(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工具を保持する主軸及びワークが取り付けられるテーブルを備えるとともに、該主軸の軸線に沿った方向のZ軸、並びに該Z軸に直交し且つ相互に直交するX軸及びY軸の各基準軸に対応したZ軸送り機構、X軸送り機構及びZ軸送り機構を備え、これらX軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構によって前記主軸とテーブルとを3次元空間内で相対的に移動させるように構成された工作機械において、前記3次元空間内における前記主軸とテーブルとの相対的な運動誤差を同定する方法であって、
前記X軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構に対してそれぞれ設定された機械原点X0、Y0、Z0を基準とする機械座標系の3次元空間内で、それぞれX軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構を動作させて、該機械座標系における任意の座標位置を基準に、
前記X軸方向の位置決め誤差、
前記Y軸方向の位置決め誤差、
前記Z軸方向の位置決め誤差、
前記X軸、Y軸及びZ軸における真直誤差、
前記X軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記Y軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記Z軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記X軸,Y軸及びZ軸相互間の直角度誤差、
をそれぞれ測定し、
測定された実測誤差データを基に、前記機械座標系において予め設定された基準位置Xa,Ya,Zaを原点とした設定座標系の3次元空間内における、
前記X軸送り機構のX軸方向の位置決め誤差、
前記Y軸送り機構のY軸方向の位置決め誤差、
前記Z軸送り機構のZ軸方向の位置決め誤差、
前記X軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構の真直誤差、
前記X軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記Y軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記Z軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記X軸,Y軸及びZ軸相互間の直角度誤差、
をそれぞれ導出し、
導出された各誤差データを基に、前記設定座標系の3次元空間内における前記主軸とテーブルとの相対的な運動誤差を導出するようにしたことを特徴とする工作機械の運動誤差同定方法。
前記設定座標系の3次元空間内における前記主軸とテーブルとの相対的な運動誤差は、前記主軸に装着される工具刃先に関するものである請求項1乃至3記載のいずれかの工作機械の運動誤差同定方法。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械の運動誤差要因として、X軸、Y軸及びZ軸の各送り軸(即ち、X軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構)における位置決め誤差、各送り軸の真直度などが考慮されており、このような運動誤差を補償する数値制御装置として、特開平8−152909号公報(下記特許文献1)に開示される数値制御装置が提案されている。
【0003】
この数値制御装置は、特許文献1に開示されるように、座標系を各座標軸方向に一定間隔の格子状領域に分割し、この格子状領域の格子点において予め測定された格子点補正ベクトルを格納する格子点補正ベクトル記憶手段と、移動指令に応じて各送り軸の補間パルスを出力する補間手段と、補間パルスを加算して各送り軸における現在位置を認識する現在位置認識手段と、現在位置における現在位置補正ベクトルを格子点補正ベクトルに基づいて算出する現在位置補正ベクトル算出手段と、現在位置補正ベクトルを、補間前の旧現在位置における始点位置補正ベクトルと比較し、変化量を補正パルスとして出力する補正パルス出力手段と、補正パルスを補間パルスに加算する加算手段とを備えている。
【0004】
そして、この数値制御装置によれば、補間パルスが出力されるごとに、現在位置における3次元補正ベクトルを求め、これを補正パルスとして補間パルスに加算するようにしているので、機械系に起因した3次元空間上の位置誤差を、一つの補間形の誤差補正機能で補正することができる。
【0005】
尚、上記格子状領域の各格子点における格子点補正ベクトルは、前記各送り軸についてこれらを一定間隔で位置決め制御したときの、主軸の軸線上に適宜設定された基準点の3次元空間内における位置決め誤差を測定することによって得られる。また、測定は、一般的には、レーザ干渉計、レーザ測長器やオートコリメータなどを用いて行われる。また、前記基準点は、一般的には、例えば、主軸の軸線と主軸前端面とが交差する位置や、主軸軸線において主軸前端面から所定距離だけ前方の位置に設定され、測定方法によって適宜決定される。
【0006】
ところで、近年では、工作機械の3次元空間内における運動誤差(位置決め誤差)は、
図4に示すように、各送り軸の並進運動の誤差、各送り軸の角度誤差、及び各送り軸相互間の直角度に関する誤差が相互に影響し合った状態で発現されるものと考えられている。したがって、このような各誤差を求めることによって、正確な前記運動誤差を同定することができる。尚、
図4に示した各誤差の定義は以下の通りである。
E
XXは、X軸送り機構のX軸方向における位置決め誤差、
E
YYは、Y軸送り機構のY軸方向における位置決め誤差、
E
ZZは、Z軸送り機構のZ軸方向における位置決め誤差、
E
YXは、X軸送り機構のX軸−Y軸平面における真直誤差(Y軸方向)、
E
ZXは、X軸送り機構のX軸−Z軸平面における真直誤差(Z軸方向)、
E
XYは、Y軸送り機構のY軸−X軸平面における真直誤差(X軸方向)、
E
ZYは、Y軸送り機構のY軸−Z軸平面における真直誤差(Z軸方向)、
E
XZは、Z軸送り機構のZ軸−X軸平面における真直誤差(X軸方向)、
E
YZは、Z軸送り機構のZ軸−Y軸平面における真直誤差(Y軸方向)、
E
AXは、X軸送り機構におけるX軸まわりの角度誤差、
E
AYは、Y軸送り機構におけるX軸まわりの角度誤差、
E
AZは、Z軸送り機構におけるX軸まわりの角度誤差、
E
BXは、X軸送り機構におけるY軸まわりの角度誤差、
E
BYは、Y軸送り機構におけるY軸まわりの角度誤差、
E
BZは、Z軸送り機構におけるY軸まわりの角度誤差、
E
CXは、X軸送り機構におけるZ軸まわりの角度誤差、
E
CYは、Y軸送り機構におけるZ軸まわりの角度誤差、
E
CZは、Z軸送り機構におけるZ軸まわりの角度誤差、
A
0Zは、Z軸送り機構と理想のZ軸とのX軸回りの角度誤差、
B
0Zは、Z軸送り機構と理想のZ軸とのY軸回りの角度誤差、
C
0Yは、Y軸送り機構と理想のY軸とのZ軸回りの角度誤差である。
尚、この他の誤差要因として、Y軸送り機構と理想のY軸とのX軸回りの角度誤差であるA
0Y、X軸送り機構と理想のX軸とのY軸回りの角度誤差であるB
0X、X軸送り機構と理想のX軸とのZ軸回りの角度誤差であるC
0Xが考えられる。
【0007】
そして、従来、このような誤差を測定する測定方法として、
図5に示すような測定装置を用いた測定方法が提案されている。尚、
図5に示した一例としての工作機械50は、上面がワーク載置面(所謂テーブル)となったベッド51と、門形をしたフレーム52と、サドル53とから構成される。フレーム52は、その水平部がベッド51の上方に位置するように配設されるとともに、その2つ垂直部がそれぞれベッド51の側部に係合して、全体としてY軸方向に移動可能になっている。また、サドル53は、フレーム52の水平部に係合し、この水平部に沿ってX軸方向に移動可能となっており、このサドル53には、主軸54がZ軸方向に移動可能に、且つ、Z軸と平行な軸線を中心に回転可能に保持されている。前記X軸、Y軸及びZ軸は、相互に直交する基準軸であり、この基準軸に対応した各送り軸がX軸送り機構(図示せず)、Y軸送り機構(図示せず)及びZ軸送り機構(図示せず)によって構成されている。
【0008】
上記各誤差は、ベッド51上に設置されたレーザ測長器101及び主軸54に装着されたミラー102を用いて測定される。具体的には、まず、レーザ測長器101を、所定位置、例えば、
図5において実線で示す位置に設置し、ミラー102を主軸54に装着した後、前記X軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構をそれぞれ一定間隔毎に位置決め制御することにより、3次元空間内を前記一定間隔で格子状に分割した各格子点に前記ミラー102を位置決めし、各格子点において、レーザ測長器101からミラー102にレーザ光を照射するとともに、その反射光をレーザ測長器101に受光することによって、当該レーザ測長器101によりミラー102との間の距離を測長する。
【0009】
ついで、レーザ測長器101の設置位置を上記とは異なる他の3点の位置(例えば、
図5において破線で示した位置)に順次移動させながら、また、ミラー102の高さ方向の位置についても、少なくとも1ヶ所のレーザ測長器101に対して、上記の位置とは異なる位置に設置して、上記と同様にして、3次元空間内の各格子点に前記ミラー102を位置決めしながら、各格子点において、レーザ測長器101によりミラー102との間の距離を測長する。
【0010】
そして、以上のようにして得られた測定データを基に、3辺測量法の原理に従って、3次元空間内の前記各格子点におけるミラー102の位置を算出し、算出された位置データ及び当該位置データを解析することによって、上記各誤差が算出される。
【0011】
ところが、このようなレーザ測長器101を用いた測定方法では、レーザ測長器101そのものが高価であるという問題の他、レーザ測長器101を4カ所に設置し、その各位置においてミラー102を3次元空間内の各格子点に位置決めしながら測定する必要があるため、測定に長時間を要し、また、その作業が煩雑で面倒であるという問題があった。
【0012】
その一方、前記各送り軸の並進運動誤差及び各送り軸の角度誤差については、JIS B 6190−2、JIS B 6336−1、及びJIS B 6336−2等に規定される通り、既に確立された測定方法に従って測定することができる。また、X軸、Y軸及びZ軸相互間の直角度についての誤差であるA
0Z、B
0Z、C
0Y等についても、下記非特許文献1に開示されるようなダブルボールバーを用いた測定方法が提案されている。
【0013】
したがって、上述したレーザ測長器101及びミラー102を用いた測定法に依るまでもなく、これらの方法を用いることによって、上記誤差を測定することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、上述した3次元空間内における前記主軸(具体的には前記基準点)の運動誤差は、最終的にはこれを補正する必要があるため、制御上の理由から、一般的には、所謂機械原点を基準とした機械座標系の3次元空間内における運動誤差を同定する必要がある。
【0017】
ところが、前記ダブルボールバーを用いて、前記X軸、Y軸及びZ軸相互間の直角度誤差を測定する場合、機械原点を基準とした誤差を測定することができないという問題があった。即ち、前記ダブルボールバーを用いて、機械原点を基準とした直角度誤差を測定するには、ダブルボールバーが装着された状態の主軸を、機械原点を中心に、バーの長さを旋回半径として旋回移動させる必要があるが、各送り軸は機械原点を越えてマイナス方向に移動させることはできないため、このような旋回動作を行うことができないのである。
【0018】
そして、上述した誤差E
XX、E
YY、E
ZZ、E
YX、E
ZX、E
XY、E
ZY、E
XZ、E
YZ、E
AX、E
AY、E
AZ、E
BX、E
BY、E
BZ、E
CX、E
CY、E
CZは、理論的には、直角度誤差A
0Z、B
0Z、C
0Y等の影響を受けると考えられるため、これらの誤差についても、機械原点を基準にした誤差を同定することができないものと考えられる。
【0019】
このように、JISに規定される測定方法、及び非特許文献1に開示される方法では、これらの測定値を用いて、直ちに、機械座標系の3次元空間内における運動誤差を同定することができない。しかしながら、このような測定方法によって測定された測定値を用いて、機械座標系の3次元空間内における運動誤差を同定することができれば、
図5に示すような高価なレーザ測長器101を用いる必要が無いため費用的な面でのメリットがあり、また、機械座標系の3次元空間内に設定される各格子点における位置誤差を測定する必要がないため、レーザ測長器101を用いた測定作業に比べて、その作業を容易に行うことができるというメリットがある。
【0020】
また、JISに規定される測定方法及び非特許文献1に開示される方法によって測定された測定値を用いて、任意の基準位置を原点とした座標系の3次元空間内における運動誤差を同定することができれば、データ利用の自由度が増して便利である。
【0021】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、従来の一般的な測定方法により測定された誤差データを用いて、工作機械の任意の位置を原点とした座標系における、当該工作機械の運動誤差を同定する方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するための本発明は、
工具を保持する主軸及びワークが取り付けられるテーブルを備えるとともに、該主軸の軸線に沿った方向のZ軸、並びに該Z軸に直交し且つ相互に直交するX軸及びY軸の各基準軸に対応したZ軸送り機構、X軸送り機構及びZ軸送り機構を備え、これらX軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構によって前記主軸とテーブルとを3次元空間内で相対的に移動させるように構成された工作機械において、前記3次元空間内における前記主軸とテーブルとの相対的な運動誤差を同定する方法であって、
前記X軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構に対してそれぞれ設定された機械原点X
0,Y
0,Z
0を基準とする機械座標系の3次元空間内で、それぞれX軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構を動作させて、該機械座標系における任意の座標位置を基準に、
前記X軸方向の位置決め誤差、
前記Y軸方向の位置決め誤差、
前記Z軸方向の位置決め誤差、
前記X軸、Y軸及びZ軸における真直誤差、
前記X軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記Y軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記Z軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記X軸,Y軸及びZ軸相互間の直角度誤差、
をそれぞれ測定し、
測定された実測誤差データを基に、前記機械座標系において予め設定された基準位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系の3次元空間内における、
前記X軸送り機構のX軸方向の位置決め誤差、
前記Y軸送り機構のY軸方向の位置決め誤差、
前記Z軸送り機構のZ軸方向の位置決め誤差、
前記X軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構の真直誤差、
前記X軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記Y軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記Z軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、
前記X軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構相互間の直角度誤差、
をそれぞれ導出し、
導出された各誤差データを基に、前記設定座標系の3次元空間内における前記主軸とテーブルとの相対的な運動誤差を導出するようにした工作機械の運動誤差同定方法に係る。
【0023】
本発明によれば、前記X軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構に対してそれぞれ設定された機械原点X
0、Y
0、Z
0を基準とする機械座標系の3次元空間内で、それぞれX軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構を動作させて、該機械座標系における任意の座標位置を基準に、前記X軸方向の位置決め誤差、前記Y軸方向の位置決め誤差、前記Z軸方向の位置決め誤差、前記X軸,Y軸及びZ軸における真直誤差、前記X軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、前記Y軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、前記Z軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、前記X軸,Y軸及びZ軸相互間の直角度誤差が測定される。
【0024】
前記X軸方向の位置決め誤差、前記Y軸方向の位置決め誤差、前記Z軸方向の位置決め誤差、前記X軸,Y軸及びZ軸における真直誤差、前記X軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、前記Y軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、及び前記Z軸におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差は、例えば、JIS B 6190−2、JIS B 6336−1、JIS B 6336−2等の規定に準拠して測定することができる。また、前記X軸,Y軸及びZ軸相互間の直角度誤差は、例えば、前記非特許文献1に開示されるダブルボールバー法によって測定することができる。
【0025】
そして、測定された実測誤差データを基に、前記機械座標系において予め設定された基準位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系の3次元空間内における、前記X軸送り機構のX軸方向の位置決め誤差、前記Y軸送り機構のY軸方向の位置決め誤差、前記Z軸送り機構のZ軸方向の位置決め誤差、前記X軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構の真直誤差、前記X軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、前記Y軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、前記Z軸送り機構におけるX軸,Y軸及びZ軸まわりの各角度誤差、X軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構相互間の直角度誤差をそれぞれ導出する。
【0026】
ついで、導出された各誤差データを基に、前記設定座標系の3次元空間内における前記主軸とテーブルとの相対的な運動誤差、即ち、主軸のテーブルに対する位置決め誤差を導出する。
【0027】
このように、本発明によれば、既存の一般的な測定方法によって測定された実測誤差データを基に、前記機械座標系において予め設定された基準位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系の3次元空間内における、前記X軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構に係る各誤差データが導出され、導出された誤差データを基に、前記設定座標系の3次元空間内における工作機械の運動誤差が導出される。尚、前記基準位置X
a,Y
a,Z
aは、これを任意の位置に設定することができ、例えば、機械原点X
0、Y
0、Z
0に設定することもできる。
【0028】
斯くして、本発明によれば、上述した高価なレーザ測長器を用いることなく、また、これを用いた測定作業に比べて、その作業が簡単な既存の一般的な測定方法によって測定された実測誤差データを基に、機械座標系の3次元空間内における工作機械の運動誤差を同定することができる。したがって、かかる運動誤差の同定を廉価に、しかも簡単な作業で行うことができる。
【0029】
また、前記基準位置X
a,Y
a,Z
aを任意の位置に設定した設定座標系における運動誤差を同定するようにすれば、当該誤差データの利用の自由度を高めることができる。
【0030】
尚、導出される前記誤差データは、前記主軸の前端部における主軸中心位置に関するものとすることができる。このようにすれば、誤差を実測する際の測定器の突き出し等の変動要素をキャンセルすることができる。
【0031】
また、前記設定座標系の3次元空間内における前記主軸とテーブルとの相対的な運動誤差は、前記主軸に装着される工具の刃先に関するものであることができる。このようにすれば、得られた運動誤差量を用いて、その補正を行う際に、当該工具を用いた実際の加工に即した適正な補正を行うことができる。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本発明によれば、機械座標系の3次元空間内における工作機械の運動誤差を、上述した高価なレーザ測長器を用いることなく、また、これを用いた測定作業に比べてその作業が簡単な、既存の一般的な測定方法により測定された実測誤差データを基に同定することができ、かかる運動誤差の同定を廉価に、しかも簡単な作業で行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0035】
本例では、
図1及び
図2に示す横形のマシニングセンタ1の運動誤差を同定する方法について説明する。尚、このマシニングセンタ1は、平面視T字形状をしたベッド2と、このベッド2上にX軸方向に移動可能に設けられたコラム3と、コラム3にY軸方向に移動可能に保持された主軸頭4と、主軸頭4に回転自在に支持された主軸5と、ベッド2上にZ軸に沿って移動可能に設けられたテーブル6とを備える。
【0036】
そして、X軸送り機構(図示せず)によってコラム3がX軸方向に移動し、Y軸送り機構(図示せず)によって主軸頭4がY軸方向に移動し、Z軸送り機構(図示せず)によってテーブル6がZ軸方向に移動する。斯くして、これらX軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構によって、主軸5とテーブル6とがX軸,Y軸及びZ軸の直交3軸で形成される3次元空間内で相対的に移動する。
【0037】
1.運動誤差算出式
上記構造のマシニングセンタ1に関し、機械座標系の3次元空間内における、前記主軸5の前端中心位置(基準点)の運動誤差(位置決め誤差)は、以下の算出式によって算出できることが知られている。尚、α,β,γは、それぞれX,Y,Z座標の指令値であり、E
X(α,β,γ)はX軸方向の位置決め誤差、E
Y(α,β,γ)はY軸方向の位置決め誤差、E
Z(α,β,γ)はZ軸方向の位置決め誤差である。
(数式1)
E
X(α,β,γ)=E
XX(α)+E
XY(β)+E
XZ(γ)−(E
CX(α)+E
CZ(γ)+C
0Y)×β
(数式2)
E
Y(α,β,γ)=E
YX(α)+E
YY(β)+E
YZ(γ)+E
CZ(γ)×α
(数式3)
E
Z(α,β,γ)=E
ZX(α)+E
ZY(β)+E
ZZ(γ)+(E
AX(α)+E
AZ(γ)+A
0Y)×β−(E
BZ(γ)+B
0X)×α
但し、上記各誤差パラメータは、それぞれ以下の通り定義される。
E
XXは、X軸送り機構のX軸方向の位置決め誤差、
E
YYは、Y軸送り機構のY軸方向の位置決め誤差、
E
ZZは、Z軸送り機構のZ軸方向の位置決め誤差、
E
YXは、X軸送り機構のX軸−Y軸平面における真直誤差(Y軸方向)、
E
ZXは、X軸送り機構のX軸−Z軸平面における真直誤差(Z軸方向)、
E
XYは、Y軸送り機構のY軸−X軸平面における真直誤差(X軸方向)、
E
ZYは、Y軸送り機構のY軸−Z軸平面における真直誤差(Z軸方向)、
E
XZは、Z軸送り機構のZ軸−X軸平面における真直誤差(X軸方向)、
E
YZは、Z軸送り機構のZ軸−Y軸平面における真直誤差(Y軸方向)、
E
AXは、X軸送り機構におけるX軸まわりの角度誤差、
E
AYは、Y軸送り機構におけるX軸まわりの角度誤差、
E
AZは、Z軸送り機構におけるX軸まわりの角度誤差、
E
BXは、X軸送り機構におけるY軸まわりの角度誤差、
E
BYは、Y軸送り機構におけるY軸まわりの角度誤差、
E
BZは、Z軸送り機構におけるY軸まわりの角度誤差、
E
CXは、X軸送り機構におけるZ軸まわりの角度誤差、
E
CYは、Y軸送り機構におけるZ軸まわりの角度誤差、
E
CZは、Z軸送り機構におけるZ軸まわりの角度誤差、
A
0Yは、Y軸送り機構と理想Y軸とのX軸まわりの角度誤差、
B
0Xは、X軸送り機構と理想X軸とのY軸まわりの角度誤差、
C
0Yは、Y軸送り機構と理想Y軸とのZ軸まわりの角度誤差である。
【0038】
尚、上記以外の誤差パラメータとして、以下のものが考えられる。即ち、
Z軸送り機構と理想Z軸とのX軸まわりの角度誤差であるA
0Z、
Z軸送り機構と理想Z軸とのY軸まわりの角度誤差であるB
0Z、
X軸送り機構と理想X軸とのZ軸まわりの角度誤差であるC
0X。
【0039】
また、主軸5に装着された工具の位置決め誤差は、以下の算出式によって算出することができる。但し、主軸5の前端中心位置(基準点)を基準にした工具刃先のX軸方向の偏位をT
X、Y軸方向の偏位をT
Y、Z軸方向の偏位をT
Zとする。
(数式4)
E
X(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)=E
XX(α)+E
XY(β)+E
XZ(γ)−(E
CX(α)+E
CZ(γ)+C
0Y)×β+(E
BX(α)+E
BY(β)+E
BZ(γ))×T
Z−(E
CX(α)+E
CY(β)+E
CZ(γ))×T
Y
(数式5)
E
Y(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)=E
YX(α)+E
YY(β)+E
YZ(γ)+E
CZ(γ)×α+(E
CX(α)+E
CY(β)+E
CZ(γ))×T
X−(E
AX(α)+E
AY(β)+E
AZ(γ))×T
Z
(数式6)
E
Z(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)=E
ZX(α)+E
ZY(β)+E
ZZ(γ)+(E
AX(α)+E
AZ(γ)+A
0Y)×β−(E
BZ(γ)+B
0X)×α+(E
AX(α)+E
AY(β)+E
AZ(γ))×T
Y−(E
BX(α)+E
BY(β)+E
BZ(γ))×T
X
【0040】
そして、機械座標系における任意の位置であるX
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における上記位置決め誤差は、それぞれ以下の数式によって算出することができる。
(数式7)
E
X(α,β,γ)=E
XX(α)+E
XY(β)+E
XZ(γ)−(E
CX(α)+E
CZ(γ)+C
0Y)×(β−Y
a)
(数式8)
E
Y(α,β,γ)=E
YX(α)+E
YY(β)+E
YZ(γ)+(E
CZ(γ)×(α−X
a)
(数式9)
E
Z(α,β,γ)=E
ZX(α)+E
ZY(β)+E
ZZ(γ)+(E
AX(α)+E
AZ(γ)+A
0Y)×(β−Y
a)−(E
BZ(γ)+B
0X)×(α−X
a)
(数式10)
E
X(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)=E
XX(α)+E
XY(β)+E
XZ(γ)−(E
CX(α)+E
CZ(γ)+C
0Y)×(β−Y
a)+(E
BX(α)+E
BY(β)+E
BZ(γ))×T
Z−(E
CX(α)+E
CY(β)+E
CZ(γ))×T
Y
(数式11)
E
Y(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)=E
YX(α)+E
YY(β)+E
YZ(γ)+E
CZ(γ)×(α−X
a)+(E
CX(α)+E
CY(β)+E
CZ(γ))×T
X−(E
AX(α)+E
AY(β)+E
AZ(γ))×T
Z
(数式12)
E
Z(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)=E
ZX(α)+E
ZY(β)+E
ZZ(γ)+(E
AX(α)+E
AZ(γ)+A
0Y)×(β−Y
a)−(E
BZ(γ)+B
0X)×(α−X
a)+(E
AX(α)+E
AY(β)+E
AZ(γ))×T
Y−(E
BX(α)+E
BY(β)+E
BZ(γ))×T
X
【0041】
2.運動誤差の測定
まず、本例では、JIS B 6190−2、JIS B 6336−1に準拠し、以下の項目について誤差を測定する。尚、以下において、位置を表すときのX,Y,Zは、機械座標系における主軸5の前端中心(基準点)の位置を表しており、それぞれX軸送り機構、Y軸送り機構及びZ軸送り機構における機械原点からの前記基準点の位置を表す。
【0042】
[X軸について]
前記X軸送り機構(図示せず)を駆動し、所定ピッチ間隔でX
1,X
2・・・X
nの指令位置に前記基準点を移動させながら、以下のI
1〜I
6の測定項目について各誤差M
I1(X
k)〜M
I6(X
k)を測定する。但し、kは1〜nの整数である。また、各項目について測定する際の前記Y軸送り機構(図示せず)及びZ軸送り機構(図示せず)における指令位置は任意の位置Y
Im、Z
Imである。mは測定項目の添え字に対応する。
I
1:X軸位置決め誤差M
I1(X
k)を測定(JIS B 6190−2)
I
2:X軸真直度誤差M
I2(X
k)を測定(Y軸方向)(JIS B 6336−1)
I
3:X軸真直度誤差M
I3(X
k)を測定(Z軸方向)(JIS B 6336−1)
I
4:X軸角度誤差M
I4(X
k)を測定(X軸まわり)(JIS B 6336−1)
I
5:X軸角度誤差M
I5(X
k)を測定(Y軸まわり)(JIS B 6336−1)
I
6:X軸角度誤差M
I6(X
k)を測定(Z軸まわり)(JIS B 6336−1)
【0043】
[Y軸について]
前記Y軸送り機構(図示せず)を駆動し、所定ピッチ間隔でY
1,Y
2・・・Y
nの指令位置に前記基準点を移動させながら、以下のI
7〜I
12の測定項目について各誤差M
I7(Y
k)〜M
I12(Y
k)を測定する。但し、kは1〜nの整数である。また、各項目について測定する際の前記X軸送り機構(図示せず)及びZ軸送り機構(図示せず)における指令位置は任意の位置X
Im、Z
Imである。mは測定項目の添え字に対応する。
I
7:Y軸位置決め誤差M
I7(Y
k)を測定(JIS B 6190−2)
I
8:Y軸真直度誤差M
I8(Y
k)を測定(X軸方向)(JIS B 6336−1)
I
9:Y軸真直度誤差M
I9(Y
k)を測定(Z軸方向)(JIS B 6336−1)
I
10:Y軸角度誤差M
I10(Y
k)を測定(X軸まわり)(JIS B 6336−1)
I
11:Y軸角度誤差M
I11(Y
k)を測定(Y軸まわり)(JIS B 6336−1)
I
12:Y軸角度誤差M
I12(Y
k)を測定(Z軸まわり)(JIS B 6336−1)
【0044】
[Z軸について]
前記Z軸送り機構(図示せず)を駆動し、所定ピッチ間隔でZ
1,Z
2・・・Z
nの指令位置に前記基準点を移動させながら、以下のI
13〜I
18の測定項目について各誤差M
I13(Z
k)〜M
I18(Z
k)を測定する。但し、kは1〜nの整数である。また、各項目について測定する際の前記X軸送り機構(図示せず)及びY軸送り機構(図示せず)における指令位置は任意の位置X
Im、Y
Imである。mは測定項目の添え字に対応する。
I
13:Z軸位置決め誤差M
I13(Z
k)を測定(JIS B 6190−2)
I
14:Z軸真直度誤差M
I14(Z
k)を測定(X軸方向)(JIS B 6336−1)
I
15:Z軸真直度誤差M
I15(Z
k)を測定(Y軸方向)(JIS B 6336−1)
I
16:Z軸角度誤差M
I16(Z
k)を測定(X軸まわり)(JIS B 6336−1)
I
17:Z軸角度誤差M
I17(Z
k)を測定(Y軸まわり)(JIS B 6336−1)
I
18:Z軸角度誤差M
I18(Z
k)を測定(Z軸まわり)(JIS B 6336−1)
【0045】
[直角度について]
上記非特許文献1に従い、ダブルボールバーを用い、テーブル側のボールの中心位置を任意の位置X
i,Y
i,Z
iに設定して、主軸5の前記基準点を、X−Y平面、X−Z平面及びY−Z平面内で、それぞれバーの長さを回転半径として円弧移動させ、当該バーの伸縮量からバーの長さM
Aij(Y−Z平面)、M
Bij(X−Z平面)及びM
Cij(X−Y平面)を測定する。M
Aijは、主軸5の基準点を、X
iを定位置とするY−Z平面内において円弧移動させたときの、位置Y
Aij,Z
Aijにおけるバーの長さであり、M
Bijは、主軸5の基準点を、Y
iを定位置とするX−Z平面内において円弧移動させたときの、位置X
Bij,Z
Bijにおけるバーの長さであり、M
Cijは、主軸5の基準点を、Z
iを定位置とするX−Y平面内において円弧移動させたときの、位置X
Cij,Y
Cijにおけるバーの長さである。但し、iは1〜gの整数であり、直角度の測定回数を意味する。jは1〜hの整数であり、主軸5の位置のサンプリング個数を意味する。
【0046】
ダブルボールバーを用いて、X−Y平面内におけるX軸送り機構とY軸送り機構との直角度を測定した測定データ(バーの伸縮量)の一例を
図3に示す。
図3において、実線による線図が2つ示されているが、一方が主軸5の基準点を正転させた場合で、他方が逆転させた場合を示している。また、太い一点鎖線の円は基準円を示しており、細い一点鎖線の円は目盛りを表している。
【0047】
そして、得られた測定値M
Aij,M
Bij,M
Cijを基に、非特許文献1に従い、テーブル側のボールの中心位置がX
i,Y
i,Z
iにあるときのX軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構についての直角度P
Ai,P
Bi,P
Ci,及び直角度誤差A
0Y
i,B
0X
i,C
0Y
iを算出する。
但し、P
Aiは、Y軸送り機構と理想Z軸との直角度、
P
Biは、X軸送り機構と理想Z軸との直角度、
P
Ciは、Y軸送り機構と理想X軸との直角度、
A
0Y
iは、Y軸送り機構と理想Y軸とのX軸まわりの角度誤差、
B
0X
iは、X軸送り機構と理想X軸とのY軸まわりの角度誤差、
C
0Y
iは、Y軸送り機構と理想Y軸とのZ軸まわりの角度誤差である。
【0048】
尚、直角度P
Ai,P
Bi,P
Ciは、それぞれ測定値M
Aij,M
Bij,M
Cijの関数として表され、jが1〜hであるときの、測定値M
Aijの総データをM
Aiとし、測定値M
Bijの総データをM
Biとし、測定値M
Cijの総データをM
Ciとすると、
f
A(M
Ai)=P
Ai、
f
B(M
Bi)=P
Bi、
f
C(M
Ci)=P
Ci
となる。
【0049】
3.X軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構における誤差パラメータの同定
次に、上記のようにして測定した各誤差データM
I1(X
k)〜M
I6(X
k)、M
I7(Y
k)〜M
I12(Y
k)及びM
I13(Z
k)〜M
I18(Z
k)を基に、X軸送り機構,Y軸送り機構及びZ軸送り機構における上記誤差パラメータE
XX,E
YY,E
ZZ,E
YX,E
ZX,E
XY,E
ZY,E
XZ,E
YZ,E
AX,E
AY,E
AZ,E
BX,E
BY,E
BZ,E
CX,E
CY,E
CZをそれぞれ同定する。
【0050】
一例として、X軸の真直度誤差M
I3(X
k)(Z軸方向)について検討すると、
図1及び
図2に示すように、M
I3(X
k)は、X軸、Y軸及びZ軸の各指令位置において、インジケータ(例えば、ダイアルゲージ)が突き出した状態で測定が行われるため、これらが誤差要因と見做される。そして、測定対象であるX軸以外のY軸の指令値Y
I3及びZ軸の指令値Z
I3、並びにインジケータの3方向突き出し量L
I3X,L
I3Y,L
I3Zはそれぞれ一定であるので、M
I3(X
k)は下式で表わされる。
M
I3(X
k)=E
Z(X
k,Y
I3,Z
I3,L
I3X,L
I3Y,L
I3Z)+Const
I3
但し、Const
I3は、定数項である
【0051】
そして、機械座標系における任意の位置であるX
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における誤差として、前記E
z(X
k,Y
I3,Z
I3,L
X,L
Y,L
Z)を展開すると、前記数式12から、
M
I3(X
k)=E
ZX(X
k)+E
ZY(Y
I3)+E
ZZ(Z
I3)+(E
AX(X
k)+E
AZ(Z
I3)+A
0Y)×(Y
I3−Y
a)−(E
BZ(Z
I3)+B
0X)×(X
k−X
a)+(E
AX(X
k)+E
AY(Y
I3)+E
AZ(Z
I3))×L
I3Y−(E
BX(X
k)+E
BY(Y
I3)+E
BZ(Z
I3))×L
I3X+Const
I3
となり、更に、定数項をConst
I3に集約すると、
M
I3(X
k)=E
ZX(X
k)+E
AX(X
k)×(Y
I3−Y
a)+(E
BZ(Z
I3)+B
0X)×X
k+E
AX(X
k)×L
I3Y−E
BX(X
k)×L
I3X+Const
I3
となる。そして、
E’
ZX(X
k)=E
ZX(X
k)+(E
BZ(Z
I3)+B
0X)×X
k
と置くと、
M
I3(X
k)=E'
ZX(X
k)+E
AX(X
k)×(Y
I3−Y
a)+E
AX(X
k)×L
I3Y−E
BX(X
k)×L
I3X+Const
I3
となる。E'
ZX(X
k)はE
ZX(X
k)と同一視できるので、最終的に、
M
I3(X
k)=E
ZX(X
k)+E
AX(X
k)×(Y
I3−Y
a)+E
AX(X
k)×L
I3Y−E
BX(X
k)×L
I3X+Const
I3
となる。
このように、X軸の真直度誤差M
I3(X
k)は、X軸送り機構の直角度(B
0X)及びY軸送り機構の直角度(A
0Y)を用いない式として表現することができる。
【0052】
また、X軸のZ軸まわりの角度誤差M
I6(X
k)について見ると、角度誤差の場合には、他の誤差要因は無いため、角度誤差M
I6(X
k)は下式で表わされる。
M
I6(X
k)=E
CX(X
k)+Const
I6
但し、Const
I6は、定数項である
【0053】
以上の検討から、上記各誤差は、X軸送り機構の直角度(B
0X)、Y軸送り機構の直角度(A
0Y)及びZ軸送り機構の直角度(C
0Y)を用いない式として、以下ように表される。
M
I1(X
k)=E
XX(X
k)−E
CX(X
k)×(Y
I1−Y
a)+E
BX(X
k)×L
I1Z−E
CX(X
k)×L
I1Y+Const
I1
M
I2(X
k)=E
YX(X
k)+E
CX(X
k)×L
I2X−E
AX(X
k)×L
I2Z+Const
I2
M
I3(X
k)=E
ZX(X
k)+E
AX(X
k)×(Y
I3−Y
a)+E
AX(X
k)×L
I3Y−E
BX(X
k)×L
I3X+Const
I3
M
I4(X
k)=E
AX(X
k)+Const
I4
M
I5(X
k)=E
BX(X
k)+Const
I5
M
I6(X
k)=E
CX(X
k)+Const
I6
M
I7(Y
k)=E
YY(Y
k)+E
CY(Y
k)×L
I7X−E
AY(Y
k)×L
I7Z+Const
I7
M
I8(Y
k)=E
XY(Y
k)+E
BY(Y
k)×L
I8X−E
CY(Y
k)×L
I8Y+Const
I8
M
I9(Y
k)=E
ZY(Y
k)+E
AY(Y
k)×L
I9Y−E
BY(Y
k)×L
I9X+Const
I9
M
I10(Y
k)=E
AY(Y
k)+Const
I10
M
I11(Y
k)=E
BY(Y
k)+Const
I11
M
I12(Y
k)=E
CY(Y
k)+Const
I12
M
I13(Z
k)=E
ZZ(Z
k)+E
AZ(Z
k)×(Y
I13−Y
a)−E
BZ(Z
k)×(X
I13−X
a)
I+E
AZ(Z
k)×L
I13Y−E
BZ(Z
k)×L
I13X+Const
I13
M
I14(Z
k)=E
XZ(Z
k)−E
CZ(Z
k)×(Y
I14−Y
a)+E
BZ(Z
k)×L
I14Z−E
CZ(Z
k)×L
I14Y+Const
I2
M
I15(Z
k)=E
YZ(Z
k)+E
CZ(Z
k)×(X
I3−X
a)+E
CZ(Z
k)×L
I15X−E
AZ(Z
k)×L
I15Z+Const
I15
M
I16(Z
k)=E
AZ(Z
k)+Const
I16
M
I17(Z
k)=E
BY(Z
k)+Const
I17
M
I18(Z
k)=E
CY(Z
k)+Const
I18
【0054】
そして、以上から、各誤差パラメータは、
E
XX(X
k)=M
I1(X
k)+E
CX(X
k)×(Y
I1−Y
a)−E
BX(X
k)×L
I1Z+E
CX(X
k)×L
I1Y−Const
I1
E
YX(X
k)=M
I2(X
k)−E
CX(X
k)×L
I2X+E
AX(X
k)×L
I2Z−Const
I2
E
ZX(X
k)=M
I3(X
k)−E
AX(X
k)×(Y
I3−Y
a)−E
AX(X
k)×L
I3Y+E
BX(X
k)×L
I3X−Const
I3
E
AX(X
k)=M
I4(X
k)−Const
I4
E
BX(X
k)=M
I5(X
k)−Const
I5
E
CX(X
k)=M
I6(X
k)−Const
I6
E
YY(Y
k)=M
I7(Y
k)−E
CY(Y
k)×L
I7X+E
AY(Y
k)×L
I7Z−Const
I7
E
XY(Y
k)=M
I8(Y
k)−E
BY(Y
k)×L
I8X+E
CY(Y
k)×L
I8Y−Const
I8
E
ZY(Y
k)=M
I9(Y
k)−E
AY(Y
k)×L
I9Y+E
BY(Y
k)×L
I9X−Const
I9
E
AY(Y
k)=M
I10(Y
k)−Const
I10
E
BY(Y
k)=M
I11(Y
k)−Const
I11
E
CY(Y
k)=M
I12(Y
k)−Const
I12
E
ZZ(Z
k)=M
I13(Z
k)−E
AZ(Z
k)×(Y
I13−Y
a)+E
BZ(Z
k)×(X
I13−X
a)
I−E
AZ(Z
k)×L
I13Y+E
BZ(Z
k)×L
I13X−Const
I13
E
XZ(Z
k)=M
I14(Z
k)+E
CZ(Z
k)×(Y
I14−Y
a)−E
BZ(Z
k)×L
I14Z+E
CZ(Z
k)×L
I14Y−Const
I2
E
YZ(Z
k)=M
I15(Z
k)−E
CZ(Z
k)×(X
I15−X
a)−E
CZ(Z
k)×L
I15X+E
AZ(Z
k)×L
I15Z−Const
I15
E
AZ(Z
k)=M
I16(Z
k)−Const
I16
E
BY(Z
k)=M
I17(Z
k)−Const
I17
E
CY(Z
k)=M
I18(Z
k)−Const
I18
となる。
【0055】
斯くして、上式により、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における各誤差パラメータを同定することができる。尚、定数項であるConst
I1〜Const
I18は各誤差のゼロ点の取り方を変更するための自由度と考えることができる。
4.直角度誤差パラメータの同定
次に、上記のようにして測定した直角度に関する測定値M
Aij,M
Bij,M
Cij、これらから算出される直角度P
Ai,P
Bi,P
Ci,並びに直角度誤差A
0Y
i,B
0X
i,C
0Y
iを基に、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における直角度誤差A
0Y,B
0X,C
0Yを同定する。
【0056】
この直角度誤差A
0Y,B
0X,C
0Yの同定に先立ち、その算出根拠について、説明する。上述したように、直角度P
Ai,P
Bi,P
Ciは、それぞれ測定値M
Aij,M
Bij,M
Cijの関数として表され、測定値M
Aijの総データをM
Aiとし、測定値M
Bijの総データをM
Biとし、測定値M
Cijの総データをM
Ciとすると、
(数式13)
f
A(R
Aij)=P
Ai、
(数式14)
f
B(R
Bij)=P
Bi、
(数式15)
f
C(R
Cij)=P
Ci
となる。
【0057】
一方、ダブルボールバーを用いて主軸5を円弧移動させる場合、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における主軸5の指令値に対する位置決め誤差は、上述した数式10〜12を用いて算出することができる。したがって、テーブル側に配置される球体の機械座標系における位置をX
i,Y
i,Z
iとし、このX
i,Y
i,Z
iを中心としてX−Y平面内で円弧移動する主軸5の前記基準点の位置をX
ik,Y
ik,Z
iとすると、バーの長さS
Cikは、以下の式によって算出することができる。
(数式16)
S
Cik=((X
ik+E
Xik−X
i)
2+(Y
ik+E
Yik−Y
i)
2+(Z
i+E
Zik−Z
i)
2)
1/2
尚、E
Xik、E
Yik及びE
Zikは、上述した数式10〜12により算出される主軸5の位置決め誤差である。ここで、数式10中のC
0Y、数式12中のA
0Y及びB
0Xは、それぞれ仮定の値として、任意の値であるC
0Y’、A
0Y’及びB
0X’を用いて算出する。
E
Xik=E
X(X
ik,Y
ik,Z
i,t
X,t
Y,t
Z)
E
Yik=E
Y(X
ik,Y
ik,Z
i,t
X,t
Y,t
Z)
E
Zik=E
Z(X
ik,Y
ik,Z
i,t
X,t
Y,t
Z)
t
X、t
Y、t
Zは、主軸側の球体が、主軸5の前記基準点からそれぞれX軸、Y軸、Z軸方向に偏位した距離である。
【0058】
また、数式16において、E
Xik,E
Yik及びE
Zikはそれぞれ微小な値であるので、その2乗項をゼロに近似すれば、S
Cikは下式で表わされる。
(数式17)
S
Cik=((X
ik−X
i)
2+(Y
ik−Y
i)
2+2E
Xik(X
ik−X
i)+2E
Yik(Y
ik−Y
i))
1/2
【0059】
そして、算出されるバーの長さS
Cikの総データをS
Ciとすると、このS
Ciから算出される直角度P'
Ciは、以下の関係式となる。
(数式18)
f(S
Ci)=P'
Ci
ここで、上述した仮定の直角度誤差C
0Y’が、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における真の直角度誤差C
0Yと等しいならば、以下の関係式が成立する。
C
0Y−P
Ci=C
0Y’−P'
Ci
そして、この式を変形すると以下の通りとなる。
(数式19)
C
0Y=C
0Y’−P'
Ci+P
Ci
【0060】
斯くして、上記のように仮定したC
0Y’、数式15によって算出される直角度P
Ci、及び数式18によって算出される直角度P'
Ciから、数式19を用いて、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における真の直角度誤差C
0Yを同定することができる。
【0061】
同様にして、直角度誤差B
0Xについては、X−Z平面内で円弧移動する主軸5の基準点をX
ik,Y
i,Z
ikとすると、バーの長さS
Bikは、
S
Bik=((X
ik+E
Xik−X
i)
2+(Y
i+E
Yik−Y
i)
2+(Z
ik+E
Zik−Z
i)
2)
1/2
となり、微小な値であるE
Xik,E
Yik及びE
Zikの2乗項をゼロに近似すると、
(数式20)
S
Bik=((X
ik−X
i)
2+(Z
ik−Z
i)
2+2E
Xik(X
ik−X
i)+2E
Zik(Z
ik−Z
i))
1/2
となる。
【0062】
そして、算出されるバーの長さS
Bikの総データをS
Biとすると、このS
Biから算出される直角度P'
Biは、以下の関係式となる。
(数式21)
f(S
Bi)=P'
Bi
よって、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした座標系における真の直角度誤差B
0Xは、上記のように仮定したB
0X’、上記数式14によって算出される直角度P
Bi及び上記数式21によって算出される直角度P'
Biから、下記数式22によって、これを同定することができる。
(数式22)
B
0X=B
0X’−P'
Bi+P
Bi
【0063】
また、直角度誤差A
0Yについては、Y−Z平面内で円弧移動する主軸5の位置をX
i,Y
ik,Z
ikとすると、バーの長さS
Aikは、
S
Aik=((X
i+E
Xik−X
i)
2+(Y
ik+E
Yik−Y
i)
2+(Z
ik+E
Zik−Z
i)
2)
1/2
となり、微小な値であるE
Xik,E
Yik及びE
Zikの2乗項をゼロに近似すると、
(数式23)
S
Aik=((Y
ik−Y
i)
2+(Z
ik−Z
i)
2+2E
Yik(Y
ik−Y
i)+2E
Zik(Z
ik−Z
i))
1/2
となる。
【0064】
そして、算出されるバーの長さS
Aikの総データをS
Aiとすると、このS
Aiから算出される直角度P'
Aiは、以下の関係式となる。
(数式24)
f(S
Ai)=P'
Ai
よって、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした座標系における真の直角度誤差A
0Yは、上記のように仮定したA
0Y’、上記数式13によって算出される直角度P
Ai及び上記数式24によって算出される直角度P'
Aiから、下記数式25によって、これを同定することができる。
(数式25)
A
0Y=A
0Y’−P'
Ai+P
Ai
【0065】
以上のようにして、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における直角度誤差A
0Y,B
0X,C
0Yを同定する。尚、機械原点を基準にした機械座標系における直角度誤差A
0Y,B
0X,C
0Yを同定する場合には、X
a=0、Y
a=0、Z
a=0として算出したE
Xik、E
Yik、E
Zikの値を用いて、それぞれ直角度誤差A
0Y,B
0X,C
0Yを同定する。
【0066】
5.運動誤差の同定
上記のようにして同定した各誤差パラメータを用い、機械座標系の3次元空間内における、主軸5の基準点の位置決め誤差E
X(α,β,γ)、E
Y(α,β,γ)及びE
Z(α,β,γ)は、上述した数式1〜3によって同定され、同じく機械座標系の3次元空間内における、主軸5に装着された工具の刃先の位置決め誤差E
X(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)、E
Y(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)及びE
Z(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)は、それぞれ上述した数式4〜6によって同定される。
【0067】
また、機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における主軸5の基準点の位置決め誤差E
X(α,β,γ)、E
Y(α,β,γ)及びE
Z(α,β,γ)は、上述した数式7〜9によって同定され、主軸5に装着された工具の刃先の位置決め誤差E
X(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)、E
Y(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)及びE
Z(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)は、それぞれ上述した数式10〜12によって同定される。
【0068】
斯くして、本例では、以上のようにして機械座標系の任意の位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における、前記主軸5の基準点についての運動誤差(位置決め誤差)E
X(α,β,γ)、E
Y(α,β,γ)及びE
Z(α,β,γ)、並びに工具刃先についての位置決め誤差E
X(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)、E
Y(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)及びE
Z(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)を算出することができる。また、X
a=0、Y
a=0、Z
a=0とすれば、機械座標系における運動誤差E
X(α,β,γ)、E
Y(α,β,γ)、E
Z(α,β,γ)、並びにE
X(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)、E
Y(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)、E
Z(α,β,γ,T
X,T
Y,T
Z)を算出することができる。
【0069】
このように、本例によれば、JISの規定に準拠する一般的な測定方法によって測定された実測誤差データを基に、前記機械座標系、及び任意の基準位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系についての、当該3次元空間内における、前記基準点の運動誤差及び工具の刃先の運動誤差を同定することができる。したがって、かかる運動誤差の同定を廉価に、しかも簡単な作業で行うことができる。
【0070】
また、任意の基準位置X
a,Y
a,Z
aを原点とした設定座標系における運動誤差を同定することができるので、当該誤差データの利用の自由度を高めることができる。
【0071】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0072】
例えば、上例では、前記各誤差の測定をJISの規定に準拠したものとしたが、前記各誤差を、JISの規定と同等に、或いはこれ以上に正確にしかも容易に行うことができれば、他の方法によって測定するようにしても良い。
【0073】
また、上記各誤差パラメータE
XX,E
YY,E
ZZ,E
YX,E
ZX,E
XY,E
ZY,E
XZ,E
YZ,E
AX,E
AY,E
AZ,E
BX,E
BY,E
BZ,E
CX,E
CY,E
CZの算出式は、一例を示したものであって、これに限られるものではなく、これらを他の算出式によって算出するようにしても良い。直角度誤差A
0Y,B
0X,C
0Yの同定についても同様に、上述した例に限られるものではなく、他の方法によってこれらを同定するようにしても良い。