(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る導電性高分子分散液、導電性フィルムおよびフィルム、ならびにフィルムの製造方法の各実施の形態について説明する。フィルムの製造方法の実施の形態は、フィルムの実施の形態の中で説明する。また、以下に記載の各実施の形態は、本発明の好適な実施の形態に過ぎず、本発明を限定するものではない。また、各実施の形態を構成する各要素は、本発明に必須の構成要素とは限らない。
【0024】
<1.導電性高分子分散液の実施の形態>
本発明の実施の形態に係る導電性高分子分散液は、(a)π共役系導電性高分子と、(b)ポリアニオンと、(c)芳香族スルホ基含有モノマーと、(d)アミン化合物と、(e)溶剤とを含む。
【0025】
上記ポリアニオンは、好ましくは、上記π共役系導電性高分子にドープしている。これにより、π共役系導電性高分子とポリアニオンとの複合体が形成される。この複合体を「導電性高分子」と称する。ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるから、複合体を水に可溶化させる役割を果たす。一方、当該複合体を有機溶剤に可溶化させるためには、親水基としてのアニオン基に対して何らかの作用を及ぼし、その親水性を低下せしめると良い。このような意味から、上記溶剤は、水; エタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤; あるいは水と有機溶剤との混合液のいずれでも選択可能である。
【0026】
本願で用いられるポリアニオンをドーパントとしている導電性高分子は、おおよそ数十ナノメータの粒子径を持つ微粒子から形成される。かかる微粒子は、界面活性剤の作用をも持つポリアニオンの存在によって可視光領域において透明であって、溶媒中に微粒子が溶解しているように見える。実際には、当該微粒子は溶剤(溶媒と称しても良い)中に分散しているが、本願では、この状態を「分散可溶化」の状態と称している。
【0027】
1.1 製造方法
この実施の形態に係る導電性高分子分散液は、好適には、π共役系導電性高分子とそれにドープしたポリアニオンとの複合体(導電性高分子)を溶剤に分散させた第一の液と、芳香族スルホ基含有モノマーとアミン化合物とを含む第二の液とを混合して製造可能である。
【0028】
この実施の形態に係る導電性高分子分散液は、より詳しくは、一例ではあるが、以下の方法によって製造することができる。
【0029】
(1)π共役系導電性高分子/ポリアニオン複合体を分散させた水分散体からの製造方法
π共役系導電性高分子/ポリアニオン複合体を分散させた水分散体は、π共役系導電性高分子用のモノマーとドーパントとが共存した水溶液または水分散体の状態に、酸化剤の存在下で重合を行うことで容易に得られる。ただし、このようなモノマーからの重合のみならず、市販のπ共役系導電性高分子/ドーパント複合体の水分散体を用いても良い。市販のπ共役系導電性高分子/ドーパント複合体の水分散体としては、例えば、Heraeus社のPEDOT/PSS複合体の水分散体(商品名: Clevios)、アグファ社のPEDOT/PSS複合体の水分散体(商品名: Orgacon)などを挙げることができる。導電性高分子分散液は、芳香族スルホ基含有モノマーとアミン化合物との混合液に、上記水分散体を添加して得られる。その後、好適には、水を加えて塗料と成して使用する。
【0030】
(2)凍結乾燥されたπ共役系導電性高分子/ポリアニオン複合体の固形物からの製造方法
溶剤中に、凍結乾燥されたπ共役系導電性高分子/ポリアニオン複合体の固形物を入れ、さらに、そこに芳香族スルホ基含有モノマーとアミン化合物との混合液を入れ、導電性高分子分散液を得ても良い。
【0031】
1.2 導電性高分子分散液の原料
(a)π共役系導電性高分子
π共役系導電性高分子は、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば、何らの限定もなく用いることができる。例えば、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、およびこれらの内の2以上の共重合体を好適に挙げることができる。重合の容易性、空気中における安定性の観点では、特に、ポリピロール類、ポリチオフェン類あるいはポリアニリン類を好適に用いることができる。π共役系導電性高分子は、無置換のままでも、十分に高い導電性およびバインダへの相溶性を示すが、導電性、バインダへの分散性若しくは溶解性をより高めるためには、アルキル基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基などの官能基が導入されても良い。
【0032】
上記のπ共役系導電性高分子の好適な例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)等が挙げられる。
【0033】
上記のπ共役系導電性高分子の例において、抵抗値あるいは反応性を考慮すると、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から選択される1種若しくは2種以上からなる共重合体を、特に好適に用いることができる。高導電性および高耐熱性の面では、さらに、ポリピロール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を好適に用いることができる。また、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルチオフェン)のようなアルキル置換化合物は、有機溶剤を主とする溶媒への溶解性、疎水性樹脂を添加したときの相溶性および分散性を向上させるために、より好適に用いることができる。アルキル基の中でも、メチル基は、導電性に悪影響を与えることが少ないので、より好ましい。
【0034】
(b)ポリアニオン
ポリアニオンは、アニオン性化合物であれば、特に制約無く用いることができる。アニオン性化合物とは、分子中に、π共役系導電性高分子への化学酸化ドーピングが起こりうるアニオン基を有する化合物である。アニオン基としては、製造の容易さおよび高い安定性の観点から、リン酸基、カルボキシ基、スルホ基、などが好ましい。これらのアニオン基の内、π共役系導電性高分子へのドープ効果に優れる理由から、スルホ基あるいはカルボキシ基がより好ましい。
【0035】
ポリアニオンとしては、例えば、アニオン基を有さないポリマーをスルホン化剤によりスルホン化等を行ってポリマー内にアニオン基を導入したポリマーの他、アニオン基含有重合性モノマーを重合して得られたポリマーを挙げることができる。通常、ポリアニオンは、製造の容易さの観点から、好ましくは、アニオン基含有重合性モノマーを重合して得る。かかる製造方法としては、例えば、溶媒中、アニオン基含有重合性モノマーを、酸化剤および/または重合触媒の存在下、酸化重合またはラジカル重合させて得る方法を例示できる。より具体的には、所定量のアニオン基含有重合性モノマーを溶媒に溶解させ、これを一定温度に保持し、そこに、予め溶媒に所定量の酸化剤および/または重合触媒を溶解しておいた溶液を添加して、所定時間で反応させる。当該反応により得られたポリマーは、触媒によって一定の濃度に調整される。この製造方法において、アニオン基含有重合性モノマーにアニオン基を有さない重合性モノマーを共重合させることもできる。アニオン基含有重合性モノマーの重合に際して使用する酸化剤および/または酸化触媒、溶媒は、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを重合する際に使用するものと同様である。
【0036】
アニオン基含有重合性モノマーは、分子内にアニオン基と重合可能な官能基を有するモノマーであり、具体的には、ビニルスルホン酸及びその塩類、アリルスルホン酸及びその塩類、メタリルスルホン酸及びその塩類、スチレンスルホン酸及びその塩類、メタリルオキシベンゼンスルホン酸及びその塩類、アリルオキシベンゼンスルホン酸及びその塩類、α−メチルスチレンスルホン酸及びその塩類、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸及びその塩類、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩類、シクロブテン−3−スルホン酸及びその塩類、イソプレンスルホン酸及びその塩類、1,3−ブタジエン−1−スルホン酸及びその塩類、1−メチル−1,3−ブタジエン−2−スルホン酸及びその塩類、1−メチル−1,3−ブタジエン−4−スルホン酸及びその塩類、アクリロイルオキシエチルスルホン酸(CH
2CH−COO−(CH
2)
2−SO
3H)及びその塩類、アクリロイルオキシプロピルスルホン酸(CH
2CH−COO−(CH
2)
3−SO
3H)及びその塩類、アクリロイルオキシ−t−ブチルスルホン酸(CH
2CH−COO−C(CH
3)
2CH
2−SO
3H)及びその塩類、アクリロイルオキシ−n−ブチルスルホン酸(CH
2CH−COO−(CH
2)
4−SO
3H)及びその塩類、3−ブテノイルオキシエチルスルホン酸(CH
2CHCH
2−COO−(CH
2)
2−SO
3H)及びその塩類、3−ブテノイルオキシ−t−ブチルスルホン酸(CH
2CHCH
2−COO−C(CH
3)
2CH
2−SO
3H)及びその塩類、4−ペンテノイルオキシエチルスルホン酸(CH
2CH(CH
2)
2−COO−(CH
2)
2−SO
3H)及びその塩類、4−ペンテノイルオキシプロピルスルホン酸(CH
2CH(CH
2)
2−COO−(CH
2)
3−SO
3H)及びその塩類、4−ペンテノイルオキシ−n−ブチルスルホン酸(CH
2CH(CH
2)
2−COO−(CH
2)
4−SO
3H)及びその塩類、4−ペンテノイルオキシ−t−ブチルスルホン酸(CH
2CH(CH
2)
2−COO−C(CH
3)
2CH
2−SO
3H)及びその塩類、4−ペンテノイルオキシフェニレンスルホン酸(CH
2CH(CH
2)
2−COO−C
6H
4−SO
3H)及びその塩類、4−ペンテノイルオキシナフタレンスルホン酸(CH
2CH(CH
2)
2−COO−C
10H
8−SO
3H)及びその塩類、メタクロイルオキシエチルスルホン酸(CH
2C(CH
3)−COO−(CH
2)
2−SO
3H)及びその塩類、メタクロイルオキシプロピルスルホン酸(CH
2C(CH
3)−COO−(CH
2)
3−SO
3H)及びその塩類、メタクロイルオキシ−t−ブチルスルホン酸(CH
2C(CH
3)−COO−C(CH
3)
2CH
2−SO
3H)及びその塩類、メタクロイルオキシ−n−ブチルスルホン酸(CH
2C(CH
3)−COO−(CH
2)
4−SO
3H)及びその塩類、メタクロイルオキシフェニレンスルホン酸(CH
2C(CH
3)−COO−C
6H
4−SO
3H)及びその塩類、メタクロイルオキシナフタレンスルホン酸(CH
2C(CH
3)−COO−C
10H
8−SO
3H)及びその塩類等が挙げられる。また、これらを2種以上含む共重合体であってもよい。
【0037】
アニオン基を有さない重合性モノマーとしては、エチレン、プロぺン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−ブチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、p−メトキシスチレン、α−メチルスチレン、2−ビニルナフタレン、6−メチル−2−ビニルナフタレン、1−ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルアセテート、アクリルアルデヒド、アクリルニトリル、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルイミダゾ−ル、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニルブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸アリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸エチルカルビトール、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリロイルモルホリン、ビニルアミン、N,N−ジメチルビニルアミン、N,N−ジエチルビニルアミン、N,N−ジブチルビニルアミン、N,N−ジ−t−ブチルビニルアミン、N,N−ジフェニルビニルアミン、N−ビニルカルバゾール、ビニルアルコール、塩化ビニル、フッ化ビニル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、2−メチルシクロヘキセン、ビニルフェノール、1,3−ブタジエン、1−メチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,4−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1−オクチル−1,3−ブタジエン、2−オクチル−1,3−ブタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、1−ヒドロキシ−1,3−ブタジエン、2−ヒドロキシ−1,3−ブタジエン等が挙げられる。こうして得られるポリアニオンの重合度は、特に限定されるものではないが、通常、モノマーの単位が10〜100,000程度であり、溶媒可溶化、分散性および導電性を良好にする観点から、50〜10,000程度とするのがより好ましい。
【0038】
ポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリロイルオキシエチルスルホン酸、ポリアクリロイルオキシブチルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)を好適に挙げることができる。得られたアニオン性化合物がアニオン塩である場合には、アニオン酸に変質させるのが好ましい。アニオン酸に変質させる方法としては、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法、透析法、限外ろ過法などを挙げることができる。これらの方法の中でも、作業容易性の観点から、限外ろ過法が好ましい。ただし、金属イオン濃度を低減することを要する場合には、イオン交換法を用いる。
【0039】
(a)π共役系導電性高分子と(b)ポリアニオンとの組み合わせとしては、(a)および(b)の各グループから選択されたものを使用できるが、化学的安定性、導電性、保存安定性、入手容易性などの観点から、π共役系導電性高分子の一例であるポリエチレンジオキシチオフェン(特に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))と、ポリアニオンの一例であるポリスチレンスルホン酸との組み合わせが好ましい。ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸とは、前述のように、π共役系導電性高分子用のモノマーとドーパントが共存した水溶液または水分散液の状態で酸化剤の存在下にて重合を行い、合成しても良い。また、市販のπ共役系導電性高分子/ドーパント複合体の水分散体を使用しても良い。
【0040】
ポリアニオンの含有量は、好ましくはπ共役系導電性高分子1質量部に対して0.1〜10質量部の範囲、より好ましくは1〜7質量部の範囲である。ポリアニオンの含有量を0.1質量部以上とすることにより、π共役系導電性高分子へのドーピング効果を高め、導電性を高めることができる。加えて、溶媒への溶解性が高くなり、均一分散形態の導電性高分子分散液を得やすくなる。一方、ポリアニオンの含有量を10質量部以下にすると、π共役系導電性高分子の含有割合を相対的に多くすることができ、より高い導電性を発揮させることができる。
【0041】
(c)芳香族スルホ基含有モノマー
芳香族スルホ基含有モノマーとしては、ベンゼンスルホン酸またはその誘導体、ナフタレンスルホン酸またはその誘導体、アントラキノンスルホン酸またはその誘導体などを例示できる。
【0042】
ベンゼンスルホン酸誘導体としては、トルエンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ブチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メトキシベンゼンスルホン酸、エトキシベンゼンスルホン酸、プロポキシベンゼンスルホン酸、ブトキシベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸などを好適に例示できる。
【0043】
ナフタレンスルホン酸誘導体としては、ナフタレンジスルホン酸、ナフタレントリスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、エチルナフタレンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸、ペンチルナフタレンスルホン酸などを好適に例示できる。
【0044】
アントラキノンスルホン酸誘導体としては、アントラキノンジスルホン酸、アントラキノントリスルホン酸などを好適に例示できる。
【0045】
これらの芳香族スルホ基含有モノマーの内、芳香環に、直接、スルホ基が結合したモノマーが好ましく、とりわけ、トルエンスルホン酸あるいはナフタレンスルホン酸が好ましく、トルエンスルホン酸の中でもさらにパラトルエンスルホン酸がより好ましい。ただし、芳香環とスルホ基との間に、炭化水素あるいは酸素などが介在するモノマーのように、芳香環に、直接、スルホ基が結合していないモノマーを使用することもできる。
【0046】
芳香族スルホ基含有モノマーは、π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を100質量部としたときに、10〜10,000質量部の範囲で添加するのが好ましく、50〜5,000質量部の範囲で添加するのがより好ましく、100〜1,000質量部の範囲で添加するのがさらに好ましい。芳香族スルホ基含有モノマーは、後述のアミン化合物と中和させてから(pHが7とは限らない)、導電性高分子と混合するのが好ましい。ただし、溶剤に、水あるいは水と有機溶剤との混合液を用いる場合には、芳香族スルホ基含有モノマーは、電離して、π共役系導電性高分子に配位する可能性がある。
【0047】
(d)アミン化合物
アミン化合物としては、特に制限されずに如何なる種類のものでも用いることができ、ポリアニオンのアニオン基に配位もしくは結合することができるものであればより好ましく用いることができる。ここで、「配位もしくは結合する」とは、ポリアニオンとアミン化合物とが電子を互いに供与/受容することにより、それらの分子間距離が短くなる結合形態のことである。アミン化合物としては、分子内に窒素原子を有する化合物が挙げられる。具体的には、1級アミン、2級アミン、3級アミン、芳香族アミンが挙げられる。
【0048】
1級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン等が挙げられる。
【0049】
2級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン等が挙げられる。
【0050】
3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン等が挙げられる。
【0051】
芳香族アミンとしては、イミダゾール、N−メチル−イミダゾール、N−エチル−イミダゾール、N−プロピル−イミダゾール、N−ブチル−イミダゾール、N−ペンチル−イミダゾール、N−ヘキシル−イミダゾール、N−ヘプチル−イミダゾール、N−オクチル−イミダゾール、N−デシル−イミダゾール、N−ウンデシル−イミダゾール、N−ドデシル−イミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等が挙げられる。
【0052】
アミン化合物としては、芳香族アミン化合物および3級アミン化合物の少なくともいずれか1種類の化合物が好ましく、さらに、イミダゾールおよびトリエチルアミンの少なくともいずれか1種類がより好ましい。
【0053】
アミン化合物は、π共役系導電性高分子とポリアニオンの質量の合計を100質量部としたときに、10〜10,000質量部の範囲で添加するのが好ましく、50〜5,000質量部の範囲で添加するのがより好ましく、100〜1,000質量部の範囲で添加するのがさらに好ましい。アミン化合物は、前述の芳香族スルホ基含有モノマーと中和させてから(pHが正確に7とは限らない)、導電性高分子と混合するのが好ましい。ただし、溶剤に、水あるいは水と有機溶剤との混合液を用いる場合には、アミン化合物は、電離して、ポリアニオンに配位する可能性がある。
【0054】
(e)溶剤
溶剤として、水、有機溶剤あるいはそれらの混合液のいずれを用いることもできる。分散媒は、環境負荷を小さくする点では、水の含有割合を80質量%以上とすることが好ましく、90質量%とすることがより好ましい。また、押出成形によりシート基材を連続作製しながら、そのシート基材に導電性高分子分散液を連続塗工する、いわゆるインライン塗工を適用した場合には、特に、分散媒における水の含有割合を80質量%以上とすることが好ましい。分散媒における水の含有割合を80質量%以上であれば、導電性高分子分散液が引火点を有さなくなるため、有機溶媒を排気するための大掛かりな排気設備を必要としない。溶剤の一部若しくは全部に有機溶剤を用いる場合には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホニウムトリアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル等に代表される極性溶媒; クレゾール、フェノール、キシレノール等に代表されるフェノール類; メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等に代表されるアルコール類; アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等に代表されるケトン類; 酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等に代表されるエステル類; ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等に代表される炭化水素類; ギ酸、酢酸等に代表されるカルボン酸; エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等に代表されるカーボネート化合物; ジオキサン、ジエチルエーテル等に代表されるエーテル化合物; エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等に代表される鎖状エーテル類; 3−メチル−2−オキサゾリジノン等に代表される複素環化合物; アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等に代表されるニトリル化合物などを好適に選択できる。これらの有機溶剤は、単独で用いても良く、あるいは2種以上を混合して用いても良い。
【0055】
(f)バインダ樹脂
この実施の形態に係る導電性高分子分散液は、例えば、該導電性高分子分散液から形成される導電性フィルムの耐久性および透明性の向上、基材との密着性向上などを目的として、バインダ樹脂、あるいは硬化してバインダ樹脂を形成可能な硬化性バインダ組成物を含んでいても良い。バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、あるいは熱可塑性樹脂であってもよい。バインダとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル; ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド12、ポリアミド11等のポリアミド; ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂; エポキシ樹脂; オキセタン樹脂; キシレン樹脂; アラミド樹脂; ポリイミドシリコーン; ポリウレタン; ポリウレア; メラミン樹脂; フェノール樹脂; ポリエーテル; アクリル樹脂; シリコーン樹脂; およびこれらの共重合体等が挙げられる。これら例示のバインダの中でも、基材との密着性が高いことから、ポリエステル、ポリウレタン、メラミン樹脂、オキセタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が好ましい。バインダ樹脂は、エマルジョンの形態で導電性高分子分散液中に混合されるのが好ましい。その場合、バインダ樹脂としては、特に、ポリエステル系エマルジョンとして含まれるのが好ましい。
【0056】
導電性高分子分散液中のバインダ樹脂は、π共役系導電性高分子/ポリアニオン複合体(導電性高分子)100質量部に対して1,000〜100,000質量部であることが好ましく、3,000〜50,000質量部であることがより好ましい。バインダ樹脂が前記下限値以上であれば、得られる導電性塗膜の強度を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、充分な導電性を確保できる。
【0057】
(g)その他添加剤
導電性高分子分散液には、必要に応じて、上記以外の添加剤が含まれてもよい。添加剤としては、π共役系導電性高分子およびポリアニオンと混合しうるものであれば特に制限されず、例えば、無機導電剤、界面活性剤、消泡剤、非ポリマー型のカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを混合できる。
【0058】
無機導電剤としては、金属イオン(金属塩を水に溶解させて形成する)類、導電性カーボン等が挙げられる。界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤; アミン塩、4 級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤; カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤; ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンレジン等が挙げられる。非ポリマー型のカップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有する非ポリマー型(質量平均分子量が200未満)のシランカップリング剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オギザニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。酸化防止剤と紫外線吸収剤とは併用することが好ましい。
【0059】
また、上記無機導電剤に代えて若しくは上記無機導電剤と併せて、導電性向上剤を混合しても良い。かかる導電性向上剤としては、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、2個以上のカルボキシ基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物などを例示できる。
【0060】
2個以上のヒドロキシ基を有する化合物としては、例えば、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、チオジエタノール、グルコース、酒石酸、D−グルカル酸、グルタコン酸等の多価脂肪族アルコール類; セルロース、多糖、糖アルコール等の高分子アルコール; 1,4−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、2,3−ジヒドロキシ−1−ペンタデシルベンゼン、2,4−ジヒドロキシアセトフェノン、2,5−ジヒドロキシアセトフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,6−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,5−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、2,2’,5,5’−テトラヒドロキシジフェニルスルフォン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、ヒドロキシキノンカルボン酸およびその塩類、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、1,4−ヒドロキノンスルホン酸およびその塩類、4,5−ヒドロキシベンゼン−1,3−ジスルホン酸およびその塩類、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン−2,6−ジカルボン酸、1,6−ジヒドロキシナフタレン−2,5−ジカルボン酸、1,5−ジヒドロキシナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸フェニルエステル、4,5−ジヒドロキシナフタレン−2,7−ジスルホン酸およびその塩類、1,8−ジヒドロキシ−3,6−ナフタレンジスルホン酸およびその塩類、6,7−ジヒドロキシ−2−ナフタレンスルホン酸およびその塩類、1,2,3−トリヒドロキシベンゼン(ピロガロール)、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、5−メチル−1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、5−エチル−1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、5−プロピル−1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシアセトフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾアルデヒド、トリヒドロキシアントラキノン、2,4,6−トリヒドロキシベンゼン、テトラヒドロキシ−p−ベンゾキノン、テトラヒドロキシアントラキノン、ガリック酸メチル(没食子酸メチル)、ガリック酸エチル(没食子酸エチル)等の芳香族化合物、ヒドロキノンスルホン酸カリウム等が挙げられる。
【0061】
2個以上のカルボキシ基を有する化合物としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マロン酸、1,4−ブタンジカルボン酸、コハク酸、酒石酸、アジピン酸、D−グルカル酸、グルタコン酸、クエン酸等の脂肪族カルボン酸類化合物; フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、5−スルホイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4,4’−オキシジフタル酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の、芳香族性環に少なくとも一つ以上のカルボキシ基が結合している芳香族カルボン酸類化合物; ジグリコール酸; オキシ二酪酸; チオ二酢酸(チオジ酢酸); チオ二酪酸; イミノ二酢酸; イミノ酪酸等が挙げられる。
【0062】
1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物としては、酒石酸、グリセリン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロパン酸、D−グルカル酸、グルタコン酸等が挙げられる。
【0063】
アミド基を有する化合物(アミド化合物ともいう)は、−CO−NH−(COの部分は二重結合)で表されるアミド結合を分子中に有する単分子化合物である。すなわち、アミド化合物としては、例えば、上記結合の両末端に官能基を有する化合物、上記結合の一方の末端に環状化合物が結合された化合物、上記両末端の官能基が水素である尿素および尿素誘導体などが挙げられる。アミド化合物の具体例としては、アセトアミド、マロンアミド、スクシンアミド、マレアミド、フマルアミド、ベンズアミド、ナフトアミド、フタルアミド、イソフタルアミド、テレフタルアミド、ニコチンアミド、イソニコチンアミド、2−フルアミド、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、プロピオンアミド、プロピオルアミド、ブチルアミド、イソブチルアミド、メタクリルアミド、パルミトアミド、ステアリルアミド、オレアミド、オキサミド、グルタルアミド、アジプアミド、シンナムアミド、グリコールアミド、ラクトアミド、グリセルアミド、タルタルアミド、シトルアミド、グリオキシルアミド、ピルボアミド、アセトアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ベンジルアミド、アントラニルアミド、エチレンジアミンテトラアセトアミド、ジアセトアミド、トリアセトアミド、ジベンズアミド、トリベンズアミド、ローダニン、尿素、1−アセチル−2−チオ尿素、ビウレット、ブチル尿素、ジブチル尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素およびこれらの誘導体等が挙げられる。また、アミド化合物として、アクリルアミドを使用することもできる。アクリルアミドとしては、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどが挙げられる。アミド化合物の分子量は46〜10,000であることが好ましく、46〜5,000であることがより好ましく、46〜1,000であることが特に好ましい。
【0064】
イミド基を有する化合物(イミド化合物ともいう)としては、その骨格より、フタルイミドおよびフタルイミド誘導体、スクシンイミドおよびスクシンイミド誘導体、ベンズイミドおよびベンズイミド誘導体、マレイミドおよびマレイミド誘導体、ナフタルイミドおよびナフタルイミド誘導体などが挙げられる。また、イミド化合物は、両末端の官能基の種類によって、脂肪族イミド、芳香族イミド等に分類されるが、溶解性の観点からは、脂肪族イミドが好ましい。さらに、脂肪族イミド化合物は、分子内の炭素間に不飽和結合を有する飽和脂肪族イミド化合物と、分子内の炭素間に不飽和結合を有する不飽和脂肪族イミド化合物とに分類される。飽和脂肪族イミド化合物は、R
3−CO−NH−CO−R
4で表される化合物であり、R
3,R
4の両方が飽和炭化水素である化合物である。具体的には、シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシイミド、アラントイン、ヒダントイン、バルビツル酸、アロキサン、グルタルイミド、スクシンイミド、5−ブチルヒダントイン酸、5,5−ジメチルヒダントイン、1−メチルヒダントイン、1,5,5−トリメチルヒダントイン、5−ヒダントイン酢酸、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、セミカルバジド、α,α−ジメチル−6−メチルスクシンイミド、ビス[2−(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン、α−メチル−α−プロピルスクシンイミド、シクロヘキシルイミドなどが挙げられる。不飽和脂肪族イミド化合物は、R
3−CO−NH−CO−R
4で表される化合物であり、R
3,R
4の一方または両方が1つ以上の不飽和結合である化合物である。その具体例としては、1,3−ジプロピレン尿素、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ヒドロキシマレイミド、1,4−ビスマレイミドブタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、1,8−ビスマレイミドオクタン、N−カルボキシヘプチルマレイミドなどが挙げられる。イミド化合物の分子量は60〜5,000であることが好ましく、70〜1,000であることがより好ましく、80〜500であることが特に好ましい。
【0065】
ラクタム化合物とは、アミノカルボン酸の分子内環状アミドであり、環の一部が−CO−NR
5−(R
5は水素または任意の置換基)である化合物である。ただし、環の一個以上の炭素原子が不飽和やヘテロ原子に置き換わっていてもよい。ラクタム化合物としては、例えば、ペンタノ−4−ラクタム、4−ペンタンラクタム−5−メチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリジノン、ヘキサノ−6−ラクタム、6−ヘキサンラクタム等が挙げられる。
【0066】
導電性向上剤の添加量は、導電性成分100質量部に対して10〜10,000質量部であることが好ましく、30〜5,000質量部であることがより好ましい。導電性向上剤の添加量が前記下限値以上かつ上限値以下であれば、帯電防止性をより向上させることができる。
【0067】
<2.導電性フィルムおよびフィルムの実施の形態>
本発明の実施の形態に係る導電性フィルムは、上述の導電性高分子分散液から溶剤を低減させて硬化して成る膜である。低減は、揮発と言い換えても良い。上述の導電性高分子分散液は、バインダ樹脂をさらに添加した塗料として用いるのが好ましい。導電性フィルムは、例えば、基体(例えば、フィルム状のものを基体フィルムと称する)上に塗工され、硬化して成る。すなわち、本願において、単にフィルムという場合には、該フィルムは、導電性フィルムを基体(基体フィルムともいう)上に積層して成る積層体を意味する。導電性フィルムは、導電性硬化体、導電性硬化層あるいは導電層と言い換えても良い。フィルムの好適な製造方法としては、押出成形により基材フィルムを連続作製しながら、その基材フィルムに導電性高分子分散液を連続塗工する方法を例示できる。なお、導電性フィルムを特に基材フィルム上に積層して成るものを、ここではフィルムと称する。なお、基体は、特に制約されないが、例えば、紙、プラスチック、鉄、セラミックス、ガラスなどを例示できる。基体への塗料の供給方法としては、グラビアコーテイング法、刷毛やバーコーターを使う塗布法、塗料中に基体を浸漬するディップ法、塗料を基体上に滴下して基体を回転させて塗料を拡げるスピンコート法などの種々の手法を例示できる。基体上の塗料の硬化法は、加熱若しくは自然乾燥により溶剤を除去する硬化法の他、紫外線などの光や電子線を照射する硬化法などを例示できる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明の製造例および実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
<製造例>
(製造例1)・・・ポリスチレンスルホン酸(可溶化高分子の一例)の製造
1,000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1,000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1,000ml溶液を除去し、残液に2,000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2,000mlの溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2,000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2,000mlの溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0070】
(製造例2)・・・PEDOT−PSS水溶液(π共役系導電性高分子とポリアニオンを含む導電性高分子水分散液の一例)の製造
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2,000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち、攪拌を行いながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくりと添加し、3時間攪拌して反応させた。得られた反応液に2,000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2,000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に、200mlの10質量%に希釈した硫酸と2,000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2,000mlの溶液を除去し、これに2,000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2,000mlの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。さらに、得られた溶液に2,000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2,000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、PEDOT−PSS水溶液としての約1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を得た。
【0071】
<実施例>
(実施例1)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液6gに、PEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。得られた導電性高分子溶液1gに水8gとプラスコートRZ105(互応化学社製、ポリエステルエマルジョン、固形分25%)1gを加えて塗料を作製した。得られた塗料を#4のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製 ルミラーT−60)上に塗布し120℃で1分間乾燥した。三菱化学社製ハイレスタを使用し、上記の要領にて得られた塗膜(単に、フィルムという)の抵抗値を測定した。また、得られたフィルムを25℃、50%の条件下で表面に空気が当たる状態(以下、この状態を大気暴露という)で14日間放置した後、抵抗値を測定した。これらの測定結果を、表1に示す。
(実施例2)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液5gに水1gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例3)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例4)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液3gに水3gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例5)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液2gに水4gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例6)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液1gに水5gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例7)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとイミダゾール0.85gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液3gに水3gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例8)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとイミダゾール0.85gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液2gに水4gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例9)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gとイミダゾール0.85gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液1gに水5gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例10)
パラトルエンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液3gに水3gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例11)
パラトルエンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液2gに水4gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例12)
パラトルエンスルホン酸2.6gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液1gに水5gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(実施例13)
パラトルエンスルホン酸2.6gとイミダゾール0.85gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液1gに水5gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
【0072】
<比較例>
(比較例1)
水6gとPEDOT−PSS水溶液6gとを混ぜて導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(比較例2)
エタンスルホン酸1.4gとイミダゾール0.85gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(比較例3)
エタンスルホン酸1.4gとトリエチルアミン1.3gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(比較例4)
パラトルエンスルホン酸2.6gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(比較例5)
2−ナフタレンスルホン酸2.6gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(比較例6)
エタンスルホン酸1.4gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(比較例7)
リン酸2.6gと水酸化ナトリウム1.1gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(比較例8)
2−モルホリノエタンスルホン酸2.6gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
(比較例9)
リン酸2.6gと酢酸1.6gを水25gに溶解し水溶液を得た。この水溶液4gに水2gとPEDOT−PSS水溶液6gを加え、導電性高分子溶液を得た。その後の工程は、実施例1と同一とした。実施例1と同様にして測定した抵抗値を、表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、各実施例のフィルムは、初期表面抵抗値が低く、大気暴露試験後も表面抵抗値の上昇が少なかった(初期表面抵抗値に対する変化率は20倍以下)。それに対し、各比較例のフィルムは、初期表面抵抗値が高く、大気暴露試験後の表面抵抗値の上昇が大きかった(初期表面抵抗値に対する変化率は45倍以上)。
【0075】
比較例2,3では、実施例と同様、酸とアルカリを添加しているものの、芳香族スルホ基含有モノマーと比べて酸性の強いエタンスルホン酸を用いているため、エタンスルホン酸がPEDOTのドーパントになりやすい傾向がある。しかし、エタンスルホン酸は、PSSと異なり可溶化高分子ではないため、導電性高分子の溶剤への不溶化が促進される。この結果、膜の導電性に寄与する導電性高分子が実質的に減少したことになったために、大気暴露に伴って導電性が低下したのではないかと考えられる。比較例7では、比較例2,3と同様の現象が生じている可能性もあるが、水酸化ナトリウムのナトリウムがPSSに配位しやすいため、PSSのPEDOTへのドープ量が減ったために、大気暴露に伴って導電性が低下したのではないかと考えられる。
【0076】
実施例では、PSSのPEDOTへのドープに悪影響を与えにくい芳香族スルホ基含有モノマーとアミン化合物とを用いているため、比較例に対して、耐大気暴露性が良好であったものと考えられる。また、全ての実施例にて作製された導電性高分子分散液を含む塗料において、導電性高分子の沈降は認められなかった。