(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸心方向に一部が開口されて玉を保持する複数のポケット部と、隣り合う前記ポケット部を連結する連結板部とを有する環状体からなり、前記ポケット部は、その内面に設けられて軸受運転中に前記玉によって掻き取られたグリースを溜める凹み部を有する玉軸受用保持器において、
前記連結板部は、前記凹み部に連通する溝部と、前記溝部と前記環状体の外径面とを連通するグリース排出部とを有する玉軸受用保持器。
前記連結板部は、内径側に位置する第1壁部と、前記第1壁部に対して外径側に位置する第2壁部と、前記第1壁部と前記第2壁部との間に設けられた空隙部と、を更に有し、
前記グリース排出部は、前記第1壁部に設けられて前記空隙部と連通するグリース導入口と、前記第2壁部に設けられて前記空隙部と連通するグリース排出口と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の玉軸受用保持器。
前記グリース導入口は、そのポケット側の端部に、内径側から外径側へ向かって、ポケット背面側へ傾斜する傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の玉軸受用保持器。
前記グリース排出口は、前記第2壁部を径方向に貫通する貫通孔で形成し、前記グリース排出口は、前記グリース導入口に対して軸方向内側にオフセットして配置されていることを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の玉軸受用保持器。
【背景技術】
【0002】
従来の密封型玉軸受では、軸受内部に封入したグリースの漏れ防止や外部からの異物の侵入を防止するために、内輪と外輪との開口部がシール部材で密封されている。
【0003】
従来の密封型玉軸受90は、
図16に示すように、外輪91の内径面両端部に一対のシール嵌合溝92が設けられ、この一対のシール嵌合溝92にシール部材95の外径部が嵌合される。そのシール部材95の内周部に形成されたシールリップ95aの先端部を内輪93の外径面両端部に形成されたシール溝94の内側面に弾性接触させて、軸受空間を密閉している。
【0004】
この密封型玉軸受90では、内輪93と外輪91との間に複数の玉96が組み込まれ、この玉96が保持器100により保持されている。
【0005】
保持器100は、例えば、
図17に示す冠型樹脂保持器が用いられる。
図17に示すように、保持器100は、軸心方向に一部が開口するポケット部102が周方向に連結板部111を介して複数配置した環状体110で構成されている。ポケット部102は、玉96の直径よりも僅かに大きな直径を有する球の表面に沿った凹状の形状を有している。そして、このポケット部102に玉96が収容され、玉96が回転自在に保持される(
図16参照)。
【0006】
このような密封型玉軸受90は、回転時、玉96に付着したグリースが自転により、保持器100の内径側に掻き取られて保持器100に付着する。保持器100に付着しているグリースが増加すると、内輪93の外径面にグリースが付着する。そして、回転に伴い内輪93の外径面に付着したグリースが増加し、シール部材95のシールリップ95a部分にグリースが溜まることになる。この状態で軸受温度が上昇すると、軸受内部の空気の膨張によって軸受内部の圧力が上昇するため、軸受外部との圧力差により、シールリップ95a部分が開いて軸受内部のグリースが軸受外部へ漏洩する現象が生じる。
【0007】
そこで、保持器の形状を変更してグリース漏れ対策を行った冠型樹脂保持器が提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1に開示された冠型樹脂保持器は、保持器内径面に付着するグリース量を減らし、内輪外径部へグリースが付着することを防止している。
図18〜
図20に従い、特許文献1の冠型樹脂保持器について説明する。
【0008】
図20は、特許文献1に開示された保持器100の斜視図である。
図20に示すように、保持器100は、玉を保持するポケット部102が周方向に連結板部111を介して等間隔で複数配設された環状体110からなる。ポケット部102は、軸心方向に一部が開口し、玉96の直径よりも僅かに大きな直径を有する球の表面に沿った凹状の形状を有している。そして、このポケット部102に玉96が収容される。
【0009】
図19は保持器100の一部を拡大した斜視図、
図20はポケット部部分を拡大した斜視図である。この保持器100は、環状体110の内径側のポケット底部102aの両側に凹み部103が設けられている。
【0010】
この凹み部103を設けることにより、玉に付着しているグリースが保持器100の内径面で掻き取られる量を減少させ、当該内径面に付着するグリースを減少させることができる。これにより、内輪の外径部へのグリース付着を防止することができるので、内輪の外径面へのグリースの流動を防止し、グリース漏れを防いでいる。
【0011】
上記した特許文献1では、保持器内径面に付着するグリースを減少させることができるが、グリース封入量が多い軸受に使用された場合に対して保持器の形状を改善する余地があることを本願発明者は見出した。
【0012】
特に、自動車電装補機では小型化が進み、それに伴って軸受の高速回転化も進んでいる。軸受が高速回転となることで、グリース潤滑を良好にすることが求められる。グリース封入量を増やせば潤滑は確保されるが、封入量が多くなる分だけ内輪の外径部に付着するグリース量が多くなり、グリース漏れが発生しやすくなる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この発明は、玉軸受内部におけるグリースの封入量を増やしても、グリース漏れを防ぐ玉軸受用保持器及びそれを用いた玉軸受を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明は、軸心方向に一部が開口されて玉を保持する複数のポケット部と、隣り合う前記ポケット部を連結する連結板部とを有する環状体からなり、前記ポケット部は、その内面に設けられて軸受運転中に前記玉によって掻き取られたグリースを溜める凹み部を有する玉軸受用保持器において、前記連結板部は、前記凹み部に連通する溝部と、この溝部と前記環状体の外径面とを連通するグリース排出部とを有する。
【0016】
また、前記連結板部は、内径側に位置する第1壁部と、前記第1壁部に対して外径側に位置する第2壁部と、前記第1壁部と前記第2壁部との間に設けられた空隙部と、を更に有し、前記グリース排出部は、前記第1壁部に設けられて前記空隙部と連通するグリース導入口と、前記第2壁部に設けられて前記空隙部と連通するグリース排出口と、を含めばよい。
【0017】
また、前記グリース導入口と前記グリース排出口は、前記保持器の径方向で重なる位置に設ければよい。
【0018】
また、前記グリース導入口は、そのポケット側の端部に、内径側から外径側へ向かって、ポケット背面側へ傾斜する傾斜面が設けられればよい。
【0019】
また、前記グリース排出口は第2壁部を径方向に貫通する貫通孔で形成し、前記グリース排出口は、前記グリース導入口に対して軸方向内側にオフセットして配置されている。
【0020】
また、前記グリース排出口を、軸方向にポケット部の背面側に延び、前記環状体の端部まで到達する矩形の切り欠き形状に形成し、前記グリース排出口の軸方向内側の端部は、前記グリース導入口の軸方向内側の端部より軸方向内側に位置するように構成すればよい。
【0021】
また、この発明は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に組み込まれた複数の玉と、玉を保持する保持器と、を備える単列の玉軸受であって、前記保持器は、前記に記載の玉軸受用保持器であることを特徴とする。
【0022】
また、前記グリース排出口の一部は、外輪の軌道溝と軸方向で重なるように配置すればよい。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、グリース漏れを防ぐ好適な玉軸受用保持器及びそれを用いた玉軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る保持器を用いた玉軸受を示す断面図である。
【
図2】この発明の第1の実施形態に係る保持器をポケット部の先端側から見た斜視図である。
【
図3】この発明の第1の実施形態に係る保持器をポケット部の背面側から見た斜視図である。
【
図4】この発明の第1の実施形態に係る保持器の一部を拡大した斜視図である。
【
図5】この発明の第1の実施形態に係る保持器に玉を保持させた状態を示す斜視図である。
【
図6】この発明の第1の実施形態に係る保持器のポケット部を拡大した斜視図である。
【
図7】
図4のVII−VII線に沿って連結板部を断面にして拡大した説明図である。
【
図8】この発明の第1の実施形態に係る保持器を示し、(a)は部分拡大斜視図、(b)は(a)図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【
図9】この発明の第2の実施形態に係る保持器を用いた玉軸受を示す断面図である。
【
図10】この発明の第2の実施形態に係る保持器をポケット部の先端側から見た斜視図である。
【
図11】この発明の第2の実施形態に係る保持器をポケット部の背面側から見た斜視図である。
【
図12】この発明の第2の実施形態に係る保持器の一部を拡大した斜視図である。
【
図13】この発明の第2の実施形態に係る保持器に玉を保持させた状態を示す斜視図である。
【
図14】
図12のXIV−XIV線に沿って連結板部を断面にして拡大した説明図である。
【
図15】この発明の玉軸受をアイドラプーリに用いた例を示す模式図である。
【
図16】従来の密封型玉軸受の一部を拡大して示す縦断正面図である。
【
図18】特許文献1に開示された保持器の斜視図である。
【
図20】
図18に示す保持器のポケット部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態に係る保持器を用いた玉軸受の断面図である。
【0026】
図1に示すように、第1の実施形態の保持器7を備えた玉軸受1では、外輪2の内径面に単列の軌道溝(外輪軌道溝)4が形成され、これら軌道溝4に対向する単列の軌道溝(内輪軌道溝)5が内輪3の外径面に形成されている。外輪2の軌道溝4と内輪3の軌道溝5との間に玉(転動体)6が組み込まれている。玉6は、保持器7で保持されている。本実施形態の玉軸受1は単列の玉軸受であって、例えば、後述するアイドラプーリ等の自動車の電装補機用軸受として用いられる。
【0027】
外輪2と内輪3との間の軸受内部空間は、シール部材10で密封されている。外輪2及び内輪3によって形成される環状の軸受内部空間には、図中薄墨で示したグリース19が封入されている。なお、グリース19は、
図1において薄墨でしめした箇所に限らず、玉6と保持器7のポケット71部(
図2参照)との間にも封入されている。
【0028】
ここで、玉軸受1のうちシール部材10、外輪2と内輪3間で囲まれる空間を全空間容積とし、この全空間容積から、玉軸受1が回転した際に、玉6及び保持器7が回転運動を行う空間を除いた空間を「静止空間」とする。そして、グリースの封入率は、外輪2と内輪3間の静止空間に対して100%未満であり、具体的には、グリース封入率の上限値は、静止空間に対して70〜80%の範囲に設定されている。
【0029】
玉6は鋼球からなり、保持器7は、合成樹脂からなる樹脂製保持器である。保持器7は、例えば、ポリエチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂からなる。
【0030】
以下、玉軸受1の軸受中心軸に沿った方向を軸方向、軸方向に直交する方向を径方向という。また、軸受中心軸回りの円周方向を周方向という。
【0031】
外輪2の内径面の両端部には、一対のシール嵌合溝8が形成され、一方、内輪3の外径面には、上記一対のシール嵌合溝8と径方向に対向する一対のシール溝9が形成されている。
【0032】
シール部材10は、環状の芯金11と、この芯金11に加硫成型により一体に形成されたゴム製部材12とで構成され、外輪2のシール嵌合溝8にゴム製部材12の外径部12aが嵌め込まれて取り付けられる。シール部材10の内径側にはシールリップ12bが設けられ、このシールリップ12bが内輪3のシール溝9に摺接する。
【0033】
図2〜
図8に示すように、保持器7は、冠型保持器である。保持器7は、軸心方向に一部が開口する開口部72を有する複数のポケット部71と、隣り合うポケット部71を連結する連結板部73とを有する環状体70からなる。各ポケット部71の内面は、玉6の外面に沿った凹球面状に形成されている。開口部72の周方向両端には、周方向に対面する一対の爪部72aが設けられている。尚、この明細書において、軸受軸方向のポケット部71の開放側をポケット側といい、その反対側を背面側という。
【0034】
図1、
図3、
図4及び
図7に示すように、連結板部73の背面側には、空隙部76cが設けられ、保持器7の軽量化を図っている。空隙部76cは、連結板部73の背面の一部をポケット側に凹ませてなる。空隙部76cの一部(ポケット側の部分)は、その軸方向位置が軌道溝4、5と重なっている。
図4の破線で示すように、この空隙部76cは、連結板部73の軸方向端面及びポケット部71において、肉厚が均等になるように、略台形形状に形成されている。
【0035】
各ポケット部71は、その内面のうち底面部71bの一部をポケット側から背面側へと凹ませた凹み部74a、74bを有している。凹み部74a、74bは、ポケット内径側の開口縁71aからポケット外径側へと延びている。
【0036】
図8に示すように、この凹み部74a、74bは、保持器半径方向につき、ポケット内径側のポケット開口縁71aから玉配列ピッチ円PCD(玉6のピッチ円PCD)に向かって延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。なお、玉配列ピッチ円PCDはポケットPCDとも呼ぶ。凹み部74a、74bには、軸受運転中に玉6に掻き取られたグリースが溜まる。この凹み部74a、74bを設けることにより、玉6に付着しているグリースが保持器7の内径面で掻き取られる量を減少させるとともに、掻き取られたグリースを凹み部74a、74bで溜めることで、内輪3の外径部へのグリース付着を防止する。
【0037】
凹み部74の内面形状は、保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面での断面形状)が、ポケット部71の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径Rbの円弧状であり、詳しくは同図(b)に示すように、保持器7の半径方向の直線Lを中心とする各仮想円筒Vの表面に略沿う円筒面状の形状である。
【0038】
本実施形態では、凹み部74a、74bは、各ポケット部71において複数設けられている。
図8に示すように、複数の凹み部74a、74bは、保持器7の周方向に対して、ポケット部71の開口縁71aにおける保持器円周方向の中心OW11の両側に位置する2箇所としている。2つの凹み部74a、74bの位置は、例えば、ポケット部71の開口縁71aにおける保持器円周方向の中心OW11に対する周方向の配向角度を40°±15°とした対称な2箇所である。凹み部74a、74bの深さは、ポケット内面の凹球面の中心O11から凹み部74a、74bの最深位置までの距離Rcが、玉6の半径の1.05倍以上となる深さであることが好ましい。
【0039】
尚、この実施形態では、凹み部74a、74bは、ポケット部71の保持器7の周方向に対して両側に設けられているが、片側だけに設けてもよい。
【0040】
連結板部73の内径面には、凹み部74a、74bと連通する溝部75が設けられている。
図7に示すように、溝部75は、ポケット側から背面側に向かって深さが深くなる溝である。この第1の実施形態では、連結板部73に設けられた溝部75は、隣り合うポケット部71に設けられている凹み部74a、74b同士を連通している。軸受運転中に、凹み部74a、74bに溜まったグリースは溝部75へと案内されて、当該溝部75で保持される。このように、溝部75は、凹み部74a、74bに溜まったグリースが案内されるグリース案内溝としても機能する。
【0041】
そして、
図7に示すように、環状体70の連結板部73には、溝部75と連通するグリース排出部76が設けられている。グリース排出部76は、保持器7の内径面と外径面とを連通して、溝部75に保持されたグリースを保持器7の外径面へと排出する。この実施形態のグリース排出部76は、連結板部73のうち内径側に位置する第1壁部73aに設けられたグリース導入口76aと、前記第1壁部73aと外径側に位置する第2壁部73bとの間の空隙部76cと、前記第2壁部73bに設けられたグリース排出口76bとで構成されている。
【0042】
図4及び
図7に示すように、グリース導入口76aは、溝部75と繋がって軸方向にポケット部71の背面側に延びている。言い換えると、グリース導入口76aの軸線は、保持器径方向と平行に延びる軸線(グリース排出口76の軸線)に対して保持器背面側に傾斜している。また、グリース導入口76aは、環状体70の端部まで到達する矩形の切り欠き形状に形成され、空隙部76cと連通する。そして、
図7に示すように、グリース導入口76aのポケット側の端部は内径面側から外径面側へ向かって背面側へ傾斜する傾斜面76a1が形成され、溝部75から空隙部76c側へのグリースの流れを良好にしている。即ち、遠心力によりグリース導入口76aの傾斜面76a1に沿って空隙部76cへグリースがスムーズに流れる。
【0043】
図7に示すように、グリース排出口76bは、保持器7の第2壁部73bを径方向に貫通する貫通孔であり、保持器76と外輪2との間の空間と空隙部76cとを連通している。グリース排出口76cは、径方向から視て、円形である。グリース排出口76bは、保持器7の径方向でグリース導入口76aと重なる位置に設けられている。そして、グリース排出口76bとグリース導入口76aとは互いに、軸方向にオフセットして配置されている。具体的には、グリース排出口76bは、グリース導入口76aに対して軸方向内側にオフセットして配置されている。即ち、グリース排出口76の軸方向内側の端部がグリース導入口76aより軸方向内側に配置されている。
図1に示すように、このグリース排出口76bは、玉軸受1に保持器7を組み込んだ際、グリース排出口76bの一部が外輪2の軌道溝4と軸方向で重なるように設けられている(
図1参照)。
【0044】
図1の矢印A及び
図5の矢印に示すように、グリース排出部76は、溝部75に保持されたグリースを外輪2の軌道溝4へ戻し、グリースの良好な潤滑環境を維持するように機能する。
【0045】
凹み部74a、74bに溜まったグリースは溝部75からグリース排出部76のグリース導入口76aに向かって流れて行き、遠心力を受けることにより、グリース導入口76aの傾斜面に沿って、グリース導入口76aから空隙部76cに流れる。そして、遠心力により空隙部76cに流れ込んだグリースはグリース排出口76bから排出される。グリース排出口76bの一部は、軌道溝4と軸方向で重なるように設けられているので、グリースは軌道溝4に移動し、軸受内部にグリースが戻される。これにより、軸受内部において、良好なグリース潤滑環境が保たれる。
【0046】
このように、保持器7の内径面に凹み部74a、74bと溝部75を設けることで、グリースが凹み部74a、74bに溜まり、溜まったグリースは溝部75に移動し、溝部75で保持され、保持器7のポケット部71の内径面にグリースが溜まることが防止できる。この結果、グリース封入量を増やしてもグリースが内輪3の外径面に付着することが防止され、グリース漏れの発生を防止できる。
【0047】
そして、連結板部73には、溝部75と連通するグリース排出部76が設けられていることにより、グリース排出部76から外輪2の軌道溝4にグリースが移動し、良好なグリース潤滑環境を維持することができる。特に、本実施形態の保持器7を単列の玉軸受1に用いると好適である。具体的には、複列の玉軸受に比べて軸受内部空間が小さい単列の玉軸受(移動させたグリースを溜める空間が限られている単列の玉軸受)において、ポケット部71の凹み部74a
、74bと連通するグリース排出部76を設けた保持器7によって、外輪2の軌道溝4に効率的に移動させることで内輪3の外径面にグリースが付着するのを防止することができる。よって、本実施形態の保持器7を単列の玉軸受1に用いることによって、グリース潤滑環境を適切に保ちつつ、軸受外部へのグリース漏れを防ぐことができる。
【0048】
次に
、この発明の第2の実施形態につき、
図9〜
図14に従い説明する。尚、第1の実施形態と同一部分には同一符号を付し、説明の重複を避けるために
、その説明は割愛する。
【0049】
図10〜
図14に示すように、第2の実施形態の保持器7aは、第1の実施形態の保持器7と同様に冠型保持器である。保持器7aは、軸心方向に一部が開口する開口部72を有するポケット部71を、周方向に連結板部73を介して環状に等間隔で複数配置した環状体70からなる。
【0050】
この第2の実施形態の保持器7aの環状体70にも、溝部75と連通するグリース排出部76が設けられている。この実施形態のグリース排出部76は、連結板部73の第1壁部73aに設けられたグリース導入口76aと第1壁部73aと第2壁部73bとの間の空隙部76cと、第2壁部73bに設けられたグリース排出口76dとで構成されている。
【0051】
グリース導入口76aと空隙部76cは、第1の実施形態と同様に形成され、グリース排出口76dの形状が第1の実施形態と相違する。第1の実施形態のグリース排出口76bは、貫通孔で形成されている。これに対して、第2の実施形態のグリース排出口76dは、軸方向にポケット部71の背面側に延び、環状体70の端部まで到達する矩形の切り欠き形状に形成され、空隙部76cと連通している。
【0052】
矩形の切り欠き形状に形成されたグリース排出口76dは、保持器7aの径方向でグリース導入口76aと重なる位置に設けられている。そして、
図14に示すように、グリース排出口76dの軸方向内側の端部は、グリース導入口76aの軸方向内側の端部よりさらに軸方向内側に位置する。
図9に示すように、グリース排出口76dは、玉軸受1に保持器7を組み込んだ際、一部が外輪2の軌道溝4と軸方向で重なるように設けられている(
図9参照)。
【0053】
図9の矢印A及び
図13の矢印に示すように、グリース排出部76は、溝部75に保持されたグリースを外輪2の軌道溝4へ戻し、グリースの良好な潤滑環境を維持するように機能する。
【0054】
凹み部74に溜まったグリースは、溝部75からグリース排出部76のグリース導入口76aに向かって流れて行き、遠心力を受けることにより、グリース導入口76aの傾斜面76a1に沿って、グリース導入口76aから空隙部76cに流れる。そして、遠心力により空隙部76cに流れ込んだグリースはグリース排出口76dから排出される。グリース排出口76dの一部は軌道溝4と軸方向で重なるように設けられているので、グリースは軌道溝4に移動する。これにより、軸受内部において、良好なグリース潤滑環境が保たれる。
【0055】
このように、第2の実施形態の保持器7aも第1の実施形態の保持器7と同様に、内径面に凹み部74と溝部75を設けることで、グリースが凹み部74a、74bに溜まり、溜まったグリースは溝部75に移動し、溝部75で保持され、保持器7aのポケット部71の内径面にグリースが溜まることが防止できる。この結果、グリース封入量を増やしてもグリースが内輪3の外径面に付着することが防止され、グリース漏れの発生を防止できる。
【0056】
そして、連結板部73には、溝部75と連通するグリース排出部76が設けられていることにより、グリース排出部76から外輪2の軌道溝4にグリースが戻され、良好なグリース潤滑環境を維持することができる。よって、この第2の実施形態の保持器7aを玉軸受1に用いることによって、グリース潤滑環境を適切に保ちつつ、軸受外部へのグリース漏れを防ぐことができる。
【0057】
ここで、本実施形態の玉軸受1の用途例の一つである自動車の電装補機は、近年、自動車の省スペース化に伴い、小型化が進んでいる。そして、小型化に伴う出力低下を補うために、電装補機は高速回転する傾向にあり、当該電装補機に使用される軸受も高速回転する傾向にある。軸受が高速回転することに伴い、グリース封入量を増やして、グリース潤滑を良好にすることが考えられる。グリース封入量を増やすと、グリース漏れが生じやすくなるが、この発明の玉軸受1を用いれば軸受の高速回転に対応してグリース封入量を増やしても、保持器内径面に付着するグリース量を減少させることができる。したがって、グリース漏れの発生を防ぐことができ、軸受の高速回転のニーズにも容易に対応することができる。以下、玉軸受1をアイドラプーリに用いた例につき
図15を参照して説明する。
図15は、玉軸受1をアイドラプーリに用いた例を示す模式図であり、自動車補機の駆動ベルトのベルトテンショナーとして用いられる。アイドラプーリ(以下、単にプーリと呼ぶ)は、例えば、オルタネータ又はコンプレッサ等の自動車補機の駆動ベルトを案内する。
【0058】
図15に示す通り、プーリは、鋼板製のプーリ本体51と、プーリ本体51の内径に嵌合された玉軸受1とで構成されている。プーリ本体51と玉軸受1とでプーリ付き軸受が構成される。プーリ本体51は、環状体である。プーリ本体51は、内径円筒部51aと、内径円筒部51aの一端から外側に延びたフランジ部51bと、フランジ部51bから軸方向に延びた外径円筒部51cと、内径円筒部51aの他端から内径側に延びた鍔部51dとを有している。内径円筒部51aの内径には、玉軸受1の外輪2が嵌合され、外径円筒部51cの外径にはエンジンによって駆動されるベルトと接触するプーリ周面51eが設けられている。このプーリ周面51eをベルトに接触させることにより、プーリがアイドラとしての役割を果たす。
【0059】
また、プーリ用の玉軸受1は、高速回転の条件が使用されることが多い。特に、近年では、自動車の省スペース化に伴い、玉軸受のサイズはそのままでプーリの内径を縮小する傾向にある。エンジンの回転数自体に変更はないので、エンジンクランクとプーリの比率のみが増え、プーリの回転数の増加に伴い、玉軸受の回転数も増加する。この発明の玉軸受1によれば、グリースが内輪3の外径面に付着することが防止され、グリース漏れの発生を防止できるので、グリース潤滑を良好に維持でき、玉軸受1の高速回転のニーズに対応することができる。
【0060】
上記した実施形態は、単列の玉軸受の保持器にこの発明の保持器を用いたが、複列の玉軸受にこの発明の保持器を用いることができる。
【0061】
上記した実施形態では、保持器7(7a)の連結板部73に空隙部76cを設けているが、空隙部を設けていない連結板部の保持器にもこの発明は適用できる。この場合、グリース排出部76は、保持器7(7a)の内径面と外径面と連通する貫通穴又は貫通溝で形成すればよい。
【0062】
この発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。