(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケーシング内に形成したシリンダと,前記シリンダ内で相互に噛み合い回転するオス・メス一対のスクリュロータを設け,前記シリンダの内壁面と前記スクリュロータの歯間によって圧縮作用空間を形成すると共に,前記スクリュロータの回転により,吸入通路を介して前記スクリュロータの一端側より前記圧縮作用空間内に導入した被圧縮気体を冷却油と共に圧縮して,前記スクリュロータの他端側と連通する吐出通路を介して吐出する油冷式スクリュ圧縮機において,
前記ケーシングに,
吸入閉じ込み位置に対し前記吐出通路寄りで,且つ,前記吐出通路と連通する前の前記圧縮作用空間と連通する逃がし穴を形成すると共に,
前記逃がし穴と前記吸入通路とを連通させる逃がし通路と,
前記逃がし穴を開閉して,前記逃がし穴の開放時,前記圧縮作用空間と前記逃がし通路とを連通させると共に,前記逃がし穴の閉塞時,前記圧縮作用空間と前記逃がし通路間の連通を遮断する逃がし弁とを設け,
前記逃がし弁に,
オス又はメスいずれかのスクリュロータの軸心に対し直交し,且つ,前記シリンダ内壁面の円弧に対する接線に対し,前記円弧と前記接線の接点において直交する軸心を有するピストン室と,
該ピストン室内を,前記逃がし穴を閉じる前進位置と,前記逃がし穴を開放する後退位置間で進退移動すると共に,前記後退位置に向けて付勢されたピストンと,
前記冷却油を前記ピストンを作動する作動油として導入することによって前記後退位置にある前記ピストンを,前記前進位置に移動させる閉弁受圧室を設け,
前記ピストンに,
該ピストンの進退移動方向に対して直交方向を成す平坦な先端面と,
一端を前記先端面で開口すると共に,他端を前記閉弁受圧室で開口した給油流路を設け,
前記前進位置において,前記逃がし弁の前記ピストンの先端面が,前記スクリュロータの歯先の回転軌跡に対し所定の回転許容間隔を隔てた位置よりも前記シリンダの外周側に配置されると共に,前記ピストンの先端面の外周縁と前記逃がし穴の開孔縁との間に段差を形成したことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。
前記ピストンが前記前進位置にあるとき,前記ピストンの先端面が前記接線と略同一の位置に配置されるよう前記逃がし弁を形成したことを特徴とする請求項1記載の油冷式スクリュ圧縮機。
前記ピストンが前記前進位置にあるとき,前記ピストンの先端面が,前記逃がし穴の開口縁のうち前記接線に対する最遠点の位置と,前記接線間に配置されるよう前記逃がし弁を形成したことを特徴とする請求項1記載の油冷式スクリュ圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように構成された特許文献1に記載の油冷式スクリュ圧縮機900において,前述のアンロード弁923の先端面923aは,前述したようにアンロード弁923を前進位置に移動させた際,ロータ室913の内壁面の一部を成す形状に形成されている。
【0008】
そして,特許文献1では,アンロード弁923の先端面923aの形状を,ロータ室913の内壁面の一部をなす形状に加工するために,ロータ室913の内表面の加工時に「共加工」する構成を採用すると共に,アンロード弁923の先端面923aをロータ室913の内壁面と共加工するために,アンロード穴921に,前述した前進位置となるようにアンロード弁923を挿入し,ケーシング912に設けたピン930によってアンロード弁923を回転しないように固定している(特許文献1第3頁右下欄第11〜16行)。
【0009】
ここで,共加工を行った後にアンロード弁923やアンロード穴921に対して更なる加工を行って,アンロード弁923やアンロード穴921の形状が僅かでも変化してしまうと,共加工によってアンロード弁923の先端面923aをせっかくロータ室913の内壁面形状と正確に一致させたとしても,最終的な組み付けを行った際の両者の形状にはズレが生じてしまう。
【0010】
そのため,アンロード弁923の先端面923aをロータ室913の内壁面と共加工する際には,その前段階においてアンロード弁923の先端面923a以外の各部(アンロード弁923のフランジ,外周,回転止めのピンを挿入するための孔や溝や,アンロード穴921の各部)を,その後の調整を必要としない最終仕上げ状態となる迄正確に仕上げておくことが必要であると共に,アンロード弁923を,前進位置となるようにアンロード穴921内に動かないように固定することが必要であり,加工前の段取り作業が繁雑である。
【0011】
しかも,このようにして共加工を行った後,油冷式スクリュ圧縮機900の本組みを行う際には,アンロード穴921に固定していたアンロード弁923を取り外し,スプリングやOリング等の必要な部品を取り付けた後,再度,正しい向き及び姿勢で組み付ける作業が必要で,作業が二度手間となる。
【0012】
しかも,このような共加工によって製造されたアンロード弁923は,一品製作されたものとなるため,共加工されたケーシング912のロータ室913の内壁面形状とは正確に一致するものの,その他のケーシング912のロータ室913の内壁面形状とは正確には一致せず,交換用のアンロード弁923の入手が困難となる。
【0013】
そのため,メンテナンス等に際しアンロード弁923の交換が必要となった場合,アンロード弁923だけでなくケーシング912についても同時に交換することが必要となる等,交換部品代が高額となる。
【0014】
以上の点から,アンロード弁923をロータ室913の内壁面と共加工することなく,単独で加工することも考えられる。
【0015】
しかし,アンロード弁923を単独で加工した場合,アンロード弁923の先端面923aの形状をロータ室913の内壁面の湾曲形状と正確に一致するように加工することは極めて困難である。
【0016】
その結果,アンロード弁923の先端面923aの形状とロータ室913の内壁面の形状が一致せずに,アンロード弁923の前進位置においてアンロード弁923の先端がアンロード穴921よりロータ室913の内側に突出する場合,回転するスクリュロータ911の歯先がアンロード弁923の先端に衝突して破損するおそれがある。
【0017】
一方,スクリュロータ911の歯先との接触を避けるために,アンロード弁923を短く形成し,前進位置に配置した状態においても,アンロード弁923の先端がロータ室913の内壁面よりも外周側に位置するように加工した場合,スクリュロータ911の歯先との接触は回避できるものの,ロータ室913の内壁面には,アンロード穴921内に,アンロード弁923の先端面923aを底面とした窪みが形成されることとなるために,他の部分に比較して,この窪みの部分では,ロータ室913の内壁面とスクリュロータ911の歯先間の間隔が増大する。
【0018】
そのため,この窪みの部分をスクリュロータの歯先が通過する際に,高圧側の圧縮作用空間と,これに隣接する低圧側の圧縮作用空間が連通し,高圧側の圧縮作用空間から低圧側の圧縮作用空間に向かって圧縮流体が漏出してしまうことで,圧縮機の比動力(吸気量あたりの消費動力)が増加する。
【0019】
特に,特許文献1に記載されているように,オスのスクリュロータのロータ室の内壁面と,メスのスクリュロータのロータ室の内壁面が重なってできた凸条934の先端部分に向かってアンロード穴921を設けると共に,この凸条934の先端形状に対応した先端形状を有するアンロード弁923を設けた構成では,この凸条934の頂の部分においてオス・メスのスクリュロータが噛み合いを開始するため,この部分に窪みが生じて圧縮気体の漏出が起こると,油冷式スクリュ圧縮機900の比動力の増加は更に大きなものとなる。
【0020】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたもので,前掲の特許文献1として紹介した油冷式スクリュ圧縮機同様,圧縮作用空間のうち,被圧縮気体の圧縮に使用する部分の長さ(実効長)を可変とした可変容量型の油冷式スクリュ圧縮機において,前述した共加工等を行うことなく,比較的簡単に製造することができるものでありながら,隣接する圧縮作用空間に対する圧縮気体の漏出を防止して比動力が増加することを防止できるようにした油冷式スクリュ圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0022】
上記目的を達成するために,本発明の油冷式スクリュ圧縮機10は,
ケーシング12内に形成したシリンダ13と,前記シリンダ13内で相互に噛み合い回転するオス・メス一対のスクリュロータ11(11a,11b)を設け,前記シリンダ13の内壁面と前記スクリュロータ11(11a,11b)の歯間によって圧縮作用空間を形成すると共に,前記スクリュロータ11(11a,11b)の回転により,吸入通路16を介して前記スクリュロータ11(11a,11b)の一端側より前記圧縮作用空間内に導入した被圧縮気体を冷却油と共に圧縮して,前記スクリュロータ11(11a,11b)の他端側と連通する吐出通路18を介して吐出する油冷式スクリュ圧縮機10において,
前記ケーシング12に,
吸入閉じ込み位置に対し前記吐出通路18寄りで,且つ,前記吐出通路18と連通する前の前記圧縮作用空間と連通する逃がし穴21を形成すると共に,
前記逃がし穴21と前記吸入通路16とを連通させる逃がし通路22と,
前記逃がし穴21を開閉して,前記逃がし穴21の開放時,前記圧縮作用空間と前記逃がし通路22とを連通させると共に,前記逃がし穴21の閉塞時,前記圧縮作用空間と前記逃がし通路22間の連通を遮断する逃がし弁23とを設け,
前記逃がし弁23に,
オス又はメスいずれかのスクリュロータ(11a又は11b)の軸心aに対し直交し,且つ,前記シリンダ13内壁面の円弧に対する接線tに対し,前記円弧と前記接線tの接点pにおいて直交する軸心cを有するピストン室231と,
該ピストン室231内を,前記逃がし穴21を閉じる前進位置と,前記逃がし穴21を開放する後退位置間で進退移動すると共に,前記後退位置に向けて付勢されたピストン232と,
前記冷却油を前記ピストンを作動する作動油
(本明細書においてピストン232を作動させる冷却油を作動油ともいう)として導入
することによって前記後退位置にある前記ピストン232を,前記前進位置に移動させる閉弁受圧室233を設け,
前記ピストン232に,
該ピストン232の進退移動方向に対して直交方向を成す平坦な先端面232aと,
一端を前記先端面232aで開口すると共に,他端を前記閉弁受圧室233で開口した給油流路237を設け,
前記前進位置において
,前記逃がし弁23の前記ピストン232の先端面232aが,前記スクリュロータ11(11a,11b)の歯先の回転軌跡に対し所定の回転許容間隔δを隔てた位置(α1)よりも前記シリンダ13の外周側〔
図6(A)中,紙面下側〕に配置され
ると共に,前記ピストン232の先端面232aの外周縁と前記逃がし穴21の開孔縁との間に段差を形成したことを特徴とする(請求項1)。
【0023】
上記構成の油冷式スクリュ圧縮機10において,前記ピストン232が前記前進位置にあるとき,前記ピストン232の先端面232aが前記接線tと略同一の位置,例えば
図6(B)中,β1及びβ1に対する製造等における許容誤差±Δの範囲に配置されるよう前記逃がし弁23を形成するものとしても良い(請求項2)。
【0024】
更に本発明の油冷式スクリュ圧縮機10において,前記ピストン232が前記前進位置にあるとき,前記ピストン232の先端面232aが,前記逃がし穴21の開口縁のうち前記接線tからの最遠点fの位置と,前記接線t間〔
図6(C)におけるγ1−γ2間〕に配置されるよう前記逃がし弁23を形成することもできる(請求項3)。
【発明の効果】
【0025】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の油冷式スクリュ圧縮機10では,逃がし弁23によって逃がし穴21を開閉することによって圧縮作用空間の有効長を可変とすることで被圧縮気体の吸気量や圧縮比を変更することができるだけでなく,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0026】
逃がし弁23のピストン232を,平坦な先端面232aを有する単純な形状としたことで,ピストン232は,ケーシング12のシリンダ13内壁面と共加工をする等の煩雑な作業を行うことなく,比較的簡単に製造することができると共に,互換性があり,従って,ピストン232のみを交換部品等として製造することも容易となった。
【0027】
また,ピストン232の先端面232aを平坦面としたことで,ピストン232を回転体形状に形成することができ,これによりピストン232がピストン室231内で回転することを防止する必要がなく,回転止めのためのピンやピン孔,ピン溝等を設ける必要がなくなり,逃がし弁23の製造及び組み立て作業を簡略化することができた。
【0028】
その一方で,前述したように先端面232aを平坦としたピストン232の先端部によって湾曲面に形成した逃がし穴21を塞ぐ構成では,ピストン232によって逃がし穴21を塞いだときにピストン232の先端面232aと逃がし穴21の開孔縁との間に段差が生じ,この段差によってシリンダ13の内壁面には微小な窪みD(
図4参照)が形成される。
【0029】
しかし,ピストン232に閉弁受圧室233と連通すると共に先端面232aで開口する給油流路237を設けたことで,逃がし弁23の閉弁受圧室233に導入された作動油は,この給油流路237を通って先端面232aから圧縮作用空間内に導入され,これにより逃がし穴21の形成部分には,前述した窪みDを充填するに十分な作動油が供給される。
【0030】
その結果,このような給油流路237を設けることで,前述した窪みDの発生によっても,高圧側の圧縮作用空間から隣接する低圧側の圧縮作用空間に圧縮気体が漏出することを防止でき,油冷式スクリュ圧縮機10の比動力が増加することを防止することができた。
【0031】
前記ピストン232が前記前進位置にあるとき,前記ピストン232の先端面232aが前記接線tと略同一の位置に配置されるよう前記逃がし弁23を形成した構成では,シリンダ13の内壁面よりも内側にピストン232の先端が突出せず,ピストン232の先端とスクリュロータ11(11a,11b)の歯先が接触することを確実に防止することができる一方,この範囲にピストン232の先端面232aを配置することで,シリンダ13の内壁面に形成される窪みDを,ピストン232の先端面232aをシリンダ13の内壁面より突出させない配置において最小とすることができ,比動力の増加のより一層の防止を図ることができた。
【0032】
一方,前記ピストン232が前記前進位置にあるとき,前記ピストン232の先端面232aが,前記逃がし穴21の開口縁のうち前記接線tからの最遠点fの位置と,前記接線tとの間〔
図6(C)のγ1−γ2間〕に配置されるよう前記逃がし弁23を形成した場合には,シリンダ13の内壁面に生じる窪みDは更に小さなものとなり,比動力の増加の防止をより一層向上させることができた。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に,本発明の油冷式スクリュ圧縮機10について,添付図面を参照しながら説明する。
【0035】
〔油冷式スクリュ圧縮機の全体構造〕
図1中の符号10は,本発明の油冷式スクリュ圧縮機であり,この油冷式スクリュ圧縮機10は,オスのスクリュロータ11a及びメスのスクリュロータ11bから成る一対のスクリュロータ11と,前記スクリュロータ11を収容するシリンダ13が内部に形成されたケーシング12を備えている。
【0036】
このケーシング12内に形成されるシリンダ13は,
図2に示すように,オスのスクリュロータ11aの収容部となる円筒部と,メスのスクリュロータ11bの収容部となる円筒部を周方向の一部分が重なり合うように平行に配置,組み合わせた,スクリュロータ11の軸直交方向の断面において略横向きの8の字状に形状されており,前述のオスのスクリュロータ11aとメスのスクリュロータ11bとを噛み合わせた状態で共にシリンダ13内に収容することができるようになっている。
【0037】
図示の例では,メスのスクリュロータ11bに対し大径に形成されたオスのスクリュロータ11aを収容することができるよう,メスのスクリュロータ11bの収容部に対し,オスのスクリュロータ11aの収容部の径を大きく形成しているが,
図11を参照して説明した従来の油冷式スクリュ圧縮機のように,メスのスクリュロータ11bとオスのスクリュロータ11aを同径に形成し,従って,オスのスクリュロータ11aの収容部とメスのスクリュロータ11bの収容部についても同径に形成した油冷式スクリュ圧縮機10に対し本発明の構成を適用するものとしても良い。
【0038】
シリンダ13内に収容されたオスのスクリュロータ11aとメスのスクリュロータ11bは,相互に噛み合った状態で逆向きに回転することができるよう,
図1に示すように各ロータ11(11a,11b)の両端に設けられたロータ軸のそれぞれをケーシング12内に設けた軸受14,15によって回転可能に軸支すると共に,オスのスクリュロータ11a又はメスのスクリュロータ11bの一方のロータ軸,図示の例ではオスのスクリュロータ11aの吸入側のロータ軸に対し,エンジンやモータ等の駆動源40の出力軸を連結して回転駆動力を入力することができるように構成されている。
【0039】
このように,オスのスクリュロータ11a及びメスのスクリュロータ11bを噛み合い回転可能に収容したシリンダ13の吸入側端部は吸入通路16と連通しており,この吸入通路16を介して導入された被圧縮気体を,冷却油の噴射孔17を介して噴射された冷却油と共にスクリュロータ11の噛み合い回転によって圧縮することができるようになっていると共に,シリンダ13の吐出側端部に設けた吐出通路18を介して,冷却油と共に圧縮された気液混合流体である圧縮気体を吐出することができるように構成されている。
【0040】
〔可変容量機構〕
可変容量型の油冷式スクリュ圧縮機である本発明の油冷式スクリュ圧縮機10にあっては,スクリュロータ11(11a,11b)の歯間とシリンダ13の内壁面とによって形成された圧縮作用空間の実効長を可変として,油冷式スクリュ圧縮機10の吸気量や,吸入した被圧縮気体に対する圧縮比を可変とする可変容量機構を備えている。
【0041】
このような可変容量機構として,図示の油冷式スクリュ圧縮機10では,前述のケーシング12に,吸入閉じ込み位置に対し吐出通路18寄りで,且つ,吐出通路18と連通する前の圧縮作用空間と連通する逃がし穴21を設け,この逃がし穴21と前記吸入通路16を連通する逃がし通路22を設けると共に,前述の逃がし穴21を開閉して,前記逃がし穴21の開放時,逃がし穴21を介して圧縮作用空間と逃がし通路22を連通させると共に,前記逃がし穴21の閉塞時,圧縮作用空間と逃がし通路22間の連通を遮断する,逃がし弁23を設けている。
【0042】
この逃がし弁23は,
図4に示すように,ケーシング12に設けたピストン室231と,このピストン室231内を進退移動して,前記逃がし穴21を開閉するピストン232と,前記ピストン232を,前記逃がし穴21を閉塞する前進位置に移動させる作動油が導入される閉弁受圧室233を備えている。
【0043】
図示の実施形態にあっては,前述した逃がし穴21をオスのスクリュロータ11aを収容するロータ室側に設けると共に,この逃がし穴21と連通する逃がし通路22を形成し,この逃がし通路22の外周側に,前述の逃がし穴21と同一の軸心cを有するピストン室231を形成し,このピストン室231内に収容したピストン232を進退移動させることにより,前記ピストン232の先端部で逃がし穴21を開閉することができるように構成している。
【0044】
この逃がし穴21とピストン室231の軸線Cは,
図4に示すように,シリンダ13内壁が描く円弧とその接線tとの接点pにおいて,前記接線tと直交する方向に設けられていると共に,
図1に示すように,スクリュロータ11のロータ軸の軸心a(図示の例ではオスのスクリュロータ11aの軸心)に対し,直交する方向に設けられている。
【0045】
このピストン室231は,
図4に示す実施形態にあっては,逃がし穴21側に,該逃がし穴21と同径に形成された細径部231aを備えると共に,前記逃がし穴21側とは反対側に,前記細径部231aに対し後述するコイルスプリング234を収容可能な間隔分,大径に形成されたスプリング収容部231b,及び前記スプリング収容部231bに対し更に大径に形成されると共に,ケーシング12の外方に向かって開口する大径部231cを備えており,このピストン室231内にピストン232が進退移動可能に収容される。
【0046】
前述したピストン室231内に収容されるピストン232は,該ピストン232の進退移動方向に対し直交方向に形成された平坦な先端面232aを有すると共に,前記逃がし穴21及びピストン室231の細径部231aに対応する径に形成された円筒部232bと,前記円筒部232bの後端に,前記ピストン室231の大径部231cに対応する径に形成されたフランジ部232cを備えており,円筒部232bにコイルスプリング234を外嵌した状態で,ピストン室231内に先端面232aを逃がし穴21に向けて挿入すると共に,前記ピストン232の挿入後,ピストン室231の開口端を端板235で塞ぐことで,ケーシング12に前述した逃がし弁23が形成されている。
【0047】
前述のピストン232の円筒部232bは,ピストン室231のスプリング収容部231bと大径部231cとの境界部分に設けられた段部231dにピストン232のフランジ部232cが突合する前進位置迄ピストン232を前進させた際に,ピストン232の円筒部232bの先端が逃がし穴21内に挿入されて逃がし穴21を塞ぐことができる長さに形成されていると共に,ピストン232の後退時,前記逃がし穴21内よりピストン232の円筒部232b先端が抜き取られて逃がし穴21を開放すると共に逃がし通路22と連通させることができるように構成されている。
【0048】
このピストン232の円筒部232bに外嵌した前述のコイルスプリング234は圧縮バネであり,ピストン232は,逃がし穴21を開放する後退位置に向けて常時付勢されていると共に,大径部231cのうち,端板235とピストン232のフランジ部232c間の部分には閉弁受圧室内233が形成されており,この閉弁受圧室233内に端板235に設けた注油口236を介して作動油を注入することにより,注入した作動油の圧力によってコイルスプリング234の付勢力に抗してピストン232を前進位置迄前進させることができるように構成されている。
【0049】
このピストン232の先端面232aは,前述したようにピストン232の進退移動方向に対して直交する平坦面という単純な形状に形成したことから,従来技術として説明した油冷式スクリュ圧縮機のようにピストンの先端をシリンダ13の内壁面に対応した形状になるようシリンダの内壁面と共加工するといった煩雑な作業を行うことなく,ピストン232を単独で簡単に加工することができる。
【0050】
また,従来技術として説明したように,ピストンの先端をシリンダ内壁と共加工した構成では,ピストンが回転した場合にピストン先端がシリンダの内壁面より内周方向に突出してスクリュロータの歯先と接触するおそれがあることから,ピストンの回転を防止するためにピン留め等の構成を採用することが必要となっていたが,前述したようにピストン232の先端面232aを平坦面とした本発明の構成では,ピストン232を回転体形状として形成することもでき,このような回転体形状として形成した場合,ピストン232がピストン室231内で回転したとしても,ピストン232の先端面232aの位置は変動せず,ピストン232がスクリュロータ11の歯先と接触することもないため,このような接触を防止するためにピストン232の回転を防止するためのピン留めの構成を設ける必要がなく,装置構成の簡略化が可能となっている。
【0051】
このように,ピストン232の先端面232aは前述した平面として形成されていることから,円弧状のシリンダ13の内壁面に形成された逃がし穴21をこのピストン232の先端部で塞ぐ場合,シリンダ13の内壁面における逃がし穴の開口縁と,ピストン232の先端面232aの外周縁との間には段差が生じ,この段差の角部に,窪みDができる。
【0052】
このように,シリンダ13の内壁面に窪みDが形成されると,この窪みDの部分においてスクリュロータ11の歯先とシリンダ13内壁間の間隔は,他の部分に比較して大きくなることから,この窪みDの発生部分をスクリュロータ11の歯先が通過する際,高圧側の圧縮作用空間内の圧縮気体が,隣接する低圧側の圧縮作用空間に漏出し易くなり,このような圧縮気体の漏出に伴う圧力損失によって,比動力の増加が生じ得る。
【0053】
そこで,本発明の油冷式スクリュ圧縮機では,このような窪みDの発生によっても比動力の増加が起こらないようにするために,逃がし穴21の形成位置において圧縮作用空間内に給油を行うことで,スクリュロータの歯先が前述した窪みD上を通過するとき,スクリュロータの歯先と窪みDとの間を密封する冷却油の量を増やし,また、高圧の給油でスクリュロータの歯先と窪みDとの間をシールドし,窪みDの存在によっても高圧側の圧縮作用空間内の圧縮気体が,低圧側の圧縮作用空間内に漏出することを防止している。
【0054】
圧縮作用空間内に対するこのような給油を可能とするために,本発明の油冷式スクリュ圧縮機10にあっては,前述のピストン232に,一端が前記先端面232aにおいて開口し,他端が閉弁受圧室233で開口する給油流路237を設け,閉弁受圧室233内に作動油を導入すると,この作動油が,この給油流路237を介してピストン232の先端面232aに設けた開口を介して圧縮作用空間内に導入されるように構成している。
【0055】
図示の実施形態にあっては,このピストン232を,先端部分を除き中空に形成し,この中空部分から前述の端板235に至る部分までを前述の閉弁受圧室233と成すと共に,ピストン232の先端面232aを貫通してピストン232の内部に形成された閉弁受圧室233と連通する給油流路(給油孔)237を設けている。
【0056】
図1〜
図4に示す実施形態にあっては,この給油流路237を,ピストン232の先端面232aの中心に1つだけ設けた構成としているが,この給油流路は,
図5に示すようにピストン232の先端面232aに複数設けるものとしても良く,この場合,
図5に示すように,スクリュロータ11の軸線方向に対する直交方向の断面において,ピストン232の軸心に対し左右対称の位置にそれぞれ給油流路237を設けるものとしても良い。
【0057】
このように,2つの給油流路237を設けた構成では,前述した窪みDに対する作動油の充填をより効率的に行うことができる。
【0058】
すなわち,ピストン232の先端面232aを平坦とした本発明の油冷式スクリュ圧縮機10の構成では,ピストン232が前進位置にあるときにシリンダ13の内壁面に生じる窪みDは,スクリュロータ11の軸線方向に対する直交方向の断面におけるピストン232の先端面232aの幅方向の両端部分に生じ,又は,この部分において最も深くなる。
【0059】
そのため,
図5に示したように,給油流路237をピストン232の先端面232aの幅方向における両端部にそれぞれ設けた構成では,窪みDの形成部分,あるいは窪みDの最深部分に対し,効率的に注油を行うことができ,その結果,圧縮気体の漏出をより効果的に防止することができるものとなっている。
【0060】
なお,本発明の油冷式スクリュ圧縮機10では,前述したようにピストン232に給油流路237を設けることで,窪みDの形成によっても圧縮気体の漏出が生じることを防止しているが,窪みDの発生による圧縮気体の漏出をより効果的に防止するためには,この構成に加え,更に,シリンダ13の内壁面に形成される前述の窪みDを可及的に小さなものとすることが好ましく,このような構成として,前記ピストン232が前記前進位置にあるとき,前記ピストン232の先端面232aが前記接線tと略同一位置〔例えば
図6(B)のβ1とその上下に存在する許容誤差±Δの範囲〕に配置されるよう,前記逃がし弁23を形成することが好ましい。
【0061】
この構成では,シリンダ13の内壁面に対し,ピストン232の先端面232aを突出させない範囲で,発生する窪みDを最小とすることができる。
【0062】
更に,前記ピストン232が前記前進位置にあるとき,前記ピストン232の先端面232aが,前記逃がし穴21の開口縁のうち前記接線tからの最遠点fの位置と,前記接線t間〔
図6(C)のγ1−γ2間〕に配置されるよう前記逃がし弁23を形成するものとしても良く,この構成では,シリンダ13の内壁面に生じる前述の窪みDをより一層小さなものとすることができ,前述した比動力の増加がより効果的に防止される。
【0063】
もっとも,上記範囲〔
図6(C)のγ1−γ2間の範囲〕に先端面232aを配置する場合であっても,ピストン232の先端面232aが,スクリュロータ11(11a,11b)の歯先の回転軌跡に対し所定の回転許容間隔δを隔てた位置(α1)よりも外周側〔
図6(A)中,紙面下側〕となるよう構成することが必要である。
【0064】
〔油冷式スクリュ圧縮機の動作等〕
以上で説明した本発明の油冷式スクリュ圧縮機10では,逃がし弁23に設けた閉弁受圧室233に対し作動油の導入がされていないとき,逃がし弁23のピストン232は,コイルスプリング234の付勢力によって後退位置に後退しており,これにより逃がし穴21が開くことで,圧縮作用空間は,逃がし穴21及び逃がし通路22を介して吸入通路16に連通する。
【0065】
その結果,スクリュロータ11の歯間とシリンダ13の内壁面によって画成される圧縮作用空間中,吸入側から逃がし穴21の連通部分に至る部分は圧縮に使用されず,被圧縮気体の圧縮は,逃がし穴21よりも吐出側の部分においてのみ行われることとなり,圧縮作用空間中,実際に圧縮に使用される長さ(実効長)が短くなることで,油冷式スクリュ圧縮機10に対する被圧縮気体の吸気量が減少すると共に,吸入した被圧縮気体に対する圧縮比が低下し,その分,油冷式スクリュ圧縮機10の駆動に必要な動力についても減少させることができる。
【0066】
この点につき本発明の油冷式スクリュ圧縮機10のシリンダの展開図である
図3を参照して説明すると,
図3に記載の構成例では,前述の逃がし穴21を吸入閉じ込み位置から略1ピッチ,吐出側に後退させた位置に設けており,この例では,逃がし弁23によって逃がし穴21が開放されている時には,吸入閉じ込み後,約1ピッチ分の圧縮作用空間で圧縮された圧縮空気は逃がし穴21を介して吸入通路16側に排出されてしまうために,圧縮されない。
【0067】
そのため,逃がし穴21を閉じている場合に比較して,スクリュロータ11の1周期あたりの吸気量や圧縮比は,1ピッチ分減少し,その分,油冷式スクリュ圧縮機10のスクリュロータ11を回転させるために必要な動力は減少してより小さな力で回転させることができるようになる。
【0068】
一方,逃がし弁23の閉弁受圧室233に対し作動油を導入した状態では,この作動油の導入によってピストン232が逃がし穴21に向かってスクリュロータ11のロータ軸の軸心aに向かって前進し,前進位置に移動するとピストン232の先端部が逃がし穴21を塞ぎ,逃がし通路22を介した逃がし穴21と吸入通路16間の連通が解除される。
【0069】
その結果,逃がし弁23のピストン232が前進位置にある状態では,吸入側から吐出側に至る圧縮作用空間の全長が圧縮に使用されることとなり,逃がし穴21を開いた状態で運転する場合に比較し,油冷式スクリュ圧縮機10に対する被圧縮気体の吸気量や,吸入した被圧縮気体に対する圧縮比を増大させることができる。
【0070】
このとき,閉弁受圧室233内に導入された作動油は,ピストン232に設けた給油流路237を介してピストン232の先端面232aから圧縮作用空間内に導入されることから,前述したように先端面232aを平坦に形成したピストン232を採用したことで,逃がし穴21の開口縁と,ピストン232の先端面232aの周縁間に生じた段差によってシリンダ13の内壁面に窪みDが生じるものの,この窪みDには確実に作動油が注油される。
【0071】
これにより,スクリュロータの歯先が前述した窪みD上を通過するとき,スクリュロータの歯先と窪みDとの間を密封する冷却油の量が増え,また、高圧の給油でスクリュロータの歯先と窪みDとの間がシールドされて,窪みDの存在によっても高圧側の圧縮作用空間から,隣接する低圧側の圧縮作用空間に対する圧縮気体の漏出を抑制することができ,油冷式スクリュ圧縮機10の比動力が増加することを防止することができる。
【0072】
なお,逃がし弁23の閉弁受圧室233に導入する作動油として,油冷式スクリュ圧縮機10の圧縮作用空間内に潤滑,冷却及び密封するために導入されて循環使用される冷却油を使用する場合,このような冷却油の導入を,吸入通路16を介して行うと,吸入通路16内の被圧縮気体が冷却油の温度によって温められて膨張すると共に,冷却油の吸入分,圧縮作用空間内に導入される吸気量が減少する。
【0073】
しかし,前述した逃がし弁23の閉弁受圧室233に導入する作動油として,この冷却油を使用し,逃がし穴21の閉塞時,逃がし弁23のピストン232に設けた給油流路237を介して圧縮作用空間内に冷却油を供給する構成とすることで,吸入閉じ込みが行われた後の,吸入通路と連通していない作用空間に対し冷却油を給油することが可能であり,その結果,冷却油を給油することに伴って吸気量を減少させることもなく,逃がし弁23のピストン232に設けた給油流路237を介して圧縮作用空間に対し冷却油の給油を行う構成とすることで,圧縮機本体の比動力を更に改善することができる。
【0074】
〔本発明の油冷式スクリュ圧縮機の使用例〕
以上のように構成された本発明の油冷式スクリュ圧縮機10の使用例を,
図1を参照して説明する。
【0075】
(1)始動負荷軽減型の装置構成例
図1は,本発明の油冷式スクリュ圧縮機10を使用した圧縮空気供給装置1の構成例を示したもので,図示の実施形態にあっては,本発明の油冷式スクリュ圧縮機10の使用により,圧縮空気供給装置1の始動負荷を軽減できるようにしたものである。
【0076】
この圧縮空気供給装置1では,油冷式スクリュ圧縮機10のスクリュロータ11のロータ軸(図示の例では,オスのスクリュロータ11aの吸入側ロータ軸)に,スクリュロータ11を回転させるためのエンジンやモータ等からなる駆動源40の出力軸が連結されている。
【0077】
また,油冷式スクリュ圧縮機10の吸入通路16には,油冷式スクリュ圧縮機10に対する吸気を制御するための吸入弁51と,この吸入弁51に導入される空気中の異物を除去するエアフィルタ52が連通されており,前述した駆動源40によってスクリュロータ11を回転させることにより,エアフィルタ52を介して吸入弁51の開度に応じた空気を吸入することができるように構成されている。
【0078】
更に,油冷式スクリュ圧縮機10の吐出通路18には,冷却油との混合流体として吐出された圧縮空気を導入するためのレシーバタンク60と,圧縮気体中にミストの状態で含まれる冷却油を除去するためのセパレータ61が連通されており,油冷式スクリュ圧縮機10より気液混合流体として吐出された圧縮空気をレシーバタンク60内に導入することで,このレシーバタンク60内で圧縮空気と冷却油とを一次分離すると共に,一次分離後の圧縮空気をセパレータ61に導入して,圧縮空気中に未だミストの状態で混在する冷却油を除去した後,消費側に供給することができるように構成されている。
【0079】
一方,レシーバタンク60で回収された冷却油は,これを再度,油冷式スクリュ圧縮機10の圧縮作用空間内に導入して循環使用するために,レシーバタンク60には給油配管71が連通されており,レシーバタンク60で回収した冷却油を,オイルフィルタ72を通過させて不純物を除去し,オイルクーラ73で冷却した後,油冷式スクリュ圧縮機10に導入して,圧縮作用空間の冷却,密封及び潤滑,並びに軸受14,15に対する潤滑油として供給する。
【0080】
前述の吸入弁51は,図示の実施形態にあっては常時開放型に構成されており,制御配管53を介して導入されたレシーバタンク60からの圧縮空気を,この吸入弁51の閉弁受圧室(図示せず)に導入することで,吸入弁51を閉じ,または絞ることができるように構成されている。
【0081】
この制御配管53には圧力調整弁54を設けることで,消費側に供給される圧縮空気の圧力が,圧力調整弁54の設定圧力以上に上昇すると,吸入弁51に対する作動圧力の導入が開始されて吸入弁51が閉じ又は絞られることで,油冷式スクリュ圧縮機10に対する吸気制御を行い,消費側に供給する圧縮空気の圧力を圧力調整弁54の設定圧力に対応した一定範囲の圧力に維持できるように構成されている点では,一般的な油冷式スクリュ圧縮機を使用して構築した圧縮空気供給装置の構成と同様である。
【0082】
前述した容量可変型である本発明の油冷式スクリュ圧縮機10を使用した図示の圧縮空気供給装置1では,前述したレシーバタンク60に接続された給油配管71から分岐した分岐配管74を設け,この分岐配管74の一端を,逃がし弁23に設けた閉弁受圧室233に連通している。
【0083】
このように,レシーバタンク60に連通した給油配管71より分岐した分岐配管74を逃がし弁23の閉弁受圧室233に連通する構成を採用することで,
図1に示した圧縮空気供給装置1では,始動負荷の軽減を行うことができるようになっている。
【0084】
すなわち,駆動源40が停止して,油冷式スクリュ圧縮機10の運転が停止した状態では,レシーバタンク60内の圧力は大気圧まで低下していることから,逃がし弁23の閉弁受圧室233に対する作動油の導入は行われておらず,逃がし弁23のピストン232は,コイルスプリング234の付勢力によってシリンダ13の外周方向に後退しており,ピストン232の先端部が逃がし穴21から抜け出て逃がし穴21を開いた状態としている。
【0085】
従って,圧縮空気供給装置1の起動時には,逃がし穴21を介して圧縮作用空間が逃がし通路22及び吸入通路16と連通していることから,圧縮作用空間のうち,吸入側から逃がし穴21に至る部分は圧縮に使用されず,圧縮作用空間の実効長が短くなっていることで,逃がし穴21が閉じている場合に比較して油冷式スクリュ圧縮機10の吸気量が減少すると共に,圧縮比が低下する。
【0086】
これにより,油冷式スクリュ圧縮機10の駆動に要する動力も減少するため,始動直後のエンジンやモータにかかる負荷を低減することができ,ストールを生じさせることなくエンジンを起動させ,あるいは始動渋滞を生じさせることなくモータを起動させることができる等,駆動源40の始動時における負荷を自動的に軽減して,圧縮空気供給装置1を円滑に始動させることができる。
【0087】
このようにして,始動負荷を軽減した状態で起動させた駆動源40の運転を継続して駆動源40が安定した運転状態になると,油冷式スクリュ圧縮機10からの継続した圧縮空気の吐出によりレシーバタンク60内の圧力が上昇し,この圧力上昇によってレシーバタンク60内の潤滑油が給油配管71及び分岐配管74を介して逃がし弁23の閉弁受圧室233内に導入され,コイルスプリング234の付勢力に抗してピストン232をスクリュロータ11のロータ軸の軸心aに向かって前進位置迄前進させる。
【0088】
このピストン232の前進によって,ピストン232の先端が逃がし穴21内に挿入されて逃がし穴21が塞がれ,吸入側から吐出側に至る圧縮作用空間の全長が圧縮に使用されることで,効率的な圧縮空気の生成が開始されると共に,ピストン232の先端面232aで開口する給油流路237から冷却油が圧縮作用空間内に注入されることで,圧縮作用空間内の潤滑,冷却及び密封が行われると共に,逃がし穴21の形成位置で冷却油の導入を行うことで,前述したように先端面232aを平坦に形成したピストン232の採用によりシリンダ13内壁面には微細な窪みDが発生するものの,高圧側の圧縮作用空間から隣接する低圧側の圧縮作用空間に対し圧縮空気が漏出することを防止でき,比動力の増加が防止される。
【0089】
(2)供給圧力可変型の装置構成
以上,
図1を参照して説明した圧縮空気供給装置1の構成に対し,更に,消費側に供給する圧縮空気の圧力設定を可変とした圧縮空気供給装置1の構成例について
図7を参照して説明する。
【0090】
この供給圧力可変型の圧縮空気供給装置1では,
図7に示すように,
図1を参照して説明した装置構成に対し,給油配管71より分岐した分岐配管74に,この分岐配管74を開閉する電磁開閉弁75を設けている。
【0091】
また,
図1を参照して説明した装置構成に対し,制御配管53に,圧力調整弁54’をバイパスするバイパス配管55を設け,このバイパス配管55中に,低圧用圧力調整弁56と,このバイパス配管55を開閉する電磁開閉弁57を設けると共に,制御配管53に設けた圧力調整弁54’を,低圧用圧力調整弁56に対し相対的に高い作動圧力で作動する高圧用圧力調整弁54’とした点で相違する。
【0092】
そして,前述したバイパス配管55に設けた電磁開閉弁57と,分岐配管74に設けた電磁開閉弁75を開閉制御するためのスイッチ81と,このスイッチ81の切り換えに応じて前記電磁開閉弁57,75に対する制御信号を出力する制御装置82とを新たに設け,スイッチ81の切り換えによって「低圧」を選択した際,電磁開閉弁57がバイパス配管55を開くと共に,電磁開閉弁75が分岐配管74を開き,スイッチ81によって「高圧」を選択した際,電磁開閉弁57がバイパス配管55を閉じると共に,電磁開閉弁75が分岐配管74を閉じるように構成されている。
【0093】
本実施形態にあっては,バイパス配管55及び分岐配管74に設けた電磁開閉弁として,いずれ常時開型の電磁開閉弁を使用し,「高圧」の選択時に制御装置82が,分岐配管74に設けた電磁開閉弁75とバイパス配管55に設けた電磁開閉弁57の双方に対し,閉弁信号を出力するように構成されている。
【0094】
以上のように構成された圧縮空気供給装置1において,スイッチ81を「低圧」に設定すると,制御装置82による制御信号の出力は行われず,分岐配管74に設けた電磁開閉弁75と,バイパス配管55に設けた電磁開閉弁57は,双方共に開状態に維持される。
【0095】
従って,スイッチ81を「低圧」とした状態で駆動源40を起動して油冷式スクリュ圧縮機10のスクリュロータ11の回転を開始すると,油冷式スクリュ圧縮機10の停止時にはレシーバタンク60内の圧力は大気圧まで低下していることから,電磁開閉弁75によって分岐配管74が開放されているものの,逃がし弁23の閉弁受圧室233に対する作動油の導入は行われておらず,逃がし弁23のピストン232は後退位置にあり逃がし穴21は開いた状態にあることから,起動時に油冷式スクリュ圧縮機10の起動負荷を低下させて駆動源40の起動負荷を低減することができる。
【0096】
油冷式スクリュ圧縮機10の運転を継続することによりレシーバタンク60内の圧力が上昇すると,逃がし弁23の閉弁受圧室233に対し,レシーバタンク60内の冷却油が導入され,逃がし弁23のピストン232は,レシーバタンク60内の圧力上昇によって,コイルスプリング234の付勢力に抗して,スクリュロータ11のロータ軸の軸心aに向かって前進して,ピストン232のフランジ部232cがピストン室231内の段部231dと突合する迄前進する。
【0097】
これにより,逃がし穴21内にピストン232の先端部が挿入されて逃がし穴21が塞がることにより,吸入側から吐出側に至る,圧縮作用空間の全範囲が吸入空気の圧縮に使用されることで,後述する「高圧」の設定時に比較して,油冷式スクリュ圧縮機に対する吸入空気量が増大すると共に,吐出される圧縮空気の圧縮比が増大して,効率的に圧縮空気を生成することができる。
【0098】
一方,前述したスイッチ81を「高圧」に切り換えると,制御装置82はバイパス配管55に設けた電磁開閉弁57と,分岐配管74に設けた電磁開閉弁75の双方に対し閉信号を出力して,バイパス配管55と分岐配管74のいずれ共に閉じる。
【0099】
このようにして,レシーバタンク60と逃がし弁23の閉弁受圧室233との連通が遮断されることにより,油冷式スクリュ圧縮機10の運転によってレシーバタンク60内の圧力が上昇しても,逃がし弁23の閉弁受圧室233に対する作動圧力の導入は行われず,逃がし弁23のピストン232は,レシーバタンク60内の圧力変動に拘わらず,コイルスプリング234の付勢力によって,シリンダ13の外周側に後退した状態を維持する。
【0100】
これにより,圧縮作用空間は,逃がし穴21の形成位置で逃がし通路22及び吸入通路16と連通し,圧縮作用空間中,逃がし穴21よりも吸入側にある部分は圧縮に使用されず,逃がし穴21から吐出通路18に至る部分の圧縮作用空間のみが圧縮に使用されることとなるために,前述した「低圧」を選択した場合に比較して,油冷式スクリュ圧縮機10の吸気量が減少すると共に,吐出する圧縮空気の圧縮比が減少することとなり,その分,油冷式スクリュ圧縮機の駆動に必要な動力が減少することとなる。
【0101】
一方,前述したバイパス配管55が閉ざされることで,消費側に供給される圧縮空気の圧力は,制御配管53に設けた圧力調整弁(高圧用圧力調整弁)54’の作動圧力以上となるまで,吸入弁51の閉弁受圧室に対する圧縮空気の導入は行われなくなることから,消費側に供給する圧縮空気の圧力は,高圧用圧力調整弁54’の設定圧力に対応して高い圧力となる。
【0102】
このように,前述した「低圧」の設定に対し,「高圧」の設定を選択した場合では,油冷式スクリュ圧縮機10の駆動に費やされる消費動力を減少させることができ,この消費動力の減少によって生じた余裕分,高圧用圧力調整弁54’の設定圧力を,低圧用圧力調整弁56の設定圧力よりも高く設定して消費側に供給する圧縮空気の圧力を上昇させたとしても,エンジンやモータ等の駆動源40を定格出力に対し所定の余裕分低い出力で運転させることができ,駆動源40をストール等させることなく,消費側に対し供給する圧縮空気の圧力を上昇させることが可能となる。
【0103】
〔その他/変形例等〕
以上,
図1〜
図7を参照して説明した油冷式スクリュ圧縮機10の構成では,前述した逃がし穴21と,この逃がし穴21を開閉する逃がし弁23を,いずれもシリンダ13の底部に設ける場合を例に挙げて説明したが,逃がし穴21と逃がし弁23は,シリンダ13の底部以外の部分に設けるものとしても良い。
【0104】
また,
図1〜
図7を参照して説明した油冷式スクリュ圧縮機10では,オスのスクリュロータ11aとメスのスクリュロータ11bを水平方向に並べて配置した油冷式スクリュ圧縮機10に対し,逃がし穴21と逃がし弁23とを設ける構成について説明したが,本発明の油冷式スクリュ圧縮機10は,
図8に示すように,オスのスクリュロータ11aとメスのスクリュロータ11bを,上下に並べて配置した構成の油冷式スクリュ圧縮機10に対し適用するものとしても良く,図示の例では,シリンダ13の底部に逃がし穴21を開口し,シリンダ13の軸心に向かって垂直方向にピストン232が進退移動するように逃がし弁23を構成している。
【0105】
この構成では, シリンダ13の底部にオスのスクリュロータ11a側,メスのスクリュロータ11b側に給油される全ての冷却油が集まることで,逃がし穴21の形成部分に対し冷却油をより集中させ易く,その結果,シリンダ13の内壁面とスクリュロータ11の歯先間の隙間を封止するに十分な潤滑油を,逃がし穴21の形成位置に導入することができ,前述した窪みDの形成によっても高圧側の作用空間内の圧縮流体が隣接する低圧側の作用空間内へ吹き抜けることを防止して,圧縮機本体の比動力の増加の防止を図ることができる。
【0106】
更に,以上で説明した実施形態にあっては,前述の逃がし穴21と逃がし弁23を,オスのスクリュロータ11aを収容する側のシリンダ13に設ける場合を例として説明したが,逃がし穴21や逃がし弁23は,
図9に示すようにメスのスクリュロータ11b側に設けるものとしても良く,あるいは,
図10に示すように,メス側とオス側のいずれにも設けるものとしても良い。
【0107】
特に,
図10に示したように逃がし穴21をオス側,メス側の双方に設けた構成では,逃がし穴21を開放した際,圧縮作用空間内の圧縮流体を円滑に吸入通路16に逃がすことができ,作動動力の低減効果を高めることができる。
【0108】
また,複数の逃がし穴21を設けることで,個々の逃がし穴21の径を小さくすることができることから,形成される窪みDについても小さくすることができ,隣接する作用空間同士を密封して,高圧側の作用空間内の圧縮気体が低圧側の作用空間内へ吹き抜けることを防止する効果がより一層高まり,圧縮機本体の比動力をより一層改善することができる。