(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記デジタルマイクロ流体電極のアレイが、約5〜100ミクロンの間である幅を有する電極間トレンチを含む、請求項1〜2のいずれか一項に記載のデジタルマイクロ流体装置。
前記デジタルマイクロ流体電極のアレイが約1ミクロン未満である深さを有する電極間トレンチを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のデジタルマイクロ流体装置。
前記領域がデジタルマイクロ流体電極のアレイのうちの1つの電極の下に位置し、該電極に開口部が形成されて該領域を露出させている、請求項16に記載のデジタルマイクロ流体装置。
親水性層がラテラルフローチャネルを含み、該ラテラルフローチャネルが、前記開口部に接触する小滴と流体連通している、請求項18に記載のデジタルマイクロ流体装置。
前記開口部の下の親水性層の露出された領域が疎水性壁によって包囲され、それによって該開口部の下に親水性パッドを形成している、請求項18に記載のデジタルマイクロ流体装置。
デジタルマイクロ流体装置から離間した関係で提供されたトッププレートをさらに含む、デジタルマイクロ流体装置であって、該トッププレートが、誘電体層でコートされた少なくとも一つの電極を含み、該誘電体層が疎水性表面を有する、請求項1〜25のいずれか一項に記載のデジタルマイクロ流体装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
以下に記す詳細を参照しながら本開示の様々な態様および局面を説明する。以下の詳細な説明および図面は、本開示を説明するものであり、本開示を限定するものと解釈されてはならない。本開示の様々な態様の徹底的な理解を提供するために数多くの具体的な詳細を記載する。しかし、場合によっては、本開示の態様の簡潔な説明を提供するため、周知の詳細または従来的な詳細は記載しない。
【0015】
本明細書の中で使用される、用語「含む」は、包含的かつ開放的であると解釈されなければならず、排他的と解釈されてはならない。具体的には、明細書および特許請求の範囲で使用されるとき、用語「含む」およびその変化形は、指定された特徴、工程または構成要素が含まれることを意味する。これらの語は、他の特徴、工程または構成要素の存在を排除するものと解釈されてはならない。
【0016】
本明細書の中で使用される用語「例示的」は、「模範、実例または例証として役立つ」ことを意味し、本明細書に開示される他の形態よりも好ましい、または有利であるものと解釈されるべきではない。
【0017】
本明細書の中で使用される用語「約」および「およそ」は、数値の範囲の上限および下限内に存在し得る変動、たとえば性質、パラメータおよび寸法の変動を包含することを意味する。一つの非限定的な例において、用語「約」および「およそ」は±10%以下を意味する。
【0018】
別段に定義されない限り、本明細書の中で使用されるすべての科学技術用語は、当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有するとされる。
【0019】
デジタルマイクロフルイデックス(DMF)は、電場を使用して電極のアレイ上でナノないしマイクロリットルサイズの液滴を操作するための技術プラットフォームである。静電力を使用して、リザーバからの滴の合流、混合、分割および分注を、すべて、ポンプまたは可動パーツを用いることなく、行うことができる。
【0020】
DMFは広い範囲の用途に適用されているが[17]、重大な課題が、スケーラブルかつ経済的な装置作製方法の欠如であった―大部分の大学研究室は、クリーンルーム施設中でフォトリソグラフィーを使用してガラスおよびシリコン上に電極のパターンを形成する。一つのスケーラブルな技術が、DMF装置を形成するためのプリント回路板(PCB)作製の使用である[18〜20]。残念ながら、そのような装置は、確実で効率的な小滴の駆動および輸送を妨げる、電極の厚みに伴う性能問題をかかえている。
【0021】
本開示の態様は、プリント法によって作製され得るデジタルマイクロ流体アレイであって、デジタルマイクロ流体電極アレイがインクジェット印刷のようなプリント法によって基材上にプリントされている、デジタルマイクロ流体アレイを提供する。いくつかの態様において、基材および/またはインクは、たとえば表面エネルギーの変化によって、電極アレイのプリントを支持するように前処理または改質される。いくつかの態様において、多孔質および/または繊維質の基材は、バリア層の付加によって、または、たとえば、表面がプリントされた電極を支持することができるようにするための適当な材料の付加もしくは浸潤によって前処理される。
【0022】
以下に説明するように、本明細書に開示される方法にしたがって形成されるプリントデジタルマイクロ流体アレイは、PCBベースのデジタルマイクロ流体装置に伴う性能限界の多くを解消することがわかった。さらには、いくつかの態様にしたがって、デジタルマイクロ流体装置は、インクジェット印刷のような簡単かつスケーラブルなプリント法を使用してポリマーベースおよび紙ベースの基材のような安価な基材上で効率的かつ安価に作製され得る。そのような方法は、優れた性能を提供し得、速やかなプロトタイプ化および/または生産によりよく適合し得る。
【0023】
一つの例示的態様において、デジタルマイクロ流体装置は、デジタルマイクロ流体電極のアレイを基材上に直接プリントすることによって作製される。デジタルマイクロ流体アレイおよび装置を形成するための従来法とは違って、本明細書に開示される直接プリント法は、容易にスケーリングされ得る速やかで費用対効果の大きいDMF作製方法を提供する。一つの例示的実施形態にしたがって、デジタルマイクロ流体電極のアレイはインクジェット印刷によって形成され得る。本明細書に記載される作製技術は、ロール・ツー・ロール法のようなより大規模な方法へとスケーリングされ得る[27、28]。
【0024】
インクジェット印刷のようなプリント法によるデジタルマイクロ流体電極の形成には多種多様な導電性インクまたは液体が用いられ得る。一つの非限定的な例においては、銀ナノ粒子ベースのインクが、表面上のデジタルマイクロ流体アレイの形成に用いられる。使用され得る市販のインクは、SunTronic U5603(Sun Chemical)、Cabot Conductive Ink CCI-300およびXerox 32% Nanosilver Inkを含む。
【0025】
いくつかの態様においては、中程度に導電性のインクを用い得る。たとえば、中程度に導電性のインクの付着によって形成されるトレースは、適当な作動条件を与えられると、>20kΩよりも大きい、たとえば最大約200kΩ、またはより高い抵抗を有し得る。
【0026】
または、有機ポリマーインクを基材上でのデジタルマイクロ流体電極の形成に用いてもよい。たとえば、PEDOT:PSSのようなインク、他の金属(たとえば銅)を含有するインクを、ナノ粒子の懸濁液として、または溶液状態(たとえば硝酸銀)でのいずれかで用いてもよい。また、他のタイプのインク、たとえばカーボンナノチューブを含有するインクなどを用いてもよい。
【0027】
インクジェット印刷法は、プリントノズルの目詰まりを防ぐように制御され得る。たとえば、本発明者らは、インクジェット印刷法の実験的開発中、インクジェット印刷中のノズルの目詰まりを含む問題に遭遇することを見いだした。そのような問題は、インクが懸濁状態の粒子を含有する(大部分の導電性インクに当てはまる)せいで起こる可能性がある。使用前にインクをろ過することが、プリントの性能を改善し、目詰まりを減らす、または回避させることが見いだされた。一例においては、インクをカートリッジに装填する前に、0.45μmナイロンフィルタを用いてインクをろ過した。さらに、インクのボトルおよび装填済みカートリッジは、使用しないときは4℃に維持した。
【0028】
また、インクジェット印刷を含む方法を用いるとき、プリンタ製造者(Dimatix)によって供給されるプリントヘッドクリーニングパッドが、本明細書に記載されるデジタルマイクロ流体装置を製造するために使用される粒子ベースの導電性インクに十分には適さないことがわかった。提供されるクリーニングパッドは吸着性セルロースパッドであり、プリンタは、プリントヘッドをクリーニングパッドと一時的に接触させることにより、該パッド上で、ノズルからインクを定期的に取り除く、および/または、プリントヘッドから過剰なインクを吸い取るようにプログラムされることができる。これらの導電性インクを用いる場合、クリーニングパッドがすぐに飽和するため、この手法は無効である。セルロースクリーニングパッドをリントフリーのペーパータオル(たとえばKimwipes)で巻き、エタノール/エチレングリコールの50/50混合物に浸漬したペーパータオルを用いてプリントヘッドを手でやさしく拭き取ることが、ノズル目詰まりの発生を劇的に減らすことがわかった。
【0029】
さらに、安定な噴射挙動を達成するために噴射波形をチューニング(タイミングおよび振幅)したことが留意される。はじめに、インク製造者によって供給された波形およびパラメータを用いた。プリントヘッドノズルから出る滴のリアルタイムビデオを見ながら滴の速度、形状、軌道などを改善するための調節を施した。また、適当な滴間隔(インクおよび基材の表面エネルギーに依存する)を決定するための実験を実施した。たとえば、紙ベースの基材上の電極アレイのプリントを含む本明細書に記載される例においては、調査したすべてのインク/紙の組み合わせに関して滴間隔を約25〜35ミクロンに維持した。
【0030】
本明細書に提供される方法にしたがって多種多様な基材および表面にデジタルマイクロ流体アレイ電極をプリントし得る。たとえば、デジタルマイクロ流体アレイ電極のプリントに用い得る基材は、ポリマーフィルム、たとえばポリエステル、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN);絶縁体基材、たとえばガラス基材;半導体基材、たとえばシリコン;および複合基材、たとえばFR-4を含む。上記インクの多くが、インクジェット印刷を使用してそのような材料に電極を形成するのに適当であることがわかった。
【0031】
また、イジェクト印刷に加えて、他のプリント法、たとえばスクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセットリソグラフィー、マイクロコンタクトプリント、エアゾールジェット印刷を用いてもよいことが理解されよう。
【0032】
DMFによる小滴操作に適するためには、基材は、電気絶縁性であり、かつ接触線摩擦を減らすために低い表面粗さを有するべきである。疎水性/誘電体層(プリントされた電極層の上に位置する)の表面粗さは、容易な滴移動を可能にするために1ミクロン未満であるべきである。したがって、基材表面粗さに対する制約は、疎水性/誘電体層の、この下にある粗さをならす能力に依存する。疎水性/誘電体層が完璧に共形であるならば、基材の表面粗さは約1ミクロン未満であるべきであるが、いくつかの疎水性/誘電体コーティングはより粗い基材を可能にし得る。
【0033】
電極のプリントに適するためには、基材はまた、導電性インクが基材に接着し、隣接する滴が、つながった導電性の形体を形成するような、表面粗さおよび表面エネルギーに対する特定の制約を満たすべきである。
【0034】
基材粗さおよび表面エネルギーに対する特定の制約がインクと基材との間の物理的および化学的相互作用に依存することが理解されよう。表面エネルギーが大きすぎるならば、プリントされた滴は、明確に画定された円形のスポットに閉じ込められず、制御不可能な様式で外側に自発的に移動し得る。表面エネルギーが低すぎるならば、インク小滴は、制御不可能な様式で表面に溜まり得、隣接するプリントされた滴と接触することはなく、結果として導電性形体間にギャップを形成する可能性がある。
【0035】
いくつかの態様においては、所与の表面への所与のインクのプリントを容易にするために表面エネルギーを改変し得る。あらゆる所与のインクおよび表面について、プリントされた滴が乾燥して明確に画定された円形スポットを形成するための表面エネルギーの範囲がある。電極をプリントするための条件を得るためには、以下の方法のいずれかまたはすべてを用いて表面エネルギーを変化させ得る。
【0036】
一つの態様においては、これらの滴の体積および得られる乾燥円形スポットの直径に依存して、隣接する滴によって残されるスポットが連続的な導電性形体を形成するように滴の間隔を調節することができる。
【0037】
別の態様においては、インクの化学組成を変化させることによって表面エネルギーを制御し得る。
【0038】
他の態様においては、基材またはその表面の上に電極をプリントする前に、基材またはその表面を処理または改質してもよい。たとえば化学処理またはプラズマ処理(たとえば酸素プラズマ処理)による表面の改質によって、たとえば、表面エネルギー(または等価物または関連する尺度、たとえば接触角)を制御することができる。そのような態様が
図1Aに示されている。
図1Aは、小滴の形成、特にその円対称性および直径に対する表面エネルギーの効果を示すために、5分間の酸素プラズマ処理を用いた場合および用いなかった場合の、ガラスおよびカプトンにプリントされたインクスポットのテストパターン(254ミクロングリッド上で間隔をあけて配置されたドット)の画像を示す。この図から、その上の電極のプリントに適した条件を得るために、制御されるやり方で表面特性を改変し得ることが明らかである。
【0039】
他の態様において、基材は、多孔質または繊維質である材料から形成されてもよく、かつ電極のプリントを上に支持するのに適当な表面粗さおよび表面特性で形成されているさらなるバリア層をその上に含んでもよい。
図1Bを参照すると、デジタルマイクロ流体電極のアレイが多孔質基材110上に形成されている例示的態様が示されている。いくつかの態様において、多孔質基材110は少なくとも一つの多孔質層115を含み、多孔質層は、その上に提供されたバリア層120を有する。バリア層120は、たとえばプリントによって電極をその上に形成するのに適した層である。以下に説明するように、バリア層120に加えて、その上への電極の形成を容易にするために、一つまたは複数のさらなる層が提供されてもよい。
【0040】
図1Bに示す例示的アレイは、バリア層120上に提供されている駆動電極130およびリザーバ電極140を含む。一つの態様において、各電極は、導電路を介して各電極に接続されている専用のコンタクト電極によって各々駆動され得る(そのようなコンタクト電極および導電路は
図1Bには示されていない。電極130および140は、小滴輸送に適したサイズ、間隔および形状を備えている。適当なパラメータおよび幾何学的範囲は以下に詳細に説明される。
【0041】
いくつかの態様において、多孔質材料の層は繊維質材料であり得る。繊維質材料は天然セルロース系材料から形成され得る。たとえば、繊維質層は、リグノセルロース系材料、たとえば木、布きれおよび/または草から得られるセルロース系パルプ由来であり得る。
【0042】
いくつかの態様において、繊維質層は、紙または紙ベースの材料の一つまたは複数の層であり得る。紙または紙ベースの材料は、製紙法、たとえば化学パルプ化法、たとえば非限定的に、クラフト法および亜硫酸パルプ化法、機械的パルプ化法および再生法から形成され得る。紙は、その上に電極を形成するのに適した任意の種の紙、たとえば印刷および筆記用紙、包装紙、板紙、厚紙、カードストック、ろ紙および他の特殊紙であり得る。
【0043】
いくつかの態様において、繊維質層は少なくとも部分的に繊維織物材料から形成されてもよい。繊維織物材料の例は、織編材料、たとえば布およびシート状構造に形成された他の生地を含む。
【0044】
いくつかの態様において、繊維質および/または多孔質層は少なくとも部分的に合成材料から形成されてもよい。合成繊維質材料の例は、合成織編材料、たとえばポリエステル生地、ポリマーから形成されたフィルタ材料、合成膜材料およびラテラルフローまたはウェスタンブロット材料、たとえばニトロセルロースを含む。
【0045】
いくつかの態様において、多孔質層の少なくとも上部は、固体または液体物質を浸潤させた多孔質材料を含み得る。以下さらに説明するように、そのような態様においてバリア層は必ずしも必要ではない。
【0046】
いくつかの態様において、多孔質基材110は、多孔質ではあるが、任意で繊維質ではない一つまたは複数の層を含み得る。非繊維質の多孔質材料の例は、焼結粒子から形成された多孔質材料、エッチングされた材料および自己集合多孔質材料を含む。
【0047】
上記のように、多孔質基材110は、その上に電極のアレイを支持するのに適したバリア層120を含む。バリア層120は、広い範囲の異なる材料から様々な方法にしたがって形成され得る。たとえば、いくつかの態様において、バリア層は、参照により全体が本明細書に組み入れられる、2006年2月2日にBollstromらによって出願された米国特許出願第2011/0293851号に開示されている方法にしたがって繊維質層の上に形成されてもよい。
【0048】
バリア層の一例は、カオリンのような粘土とラテックスのようなポリマーとの混合物を含むバリア材料から形成された層である。そのようなバリア層の一つの例示的実施形態は、約30pphのエチレンアクリル酸コポリマーラテックスと混合したカオリンを含む。そのような層は、導電性インクのプリントに適することが示されている。
【0049】
図1Cは、いくつかの態様において一つのバリア層の代わりに用いられ得る中間層180のセットの別の例示的実施形態を示す。
図1Dは、その上に電極を形成するのに適した中間層の例示的かつ非限定的な態様を示す。中間層180は、プレコート層182、平滑化層184、バリア層122およびトップコート層を含む。
【0050】
米国特許出願第2011/0293851号に開示されているように、プレコート層182は、たとえば、粗い鉱物および/または顔料粒子のような材料、たとえば重質炭酸カルシウム、カオリン、沈降炭酸カルシウムまたはタルクから形成され得る。粒子は一般に、沈殿法によって計測して1ミクロンを超える平均粒度を有し得るが、鉱物/顔料の粒度は決定的因子ではない。
【0051】
平滑化層184は、米国特許出願第2011/0293851号に記載されているように、微細な鉱物および/または顔料粒子、たとえば炭酸カルシウム、カオリン、か焼カオリン、タルク、二酸化チタン、石膏、チョーク、サチンホワイト、硫酸バリウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、水酸化アルミニウムまたはそれらの混合物のいずれかから形成され得る。鉱物/顔料粒子は一般に、沈殿法によって計測して1ミクロン未満の平均粒度を有し得、いくつかの態様において、平滑化層の厚さは約3〜7μmであり得る。
【0052】
いくつかの態様において、バリア層122は、米国特許出願第2011/0293851号に記載されているように、ラテックスならびに鉱物および/または顔料粒子を含み得、それらがバリア層の表面エネルギーを高める。バリア層の表面エネルギーの増大はバリア層へのトップコート層の接着を改善する。用いられる鉱物/顔料粒子は、トップコート層に使用されるものと同じ、すなわちカオリン、沈降炭酸カルシウム(PCC)、重質炭酸カルシウム(GCC)、タルク、雲母または前記鉱物/顔料の二つ以上を含むそれらの混合物であり得る。いくつかの態様において、バリア層の厚さは約1〜25μmであり得る。
【0053】
米国特許出願第2011/0293851号にしたがって、薄いトップコート層がバリア層上にコートされてもよい。トップコート層は、最終基材のプリント性を改善するために鉱物および/または顔料粒子を含み、トップコート層は好都合には、可能な限り薄く滑らかである。トップコート層に使用され得る一般的な鉱物/顔料は、炭酸カルシウム、カオリン、か焼カオリン、タルク、二酸化チタン、石膏、チョーク、サチンホワイト、硫酸バリウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、水酸化アルミニウムまたはそれらの混合物のいずれか、カオリンまたは沈降炭酸カルシウム(PCC)である。トップコート層の厚さは約0.4〜15μmの範囲内であり得る。
【0054】
バリア層および提供され得るさらなる層の前記例は単に説明のための例であり、多孔質層に接着し、その上での電極の形成を支持する限り、他のコーティングまたは層が用いられてもよいことが理解されよう。
【0055】
たとえば、デジタルマイクロ流体アレイのプリントに用い得る代替的なタイプの基材は、市販の写真用紙に類似した紙基材である。EpsonおよびHPによって製造されるような市販の写真用紙は、前述のバリアコートされた基材に匹敵しうる適当な表面特性(粗さおよび表面エネルギー)を示す。したがって、そのような紙基材は、上記導電性形体に類似し、潜在的にはそれらよりもさらに小さい導電性形体をプリントするのに適し得ると予想される。バリア層を組み込んでいる前述のマルチコート紙は、薄いバリア層によってコートされた標準的または一般的な紙基材として提供され得るが、写真用紙は、基材の全部または少なくとも上部にわたって疎水性を変化させる材料を浸み込ませた基材(単に、上下に形成されたバリア層とは違って)を有すると思われることが留意される。たとえば、そのような写真用紙基材は、様々な深さまでレーザーエッチングされたとき、水を吸収しないと思われることが認められた。したがって、いくつかの態様において、適当な表面粗さを有するそのような浸潤した繊維質基材は、その表面にバリア層を要することなく、デジタルマイクロ流体電極をその上にプリントするために用いられ得る。
【0056】
前記例は、多孔質基材(多孔質層およびバリア層を含む)上にデジタルマイクロ流体電極を形成するためのプリント法の使用に関するが、他の態様において、電極を、他の非プリント法、たとえば電子ビーム蒸着法、スパッタリング法および他の付着法によってバリア層(またはバリア層上に提供される適当な層)上に形成し、次いで適当なサブトラクティブ作製法または工程(たとえばフォトリソグラフィーおよびレーザーアブレーション)によって所望の電極形体を製造することによって形成してもよいことが理解されよう。
【0057】
再び
図1Bを参照すると、この例示的構造が、その上への一つまたは複数の誘電体層および疎水性層の形成により、DMF装置としての使用に適したものにされることが理解されよう。そのような層の追加が、
図1Dに提供される断面図に示されている。この例示的実施形態は、多孔質基材110(多孔質層115およびバリア層120を含む)が駆動電極130および132を支持する、多孔質材料ベースDMF装置の断面を示す。駆動電極130および132、ならびにバリア層120の他の露出した上面は、誘電体層150(たとえばParylene)および疎水性層(たとえばTeflon)でコートされた状態で示されている。この態様はDMF構造の一例であり、他の態様においては、疎水性表面を有する一つの誘電体層を用いて該電極130、132およびバリア層120をコートしてもよいことが理解されよう。
【0058】
図2は、紙基材(その上に提供されたバリア層を有する)上の電極のプリントによって形成されたデジタルマイクロ流体装置のアレイの写真を示す。各デジタルマイクロ流体装置200は駆動電極205およびリザーバ電極210を含む。コンタクト電極215が導電路220を介して駆動電極およびリザーバ電極に接続されている。
【0059】
図3Aおよび3Bは、駆動電極300および350、リザーバ電極310および360、コンタクト電極320および370ならびに導電路330および380を示す、インクジェットプリンタによってプリントされた代替の例示的デジタルマイクロ流体装置の図を示す。
【0060】
図1Dに示す例示的DMF装置は1プレート型DMF構造として用いられ得る。他の態様において、
図1Dに示す例示的DMF装置は2プレート型DMF構造のボトム(またはトップ)プレートとして用いられ得る。そのような態様においては、一つまたは複数のスペーサが中間ギャップを画定し、
図1Dに示す装置の構造に類似した構造を有する、たとえば一つの広域トッププレート電極または複数のトッププレート電極を有するトッププレートが提供され得る。他の態様において、トッププレートは、上に形成された一つまたは複数の導電性電極(たとえば、酸化インジウムスズから形成された透明な電極。ただし、非透明な電極が使用されてもよい)を有し、かつ適当な疎水性層および任意の誘電体層でコートされた、ガラスプレートまたはポリマーフィルムのような透明な基材の形態で提供されてもよい。たとえば、そのような態様は、再使用可能なトッププレートおよび使い捨てボトムプレートを含むキットを提供し得る。
【0061】
また、本明細書に記載されるDMF装置は、旧来のガラスベースDMF装置と同様なやり方で、大気環境およびオイル含浸環境のいずれででも作動可能であるべきであることが理解される。オイル環境で作動するために装置に対して任意の改変を加えなくてもよい。旧来のDMF装置と同様に、本明細書に開示される装置は、より低い駆動電圧、小滴蒸発の解消、表面の生物汚損の減少、ならびに電極分離および「トレンチ」深さに関するより非ストリンジェントな要件を含む、オイルを用いて作動させたときと類似した利点を有すると予想される。同様に、本明細書に開示されるDMF装置は、オイル中で作動するとき、小滴から周囲オイル媒体中への分析対象物の望まない抽出、オイル混和性液体との不相溶性および装置からのオイル漏れを含む、ガラス装置の場合と同じ欠点をかかえている。
【0062】
再び
図1Dを参照すると、デジタルマイクロ流体装置を形成するための重要な特徴は、用いることができる最小電極間隔を決定する空間分解能である。大きなギャップ(たとえば、約100μmよりも大きい)によって分けられた隣接電極は滴の移動にとって問題になる可能性があるため[21]、以下「電極間トレンチ幅」と呼ぶ電極間隔は重要なパラメータであることができる。電極間トレンチ幅は
図1Dに160で示されている。滑らかな滴の動きを容易にするために、電極間トレンチ幅は、隣接する(駆動された)電極中で発生する電場が液滴の前縁と静電気的に相互作用するのに十分なほど小さくあるべきである。この電極間トレンチ幅は5〜100μmであるべきであるが、この範囲の上限のサイズは、一部の液体、小さめの滴などで問題を生じさせる場合がある。小さめの電極間トレンチ幅の値(たとえば約5〜50μm)が好ましく、すべての使用条件にとって十分であるはずである。この基準は、多孔質基材上の電極アレイの形成に関する例において示され、説明されているが、この基準および以下に記載するさらなる基準は、非多孔質基材上に形成されたDMF電極アレイにも当てはまることが理解されよう。
【0063】
バリア層を有する例示的な紙ベースの基材に関して上記インクジェット印刷法の分解能を試験するために分解能テストパターンを実施した。
図4は、DMFに適当である、この方法を使用した場合の、30μmの小ささの水平方向および垂直方向の形体分解能力を示す。概して、大きめの形体は、電気的短絡または断線によって生じる故障の確率がより低いことが認められた。したがって、図示する紙ベースDMF装置に用いられる駆動電極は、約60〜90μmの電極間間隔で形成されたものである。バリア層またはその上に提供されるさらなるトップコート層のインク特性または表面特性をチューニングすることによってこのギャップサイズをさらに減らすことが可能であり得る。
【0064】
DMF装置中の小滴輸送に対して重大な影響を及ぼすことがわかった別の幾何学的パラメータが、以下「電極間トレンチ深さ」と呼ぶ、隣接電極間に形成されるトレンチ(すなわちギャップまたは溝)の深さである。トレンチ深さは
図1Dに170で示され、このパラメータは電極高さ175と関連する。いくつかの態様において、電極間トレンチ深さは1μm未満であるべきである(500nm未満の深さが好ましい)。
【0065】
本明細書に開示される方法によって達成可能である電極間トレンチ深さおよび幅の値を、PCBベースDMF装置作製を使用して達成可能である電極間トレンチ深さおよび幅の値と対比させることは有益である。PCB上に作製されるDMF装置の場合に達成可能な電極間トレンチ深さは、PCBの銅層の厚さのせいで、15μmよりも大きいということが示された。そのような深さの電極間トレンチ深さは、小滴駆動および輸送において不十分な性能をもたらす可能性がある。さらに、一般的なPCB製造法は100μmよりも小さい形体を製造することはできず、それが電極間トレンチ幅を100μm超に制限し、同じく、隣接電極間の相対的に大きな間隔による性能問題を招く。
【0066】
トレンチ深さの前記説明は空気ベースDMF装置に関することが留意されよう。そのような装置をオイル充填媒体で作動させる場合、約10μmまでの電極間トレンチ深さおよび約150μmまでの電極間トレンチ幅が十分であり得る。
【0067】
別の関連する性能特徴が電極および導電路の導電率である。導電率が低い薄い電極はジュール加熱および/または予定外の電圧降下を生じさせる可能性がある。
図9に示すように、インクジェット印刷したトレースの抵抗は焼結時間の関数として低下し、
図10に示すように、これらのトレースは、標準的なフォトリソグラフィー法(すなわち、クロム・オン・ガラス)によって作製された同一設計の装置の抵抗の500分の1の低さである抵抗を有することがわかった。本明細書に記載される例示的装置は約10秒の焼結時間で作製された。
図9は、低い導電率を達成するために他の焼結時間を用いてもよいことを示す。
【0068】
DMF装置の性能に影響することができる別のパラメータが、表面トポグラフィーのランダムな変動のせいで起こり、多くの場合、表面粗さとして定量化される、表面トポグラフィーである。DMF装置上で滴を操作するために使用される静電駆動力は一般に数十μNのオーダである。滴が動くためには、この加えられる力が、滴の動きに対抗する抵抗力を超えなければならない。抵抗力は、粘性抵抗(滴内、および充填媒体中:たとえばオイルまたは空気中、の両方)と、装置表面と液体との間の相互作用の性質である接触線摩擦とで構成される。大部分の場合(特に空気充填装置の場合)、抵抗力の大部分は接触線摩擦によるものである。接触線摩擦は、疎水性コーティングの使用、装置に油を充填すること、滴を油中に封入することなどによって減らすことができる。
【0069】
接触線摩擦はまた、基材の表面粗さによって影響される。表面粗さを減らすことは概して接触線摩擦を減らし、特に、電極間「トレンチ」の深さを減らすことは、局所的な接触線ピニングを防ぐことができる。フォトリソグラフィー(大学研究室でよく使用される)によってパターニングされた金属電極を有するガラスDMF装置の場合の表面トポグラフィーの効果は無視しうる程度であったが;一方、対照的に、PCB作製によって形成されたDMF装置の性能はトポグラフィーによってひどく損なわれる可能性がある[21]。事実、一般に1μmよりも大きいプリント回路板(PCB)の表面粗さと比較して、本明細書に開示される方法にしたがって作製された装置の場合に計測される平滑な表面(表面粗さ100nm未満)は、紙に適用されたバリアコーティングおよび表面処理の結果である。したがって、いくつかの態様において、プリントデジタルマイクロ流体装置の表面粗さは、約1μm未満、約500nm未満または約100nm未満である。
【0070】
図11Aおよび11Bに示すように、バリア層上に形成された銀層の表面粗さは、本明細書に記載されるように作製された例示的装置の場合、非常にである。これは、によって得られたものを近似する、
図12Bに示す小滴速度計測と合致している。
【0071】
本明細書に提供される態様は、多孔質基材上にプリントされた電極を使用して多様な小滴ベースのプロトコル、たとえば小滴ベースのアッセイを実施するための種々のDMF装置を提供するために用いられ得る。たとえば、本明細書に開示される態様は、既存のペーパーマイクロフルイディックスプラットフォームを使用しても現在は達成可能でない複雑なマルチステップアッセイを実現するように適合され得る。
【0072】
さらには、いくつかの態様において、DMF装置は、一つまたは複数のチャネルベースのマイクロ流体工学的な形体または要素を中に組み込むように適合され得る親水性層(たとえば親水性繊維質および/または多孔質層)を含む多孔質基材上に形成され、それにより、ハイブリッドDMF・マイクロチャネル装置を提供し得る。そのようなハイブリッド装置は、たとえば、複雑な滴操作のためのDMFを、より旧来的な毛管流ベースのペーパーマイクロ流体技術と組み合わせて利用するために用いられ得る。
【0073】
図5は、
図1DのDMF装置を、DMF層と下にある親水性層410との流体連通を可能にするように改変することによって得られる例示的なDMF装置400を示す。流体流を親水性層410内に閉じ込めるために下バリア層425が追加され、バリア420が二つの位置で露出している。440では、電極430を貫通しておよびバリア層420を貫通して開口部が形成されている。450では、バリア層420が除去されて下にある親水性層を露出させて、たとえば、該親水性層の中に形成されたマイクロ流体チャネルへのアクセスまたは可視性を提供している。
【0074】
組み込まれ得る毛管流ベースのペーパーマイクロ流体技術の例は、非限定的に、
図6Aに示すような、チップとして形成された親水性基材700の露出部分を含むエレクトロスプレー(たとえばペーパースプレー)質量分析エミッタを含む。そのような装置の別の例が
図8に示されている。エレクトロスプレー質量分析エミッタは、噴射のための鋭利なチップおよびスプレー電位のための外部高電圧源を必要とする。エレクトロスプレー(たとえばペーパースプレー)エミッタの三角形状は、トップバリア層を除去したのち(たとえば
図5に示す領域450のような)、または、バリア層を通過してその下の親水性紙に達するアクセスホール(たとえば
図5の440のような)を形成することにより、DMF装置の縁において切られ得る。スプレー電圧は、濡れたペーパースプレーエミッタに接続された導電性クリップを介して、または、ペーパースプレーエミッタの親水性紙に直接プリントされた電極を通して印加され得る。
【0075】
ハイブリッド装置の他の例は、DMFアレイが親水性基材上に提供され(上記のようにバリア層上に)、バリア層の一部分が除去されて、マイクロチャネルまたはラテラルフロー膜として構成されている下にある親水性層を露出させ、それにより、親水性層中への小滴の接触および吸着ならびに親水性層内での有向流を可能にする、ハイブリッドDMF・マイクロチャネルおよび/またはラテラルフロー装置を含む。一つの態様において、ラテラルフローチャネルは、従来のラテラルフロー装置におけるような、幅広いチャネルとして提供されることもできる。別の態様において、チャネルは、紙ベースのマイクロ流体チャネルにおけるような、疎水性壁(たとえば直径1mm以下の)によって閉じ込められたマイクロチャネルであることもできる。ラテラルフローチャネルまたはマイクロチャネルは、比色アッセイのようなアッセイを実施するための乾燥および/または固定化試薬を組み込むこともできる。
図6Bは、開口720を通してアクセス可能である、ラテラルフローおよび/または分離のための閉じ込められたマイクロチャネル710を用いるマイクロチャネルベース装置の例示的実施形態を示す。
【0076】
図6Cに示す別の例示的態様において、DMF装置は、親水性パッド730を提供するために、親水性層の特定領域を露出させるように適合されてもよい。液体を中に閉じ込め、親水性パッドの吸収能力を制限するために、露出した疎水性領域を包囲して疎水性壁が形成されてもよい。そのような態様は、生物学的試料を装填する、たとえば試料をデジタルマイクロ流体装置に装填するために用いられ、それにより、チップ・ワールド問題に対処し得る。たとえば、親水性パッドは、乾燥血液スポット(DBS)または乾燥尿スポット(DUS)を提供するために使用することができる。この場合、試料は装置の中に完全に統合されて、処理および分析の前の試料捕集をはるかに容易にすることができる。さらに、または代わりに、一つまたは複数のパッドを用いてアッセイのための乾燥試薬を提供してもよい。図示するように、親水性パッドは、たとえば抽出、化学誘導体化および他の処理工程のためにパッド上での容易な小滴移動を促進するようにDMF電極内で配向される。
【0077】
一つの態様において、DMF装置は完全に組み立てられることもでき(たとえば、トッププレートおよびボトムプレートが、電極アレイを包囲する部分的または完全なガスケットのいずれかとともに取り付けられる)、血液または尿試料が親水性パッドを介して装置の底部(および/または、そのような形体がトッププレート中に形成されているならば、装置の頂部)に導入されることもできる。というのも、親水性パッドが、毛管作用を用いる通路として効果的に働くからである。そのような態様は、装置に試料または試薬を装填するとき、装置の疎水性作用面が掻き傷を負う、汚れる、または他のやり方で汚染されることを防ぐという点で有益であろう。
【0078】
各ハイブリッドプラットフォームは独自の機能を果たし得るが、各態様の装置フォーマットは概して(i)トップバリア層が除去されて下にある親水性基材を露呈させる領域および/または(ii)トップバリア層を通して親水性基材まで穴または他の開口部が設けられて、小滴がこの穴を通って基材に移動し、その中に吸われることができる領域を含む。
【0079】
さらに別の態様においては、バリア層の一部分が除去されて下にある親水性層を露出させ、その親水性層が、バリア層上に形成されたDMFアレイのための廃物リザーバとして働き得る。たとえば、電極が露出領域の近くに、またはそれに隣接して配置されるならば、または、たとえば、電極の一部分が同じく除去されて下にある親水性層を露出させるならば、電極と接触する小滴は、下にある親水性層に流れ込むことができて、または流れ込んで、それにより、埋め込み廃物リザーバとして働く。いくつかの態様においては、下にある層全体が埋め込み廃物リザーバとして利用可能であることもでき、一方で、他の態様においては、下にある親水性層内の疎水性壁によって一つまたは複数の埋め込み廃物リザーバが画定されることもできる。別の態様において、廃物リザーバとして働く装置の親水性部分は、廃物貯蔵能力をさらに増すために、外部吸収パッドと物理的に接触した状態に配置されることもできる。
【0080】
図7は、例示的なハイブリッド装置の様々な層に対して加えられた改変を示す分解図を示す。装置上の特定の位置800でトップバリア層が除去されて、その下の親水性基材を露出させて、それにより、親水性層へのスルーホールを形成している。一つの態様において、バリア層は、DMF装置の誘電体層および疎水性層の適用の前に除去され得、この区域は、露出した被覆なしの紙への誘電体層および疎水性層の付着を防ぐためにマスクされる。バリア層は、所望の区域で選択的にパターニングされる、または完全に除去され得る。これは、たとえば、機械的除去、レーザーエッチングまたはケミカルエッチング(たとえば、酸によるウェットケミカルエッチングまたは酸素反応性イオンエッチング)によって達成され得る。図示するように、親水性紙中のチャネル810またはパッドの形状寸法は疎水性壁820または疎水性境界領域によって決定され得る。親水性壁は、所望の疎水区域中の親水性材料にワックスを適用する方法、および疎水性区域のフォトリソグラフィーパターニング(たとえばSU-8フォトレジストを使用する)を含むが、それらに限定されることなく、いくつかの方法を使用して作製され得ることが理解されよう。別の態様において、チャネルは、チャネルを包囲する区域から親水性材料を機械的に除去してチャネルの「切り抜き部」を作製することによって形成されてもよい。
【0081】
ハイブリッド装置の前記例示的態様は別々に提示されたが、これらのハイブリッド態様の二つ以上が一つの装置上に統合されてもよいことが理解されよう。たとえば、一つのハイブリッド装置が、試料装填のための親水性パッドおよびMS分析(乾燥血液スポットからの薬物の抽出および分析)のためのペーパースプレーエミッタならびにこれらまたは他のハイブリッド態様の任意の他の組み合わせを含んでもよい。
【0082】
別の態様においては、スポットまたはチャネルのような疎水性形体が非多孔質基材の表面に形成され、DMF電極のプリントアレイと統合されてもよい。たとえば、近年、親水性形体を有する非多孔質基材が実証されている(たとえばポリマーフィルム)。Tianらの方法[Tian, Junfei, Xu Li, and Wei Shen. "Printed Two-dimensional Micro-zone Plates for Chemical Analysis and ELISA." Lab on a Chip 11, no. 17 (August 8, 2011): 2869-2875. doi:10.1039/C1LC20374F.]は、セルロースまたは他の材料の微粉が上に適用されるUV硬化性ワニスのインクジェット印刷を含む。UV硬化ののち、微粉粒子は硬化したワニスによって固定されて、多孔質の親水性形体の形成を生じさせる。
【0083】
したがって、一つの態様において、親水性要素は、そのような方法を使用して、DMFアレイをその上に有する基材上に作製される(たとえば、上記のようにプリントによって形成される)こともでき、その場合、DMF基材は、多孔質である必要もないし、または埋め込み親水性層を含む必要もない。そのような親水性要素は、DMFアレイと統合されて、ハイブリッド装置(たとえば、統合された乾燥血液スポットゾーン、ラテラルフローチャネル、廃物リザーバおよび/またはエレクトロスプレー形体を有するプリントDMF電極)を提供することもできる。
【0084】
さらに別の態様において、一つまたは複数のセンサ電極、たとえば非限定的に、電気化学的検出および/またはインピーダンス感知のための電極がデジタルマイクロ流体アレイとともに基材上にプリントされてもよい。
【0085】
以下の実施例は、当業者が本開示の態様を理解し、実施することを可能にするために提示される。これらの実施例は、本開示の範囲を限定するものとみなされるべきでなく、単に、それを説明し、代表するものとみなされるべきである。
【実施例】
【0086】
実施例1:材料および試薬
別段に指定されない限り、試薬は、Sigma-Aldrich(Oakville, ON)から購入したものであった。脱イオン(DI)水は、25℃で18MΩ・cmの抵抗率を有するものであった。Pluronic L64(BASF Corp., Germany)は、寛大にもBrenntag Canada(Toronto, ON)から寄与していただいた。装置プリントのための多層コート紙基材は、Abo Akademi University(フィンランド)のM. Toivakka教授[27]からありがたく提供していただいた。オンチップ試薬溶液は、販売者から入手したもの、または学内でカスタムメイドしたものであった。販売者からの試薬は、Abbott Laboratories(Abbott Park, IL)からの風疹IgG標準試薬および風疹ウイルスコート常磁性マイクロ粒子ならびにThermo Fischer Scientific(Rockford, IL)からの、安定な過酸化物(H2O2)およびルミノール-Enhancer溶液を含むSuperSignal ELISA Femto化学発光基質を含む。カスタムDMF適合性洗浄バッファおよびコンジュゲート希釈剤を前記[24、26]のように調製した。使用前に、4%ウシ血清アルブミン(BSA)および化学発光基質を含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)中に希釈した風疹IgG標準試薬をPluronic L64それぞれ0.05%および0.025%v/vで補足した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギポリクローナル抗ヒトIgG(16ng/mL)をコンジュゲート希釈剤中に希釈することによってコンジュゲート作業溶液を形成した。マイクロ粒子をペレット化し、洗浄し、Thermo Fischer Scientific(Rockford, IL)からのSuperblock TBS中に1.5×108個/mLで再懸濁させることにより、マイクロ粒子作業懸濁液を形成した。
【0087】
実施例2:DMF装置作製
コンタクトパッドに接続された銀駆動電極およびリザーバのアレイをインクジェット印刷することによって紙DMF装置を形成した。
図1Aおよび1Bは、そのような基材の代表的な写真を含む。図示するように、二つの異なる設計を使用した。設計Aは、五つのリザーバ電極(4.17×4.17mm)および19の駆動電極(1.65×1.65mm)を含み、設計Bは、八つのリザーバ電極(5.6×5.6mm)および38の駆動電極(2.16×2.16mm)を含む。実際には、各紙基材が装置ボトムプレートを形成し、それを導電性トッププレートと接合して、それらの間に挟まれた400〜800nLの滴を操作した。
【0088】
Dimatix DMP-2800インクジェットプリンタ(FUJIFILM Dimatix, Inc., Santa Clara, CA)およびSunTronic U6503銀ナノ粒子ベースのインクを製造者によって提供されるデータシートにしたがって使用して電極パターンを紙基材上にプリントすることにより、DMFボトムプレートを形成した。プリント後、1500W赤外線ランプ[28]を約1cmの距離で10秒間使用して基材を焼結した。
【0089】
また、前記[22]のようなクロム・オン・ガラス基材を使用して設計Aを作製した。以下さらに説明するように、設計Bを風疹IgGイムノアッセイに使用し、一方、設計Aをすべての他の実験に使用した。
【0090】
今日まで、100を超える実用性の紙ベースDMF装置を作製した。装置は安価かつ速やかに作ることができる。インクおよび紙のコストは装置1個あたり$0.01未満であり、設計AおよびBは、プリントするのにそれぞれ約1および2分を要する。これらのコストおよび時間は、1台のプリンタを使用して一つ一つの装置をプリントする場合に基づくものであり、プリント電子部品分野が成熟するとともに、および/または、これらの方法がより大きな生産運転にスケーリングされるならば、コストおよび速度の両方が改善すると予想されることが理解されよう。たとえば、市販の導電性インクは、小さな量で注文される場合、なおも相対的に高価、たとえば約$30/mLであり、一般的なオフィス用インクジェットプリンタ(同じ圧電原理に基づく)は、この実施例で同時に使用可能であった6未満のノズルと比較して100超のノズルを有する。プリント時間はノズルの数に反比例するため、将来、この時間を装置1個あたり数秒まで減らすことが可能であり得ると予想される。
【0091】
取り扱いやすくするため、紙基材をガラススライドに取り付けた。Teflonスレッドシールテープ(McMaster-Carr, Cleveland, OH)を電気コンタクトパッドの周囲に巻いて、それらのパッドが後続の絶縁層によって被覆されないようにした。両タイプの基材(ガラスおよび紙)を、蒸着装置(Specialty Coating Systems, Indianapolis, IN)中、6.2μmのParylene-Cでコートし、スピンコートによって約50nmのTeflon-AF 1600(DuPont, Wilmington, DE)でコートし(Fluorinert FC-40中1%wt/wt、1000rpm、30秒)、160℃で10分間ポストベークした。また、装置トッププレートとして使用するために、酸化インジウムスズ(ITO)でコートされたガラスプレート(Delta Technologies Ltd., Stillwater, MN)を50nmのTeflon-AF(上記)でコートした。二切れの両面テープ(各約80μm)を重ねることによってトッププレートとボトムプレートとを接合して、約440nL(設計A)および約750nL(設計B)の単位滴量(一つの駆動電極を覆う)を得た。
【0092】
実施例3:ガラスおよび紙ベースのDMF装置の導電率
紙上にインクジェット印刷された銀の長さ2cm/150μmトレースの導電率(5、10または15秒間焼結したのち)をFluke 179 True RMS Digital Multimeterによって計測した。九つのトレースを条件ごとに評価した(三つの別々の装置で三つ)。三つの紙および三つのクロム・オン・ガラス装置の場合に、設計Aの全電極に関してコンタクトパッドと駆動電極との間の抵抗を計測した。
図9に示すように、インクジェット印刷されたトレースの抵抗は焼結時間の関数として低下し、
図10に示すように、これらのトレースは、標準的なフォトリソグラフィー法(すなわち、クロム・オン・ガラス)によって作製された同一設計の装置の抵抗の500倍の低さである抵抗を有することがわかった。
【0093】
実施例4:ガラスおよび紙ベースのDMF装置の表面粗さ
走査型電子顕微鏡法(SEM)を使用して、ここで使用した紙装置の表面形状を評価した(
図11Aおよび11B)。図示するように、インクジェット印刷された紙装置上の銀層の厚さは500nm未満であり、それは、PCBから形成された装置上に一般に見られる電極の厚さ10〜30μmよりもずっと薄い(PCBベースDMF装置上の電極間の深い「トレンチ」は滴の移動にとって問題となることが報告されている[19〜21]ことに留意すること)。原子間力顕微鏡法(AFM)を使用して表面粗さを評価して、紙基材上の被覆なしの銀の場合の表面粗さ(R
a)R
a≒250nmならびにParylene-CおよびTeflon付着後の銀−紙基材の場合の表面粗さ(R
a)R
a<100nmを明らかにした。これらの値は、PCB DMF装置に関して報告されている数値[18〜20]よりも一桁ないし二桁小さい。
【0094】
S-3400N Variable Pressure SEM(Hitachi High Technologies America, Inc., Schaumburg, IL)を用い、二次電子モードにおいて5kVの加速電圧でSEM画像を取得した。表面粗さ推定値は、Digital Instruments Nanoscope IIIAマルチモードAFM(Bruker Nano Surface, Santa Barbara, CA)をタッピングモード(1Hz走査速度)で用いて空気中で計測された125×125μmのウィンドウ(512×512試料)の範囲の絶対高さ値の算術平均に基づく。分析の前に、すべての画像をゼロ次平坦化および二次平面フィットフィルターにかけた。
【0095】
DMF性能に対する表面トポグラフィーの効果のもっとも明白な尺度は、個々の滴の駆動を評価することである。装置を、ポゴ−ピンコネクタにより、オープンソースDropBot滴制御装置の二つの変形(統合された磁気制御を有する変形[24]または有しない変形[22]のいずれか)の一方とインタフェースさせた。インピーダンスベースのフィードバック回路[22]を使用して滴を制御し、速度を計測した。
【0096】
図12Aおよび12Bは、紙装置上の水滴の易動性を実証する。水滴の瞬間速度をインピーダンス感知[22]によって計測した。データは、紙DMF装置の性能が、フォトリソグラフィーによって形成されるガラス装置の性能に匹敵しうることを示唆する。
【0097】
実施例5:紙ベースのデジタルマイクロ流体装置を使用する均一化学発光アッセイの実証
HRP標準試薬の滴(0.05%v/vのL64で補足されたDPBS中100μU/mL)および洗浄バッファの滴をリザーバから分注し、混合して連続希釈(1×、2×、4×)を作成した。その後、SuperSignal化学発光基質1滴を分注し、HRPの各希釈滴と混合し、プールした滴を40秒間混合し、検出区域に駆動し、2分後、H10682-110 PMT(Hamamatsu Photonics K.K.., Hamamatsu, Japan)を用いて発光を計測した。各条件を3回繰り返した。
【0098】
複雑なマルチステップアッセイを実行する紙DMF装置の能力を探るために二つの試験を開発した。第一の試験として、均一化学発光アッセイのためのオンチップ連続希釈および校正曲線を生成する能力を調べた。セイヨウワサビペルオキシド(HRP)をルミノール/H2O2と混合した。
図13A〜Eに示すように、この実験は63の別々の工程:27の分注工程、18の混合工程、六つの分割工程および12の計測工程を要する。三つの初期ピペット工程の合計から、四点校正曲線を作成することができる。この複雑さにもかかわらず、アッセイは、紙DMF装置上で高い再現精度で簡単に実施することができた(
図14、R2=0.993)。
図15は、工程4ののち、可視化のためにトッププレートを取り外した装置の写真を示す。このアッセイの複雑さは、毛管駆動紙装置上で実施することは困難またはおそらくは不可能であるような複雑さである。
【0099】
実施例6:紙ベースのデジタルマイクロ流体装置を使用する風疹IgGイムノアッセイの実証
紙DMFを使用して複雑なアッセイ開発の実現可能性を探り、安価な診断検査としてのこれらの装置の適性を実証するための第二の試験として、風疹IgGサンドイッチELISAを実施することを選択した。三日ばしかとも知られる風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる疾患である。後天性である場合にはほとんど合併症を呈しないが、先天性風疹症候群は、失明、聴覚消失および妊娠中絶をはじめとする深刻な発育欠陥を引き起こす可能性がある[23]。
【0100】
風疹のためのELISAは、大きめの電極アレイ、磁気ビーズと結合した抗体の使用ならびに分離および洗浄のための電動磁石を要するものであった(
図16)[24]。評価した濃度ごとに30の別々の工程(11の分注工程、10の混合工程、八つの磁気分離工程および一つの計測)が必要であった。もっとも重要なことに、
図17に示すように、方法は再現精度が高く(R2=0.988)、高感度であり(検出限界=0.15IU/mL)、10IU/mLの臨床しきい値[25]よりもはるかに低い濃度を検出する能力を実証した。多種多様な抗体のための磁気ビーズが市販されているため、この手法は、広範囲の興味深いバイオマーカを定量するためのおおまかな青写真を提供することができると予想される。そのうえ、低い装置コストという明白な恩恵に加えて、この方法は、従来の自動化イムノアッセイ分析装置[24、26]と比べて大きく減らした試料量でさえ高い分析性能を保持する。
【0101】
上記特定の態様は実例として示されたものであり、これらの態様が様々な変形および代替形態を受け入れ得ることが理解されるべきである。さらに、特許請求の範囲は、開示された特定の形態に限定されることを意図したものではなく、むしろ、本開示の精神および範囲に入るすべての変形、均等物および代替を包含することを意図したものであることが理解されるべきである。
【0102】
参考文献