特許第6606188号(P6606188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ボティス バイオマテリアルズ ゲーエムベーハーの特許一覧

特許6606188上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法
<>
  • 特許6606188-上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法 図000002
  • 特許6606188-上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法 図000003
  • 特許6606188-上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法 図000004
  • 特許6606188-上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法 図000005
  • 特許6606188-上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法 図000006
  • 特許6606188-上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法 図000007
  • 特許6606188-上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法 図000008
  • 特許6606188-上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606188
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】上顎骨の欠損を被覆するためのインプラント、及び該インプラントを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/04 20060101AFI20191031BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20191031BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20191031BHJP
   A61L 31/00 20060101ALI20191031BHJP
   A61L 17/00 20060101ALI20191031BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   A61L27/04
   A61F2/28
   A61C8/00 Z
   A61L31/00
   A61L17/00
   A61L27/58
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-545660(P2017-545660)
(86)(22)【出願日】2015年12月3日
(65)【公表番号】特表2018-507729(P2018-507729A)
(43)【公表日】2018年3月22日
(86)【国際出願番号】EP2015078499
(87)【国際公開番号】WO2016134797
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2018年4月17日
(31)【優先権主張番号】102015102597.3
(32)【優先日】2015年2月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517297348
【氏名又は名称】ボティス バイオマテリアルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】タディッチ,ドラジェン
(72)【発明者】
【氏名】ビーレンスタイン,オリバー
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−082146(JP,A)
【文献】 特表2009−535504(JP,A)
【文献】 特開2011−136967(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/102205(WO,A1)
【文献】 特表2009−545407(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102206819(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/04
A61C 8/00
A61F 2/28
A61L 17/00
A61L 27/58
A61L 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨欠損、特に顎領域における骨欠損を被覆するためのインプラントであって、
該インプラントはマグネシウム膜から成り、
該マグネシウム膜は50μm〜300μmの厚さを有し、
該マグネシウム膜は少なくとも該マグネシウム膜の中心域に開孔を有しない、インプラント
【請求項2】
幾何学的に安定しており、湾曲形状、特に曲率半径が0.5cm〜10cm、好ましくは0.7cm〜1.5cmであり、及び/又は角度が30度より大きい湾曲形状を有する、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
1つの歯に対して少なくとも1つの凹部を有する、請求項1又は2に記載のインプラント。
【請求項4】
エッチング表面を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項5】
コーティング表面を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項6】
厚さが好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満である不動態化表面、特にフッ化マグネシウム層を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項7】
周辺域に沿って構造化している及び/又は穿孔している、請求項1〜のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項8】
前記マグネシウム膜の厚さが70μm〜200μmである、請求項1〜のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項9】
前記マグネシウム膜に500ppm未満の鉄、銅、及び/又はニッケルが含まれている、請求項1〜のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項10】
顎領域における骨欠損を被覆するためのキットであって、請求項1〜のいずれか一項に記載のインプラントと、該インプラントを顎に固定するピン、ねじ又は縫合糸とを含む、キット。
【請求項11】
求項1〜のいずれか一項に記載のインプラントを製造する方法であって、
マグネシウム膜を準備することと、
被覆する部位の長さまで前記マグネシウム膜を短くすることと、
前記マグネシウム膜を屈曲させることと、
を含む、方法。
【請求項12】
前記マグネシウム膜をフッ化水素酸で処理することを含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顎領域における骨欠損を被覆するための生体吸収性インプラント、及びかかるインプラントを製造する方法に関する。特に本発明は、骨補填材(bone substitute material:骨代用材)を充填した欠損部位上に留置した後、その上の軟組織を閉鎖するインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
顎領域における骨欠損を被覆するためのインプラントが知られている。留置後に徐々に溶解する生体吸収性インプラント、及び身体に留まるか又は或る特定期間の後に取り出す必要があるインプラントが両方とも利用可能である。
【0003】
既知の骨欠損を被覆するためのインプラントの概要は非特許文献1で与えられている。
【0004】
例えば、留置が容易であるが、摘出する(explanted)必要がある非吸収性PTFE膜が利用可能である。
【0005】
さらに吸収性材料としては特にコラーゲン膜が利用可能である。
【0006】
後者には摘出する必要がないという利点があるが、あまり緻密ではないため、充填された骨欠損部位へと軟組織が成長するか、又は骨材料が欠損部位から漏出するリスクがあるという不利点を伴う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Liu et al. "Mechanisms of Guided Bone Regeneration: A Review", The Open Dentistry Journal, 2014; 8: p. 56-65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記を鑑みて、本発明は従来技術の不利点を解消するという目的に基づいている。
【0009】
特に本発明の目的は、容易に留置することができ、留置後の初期段階において、確実に軟組織と骨材料、特に骨補填材とを隔てる生体吸収性インプラントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、独立クレームのいずれか一項に記載されている、顎領域における骨欠損を被覆するためのインプラント、及び顎領域における骨欠損を被覆するためのインプラントを製造する方法によって既に達成されている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態及び変形形態はそれぞれの従属クレームの主題によって特定される。
【0012】
本発明は顎領域における骨欠損を被覆するためのマグネシウム膜を含むインプラントに関する。
【0013】
マグネシウム膜はマグネシウム、又は主にマグネシウムからなる、すなわち50%を超えるマグネシウム(特に明記しない限り、百分率は本明細書を通して重量パーセントを意味する)を含有するマグネシウム合金で構成された膜を指す。
【0014】
驚くべきことに、このようなマグネシウム膜によって、軟組織と、欠損部位、特に骨補填材、例えば特に同種又は自己骨移植片が充填された欠損部位との間を明確に隔てることが可能になることが認められた。
【0015】
マグネシウムの生体吸収特性自体は知られている。しかしながら、顎領域における膜だけで、インプラントが少なくとも部分的に分解するまで軟組織の内方成長が妨げられるように、自然骨組織の欠損部位への成長が完了するのに十分な時間、腐食攻撃に耐えることができることはかなり驚くべきことである。
【0016】
本発明は顎領域における骨欠損のあらゆるタイプの治療、特に上顎洞底挙上矯正術(sinus lift corrections:サイナスリフト矯正術)にも適している。
【0017】
特にリン酸炭酸カルシウム又はヒドロキシアパタイトを含有する材料を含む骨補填材が用いられる。この材料は合成材料及び天然材料のどちらであってもよく、特に例えばヒト又はブタ由来のドナー骨から作製された材料であってもよい。骨補填材を、欠損部位、少なくともその一部の外形におおよそ適合した適合形状体の形だけでなく、粒状でも留置することができる。
【0018】
インプラントは幾何学的に安定していることが好ましい。このことは例えば屈曲させたインプラントの形状が自重により変化しないことを意味する。
【0019】
このために、特に厚さ50μm〜300μm、好ましくは70μm〜200μmのマグネシウム膜が使用される。
【0020】
インプラントは湾曲形状を有することが好ましい。そうすることで、インプラントを欠損部位上に留置することができ、最良であれば顎堤(jaw ridge)上にクランプすることさえもできる。
【0021】
特に少なくともその一部において0.5cm〜10cm、好ましくは0.7cm〜1.5cmの曲率半径が得られる。
【0022】
上述の厚さのマグネシウム膜を、特におよそ30度を超える角度に屈曲することができることが認められた。この角度はインプラントの長手方向のエッジ部に対する接線で囲まれた角によって規定される。インプラントの長手方向のエッジ部は互いに平行に並んでいるか、又はインプラントを固定、特にクランプするために180度を超える角度を取ることもあることが特に考慮される。
【0023】
本発明の更なる実施の形態では、インプラントは1つの歯に対して少なくとも1つの凹部を有する。隣辺の一部が歯を囲むようにインプラントの前端及び/又は後端が凹んでいることが好ましい。これにより留置が容易になる一方、軟組織の内方成長のリスクが更に低減する。
【0024】
インプラントは0.5cm〜25cmのサイズを有することが好ましい。1つの歯に対して1つの凹部が設けられている場合、0.25cmを超える面積を取ることが好ましい。
【0025】
本発明の更なる実施の形態によれば、インプラントはコーティング表面及び/又はエッチング表面を有する。
【0026】
特に酸に浸漬されているインプラントは任意の曲げ半径及び腐食特性について特性の改善を示すことが認められた。
【0027】
インプラントは平均粗度Rが0.08μm未満、好ましくは0.03μm未満、最も好ましくは0.02μm未満の平滑表面を有することが更に好ましい。このような平滑表面は特に酸処理によって、例えば硝酸による酸処理によって達成することができる。
【0028】
特にエッチング及び/又は不動態化が表面処理として提示される。予め洗浄したインプラント、特に酸で予め洗浄したインプラントをフッ化水素酸に少なくとも10分間浸漬させることが特に適していることが分かっており、フッ化マグネシウムの保護層は撹拌浸漬により形成される。不動態化表面、特にフッ化マグネシウム層の厚さは好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満である。
【0029】
厚さ0.2μm〜2μm、好ましくは0.7μm〜1.5μmの層を作製することが特に提示されている。
【0030】
このようにして、十分に連結され、好ましくは孔のない耐擦傷性層が形成され、この層は曲げ半径が小さくても割れにくい。
【0031】
膜の少なくとも中心域、すなわち特に欠損部位の真上に配されている区域には開孔がないことが好ましい。これにより欠損が確実に密閉されることになる。
【0032】
本発明の更なる実施の形態では、インプラントの一部が、特にその周辺域に沿って構造化及び/又は穿孔している。特に例えば網状構造の形で穿孔によって、又は構造化、特にプリーツ加工によって、インプラントのより良好な屈曲をもたらし、及び/又は隣接組織への付着を改善させることが可能である。
【0033】
インプラントは純マグネシウム(純度99%超)又は1%〜6%のイットリウム、0.5%〜3%の亜鉛、0.1%〜2%のカルシウム、及び/又は0.6%〜1.5%のマンガンを含み得るマグネシウム合金で構成されていることが好ましい。
【0034】
しかしながら、マグネシウム膜は500ppm未満の鉄、銅、及び/又はニッケルを含むことが好ましい。
【0035】
本発明は更に、顎領域における骨欠損を被覆するためのキットであって、上記のインプラントと、該インプラントを顎に固定するピンとを含む、キットに関する。本発明においてピンは、特にピン、釘、又はねじを含むものとして理解される。ピンもマグネシウム又はマグネシウム合金で構成されていることが好ましい。
【0036】
本発明の更なる実施の形態に従って考慮すると、インプラントにはピンを導入する孔がある場合がある。しかしながら、特にピンがチップを有する場合、ピン自体を用いて固定孔を導入することも想到される。
【0037】
本発明は更に、顎領域における骨欠損を被覆するように設計されているインプラント、特に上記のインプラントを製造する方法に関する。
【0038】
本発明によれば、マグネシウム膜を準備する。マグネシウム膜は被覆される部位の長さまで短くし、マグネシウム膜を屈曲する。
【0039】
マグネシウム膜の屈曲は、捻れ及びエッジ形成(edges)のリスクが軽減するように、型を用いて又は屈曲ツールによって行うことが好ましい。
【0040】
インプラントを所望の長さまで短くし、及び/又は例えば歯に対する凹部を導入するために、例えばインプラントを切断するか又は打ち抜くことができる。
【0041】
層を形成するために、マグネシウム膜をフッ化水素酸で、特に30%を超える濃度のフッ化水素酸で、特に10時間を超える、好ましくは12時間を超える期間に亘って処理することが好ましい。
【0042】
本発明は更に、審美的に及び/又は外科的に顎を再建する方法であって、上記のインプラントを、特に骨補填材が充填されている欠損部位上に留置することと、該欠損部位上の軟組織を特に縫合により閉鎖することとを含む、方法に関する。
【0043】
本発明のマグネシウム膜により、自然骨材料の形成中に軟組織の内方成長を大きく妨げる生体吸収性インプラントが容易に得られることが認められた。
【0044】
インプラントは取り出す必要なく分解される。驚くべきことに表面積が比較的大きい膜を用いるにも関わらず、不所望に高度に気泡を発生するガスを形成するという結果にはならない。
【0045】
自然骨組織が形成されたら、例えば歯科用ピンインプラントを先の欠損部位に導入することが可能になる。マグネシウム膜が分解される前に既に歯科用ピンインプラントが導入されていてもよい。
【0046】
本発明によるインプラントは下記の任意の用途に特に適している。
【0047】
第1に、マグネシウム膜の形のインプラントを、シュナイダー膜の損傷を治療するのに用いることができる。
【0048】
シュナイダー膜は顎骨と上顎洞とを隔てるものであり、その損傷は大きな感染症リスクを伴う。
【0049】
薄いマグネシウム膜を挿入することによりこのような欠損部位を閉鎖することができることが認められている。pH値の上昇によるものであると推定されるが、マグネシウムは抗炎症作用を有するとされ、その上例えば骨充填材料が用いられる場合に自然骨組織の形成を促す。
【0050】
別の可能性がある用途としては、従来の膜、例えばPTFE膜に一般的な創傷離開の予防がある。
【0051】
その上、従来の膜は更なる外科手術にて取り出す必要がある。
【0052】
マグネシウム膜上の離開縫合が自然に完全な創傷閉鎖をもたらすことが認められている。
【0053】
こうすることで、感染症を引き起こすことなく、最大で10mmの欠損に耐えることができる。
【0054】
驚くべきことに、膜は極めて緩やかに腐食し、長期に亘って機械的安定性を保持する。
【0055】
さらに、顎における欠損部位を修復することが可能である。
【0056】
特に、骨膜弁下のマグネシウム膜は皮質骨壁(cortical wall)の自律的再生をもたらすことができる。皮質骨壁の再生治療は皮質骨壁、特に皮質骨側壁のどの区域においても可能である。
【0057】
例えばピンインプラントの露出域等の欠損部位の下で、皮質骨壁は欠損部位の周りに形成される。
【0058】
最後に、マグネシウム膜は初期の術後感染防御のために予防的にも使用することができる。
【0059】
さらに、その幾何学安定性から、本発明のインプラントは複雑な三次元再生骨を形作るのに適している。
【0060】
このため、充填材料はマグネシウム膜下の欠損部位に導入される。
【0061】
その三次元の幾何学的に安定した自由曲面により、骨が緻密化して、マグネシウム膜が完全に溶解するまで、マグネシウム膜はこの形状を維持する。
【0062】
これより本発明の主題を、図1図8の図面を参照して例示的な実施形態により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】顎領域における骨欠損を被覆するためのインプラント1の例示的な実施形態を示す図である。
図2】インプラントの側面図である。
図3】インプラントの別の実施形態を示す図である。
図4】インプラントのラスター走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図5】インプラントのラスター走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図6】インプラントのラスター走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図7】シュナイダー膜の損傷の予防又は治療のための本発明によるインプラントの使用を示す図である。
図8】いわゆる「側方増生(lateral augmentation)」(顎骨の再建)のための本発明によるインプラントの使用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図1に、顎領域における骨欠損を被覆するためのインプラントの第1の例示的な実施形態を示している。
【0065】
この例示的な実施形態では、インプラント1は厚さ50μm〜150μmのマグネシウム膜2からなっており、このマグネシウム膜は特にマグネシウム合金で構成されている。インプラント1は丸い角部を有し、この例示的な実施形態では隣在歯に合わせた2箇所の凹部3を有する。
【0066】
したがってインプラントは、1つの歯又は幾つかの歯が欠けている顎における欠損部位を被覆するために特別に設計されている。
【0067】
図2に、図1に示されるインプラント1の凹部(図1の3)に向かって見た側面図を示している。
【0068】
インプラントが湾曲していることを見ることができる。この例示的な実施形態では、インプラントの長手方向のエッジ部は互いにほぼ対向しており、そのためインプラントを顎堤上に固定、特にクランプ又はクリップすることができる。
【0069】
図3にインプラント1の別の実施形態を示している。
【0070】
一方、インプラント1は縫合糸、ピン、ねじ、又は釘を導入するのに用いられる孔5を有する。
【0071】
この例示的な実施形態では、インプラント1は網状域7、すなわち穿孔のある区域を更に有する。これらの穿孔は屈曲を促すか、又は組織への付着を改善する働きがあり得る。
【0072】
さらに構造化域6も示されており、この構造化域は特にプリーツの形をとることができ、インプラント1を顎骨に適合させる働きがある。
【0073】
図4に、フッ化水素酸に浸漬させることによりマグネシウム膜にフッ化マグネシウム層が設けられたインプラントの表面の走査型電子顕微鏡写真を示している。
【0074】
結果として、厚さおよそ1μmの平滑な耐擦傷性の薄層が得られ、これによりかなり小さい曲げ半径も可能になる。
【0075】
また図5にも膜の断面であるが走査型電子顕微鏡写真を示しており、フッ化マグネシウム層は既にはっきりと識別可能である。
【0076】
図6図5の詳細図である。
【0077】
マグネシウム層8上に形成された薄いフッ化マグネシウム層9を見ることができる。
【0078】
フッ化マグネシウム層9は下地のマグネシウム層に十分に連結されていることは容易に明らかであり、このことがとりわけ層の良好な付着の原因となっていると考えられる。
【0079】
図7は本発明によるインプラントの第1の可能な適用を示す図である。
【0080】
マグネシウム膜の形の本発明のインプラントを損傷したシュナイダー膜の治療に用いることができる。
【0081】
特に本図で示されるように歯科用インプラントを受ける働きがあるピンインプラント14を留置する場合、上顎骨13と上顎洞とを隔てるシュナイダー膜12に損傷が起こり得る。
【0082】
多くの場合、本図で示されるように、顎骨13とシュナイダー膜12との間隙に骨補填材、特にリン酸カルシウム粒状物質を充填することで、インプラント14を留置することができるように後退顎骨を増厚する。
【0083】
シュナイダー膜12の損傷は極めて高い感染リスクを伴う。術中このような損傷が検出されたら、通常外科手術は中断され、数ヶ月の治癒期間の後でなければ、ピンインプラント14の留置を再度試みることはできない。
【0084】
シュナイダー膜12を閉鎖するマグネシウム膜の形の本発明によるインプラントを使用することにより、これを回避することができることが認められている。
【0085】
例えば欠損の場合、ピンインプラント14の孔を通して、又は顎堤13の側方開口を通してマグネシウム膜を導入することができる。
【0086】
ピンインプラントの孔を通してマグネシウム膜を導入する場合、例えばマグネシウム膜は事前に巻き上げられていてもよいことが理解される。
【0087】
シュナイダー膜12がマグネシウム膜により封止される。驚くべきことに、少なくとも50μmの薄いマグネシウム膜であれば、実際に予測される非常に短い期間内にて分解することなく十分な封止が得られる。
【0088】
したがってこのため、マグネシウム膜により、直ぐに外科手術を再開することが可能であり、その上特にマグネシウム膜が十分な厚さである場合に、使用される骨材料に良好な下地が得られるという利点がもたらされる。自然骨組織の成長もマグネシウム膜によって促進される。
【0089】
しかしながら、マグネシウム膜はシュナイダー膜が損傷していなくても、予防的にも使用することができることが理解される。
【0090】
図8は顎骨における欠損部位の三次元再建のための本発明によるインプラント1の使用を示す図である。
【0091】
欠損部位11を有する顎骨10をマグネシウム膜からなる屈曲インプラント1で被覆する。インプラント1は三次元自由曲面を画定する。
【0092】
図の右側に見られるように、形成される顎堤10の骨組織はこの自由曲面に沿って、自然形状に類似した丸みを帯びた顎堤を形成する。この類似は特に通常、ドナー材料の骨ブロックを挿入して使用する場合よりも良好である。
【0093】
本発明により顎領域における骨欠損を被覆するための吸収性インプラントを容易に得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0094】
1 インプラント
2 マグネシウム膜
3 凹部
4 角部
5 孔
6 構造化域
7 網状域
8 マグネシウム層
9 フッ化マグネシウム層
10 顎堤
11 欠損部位
12 シュナイダー膜
13 顎骨
14 ピンインプラント
15 充填材料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8