾燥補助剤を加えてミセル組成物を凍結乾燥する工程をさらに含んでもよい。凍結乾燥補助剤は、凍結乾燥組成物がケーキ形状を保持するために加えられてもよい。また、別の一実施態様において、凍結乾燥補助剤は、糖及び糖アルコールからなる群より選ばれる一つ又は複数であってもよい。糖は、ラクトース、マルトース、スクロース及びトレハロースから選ばれる一つ又は複数であってもよい。糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール及びラクチトールから選ばれる一つ又は複数であってもよい。凍結乾燥補助剤はまた、再構成(reconstitution)時の凍結乾燥高分子ミセル組成物の均一な溶解を促進する働きをし得る。凍結乾燥補助剤は、凍結乾燥組成物の総重量に対して、1〜90重量%、具体的には1〜60重量%、より具体的には10〜60重量%の量で含んでもよい。
【0045】
以下の実施例により本発明を詳細に説明する。しかしながらこれらの実施例は、本発明を例示することのみを目的とするものであり、本発明の範囲は、実施例により何ら限定されない。
【実施例】
【0046】
製造例1:モノメトキシポリエチレングリコール及びD,L−ラクチドからなるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の合成及び昇華法による精製
撹拌機を備えた500mLの丸底フラスコにモノメトキシポリエチレングリコール(mPEG、数平均分子量=2,000)150gを入れ、真空条件下120℃にて2時間撹拌して、水分を除去した。反応フラスコにトルエン200μLに溶解させたオクタン酸第1スズ(Sn(Oct))0.15gを加え、真空条件下1時間さらに撹拌して、トルエンを蒸留除去した。次いで、D,L−ラクチド150gを加え、窒素雰囲気下撹拌して溶解させた。D,L−ラクチドを完全に溶解させた後、反応器を密封し、120℃で10時間重合反応させた。反応終了後、マグネチックバーで撹拌下、反応器を真空ポンプに接続し、生成物を1torr以下の圧力下昇華法により7時間精製して、溶融状態のmPEG−PDLLA 262gを得た。モノメトキシポリエチレングリコールの末端基である−OCHを基準にして適切なピークの相対強度(intensity)を得るH−NMRで分析することにより、分子量(Mn:約3740)を計算した。
【0047】
製造例2:昇華法によるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の精製
精製工程を行う前の製造例1の重合反応工程で得られたmPEG−PDLLA 30gを1口フラスコに入れ、80℃で溶解させた。マグネチックバーで撹拌下、反応器を真空ポンプに接続し、生成物を1torr以下の圧力下昇華法により24時間及び48時間精製した。
【0048】
製造例3:昇華法によるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の精製
精製温度を100℃にしたことを除いて、製造例2と同じ方法により精製を行った。
【0049】
製造例4:昇華法によるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の精製
精製温度を120℃にしたことを除いて、製造例2と同じ方法により精製を行った。
【0050】
製造例5:酸化アルミニウム(Al)を用いる吸着法によるジブロック共重合体(mPEG−PDLLA)の精製
精製工程を行う前の製造例1の重合反応工程で得られたmPEG−PDLLA 30gを1口フラスコに入れ、アセトン(60mL)を加えることにより溶解させた。酸化アルミニウム(15g)をそこに加え、完全に混合した。1口フラスコをロータリーエバポレーターに接続し、50℃、60rpmで2時間混合した。その後溶液を室温にてPTFEろ過紙(1μm)でろ過して、酸化アルミニウムを除去した。ろ過したアセトン溶液は、真空下60℃にてロータリーエバポレーターを用いて蒸留して、アセトンを除去し、これにより、精製されたmPEG−PDLLAを得た。モノメトキシポリエチレングリコールの末端基である−OCHを基準にして適切なピークの相対強度(intensity)を得るH−NMRで分析することにより、分子量(Mn:約3690)を計算した。
【0051】
上記製造例2〜5における精製条件に伴うmPEG−PDLLAの分子量変化を下記表1に示す。
【表1】
【0052】
表1の結果から、精製温度が高くなるほどmPEG−PDLLAの分子量の減少量が増加することが分かる。80〜100℃24〜48時間、特に100℃24時間の精製条件が効率的と考えられる。
【0053】
比較例1:パクリタキセル含有高分子ミセル組成物の製造
パクリタキセル1gと製造例1で得られたmPEG−PDLLA 5gを秤量し、エタノール4mLをそこに加え、混合物が完全に溶解して澄明な溶液を形成するまで60℃で撹拌した。次いで、エタノールを、丸底フラスコを備えたロータリーエバポレーターを用いて減圧下60℃で3時間除去した。その後、温度を50℃に下げ、室温の蒸留水140mLを加え、溶液が青色の透明な溶液になるまで反応させて、高分子ミセルを形成させた。凍結乾燥補助剤として、無水ラクトース2.5gをそこに加え、完全に溶解させ、孔径200nmのフィルターを用いてろ過し、凍結乾燥して、粉末状のパクリタキセル含有高分子ミセル組成物を得た。
【0054】
実施例1:パクリタキセル含有高分子ミセル組成物の製造
製造例3において24時間精製されたmPEG−PDLLAを用いたことを除いて、比較例1と同じ方法によりパクリタキセル含有高分子ミセル組成物を製造した。
【0055】
実施例2:パクリタキセル含有高分子ミセル組成物の製造
製造例5において精製されたmPEG−PDLLAを用いたことを除いて、比較例1と同じ方法によりパクリタキセル含有高分子ミセル組成物を製造した。
【0056】
実験例1−1:液体クロマトグラフィーによる類縁物質の単離
6カ月の加速試験(温度:40℃)に付したパクリタキセル含有高分子ミセル組成物100mgを含むバイアルに、脱イオン水(DW)16.7mLを加え、完全に溶解させ、この液体全量を取り、20mLメスフラスコに移し、標線を合わせて、全量を20mLにした(5.0mg/mL)。この液体2mLを取り、10mLメスフラスコに移し、アセトニトリルで標線を合わせて、全量を10mLにした(1mg/mL)。上記組成物に対して、下記の液体クロマトグラフィーを用いて類縁物質を単離及び分取した。
【0057】
液体クロマトグラフィーの条件
1) カラム:Poroshell 120 PFP(4.6×150 mm, 2.7 μm, Agilent)
2) 移動相:A:DW/ B:アセトニトリル
【表2】
3) 流速:0.6 ml/min
4) 注入量:10μL
5) 検出器:UV吸光光度計(測定波長:227 nm)
【0058】
HPLC分析の結果クロマトグラムを図1に示す。
【0059】
実験例1−2:LC/MS/MSを用いる類縁物質の定性分析
実験例1−1において単離された類縁物質(RRT:1.10±0.02(1.08〜1.12)及び1.12±0.02(1.10〜1.14))を液体クロマトグラフィー−質量分析計(LC/MS/MS)のMSスキャンにより定性分析した。LC/MS/MSとして、液体クロマトグラフィー1200シリーズ及びエレクトロスプレーイオン化質量分析計6400シリーズ(Agilent, 米国)を用いた。分析条件は、以下の通りである。
【0060】
液体クロマトグラフィー条件
1) カラム:Cadenza HS-C18(3.0×150 mm, 3μm, Imtakt)
2) 移動相:A:0.03%酢酸を含む0.5 mM酢酸アンモニウム/ B:アセトニトリル
【表3】
3) 流速:0.4 ml/min
4) 注入量:2μL
5) 検出器:UV吸光光度計(測定波長:227 nm)
【0061】
エレクトロスプレーイオン化質量分析計条件
1) イオン化:エレクトロスプレーイオン化、ポジティブ(ESI+)
2) MS法:MS2スキャン/ プロダクトイオンスキャン
3) イオン源:Agilent Jet Stream ESI
4) ネブライザーガス(圧力):窒素(35 psi)
5) イオンスプレー電圧:3500 V
6) 乾燥ガス温度(流速):350℃(7 L/min)
7) シースガス温度(流速):400℃(10 L/min)
8) フラグメンター:135 V
9) ノズル電圧:500 V
10) セル加速電圧:7 V
11) EMV:0 V
12) 衝突エネルギー:22 V
13) 前駆イオン:m/z 1020.2
14) 質量スキャン範囲:m/z 100〜1500
【0062】
単離されて検出段階から現れた分析物質は、質量分析計に流入するように設定されており、このとき、類縁物質の検出イオンは、質量スペクトルの特徴的イオン[M+Na]を選択して定性分析した。
【0063】
LC/MS/MS分析の結果スペクトルを図2に示す。
【0064】
実験例2:パクリタキセルとラクチドの反応の誘導及び反応生成物のHPLC分析
実験例1−1においてパクリタキセル含有高分子ミセル組成物から分取した類縁物質中に、多くの高分子が一緒に存在しているので、直接的な実験が極めて困難であった。実験例1−2による定性分析の結果、RRT1.10及び1.12の位置の類縁物質は、パクリタキセルとラクチドの結合から生成した化合物と推定された。従って、パクリタキセルにラクチドを直接加えることにより反応を誘導して反応生成物を分析する実験を、推定した類縁物質が生成されるかを確認するために行った。
【0065】
まず、パクリタキセル5mgとL−ラクチド/D−ラクチド3mgを、それぞれアセトニトリル(ACN):DW=70:30(v/v)溶液1mLに溶解させ、その後溶液を混合した。この溶液をLCバイアルに移した後、HPLCにより分析した。HPLC分析の結果スペクトルを図3に示す。
【0066】
分析の結果、L−ラクチド/D−ラクチドとパクリタキセルの反応生成物から新たに出現したピークは、高分子ミセル医薬組成物の6カ月の加速試験後HPLC分析においてRRT1.10及び1.12に示される不純物のピークと全く同一であった。また、これと共に、パクリタキセルとL−ラクチドの結合体の化合物がHPLC上で最初に溶出され、その後パクリタキセルとD−ラクチドの結合体が溶出されることが確認された。さらに、同量を用いる実験の場合、パクリタキセルとD−ラクチドの結合体がパクリタキセルとL−ラクチドの結合体より多く形成されることが確認された。これから、6カ月の加速試験に付したパクリタキセル含有高分子ミセル組成物からのRRT1.10及び1.12の位置に出現する不純物は、それぞれパクリタキセルをL−ラクチド又はD−ラクチドと反応させた結果形成される物質であることが分かった。
【0067】
実験例3:LC/MS/MSを用いるパクリタキセルとラクチドの反応生成物の分析
LC/MS/MSを用いて、最初に、パクリタキセルのみを含有する試料をMSスキャンし、その結果、[M+H]であるm/z854.2amu、[M+Na]であるm/z876.2amuが現れた。その後、L−ラクチドとD−ラクチドをパクリタキセルに加えたとき、パクリタキセルのみを含有する試料において示されなかったm/z1020.0amuが現れ、経時的にその強度が連続して増加することが確認された。LC/MS/MS分析の結果スペクトルを図4に示す。
【0068】
これから、実験例1−1により得られた類縁物質の構造が、パクリタキセルとラクチド異性体の結合により生成される[M+Na]である1020.0amu化合物であることが再度確認された。
【0069】
実験例2及び3の結果並びに有機化学の反応についての従来知識から、高分子ミセル組成物のRRT1.10及び1.12の類縁物質は、パクリタキセルと(L/D−)ラクチドの結合により生成された下記化合物であることが分かった。
【化8】
パクリタキセルとラクチドの結合形態:C5359NO18(998.03g/mol)
【0070】
実験例4:苛酷条件(80℃)における薬物含有高分子ミセルの保存安定性の比較試験
比較例1並びに実施例1及び2において製造されるパクリタキセルの高分子ミセル組成物を、80℃のオーブン中に3週間保存し、その後、組成物をHPLCで分析して、類縁物質の量を比較した。試験溶液を、ミセル組成物を80%アセトニトリル水溶液に溶解させ、パクリタキセル濃度600ppmに希釈することにより、調製した。HPLC分析の結果スペクトルを図5に示しており、苛酷試験時間による類縁物質の量(%)の変化を下記表2に示す。
【0071】
HPLC条件
カラム:径2.7 μm, poroshell 120PFP(4.6×150 mm, 2.7 μm)(Agilent製カラム)
移動相
【表4】
検出器:UV吸光光度計(227 nm)
流速:0.6 mL/min
各類縁物質の量(%)=100(Ri/Ru)
Ri:試験溶液分析で検出された各類縁物質の面積
Ru:試験溶液分析で検出された全てのピーク面積の合計
【0072】
【表5】
*RRT 0.87±0.02:パクリタキセル、オキセタン環開環化合物
RRT 0.96±0.02:パクリタキセル、オキセタン環開環化合物
RRT 1.00: パクリタキセル
RRT 1.10±0.02:パクリタキセル、L-ラクチド反応化合物
RRT 1.12±0.02:パクリタキセル、D-ラクチド反応化合物
RRT 1.44±0.05:パクリタキセル、水除去化合物
【0073】
表2及び図5から、実施例1又は2の高分子ミセル医薬組成物の安定性が、比較例1の組成物に比べて向上し、パクリタキセル量の減少が相対的に小さく、これにより組成物中に含まれる薬物の効果をより安定的に保持し得ることが分かった。
【0074】
実験例5:加速条件(40℃)における薬物含有高分子ミセルの保存安定性の比較試験
比較例1及び実施例1において製造されるパクリタキセルの高分子ミセル組成物をそれぞれ40℃の安定性試験機中に6カ月間保存することを除いて、実験例4と同様の方法により試験を行った。加速試験時間による類縁物質の量(%)の変化を下記表3に示す。
【表6】
【0075】
上記試験結果は、異なるバッチの3個以上の高分子ミセル組成物について行った試験における各類縁物質及びパクリタキセル量の平均値を示す。
【0076】
実験例5より、実施例1の組成物は、加速保存温度(40℃)で6カ月間保存したとき、比較例1の組成物より類縁物質の量が低いことが立証された。
図1
図2
図3
図4
図5