【実施例】
【0046】
以下に示す実施例により、1<L1/L2≦1.25を満たす正極60を用いることによって、ケース110がセルユニット130を適切にケーシングできることを実証した。以下、実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0047】
まず、負極40の形成方法について説明する。負極40の負極集電体41は、厚さ10μmのCu箔である。負極40の負極活物質層42(負極スラリー)は、Gr粉末(活物質)、PVdF(ポリフッ化ビニリデン、結着材)をそれぞれ95:5(重量比)でNMP(N−メチルピロリドン)に分散させて形成した。その後、厚さ10μmのCu箔の両面にダイコーターにて負極スラリーを塗布し、乾燥させ、乾燥後にプレスすることにより、厚さ130μmの負極40を形成した。負極40の負極活物質層42は、大きさが200mm×200mmの矩形状に形成した。
【0048】
次に、正極60の形成方法について説明する。正極60の正極集電体61は、厚さ20μmのAl箔である。正極60の正極活物質層62(正極スラリー)は、ニッケル酸リチウム粉末(活物質)、PVdF(ポリフッ化ビニリデン、結着材)、カーボン粉末(導電助剤)をそれぞれ90:5:5(重量比)でNMP(N−メチルピロリドン)に分散させて形成した。その後、厚さ20μmのAl箔の両面にダイコーターにて正極スラリーを塗布し、乾燥させ、乾燥後にプレスした。また、正極活物質層62は、正極活物質層62と露出部61aとの境界61bから4mm内側の位置から露出部61aに向かって厚さが薄くなるように傾斜する傾斜部63を設けた。絶縁部材80には、幅12mmのポリプロプレン製のテープを用いた。正極活物質層62と露出部61aとの境界61bを覆うように、絶縁部材80を配置することによって、正極60を形成した。正極60の正極活物質層62は、大きさが190mm×190mmの矩形状に形成した。このように、正極60は、アスペクト比が1:1になるように設けた。絶縁部材80の厚さ、L1、L2、L1/L2、tanθの数値については、後述の表1に示す。
【0049】
次に、リチウムイオン二次電池100の形成方法について説明する。セパレータ50として、ポリエチレン製微多孔質膜(厚さ=25μm)を準備した。また、電解液として、1M LiPF
6 EC:DEC=1:1(体積比)を用いた。
【0050】
上述のように形成した正極60を20枚、負極40を21枚、セパレータ50を20枚用意し、正極60/セパレータ50/負極40/セパレータ50/正極60・・・の順に積層して、積層体30を作製した。得られた積層体30を厚さ150μmのアルミラミネートシート製の外装体10中に載置し、電解液を注液した。真空条件下において、負極40および正極60に接続された電流取り出し用の負極タブ20、正極タブ22が導出するようにアルミラミネートシート製外装体の開口部を封止し、試験用セルを完成させた。L3/L4の数値については、後述の表1に示す。
【0051】
そして、この試験用セルを8セル積層したセルユニット130を、ケース110によってケーシングすることで、電池モジュール1を完成させた。
【0052】
ケース110の材質は、Fe、Al、SUSの3種を使用し、ケースの内寸は64mmとした。8セル積層時の最大厚みについては、後述の表1に示す。
【0053】
次に、評価方法について説明する。不都合なくケーシングできた場合を○、突起部分が盛り上がるがケースの加圧力で吸収できた場合を△、ケースが閉じられずケーシング不可であった場合を×とする。
【0054】
表1にL1/L2の比、およびケースの材質を適宜変更した場合における試験結果をまとめて示す。
【0055】
【表1】
【0056】
<比較結果>
L1/L2を1.25以下とすることで、ケース110が、セルユニット130を適切にケーシングできることが分かった。
【0057】
また、1<L1/L2≦1.25を満たす正極60、セパレータ50、および負極40を積層して積層体30を構成し、リチウムイオン二次電池100を構成した。このとき、1<L3/L4≦1.16を満たすことが分かった。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る正極60は、面方向に延在する正極集電体61を有する。また正極60は、正極集電体61の両面に、正極集電体61の一部を露出させた露出部61aを残すように配置された一対の正極活物質層62を有する。また正極60は、正極集電体61を挟んで対向して配置され、正極活物質層62から前記露出部61aにかけて境界を覆うように配置された一対の絶縁部材80を有する。また、一対の絶縁部材80の厚み方向に沿う一端80aから他端80bまでの長さをL1(一対の絶縁部材80に覆われた部位の電極厚みの最大値)、一対の正極活物質層62の厚み方向に沿う一端62aから他端62bまでの長さをL2(一対の絶縁部材80に覆われていない活物質層部位の電極厚みの最大値)としたときに、正極60は、L1/L2≦1.25を満たす。このため、リチウムイオン二次電池100を複数積層して形成されるセルユニット130をケース110によって適切にケーシングできる。また、1<L1/L2を満たす。このとき、
図5に示すように、絶縁部材80の厚み方向に沿う一端80aは、厚み方向において正極活物質層62よりも高く配置される。したがって、絶縁部材80は、正極活物質層62の傾斜部63のうち、境界61bから所定の距離離間した位置に亘って形成される始端部61cを覆う。始端部61cは、一般的に密度が高いため割れが発生しやすく、始端部61cの割れに起因して熱耐性が低下する場合がある。本実施形態に係る正極60であれば、1<L1/L2を満たすことで絶縁部材80が始端部61cを覆うために、上述の熱耐性の低下を好適に防止することができる。
【0059】
また、正極活物質層62は、露出部61aに向かって厚さが薄くなるように傾斜する傾斜部63を有する。このため、境界61bにおける正極活物質層62の傾斜がなだらかになる。したがって、絶縁部材80を境界61bに対してより好適に配置することができる。
【0060】
また、絶縁部材80の面方向の内側の内側端部80cは、傾斜部63上に配置される。このため、
図5に示すように、Ltanθ+Tcosθ<H+Tを満たし、L1/L2の値をより小さい値とすることができる。したがって、セルユニット130をケース110によってより確実にケーシングできる。
【0061】
また、傾斜部63が正極集電体61に対して傾斜する傾斜角をθとしたときに、0.033<tanθ<0.075を満たす。ここで、0.033<tanθを満たすとき、リチウムイオン二次電池100全体として所望の容量を有することができる。また、tanθ<0.075を満たすとき、絶縁部材80の面方向の内側の内側端部80cは、傾斜部63上に配置される。したがって、セルユニット130をケース110によってより確実にケーシングできる。
【0062】
また、絶縁部材80の厚みは、15〜27μmである。このような厚さの絶縁部材80を用いることによって、膨出部10Aの膨出を抑制することができ、ケース110は、より好適にセルユニット130をケーシングできる。
【0063】
また、以上説明したように本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、上述の正極60を積層し、外装体10で封止した扁平形状の電池である。また、厚み方向に沿って視て正極活物質層62が設けられる範囲において、リチウムイオン二次電池100の厚み方向に沿う最大長さ(一対の絶縁部材80に覆われた部位の電池厚みの最大値)をL3とする。また、最小長さをL4(一対の絶縁部材80に覆われていない活物質層部位の電池厚みの最小値)とする。このとき、1<L3/L4≦1.16を満たす。このため、リチウムイオン二次電池100を複数積層して形成されるセルユニット130をケース110によって適切にケーシングできる。
【0064】
そのほか、本発明は、特許請求の範囲に記載された構成に基づき様々な改変が可能であり、それらについても本発明の範疇である。
【0065】
例えば、上述した実施形態では、絶縁部材80の面方向の内側の内側端部80cは、
図5に示すように、傾斜部63上に配置された。しかしながら、
図6に示すように、絶縁部材80の面方向の内側の内側端部80cは、傾斜部63を越えて、正極活物質層62の平坦部66に配置されてもよい。
【0066】
また、上述した実施形態では、絶縁部材80が正極60に配置される場合を説明した。しかしながら、絶縁部材80が負極40に配置されてよい。あるいは、絶縁部材80は、負極40および正極60の両者に配置されてもよい。
【0067】
また、上述した実施形態では、正極活物質層62は傾斜部63を有した。しかしがら、
図7に示すように、正極160の正極活物質層162は、傾斜部63が設けられない構成であってもよい。
【0068】
なお、自動車用途などにおいては、昨今、大型化されたリチウムイオン二次電池100が求められている。大型化電池の観点として、電池面積や電池容量の関係からリチウムイオン二次電池100の大型化を規定することもできる。例えば、扁平積層型ラミネート電池の場合には、定格容量に対するリチウムイオン二次電池100の面積(外装体まで含めた電池の投影面積)の比の値は、5cm
2/Ah以上であり、かつ、定格容量は、3Ah以上とすることができる。このように、電極の物理的な大きさの観点とは異なる、大型化電池の観点として、電池面積や電池容量の関係からリチウムイオン二次電池100の大型化を規定することもできる。
【0069】
さらに、矩形状の正極60のアスペクト比は1〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。なお、正極60のアスペクト比は、矩形状の正極60の正極活物質層62の縦横比として定義される。アスペクト比をこのような範囲とすることで、面方向に均一に反応ガスを排出することが可能となる。
【0070】
リチウムイオン二次電池100の定格容量は、以下により求められる。
【0071】
定格容量は、試験用電池について、電解液を注入した後で、10時間程度放置し、初期充電を行う。その後、温度25℃、3.0Vから4.15Vの電圧範囲で、次の手順1〜5によって測定される。
【0072】
手順1:0.2Cの定電流充電にて4.15Vに到達した後、5分間休止する。
【0073】
手順2:手順1の後、定電圧充電にて1.5時間充電し、5分間休止する。
【0074】
手順3:0.2Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間休止する。
【0075】
手順4:0.2Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、定電圧充電にて2.5時間充電し、その後、10秒間休止する。
【0076】
手順5:0.2Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間停止する。
【0077】
定格容量:手順5における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を定格容量とする。
【0078】
また、リチウムイオン二次電池100の構成は、一般的なリチウムイオン二次電池100に用いられている公知の材料を用いればよく、特に限定されるものではない。リチウムイオン二次電池100に使用することのできる負極集電体41、正極集電体61、負極活物質層42、正極活物質層62、セパレータ50、および絶縁部材80等について参考までに説明する。
【0079】
負極集電体41および正極集電体61は、例えば、ステンレススチール箔である。しかし、これに特に限定されず、アルミニウム箔、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材を利用することも可能である。
【0080】
負極40の負極活物質層42は、例えば、ハードカーボン(難黒鉛化炭素材料)である。しかし、これに特に限定されず、黒鉛系炭素材料や、リチウム−遷移金属複合酸化物を利用することも可能である。特に、カーボンおよびリチウム−遷移金属複合酸化物からなる負極活物質は、容量および出力特性の観点から好ましい。
【0081】
正極60の正極活物質層62は、例えば、LiMn
2O
4である。しかし、これに特に限定されない。なお、容量および出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物を適用することが好ましい。
【0082】
負極40および正極60の厚さは、特に限定されず、電池の使用目的(例えば、出力重視、エネルギー重視)や、イオン伝導性を考慮して設定する。
【0083】
セパレータ50の素材は、例えば、電解質を浸透し得る通気性を有するポーラス状のPE(ポリエチレン)である。しかし、これに特に限定されず、PP(ポリプロピレン)などの他のポリオレフィン、PP/PE/PPの3層構造をした積層体、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、不織布を、利用することも可能である。不織布は、例えば、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステルである。
【0084】
ホストポリマーに保持される電解液は、例えば、PC(プロピレンカーボネート)およびEC(エチレンカーボネート)からなる有機溶媒、支持塩としてのリチウム塩(LiPF
6)を含んでいる。有機溶媒は、PCおよびECに特に限定されず、その他の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類、テトラヒドロフラン等のエーテル類を適用することが可能である。リチウム塩は、LiPF
6に特に限定されず、その他の無機酸陰イオン塩、LiCF
3SO
3等の有機酸陰イオン塩を、適用することが可能である。
【0085】
なお、下記の電解質のホストポリマーを含んでもよい。電解質のホストポリマーは、例えば、HFP(ヘキサフルオロプロピレン)コポリマーを10%含むPVDF−HFP(ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体)である。しかし、これに特に限定されず、その他のリチウムイオン伝導性を持たない高分子や、イオン伝導性を有する高分子(固体高分子電解質)を適用することも可能である。その他のリチウムイオン伝導性を持たない高分子は、例えば、PAN(ポリアクリロニトリル)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)である。イオン伝導性を有する高分子は、例えば、PEO(ポリエチレンオキシド)やPPO(ポリプロピレンオキシド)である。
【0086】
絶縁部材80の基材の材料は、熱可塑性樹脂である。絶縁部材80の基材は例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、非晶ポリアリレート(PAR)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等である。
【0087】
絶縁部材80の基材に塗布する図示しない接着材は、例えば有機溶剤系バインダ(非水系バインダ)でも、水分散系バインダ(水系バインダ)のいずれも用いることができるなど、特に限定されない。例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフクレート、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルポキシメチルセルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルポキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダは、耐熱性に優れ、電解液との反応性が低く、さらに耐溶性に優れており、正極および負極のそれぞれの活物質層上に塗布して使用することが可能である。これらのバインダは、1種単独で用いてもよいし、2種併用してもよい。