【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、独立クレームのいずれか一項に記載されている、顎領域における骨欠損を被覆するためのインプラント、及び顎領域における骨欠損を被覆するためのインプラントを製造する方法によって既に達成されている。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態及び変形形態はそれぞれの従属クレームの主題によって特定される。
【0012】
本発明は顎領域における骨欠損を被覆するためのマグネシウム膜を含むインプラントに関する。
【0013】
マグネシウム膜はマグネシウム、又は主にマグネシウムからなる、すなわち50%を超えるマグネシウム(特に明記しない限り、百分率は本明細書を通して重量パーセントを意味する)を含有するマグネシウム合金で構成された膜を指す。
【0014】
驚くべきことに、このようなマグネシウム膜によって、軟組織と、欠損部位、特に骨補填材、例えば特に同種又は自己骨移植片が充填された欠損部位との間を明確に隔てることが可能になることが認められた。
【0015】
マグネシウムの生体吸収特性自体は知られている。しかしながら、顎領域における膜だけで、インプラントが少なくとも部分的に分解するまで軟組織の内方成長が妨げられるように、自然骨組織の欠損部位への成長が完了するのに十分な時間、腐食攻撃に耐えることができることはかなり驚くべきことである。
【0016】
本発明は顎領域における骨欠損のあらゆるタイプの治療、特に上顎洞底挙上矯正術(sinus lift corrections:サイナスリフト矯正術)にも適している。
【0017】
特にリン酸炭酸カルシウム又はヒドロキシアパタイトを含有する材料を含む骨補填材が用いられる。この材料は合成材料及び天然材料のどちらであってもよく、特に例えばヒト又はブタ由来のドナー骨から作製された材料であってもよい。骨補填材を、欠損部位、少なくともその一部の外形におおよそ適合した適合形状体の形だけでなく、粒状でも留置することができる。
【0018】
インプラントは幾何学的に安定していることが好ましい。このことは例えば屈曲させたインプラントの形状が自重により変化しないことを意味する。
【0019】
このために、特に厚さ50μm〜300μm、好ましくは70μm〜200μmのマグネシウム膜が使用される。
【0020】
インプラントは湾曲形状を有することが好ましい。そうすることで、インプラントを欠損部位上に留置することができ、最良であれば顎堤(jaw ridge)上にクランプすることさえもできる。
【0021】
特に少なくともその一部において0.5cm〜10cm、好ましくは0.7cm〜1.5cmの曲率半径が得られる。
【0022】
上述の厚さのマグネシウム膜を、特におよそ30度を超える角度に屈曲することができることが認められた。この角度はインプラントの長手方向のエッジ部に対する接線で囲まれた角によって規定される。インプラントの長手方向のエッジ部は互いに平行に並んでいるか、又はインプラントを固定、特にクランプするために180度を超える角度を取ることもあることが特に考慮される。
【0023】
本発明の更なる実施の形態では、インプラントは1つの歯に対して少なくとも1つの凹部を有する。隣辺の一部が歯を囲むようにインプラントの前端及び/又は後端が凹んでいることが好ましい。これにより留置が容易になる一方、軟組織の内方成長のリスクが更に低減する。
【0024】
インプラントは0.5cm
2〜25cm
2のサイズを有することが好ましい。1つの歯に対して1つの凹部が設けられている場合、0.25cm
2を超える面積を取ることが好ましい。
【0025】
本発明の更なる実施の形態によれば、インプラントはコーティング表面及び/又はエッチング表面を有する。
【0026】
特に酸に浸漬されているインプラントは任意の曲げ半径及び腐食特性について特性の改善を示すことが認められた。
【0027】
インプラントは平均粗度R
aが0.08μm未満、好ましくは0.03μm未満、最も好ましくは0.02μm未満の平滑表面を有することが更に好ましい。このような平滑表面は特に酸処理によって、例えば硝酸による酸処理によって達成することができる。
【0028】
特にエッチング及び/又は不動態化が表面処理として提示される。予め洗浄したインプラント、特に酸で予め洗浄したインプラントをフッ化水素酸に少なくとも10分間浸漬させることが特に適していることが分かっており、フッ化マグネシウムの保護層は撹拌浸漬により形成される。不動態化表面、特にフッ化マグネシウム層の厚さは好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満である。
【0029】
厚さ0.2μm〜2μm、好ましくは0.7μm〜1.5μmの層を作製することが特に提示されている。
【0030】
このようにして、十分に連結され、好ましくは孔のない耐擦傷性層が形成され、この層は曲げ半径が小さくても割れにくい。
【0031】
膜の少なくとも中心域、すなわち特に欠損部位の真上に配されている区域には開孔がないことが好ましい。これにより欠損が確実に密閉されることになる。
【0032】
本発明の更なる実施の形態では、インプラントの一部が、特にその周辺域に沿って構造化及び/又は穿孔している。特に例えば網状構造の形で穿孔によって、又は構造化、特にプリーツ加工によって、インプラントのより良好な屈曲をもたらし、及び/又は隣接組織への付着を改善させることが可能である。
【0033】
インプラントは純マグネシウム(純度99%超)又は1%〜6%のイットリウム、0.5%〜3%の亜鉛、0.1%〜2%のカルシウム、及び/又は0.6%〜1.5%のマンガンを含み得るマグネシウム合金で構成されていることが好ましい。
【0034】
しかしながら、マグネシウム膜は500ppm未満の鉄、銅、及び/又はニッケルを含むことが好ましい。
【0035】
本発明は更に、顎領域における骨欠損を被覆するためのキットであって、上記のインプラントと、該インプラントを顎に固定するピンとを含む、キットに関する。本発明においてピンは、特にピン、釘、又はねじを含むものとして理解される。ピンもマグネシウム又はマグネシウム合金で構成されていることが好ましい。
【0036】
本発明の更なる実施の形態に従って考慮すると、インプラントにはピンを導入する孔がある場合がある。しかしながら、特にピンがチップを有する場合、ピン自体を用いて固定孔を導入することも想到される。
【0037】
本発明は更に、顎領域における骨欠損を被覆するように設計されているインプラント、特に上記のインプラントを製造する方法に関する。
【0038】
本発明によれば、マグネシウム膜を準備する。マグネシウム膜は被覆される部位の長さまで短くし、マグネシウム膜を屈曲する。
【0039】
マグネシウム膜の屈曲は、捻れ及びエッジ形成(edges)のリスクが軽減するように、型を用いて又は屈曲ツールによって行うことが好ましい。
【0040】
インプラントを所望の長さまで短くし、及び/又は例えば歯に対する凹部を導入するために、例えばインプラントを切断するか又は打ち抜くことができる。
【0041】
層を形成するために、マグネシウム膜をフッ化水素酸で、特に30%を超える濃度のフッ化水素酸で、特に10時間を超える、好ましくは12時間を超える期間に亘って処理することが好ましい。
【0042】
本発明は更に、審美的に及び/又は外科的に顎を再建する方法であって、上記のインプラントを、特に骨補填材が充填されている欠損部位上に留置することと、該欠損部位上の軟組織を特に縫合により閉鎖することとを含む、方法に関する。
【0043】
本発明のマグネシウム膜により、自然骨材料の形成中に軟組織の内方成長を大きく妨げる生体吸収性インプラントが容易に得られることが認められた。
【0044】
インプラントは取り出す必要なく分解される。驚くべきことに表面積が比較的大きい膜を用いるにも関わらず、不所望に高度に気泡を発生するガスを形成するという結果にはならない。
【0045】
自然骨組織が形成されたら、例えば歯科用ピンインプラントを先の欠損部位に導入することが可能になる。マグネシウム膜が分解される前に既に歯科用ピンインプラントが導入されていてもよい。
【0046】
本発明によるインプラントは下記の任意の用途に特に適している。
【0047】
第1に、マグネシウム膜の形のインプラントを、シュナイダー膜の損傷を治療するのに用いることができる。
【0048】
シュナイダー膜は顎骨と上顎洞とを隔てるものであり、その損傷は大きな感染症リスクを伴う。
【0049】
薄いマグネシウム膜を挿入することによりこのような欠損部位を閉鎖することができることが認められている。pH値の上昇によるものであると推定されるが、マグネシウムは抗炎症作用を有するとされ、その上例えば骨充填材料が用いられる場合に自然骨組織の形成を促す。
【0050】
別の可能性がある用途としては、従来の膜、例えばPTFE膜に一般的な創傷離開の予防がある。
【0051】
その上、従来の膜は更なる外科手術にて取り出す必要がある。
【0052】
マグネシウム膜上の離開縫合が自然に完全な創傷閉鎖をもたらすことが認められている。
【0053】
こうすることで、感染症を引き起こすことなく、最大で10mmの欠損に耐えることができる。
【0054】
驚くべきことに、膜は極めて緩やかに腐食し、長期に亘って機械的安定性を保持する。
【0055】
さらに、顎における欠損部位を修復することが可能である。
【0056】
特に、骨膜弁下のマグネシウム膜は皮質骨壁(cortical wall)の自律的再生をもたらすことができる。皮質骨壁の再生治療は皮質骨壁、特に皮質骨側壁のどの区域においても可能である。
【0057】
例えばピンインプラントの露出域等の欠損部位の下で、皮質骨壁は欠損部位の周りに形成される。
【0058】
最後に、マグネシウム膜は初期の術後感染防御のために予防的にも使用することができる。
【0059】
さらに、その幾何学安定性から、本発明のインプラントは複雑な三次元再生骨を形作るのに適している。
【0060】
このため、充填材料はマグネシウム膜下の欠損部位に導入される。
【0061】
その三次元の幾何学的に安定した自由曲面により、骨が緻密化して、マグネシウム膜が完全に溶解するまで、マグネシウム膜はこの形状を維持する。
【0062】
これより本発明の主題を、
図1〜
図8の図面を参照して例示的な実施形態により詳細に説明する。