(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.実施形態:
A−1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII−IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII−IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。
【0016】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0017】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0018】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0019】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0020】
また、
図1および
図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0021】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、
図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0022】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0023】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0024】
図4および
図5に示すように、発電の最小単位である発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0025】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0026】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で電解質層112および空気極114を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0027】
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。空気極114の構成については、後に詳述する。燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0028】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画される。なお、セパレータ120が接合された単セル110をセパレータ付き単セルともいう。
【0029】
接合部124に対して空気室166側には、ガラスにより形成された第1のガラスシール部125が配置されている。第1のガラスシール部125は、セパレータ120の表面と、単セル110の表面(本実施形態では単セル110を構成する電解質層112の表面)との両方に接触するように形成されている。第1のガラスシール部125により、空気室166と燃料室176との間がシールされ、両者の間のガスリーク(クロスリーク)が効果的に抑制される。第1のガラスシール部125は、特許請求の範囲における第1のシール部材に相当する。
【0030】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0031】
なお、本実施形態の燃料電池スタック100では、
図5に示すように、セパレータ120と、空気極側フレーム130を挟んで当該セパレータ120と対向するインターコネクタ150との間において、燃料ガス導入マニホールド171と燃料ガス排出マニホールド172とのそれぞれの周りを取り囲むように第2のガラスシール部240が設けられている。第2のガラスシール部240は、第1のガラスシール部125と同様に、ガラスにより形成されている。第2のガラスシール部240により、空気室166と燃料ガス導入マニホールド171または燃料ガス排出マニホールド172との間がシールされ、両者の間のガスリークが効果的に抑制される。第2のガラスシール部240は、特許請求の範囲における第2のシール部材に相当する。
【0032】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0033】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0034】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材の内の、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の凸部である集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。また、空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材は、導電性のコートによって覆われていてもよく、空気極114と空気極側集電体134との間には、両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材を、単にインターコネクタと呼ぶ場合もある。
【0035】
なお、本明細書では、
図4および
図5に示すように、各発電単位102から空気極側フレーム130と空気極側フレーム130側のインターコネクタ150とを除いた構造体、すなわち、単セル110と、セパレータ120と、燃料極側フレーム140と、燃料極側フレーム140側のインターコネクタ150とを備える構造体を、インターコネクタ−燃料電池単セル複合体107ともいう。上述したように、燃料電池スタック100は、上下方向に並べて配置された複数の発電単位102を備えるが、換言すれば、燃料電池スタック100は、空気極側フレーム130を挟んで並べて配置された複数のインターコネクタ−燃料電池単セル複合体107を備えると言える。インターコネクタ−燃料電池単セル複合体107は、インターコネクタ−電気化学反応単セル複合体の一例である。
【0036】
A−2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0037】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0038】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、
図2および
図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、
図3および
図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0039】
A−3.空気極114の詳細構成:
図5に示すように、空気極114は、活性層420と集電層410とを含む。活性層420は、Z方向において、集電層410の電解質層112側、すなわち、集電層410より電解質層112に近い側に位置する。
【0040】
空気極114の活性層420は、主として、酸化剤ガスOGに含まれる酸素のイオン化反応の場として機能する層である。本実施形態では、活性層420は、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物と、活性化物質としてのGDC(ガドリニウムドープセリア)とを含む。空気極114の集電層410は、主として、空気室166から供給された酸化剤ガスOGを拡散させると共に、発電反応により得られた電気を集電する場として機能する層である。集電層410は、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物を含むが、GDCを含まない。なお、活性層420は、集電層410と比較して、粒径が全体的に小さく、かつ、緻密質である(すなわち、気孔率が低い)。活性層420は、特許請求の範囲における第2の層に相当し、集電層410は、特許請求の範囲における第1の層に相当する。
【0041】
ここで、ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物は、一般式ABO
3で表される。空気極114の活性層420や集電層410に用いられるペロブスカイト型構造を有する複合酸化物としては、例えば、一般式La
(1−x)Sr
(x)Co
(1−y)Fe
(y)O
3、(ただし0.1≦x≦0.7、0<y<1)で表されるLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)が挙げられる。
【0042】
A−4.性能評価:
本実施形態の燃料電池スタック100は、各単セル110の空気極114の活性層420の構成に特徴がある。以下、空気極114の活性層420の構成が互いに異なる複数のサンプルを用いて行った各種性能評価について説明する。なお、性能評価に用いられた各サンプルは、空気極114の活性層420や集電層410を構成するペロブスカイト型構造を有する複合酸化物として、LSCFが用いられたものである。
【0043】
(発電劣化率についての性能評価)
第1の性能評価として、空気極114の活性層420の構成が互いに異なる単セル110の複数のサンプル(サンプル1およびサンプル2)のそれぞれについて、上述した構成の燃料電池スタック100を組み立て、発電劣化率を測定した。
図6は、第1の性能評価の結果を示す説明図である。
【0044】
図6に示すように、サンプル1では、単セル110の空気極114の活性層420のZ方向に平行なある断面(例えばXZ断面)内の所定の大きさの領域において、気孔の全数に対する第1種気孔C1の数の割合(以下、「第1種気孔割合R(1)」という)は28(%)であった。なお、本明細書において、第1種気孔C1は、当該領域におけるLSCFの平均粒径より大きい径を有する気孔を意味する。一方、サンプル2では、単セル110の空気極114の活性層420のZ方向に平行なある断面(例えばXZ断面)内の所定の大きさの領域において、第1種気孔割合R(1)は35(%)であった。このように、サンプル2では、活性層420におけるLSCFの平均粒径より径の大きい気孔である第1種気孔C1の割合が比較的多く、サンプル1では、活性層420における第1種気孔C1の割合が比較的少なく、その分、LSCFの平均粒径以下の径を有する気孔の割合が比較的多い。なお、サンプル1とサンプル2とでは、活性層420の気孔率は同程度である。
【0045】
第1の性能評価では、上記2つのサンプル(サンプル1およびサンプル2)のそれぞれを用いた燃料電池スタック100について、1000時間の定格発電運転を行った後の電圧(試験後電圧)を測定し、初期電圧に対する初期電圧と試験後電圧との差の割合を、発電劣化率(%)として算出した。
【0046】
図6に示すように、サンプル1(比較例)では、発電劣化率が比較的高く、不合格(×)と判定された。一方、サンプル2(実施例)では、発電劣化率が比較的低く、合格(〇)と判定された。この要因としては、以下のことが考えられる。すなわち、燃料電池スタック100の発電運転中には燃料電池スタック100が高温になるため、燃料電池スタック100内に設けられた第1のガラスシール部125や第2のガラスシール部240(
図4および
図5参照)の形成材料であるガラスに含まれる元素(例えば、Si、P、S、B、Al)が飛散する。これらのガラスに含まれる元素の少なくとも1つは、LSCFをはじめとするペロブスカイト構造を有する複合酸化物の焼結助剤として機能するため、焼結助剤となる元素が飛散して空気極114近辺に達すると、その元素によって空気極114の活性層420に含まれるLSCFの焼結が促進される現象(以下、本明細書において「被毒」という)が発生するおそれがある。この被毒によって空気極114の活性層420に含まれるLSCFの焼結が進行して緻密化すると、LSCFの比表面積が減少して空気極114における酸素のイオン化反応の場が減少し、分極抵抗(活性化抵抗(η抵抗)およびガス拡散抵抗)が増大して各単セル110の発電性能が低下する。上述したように、サンプル1では、空気極114の活性層420において、LSCFの平均粒径より径の大きい第1種気孔C1の割合が少ないため、焼結助剤となる元素によってLSCF粒子同士が接着して焼結が進行し、各単セル110の発電性能が低下したものと考えられる。一方、サンプル2では、空気極114の活性層420において、LSCFの平均粒径より径の大きい第1種気孔C1の割合が多いため、LSCF粒子間の距離が比較的遠い箇所が多く、焼結助剤となる元素の存在下においてもLSCF粒子同士が接着して焼結が進行することが抑制され、各単セル110の発電性能の低下が抑制されたものと考えられる。
【0047】
この点について実証するため、以下に示すように、空気極114の活性層420の被毒試験を行った。
図7は、被毒試験の概要を示す説明図である。
図7に示すように、2つの単セル110のサンプルSA(サンプルSA11およびサンプルSA12)を準備した。サンプルSA11(比較例)およびサンプルSA12(実施例)の空気極114の活性層420の構成は、それぞれ、上述したサンプル1およびサンプル2の活性層420の構成と同様である。すなわち、サンプルSA12では、活性層420におけるLSCFの平均粒径より径の大きい気孔である第1種気孔C1の割合が比較的多く、サンプルSA11では、活性層420における第1種気孔C1の割合が比較的少なく、その分、LSCFの平均粒径以下の径を有する気孔の割合が比較的多い。
【0048】
基盤BAの上に2枚の金属板MPを載せ、各金属板MPの上にガラスGLとガラスGLを囲む円筒状の金属筒MRとを載せ、2つの金属筒MRの上にそれぞれサンプルSA11およびサンプルSA12を載せたものを試料とした。この際、各サンプルSAの空気極114が金属筒MR内の空間を介してガラスGLと対向するような姿勢で、各サンプルSAを金属筒MR上に載せた。この試料を石英管ST内に収容し、石英管STを環状炉RF内に設置し、石英管ST内に40℃の水中を通した後の空気を供給することによって元素が飛散しやすい環境を形成しつつ、環状炉RFによって石英管STを750℃で100時間加熱する加熱処理を行った。加熱処理前後の各サンプルSA11,12の活性層420の断面について、FE−SEMにて低加速電圧(5kV)でのSEI像を取得して、活性層420の断面構成を調べた。
【0049】
図8は、サンプルSA11(比較例)の活性層420の断面構成を模式的に示す説明図であり、
図9は、サンプルSA12(実施例)の活性層420の断面構成を模式的に示す説明図である。
図8および
図9において、上段には加熱処理前の活性層420の断面構成が示されており、下段には加熱処理後の活性層420の断面構成が示されている。
【0050】
図8の上段に示すように、加熱処理前のサンプルSA11では、活性層420におけるLSCFの平均粒径より径の大きい気孔である第1種気孔C1の割合が比較的少ない。また、
図8の下段に示すように、加熱処理後のサンプルSA11では、加熱処理前と比べて、LSCFの焼結による緻密化が比較的広範囲で進行している。これに対し、
図9の上段に示すように、加熱処理前のサンプルSA12では、活性層420における第1種気孔C1の割合が比較的多い。なお、加熱処理前において、サンプルSA11とサンプルSA12とでは、活性層420の気孔率は同程度である。また、
図9の下段に示すように、加熱処理後のサンプルSA12では、加熱処理前と比べて、LSCFの焼結による緻密化は多少進行しているものの、その範囲は僅かである。このように、被毒試験の結果から、空気極114の活性層420において、LSCFの平均粒径より径の大きい第1種気孔C1の割合が比較的多いと、焼結助剤となる元素の存在下においてもLSCF粒子同士が接着して焼結が進行することが抑制されることが確認された。
【0051】
以上説明した第1の性能評価の結果から、空気極114の活性層420が、Z方向に平行な少なくとも1つの断面(例えばXZ断面)に、第1種気孔割合R(1)が35%以上である所定の大きさの領域が存在するように構成されていると、運転中にLSCF粒子同士が接着して焼結が進行することを抑制することができ、各単セル110の発電性能が低下することを抑制することができると言える。
【0052】
(初期分極抵抗についての性能評価)
第2の性能評価として、サンプル1およびサンプル2を用いて、初期分極抵抗を測定した。
図10は、第2の性能評価の結果を示す説明図である。
【0053】
上述の通り、サンプル2では、活性層420の第1種気孔割合R(1)が比較的高い。また、
図10に示すように、サンプル1では、活性層420のZ方向に平行なある断面(例えばXZ断面)内の所定の大きさの領域において、気孔の全数に対する第2種気孔C2の数の割合(以下、「第2種気孔割合R(2)」という)は90(%)であった。なお、本明細書において、第2種気孔C2は、当該領域におけるLSCFの最大粒径より小さい径を有する気孔を意味する。この第2種気孔C2に該当するか否かの基準は、上述した第1種気孔C1に該当するか否かの基準とは異なるため、第1種気孔C1と第2種気孔C2とは排他的な関係ではなく、第1種気孔C1に該当し、かつ、第2種気孔C2に該当する気孔も存在する。一方、サンプル2では、活性層420のZ方向に平行なある断面(例えばXZ断面)内の所定の大きさの領域において、第2種気孔割合R(2)は95(%)であった。このように、サンプル2では、活性層420における気孔のほとんどが、LSCFの最大粒径より小さい径を有する気孔である第2種気孔C2に該当し、サンプル1では、活性層420における第2種気孔C2の割合がサンプル2より少ない。
【0054】
第2の性能評価では、上記2つの単セル110のサンプルを用いて、電流遮断法により、定格運転時(700℃、42A)における初期分極抵抗(Ωcm
2)を測定した。
図10に示すように、サンプル1では、初期分極抵抗が比較的大きく、一応合格(〇)と判定された。一方、サンプル2では、初期分極抵抗が小さく、良好(◎)と判定された。この要因としては、サンプル2では、活性層420における気孔のほとんどがLSCFの最大粒径より小さい径を有する気孔である第2種気孔C2に該当するため、必要以上に径の大きい気孔が僅かしか存在しないと言えるため、必要以上に径の大きい気孔の存在によって空気極114における酸素のイオン化反応の場が減少することが抑制され、初期分極抵抗が増大することが抑制されたものと考えられる。
【0055】
このように、第2の性能評価の結果から、空気極114の活性層420が、Z方向に平行な少なくとも1つの断面(例えばXZ断面)における上記所定の大きさの領域が、第2種気孔割合R(2)が95%以上の領域であると、初期分極抵抗が増大することを抑制することができると言える。なお、上述したように、第2種気孔割合R(2)は、ある領域における気孔の全数に対する、当該領域におけるLSCFの最大粒径より小さい径を有する気孔(第2種気孔C2)の数の割合である。
【0056】
A−5.単セル110の製造方法:
本実施形態における単セル110の製造方法の一例は、次の通りである。
【0057】
(電解質層112と燃料極116との積層体の形成)
BET法による比表面積が例えば5〜7m
2/gであるYSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるジオクチルフタレート(DOP)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、例えば厚さ約10μmの電解質層用グリーンシートを得る。また、BET法による比表面積が例えば3〜4m
2/gであるNiOの粉末を、Ni重量に換算して55質量部となるように秤量し、BET法による比表面積が例えば5〜7m
2/gであるYSZの粉末45質量部と混合して混合粉末を得る。この混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合して、スラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、例えば厚さ270μmの燃料極用グリーンシートを得る。電解質層用グリーンシートと燃料極用グリーンシートとを貼り付けて、乾燥させる。その後、例えば1400℃にて焼成を行うことによって、電解質層112と燃料極116との積層体を得る。
【0058】
(空気極114の形成)
次に、空気極114の活性層420の材料として、LSCF粉末と、GDC粉末と、アルミナ粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、活性層用ペーストを調製する。調整された活性層用ペーストを、電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112側の表面に、スクリーン印刷によって塗布し、乾燥させる。
【0059】
また、空気極114の集電層410の材料として、LSCF粉末と、アルミナ粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、集電層用ペーストを調製する。調整された集電層用ペーストを、上述した活性層用ペーストの上に、スクリーン印刷によって塗布し、乾燥させる。なお、空気極114の各層用ペーストの塗布方法として、例えば噴霧塗布といった他の方法も採用可能である。
【0060】
その後、例えば1100℃にて焼成を行うことによって、電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112側の表面に、活性層420と集電層410とから構成される空気極114が形成される。
【0061】
以上の工程により、上述した構成の単セル110が製造される。なお、単セル110が製造された後、例えば、空気極114と空気極側集電体134との接合やボルト22による燃料電池スタック100の締結等の組み立て工程が行われることにより、上述した構成の燃料電池スタック100が製造される。
【0062】
なお、空気極114の活性層420における第1種気孔割合R(1)や第2種気孔割合R(2)は、例えば、以下の方法により調整することができる。一般に、上述した活性層用ペーストの固形分比(全体積に対する固形分(LSCF粉末、GDC粉末、アルミナ粉末)の体積の割合)を小さくするほど、活性層420における気孔径は大きくなる傾向にある。また、活性層用ペースト塗布後の焼成の際に、焼成温度を高くするほど、また焼成時間を長くするほど、活性層420における気孔径は大きくなる傾向にある。そのため、活性層用ペーストの固形分比と、活性層用ペースト塗布後の焼成温度と、活性層用ペースト塗布後の焼成時間と、の少なくとも1つを調整することより、活性層420における気孔径を調整することができ、ひいては活性層420における第1種気孔割合R(1)および第2種気孔割合R(2)を調整することができる。
【0063】
A−6.空気極114の分析方法:
(分析画像M1の取得方法)
粒径等に関して空気極114を分析する方法について説明する。まず、空気極114の分析に用いられる分析画像M1を以下の方法により取得する。単セル110において、上下方向(Z軸方向)に平行な1つの断面(ただし空気極114を含む断面)を任意に設定し、当該断面において空気極114の上下方向における全体が確認できる画像を、分析画像M1として取得する。より詳細には、空気極114の上側表面(空気極側集電体134と接触する表面)が、画像を上下方向に10等分して得られた10個の分割領域の内の最も上の分割領域内に位置し、かつ、空気極114と電解質層112との境界が、最も下の分割領域内に位置している画像を、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影し、分析画像M1として取得する。なお、この分析画像M1は、SEMにより撮影された画像を2値化処理した後の2値化画像でもよい。ただし、2値化画像における粒子等が実際の形態と大きく異なる場合には、SEMにより撮影された2値化処理前の画像のコントラストを調整し、その調整後の画像を2値化処理した画像でもよい。また、分析画像M1は、SEMにより撮影された2値化処理前の画像そのものでもよい。SEMの画像の倍率は、上記のように空気極114の上下方向における全体が分析画像M1に収まるような値に設定され、例えば200〜30,000倍とすることができるが、これに限定されず、適宜変更することができる。
【0064】
(活性層420と集電層410との境界の決定方法)
空気極114を構成する活性層420と集電層410との境界は、活性層420の気孔率が集電層410の気孔率より低いという特徴を利用して、以下の方法により特定される。まず、分析画像M1に対して、上下方向(Z軸方向)に直交する複数の仮想線Kを、0.3μm間隔で空気極114の上側表面から下方に順番に引き、仮想線K1、K2、K3、・・・、Km、・・・、K(m+9)、K(m+10)、・・・、Knを得る。そして、各仮想線Kにおいて気孔と重複する部分の長さを測定し、気孔と重複する部分の長さの合計を算出し、各仮想線Kの全長に対する気孔と重複する部分の長さの合計の比を、当該仮想線K上に存在する気孔の割合(気孔率Ks)とする。次に、各仮想線Kの気孔率Ks1、Ks2、Ks3、・・・、Ksm、・・・、Ks(m+9)、Ks(m+10)、・・・、Ksnのうち、上方側から順番に10個の仮想線Kの気孔率Ksを有する各データ群を設定し、各データ群の10個の気孔率Ksの平均値(Ave)と各データ群の気孔率Ksの標準偏差(σ)を算出する。
【0065】
上方側から順番に、データ群G1は、Ks1、Ks2、・・・、Ks10からなり、データ群G2は、Ks2、Ks3、・・・、Ks11からなり、データ群Gmは、Ksm、Ks(m+1)、Ks(m+2)、・・・、Ks(m+9)からなり、データ群G(m+1)は、Ks(m+1)、Ks(m+2)、・・・、Ks(m+10)からなる。すなわち、データ群G(m+1)とは、データ群Gmから、データ群Gmの1つ目の仮想線Kmの気孔率Ksmを除いた9個の気孔率(Ks(m+1)、・・・、Ks(m+9))に、データ群の最後の仮想線K(m+9)の次の仮想線K(m+10)の気孔率Ks(m+10)を加えた10個の気孔率Ksからなる一つの群を意味する。そして、「G(m+1)の気孔率Ksの平均値」が「Gmの気孔率Ksの平均値に、Gmの10個の気孔率Ksの標準偏差(σ)の2倍の値を加えた値」を初めて上回ったとき、または、「G(m+1)の気孔率Ksの平均値」が「Gmの気孔率Ksの平均値から、Gmの10個の気孔率Ksの標準偏差(σ)の2倍の値を減じた値」を初めて下回ったときの、データ群G(m+1)の10個目の気孔率Ks(m+10)に対応する仮想線K(m+10)を、活性層420と集電層410との境界とする。すなわち、データ群Gmの気孔率Ksの平均値をGmAve、データ群G(m+1)の気孔率Ksの平均値をG(m+1)Ave、データ群Gmの気孔率Ksの標準偏差をσmとしたとき、下記式(1)を満たす初めてのデータ群G(m+1)の10個目の気孔率Ks(m+10)に対応する仮想線K(m+10)を、活性層420と集電層410との境界とする。この境界が決定されれば、分析画像M1上において、活性層420と集電層410とを区別することができる。
|(G(m+1)Ave)−(GmAve)|>2σm ・・・(1)
【0066】
(粒子径および気孔径の測定方法)
空気極114の活性層420における粒子径や気孔径は、"水谷惟恭、尾崎義治、木村敏夫、山口喬著、「セラミックプロセッシング」、技報堂出版株式会社、1985年3月25日発行、第192頁から第195頁"に記載されている方法(インターセプト方法)に従って特定される。具体的には、上記分析画像M1において、活性層420に、上下方向(Z軸方向)の直線および上下方向に直交する方向の直線を所定間隔(例えば0.5μm間隔)で複数本引き、各直線上の粒子および気孔にあたる部分の長さをそれぞれ粒子径および気孔径として測定する。対象の部材や領域に位置する1つまたは複数の直線上のすべての粒子および気孔についての粒子径および気孔径を計測し、計測値を用いて粒子径および気孔径の平均値や最大値等を算出するものとする。
【0067】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0068】
上記実施形態(または変形例、以下同様)では、空気極114の活性層420は、Z方向に平行な少なくとも1つの断面(例えばXZ断面)における上記所定の大きさの領域が、第2種気孔割合R(2)が95%以上の領域であるように構成されているとしているが、空気極114の活性層420が少なくとも、Z方向に平行な少なくとも1つの断面(例えばXZ断面)に、第1種気孔割合R(1)が35%以上である所定の大きさの領域が存在するように構成されていると、運転中にLSCF粒子同士が接着して焼結が進行することを抑制することができ、各単セル110の発電性能が低下することを抑制することができる。
【0069】
また、上記実施形態では、空気極114は、活性層420と集電層410との二層構成であるとしているが、空気極114は、活性層420および集電層410以外の他の層を含むとしてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110について、上述した第1種気孔割合R(1)や第2種気孔割合R(2)についての要件が満たされた構成であるとしているが、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの単セル110について、そのような構成となっていれば、当該単セル110の発電性能が低下することを抑制することができると共に、初期分極抵抗が増大することを抑制することができる。
【0071】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。また、上記実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は第1のガラスシール部125および第2のガラスシール部240を備えるとしているが、燃料電池スタック100が第1のガラスシール部125と第2のガラスシール部240との一方を備えないとしてもよい。あるいは、燃料電池スタック100が第1のガラスシール部125と第2のガラスシール部240との両方を備えず、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物の焼結助剤となる元素を含む別の部材を備えるとしてもよい。
【0073】
本明細書において、部材(または部材のある部分、以下同様)Aを挟んで部材Bと部材Cとが互いに対向するとは、部材Aと部材Bまたは部材Cとが隣接する形態に限定されず、部材Aと部材Bまたは部材Cとの間に他の構成要素が介在する形態を含む。例えば、電解質層112と空気極114との間に他の層が設けられていてもよい。このような構成であっても、空気極114と燃料極116とは電解質層112を挟んで互いに対向すると言える。
【0074】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は複数の平板形の発電単位102が積層された構成であるが、本発明は、他の構成、例えば特開2008−59797号に記載されているように、複数の略円筒形の燃料電池単セルが直列に接続された構成にも同様に適用可能である。
【0075】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の最小単位である電解セルや、複数の電解セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2014−207120号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セルおよび電解セルスタックにおいても、空気極114の活性層420を上記実施形態と同様の構成とすれば、各単セル110の性能が低下することを抑制することができると共に、初期分極抵抗が増大することを抑制することができる。