特許第6606192号(P6606192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6606192抗肥満及び抗糖尿作用を有するペプチド及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606192
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】抗肥満及び抗糖尿作用を有するペプチド及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20191031BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20191031BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20191031BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20191031BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20191031BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20191031BHJP
   A23L 33/18 20160101ALN20191031BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   A61K38/08
   A61P3/04
   A61P3/10
   A61P3/06
   A61P43/00 105
   A61P43/00 111
   !A23L33/18
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-556574(P2017-556574)
(86)(22)【出願日】2015年5月12日
(65)【公表番号】特表2018-515471(P2018-515471A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(86)【国際出願番号】KR2015004749
(87)【国際公開番号】WO2016175362
(87)【国際公開日】20161103
【審査請求日】2017年12月26日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0059648
(32)【優先日】2015年4月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510271129
【氏名又は名称】ケアジェン カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAREGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウンミ
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平07−500839(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/185604(WO,A1)
【文献】 特表2002−523424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00−7/64
A61K 38/08
A61P 3/00−3/14
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列リスト第1配列に記載されているアミノ酸配列でなるペプチド。
【請求項2】
配列リスト第1配列に記載されているアミノ酸配列でなる抗肥満または抗糖尿活性を有するペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドは、脂質の生成を抑制させることを特徴とする請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドは、PPARγ(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma)、ACC(Acetyl-CoA carboxylase)またはaP2(adipose-specific fatty acid-binding protein 2)の発現を減少させることを特徴とする請求項2に記載のペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドは、脂肪の分解を増加させることを特徴とする請求項2に記載のペプチド。
【請求項6】
前記ペプチドは、pHSL(phospho-hormone-sensitive lipase)、AMPK-α1(AMP-activated protein kinase α1)、CGI-58(Comparative Gene Identification-58)またはATGL(Adipose triglyceride lipase)の発現を増加させることを特徴とする請求項2に記載のペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドは、血糖を減少させることを特徴とする請求項2に記載のペプチド。
【請求項8】
次のペプチドの組み合わせでなる抗肥満または抗糖尿活性を有するペプチド複合体:
(a)配列リスト第1配列でなるペプチド;
(b)配列リスト第2配列または配列リスト第3配列でなるペプチド;及び
(c)配列リスト第6配列または配列リスト第7配列でなるペプチド。
【請求項9】
前記ペプチド複合体は、脂肪細胞の大きさを減少させることを特徴とする請求項8に記載のペプチド複合体。
【請求項10】
前記ペプチド複合体は、血中コレステロールを減少させることを特徴とする請求項8に記載のペプチド複合体。
【請求項11】
請求項2から請求項7のいずれか一項に記載のペプチドを有効成分として含む肥満の予防または治療用薬剤学的組成物。
【請求項12】
請求項8から請求項10のいずれか一項に記載のペプチド複合体を有効成分として含む肥満の予防または治療用薬剤学的組成物。
【請求項13】
請求項2から請求項7のいずれか一項に記載のペプチドを有効成分として含む糖尿の予防または治療用薬剤学的組成物。
【請求項14】
請求項8から請求項10のいずれか一項に記載のペプチド複合体を有効成分として含む糖尿の予防または治療用薬剤学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2015年4月28日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2015-0059648号に対して優先権を主張し、前記特許出願の開示事項は本明細書に参照として挿入される。
本発明は、抗肥満及び抗糖尿作用を有するペプチド及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、韓国では、経済の成長と食生活の西欧化によって食べ物から得る脂肪成分の摂取量が増加し、運動不足などによって肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化症及び脂肪肝のような代謝性疾患が増加している傾向である。更に、肥満は、痩身志向の人々にとって審美的な問題である他、種々の疾患にも関連している。
現在、肥満を治療する治療剤は大きく、中枢神経系に作用して食欲に影響を与える薬剤と、胃腸管に作用して吸収を阻害する薬剤とに分けられる。
中枢神経系に作用する薬剤は抗肥満薬として市販され、その作用機構によって、セロトニン(5−HT)神経系に働きかけるフェンフルラミンやデクスフェンフルラミンなど、ノルアドレナリン神経系に働きかけるエフェドリンやカフェインなど、セロトニン(5−HT)神経系とノルアドレナリン神経系の双方に働きかける薬剤であって近年開発されたシブトラミンなどに分類される。胃腸管に作用して吸収を阻害する薬剤の代表はオルリスタットである。オルリスタットは、肥満の治療薬として承認されており、腸リパーゼの作用を阻害し、脂肪の吸収を減らす働きをする。しかし、既存の薬剤には問題があり、例えば、フェンフルラミンなどの薬物は、副作用として原発性肺高血圧や心臓弁膜症を引き起こすため、最近使用が禁止されている。他の薬物も血圧減少や乳酸アシドーシスなどの問題点が発生するため、心不全、腎臓疾患などの患者には使用できないという問題点がある。
【0003】
糖尿病は代謝疾患の一種であり、インスリンの分泌量が不足しているか、インスリンが正常な機能を発揮できないことにより引き起こされる(DeFronzo、1988)。糖尿病は、高血糖、すなわち血中のブドウ糖の値が高い状態が長期間に亘って続くことを特徴とし、多様な症状や症状群(シンドローム)を引き起こし、尿中へのグルコース排出を伴う疾患である。近年、肥満、特に腹部肥満の確率が増加しており、糖尿病の有病率が爆発的に増加している。
2000年時点で、糖尿病患者の数は、全世界的で1億7千万人と評価され、2030年に3億7千万人に達すると予想されてきた。しかし、2008年の調査結果は、全世界的での患者数が既に約3億5千万人に達していることを示しており、(Danaei et al.. 2011)、予想より非常に深刻な水準である。2型糖尿病患者の約80%以上が肥満であることに比べ、肥満患者のただ10%未満が糖尿と報告されている(Harris et al.. 1987)。このような糖尿と肥満の連関性は、アディポカイン(adipokine)と遊離脂肪酸(free fatty acid)の不規則的な分泌により、脂肪酸がベータ細胞や腎臓、肝、心臓などのインスリン感受性組織内に積もって脂肪毒性(lipotoxicity)を表すためである。適切な治療をせずに放置すると、慢性的な高血糖は網膜症、腎機能障害、神経障害および血管障害を含む様々な病的症状を引き起こす傾向がある。このような合併症を予防するために欠かせないのが、効果的な血糖管理である。
【0004】
現在、血糖値の管理は、生活習慣改善(ダイエット療法、運動療法)や薬物療法によって行われている。しかし、食餌療法や運動療法は厳格な管理及び実施が困難であり、その効果においても限界がある。したがって、大部分の糖尿病患者は、生活習慣の改善とともに、インスリン、インスリン分泌促進剤、インスリン感受性改善剤、そして血糖降下剤などの投薬による血糖値のコントロールに頼っている。
組換え方法によって生産されているインスリンは、1型糖尿病患者及び血糖の調節ができない2型患者に必須の薬物として用いられ、血糖管理に有効である。 しかしながら、注射針に対する拒否感、投与の難しさ、低血糖の危険、そして体重増加などの課題がある。
インスリン分泌促進剤の一種であるメグリチニドは薬効が非常に早い製剤であって、食前に服用する。メグリチニドには、ノボノーム(レパグリニド)、ファスティック(ナテグリニド)、グルファスト(ミチグリニド)などがある。インスリン感受性改善剤は、単独で服用した時に低血糖が殆どないことが特徴であり、ビグアナイド(biguanide)系列の薬物であるメトホルミン(metformin)とチアゾリジンジオン(thiazolidinedione)系列のアバンディア(ロシグリタゾン)、アクトス(ピオグリタゾン)などがある。
【0005】
最近開発されている薬物には、インスリンの分泌を促進させるホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(Glucagon-like peptide-1)の作用を利用して開発されたGLP-1アゴニスト(agonist)があり、エキセナチド(exenatide)とビクトーザ(liraglutide)がこれに該当する。さらに、GLP-1を速やかに不活性化させる酵素であるDPP-4(Dipeptidyl peptidase-4)の作用を抑制するDPP-4抑制剤(Inhibitor)も最近開発された新薬であり、ジャヌビア(成分名: シタグリプチンsitagliptin)が代表的である。しかし、これら薬剤は、肝毒性、胃膓障害、心血管系疾患及び発癌性などの副作用が報告されており、年間の治療費用も高いため、糖尿病の治療において障害となっている。実際に前糖尿病(pre-diabetes)及び糖尿病関連の費用は、2007年現在、米国で約200兆ウォンに達している(Dall et al.,2010)。肥満の医療費も、2008年時点で米国のみで150兆ウォン近い(Finkelstein et al.,2009)。したがって、血糖値を効果的に低下させることができ、糖尿病および肥満誘発糖尿病の両方に適用することができる薬剤であって、副作用の少ない薬物の開発は差し迫った課題である。
【0006】
本発明者らは、最近、肥満の治療のための改善された方法を見出すために、エネルギー代謝調節機構に着目し、開発されるべき化合物がより高い安全性(より低い毒性)を有することを前提として、ヒトにおける高脂肪食の摂取時に脂質蓄積に関与するシグナルおよび脂質蓄積に影響を及ぼすシグナルの研究を行った。脂肪蓄積タンパク質の発現を抑制し、蓄積された脂肪およびシグナリングに関与するタンパク質を分解するシグナルを研究した結果、本発明者らは、脂肪分解を促進するペプチドの開発に成功した。さらに、本発明のペプチドは、糖尿病および肥満誘発糖尿病に対して顕著な治療効果を示す。高脂肪食によって引き起こされる脂肪蓄積、肝臓または筋肉における脂肪蓄積に起因するインスリンシグナル伝達の抑制、および結果としてのインスリン耐性は、糖尿病の原因である。 本発明によるペプチドおよびその複合体は、そのような糖尿病および肥満誘発糖尿病に対して治療的に有効である。
【0007】
本明細書を通して、多くの論文および特許文献が参照され、それらの引用が示されている。引用した論文および特許文献の開示内容は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれ、本発明が属する技術分野および本発明の内容をより明確に説明する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者達は、生物学的に有効な作用を有する多数の優れたペプチドを開発しようと努力した結果、配列リスト第1配列から配列リスト第7配列のアミノ酸配列を有するペプチドが、高脂肪食餌によって誘導された脂肪の蓄積を抑制し、既に蓄積された脂肪を分解して抗肥満の効果を奏するだけでなく、糖尿病及び肥満性糖尿病、または糖尿合併症に対して優れた効果を奏するということを究明することにより本発明を完成した。
したがって、本発明の目的は、配列リスト第1配列から配列リスト第7配列に記載されているアミノ酸配列でなるペプチドを提供することにある。
本発明の他の目的は、抗肥満または抗糖尿作用を有するペプチドを提供することにある。
本発明の他の目的は、抗肥満または抗糖尿作用を有するペプチド複合体を提供することにある。
本発明の他の目的は、肥満の予防または治療用薬剤学的組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、糖尿の予防または治療用薬剤学的組成物を提供することにある。
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によって一層明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、本発明は、配列リスト第1配列から配列リスト第7配列に記載されているアミノ酸配列でなる群より選択される1種のアミノ酸配列でなるペプチドを提供する。
本発明の他の態様によれば、本発明は、配列リスト第1配列から配列リスト第7配列のアミノ酸配列でなる群より選択される1種のアミノ酸配列でなる抗肥満及び抗糖尿活性を有するペプチドを提供する。
本発明の他の態様によれば、本発明は、次のペプチドの組み合わせでなる抗肥満または抗糖尿活性を有するペプチド複合体を提供する:
(a)配列リスト第1配列でなるペプチド;
(b)配列リスト第2配列または配列リスト第3配列でなるペプチド;及び
(c)配列リスト第6配列または配列リスト第7配列でなるペプチド。
【発明の効果】
【0010】
本発明の特徴及び利点を要約する:
(i)本発明に係るペプチド及びペプチド複合体は、脂肪の蓄積を抑制し、既に蓄積された脂肪を分解して抗肥満効果を奏するだけでなく、血糖を効果的に減少させて糖尿病に対して優れた効果を奏する。
(ii)本発明に係るペプチド及びペプチド複合体は、脂質生成標識因子であるPPARγ、ACC及びaP2の発現を減少させ、脂肪分解因子であるpHSL、AMPK-α1、CGI-58及びATGLの発現を増加させ、脂肪細胞の大きさ及び血中コレステロールの数値を減少させる。
(iii)本発明に係るペプチド及びペプチド複合体の優れた作用及び安定性は、医薬及び医薬外品に非常に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るペプチドを処理した時、蓄積された脂肪をオイルレッドO(Oil red O)染色を介して確認した結果を示す図である。(a)配列リスト第1配列のペプチド、(b)配列リスト第3配列のペプチド、(c)配列リスト第5配列のペプチド。
図2】本発明に係るペプチド複合体を濃度別に処理した時、蓄積された脂肪を確認するため、オイルレッドO染色を介して確認した結果を示す図である。
図3】本発明に係るペプチドを処理した時、脂肪の生成に携わる遺伝子であるaP2の発現量を測定した結果を示す図である。(a)配列リスト第1配列のペプチド、(b)配列リスト第3配列のペプチド、(c)配列リスト第5配列のペプチド。
図4】本発明に係るペプチド複合体を濃度別に処理した時、脂質の合成時に重要な遺伝子であるPPARγ、ACC、aP2遺伝子の発現量を測定した結果を示す図である。
図5】本発明に係るペプチド複合体を濃度別に処理した時、脂質の合成時に重要なタンパク質であるPPARγ、phospho-HSLタンパク質の発現量を測定した結果を示す図である。
図6】本発明に係るペプチド及びペプチド複合体を処理した時、蓄積された脂肪を分解する過程に携わる遺伝子であるAMPK-α1とCGI58の発現量を測定した結果を示す図である。(a)配列リスト第1配列のペプチド、(b)配列リスト第3配列のペプチド、(c)配列リスト第5配列のペプチド、(d)配列リスト第1配列、配列リスト第3配列及び配列リスト第7配列のアミノ酸配列で表されるペプチドの複合体。
図7】本発明に係るペプチド複合体を濃度別に処理した時、蓄積された脂肪を分解する過程に携わるタンパク質であるATGLの発現量を測定した結果を示す図である。
図8】本発明に係るペプチドを処理した時、蓄積された脂肪を分解する過程に携わるタンパク質であるPhospho-HSLの発現量を、免疫染色を利用して測定した結果を示す図である。(a)配列リスト第1配列のペプチド、(b)配列リスト第3配列のペプチド、(c)配列リスト第5配列のペプチド、(d)配列リスト第1配列、配列リスト第3配列及び配列リスト第7配列のアミノ酸配列で表されるペプチドの複合体。
図9】本発明に係るペプチド複合体を濃度別に処理した時、グリセロールの生成量を測定した結果を示す図である。
図10】(a)は、本発明に係るペプチド複合体を肥満マウス実験モデルに濃度別に処理した後、分解される脂肪組織を測定した結果を示す図である。(b)は、本発明に係るペプチド複合体を肥満マウス実験モデルに処理した後、分解される脂肪組織の大きさ及び数値を測定した結果である。
図11】本発明に係るペプチド複合体を処理した時、蓄積された脂肪を分解する過程に携わるタンパク質であるPhospho-HSLの発現量を、免疫染色を利用して測定した結果を示す図である。
図12】本発明に係るペプチド複合体を処理した時、肥満マウスにおける体重の変化(a)及び飼料摂取の変化(b)を測定した結果を示す図である。
図13】本発明に係るペプチド複合体を処理した時、肥満マウスの姿を測定した結果を示す図である。
図14】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに高脂肪飼料を摂取させて肥満マウスモデルを製作し、本発明に係るペプチド複合体を処理した後、マイクロCT撮影を介して脂肪の分布を測定した結果を示す図である。
図15】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに高脂肪飼料を摂取させて肥満マウスモデルを製作し、本発明に係るペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して観察した結果を示す図である。
図16】(a)は、実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに高脂肪飼料を摂取させて肥満マウスモデルを製作し、本発明に係るペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して脂肪細胞の模様を観察した結果を示す図である。(b)は、実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに高脂肪飼料を摂取させて肥満マウスモデルを製作し、本発明に係るペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して脂肪細胞の大きさを観察した結果を示す図である。
図17】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに高脂肪飼料を摂取させて肥満マウスモデルを製作し、本発明に係るペプチド複合体を処理した後、脂肪細胞組織を採取して脂肪細胞内の脂肪分解に作用するタンパク質であるphospho-HSLの発現量を観察した結果を示す図である。
図18】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに高脂肪飼料を摂取させて肥満マウスモデルを製作し、本発明に係るペプチド複合体を処理した後、血液を採取してコレステロールの量を測定した結果を示す図である。
図19】実験動物モデルであるC57BL/6マウスモデルに高脂肪飼料を摂取させて肥満マウスモデルを製作し、本発明に係るペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖を測定した結果を示す図である。
図20】糖尿が誘発されたDBDBマウスモデルに本発明に係るペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果を示す図である。
図21】糖尿が誘発されたDBDBマウスモデルに本発明に係るペプチド複合体を処理した後、血液を採取してコレステロールの変化を測定した結果を示す図である。
図22】糖尿が誘発されたDBDBマウスモデルに本発明に係るペプチドを処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果を示す図である。(a)配列リスト第1配列のペプチド、(b)配列リスト第3配列のペプチド、(c)配列リスト第5配列のペプチド。
図23】本発明の配列リスト第7配列のペプチドを処理した時、IGF-1とインスリンの発現量を測定した結果を示す図である。
図24】糖尿が誘発されたDBDBマウスモデルに本発明の配列リスト第7配列のペプチドを処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果を示す図である。
図25】(a)〜(d)は、血糖の高い糖尿病患者に本発明に係るペプチド複合体を処理した後、血液を採取して血糖の変化を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者達は、生物学的に有効な作用を有する多数の優れたペプチドを開発しようと努力した結果、配列リスト第1配列から配列リスト第7配列のアミノ酸配列を有するペプチドが、高脂肪食餌によって誘導された脂肪の蓄積を抑制し、既に蓄積された脂肪を分解して抗肥満効果を奏するだけでなく、糖尿病及び肥満性糖尿病、または糖尿合併症に対して優れた効果を奏するということを究明した。
【0013】
本明細書で用いられる用語『ペプチド』は、ペプチド結合によってアミノ酸残基等が互いに結合されて形成された線形の分子を意味する。本発明に係るペプチドは、当業界に既知の化学的合成方法、特に固相合成技術(solid-phase synthesis techniques;Merrifield,J. Amer. Chem. Soc. 85:2149-54(1963);Stewart,et al.,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd. ed.,Pierce Chem. Co.:Rockford,111(1984))または液状合成技術(US登録特許第5,516,891号)によって製造されてよい。
【0014】
本発明に係るペプチドは、アミノ酸配列の一部部位を選定し、その活性を増加させるため、N-末端またはC-末端に変形を誘導することができる。このような変形を介し、本発明に係るペプチドは、生体内投与時の半減期を延長させた高い半減期を有することができる。
【0015】
さらに、本発明に係るペプチドのC-末端は、ヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH2)、アジド(-NHNH2)などに変形されてもよい。ペプチドのN-末端は、アセチル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、ホルミル基、パルミトイル基、ミリスチル基、ステアリル基及びポリエチレングリコール(PEG)からなる群より選択される保護基が結合されてもよい。
【0016】
前述したアミノ酸の変形は、本発明に係るペプチドの安定性を大幅に改善する作用をする。本明細書における用語『安定性』は、生体内(in vivo)での安定性だけでなく、貯蔵安定性(例えば、常温貯蔵安定性)も意味する。前述した保護基は、生体内のタンパク質分解酵素の攻撃から本発明に係るペプチドを保護する作用をする。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、本発明に係るペプチドは、高脂肪食餌によって誘導された脂肪の蓄積を抑制するとともに、既に蓄積された脂肪を分解する効果を奏し、脂質生成標識因子であるPPARγ、ACC及びaP2の発現を減少させ、脂肪分解因子であるpHSL、AMPK-α1、CGI-58及びATGLの発現を増加させ、脂肪細胞の大きさ及び血中コレステロールの数値を減少させる。さらに、本発明に係るペプチドは、血糖を効果的に減少させる。このような結果は、本発明に係るペプチドが肥満、糖尿病及び肥満性糖尿病の治療に非常に優れた効能を有するということを意味する。
【0018】
本発明に係るペプチドは、配列リスト第1配列から配列リスト第7配列のアミノ酸配列で表される各ペプチドだけでなく、これらの複合体も優れた抗肥満及び抗糖尿作用を表す。
【0019】
本発明によれば、配列リスト第3配列、配列リスト第5配列及び配列リスト第7配列でなるペプチドは、それぞれ配列リスト第2配列、配列リスト第4配列及び配列リスト第6配列でなるペプチドのCysがSerで置換されたペプチドであって、これら二つのペプチドの抗肥満及び抗糖尿作用がほぼ同一である。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、本発明に係る抗肥満または抗糖尿作用を有するペプチド複合体は、配列リスト第1配列でなるペプチド;配列リスト第2配列または配列リスト第3配列でなるペプチド;及び、配列リスト第6配列または配列リスト第7配列でなるペプチドの組み合わせでなる。
【0021】
本発明の他の実施形態によれば、本発明に係るペプチド複合体は、配列リスト第1配列、配列リスト第3配列及び配列リスト第7配列の組み合わせでなる。
【0022】
本発明のまた他の態様によれば、本発明は、本発明に係るペプチドまたはペプチド複合体を有効成分として含む肥満の予防または治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0023】
本発明に係るペプチドまたはペプチド複合体は、脂肪の生成を抑制し、脂質を分解する機能に優れているため、肥満の予防または治療に利用可能である。
【0024】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、本発明に係るペプチドまたはペプチド複合体を有効成分として含む糖尿の予防または治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0025】
本発明に係るペプチドまたはペプチド複合体は、糖尿病動物モデルで増加した血糖を効果的に減少させる効能を示すので、糖尿の予防または治療に利用可能である。
【0026】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明に係る組成物は、(a)前述した本発明に係るペプチドまたはペプチド複合体の薬剤学的有効量;及び、(b)薬剤学的に許容される担体を含む薬剤学的組成物である。
【0027】
本明細書における用語『薬剤学的有効量』は、前述したペプチドの効能または作用の達成に十分な量を意味する。
【0028】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤の際に通常利用されるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルジネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、オキシ安息香酸メチル、オキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分等以外に滑沢剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤などをさらに含むことができる。好適な薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳しく記載されている。
【0029】
本発明の薬剤学的組成物は、経口または非経口、好ましくは非経口で投与することができ、非経口投与の場合は、筋肉注入、静脈内注入、皮下注入、腹腔注入、局所投与、経皮投与などで投与することができる。
【0030】
本発明の薬剤学的組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって多様に処方されてよい。一方、本発明の薬剤学的組成物の好ましい投与量は、1日当りに0.0001〜1000μgである。
【0031】
本発明の薬剤学的組成物は、当該発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施することができる方法に従い、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化することによって単回投与形態(single-dose forms)または複数回投与パッケージ(multi-dose packages)で調製することができる。このときの剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液または乳化液の形態であるか、エキス剤、粉薬、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含むことができる。
【0032】
以下、実施例を介して本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、ただ本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨に従い、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないということは、当業界で通常の知識を有する者において自明なはずである。
【実施例】
【0033】
実施例
合成例1:ペプチドの合成
クロロトリチルクロリドレジン(Chloro trityl chloride resin;CTL resin,Nova biochem Cat No. 01-64-0021)700mgを反応容器に入れ、メチレンクロリド(MC)10mlを加えて3分間撹拌した。溶液を除去し、ジメチルホルムアミド(DMF)10mlを入れて3分間撹拌した後、再度溶媒を除去した。反応器に10mlのジクロロメタン溶液を入れ、Fmoc-Asn(Trt)-OH(Bachem,Swiss)200mmole及びジイソプロピルエチルアミン(DIEA)400mmoleを入れた後、撹拌してよく溶解させ、1時間の間撹拌しながら反応させた。反応後洗浄し、メタノールとDIEA(2:1)をDCM(dichloromethane)に溶解させて10分間反応させ、過量のDCM/DMF(1:1)で洗浄した。溶液を除去し、ジメチルホルムアミド(DMF)を10ml入れて3分間撹拌した後、再度溶媒を除去した。脱保護溶液(20%のピペリジン(Piperidine)/DMF)10mlを反応容器に入れて10分間常温で撹拌した後、溶液を除去した。同量の脱保護溶液を入れて再度10分間反応を維持した後、溶液を除去し、それぞれ3分ずつDMFで2回、MCで1回、DMFで1回洗浄してAsn-CTLレジン(Resin)を製造した。新しい反応器に10mlのDMF溶液を入れてFmoc-Arg(Pbf)-OH(Bachem,Swiss)200mmole、HoBt 200mmole及びBop 200mmoleを入れた後、撹拌してよく溶解した。反応器に400mmole DIEAを分画で2回に亘って入れた後、全ての固体が溶解されるまで最小限5分間撹拌した。溶解したアミノ酸混合溶液を脱保護されたレジンのある反応容器に入れ、1時間の間常温で撹拌しながら反応させた。反応液を除去し、DMF溶液で3回5分ずつ撹拌した後で除去した。反応レジンを少量取り、カイザーテスト(Nihydrin Test)を利用して反応の程度を点検した。脱保護溶液で前記と同様に2回脱保護反応させてArg-Asn-CTLレジンを製造した。DMFとMCで十分洗浄して再度カイザーテストを行った後、前記と同様に以下のアミノ酸付着実験を行った。選定されたアミノ酸配列に基づいてFmoc-Thr(tBu)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH及びFmoc-Leu-OHの順に連鎖反応させた。Fmoc-保護基を脱保護溶液で10分ずつ2回反応させた後、よく洗浄して除去した。無水酢酸とDIEA、HoBtを入れて1時間の間アセチル化を行った後、製造されたペプチジルレジンをDMF、MC及びメタノールでそれぞれ3回洗浄し、窒素空気を徐々に流して乾燥した後、P2O5下で真空で減圧して完全に乾燥した後、脱漏溶液[トリフルオロ酢酸(Trifluroacetic acid)81.5%、蒸留水5%、チオアニソール(Thioanisole)5%、フェノール(Phenol)5%、EDT 2.5%及びTIS 1%]30mlを入れてから、常温で断続的に振って2時間反応を維持した。フィルタリングしてレジンをろ過し、レジンを少量のTFA溶液で洗浄した後、母液と合わせた。減圧を利用して全体のボリュームが半分程度残るように蒸留し、50mlの冷たいエーテルを加えて沈澱を誘導した後、遠心分離して沈澱を集め、更に2回冷たいエーテルで洗浄した。母液を除去して窒素下で十分乾燥し、精製前のNH2-Leu-Lys-Thr-Arg-Asn-COOHペプチド1を0.85g合成(収率:92%)した。配列リスト2及び3は、NH2-Lys-Gly-Ala-Cys(Ser)-Thr-Gly-Trp-Met-Ala-COOHを0.78g合成し(収率:82%)、配列リスト4及び5は、NH2-Ala-Cys(Ser)-Tyr -Leu-Pro-His-Pro-Trp-Phe-Cys(Ser)-COOHを0.92g合成した(収率:85%)。配列リスト6及び7は、NH2-Cys(Ser)-Asp-Leu-Arg-Arg-Leu-Glu-Met-Tyr-Cys(Ser)-COOHを0.76g合成した(収率:88%)。分子量測定器を利用して測定した時、配列リスト1ペプチドの分子量630.7(理論値:630.7)、配列リスト2ペプチドの分子量924.5(理論値:924.1)、配列リスト4ペプチドの分子量1236(理論値:1236.5)、配列リスト6ペプチドの分子量1301.5(理論値:1301.5)を得ることができた。
【0034】
【表1】
【0035】
一方、配列リスト第1配列、配列リスト第3配列及び配列リスト第7配列のペプチドを同量混合してペプチド複合体を製作し、これに対する効能を評価した。
【0036】
実施例1:脂質生成抑制作用の評価
1-1.脂肪前駆細胞を利用した脂質蓄積の抑制(オイルレッドO染色)
脂肪前駆細胞(pre-adipocyte)である3T3-L1細胞をコンフルエント(Confluent)状態まで培養した後、10μg/mlのインスリン、0.1μMのデキサメタゾン及び0.5μMのIBMXが含まれている分化培地に交換、及びペプチドを濃度別に処理して2日間培養し、その後、2日毎に10μg/mlのインスリンが含まれている培地に交換し、10日間分化を誘導した後、細胞内の小滴(droplet)の生成を確認するため、オイルレッドO染色を実施した。準備された3T3-L1脂肪前駆細胞をPBSで洗浄した後、3.7%ホルマリンで1時間の間固定し、60%のイソプロパノールを利用して洗浄した後、オイルレッドO溶液を処理して室温で20分間染色した。染色後、オイルレッドO溶液を除去して蒸留水で3回洗浄した後、染色した細胞を位相差顕微鏡を利用して観察した。さらに、定量的分析のため、100%イソプロパノールを利用して脂肪を抽出した後、96ウェルプレートに200μlずつ移してELISAリーダーにて500nmで吸光度を測定した。
実験の結果、配列リスト第1配列、第3配列及び第5配列のペプチドを処理した時、細胞内の脂肪蓄積の程度が減少することをオイルレッドO染色を介して確認することができた(図1(a)〜(c))。
さらに、配列リスト第1配列、第3配列及び第7配列のペプチド複合体を濃度別に処理した時、細胞内の脂肪蓄積の程度が減少することを確認することができた(図2)。
【0037】
1-2.脂質の生成に携わる遺伝子等の発現の抑制
3X105細胞/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートに3T3-L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチドを濃度別(0.1、1、10μg/ml)に処理し、14日間37℃の培養器で培養した。培養が完了した細胞を回収した後、RNA抽出溶液(Easy Blue,Intron)を処理してRNAを準備してから、RTプレミックス(Intron)を使用してcDNAを合成した。各標識因子(PPARγ、ACC、aP2)に対するプライマーとPCRプレミックス(Intron)を使用してPCRを進めた。
脂質生成標識因子のPCRに利用されたターゲット-特異的プライマー配列は、次の通りである:PPARγ正方向プライマー配列、5’-TTTTCAAGGGTGCCAGTTTC-3’及びPPARγ逆方向プライマー、5’-AATCCTTGGCCCTCTGAGAT-3’(アニーリング温度、60℃);ACC正方向プライマー配列、5’-ACCTTACTGCCATCCCATGTGCTA-3’及びACC逆方向プライマー、5’-GTGCCTGATGATCGCACGAACAAA-3’(アニーリング温度、60℃);aP2正方向プライマー配列、5’-CATCAGCGTAAATGGGGATT-3’及びaP2逆方向プライマー、5’-ACACATTCCACCACCAGCTT-3’(アニーリング温度、60℃)。
1%アガロースゲルにPCR産物を5μlずつローディングして電気泳動した後、Gel-Docでバンドを確認した。
マウス骨芽細胞株3T3-L1に配列リスト第1配列、第3配列または第5配列のペプチドを処理して3日間培養した結果、脂質生成標識因子であるaP2の発現が減少することを観察することができた(図3(a)〜(c))。
マウス骨芽細胞株3T3-L1に配列リスト第1配列、配列リスト第3配列及び配列リスト第7配列のペプチド複合体を0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/mlの濃度で処理して3日間培養した結果、脂質生成標識因子であるPPARγ、ACC、aP2の発現が、陽性対照群TNFα 100ng/ml処理群とペプチド複合体処理群とでいずれも減少することを観察することができた(図4)。
【0038】
1-3.脂肪前駆細胞を利用した脂質生成及び分解誘導タンパク質発現の観察
3X105細胞/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートに3T3-L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチド複合体を濃度別(0.1、1、10μg/ml)に処理して14日間37℃培養器で培養した。細胞溶解バッファーを処理して溶解物を確保した後でタンパク質を定量し、脂肪生成因子である抗-PPARγ抗体(Santa Cruz Biotechnology,USA)と、脂肪分解因子である抗-pHSL抗体(Santa Cruz Biotechnology,USA)とを利用してウェスタンブロッティングを行った。
脂肪生成標識因子であるPPARγタンパク質の発現が、ペプチド複合体を濃度別に処理した時、濃度依存的に全て減少することを観察することができ、脂肪分解標識因子であるpHSLタンパク質の発現量を観察した時、ペプチド複合体処理群で全て増加することを観察することができた(図5)。
【0039】
実施例2:脂質分解作用の評価
2-1.脂質分解に携わる遺伝子等の発現の増加
3X105細胞/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートに3T3-L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチドを濃度別(0.1、1、10μg/ml)に処理して14日間37℃培養器で培養した(陽性対照群:100ng/ml TNFα(SIGMA))。培養が完了した細胞を回収した後、RNA抽出溶液(Easy Blue,Intron)を処理してRNAを準備し、RTプレミックス(Intron)を用いてcDNAを合成した。各標識因子(AMPK-α1、CGI58)に対するプライマーとPCRプレミックス(Intron)を用いてPCRを進めた。
脂質生成標識因子PCRに利用されたターゲット-特異的プライマー配列は、次の通りである:AMPK-α1正方向プライマー配列、5’-TGACCGGACATAAAGTGGCTGTGA-3’及びAMPK-α1逆方向プライマー、5’-TGATGATGTGAGGGTGCCTGAACA-3’(アニーリング温度、60℃);CGI58正方向プライマー配列、5’-TGTGCAGGACTCTTACTTGGCAGT-3’及びCGI58逆方向プライマー、5’ -GTTTCTTTGGGCAGACCGGTTTCT-3’(アニーリング温度、60℃)。
1%アガロースゲルにPCR産物を5μlずつローディングして電気泳動した後、Gel-Docでバンドを確認した。
脂肪前駆細胞(3T3-L1)にペプチドを処理して培養した結果、脂質分解標識因子であるAMPK-α1とCGI-58の発現が、各ペプチド処理群でいずれも増加することを観察することができた(図6(a)〜(c))。さらに、ペプチド複合体を処理した場合、AMPK-α1とCGI-58の発現が濃度依存的に増加することを確認することができ、陽性対照群であるTNFα 100ng/ml処理群と比べた時も、脂肪分解因子等の発現の増加が高く表れることを観察することができた(図6(d))。
【0040】
2-2.脂肪前駆細胞を利用した脂質分解誘導タンパク質発現の観察
3X105細胞/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートに3T3-L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチドを濃度別(0.1、1、10μg/ml)に処理して14日間37℃培養器で培養した(陽性対照群:100ng/ml TNFα(SIGMA))。細胞溶解バッファーを処理して溶解物を確保した後でタンパク質を定量し、脂肪分解因子である抗-ATGL抗体(Santa Cruz Biotechnology,USA)を利用してウェスタンブロッティングを行った。
脂肪分解因子であるATGLの発現がペプチド複合体によって増加することを確認することができた(図7)。
【0041】
2-3.脂肪前駆細胞を利用した脂質分解誘導タンパク質発現の蛍光顕微鏡観察
3X105細胞/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートに3T3-L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、各ペプチドまたはペプチド複合体(1μg/ml)を処理して14日間37℃培養器で培養した(陽性対照群:100ng/ml TNFα(SIGMA))。培養が完了した細胞を70%エタノールを利用して細胞を固定した後、抗-phospho-HSL抗体(Santa Cruz Biotechnology,USA)を利用し、細胞免疫染色法を介して脂肪分解誘導因子であるphospho-HSLの細胞内発現を観察した。
実験の結果、各ペプチド(図8(a)〜(c))及びペプチド複合体(図8(d))によって脂肪分解誘導因子であるphospho-HSLの発現が増加することを確認することができた。
【0042】
2-4.脂肪分解産物であるグリセロールの量の測定
肥満誘導マウス動物の腹部から脂肪組織を採取した後、24ウェルの培養プレートにウェル当りに100mgずつ脂肪組織を入れて培養培地(1ml Krebs-Ringer buffer containing 25mM HEPES,5.5mM glucose,and 2%(w/v)bovine serum albumin)に培養した。培養時にペプチド複合体を0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/mlの濃度で処理し、陽性対照群としてTNFα 100ng/mlを処理して48時間の間培養した後、脂肪が分解されながら出たグリセロールの量を測定した。
実験の結果、ペプチド複合体を濃度別に処理した時、脂肪が分解されながら出たグリセロールの量がペプチド複合体処理濃度に依存的に増加することを観察することができた。陽性対照群であるTNFα処理群に比べて多量のグリセロールが検出されることを確認した(図9)。
【0043】
2-5.肥満マウス分離脂肪組織に対する分解効果の確認
脂肪組織は、色によって白色脂肪(White Fat)、褐色脂肪(Brown Fat)に分けられ、部位によって皮下脂肪、腹膜脂肪、腸間膜脂肪(内臓脂肪)及び副睾丸脂肪に分けられる。解剖後、各脂肪を摘出して白色脂肪を分離した後、各100mg/ウェルの重さで24ウェルプレートに複合体の濃度別に処理し、培養培地(1ml Krebs-Ringer buffer containing 25mM HEPES,5.5mM glucose,and 2%(w/v)bovine serum albumin)で72時間培養した後、組織を切片に切り分けてヘマトキシリン及びエオシンで染色し、200倍で顕微鏡(TS100,Nicon)で観察して脂肪細胞の大きさを比べた。
実験の結果、ペプチド複合体を濃度別に処理した時、脂肪細胞の大きさを比べた結果、対照群に比べて脂肪細胞の大きさが小さくなることを確認した(図10(a))。さらに、染色後、脂肪細胞の大きさを測定するため、プログラムを用いて脂肪細胞の大きさを測定した結果、ペプチド複合体処理群において明らかな細胞膜の区画を有する脂肪組織内の細胞の大きさの減少が観察された(図10(b))。
【0044】
2-6.脂肪組織に対する脂肪分解因子の観察
肥満誘導マウス動物の腹部から脂肪組織を採取した後、24ウェル培養プレートにウェル当りに100mgずつ脂肪組織を入れて培養培地(1ml Krebs-Ringer buffer containing 25mM HEPES,5.5mM glucose,and 2%(w/v)bovine serum albumin)に培養した。培養時にペプチド複合体を処理し、陽性対照群としてTNFα 100ng/mlを処理し、48時間の間培養した後、脂肪分解因子であるphospho-HSL(緑色蛍光物質)の発現を確認した。
実験の結果、脂肪組織における脂肪分解因子であるphospho-HSLの発現を確認したところ、ペプチド複合体を処理した時、脂肪分解因子であるphospho-HSLの発現が増加することを確認することができた(図11)。
【0045】
実施例3:実験動物を通じた脂肪生成の抑制及び脂肪分解の促進の効果
高脂肪食餌による体重減少及び脂肪生成の抑制
正常C57BL/6マウスに高脂肪食餌を施して誘導した肥満誘導モデルDIO(Diets induced obesity)を利用して抗肥満効能の実験を行い、陽性対照群薬物としてTNFα 5μg/mlを用いた。対照群は高脂肪食餌ではなく一般食餌で進め、実験は高脂肪食餌を12週間進めながら、ペプチド複合体を処理して陽性対照群を処理し、体重の減少を確認した。
TNFα及び抗肥満効能化合物は、12週間に亘って毎週午後3時〜4時に84日間強制に腹腔注射し、体重と食餌量は最初の薬物投与の直前に測定し、以後に一週間間隔で体重と食餌量を測定した。血糖は、薬物投薬実験の終了後、尾静脈から採血してアキュチェックアクティブ(Accu-Check Active)(Roche)を利用して測定し、コレステロールも尾静脈から採血された血清をコレステロール算定キット(Cholesterol calculation Kit)(BioVision)を利用して分析を行った。脂肪組織は、色によって白色脂肪(White Fat)、褐色脂肪(Brown Fat)に分けられ、部位によって皮下脂肪、腹膜脂肪、腸間膜脂肪(内臓脂肪)及び副睾丸脂肪に分けられる。解剖後、各脂肪を摘出して観察し、組織学的検査のために脂肪を10%の中性緩衝ホルマリンに固定した後でパラフィンブロックに植え、5μmのセクションに分けてヘマトキシリン(Hematoxylin)とエオシン(eosin)染色を行った。脂質分解因子であるHSLのリン酸化程度を分析するため、抗-pHSL抗体を利用した蛍光染色を進めた。組織サンプルの製作後、グリセリンゼルマウンティングメディア(glycerine Jell mounting Media)にマウンティングし、カバーガラスを覆って顕微鏡(Nicon,TS100)で観察し、顕微鏡に内蔵されているデジタルカメラで組織を撮影した。
一般食餌を12週間施したマウスは、実験初期の20.9gの体重から12週後には28.74gの体重を示し、高脂肪食餌を施したマウスは、初期の20.99gの体重が12週後には49.5gまで増加することを確認した。しかし、高脂肪食餌と並行して処理したペプチド複合体群では、初期の21.1gから12週後には36.76gで、高脂肪食餌だけ進められた対照群(235.8%)に比べて高い体重の減少(174.2%)が起こることを確認することができた(表2及び図12)。
【0046】
【表2】
【0047】
さらに、12週間実験が完了した動物の写真を測定した結果、ペプチド複合体処理群のマウスの身体が、高脂肪食餌のみを施した群に比べて、正常のマウス(一般食餌)と似た身体の大きさに維持されることを観察することができた(図13)。
12週間実験を進めたマウスにマイクロ-CT撮影をして全身の脂肪の分布を確認した。全身に分布されている脂肪(黄色を帯びている)を確認した結果、一般食餌を進めた対照群に比べ、高脂肪食餌を進めた対照群のマウスにおいて全身に分布されている脂肪の量が急激に増加していることを確認することができ、ペプチド複合体を高脂肪食餌と共に処理した群では、全身に分布されている脂肪の量が急激に減少していることを確認することができた(図14)。
【0048】
前記マイクロ-CT撮影を済ませたマウスを解剖し、全身に分布されている脂肪組織を採取して脂肪組織の量を観察した。その結果、一般食餌を進めた対照群に比べて高脂肪食餌を進めた対照群のマウスで脂肪の量が多いことを確認することができ、高脂肪食餌と共にペプチド複合体を処理した群で脂肪の量が急激に減少していることを確認した(図15)。
【0049】
脂肪を分離してH&E染色を介して脂肪の大きさを観察した結果、高脂肪食餌対照群に比べ、高脂肪食餌と共にペプチド複合体を処理した群で脂肪の大きさが小さくなることを確認することができた(図16(a))。脂肪の大きさをプログラムを介して分析した結果、一般食餌の対照群の脂肪の大きさを100%と計算した時、高脂肪食餌の対照群の脂肪の大きさは127%で、脂肪の大きさが大きくなっていることを確認し、高脂肪食餌にペプチド複合体を共に処理した群の脂肪の大きさは97%で減少したことを確認した(図16(b))。
【0050】
脂肪を分離して脂肪組織内に発現されている脂肪分解因子であるPhospho-HSLの発現量を確認した結果、高脂肪食餌と共にペプチド複合体を処理した群でphospho-HSLの発現が増加していることを確認した(図17)。
実験が終ったマウスの血液中のコレステロールの量を確認した結果、一般食餌のマウスのコレステロールの量は2.52μg/ml、高脂肪食餌の対照群のコレステロールの量は3.5μg/ml、高脂肪食餌と共にペプチド複合体を処理した群では2.86μg/mlのコレステロールの量が検出されることを確認することができた。ペプチド複合体処理群において、肥満の際に上昇するコレステロールの数値を低めることを確認することができた(図18)。
【0051】
実験が終ったマウスの血液中の血糖の数値を確認した結果、一般食餌を進めた対照群のマウスの血糖は174mg/dL、高脂肪食餌の対照群の血糖は235mg/dLで、血糖の数値が上昇することを確認することができ、高脂肪食餌と共にペプチド複合体を処理した群での血糖の数値は183mg/dLで、一般食餌の対照群と似た血糖の数値の減少を確認した(図19)。
【0052】
実施例4:血糖の調節
血糖調節の効果
本動物実験には、C57BL/6(正常のマウス)(Samtako Inc.)とC57BLKS/JLepr(糖尿モデルマウス、db/dbマウス)(株式会社中央実験動物から購入)雄を用い、抗糖尿及び/または抗肥満効能物質には複合剤を用い、陽性対照群薬物にはシタグリプチン(sitagliptin)を用いた。本実施例では、正常のマウスモデルと遺伝的に糖尿の可能性があるモデルとに対する急性抗糖尿効能(単回投与)を、代表的な糖尿病診断検査方法であるGTT(Glucose Tolerance Test)方法を使用して抗糖尿及び/または抗肥満効能複合剤に対して評価した。マウスの飼育環境の条件は22〜24℃、相対湿度50〜30%に設定し、飼育かご当りに4匹ずつ飼育した。午前8時から午後8時まで150〜300ルクス(Lux)の照明を与え、一日に12時間点灯、12時間消灯した。飼料は一般食餌(18%タンパク質、2018,Harlan Laboratories Inc,USA製造)を使って自由に摂取させ、ITT実験を進める前に4時間以上絶食し、GTT実験を進める12時間前から絶食した。GTT実験の1時間前にそれぞれ経口投与用使い捨て注射器を利用して複合剤を強引に経口投与し、GTT実験のために実験後0時間目に高脂肪食餌を40分間自由に食べさせた。高脂肪自由食餌の40分後、それぞれの血液内のグルコースレベルの検査のため、0分、30分、60分、90分、120分及び180分おきで尾静脈から採血し、アキュチェックアクティブ(Accu-Chek active)(Roche)を利用して血糖の水準を測定した。一方、陽性対照群薬物には、現在糖尿病治療剤として用いられているシタグリプチン(sitagliptin)を選定し、100mg/kgの投与量で投与した。抗糖尿及び/または抗肥満効能の候補物質に選定した複合剤を100mg/kgの投与量別に実験群を分類し、各実験群当りに4匹のマウスを用いた。
実験の結果、高脂肪食餌によって増加した血糖の数値がペプチド複合体の処理によって減少する効果を観察した。糖尿病誘発マウスモデルで糖尿病の高い血糖が減少することを確認した(図20(a)〜(b))。さらに、高脂肪食餌の対照群に比べ、高脂肪食餌と共にペプチド複合体を処理した群でコレステロールの量が低くなることを確認した(図21)。
【0053】
さらに、DB/DB糖尿病が誘導されたマウスを16時間空腹にさせてから30分間食餌を与えた後、ペプチドを摂取させて時間別に血糖の数値を測定した。
実験の結果、配列リスト第1配列、第3配列及び第5配列のペプチドを処理した群において、高血糖の数値が時間依存的に低くなることを観察した(図22(a)〜(c))。
【0054】
実施例5:インスリンとインスリン様成長因子の発現の促進
インスリンとインスリン様成長因子の発現の促進
3X105細胞/ウェルの細胞密度で6ウェルプレートに3T3-L1(脂肪前駆細胞)をシーディングした。24時間培養した後、ペプチドを濃度別(10ng〜1μg/ml)に処理して14日間37℃培養器で培養した。細胞溶解バッファーを処理して溶解物を確保した後でタンパク質を定量し、脂質分解因子である抗-IGF-1、インスリン抗体(Santa Cruz Biotechnology,USA)を利用してウェスタンブロッティングを実施して観察した。
実験の結果、配列リスト第7配列のペプチドによってIGF-1とインスリンの発現が濃度依存的に増加することを観察した(図23)。
【0055】
実施例6:臨床実験を介した血糖減少効果の観察
複合剤服用による血糖の減少
空腹血糖が170mg/dL以上の45〜65歳を対象に簡易臨床実験を進めた。空腹血糖を基準に食後30分複合製剤を摂取させて30、60、90、120、150、180分おきで採血し、アキュチェックアクティブ(Accu-Chek active)(Roche)を利用して血糖の水準を測定した。
実験の結果、複合製剤による血糖の減少がそれぞれの実験者で全て観察された(図25(a)〜(d))。
【0056】
以上で本発明の特定の部分を詳しく記述したが、当業界の通常の知識を有する者において、このような具体的な記述は只の好ましい具現例であるだけで、これに本発明の範囲が制限されるものではない点は明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は、請求項とその等価物によって定義されるといえるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【配列表】
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