特許第6606218号(P6606218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6606218粒子線治療装置、その運転方法、及び移動板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606218
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】粒子線治療装置、その運転方法、及び移動板
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
   A61N5/10 G
   A61N5/10 M
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-84514(P2018-84514)
(22)【出願日】2018年4月25日
(62)【分割の表示】特願2015-192811(P2015-192811)の分割
【原出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-111012(P2018-111012A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2018年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長本 義史
(72)【発明者】
【氏名】北川 希代彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 和孝
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−513852(JP,A)
【文献】 特表2015−527155(JP,A)
【文献】 特表2008−544833(JP,A)
【文献】 特開2001−129103(JP,A)
【文献】 特開平11−047287(JP,A)
【文献】 特開2001−353228(JP,A)
【文献】 特開2017−012374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
A61B 6/00
G21K 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線を出射する粒子線照射機と、
前記粒子線照射機を支持する回転ガントリと、
前記回転ガントリの周回方向に沿って複数枚の移動板で構成され、被照射体を載置する天板の下方では水平部を形成する移動床と、
X線を発生するX線発生器と、
前記移動床を透過して到達する前記X線を検出するX線検出器と、を備え、前記移動板の少なくとも1枚は、
前記X線を前記X線検出器で検出可能に透過する第1床部材と、前記第1床部材よりX線透過率の小さい第2床部材と、を備え、
前記第1床部材と前記第2床部材とは同一の材質であり、
前記第1床部材の厚さは前記第2床部材の厚さより薄いことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
粒子線を出射する粒子線照射機と、
前記粒子線照射機を支持する回転ガントリと、
前記回転ガントリの周回方向に沿って複数枚の移動板で構成され、被照射体を載置する天板の下方では水平部を形成する移動床と、
X線を発生するX線発生器と、
前記移動床を透過して到達する前記X線を検出するX線検出器と、を備え、前記移動板の少なくとも1枚は、
前記X線を前記X線検出器で検出可能に透過する第1床部材と、前記第1床部材よりX線透過率の小さい第2床部材と、を備え、
前記回転ガントリの回転軸に垂直な断面が前記第1床部材のみで構成される領域を有することを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項3】
前記第1床部材は前記移動床から取り外し可能に構成される請求項1又は請求項2に記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
前記第1床部材を取外して生じる開口部は、前記X線発生器より大きい請求項3に記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
前記回転ガントリが可動範囲内で停止したときに前記X線発生器と同じ周角度にある前記移動板全てに前記第1床部材を備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
前記粒子線照射機の停止する周角度と前記第1床部材の周角度との関係に基づく角度補正量に応じて前記第1床部材を前記X線の照射領域上に配置する位置調整部を備える請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項7】
前記移動板は複数のグループに分けられ、
前記グループ内の隣接する前記移動板同士は連結されて一枚の移動シートを形成し、
前記回転ガントリの回転軸に垂直な平面による断面視で、前記移動シートに隣接する他の移動シートが異なる軌道で周回する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項8】
前記移動板は3つ以上のグループに分けられて前記グループ内の隣接する前記移動板同士は連結されて一枚の移動シートを形成し、
前記粒子線照射機に隣接する第1移動シートと前記粒子線照射機に隣接しない第2移動シートとの距離が変化する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項9】
前記回転ガントリから治療室内へ突出した前記粒子線照射機の突出部を覆うカバーを備え、
前記X線検出器が前記カバーの内側に配置される請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項10】
前記第1床部材の位置を検出するセンサ部を備える請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項11】
粒子線治療装置の回転ガントリの周回方向に沿って回転する移動床を構成する複数枚の移動板において、
前記移動板の少なくとも1枚は、
をX線検出器で検出可能に透過する第1床部材と、前記第1床部材よりX線透過率の小さい第2床部材と、を備え、
前記第1床部材と前記第2床部材とは同一の材質であり、
前記第1床部材の厚さは前記第2床部材の厚さより薄いことを特徴とする移動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転ガントリが設けられた粒子線治療技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のがん治療では、陽子または炭素イオンなどの荷電粒子を高エネルギーに加速した粒子線をがん患部に照射する粒子線治療法が広く用いられている。
【0003】
この粒子線治療法では、重要な臓器を避けてがん患部に粒子線を照射するため、ビームの照射角度を様々に変更しながら照射することが要求される。
そこで、例えば、円筒状の回転ガントリに粒子線照射機を固定し、この回転ガントリ粒子線照射機ごと回転させることで照射角度を変更している。
【0004】
治療室となる回転ガントリの内部空間には、回転ガントリの回転とは無関係に水平でフラットな床面を維持する移動床が設けられている。
この移動床を利用して、治療の前後で技師が患者にアクセスしたり、緊急時に患者が治療台から降りたりする。
この移動床は、粒子線照射機の先端で治療室に突出して固定された先端部の変位を阻害しないように、この先端部に合わせて摺動する。
【0005】
粒子線の照射前や照射中には、X線撮影がなされて、患部の位置および形状が正確に把握される。
よって治療空間には、患者に向けてX線を照射するX線発生器および患者を透過したX線を検出するX線検出器(以下、「X線撮影機器」という)が配置される。
上述のように粒子線治療装置には相対位置が変化する複数の機器があるため、このX線撮影機器の配置には、この相対位置の変化を考慮する必要がある。
【0006】
例えば、治療室のいずれの機器とも衝突しない箇所にX線撮影機器にアームを接続してこのアームとともに収納しておく方法が知られている。
この場合、X線照射時のみ他の機器の変位を阻害しないようにアームを制御しながらX線発生器を患部の付近に配置して撮影して、撮影後には退避させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3519248号公報
【特許文献2】特許第3927348号公報
【特許文献3】特許第4130680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の技術では、アームおよびその制御機構などによって粒子線治療装置が複雑化するとともに、X線撮影機器の配置時間および退避時間の分だけ、治療時間が長期化するという課題があった。
一方で、X線撮影で取得されるX線画像が患部の位置を正確に特定できる程度に鮮明であることは必要である。
【0009】
本発明はこのような事情を考慮し、上記課題を解決するためになされたもので、簡素な構成で良質なX線画像を取得できるとともに治療時間の短い粒子線治療装置、その運転方法、及び移動板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態にかかる粒子線治療装置は、粒子線を出射する粒子線照射機と、前記粒子線照射機を支持する回転ガントリと、前記回転ガントリの周回方向に沿って複数枚の移動板で構成され、被照射体を載置する天板の下方では水平部を形成する移動床と、X線を発生するX線発生器と、前記移動床を透過して到達する前記X線を検出するX線検出器と、を備え、前記移動板の少なくとも1枚は、前記X線を前記X線検出器で検出可能に透過する第1床部材と、前記第1床部材よりX線透過率の小さい第2床部材と、を備え、前記第1床部材と前記第2床部材とは同一の材質であり、前記第1床部材の厚さは前記第2床部材の厚さより薄い。
【0011】
本実施形態にかかる粒子線治療装置は、粒子線を出射する粒子線照射機と、前記粒子線照射機を支持する回転ガントリと、前記回転ガントリの周回方向に沿って複数枚の移動板で構成され、被照射体を載置する天板の下方では水平部を形成する移動床と、X線を発生するX線発生器と、前記移動床を透過して到達する前記X線を検出するX線検出器と、を備え、前記移動板の少なくとも1枚は、前記X線を前記X線検出器で検出可能に透過する第1床部材と、前記第1床部材よりX線透過率の小さい第2床部材と、を備え、前記回転ガントリの回転軸に直交する断面が前記第1床部材のみで構成される領域を有する。
【0012】
本実施形態にかかる粒子線治療装置の運転方法は、X線撮像を行う回転ガントリの角度においてX線発生器が発生するX線の照射領域上にX線を透過する第1床部材の位置を調節するステップと、前記第1床部材を透過した前記X線をX線検出器で検出し、取得されたX線画像に基づいて被照射体の位置を調節するステップと、前記被照射体の位置が適切である場合に前記被照射体へ粒子線を照射する照射ステップと、を含む。
【0013】
本実施形態にかかる移動板は、粒子線治療装置の回転ガントリの周回方向に沿って回転する移動床を構成する複数枚の移動板において、前記移動板の少なくとも1枚は、前記X線を前記X線検出器で検出可能に透過する第1床部材と、前記第1床部材よりX線透過率の小さい第2床部材と、を備え、前記第1床部材と前記第2床部材とは同一の材質であり、前記第1床部材の厚さは前記第2床部材の厚さより薄い。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、簡素な構成で良質なX線画像を取得できるとともに治療時間の短い粒子線治療装置、その運転方法及び移動板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態にかかる粒子線治療装置の概略構成図。
図2】第1実施形態にかかる粒子線治療装置の一例であって全周回転ガントリを用いた例を示す図。
図3】(A)は第1実施形態にかかる粒子線治療装置であって回転ガントリの中心軸に沿った断面図、(B)は第1実施形態にかかる粒子線治療装置であって回転ガントリの中心軸に垂直な方向の粒子線治療装置の断面図。
図4】支持ガイドに設けられた移動床の一例を示す斜視図。
図5】移動床の変形例であって横スライド式のものを示す上面図。
図6】(A)は第1実施形態にかかる粒子線治療装置の移動板の一例を示す斜視図、(B)は(A)で示される移動板にX線を照射させたときの説明図。
図7】第2実施形態にかかる粒子線治療装置の概略構成図。
図8】部分回転ガントリの治療空間の概略構成図。
図9】(A)は第3実施形態にかかる粒子線治療装置であって回転ガントリの中心軸に沿った断面図、(B)は第3実施形態にかかる粒子線治療装置であって回転ガントリの中心軸に垂直な方向に切断した粒子線治療装置の断面図。
図10】第3実施形態にかかる粒子線治療装置が備える移動シートの概略断面図。
図11】(A)は第4実施形態にかかる粒子線治療装置が備える移動板の斜視図、(B)は(A)に示されるI-I断面の断面図、(C)は(A)に示されるII-II断面の断面図。
図12】第3実施形態にかかる粒子線治療装置の動作手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、実施形態にかかる粒子線治療装置10(以下、単に「治療装置10」という)の概略構成図である。
イオン源11から放出された陽子または炭素イオンなどの荷電粒子は、粒子線加速器12で加速された粒子線B(粒子線B)となる。
【0018】
粒子線Bは、磁場を利用して被照射体の患者13のいる治療建屋14まで誘導される。
さらに、粒子線Bは、加速器12と回転接合部20を介して接続された粒子線照射機16に誘導される。
そして、粒子線Bは、粒子線照射機16の先端部から、天板18に固定された患者13の患部19に向けて出射される。
【0019】
照射角度を様々に変更する粒子線照射機16の姿勢を維持するため、粒子線照射機16は、回転ガントリ21に支持される。
回転ガントリ21は、粒子線照射機16の支持体として設けられる回転構造体である。
回転ガントリ21が治療建屋14に対して回転等の変位をすることで、粒子線照射機16は様々な姿勢に変位することができる。
【0020】
また、治療建屋14に構築された基礎22に固定された治療台に配置される天板18も、患者13に過剰な負荷がかからない範囲で姿勢を変えることができる。
患者13または技師38(図2(B))などが天板18の周囲へアクセスするため、天板18の下方には、回転ガントリ21の変位とは無関係に水平を維持する床面が配置される。
この床面のうち粒子線照射機16の通過軌道上に配置された部分が変位しないものであると、粒子線照射機16の変位を阻害する。
【0021】
そこで、少なくともこの通過軌道上の床面は、粒子線照射機16の通過に合わせて粒子線照射機16による占有範囲23(図5)から退避する移動床24にする必要がある。
移動床24は、基礎22に直接または床面を介して固定、あるいは回転ガントリ21内に配置される支持ガイド26aに摺動自在に係合されることで摺動する。
移動床24の詳細については、後に詳述する。
【0022】
また、治療装置10には患者13に向けて設置されてX線を放出するX線発生器27a(27)と、患者13を透過したX線を検出するX線検出器27b(27)( Flat Panel Detector:FPD)と、が備えられている。
以下、これらX線発生器27aおよびFPD27bを適宜まとめて、X線撮影機器27という。
X線で患部19の周辺を鮮明に撮影するため、X線撮影機器27は、少なくともX線撮影時には粒子線照射機16の通過軌道上またはその付近に配置される必要がある。
【0023】
そこで、実施形態にかかる治療装置10では、X線撮影機器27が、非衝突エリア31に固定され、X線発生器27aとFPD27bとが、移動床24を挟んで対向する位置に設置される。
非衝突エリア31とは、電子的な位置制御機構を用いなくてもX線撮影機器27が粒子線照射機16、回転ガントリ21および移動床24のいずれにも衝突しないエリアのことである。
以下、非衝突エリア31の説明も含めて、図2から図12に示される治療装置10の具体例を説明する。
【0024】
〔第1実施形態〕
図2は、第1実施形態にかかる治療装置10の一例であって全周回転ガントリ21aを用いた例を示す図である。
粒子線照射機16には、図示を省略しているが、真空ダクト、ビーム偏向電磁石、照射野形成電磁石、各種モニタ、架台、その他の構造物が多数設けられており、重量が非常に大きい。
よって、この重量の大きい粒子線照射機16を安定して支持して変位させるため、多くの場合、図2に示されるような円筒状の全周回転ガントリ21a(21)が用いられる。
【0025】
このような全周回転ガントリ21aは、例えば、基礎22に設置された回転駆動部34に載置されて、この回転駆動部34の回転によって円筒の中心軸(Z軸)の周りを回転する。
【0026】
粒子線照射機16は、治療空間36に粒子線照射機16の先端部を突出させて固定される。
全周回転ガントリ21aの胴部の周辺で基礎22を凹型にすることで、全周回転ガントリ21aは、粒子線照射機16の外突部が基礎22に衝突することなく中心軸の周りを360度回転することができる。
【0027】
そして、図3(A)は、図2で示した全周回転ガントリ21aの治療装置10であって全周回転ガントリ21aの中心軸に沿った断面図である。
また、図3(B)は、この中心軸に垂直な方向の治療装置10の断面図である。
さらに、図4は、支持ガイド26aに設けられた移動床24の一例を示す斜視図である。
【0028】
(移動床24の配置)
図3(A)および図4に示されるように、移動床24は、例えば、長手形状の移動板37の群が支持ガイド26aに沿って並置されて形成される。
支持ガイド26aは、例えば、天板18の下方で水平になる水平部、および全周回転ガントリ21aの内周面に沿って湾曲してこの水平部の両端に接続される湾曲部で構成される。
【0029】
このような形状の2つの支持ガイド26aが、互いに対向する対になって移動板37の長手方向の両端部に係合される。
移動板37は、モータで回転するローラ(図示せず)などを介して支持ガイド26aに係合されることよって、支持ガイド26aに沿って摺動可能になる。
そして、天板18の下方における移動板37の群は、水平な包絡面を形成して移動床24になる。
なお、本明細書において「摺動」とは、接触する部材が摺り合うようにして相対的に移動することを意味する。
例えば、ローラまたはギアなどによって相対的に移動する場合や、接触した滑らかな面上を滑らせることなどが摺動に含まれる。
【0030】
粒子線照射機16は、支持ガイド26aの対に挟まれる位置に先端部が挿入されて固定される。
すなわち、支持ガイド26aの全周のうち一部は移動板37が存在しない領域があり、この領域に先端部が挿入されている。
【0031】
全周回転ガントリ21aの回転によって粒子線照射機16が回転すると、移動板37が粒子線照射機16に押されて粒子線照射機16の周回方向に沿って摺動する。
つまり、移動板37を粒子線照射機16の進行方向に摺動させて、粒子線照射機16による占有範囲23(図5)から退避させる。
【0032】
なお、図5の移動床24の変形例であって横スライド式のものを示す上面図で示されるように、移動板37の退避方向は、粒子線照射機16の周回方向に対して垂直であってもよい。
横スライド式の移動床24の場合、例えば、複数の直線状の支持ガイド26bが全周回転ガントリ21aの中心軸に沿って設けられる。
そして、通過センサ39で粒子線照射機16の回転ガントリ21の中心軸を軸とする周角度を検出した摺動駆動部35が移動板37に接続されたシャフト41を支持ガイド26bに沿って摺動させる。
【0033】
ここで、「周角度」とは、粒子線照射機16が鉛直上方で停止した位置を0度と規定し、この角度から回転ガントリ21の中心軸を中心に回転した角度を意味する。以下においても同様である。
移動床24は、シャフト41に引っ張られて粒子線照射機16による占有範囲23から退避する。
【0034】
(X線撮影機器27の配置)
一方、回転ガントリ21が全周回転ガントリ21aである場合、X線発生器27aは、例えば、全周回転ガントリ21aの胴部に固定される。
X線発生器27aを全周回転ガントリ21aに固定することで全周回転ガントリ21aとともにX線発生器27aも回転するので、X線発生器27aが粒子線照射機16に衝突することはない。
つまり、全周回転ガントリ21aの胴部の壁面内部およびこの胴部の内周面と移動床24の湾曲面とで形成される間隙は、非衝突エリア31である。
すなわち、このエリアは、電子的な位置制御機構を用いなくてもX線発生器27aが粒子線照射機16などに衝突しない非衝突エリア31である。
【0035】
また、この場合、粒子線照射機16の先端部にFPD27bを設ければ、FPD27bとX線発生器27aとの相対角度は変動せず、X線検出面の設置角度を固定することができる。
粒子線照射機16そのものに設置されたFPD27bは、粒子線照射機16に衝突して、粒子線照射機16の変位を阻害することがない。
つまり、FPD27bが粒子線照射機16に固定されている場合は、粒子線照射機16の先端部付近は、FPD27bが粒子線照射機16の変位を阻害しない範囲内で、非衝突エリア31である。
【0036】
また、全周回転ガントリ21aの内部へ突出した粒子線照射機16の突出部には、この突出部を被覆するカバー17が設けられる。
FPD27bをカバー17の内表面または外表面に設けた場合も、FPD27bは粒子線照射機16などの変位を阻害しない。
よって、カバー17の内表面および外表面にFPD27bを設けた場合も、FPD27bは非衝突エリア31に設けられたことになる。
【0037】
なお、FPD27bは、設置角度を固定することができる場合であっても、粒子線照射機16またはカバー17に収納されるものであってもよい。
また、全周回転ガントリ21aの内周面であって粒子線照射機16の固定部分が、治療空間36に突出して露出している場合もある。
この場合、この露出部(図示せず)にFPD27bを設置してもよく、この露出部付近も非衝突エリア31である。
【0038】
なお、X線撮影機器27は、ビーム照射軸から±45度の角度に2組設置されることが望ましい。
2方向からのX線画像を取得することで、患部19の3次元の位置を把握することができる。
【0039】
また、水平方向および鉛直方向にそれぞれ設置することで、従来の固定式の照射室と共通の画像処理方式を用いることができる。
また、X線発生器27aとFPD27bとの位置を逆転して、X線発生器27aを粒子線照射機16の先端部付近など治療空間36の内部に、FPD27bを全周回転ガントリ21aに設置してもよい。
以下、特に明示しないが、全ての例においてX線発生器27aとFPD27bの位置は交換可能である。
【0040】
(移動板37の構成)
このように全周回転ガントリ21aにX線発生器27aが設置されて粒子線照射機16などにFPD27bが設置されると、これらの間には、移動床24が配置されることになる。
つまり、移動床24によってX線発生器27aから出射されたX線は、移動床24で遮蔽されて、移動床24についてX線発生器27aと反対の側のFPD27bまで到達しないことになる。
そこで、図6(A)の移動板37の一例で示されるように、移動板37をX線の透過率の異なる第1床部材37aと第2床部材37b(37)とで構成する。
【0041】
移動板37の母材となる第2床部材37bは、例えば幅400mm、長さ2000mm程度のアルミ合金(例えば、JISA5052)などであり、患者13が乗り降りする床面として十分な強度を有する。
一方、第1床部材37a(37)は、第2床部材37bよりもX線の透過率の高い材料で構成される。
つまり、第2床部材37bに対する第1床部材37aの透過率の比率ηが1より大きいものが選択される。
【0042】
例えば、炭素繊維強化プラスチック(carbon-fiber-reinforced plastic, CFRP)は、X線の透過率に対して強度が高く、第1床部材37aの材料として好適である。
CFRPのX線透過率は同一の厚さのアルミニウムと比較して、5倍程度であることが知られている。
【0043】
なお、第1床部材37aの材質は、第2床部材37bと同一のものである場合もある。
第1床部材37aと第2床部材37bとが同一の材質であったとしても、第1床部材37aの厚さを薄くすることで、X線の透過率を上げることができる。
【0044】
(第1床部材37aの設置位置)
図6(B)は、図6(A)で示される移動板37にX線を照射させたときの説明図である。
X線発生器27aから出射されるX線の照射範囲は、一定の広がりを有する。
患者13には、患部19または患部19の周辺に埋め込まれたマーカーなど位置を特定することができる最低限のX線が照射されればよい。
つまり、X線発生器27aから出射されるX線のうちの一部が患者13に到達し、その後FPD27bにて検出される。
【0045】
そこで、第1床部材37aは、図6(B)に示されるように、移動板37のうちこの照射範囲との交差面30(図6(B))を含む範囲に設けられる。
第1床部材37aは、例えば図6(B)に示されるように、枠材43が設けられ、この枠材43を介して第2床部材37bに結合される。
なお、枠材43は、X線を透過させるような材料選択などをしている場合を除き、第2床部材37bに含まれるものとする。
【0046】
また、ここでいう「結合される」には、第2床部材37bが穿孔されて、この穿孔部に第1床部材37aが嵌め込まれる場合も当然含むものとする。
第1床部材37aの結合にネジなどを用いると、第1床部材37aの取外しが容易になり、移動板37の全体を取外さなくてもX線発生器27aを確認することができる。
ネジによる結合以外にも、接着剤による接着または溶接などを用いてもよく、結合方法は限定されない。
【0047】
また、穿孔部の大きさをX線発生器27aより一回り大きくすることで、この穿孔部からX線発生器27aを容易に出し入れすることができる。
なお、第1床部材37aを設けた移動板37は、第1床部材37aを設けていない移動板37に比較して、強度が低くなることが多い。
そこで、最小限となる特定の移動板37のみに第1床部材37aを設けるのが望ましい。
【0048】
例えば、2組のX線撮影機器27は、上述の理由から、粒子線照射機16の照射軸から±45度の角度に固定されることが多い。
よって、この場合は、第1床部材37aを設けた移動床24も、照射軸から±45度の角度およびその周辺の数枚の移動板37に設ける。
【0049】
以上のように、第1実施形態にかかる治療装置10によれば、簡素な構成で良質なX線画像を取得することができる。
また、X線撮影機器27を随時退避させる必要がないため、治療時間を短縮することができる。
【0050】
〔第2実施形態〕(部分回転ガントリ21b)
図7は、第2実施形態にかかる治療装置10の概略構成図である。
近年、図7に示されるようにレール軌道40、あるいは円筒の一部等を用いた部分回転ガントリ21b(21)も知られてきている。
なお、図7においては、粒子線照射機16に接続されて粒子線照射機16との重量のバランスをとるバランスウェートなどの各種付随機器は省略している。
【0051】
図7に示されるような部分回転ガントリ21bでは、湾曲形状で360度より小さい角度範囲の2本のレール軌道40が設けられる。
そして、この2つのレール軌道40に2つの回転補助体25が係合される。
粒子線照射機16は、この回転補助体25に支持されて、天板18に固定される患者13を中心に360度より小さい角度で回転する。
【0052】
部分回転ガントリ21bを用いる場合、粒子線照射機16の変位角度を制限する一方で天板18を水平に回転させることで、全周回転ガントリ21aと同様に任意の角度からの粒子線Bの照射が可能となる。
変位角度を制限することで、天板18の付近に大きな非衝突エリア31を確保することができる。
第2実施形態では、治療装置10を部分回転ガントリ21bに適用した場合について説明する。
【0053】
図8は、部分回転ガントリ21bの治療空間36の概略構成図である。
第2実施形態にかかる治療装置10は、図8に示されるように、第1実施形態と異なり、回転ガントリ21の胴部の位置から中心軸と垂直な方向から入退室することができる。
よって、治療中も天板18が基礎22に近い位置に配置される。
【0054】
そこで、例えば、2つのうち1つのX線発生器27aが基礎22などの部分回転ガントリ21bが回転しても変位しない箇所に固定される。
X線が基礎22に固定されたX線発生器27aから出射される場合、FPD27bへ出射されたX線は、移動床24によって遮蔽されることなく患者13に照射される。
よって、基礎22に固定されたX線発生器27aを含むX線撮影機器27については、移動板37について第1実施形態のような工夫は不要となる。
【0055】
しかし、前述のように、患部19の3次元の位置座標を取得するためには、2つのX線発生器27aは、例えば90度の角度で設置される必要がある。
よって、部分回転ガントリ21bであっても、2つのうち残りの1つのX線発生器27aは、第1実施形態と同様に移動床24を挟んでFPD27bと対向する位置に設けられることになる。
【0056】
そこで、第1実施形態と同様に移動板37に第1床部材37aを設けて、この残りの1組のX線撮影機器27においても、X線撮影をすることができるようにする。
図示を省略しているが、基礎22に設けられたX線発生器27aと対になるPDFについては、例えば粒子線照射機16の先端に設けられる。
また、部分回転ガントリ21bに設けられたX線発生器27aと対になるPDFは、例えば、基礎22に設けられる。
【0057】
このように第2実施形態によれば、部分回転ガントリ21bが部分回転ガントリ21bである場合も、第1実施形態と同様の効果を有することができる。
【0058】
なお、回転ガントリ21が部分回転ガントリ21bであること以外は、第2実施形態は第1実施形態と同じ構造となるので、重複する説明を省略する。
図面においても、共通の構成または機能を有する部分は同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0059】
このように、第2実施形態にかかる治療装置10においても第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
〔第3実施形態〕(第1床部材37aおよび粒子線照射機16の相対周角度の補正)
図9(A)および図9(B)は、第3実施形態にかかる治療装置10を示す概略断面図である。
図9(A)は、図3(A)と同様に、図2で示した全周回転ガントリ21aの治療装置10であって全周回転ガントリ21aの中心軸に沿った断面図である。
また、図9(B)は、図3(B)と同様に、この中心軸に垂直な方向の治療装置10の断面図である。
【0061】
第3実施形態にかかる治療装置10は、図9に示されるように、第1実施形態の構成に加えて、第1床部材37aの位置を検出するセンサ部44と、この第1床部材37aの位置に基づいて移動板37を摺動させて第1床部材37aをX線撮影機器27の照射領域上に配置する位置調整部46と、をさらに備える。
【0062】
X線発生器27aが全周回転ガントリ21aに設置されているとき、X線発生器27aは、中心軸の周りを略真円状に回転する。
一方、移動床24は支持ガイド26aに沿って移動するため、移動床24もまた湾曲部および水平部を形成する。
【0063】
この水平部では、回転の中心角に対する移動床24の長さが湾曲部よりも短くなる。
よって、全周回転ガントリ21aと移動板37とが等しい角速度で回転すると、粒子線照射機16の周角度と移動板37の周角度がずれてくる。
つまり、ある周角度では45度の周角度差にあった第1床部材37aが、別の周角度ではX線発生器27aの照射領域上からずれてしまうことがある。
【0064】
これら第1床部材37aとX線発生器27aとの位置関係がずれると、X線画像の視野が狭くなる場合や、X線が遮蔽されてX線画像が取得できなくなる場合がある。
粒子線照射機16の周角度差が増加すると、このずれは顕著になる。
【0065】
そこで、通常、水平部におけるこのようなずれの発生を考慮して、第1床部材37aは、2以上の隣り合う移動板37に設けられる。
しかし、2以上の隣り合う移動板37に第1床部材37aが設けられている場合も、枠材43がX線を遮蔽してしまいマーカーや特徴のある骨部位を適切に特定することができないことがある。
【0066】
そこで、移動床24の少なくとも一部は、粒子線照射機16と連結されずに、粒子線照射機16とは独立して支持ガイド26a上を摺動するための裕度を有して係合される。
ここで、図10は、第3実施形態にかかる治療装置10が備える移動シート47の概略断面図である。
【0067】
具体的には、例えば、図10に示されるように、移動板37は数枚ごとにグループに分けられる。
グループ内の隣接する移動板37同士は、間隔を維持して可動に連結されて一枚の移動シート47を形成する。
そして、隣接する他の移動シート47と位置の重複可能に支持ガイド26aに係合される。
【0068】
例えば、支持ガイド26aに内周側のレーンおよび外周側のレーンの2つのレーン(図示せず)を設ける。
そして、隣接する移動シート47を内周側のレーンと外周側のレーンとに交互に係合させる。
隣接する移動シート47同士は、間隙の発生を防止するため、隣接する端部を重複させて背面ローラ48で摺動可能に接続される。
このように、移動シート47同士の重心間距離が変化する裕度を有して係合されることで、粒子線照射機16と第1床部材37aとの周角度を一致させることができる。
【0069】
なお、粒子線照射機16の胴体部には、複数のうちの一部の移動シート47が固定して接続されている。
基礎22など変位しない箇所に設置されたセンサ部44は、このように相互に係合された移動シート47に向けて設置され第1床部材37aの位置を検出する。X線発生器27aが全周回転ガントリ21aに固定されている場合は、センサ部44は粒子線照射機16の先端付近に設置してもよい。
検出の方法には、例えば枠材43に蛍光ステッカを張り付け、この蛍光ステッカの反射を光学的に検出する方法がある。
【0070】
また、センサ部44を用いずに、粒子線照射機16の停止する周角度と第1床部材37aの周角度との関係を予め記憶しておき、この関係に基づいて、検出した粒子線照射機16の停止した周角度に対応する角度補正量を求めてもよい。
【0071】
いずれの場合であっても、この情報は位置調整部46に送られて、位置調整部46で第1床部材37aとX線発生器27aの照射領域とが一致するように補正される。
角度補正量の算出では、移動床24の水平部で移動シート47間の間隙ができるだけ小さくなるように算出するのが好ましい。
角度補正量が移動シート47の重複した端部の裕度を超えて大きい場合に、移動床24の水平部に間隙ができてしまうからである。
【0072】
さらに、水平部における移動シート47の端部には、間隙ができてしまった場合の小物の落下や挟まれ防止のためにロールスクリーンなどのガードを設けるのが望ましい。また、なるべく水平部に間隙が生じないよう各移動シート47を駆動させることが望ましい。
位置調整部46は、第1実施形態とX線発生器27aとの相対周角度に基づいて移動シート47を摺動させて第1床部材37aを照射領域上に配置する。
【0073】
以上のように、任意の周角度においてX線発生器27aと第1床部材37aとを一致させることができるので、任意の周角度からのX線撮影が可能となる。
【0074】
次に、第3実施形態にかかる治療装置10方法の動作手順を、図12のフローチャートを用いて説明する(適宜図9を参照)。
まず、粒子線照射機16の周角度を45度にすることで、X線の出射方向を水平方向および鉛直方向にする(S11)。
【0075】
次に、センサ部44で第1床部材37aの位置を検出して、第1床部材37aの周角度を調節してX線発生器27aの周角度と揃え(S12)、X線撮影をする(S13)。
X線は、第1床部材37aを透過して、さらに患者13の患部19付近を透過して粒子線照射機16に固定されたFPD27bで検出される。
治療計画で設定した患部19に粒子線Bが正確に照射できるよう取得されたX線画像をもとに患者13の位置を調節する(S14)。
【0076】
患者13の位置調節後、X線で再度撮影をする(S15)。
再度の撮影で取得されたX線画像を確認して、患者13の位置が適切になるまでX線撮影および患者13の位置調節を繰り返す(S16:NO:S14へ)。
位置決めの前後では、患者13の姿勢や状況を確認するために技師38が移動床24に乗って患者13にアクセスすることもある。
患者13の位置が適切であれば位置決めを完了する(S16:YES)。
【0077】
次に、粒子線照射機16を回転して出射位置に配置する(S17)。
センサ部44で第1床部材37aの位置を検出し、第1床部材37aを摺動して周角度をX線発生器27aの周角度に一致させる(S18)。
なお、第1床部材37aをX線発生器27aの周角度に完全に一致させることができない場合などは、X線の照射領域に第1床部材37aが含まれるようにすればよい。
呼吸同期照射しない場合、そのまま粒子線照射機16が粒子線Bを照射する(S19:NO:S20)。
治療計画に従って、所定の線量を照射したら、照射を終了する(S21)。
別の周角度でも照射をする場合、粒子線照射機16を回転させて次の周角度に配置する(S22:YES:S17へ)。
計画された全ての周角度で照射をした後(S22:NO)、粒子線治療を終了する。
【0078】
また、粒子線治療方法には、患者13の呼吸による患部19の周期的な変位にタイミングを合わせて粒子線Bを照射する呼吸同期照射法がある。
呼吸同期照射法を実施する場合、X線撮影をして患部19の位置を確認する(S19:YES:S23)。
【0079】
そして、患部19が最適な位置にきたときに、タイミングを合わせて粒子線Bを照射する(S24)。
照射を終了するまで、X線撮影および粒子線Bの照射をする(S25:NO:S23へ)。
特定の周角度での粒子線Bの照射終了後は、通常の照射治療法と同様に、全周回転ガントリ21aを回転させて粒子線照射機16を別の周角度に移動する(S25:YES:S22:YES:S17へ)。
【0080】
なお、第1床部材37aの周角度を調整することができるので、粒子線照射機16を当初の45度の周角度に戻さずに、停止している周角度で何度もX線撮影を実施することができる。
さらに、例えば、ビーム照射直前で患者の体調が悪化し、一度退室、再度治療台に戻った場合でも、上記のように停止している粒子線照射機16の周角度に合わせて第1床部材37aの周角度を調整すれば、粒子線照射機16の周角度を初期角度(位置決め角度)に戻すことなく、良好なX線撮影が可能になる。
【0081】
粒子線照射機16の回転、X線装置の駆動システムなしに、短時間で位置決め確認および治療再開が可能となる。
なお、全周回転ガントリ21aについて説明したが、第3実施形態では部分回転ガントリ21bでも同様に適用することができる。
【0082】
なお、移動床24を移動シート47に分けて停止した周角度の補正をすること以外は、第3実施形態は第1実施形態と同じ構造および動作手順となるので、重複する説明を省略する。
図面においても、共通の構成または機能を有する部分は同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0083】
このように、第3実施形態にかかる治療装置10によれば、第1実施形態の効果に加え、任意の周角度からもX線発生器27aと第1床部材37aとの周角度を一致させることができるので、任意の周角度におけるX線撮影が可能となる。
【0084】
また、X線撮影の度に粒子線照射機16を治療開始時の周角度(位置決め角度)に戻す必要がないので、治療時間も短縮することができる。
同様に治療開始時の周角度(位置決め角度)に戻す必要がないので、粒子線の照射中の患者13の呼吸や僅かな体位の変更による患部19のずれに同期または追尾する呼吸同期照射または動体追尾照射も可能となる。
さらに、任意の周角度からX線撮影ができるので、患部19との関係で最適な周角度からX線照射をすることができる。
【0085】
〔第4実施形態〕
図11(A)は、第4実施形態にかかる治療装置10の移動板37の斜視図である。
また、図11(B)は、図11(A)に示されるI-I断面、すなわち第2床部材37bの断面図である。
また、図11(C)は、図11(A)に示されるII-II断面、すなわち第1床部材37aの断面図である。
【0086】
第4実施形態にかかる治療装置10は、図11(A)に示されるように、周回方向に隣り合う2つ以上の移動板37に設けられる第1床部材37aが、第2床部材37bを挟まずに連続している。
つまり、第1実施形態で示した枠材43(図6)を含まずに、周回方向に第1床部材37aが連続して配置される。
【0087】
すなわち、周回方向に沿って2つに分けられた第2床部材37bに、第1床部材37aが結合されることで接続している。
第1床部材37aの剛性を確保するため、第1床部材37aと第2床部材37bとの結合部位にリブ(図示せず)を設けて第1床部材37aと第2床部材37bを結合してもよい。
【0088】
(透過経路長の条件)
連続して配置される第1床部材37aは、第2床部材37bの形状に合わせて、例えば、L字型またはコ字型の形状を有する場合がある。
しかし、このような形状の第1床部材37aをX線が透過すると、第1床部材37aへの入射地点および入射角度が連続的に変わるとき、その透過経路長は、不連続に急変する。
【0089】
つまり、第1床部材37aが直角形状のような鋭利な形状をしている場合、第1床部材37aとX線発生器27aとの相対角度の連続的な変化によって、透過経路長は不連続に急変することになる。
【0090】
このような透過経路長の急変によって、FPD27bには、何かしらの物体があると認識される急なピークが発生するおそれがある。
そこで、第1床部材37aとX線発生器27aとの位置関係が変化したときに、第1床部材37aに進入するX線の透過経路長が急変しない形状にされる。
例えば、図11(C)に示されるように、第1床部材37aの各頂角はできるだけ滑らかで緩やかに湾曲させることが望ましい。
【0091】
また、第1床部材37aの形状をできるだけ平坦にして、厚さの変化のないものにする。
例えば、図11(B)および図11(C)を比較してわかるように、第1床部材37aの屈曲している端部は、この屈曲部の長さをできるだけ短くすることが望ましい。
【0092】
また、第1床部材37aとX線発生器27aとがとりうる任意の相対位置からのX線の入射に対しても、許容上限として設定した長さを超えないような形状にすることが望ましい。
【0093】
なお、第1床部材37aを枠材43を設けずに連続して配置することおよび移動板37の形状を規定したこと以外は、第4実施形態は第1実施形態と同じ構造および動作手順となるので、重複する説明を省略する。
図面においても、共通の構成または機能を有する部分は同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0094】
このように、第4実施形態にかかる治療装置10によれば、第3実施形態の効果に加え、センサ部44および位置調整部46などによるX線発生器27aと移動床24の相対位置の角度補正をしなくても、X線撮影をすることができる。
【0095】
以上述べた少なくとも一つの実施形態の治療装置10、粒子線治療方法または移動板37によれば、移動板37に第1床部材37aを設けることにより、簡素な構成で良質なX線画像を取得できるとともに治療時間の短縮化することが可能となる。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0097】
10…粒子線治療装置(治療装置)、11…イオン源、12…粒子線加速器、13…患者(被照射体)、14…治療建屋、16…粒子線照射機(粒子線照射機)、17…カバー、18…天板、19…患部、21…回転ガントリ(支持体、回転構造体)、21a(21)…全周回転ガントリ、21b(21)…部分回転ガントリ、22…基礎、23…占有範囲、24…移動床、25…回転補助体、26(26a,26b)…支持ガイド、27(27a,27b)…X線撮影機器(X線発生器,X線検出器)、31…非衝突エリア、34…回転駆動部、35…摺動駆動部、36…内部空間、37(37a,37b)…移動板(第1床部材,第2床部材)、38…技師、39…通過センサ、40…レール軌道41…シャフト、43…枠材、44…センサ部、46…位置調整部、47…移動シート、48…背面ローラ、49…リブ、B…粒子線(粒子線)、η…透過率の比率。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12