(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606356
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】水田除草ロボット
(51)【国際特許分類】
A01B 39/18 20060101AFI20191031BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
A01B39/18 A
A01B69/00 303B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-112921(P2015-112921)
(22)【出願日】2015年6月3日
(65)【公開番号】特開2016-220654(P2016-220654A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】505262099
【氏名又は名称】IKOMAロボテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】八田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 泰宏
【審査官】
小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−043718(JP,A)
【文献】
特開平06−046605(JP,A)
【文献】
実開昭56−147804(JP,U)
【文献】
特開2011−120573(JP,A)
【文献】
特開2005−065664(JP,A)
【文献】
実公昭34−011638(JP,Y1)
【文献】
特開2000−041411(JP,A)
【文献】
特開平07−046902(JP,A)
【文献】
特開2007−129910(JP,A)
【文献】
特開2007−082523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B27/00 −31/00
A01B35/00 −49/06
A01B69/00 −69/08
A01D34/00 −34/01
A01D34/412−34/90
A01D42/00 −42/08
A01D43/06 −43/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
該本体部に設けられたフロートと、
前記本体部に取り付けられた一対の対向する駆動車輪と、
該駆動車輪を回転駆動させるための駆動部と、
前記駆動車輪の後方位置において前記本体部に取り付けられた除草車輪と、
を備える水田除草ロボットであって、
当該水田除草ロボットを水田内に静置したときには、前記本体部が前記フロートによって水面に浮かんで前記駆動車輪が土壌に接地する一方で前記除草車輪は土壌に接地しない状態となり、当該水田除草ロボットを前進させるように前記駆動車輪を前記駆動部によって回転駆動したときには、前記本体部が前記駆動車輪から受ける反力によって後傾して前記除草車輪が土壌に接地した状態となるようにされた、水田除草ロボット。
【請求項2】
各駆動車輪が前記本体部に対して上下動自在に取り付けられている、請求項1に記載の水田除草ロボット。
【請求項3】
前記駆動車輪と前記除草車輪とが、当該水田除草ロボットの前後方向で見て互いに重ならないように配置されている、請求項1又は2に記載の水田除草ロボット。
【請求項4】
前記除草車輪が、円板状部材と、該円板状部材から径方向外側に突出した複数のフィンとを備える、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水田除草ロボット。
【請求項5】
前記本体部が、右側部、左側部、及び該右側部と左側部とを連結する上部を有し、該右側部と左側部との間に稲株が通過可能な空間が形成され、
前記除草車輪が、前記右側部の後方位置と左側部の後方位置とにそれぞれ取り付けられている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水田除草ロボット。
【請求項6】
前記本体部の前記右側部の前方位置と前記左側部の前方位置とにそれぞれ前記本体部に対して上下動自在に取り付けられた稲株認識用のセンサと、
該センサに設けられたセンサ用フロートと、
をさらに備える、請求項5に記載の水田除草ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田に発生した草を除草する水田除草ロボットに関し、特に、水田内を自律走行しながら除草を行うことができる水田除草ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、水田の除草は、除草剤を利用した化学的除草法が主流になっている。しかし、近年では、省農薬指向、環境への負荷低減などの理由から、除草剤を使用しない水稲栽培が要望されており、化学的除草法ではなく、歩行型除草機に代表される機械的除草、紙マルチによる物理的除草、アイガモ農法に代表される生物的除草法なども採用されるようになってきている。
【0003】
歩行型除草機には、手押し型のタイプと動力型のタイプとがある。更に、作業者が歩行せずに済む乗用型の除草機もある。手押し型は歩行作業であるため、炎天下の水田では過酷な労働となる。また、乗用型は労力を軽減できるが、手押し型に比べて高価である。生物的除草法は、水田に放したアイガモにより行うものであるが、除草効果が必ずしも安定せず、更には、飼育に手間とコストが掛かるなどの理由から広く普及するには至っていない。
【0004】
そこで、人による手間と労力を必要とせず経済的に除草を行うことができる無人の除草ロボットが提案されている(特許文献1)。この除草ロボットにおいては、稲株を静電容量式のセンサで検知しながら稲株の列に沿って走行し、一対の対向する駆動車輪に放射状に配置されたフィンによって稲株が植えられていない場所の表層土を攪拌して除草を行うようになっている。また、一対の駆動車輪のみでは攪拌できる面積が限られるため、除草ロボットの前後方向で見て一対の駆動車輪と重ならない位置にさらに一対の後輪を設けて四輪駆動型とし、この後輪に設けられたフィンによっても除草を行うようにすることで、除草面積をより大きくして効率的に除草するようにすることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−120573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
稲株を倒さないようにしながら水田内を移動するためには、細かな旋回動作が必要になることが多い。特に、ある稲株の列から別の稲株の列に移動する場合などには、その場での転回が必要となる場合もある。しかしながら、除草面積を増やすために4つの車輪で除草を行うようにした四輪駆動型の水田除草ロボットの場合には、その場での転回が困難となってある程度の旋回半径をもって旋回をしなければならなくなるため、対向二輪型のものに比べて小回りが利きにくい。
【0007】
本発明は、このような点に鑑み、一対の対向する駆動車輪と除草車輪とによって除草するようにしながらも、駆動車輪によるその場での転回が可能となる水田除草ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、
本体部と、
該本体部に設けられたフロートと、
前記本体部に取り付けられた一対の対向する駆動車輪と、
該駆動車輪を回転駆動させるための駆動部と、
前記駆動車輪の後方位置において前記本体部に取り付けられた除草車輪と、
を備える水田除草ロボットであって、
当該水田除草ロボットを水田内に静置したときには、前記本体部が前記フロートによって水面に浮かんで前記除草車輪が土壌に接地しない状態となり、当該水田除草ロボットを前進させるように前記駆動車輪を前記駆動部によって回転駆動したときには、前記本体部が前記駆動車輪から受ける反力によって後傾して前記除草車輪が土壌に接地した状態となるようにされた、水田除草ロボットを提供する。
【0009】
当該水田除草ロボットにおいては、水田内で静置しているときには、除草車輪が土壌に接地しないので、一対の対向する駆動車輪を適宜駆動することにより、除草車輪の影響を受けることなくその場での転回を円滑に行うことが可能となる。一方で、前進駆動させるように駆動車輪を回転駆動したときには、本体部が後傾して除草車輪が接地するので、前進駆動中には駆動車輪に加えて除草車輪によっても除草作業を行うこと可能となる。すなわち、当該水田除草ロボットは、従来の四輪駆動型のものと同等の除草の効率性を有しながら、より高い旋回駆動性を有するようにすることが可能となる。
【0010】
好ましくは、各駆動車輪が前記本体部に対して上下動自在に取り付けられているようにすることができる。
【0011】
このような構成により、水田の水面高さが変化しても、本体部を水面に対して一定の高さに維持することが可能となる。
【0012】
好ましくは、前記駆動車輪と前記除草車輪とが、当該水田除草ロボットの前後方向で見て互いに重ならないように配置されているようにすることができる。
【0013】
このような構成により、当該水田除草ロボットが前進したときに、駆動車輪と除草車輪とが異なる場所の土壌を攪拌するようになるので、より広い面積をより効率よく除草することが可能となる。
【0014】
好ましくは、前記除草車輪が、円板状部材と、該円板状部材から径方向外側に突出した複数のフィンとを備えるようにすることができる。
【0015】
フィンが円板状部材から径方向外側に突出していることにより、フィンが土壌に挿入される際に円板状部材が抵抗とならず、従ってフィンが土壌のより深い位置にまで挿入されやすくなり、より効率的に土壌を攪拌させることが可能となる。
【0016】
好ましくは、前記本体部が、右側部、左側部、及び該右側部と左側部とを連結する上部を有し、該右側部と左側部との間に稲株が通過可能な空間が形成され、
前記除草車輪が、前記右側部の後方位置と左側部の後方位置とにそれぞれ取り付けられているようにすることができる。
【0017】
さらに好ましくは、前記本体部の前記右側部の前方位置と前記左側部の前方位置とにそれぞれ前記本体部に対して上下動自在に取り付けられた稲株認識用のセンサと、
該センサに設けられたセンサ用フロートと、
をさらに備えるようにすることができる。
【0018】
稲株認識用のセンサを備えることで、当該水田除草ロボットを稲株の列に沿って正確に駆動させることができるようになる。また、稲株認識用のセンサがセンサ用フロートとともに本体部に対して上下動自在に取り付けられているので、前進駆動によって本体部が後傾したときにも稲株認識用のセンサを水面に対して一定の高さ位置に維持することが可能となる。
【0019】
以下、本発明に係る水田除草ロボットの実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る水田除草ロボットの斜視図である。
【
図5】
図1の水田除草ロボットが水田内に静置されている状態を示す図である。
【
図6】
図1の水田除草ロボットが水田内で前進駆動している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1乃至
図4に示すように、本発明の一実施形態に係る水田除草ロボット10は、本体部12と、本体部12の側方に設けられた一対の対向する駆動車輪14と、本体部12の後方位置に設けられた除草車輪16と、本体部12の前方位置に設けられた稲株認識用のセンサ18とを備える。
【0022】
図3からわかるように、本体部12は、右側部12−1、左側部12−2、及びこれら右側部12−1と左側部12−2とを連結する上部12−3とからなり、右側部12−1と左側部12−2との間に稲株が通過可能な中央空間20を有している。また、右側部12−1及び左側部12−2のそれぞれの下面には本体部12に浮力を生じさせるためのフロート22が取り付けられ、上部12−3には当該水田除草ロボット10を制御する制御装置24が搭載されている。
【0023】
一対の対向する駆動車輪14は、本体部12の右側部12−1と左側部12−2とに、それぞれ平行リンク機構26を介して駆動部28と共に上下動自在に取り付けられている。駆動部28は、駆動車輪14を回転駆動させるためのモータや減速機構、駆動回路等を内蔵しており、制御装置24からの信号を受けて駆動車輪14を任意の回転方向及び回転速度で駆動する。各駆動車輪14は、円板状部材14−1と、この円板状部材14−1に径方向に延在するように取り付けられた6つの短いフィン14−2及び径方向からややずれた方向に延在するように取り付けられた6つの長いフィン14−3と、を有している。
【0024】
除草車輪16は、駆動車輪14の後方位置において本体部12の右側部12−1と左側部12−2とにそれぞれ回転自在に支持されている。各除草車輪16は、2つの円板状部材16−1と、これら円板状部材16−1のそれぞれから径方向外側に突出するように取り付けられた複数のフィン16−2とを備えている。除草車輪16は駆動車輪14と比べて小径とされており、本体部12が水平になっている状態において、その最下点が駆動車輪14の最下点よりも高い位置となるようになっている。また、除草車輪16の間の間隔が駆動車輪14の間の間隔よりも狭くなるように配置されており、駆動車輪14と除草車輪16とが、当該水田除草ロボット10の前後方向で見て互いに重ならないようになっている。
【0025】
稲株認識用のセンサ18は、本体部12の右側部12−1と左側部12−2の前方に平行リンク機構30を介して上下動自在に取り付けられている。また、センサ18の下面にはセンサ用フロート32が取り付けられている。これらセンサ18は静電容量式であり、稲株が接触した際の静電容量の変化を測定して稲株の接触を検知するようにしたものである。
【0026】
当該水田除草ロボット10は、
図5に示すように、水田内に静置された状態においては、本体部12がフロート22によってほぼ水平な状態で水面上に浮かび、本体部12に対して上下動自在に取り付けられた駆動車輪14が土壌に接地した状態となる。また、本体部12がフロート22によって水平な状態とされることにより、に最下点が駆動車輪14よりも高い位置ある除草車輪16は土壌に接地せずに浮いた状態となる。稲株認識用のセンサ18は、センサ用フロート32によって水面に浮かび、水面に対して常に一定の高さに維持されるようになっている。また、駆動車輪14が本体部12に対して上下動自在に取り付けられているので、水田の水面高さがある程度の範囲内で変化しても、本体部12は水面に対して一定の高さ位置に維持される。
【0027】
図5の静置状態から、当該水田除草ロボット10を前進させるように各駆動車輪14を駆動部28によって(図で見て反時計回りに)回転駆動させると、
図6に示すように、本体部12は駆動車輪14から受ける反力によって(図で見て時計回りに)後傾する。これにより、除草車輪16は土壌に接地した状態となる。このとき、本体部12に対して上下動自在に取り付けられている稲株認識用のセンサ18は、本体部12と同様に後傾はするが、水面からの高さは静置された状態(
図5)とほぼ同じに維持される。当該水田除草ロボット10はこの後傾して除草車輪16が土壌に接地した姿勢を維持しながら前進していく。このとき、駆動車輪14のフィン14−2、14−3と除草車輪16のフィン16−2とによって土壌が攪拌され、これによって雑草を土壌から剥離して枯死させるとともに、水を濁らせて雑草の光合成を阻害してその成長を抑止させる。また、除草車輪16のフィン16−2は、上述のように円板状部材16−1から径方向外側に突出するように取り付けられているため、フィン16−2が土壌内に挿入される際に円板状部材16−1が抵抗とならず、従って、土壌のより深い位置にまで挿入され易くなる。これにより、効率的に土壌を攪拌させることができるようになっている。
【0028】
当該水田除草ロボット10を動作させる際には、水田除草ロボット10を稲株の列が本体部12の中央空間20を通るように水田内に配置して電源をONにする。そうすると、制御装置24は、駆動車輪14を駆動部28によって同速度で回転駆動させて当該水田除草ロボット10を前進させるようにする。前進中にセンサ18が稲株と接触したことを検知すると、制御装置24は各駆動車輪14の回転速度を適宜制御して、稲株との接触を検知したセンサ18の側に水田除草ロボット10の向きを変えるように制御する。これにより、当該水田除草ロボット10は、稲株を中央空間20に通過させながら、その稲株の列に沿って自律的に前進していく。そして、その稲株の列に沿った除草作業が終わると、一旦静止して除草車輪16が土壌から浮いた状態とし、それから転回して隣の稲株の列に移り、その列に沿って前進しながら除草作業をさらに進めていく。
【0029】
当該水田除草ロボット10は、上述のように、静置状態(
図5)においては、一対の対向する駆動車輪14のみが土壌に接地していて除草車輪16は接地していないため、例えば駆動車輪14を互いに逆方向に回転駆動させることにより、除草車輪16が土壌からの抵抗を受けない状態で円滑に転回を行うことが可能となる。また、前進駆動状態(
図6)においては、除草車輪16も土壌に接地するため、土壌の攪拌が駆動車輪14に加えて除草車輪16によっても行われるため、駆動車輪14だけで除草作業をする場合に比べてより広い面積をより効率よく除草することが可能となる。このように当該水田除草ロボット10においては、従来の四輪駆動型のものに対して、土壌の攪拌能力は同等としつつ、その小回り性は向上させることが可能となる。特に当該水田除草ロボット10はその場での転回が可能であるので、旋回させる場所が非常に狭い場合でも、稲を倒すことなく水田内を旋回させることを容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0030】
水田除草ロボット10;本体部12;右側部12−1;左側部12−2;上部12−3;駆動車輪14;円板状部材14−1;短いフィン14−2;長いフィン14−3;除草車輪16;円板状部材16−1;フィン16−2;センサ18;中央空間20;フロート22;制御装置24;平行リンク機構26;駆動部28;平行リンク機構30;センサ用フロート32