【実施例】
【0056】
以下の試験例では、IVまたはI.Vは、静脈内注射を表す。SCまたはS.Cは、皮下注射を表す。PKは、薬物動態を指す。PDは、薬力学を表す。また、WTは、野生型を表し、KOは、IDSノックアウトを表す。
【0057】
試験例1:単回IVまたはSC投与でのハンター症候群の治療の薬物動態研究
マウスにIV組成物およびSC組成物を投与してIDSの血清濃度を測定し、AUCおよびバイオアベイラビリティーなどの薬物動態解析を実施した。ここでは、6から8週齢の雄マウスを使用した。実験設計は、表1にまとめた。
単回投与での薬物動態実験設計
【表1】
【0058】
72匹の正常マウスを4つのグループに分けた。1つのグループに、静脈内注射(IV)の臨床用量(0.5mg/kg)の10倍に相当する5mg/kgの静脈内注射を投与し、かつ他の3つのグループにそれぞれ5、10、および20mg/kgの皮下注射を投与した。IDSの血清濃度は、ELISAにより解析した。結果は
図1に示される。PK解析にPhoenix
TM WinNonlin(登録商標)(ver 6.4、Pharsight)/NCA(ノンコンパートメント解析)を使用した。薬物動態解析の結果は、表2にまとめた。
単回投与での薬物動態解析の結果
【表2】
【0059】
上記の表に示されるように、IDSは、SC投与の場合、1時間以内で急速に最大血清濃度(C
max、μg/mL)に達した。IV投与の場合、半減期(T
1/2、時間)は、終末相で1.80時間だったが、SC投与の場合、半減期は、5.25から6.89時間に増加した。平均滞留時間(MRT、時間)は、IV注射で投与されたグループで0.801時間およびSC注射で投与されたグループで7.29から10.0時間だった。IV投与直後の濃度(C
0、μg/mL)は、82.4μg/mLであり、ほとんどの用量(5mg/kg)が回収されたことが確認された。SC投与時の薬剤への身体の曝露を示すC
maxおよびAUC
INF値は、用量依存的に増加した。しかしながら、増加は、5および10mg/kgで投与されたグループより20mg/kgで投与されたグループの方がわずかに大きかった。AUC%_Extrap値は、全治療グループにおいて0.969から11.0%だった。
【0060】
バイオアベイラビリティー(BA、%)値は、それぞれ5、10、および20mg/kgで投与されたSCグループにおいて22.0%、19.9%、および27.9%だった(AUCに関して5mg/kgのSCが投与され、線形PKの仮定の場合)。全体として、BA値はIV投与の場合と比較して約20%だった。従って、IV用量の約5倍の用量(2.5mg/kg)でのSC投与は、IV投与と同様の治療効果を示すことが期待される。
【0061】
試験例2:単回IVまたはSC投与でのハンター症候群の治療の薬力学的研究
薬物動態解析(すなわちSC注射のBA値がIV注射の約20%であったこと)を考慮して、SC注射の有効用量は2.5mg/kgに設定した。単回IVまたはSC注射後、GAGの濃度における減少へのそれらの効果を4週間比較した。尿試料は、投与日(0日)から数えて2週の最終日(すなわち14日)および4週の最終日(すなわち28日)に収集した。組織(肝臓、脳、心臓、腎臓、脾臓、および肺)の試料もまた、GAG濃度の測定については4週の最終日(すなわち28日)に収集した。尿試料は、比較のために薬剤投与3日前に1回収集した。薬力学的な実験設計は、表3にまとめた。
単回投与での薬力学的な実験設計
【表3】
【0062】
表3に示される実験設計に記載の尿試料のGAG濃度解析の結果は、表4および
図2にまとめた。
単回投与での尿試料のGAG濃度解析の結果(28日)
【表4】
GAG濃度値は、平均±SEMとして表される。
*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001 vs KO。
One−way ANOVAおよびDunnettの多重比較検定(GraphPad Prism)
【0063】
表3に示される実験設計に記載の脾臓試料のGAG濃度解析の結果は、表5および
図3にまとめた。
単回投与での脾臓試料のGAG濃度解析の結果(28日)
【表5】
GAG濃度値は、平均±SEMとして表される。
*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001 vs KO。
One−way ANOVAおよびDunnettの多重比較検定(GraphPad Prism)
【0064】
表3に示される実験設計に記載の心臓試料のGAG濃度解析の結果は、表6および
図4にまとめた。
単回投与での心臓試料のGAG濃度解析の結果(28日)
【表6】
GAG濃度値は、平均±SEMとして表される。
#:p<0.05、##:p<0.01、###:p<0.001 vs KO。
クラスカル・ウォリス検定およびDunnの多重比較検定(GraphPad Prism)
【0065】
表3に示される実験設計に記載の腎臓試料のGAG濃度解析の結果は、表7および
図5にまとめた。
単回投与での腎臓試料のGAG濃度解析の結果(28日)
【表7】
GAG濃度値は、平均±SEMとして表される。
#:p<0.05、##:p<0.01、###:p<0.001 vs KO。
クラスカル・ウォリス検定およびDunnの多重比較検定(GraphPad Prism)
【0066】
表3に示される実験設計に記載の肝臓試料のGAG濃度解析の結果は、表8および
図6にまとめた。
単回投与での肝臓試料のGAG濃度解析の結果(28日)
【表8】
GAG濃度値は、平均±SEMとして表される。
#:p<0.05、##:p<0.01、###:p<0.001 vs KO。
クラスカル・ウォリス検定およびDunnの多重比較検定(GraphPad Prism)
【0067】
表3に示される実験設計に記載の肺試料のGAG濃度解析の結果は、表9および
図7にまとめた。
単回投与での肺試料のGAG濃度解析の結果(28日)
【表9】
GAG濃度値は、平均±SEMとして表される。
#:p<0.05、##:p<0.01、###:p<0.001 vs KO。
クラスカル・ウォリス検定およびDunnの多重比較検定(GraphPad Prism)
【0068】
表3に示される実験設計に記載の脳試料のGAG濃度解析の結果は、表10および
図8にまとめた。
単回投与での脳試料のGAG濃度解析の結果(28日)
【表10】
GAG濃度値は、平均±SEMとして表される。
*:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001 vs KO。
One−way ANOVAおよびDunnettの多重比較検定(GraphPad Prism)
【0069】
表4から10に示される全ての結果を考慮すると、本発明のハンター症候群を治療するための製剤は概して、単回皮下(SC)注射により投与される場合用量依存的にGAGを減少させる効果を示すことがわかる。さらに、皮下(SC)注射により2.5mg/kgが投与される場合、GAGを減少させる効果は静脈内(IV)注射の臨床用量の0.5mg/kgと同様である。
【0070】
試験例3:ハンター症候群を治療するための製剤のSC注入速度の決定
IDSの静脈内注射のための市販のバイアルは3.0mLのサイズを有し、これは、2.0mg/mLの濃度で6.0mgのIDS酵素を含む溶液を含有する。この薬は1回の使用のためのものです。患者に推奨される用量は、体重1kgあたり0.5mgであり、患者が病院に1週間に1回訪問する場合に静脈内に患者に徐々に投与される。患者の体重に対応する量を100mLの注射用0.9%塩化ナトリウム水で希釈し、これが静脈内投与される。総用量は、1から3時間以上にわたって徐々に投与されるものである。注入時間は、任意の注入関連反応に起因して延長されてもよい。しかしながら、注入時間は8時間を超えないべきである。最初の注入速度は、注入開始から15分間8mL/時であるべきであり、その後、毒性が現れないならば、注入速度は、予想時間内に総用量が投与されるように15分間隔で8mL/時増加させてもよい。しかしながら、医師および看護師は、注入速度が最大100mL/時を超えないように指示される。
【0071】
皮下注射の場合、一般的に比較的少量が一度に投与される。しかしながら、薬剤は、薬剤の総量を減少させるために薬剤が濃縮されるという限界がある場合、連続SCまたはSC注入で投与されてもよい。もともと静脈内注射用に開発された薬剤を本発明のように皮下注射用に変更する場合には、薬剤が連続SCまたはSC注入に適しているかどうか明確に確認するべきである。本発明によれば、皮下投与は、2mL/部位以下の容積で実施されてもよい。より具体的な例によれば、用量は、1mL/部位以下であってもよい。
【0072】
試験例4:反復および併用IVおよびSC投与でのハンター症候群の治療の薬力学的研究
本発明の一実施形態に記載のイデュルスルファーゼベータの活性成分を使用した。IVについての有効用量は0.5mg/kgであり、かつSCについての有効用量は0.5mg/kg、1mg/kg、2.5mg/kg、または5mg/kgだった。マウスを下記表11に示される実験設計に従って反復IV投与、反復SC投与、および反復IVおよびSC投与に供した。IVおよびSCについての有効用量が表11における0mg/kgである場合、それは生理食塩水のみを投与したコントロールグループを意味する。
【表11-1】
【表11-2】
【0073】
上記実験設計に従って、反復IV投与、反復SC投与、および反復IVおよびSC投与を1週間の間隔でそれぞれの試験において合計8回実施した。尿試料は、それぞれ最初の投与日の3日前、最初の投与日から14日目、28日目、および56日目に収集した。組織試料は、56日目(D56)に収集した。その後GAGを減少させる効果を比較した。
【0074】
表11に示される実験設計に記載の腎臓、肝臓、および脾臓試料のGAG濃度解析の結果は、表12から14および
図9から11にまとめた。
【表12-1】
【表12-2】
【0075】
表12および
図9に示されるように、0.5mg/kgの有効なIV用量と2.5mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表12および
図9中の「0.5IV→2.5SC」を参照されたい)および0.5mg/kgの有効なIV用量と5.0mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表12および
図9中の「0.5IV→5.0SC」を参照されたい)、腎臓でのGAGの濃度は、0.5mg/kgの有効なIV用量での製剤の反復投与のGAGの濃度と同等またはそれより低かった(表12および
図9中の「0.5IV」を参照されたい)。
【表13】
【0076】
表13および
図10に示されるように、0.5mg/kgの有効なIV用量と0.5mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表13および
図10中の「0.5IV→0.5SC」を参照されたい)、0.5mg/kgの有効なIV用量と1.0mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表13および
図10中の「0.5IV→1.0SC」を参照されたい)、0.5mg/kgの有効なIV用量と2.5mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表13および
図10中の「0.5IV→2.5SC」を参照されたい)、および0.5mg/kgの有効なIV用量と5.0mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表13および
図10中の「0.5IV→5.0SC」を参照されたい)、肝臓でのGAGの濃度は、0.5mg/kgの有効なIV用量での製剤の反復投与のGAGの濃度と同等またはそれより低かった(表13および
図10中の「0.5IV」を参照されたい)。
【表14】
【0077】
表14および
図11に示されるように、0.5mg/kgの有効なIV用量と1.0mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表14および
図11中の「0.5IV→1.0SC」を参照されたい)、0.5mg/kgの有効なIV用量と2.5mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表14および
図11中の「0.5IV→2.5SC」を参照されたい)、および0.5mg/kgの有効なIV用量と5.0mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表14および
図11中の「0.5IV→5.0SC」を参照されたい)、脾臓でのGAGの濃度は、0.5mg/kgの有効なIV用量での製剤の反復投与のGAGの濃度と同等またはそれより低かった(表14および
図11中の「0.5IV」を参照されたい)。
【0078】
表11に示される実験設計に従って、尿試料は、0日、14日、28日、および56日に収集した。GAG濃度解析の結果は、表15および
図12にまとめた。
【表15】
【0079】
表15および
図12に示されるように、0.5mg/kgの有効なIV用量と1.0mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表15および
図12中の「0.5IV→1.0SC」を参照されたい)、0.5mg/kgの有効なIV用量と2.5mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表15および
図12中の「0.5IV→2.5SC」を参照されたい)、および0.5mg/kgの有効なIV用量と5.0mg/kgの有効なSC用量の組み合わせでハンター症候群を治療するための製剤が投与される場合(表15および
図12中の「0.5IV→5.0SC」を参照されたい)、14日、28日、および56日を収集された全ての尿試料におけるGAGの濃度は、0.5mg/kgの有効なIV用量での製剤の反復投与のGAGの濃度と同等またはそれより低かった(表15および
図12中の「0.5IV」を参照されたい)。
【0080】
表11に示される実験設計に従って行われた実験の全ての結果を考慮すると、本発明に記載の併用IV/SC投与の方法、特に0.5mg/kgの有効なIV用量と2.5mg/kgの有効なSC用量から5mg/kgの併用投与は、従来のIV投与(すなわち7日間隔でのIV投与)と同等またはそれよりよいハンター症候群を治療する効果を有することがわかる。
【0081】
従って、併用IV/SC投与のための製剤および本発明に記載の併用IV/SC投与の方法は、患者が毎週病院に訪問し、かつ投与あたり3から4時間以上を必要とする1週間に1回のIV投与の従来の方法における特定の数のIV投与を、自宅で自ら患者が行うことができるSC投与に置き換える。本発明の製剤および方法は、患者が1週間に1回のIV投与の従来の方法よりも少ない頻度で病院に訪問することを必要とし、それにより患者が治療のために病院に訪問しない可能性を排除し、ハンター症候群を患う患者の薬の遵守を劇的に改善する。さらに、本発明の製剤および方法が1週間に1回の従来のIV投与と同等、またはそれよりよい薬効を示すので、従来の治療と比較してより有効にハンター症候群を治療することができる。
【0082】
試験例5:ハンター症候群を治療するための製剤の活性成分
本発明の実施形態に記載のハンター症候群を治療するための製剤および方法に利用できる活性成分は、例えば、配列番号1および配列番号2を含んでもよい。
【0083】
IDS アミノ酸配列
525 a.a.
SETQANSTTD ALNVLLIIVD DLRPSLGCYG DKLVRSPNID QLASHSLLFQ NAFAQQAVCA PSRVSFLTGR RPDTTRLYDF NSYWRVHAGN FSTIPQYFKE NGYVTMSVGK VFHPGISSNH TDDSPYSWSF PPYHPSSEKY ENTKTCRGPD GELHANLLCP VDVLDVPEGT LPDKQSTEQA IQLLEKMKTS ASPFFLAVGY HKPHIPFRYP KEFQKLYPLE NITLAPDPEV PDGLPPVAYN PWMDIRQRED VQALNISVPY GPIPVDFQRK IRQSYFASVS YLDTQVGRLL SALDDLQLAN STIIAFTSDH GWALGEHGEW AKYSNFDVAT HVPLIFYVPG RTASLPEAGE KLFPYLDPFD SASQLMEPGR QSMDLVELVS LFPTLAGLAG LQVPPRCPVP SFHVELCREG KNLLKHFRFR DLEEDPYLPG NPRELIAYSQ YPRPSDIPQW NSDKPSLKDI KIMGYSIRTI DYRYTVWVGF NPDEFLANFS DIHAGELYFV DSDPLQDHNM YNDSQGGDLF QLLMP
【0084】
配列番号2
IDS アミノ酸配列
525 a.a.
SETQANSTTD ALNVLLIIVD DLRPSLGCYG DKLVRSPNID QLASHSLLFQ NAFAQQAVG*A PSRVSFLTGR RPDTTRLYDF NSYWRVHAGN FSTIPQYFKE NGYVTMSVGK VFHPGISSNH TDDSPYSWSF PPYHPSSEKY ENTKTCRGPD GELHANLLCP VDVLDVPEGT LPDKQSTEQA IQLLEKMKTS ASPFFLAVGY HKPHIPFRYP KEFQKLYPLE NITLAPDPEV PDGLPPVAYN PWMDIRQRED VQALNISVPY GPIPVDFQRK IRQSYFASVS YLDTQVGRLL SALDDLQLAN STIIAFTSDH GWALGEHGEW AKYSNFDVAT HVPLIFYVPG RTASLPEAGE KLFPYLDPFD SASQLMEPGR QSMDLVELVS LFPTLAGLAG LQVPPRCPVP SFHVELCREG KNLLKHFRFR DLEEDPYLPG NPRELIAYSQ YPRPSDIPQW NSDKPSLKDI KIMGYSIRTI DYRYTVWVGF NPDEFLANFS DIHAGELYFV DSDPLQDHNM YNDSQGGDLF QLLMP
(上記の配列番号2の59番目のG*は、ホルミルグリシン(FGly)を指す。)