特許第6605877号(P6605877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6605877-吸収体 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605877
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】吸収体
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/04 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
   E02B3/04 301
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-160017(P2015-160017)
(22)【出願日】2015年8月14日
(65)【公開番号】特開2017-36638(P2017-36638A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】稲田 周平
(72)【発明者】
【氏名】外岡 遼
(72)【発明者】
【氏名】久津輪 幸二
(72)【発明者】
【氏名】川崎 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】神代 宗信
(72)【発明者】
【氏名】荻野 明人
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−075207(JP,A)
【文献】 特開2007−162260(JP,A)
【文献】 特開2003−213650(JP,A)
【文献】 特開2002−097614(JP,A)
【文献】 特開平08−060633(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0250916(US,A1)
【文献】 米国特許第04650368(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高吸収性ポリマーと木材由来のパルプを含む吸収体であって、
前記高吸収性ポリマーの平均粒径が40μm〜300μmであり、
前記パルプが化学的処理によって製造されたパルプであり、かつ、そのパルプの繊維長が2.0μm〜10.0μmであり、
前記高吸収性ポリマー1重量部に対してパルプ1〜20重量部混合することを特徴とする土嚢用吸水体。
【請求項2】
前記パルプの繊維長が2.0μm〜5μmであることを特徴とする、請求項1に記載の土嚢用吸水体。
【請求項3】
水浸透性のある袋内に請求項1又は2に記載の土嚢用吸収体を収容してなることを特徴とする吸水性土嚢。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、速やかに水などの液体を吸収する吸収体に関する技術である。本発明の吸収体は、例えば洪水災害において流水をせき止めたり、流れ方向を変えたりするための土嚢に使用すると、平時は軽量で容易に持ち運ぶことができ、有事には迅速に吸水し、水害を防止する土嚢とすることができる。
【背景技術】
【0002】
液体を素早く吸収する吸収体は、使い捨て紙おむつ等の衛生用品といった身の回りの製品から洪水災害の場面における土嚢など幅広く利用されている。近年、台風やゲリラ豪雨等により局地的な水害が多発している。洪水により家屋への浸水や地下施設への水の流入による被害を防止抑制するため、従来、麻袋に砂や砂利を詰めた土嚢が使用されている。この土嚢は重く、かさばるため、特定の保管場所が必要なことや目的の場所に運ぶまでに労力や時間を必要とすることから、労力や時間を必要としない、高吸水性ポリマーを麻袋に入れ、有事の時に目的の場所で水をかけて膨潤させて使用する軽量土嚢が開発されている。しかしながら、この軽量土嚢は、膨潤するまでに時間を要することが課題である。この課題を解決するため、特許文献1では、通水性の高い袋を使用する発明が開示されており、特許文献2では高吸水性ポリマーを複数個の小袋に分けて大きな袋に入れる発明が開示されている。また、特許文献3では、透水性の袋内に植物性高分子重合体から成る有機膨潤材と、製紙した紙の破砕紙粉又は同破砕紙片とを封入する発明が記載されている。しかし、これらの方法でも災害時の洪水防止という観点からは不十分であり、より迅速に多量に吸水する技術が必要とされている。
【特許文献1】特開2004−27792
【特許文献2】特開2002−266330
【特許文献3】特開2002−097614
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、極めて迅速に水などの液体を吸収して、土嚢として使用した場合はその性能を発現する、吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意検討の結果、高吸収性ポリマーと木材を原料とし特定の繊維長を有するパルプとを混合することで、吸水速度が迅速になることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、高吸収性ポリマーと木材由来のパルプを含む吸収体であって、前記パルプの繊維長が1μm〜24μmである吸収体に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明の吸収体は、吸水時間の短縮により、例えば土嚢として使用した場合、平時は軽量で容易に持ち運ぶことができると共に、水害時には急速に吸水し、極めて迅速に災害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施例および比較例で作製した土嚢における吸水経過時間と重量の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では吸収対象の液体として代表的に水を想定し、吸水性、吸水量等と表現するが、本発明において液体は水に限定されるものではない。
【0008】
本発明は高吸収性ポリマーと木材由来で繊維長が1μm〜24μmであるパルプを含む吸収体である。
本発明の吸収体が吸水速度を高める理由は明らかではないが、吸水速度の速い木材由来のパルプと水保持力の高い高吸収性ポリマーが同一空間に存在することの相互作用や、高吸収性ポリマーの水吸収過程での凝集をパルプが抑制するため等の理由が考えられる。
【0009】
パルプ繊維長は1μm〜24μmであり、2.0〜10.0μmがより好ましい。吸水性には毛細管現象の影響が大きく、繊維長が短いほど比表面積が増加して水との接触面積が増大し、吸水速度が速まると考えられる。パルプ繊維長が24μmよりも長いと所望の吸水速度が発揮されず、1μmよりも短いと、例えば土嚢として使用する場合、袋に収容する時に舞い上がったり、袋の目から流出したりすることがある。ここで、本発明における繊維長とは、繊維を電子顕微鏡で撮影し、ランダムに抽出した繊維100個の長さ方向の長さを測定し、その平均値を示す。
【0010】
高吸収性ポリマーとパルプの混合比率は高吸収性ポリマー1重量部に対してパルプ1重量部以上100重量部以下であることが好ましく、下限としては2重量部以上がより好ましい。上限としては50重量部以下がより好ましく、20重量部以下がさらに好ましい。パルプの配合比率が少なすぎると所望の吸水速度が得られないことがあり、多すぎると平時の体積が大きくなるため、保管しにくくなる。パルプの配合比率が多すぎると、保水性が不十分となり、吸収した水が再び外部に流出するおそれがある。
【0011】
次に、本発明の吸収体で使用される各種材料を例示する。
本発明の木材を原料とするパルプは、針葉樹または広葉樹を原料とした機械パルプ、化学パルプなど木材由来のパルプであれば公知のパルプすべてを使用することができるが、リグニン成分の少ない化学パルプが好ましい。
本発明において、上記パルプは、ボールミル、アトライター、サンドグライダー、マイクロカッタ−、ジェットミルなどの粉砕機によって粉砕して用いることもできる。前記した繊維長の範囲まで粉砕すると吸水速度と作業性のバランスが取れるため好ましい。
【0012】
本発明で使用する高吸収性ポリマーとしては、ポリアクリル酸およびその金属塩、ポリスルホン酸およびその金属塩、無水マレイン酸およびその金属塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコ−ル、ポリエチレンオキシド、ポリアスパラギン酸およびその金属塩、ポリグルタミン酸およびその金属塩、ポリアルギン酸およびその金属塩、澱粉など公知の高吸収性ポリマーを使用することができる。吸水性の観点からポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。
【0013】
高吸収性ポリマーの平均粒径は、10μm以上1000μm以下であることが好ましい。下限としては、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは40μm以上である。上限としては、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下である。吸水量は高吸収性ポリマーの比表面積に比例し、粒径が細かいほど吸水量は多くなるが、一方で高吸収性ポリマーが凝集する問題がある。これに対し、本発明では特定の繊維長を有するパルプを混合することで、高吸収性ポリマーの粒径が小さくても凝集が抑制され、吸水性を高めることができる。この理由は明らかではないが、高吸収性ポリマーは吸水速度が遅いため、水と接触すると表面が膨潤し、粘着性が生じる。そのため、高吸収性ポリマーが過密な状態で存在すると、高吸収性ポリマー同士で結着してしまい、吸収速度が急激に低下する。一方、本発明では、高吸収性ポリマーの間に、パルプが存在するため高吸収性ポリマー同士の結着を阻害することができると考えられる。なお、本発明における平均粒径は、高吸収性ポリマー粒子を電子顕微鏡で撮影し、ランダムに選択した粒子100個の平均直径を測定し、それらの平均値を示す。
【0014】
また、本発明の吸収体を水浸透性のある袋内に収容し、土嚢とすることができる。ここで水浸透性のある袋とは、不織布、麻などを原料として袋状にした物であり、適度な網目構造を持ち、水を浸透し、水不溶性であれば特に制限は無い。なお、本発明の吸収体の用途は土嚢に限定されるものではなく、液体吸収が必要な用途に使用可能である。
【実施例】
【0015】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
【0016】
[比較例1]
高吸収性ポリマーと木材由来のパルプを下記配合で混合した。
アイシンナノテクノロジー社製ジェットナノマイザーミルで平均粒径50μmまで粉砕した高吸収性ポリマー(SAP):ポリアクリル酸とポリアクリル酸ナトリウムの混合物
(サンダイヤポリマー社製、商品名:アクアパール) 10g
クラフトパルプ(丸紅紙パルプ販売社製、商品名:晒しクラフトパルプ、平均繊維長1.5mm) 20g
次に、湿式不織布(日本製紙パピリア社製、坪量77.4g/m)を使用して、300mm×300mmの大きさの袋を作り(600mm×300mmにカットして2つ折りにして2辺をミシンで縫合)、この中に上記混合物を収容した後に残る1辺を縫合し、吸水性土嚢を得た。
【0017】
[実施例1]
比較例1のクラフトパルプの代わりに、同クラフトパルプをジェットナノマイザーを用いて、平均繊維長10μmまで粉砕したパルプを用いた以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例2]
比較例1のクラフトパルプの代わりに、同クラフトパルプをカッターミルで5μmまで粉砕して用いた以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例3]
比較例1のクラフトパルプの代わりに、ティッシューペーパースリット時に発生する紙粉(日本製紙クレシア社製、繊維長2μm)を使用した以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例4]
実施例3の紙粉配合量を2gとした以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例5]
実施例3の紙粉配合量を5gとした以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例6]
実施例3の紙粉配合量を10gとした以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例7]
実施例3の紙粉配合量を50gとした以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例8]
実施例3の紙粉配合量を100gとした以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例9]
粉砕処理をしない高吸水性ポリマー(平均粒径200μm)を使用した以外は実施例3と同様にして吸水性土嚢を作製した。
[実施例10]
ジェットナノマイザーで25μmまで粉砕した高吸水性ポリマーを使用した以外は実施例3と同様にして吸水性土嚢を作製した。
[実施例11]
ジェットナノマイザーで10μmまで粉砕した高吸水性ポリマーを使用した以外は実施例3と同様にして吸水性土嚢を作製した。
[実施例12]
比較例1のクラフトパルプの代わりに、日本製紙社製KCフロックW−400G(平均繊維長24μm)を用いた以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[実施例13]
比較例1のクラフトパルプの代わりに、サーモメカニカルパルプ(日本紙通商社製、平均繊維長2μm)を使用した以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
【0018】
[比較例2]
クラフトパルプを使用しなかったこと以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
[比較例3]
比較例1のクラフトパルプの代わりに、日本製紙社製KCフロックW−100G(平均繊維長37μm)を使用した以外は比較例1と同様の方法で吸水性土嚢を作製した。
【0019】
作製した吸水性土嚢について、下記評価を行った。
<吸水性評価>
作製した吸水性土嚢に、シャワーで1分間に10リットルの水量で5分間水道水を掛け、30秒毎に重量(g)を測定した。その後、10分間水道水に浸漬し、重量を測定した。このときの重量を最大重量とした。最大重量の90%に到達するまでにかかった時間を吸水時間として、吸水速度の目安とした。時間の数字が小さいほど吸水速度が速い。結果を表及び図1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1及び図1に示す評価結果から、以下のことがいえる。
・高吸収性ポリマーと繊維長が特定範囲であるパルプを混合して用いた本発明の実施例1〜3は、繊維長が長いパルプを用いた比較例1、3や、パルプを使用しない比較例2に比べて、吸水速度が速まり、土嚢として迅速かつ効果的に機能することがわかる。
・実施例3〜8から、繊維長が特定範囲であるパルプの配合比率が増えるに伴い、土嚢の最大重量が増加し、吸水能力が向上することがわかる。ここで、実施例4は、吸水速度は比較例と同程度であるが、吸水量が多くなっており、土嚢としての性能が向上していることがわかる。
・実施例9〜11から、高吸収性ポリマーの平均粒径が小さい程、吸水速度が速いことがわかる。
・実施例12と実施例1〜3との比較から、パルプの繊維長が短い程、吸水速度が速いことがわかる。
・実施例13と実施例3との比較から、機械パルプに比べて化学パルプの方が吸水速度は速いことがわかる。
図1