(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(1)において、Xがエチル基であり、Yが単結合であり、Zがエチレン基であり、l+m+n=3〜6であることを特徴とする請求項1に記載の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物。
前記一般式(2)において、Zがエチレン基であり、l+m+n+o=4〜8であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物。
更に、(D)顔料分散剤を含み、該(D)顔料分散剤が、顔料親和部分として酸基を有するポリマーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、活性エネルギー線硬化型インクで無機質基材にインクジェットプリンタにて画像を印刷した後、速やかに活性エネルギー線にて硬化させ、その後焼成することにより、滲みのない高精細な画像が得られることを発見するに至った。しかしながら無機顔料の濃度が高い活性エネルギー線硬化型インク組成物について検討したところ、密度の高い無機顔料は分散安定性が低いため、印刷時に吐出安定性が劣り、高精細な画像(例えば風景画や肖像画等の絵画)を形成する場合に十分な鮮鋭性が得られないことが分かった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、従来技術の問題を解決し、顔料が高濃度であっても分散安定性に優れる無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討したところ、活性エネルギー線硬化型インク組成物において後述する一般式(1)又は(2)で表される化合物をエチレン性不飽和基含有単量体として用いると、顔料が高濃度であっても分散安定性を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物は、(A)無機顔料、(B)エチレン性不飽和基含有単量体及び(C)重合開始剤を含む無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物であって、該インク組成物中における(A)無機顔料の含有量が15質量%〜40質量%であり、(B)エチレン性不飽和基含有単量体が、下記一般式(1):
【0010】
【化1】
【0011】
[式(1)中、Xは水素原子、メチル基又はエチル基であり、Yは単結合又はメチレン基であり、Zはエチレン基又はプロピレン基であり、l+m+n=3〜20である]で表される化合物及び下記一般式(2):
【0012】
【化2】
【0013】
[式(2)中、Zはエチレン基又はプロピレン基であり、l+m+n+o=4〜20である]で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物の好適例においては、前記一般式(1)において、Xがエチル基であり、Yが単結合であり、Zがエチレン基であり、l+m+n=3〜6である。
【0015】
本発明の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物の他の好適例においては、前記一般式(2)において、Zがエチレン基であり、l+m+n+o=4〜8である。
【0016】
本発明の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物の他の好適例においては、前記(A)無機顔料が、黄色顔料、黒色顔料又は赤色顔料である。
【0017】
本発明の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物の他の好適例においては、前記黄色顔料がZr-P-Si-Pr系複合酸化物であり、前記黒色顔料がCr-Ni-Zn-Zr系複合酸化物であり、前記赤色顔料がSn-Si-Ca-I-Ba系複合酸化物である。
【0018】
本発明の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物の他の好適例においては、更に、(D)顔料分散剤を含み、該(D)顔料分散剤が、顔料親和部分として酸基を有するポリマーである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、顔料が高濃度であっても分散安定性に優れる無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物(以下、単に本発明のインク組成物とも称する)を詳細に説明する。本発明の無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物は、(A)無機顔料、(B)エチレン性不飽和基含有単量体及び(C)重合開始剤を含む無機質基材加飾用活性エネルギー線硬化型インク組成物であって、該インク組成物中における(A)無機顔料の含有量が15質量%〜40質量%であり、(B)エチレン性不飽和基含有単量体が、下記一般式(1):
【0022】
[式(1)中、Xは水素原子、メチル基又はエチル基であり、Yは単結合又はメチレン基であり、Zはエチレン基又はプロピレン基であり、l+m+n=3〜20である]で表される化合物及び下記一般式(2):
【0024】
[式(2)中、Zはエチレン基又はプロピレン基であり、l+m+n+o=4〜20である]で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする。
【0025】
本発明のインク組成物に用いる(A)無機顔料は、セラミック用無機顔料が好ましい。セラミック用無機顔料は、陶磁器を含むセラミックの分野において通常使用されている無機顔料であり、耐熱性と釉薬に対する安定性が高い。このような無機顔料には、酸化物、複合酸化物及び珪酸塩と称される顔料が含まれる。
【0026】
例えば、黄色無機顔料としては、Zr-P-Si-Pr系、Sn-V系、Sn-Ti-V系、Zr-V系、Zr-V-In系、Zr-Si-Pr系、Ti-Cr-Sb系、Ti-Sb-Ni系、Zr-Y-V系の複合酸化物等が挙げられ、高濃度での分散性及び分散安定性の更なる向上効果の観点から、Zr-P-Si-Pr系複合酸化物が好ましい。ここで、Zr-P-Si-Pr系複合酸化物は、ZrO
2 50〜60質量%、P
2O
5 5〜10質量%、SiO
2 10〜15質量%及びPr
6O
11 20〜25質量%からなり、焼成後にも黄色を呈する顔料である。
【0027】
黒色無機顔料としては、Cr-Ni-Zn-Zr系、Co-Cr-Fe系、Co-Cr-Ni系、Co-Ni-Cr-Fe系、Co-Mn-Fe系、Cu-Fe-Mn系、Cu-Cr-Mn系の複合酸化物等が挙げられ、高濃度での分散性及び分散安定性の更なる向上効果の観点から、Cr-Ni-Zn-Zr系複合酸化物が好ましい。ここで、Cr-Ni-Zn-Zr系複合酸化物は、Cr
2O
3 65〜80質量%、NiO 15〜25質量%、ZnO 1〜5質量%及びZrO
2 1〜5質量%からなり、焼成後にも黒色を呈する顔料である。
【0028】
赤色無機顔料としては、Sn-Si-Ca-I-Ba系、Ca-Sn-Si-Cr系、Fe-Si-Al系、Zr-Si-Fe系、Mn-Al系、Sn-Co-Cr系、Cr-Sn系の複合酸化物等が挙げられ、高濃度での分散性及び分散安定性の更なる向上効果の観点から、Sn-Si-Ca-I-Ba系複合酸化物が好ましい。ここで、Sn-Si-Ca-I-Ba系複合酸化物は、SnO 50〜70質量%、SiO
2 10〜20質量%、CaO 10〜20質量%、I
2O
5 1〜5質量%及びBaO 1〜5質量%からなり、焼成後にも赤色を呈する顔料である。
【0029】
更に、ブラウン無機顔料としてZn-Cr-Fe系、Zn-Al-Cr-Fe系、Zn-Fe-Cr-Zr系、Fe-Al系、Zn-Ti系、Fe-Cr系、Zn-Si-Fe-Cr系の複合酸化物等、グリーン無機顔料としてCr-Si系、Cr-AL系、Co-Cr系の複合酸化物等、シアン無機顔料としてCo-Si系、Co-AL系、Co-Zn-AL系、Co-Zn-AL-Si系、Co-Zn-Si系、Co-AL系、Co-Cr-AL系、Zr-Si-V系の複合酸化物等、白色無機顔料としてCe系の酸化物等や珪酸ジルコニウム等の珪酸塩等を挙げることができる。
【0030】
本発明のインク組成物中においては、(A)無機顔料の含有量が15質量%〜40質量%であり、好ましくは20質量%〜40質量%である。無機質基材加飾用のインク組成物を構成する成分のうち有機系材料は、通常、無機質基材を焼成する際に消失するため、発色性の観点から無機顔料の含有量を高くすることが好ましい。本発明のインク組成物においては、顔料が高濃度であっても分散安定性に優れるため、高濃度での無機顔料の使用が可能となる。
【0031】
本発明のインク組成物に用いる(B)エチレン性不飽和基含有単量体は、活性エネルギー線の照射によりエチレン性不飽和基(例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基又はアリル基を構成する炭素−炭素二重結合)を介して重合反応を起こす単量体であり、上記一般式(1)及び(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む。なお、(B)エチレン性不飽和基含有単量体の重合により得られる樹脂は、無機質基材を焼成する際に消失する。本発明のインク組成物中において、(B)エチレン性不飽和基含有単量体の含有量は、50質量%〜82質量%が好ましく、65質量%〜80質量%が更に好ましい。
【0032】
上記一般式(1)及び(2)で表される化合物は、比較的高粘度であり枝分れ状構造であるため、無機顔料の分散安定性を向上させることができる。本発明のインク組成物中において、上記一般式(1)又は(2)で表される化合物の含有量(一般式(1)及び(2)で表される化合物を併用する場合はその合計含有量)は、5質量%〜60質量%が好ましく、15質量%〜50質量%が更に好ましい。上記一般式(1)及び(2)で表される化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、一般式(1)及び(2)で表される化合物は市販品を好適に使用できる。
【0033】
上記一般式(1)において、Xは水素原子、メチル基又はエチル基であり、Yは単結合又はメチレン基(−CH
2−)であり、Zはエチレン基(−C
2H
4−)又はプロピレン基(−C
3H
6−)であり、l+m+n=3〜20である。無機顔料の分散安定性の観点から、Xがエチル基であり、Yが単結合であり、Zがエチレン基であり、l+m+n=3〜6である一般式(1)の化合物が更に好ましい。
【0034】
上記一般式(2)において、Zはエチレン基(−C
2H
4−)又はプロピレン基(−C
3H
6−)であり、l+m+n+o=4〜20である。無機顔料の分散安定性の観点から、Zがエチレン基であり、l+m+n+o=4〜8である一般式(2)の化合物が更に好ましい。
【0035】
上記一般式(1)及び(2)で表される化合物の具体例としては、エチレンオキシド(EO)変性トリメチロールプロパントリアクリレート[共栄社化学(株)製ライトアクリレート TMP−3EO−A(l+m+n=3),TMP−6EO−3A(l+m+n=6);ダイセル・オルネクス(株)製EBECRYL TMPEOTA(l+m+n=3);新中村化学工業(株)製NKエステル A−TMPT−3EO(l+m+n=3),AT−20E(l+m+n=20);アルケマ社製サートマー SR415(l+m+n=20),SR454(l+m+n=3),SR499(l+m+n=6),SR502(l+m+n=9),SR9035(l+m+n=15)]、プロピレンオキシド(PO)変性トリメチロールプロパントリアクリレート[新中村化学工業(株)製NKエステル A−TMPT−6PO(l+m+n=6);アルケマ社製サートマー SR492(l+m+n=3)]、EO変性グリセリントリアクリレート[新中村化学工業(株)製NKエステル A−GLY−3E(l+m+n=3),A−GLY−6E(l+m+n=6),A−GLY−20E(l+m+n=20)]、PO変性グリセリントリアクリレート[ダイセル・オルネクス(株)製EBECRYL OTA480(l+m+n=3);アルケマ社製サートマー SR9020(l+m+n=3)]、EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート[ダイセル・オルネクス(株)製EBECRYL 40(l+m+n+o=4);新中村化学工業(株)製NKエステル ATM−4E(l+m+n+o=4);アルケマ社製サートマー SR494(l+m+n+o=4)]等が挙げられる。
【0036】
上記(B)エチレン性不飽和基含有単量体は、上記一般式(1)及び(2)で表される化合物以外の単量体を含むことができる。具体的には、エチレン性不飽和基の数が1である単官能モノマー、該エチレン性不飽和基数が2である2官能モノマー、該エチレン性不飽和基数が3以上である多官能モノマー等が挙げられる。なお、これら単量体は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
単官能モノマーの具体例としては、例えば、ステアリルアクリレート、アクリロイルモルホリン、トリデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミドデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、イソオクチルアクリレート、オクチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、N−ビニルカプロラクタム、イソアミルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルイミダゾール、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート、エトキシ−ジエチレングリコールアクリレート、及び2−(2’−ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等が挙げられ、これらをエチレングリコール鎖、プロピレングリコール鎖等のアルキレングリコール鎖により変性したものも使用できる。
【0038】
2官能モノマーの具体例としては、例えば、1,10−デカンジオールジアクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジアクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1、7−ヘプタンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、及びジプロピレングリコールジアクリレート等が挙げられ、これらをエチレングリコール鎖、プロピレングリコール鎖等のアルキレングリコール鎖により変性したものも使用できる。
【0039】
多官能モノマーの具体例としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、グリセリントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジグリセリンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0040】
本発明のインク組成物に用いる(C)重合開始剤は、活性エネルギ[線を照射されることによって、上記(B)エチレン性不飽和基含有単量体の重合を開始させる作用を有する。本発明のインク組成物中において、(C)光重合開始剤の含有量は、1質量%〜10質量%が好ましく、3質量%〜5質量%が更に好ましい。
【0041】
上記(C)光重合開始剤としては、例えば2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム)、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等が挙げられる。なお、これら光重合開始剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明のインク組成物は、(A)無機顔料を(B)エチレン性不飽和基含有単量体中でより良好に分散させるため、(D)顔料分散剤を含むことが好ましい。例えば、通常のインク組成物に用いられている湿潤剤、一般には、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤又はノニオン系界面活性剤を顔料分散剤として使用できる。具体的には、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アシルメチルタウリン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸塩、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、無機エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩、酸基を含む共重合物等のアニオン性界面活性剤、アルキルピリジウム塩、アルキルアミノ酸塩、アルキルジメチルベタイン等の両性界面活性剤、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ステアリルアミンアセテート、ソルビタンアルキルエステル等のノニオン性界面活性剤等が挙げられ、これらの中でも、顔料親和部分が酸基である酸系の顔料分散剤が好ましく、高濃度での分散性の向上効果の観点から、顔料親和部分として酸基を有するポリマーである酸系の顔料分散剤が更に好ましい。これら顔料分散剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明のインク組成物中において、(D)顔料分散剤の含有量は、1質量%〜5質量%であることが好ましい。
【0043】
本発明のインク組成物には、更に必要に応じて、ウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系等のオリゴマーやシランカップリング剤を配合してもよい。また、重合禁止剤(例えばフェノチアジン等)、表面調整剤、消泡剤等の添加剤や各種樹脂を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。
【0044】
本発明のインク組成物は、例えば、上記無機顔料、エチレン性不飽和基含有単量体及び重合開始剤と、必要に応じて適宜選択される成分とを混合し、ビーズミル等により無機顔料が所望の粒子径分布になるまで粉砕分散を行い、調製できる。
【0045】
本発明のインク組成物中に分散している無機顔料の粒子径は、インクジェットプリンタのノズルから吐出可能な大きさであることが好ましい。しかしながら、粒子径が大き過ぎると沈殿が起こり易くなり、粒径が小さ過ぎると色が出ない等の不具合が生ずる。このため、無機顔料の粒子径分布は、例えば、100〜900nmの範囲内であることが好ましい。なお、ここで粒子径分布とは、レーザー光散乱法粒度分布測定装置(例えば島津製作所製SALD−2300)で測定した、重量平均粒子径分布である。
【0046】
本発明のインク組成物は、通常の印刷手段により、無機質基材上又は無機質基材上に形成される熱溶融性無機粉末層上に吐出され、印刷層を形成する。本発明によれば、高濃度の無機顔料が安定に分散しているために、吐出安定性に優れ、滲みが無く画像鮮明な印刷層を形成することができる。ここで、印刷手段としては、インクジェットプリンタを用いる印刷手段が好ましい。インクジェットプリンタとしては、例えば、荷電制御方式又はピエゾ方式によりインク組成物を吐出させるインクジェットプリンタを挙げることができる。活性エネルギー線硬化系に適合するヘッドを搭載したインクジェットプリンタを使用し、インクの粘度を下げるために40〜50℃程度にヒーター付きヘッドによりインクを加温して吐出することもできる。
【0047】
上記無機質基材は、特に制限されるものではないが、例えば、ガラス、セラミック、タイル、陶磁器、琺瑯等が挙げられる。また、無機質基材は、ドライ成形やウェット成形のいずれの成形法によって得られた基材も用いることができ、更には、熱溶融性無機粉末を塗布する前に、ローラーハースキルンやトンネル炉、及びバッチ炉等により仮焼きしてもよい。無機質基材の仮焼き温度は、本焼成温度より高い場合、低い場合など目的製品に応じて選択される。
【0048】
上記熱溶融性無機粉末層は、無機質基材の焼成時に熱溶融し、最終的にガラス質層を形成する。ここで、印刷層を構成する有機物は焼成により消失し、印刷層を構成する無機顔料によって意匠が表現されることになるが、印刷層を構成する無機顔料は、焼成時に熱溶融した無機粉末層を下降し、ガラス質層に組み込まれる。上記熱溶融性無機粉末層は、通常の方法により、無機質基材上に熱溶融性無機粉末を塗布し、形成される。ここで、熱溶融性無機粉末は、通常、水分散液の形態で塗布される。
【0049】
上記熱溶融性無機粉末は、釉薬成分やガラス成分からなる粉末であり、無機質基材上で熱溶融してガラス質の皮膜を形成し、無機質基材に付着する。熱溶融性無機粉末は、無機質基材製品の目的用途に応じて、熱膨張係数及び熱溶融温度を調整すべく、組成調整を行う。通常、熱溶融性無機粉末の水分散液に含まれる熱溶融性無機粉末の量は30〜60質量%である。
【0050】
また、上記熱溶融性無機粉末は、白色顔料と共に塗布されることが好ましい。熱溶融性無機粉末層中に白色顔料が含まれることで、無機質基材を隠すことができ、画像の鮮鋭性を向上させることができる。白色顔料は、無機顔料であることが好ましく、セラミック用無機顔料が更に好ましい。なお、熱溶融性無機粉末の水分散液に含まれる白色顔料の含有量は、無機粉末合計質量の20〜50質量%を占めることが好ましい。
【0051】
上記熱溶融性無機粉末の水分散液には、水、熱溶融性無機粉末、白色顔料に加えて、必要に応じて、顔料分散剤、表面調整剤、消泡剤、保湿剤、防腐剤・防かび剤、pH調整剤等の添加剤や各種樹脂を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。
【0052】
上記熱溶融性無機粉末の水分散液は、例えば、熱溶融性無機粉末と白色顔料、水、添加剤とを混合し、ボールミル等により熱溶融性無機粉末粒子が所望の粒子径分布になるまで粉砕分散を行い、調製できる。
【0053】
上記水分散液は、カーテンフローコーター塗装、スプレー塗装等の工業的に使用される通常の塗装方法により塗布される。
【0054】
熱溶融性無機粉末の水分散液の塗布量は、通常200〜700g/m
2の範囲内で、無機質基材の素材や用途によって、適宜調整される。
【0055】
本発明のインク組成物により形成される印刷層は、紫外線等の活性エネルギー線の照射により硬化されることになるが、印刷層が滲まないように無機質基材や熱溶融性無機粉末層の表面に定着させるため、印刷後にできるだけ速く活性エネルギー線照射を行うことが好ましい。つまり、活性エネルギー線硬化型インク組成物が無機質基材や熱溶融性無機粉末層に着弾したと同時に又は直後に活性エネルギー線の照射を行うことが好ましく、例えば1分以内が好ましく、0.1秒〜1秒が更に好ましい。活性エネルギー線照射ランプとしては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ等を挙げることができる。
【0056】
活性エネルギー線照射により印刷層を硬化した後、無機質基材を焼成する。
【0057】
上記無機質基材の焼成は、特に制限されず、ローラーハースキルン、トンネル炉、バッチ炉等を用いた既知の方法を利用することができる。なお、焼成の条件は、無機質基材の焼結温度、熱溶融性無機粉末の溶融温度、焼成炉の能力により決められるが、できる限り短時間で目的とする温度まで昇温するのが望ましい。高温に長時間保持されると無機顔料の脱色が進行し、熱溶融性無機粉末層の熱溶融により印刷された画像が動くことより画質が低下する。従って、熱溶融性無機粉末が溶融する最低時間に設定することが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
1.インクの調製
表1及び2に示す配合処方に従い、原料(無機顔料、モノマー、重合開始剤及び顔料分散剤)を混合し、得られた混合物をビーズミルにて練合し、無機顔料の粒子径が100〜900nmの範囲内になるようにセラミック加飾用インクを調製した。粒子径の確認には、レーザー光散乱法粒度分布測定装置(例えば島津製作所製SALD−2300)を用いた。
使用した各色無機顔料、モノマー、重合開始剤及び顔料分散剤の種類及び組成を、表1及び2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
1)トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、ダイセル・オルネクス(株)製
2)エトキシ化グリセリントリアクリレート、新中村化学製
3)エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、新中村化学製
4)LUCIRIN TPO、BASF製
5)SOLSPERSE41000、日本ルーブリゾール(株)製
6)BYK111、ビッグケミー(株)製
【0063】
2.1 インクの性状確認
2.1.1 粘度の測定
レオメーター(AntonpaarPysica社製MCR301)を使用して、40℃で、ずり速度100s
−1にて測定した。
【0064】
3.無機焼成体の作製
工程1<印刷>
ピエゾ方式のUVインク用ヒーター付きヘッドを搭載したインクジェットプリンターに、各インクセットを装填し、ヒーター温度45℃にてインクを熱溶融性無機粉末層の塗付してあるタイルに吐出し、画像を印刷した。印刷後に、メタルハライドランプ又はLEDランプを照射し、これを硬化させ、実施例の印刷タイルとした。なお、ランプ照射時の積算光量は下記照度計にて測定した。
メタルハライドランプの照射光量:EYE UV METER UVPF−A1 HEADSENSER PD365
LEDランプの照射光量:UVICURE PLusII(UVA2)
【0065】
工程2<焼成>
印刷タイルを電気炉にて30分かけて1100℃まで昇温し、温度を保持しつつ30分焼成を行い、室温まで徐々に冷却した。
【0066】
以下に示す方法及び基準にしたがい、インク及び印刷画像の評価を行った。
<インクの分散安定性>
表1及び2に示した配合処方にしたがって調製されたインクを、50℃に保持した恒温層に静置させ、1週間保管した。下記の評価基準に基づき、1週間後のインクの分散安定性の評価を実施した。
○:分離、沈殿がなく、分散安定性が良好である。
△:わずかな分離または沈殿が発生するが、インクの容器を振ると再分散する。
×:明らかな分離沈殿が発生し、再分散が困難である。
【0067】
<吐出安定性>
○:安定に吐出できる。
△:吐出可能だが、吐出時に負荷を生じる。
×:吐出できない。
【0068】
<印刷時外観>
印刷後の外観について、下記の評価基準に基づき目視評価した。
○:鮮明性に優れる良好な画像が得られる。
△:画像の一部に欠陥がある。
×:画像に大きな欠陥がある。
【0069】
<印刷画像の鮮明度>
焼成後の画像の鮮明度(画像に滲み、ゆがみ、ボケ、抜け、曇りがなく鮮明か)について、下記の評価基準に基づき目視評価した。
○:鮮明な画像を得た。
△:やや不鮮明である。
×:明らかに不鮮明である。
【0070】
<印刷画像の発色性>
焼成後の画像の発色性について、下記の評価基準に基づき目視評価した。
○:発色性がよく、イメージ画像通りの画像が得られる。
△:発色はしているが、イメージ画像よりもやや色が薄い、あるいは暗い。
×:全体に発色が薄く、イメージ画像と大きな違いを生じる。
【0071】
得られた結果を、表3及び4に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
(実施例1〜10)
いずれにおいても、インクの分散安定性、吐出安定性共に良好で、焼成後も鮮明性と発色性に優れた画像が得られた。
【0075】
(比較例1、2)
インクの分散安定性が悪く、吐出安定性も低いため、得られる画像の鮮明性も悪くなった。
(比較例3、4)
インクの分散安定性、吐出安定性は良好であったが、顔料濃度が低いため、発色性が悪くなった。
(比較例5、6)
顔料濃度が高いため、インクの分散安定性、吐出安定性ともに今一歩であった。
(比較例7、8)
インクの分散安定性が悪く、吐出安定性も低いため、得られる画像の鮮明性も悪くなった。