(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606093
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】増加した果実収量を有するナス属lycopersicum植物
(51)【国際特許分類】
A01H 1/00 20060101AFI20191031BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20191031BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
A01H1/00 A
A01H5/00 A
C12N15/09 ZZNA
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-556714(P2016-556714)
(86)(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公表番号】特表2017-506906(P2017-506906A)
(43)【公表日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】EP2015055259
(87)【国際公開番号】WO2015136065
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2018年2月1日
(31)【優先権主張番号】2012426
(32)【優先日】2014年3月13日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】509018845
【氏名又は名称】エンザ・ザデン・ビヘーア・ベスローテン・フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】ENZA ZADEN BEHEER B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローベーク,イルヤ
(72)【発明者】
【氏名】イケマ,マリーケ
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ステー,マタイン・ペトルス
(72)【発明者】
【氏名】デ・ブール,ヘルト・ヨハンネス
【審査官】
千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−535514(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/147467(WO,A1)
【文献】
Development, 1998, Vol. 125, pp. 1979-1989
【文献】
NATURE GENETICS, 2010, Vol. 42, No. 5, pp. 459-463
【文献】
Planta, 2004, Vol. 218, pp. 427-434
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H
C12N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
増加した果実収量を有するナス属lycopersicum植物であって、
ナス属pennelli、ナス属neorickii、ナス属chmielewskii、ナス属chilense、ナス属parviflorum、ナス属pimpinellifoliumおよびナス属peruvianumからなる群から選択されるナス属種のSP3D遺伝子およびSP遺伝子の両方を含む、ナス属lycopersicum植物。
【請求項2】
前記SP3D遺伝子は、配列番号1を有する配列と少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質をエンコードする、請求項1に記載のナス属lycopersicum植物。
【請求項3】
前記SP遺伝子は、配列番号2を有する配列と少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質をエンコードする、請求項1または2に記載のナス属lycopersicum植物。
【請求項4】
前記SP3D遺伝子は、配列番号3を有するプロモータ配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナス属lycopersicum植物。
【請求項5】
前記SP遺伝子は、配列番号4を有するプロモータ配列を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のナス属lycopersicum植物。
【請求項6】
前記SP3D遺伝子は、ホモ接合型として存在する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のナス属lycopersicum植物。
【請求項7】
前記SP遺伝子は、ホモ接合型として存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のナス属lycopersicum植物。
【請求項8】
改良した収量を有するナス属lycopersicum植物を提供するための方法であって、
ナス属pennelli、ナス属neorickii、ナス属chmielewskii、ナス属chilense、ナス属parviflorum、ナス属pimpinellifoliumおよびナス属peruvianumからなる群から選択されるナス属種のSP3D遺伝子およびSP遺伝子の両方を前記ナス属lycopersicum植物のゲノムに導入する工程を含む、方法。
【請求項9】
前記SP3D遺伝子は、配列番号1を有する配列と少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質をエンコードする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記SP遺伝子は、配列番号2を有する配列と少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質をエンコードする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記SP3D遺伝子は、配列番号3を有するプロモータ配列を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記SP遺伝子は、配列番号4を有するプロモータ配列を含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記SP3D遺伝子は、ホモ接合型として導入される、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記SP遺伝子は、ホモ接合型として導入される、請求項8〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の植物の種子または果実。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、増加した果実収量を有するナス属lycopersicum植物および本発明に係るナス属lycopersicum植物の種子または果実に関する。また、本発明は、ナス属lycopersicum植物の果実収量を増加するための方法に関する。さらに、本発明は、本発明に係るナス属lycopersicum植物の種子および果実に関する。
【背景技術】
【0002】
ナス属lycopersicum植物は、トマト属lycopersicum(L.)またはトマト属esculentumとも命名され、一般的にトマト植物として知られている。この種の植物は、南米アンデス山脈に起源し、食品としての使用は、メキシコに由来し、スペインによるアメリカ大陸の植民地化によって世界に広がった。その多くの品種は、現在も野外にまたは寒い気候の場合温室において、広く栽培されている。
【0003】
トマトは、多くの料理、ソース、サラダおよび飲料中に原料としてまたは成分として、多様な方法で消費されている。トマトは、植物学上果実としてみなされているが、料理目的では野菜であると考えられている。トマトは、有益な健康効果を有し得るリコピンを豊富に含む。ナス属lycopersicumは、Solanaceaeナス科に属する。この植物は、典型的には、1〜3メートルの高さに成長し、弱い茎を有するため、多くの場合、地面に寝そべりまたは他の植物に吊るす。この植物は、多くの場合、温暖気候で屋外に一年生として成長するが、本来の生息地では多年生である。より小さい品種およびより大きな品種が知られているが、普通のトマトの平均重量は、約100グラムである。
【0004】
ナス属lycopersicum植物の経済的重要性を考慮すると、植物育種分野において、この植物の果実収量を増加させることは、引き続き望まれる。
【0005】
過去数十年間に、育種は、主に、収量、耐病性、および均一な熟成および味などの果実品質面に集中した。収量の改良は、新たな生産方法、改良された害虫管理、および新たな生産方法により適合する品種によって、達成されている。植物当たりに5個または15個の果実を多く有する新品種は、収量を2〜4%に増加した。
【0006】
高収量品種の開発は、トマトの収量を決定する性質に関する知識の不足により妨げられた。仮説によると、従来の3枚の葉の代わりに、トラスの間に2枚の葉を有するトマト品種は、葉面積指数(LAI)が維持される場合、果実に向かって同化をシフトすることができ、より高い収量が得られる。
【0007】
トラスの間に2枚の葉を有するナス属lycopersicumの栽培品種は、WO2009/021545に記載されている。WO2009/021545は、ナス属lycopersicumの近縁野生種、すなわちナス属pennelliに発見されたSP3Dプロモータが、トラスの間に2枚の葉を有するナス属lycopersicumを提供することができ、よって、果実の収量を増加することができることを開示している。しかしながら、その後の実験によって、例えば、ナス属pennelliのSP3D遺伝子またはプロモータをナス属lycopersicumに移入することによって提供されたトラスの間に2枚の葉を有する表現型は、常に安定しておらず、得られた後代の果実収量を妨げることが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、特に、増加した果実の収量を有するナス属lycopersicum植物を提供することである。本発明のさらなる目的は、トラスの間に2枚の葉を有する表現型を安定化することによって、ナス属lycopersicum植物の果実収量をさらに増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、特に、添付の特許請求の範囲に概説された本発明のナス属lycopersicum植物を提供することによって達成される。
【0010】
具体的には、上記の目的は、特に、ナス属pennelliのSP3D遺伝子およびSP遺伝子または少なくともそのプロモータ配列を含み、増加した果実収量を有するナス属lycopersicum植物によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ナス属pennelliのSP遺伝子の不存在下で、ナス属pennelliのSP3D遺伝子を含むトマト植物のトラス間の葉数を示す図である。
【
図2】異なるナス属lycopersicumのハプロタイプのトラス間の葉数を示す図である。図中、SPpenは、ナス属pennelliのSP遺伝子の存在を意味し、SP3Dpenは、ナス属pennelliのSP3D遺伝子の存在を意味する。SPescは、ナス属lycopersicumのSP遺伝子の存在を意味し、SP3Descは、ナス属lycopersicumのSP3D遺伝子の存在を意味する。
【
図3】異なるナス属lycopersicumのハプロタイプのトラスの数を示す図である。SPpenは、ナス属pennelliのSP遺伝子の存在を意味し、SP3Dpenは、ナス属pennelliのSP3D遺伝子の存在を意味する。SPescは、ナス属lycopersicumのSP遺伝子の存在を意味し、SP3Descは、ナス属lycopersicumのSP3D遺伝子の存在を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
驚くことに、本発明者らは、ナス属pennelliのSP3D遺伝子およびSP遺伝子の両方をナス属lycopersicumに組み合わせることによって、「トラスの間に2枚の葉を有する表現型」を安定に提供することができ、ナス属lycopersicum植物の全体的な果実収量を増加することができることを発見した。果実収量の増加に関して、トラス数の30%の増加が観察された。
【0013】
本発明の記載において、「遺伝子」という用語は、調節領域、転写領域および他の機能的な配列領域に関連付けられている遺伝単位に対応するゲノム配列の配置可能領域として理解すべきである。この用語「遺伝子」は、少なくとも、プロモータ領域および転写またはコード領域を含むゲノム配列を意味する。
【0014】
ナス属pennelliという植物種は、トマト植物の近縁野生種である。ナス属pennelliの遺伝子は、従来の遺伝子移入または現代の分子生物学技術、例えば形質転換によって、ナス属lycopersicum植物に容易に導入することができる。トマト植物の他の近縁野生種のSP遺伝子およびSP3D遺伝子とトマト植物のSP遺伝子およびSP3D遺伝子または少なくともそのプロモータとの遺伝的な近似性を考慮すると、ナス属neorickii、ナス属chmielewskii、ナス属chilense、ナス属parviflorum、ナス属pimpinellifoliumおよびナス属peruvianumは、本発明の文脈内に含まれると考えられる。
【0015】
当該SP3D遺伝子の転写領域は、配列番号1を有する配列と少なくとも90%、例えば91%、92%、93%または94%、好ましくは少なくとも95%、例えば96%、97%、98%または99%、より好ましくは実質的に100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をエンコードする。本発明の文脈において、配列同一性は、所定の配列に同様の配列のアミノ酸の数が所定の配列番号を有するアミノ酸の総数で割り、100%を乗じることを意味する。
【0016】
当該SP遺伝子の転写領域は、配列番号2を有する配列と少なくとも90%、例えば91%、92%、93%または94%、好ましくは少なくとも95%、例えば96%、97%、98%または99%、より好ましくは実質的に100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をエンコードする。
【0017】
留意すべきことは、ナス属pennelliのSP3D遺伝子およびSP遺伝子を組み合わせることによって提供された本発明の「果実収量を増加した」安定な表現型は、エンコードされたタンパク質に起因するものではなく、両方の遺伝子の転写調節に起因するものであることである。具体的には、転写を調節する転写配列の少なくともプロモータ領域、すなわちゲノム領域の上流は、観察された効果に寄与する。換言すれば、「増加した果実収量」という本発明の特徴は、ナス属lycopersicumに比べて、ナス属pennelliにおけるSPおよびSP3Dの転写調節の違いに起因する。特に、トランスジェニック植物の場合に、転写配列またはcDNA配列の前に両方の遺伝子の少なくともプロモータ配列を操作可能に導入することは、本発明の表現型を提供する。
【0018】
したがって、特に好ましい実施形態によれば、本発明は、配列番号3を有するプロモータ配列により制御されるSP3D遺伝子またはcDNA配列および/または配列番号4を有するプロモータ配列により制御されるSP遺伝子またはcDNA配列を有するナス属lycopersicum植物に関する。
【0019】
本明細書中において、SP3DのcDNA配列は、配列番号5として提供され、SPのcDNA配列は、配列番号6として提供される。
【0020】
本発明によれば、当該ナス属lycopersicum植物は、ヘテロ接合型ナス属pennelliまたはホモ接合型ナス属pennelliのSP遺伝子およびSP3D遺伝子を含むことができる。すなわち、当該ナス属lycopersicum植物内の少なくとも1つの対立遺伝子は、ナス属pennelliのSP遺伝子を含み、当該ナス属lycopersicum植物の少なくとも1つの対立遺伝子は、ナス属pennelliのSP3D遺伝子を含む。しかしながら、驚くことに、本発明者らは、本発明のプロモータまたは遺伝子の一方が両方の対立遺伝子にホモ接合型として存在する場合、果実収量のさらなる改善、例えばトラス数のさらなる改善を得ることができることを観察した。ナス属pennelliの両方の遺伝子がホモ接合型として存在する場合、果実収量の最適な増加が得られる。
【0021】
したがって、特に好ましい実施形態によれば、本発明は、ナス属pennelliのSP3D遺伝子または少なくともそのプロモータがホモ接合型として存在するナス属lycopersicum植物、またはナス属pennelliのSP遺伝子または少なくともそのプロモータがホモ接合型として存在するナス属lycopersicum植物、またはナス属pennelliのSP3D遺伝子または少なくともそのプロモータおよびナス属pennelliのSP遺伝子または少なくともそのプロモータがホモ接合型として存在するナス属lycopersicum植物に関する。本発明の文脈において、必要なプロモータの存在は、転写遺伝子配列またはcDNA配列に操作可能に連結されることによって、各々の機能性SP3Dタンパク質およびSPタンパク質をエンコードするDNA配列に操作可能に連結されたプロモータを意味する。
【0022】
本発明のナス属lycopersicum植物が収量を著しく増加するため、さらなる態様によれば、方法は、増加した収量を有するナス属lycopersicum植物を提供するための方法に関する。本発明の方法は、ナス属pennelliのSP3D遺伝子およびSP3遺伝子またはそのプロモータをナス属lycopersicum植物のゲノムに導入する工程を含む。
【0023】
別の態様によれば、本発明は、ナス属lycopersicum植物の種子および果実にも関する。本質的に、本発明のこの態様の果実および種子は、上記に説明したように、ナス属pennelliのSP3D遺伝子およびSP遺伝子を含む。
【0024】
以下の実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。実施例は、添付の図面を参照する。
【実施例】
【0026】
SP遺伝子が増加した果実収量の表現型を安定化することができるか否かを確認するために、100個の遺伝子移入植物を栽培した。具体的には、これらの植物は、ナス属pennelliからのSP3DおよびSPをナス属lycopersicum(またはトマト属esculentum)に遺伝子移入することによって得られた。両方の遺伝子の存在は、標準分子解析によって確認した。
【0027】
植物は、標準条件下で成長させられ、トラス間の葉数は、カウントされる。
図1に示すように、トラス間の葉の平均数は、2枚から3枚の間に変動する。さらに、
図1は、ナス属pennelliからのホモ接合型SP3Dは、ヘテロ接合型SP3Dに比べて、よりも少ないトラス間の葉数をもたらしたことを示している。
【0028】
ホモ接合型pennelliのSP(SP
pen/pen)が、ホモ接合型pennelliのSP3D(SP3D
pen/pen)またはヘテロ接合型pennelliのSP3D(SP3D
pen/pen)と組み合わせたヘテロ接合型pennelliのSP(SP
pen/esc)よりも、トラス間に2枚の葉を有する表現型により大きく寄与しているか否かを検査するために、
図2において、戻し交雑科に存在した異なるハプロタイプとトラス間の葉数との図面を作成した。
図2に見られるように、SP
pen/penおよびSP3D
pen/penの両方が植物においてホモ接合型pennelliとして存在する場合、トラス間の葉の平均数は、2枚である。一方、他のすべての組み合わせの場合、トラス間の葉の平均数は、2.25枚以上である。
図1と比較すると、
図2は、pennelliの存在は、トラス間に2枚の葉を有する表現型の安定性に寄与していることを示している。
【0029】
本発明の植物の果実収量を評価するために、以下の交雑スキームに従って、Moneyberg(ナス属lycopersicum)バックグラウンドで、pennelliのSP3DおよびpennelliのSPの両方を遺伝子移入することによって得られた植物のトラスの数をカウントした。
【0030】
【数1】
【0031】
これらの植物は、6月から10月までの間に成長させられ、各々の植物のトラス数をカウントした。
図3は、4つの異なる遺伝子型のトラスの数を示している。
図3に明らかに示すように、pennelliのSP3DおよびpennelliのSPの両方がホモ接合型として存在した場合、植物のトラスの量は、改善される。
【0032】
【表2-1】
【0033】
【表2-2】
【0034】
【表2-3】
【0035】
【表2-4】
【0036】
【表2-5】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]