(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス基板の表面に、視野側に位置する屈折率が1.45以下の低屈折率層とガラス基板側に位置する屈折率が1.55以上2.00未満の高屈折率層とを少なくとも含んでなる反射防止膜を形成した後、反射防止膜が形成されたガラス基板について、イオン交換法による化学強化処理を行うことにより高反射防止強化ガラスを製造する方法において、
ガラス基板に、
(a)下記式(1)で表されるケイ素化合物、
Rn−Si(OR1)4−n (1)
式中、Rは、アルキル基またはアルケニル基であり、
R1は、アルキル基またはアルコキシアルキル基であり、
nは、0〜2の整数である、
(b)ジルコニアおよび/またはチタニア粒子からなる高屈折率用無機酸化物粒子、および
(c)金属キレート化合物、
を含み、前記ケイ素化合物(a)と高屈折率用無機酸化物粒子(b)との質量比(a/b)が50/50〜95/5の範囲にあり、前記金属キレート化合物(c)は、ケイ素化合物(a)と高屈折率用無機酸化物粒子(b)との合計量100重量部当り、20重量部以下の範囲にある高屈折率用コート液を被覆し、次いで、
(a)前記式(1)で表されるケイ素化合物、
(d)内部に空洞を有する中空シリカ粒子、および
(c)金属キレート化合物、
を含み、前記ケイ素化合物(a)と中空シリカ粒子(d)との質量比(a/d)が50/50〜99/1の範囲にあり、前記金属キレート化合物(c)は、ケイ素化合物(a)と中空シリカ粒子(d)との合計量100重量部当り、20重量部以下の範囲にある低屈折率用コート液を被覆した後、
100〜500℃の温度で加熱して反射防止膜を形成し、次いで、イオン交換用金属塩融解液中で380〜500℃の温度で化学強化処理を行うことを特徴とする高反射防止強化ガラスの製造方法。
前記反射防止膜が形成された後、前記化学強化処理に先立ってガラス基板の形状加工を行うことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の高反射防止強化ガラスの製造方法。
【背景技術】
【0002】
ガラスの強度が高められた強化ガラスは、自動車や家屋の窓ガラスなどの用途に広く使用されているが、最近では、静電容量式タッチパネルの全面保護パネルや、デジタルカメラ、携帯電話などの各種モバイル機器のディスプレイなどの用途にも使用されている。
後者の強化ガラスは、形状が小さくかつ複雑であり、切断、端面加工、穴あけ加工などの形状加工を必要とする。しかしながら、強化後には、これらの形状加工が困難であるため、予めガラス基板を最終の製品形状に加工した後に強化処理が行われていた。
【0003】
ガラスの強化方法としては、急冷による物理強化法やイオン交換による化学強化法が知られているが、物理強化法は厚みが数mm以上のガラスを対象とし、厚みの薄いガラス基板に対しては効果的でない。従って、上記保護パネルやディスプレイなどの薄肉ガラスについては、化学強化法が一般に採用されている。
【0004】
ところで、イオン交換による化学強化法は、ガラス中に含まれる小さなイオン半径の金属イオン(例えばNaイオン)を、より大きなイオン半径の金属イオン(例えばKイオン)で置換することによって行われる。即ち、イオン半径の小さな金属イオンを、これよりも大きなイオン半径を有する金属イオンで置換することにより、ガラス表面には圧縮応力層を形成する。
この結果、このガラスが破壊されるには、分子間の結合を破壊する力に加えて表面の圧縮応力を取り除く力も必要となり、通常のガラスに比して、その強度が著しく向上するわけである。
【0005】
一方、イオン交換による化学処理によって強化された強化ガラスにおいても、反射防止機能その他の機能を要求される場合があり、特に、前述した保護パネルや各種のディスプレイなどにおいては、反射防止機能が要求されている。
反射防止機能を付与するためには、表面に低屈折率の反射防止膜を形成すればよい。このような反射防止膜の形成手段としては、大きく分けて、蒸着による方法とゾルゲル法による方法とが知られている。
蒸着法は、極めてコストの高い装置が必要となるため、工業的には、あまり実施されておらず、現在では、微細粒子を含むコーティング液を塗布し、加熱処理によるゲル化によって反射防止膜を形成するゾルゲル法が、生産コストが低く、生産も高いために、主流となっている。
このようなゾルゲル法により形成される反射防止膜としては、例えばケイ素化合物の加水分解縮合物、金属キレート化合物、および低屈折シリカ粒子とを含むものが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、化学処理によって得られる強化ガラスの表面に反射防止膜を形成するには、解決しなければならない大きな課題がある。
先に述べたように、強化ガラスの形状加工は強化処理前に行われるが、化学処理による強化ガラスにおいては、反射防止膜の形成を強化処理後に行わなければならない。反射防止膜を形成した後では、Kイオンをガラス内部に浸透させることができないため、強化処理を行うことができなくなってしまうためである。
しかるに、この強化処理(イオン交換による化学処理)に先立っては形状加工が行われているため、反射防止膜の形成はガラスの形状加工後に行われることとなる。従って、生産の高いゾルゲル法によって反射防止膜を形成するとしても、形状加工がなされた製品毎に反射防止膜を形成しなければならないため、その生産性は著しく低下してしまい、大面積の処理が可能なゾルゲル法の利点が完全に失われてしまう。
【0007】
上記課題を解決するために、反射防止膜を形成した後に化学処理でガラス強化をする方法が提案された。
一つは、表面に形成された反射防止膜中に含まれる無機微粒子の、粒子と粒子との間隙空間(以下、空隙という)を利用して、イオン交換を行いガラス強化する方法である(特許文献2)。しかしながら、この方法においては、イオン交換が可能となる空隙の制御が難しいという問題があった。
上記問題を解決するために、粒子と粒子との空隙を利用するのではなく、内部に空間を有する中空粒子を用いてその内部空間を介してイオン交換する方法が提案された(特許文献3)。この方法は、予め所定の空間容積を有する粒子を利用するので、上記空隙法に比べて、イオン交換の条件設定が容易であった。しかし、一方では、中空の無機粒子は多くは存在しないし、工業的な製法は限られていたので、利用できる無機粒子の種類が限られていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、反射防止膜は、その反射防止性能を向上させるためには、低屈折率層のみの一層ではなく、当該低屈折率層とガラス基板の間に高屈折率層を設けた二層とする、更にその性能を向上させるためには、高屈折率層とガラス基板との間に中屈折率層を設けた三層とする必要があった。
しかしながら、高屈折率層や中屈折率層には、所定の屈折率を発現させるために、シリカ粒子に比べて高屈折率のジルコニア粒子(屈折率2.10)やチタニア粒子(屈折率2.72)を配合しなければならない。
ところが、これら高屈折率粒子では中空の粒子は入手が困難であるため、前出の粒子の内部空間を利用したイオン交換ができなく、反射防止層が前記構造の二層、或いは三層である場合は、通常の条件では反射防止層を形成した後に複数の層を通してのイオン交換によるガラス強化処理が難しかった。
【0010】
本願発明者らは、表面に複数の層からなる反射防止膜を形成したガラス基板を、中空粒子の内部空間および粒子同士の空隙を利用して、イオン交換法によってガラス強化する方法について鋭意検討した結果、反射防止膜の組成と硬化条件、更にイオン交換条件(強化処理条件)を制御することにより、高度な反射防止機能を有し且つ強化されたガラス基板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明によって、
ガラス基板の表面に、視野側に位置する屈折率が1.45以下の低屈折率層とガラス基板側に位置する屈折率が1.55以上2.00未満の高屈折率層とを少なくとも含んでなる反射防止膜を形成した後、反射防止膜が形成されたガラス基板について、イオン交換法による化学強化処理を行うことにより高反射防止強化ガラスを製造する方法において、
ガラス基板に、
(a)下記式(1)で表されるケイ素化合物、
R
n−Si(OR
1)
4−n (1)
式中、Rは、アルキル基またはアルケニル基であり、
R
1は、アルキル基またはアルコキシアルキル基であり、
nは、0〜2の整数である、
(b)ジルコニアおよび/またはチタニア粒子からなる高屈折率用無機酸化物粒子、および
(c)金属キレート化合物、
を含み、前記ケイ素化合物(a)と高屈折率用無機酸化物粒子(b)との質量比(a/b)が50/50〜95/5の範囲にあり、前記金属キレート化合物(c)は、ケイ素化合物(a)と高屈折率用無機酸化物粒子(b)との合計量100重量部当り、20重量部以下の範囲にある高屈折率用コート液を被覆し、次いで、
(a)前記式(1)で表されるケイ素化合物、
(d)内部に空洞を有する中空シリカ粒子、および
(c)金属キレート化合物、
を含み、前記ケイ素化合物(a)と中空シリカ粒子(d)との質量比(a/d)が50/50〜99/1の範囲にあり、前記金属キレート化合物(c)は、ケイ素化合物(a)と中空シリカ粒子(d)との合計量100重量部当り、20重量部以下の範囲にある低屈折率用コート液を被覆した後、
100〜500℃の温度で加熱して反射防止膜を形成し、次いで、イオン交換用金属塩融解液中で380〜500℃の温度で化学強化処理を行うことを特徴とする高反射防止強化ガラスの製造方法が提供される。
【0012】
上記高反射防止強化ガラスの製造方法の発明において、
1)反射防止膜が、高屈折率層の基板側に更に屈折率が1.50以上1.90未満であって高屈折率層より小さい屈折率の中屈折率層を有し、
高屈折率用コート液を被覆する前に、
(a)前記式(1)で表されるケイ素化合物、
(e)ジルコニアおよび/またはチタニア粒子からなる中屈折率用無機酸化物粒子、および
(c)金属キレート化合物、
を含み、前記ケイ素化合物(a)と中屈折率用無機酸化物粒子(e)との質量比(a/e)が50/50〜95/5の範囲にあり、前記金属キレート化合物(c)は、ケイ素化合物(a)と中屈折率用無機酸化物粒子(b)との合計量100重量部当り、20重量部以下の範囲にある中屈折率用コート液を被覆すること
2)前記ケイ素化合物が、テトラエトキシシランであること
3)200〜300℃の温度で加熱して反射防止膜を形成すること
4)380〜480℃の温度で化学強化処理を行うこと
が好適である。
更に、前記反射防止膜が形成された後、前記化学強化処理に先立ってガラス基板の形状加工を行うことを特徴とする発明が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法により、内部に空洞を有する中空シリカ粒子を含有する屈折率層と内部に空洞が存在しない無機酸化物粒子(以下、中実無機酸化物粒子ともいう)を含有する屈折率層が積層された複合反射防止膜を有するガラス基板を、反射防止膜の形成後に一括処理でガラス強化が可能となり、工業的に極めて有用である。中空シリカ粒子と中実無機酸化物粒子とでは、前述したとおり、イオン交換によるガラス強化のメカニズムが相違するため、単一工程でのガラス強化は従来難しかった。
更に本発明では、形状加工前の段階で反射防止膜を強化ガラスとなるガラス基板表面に形成することができるため、その生産性が極めて高く、しかも低コストで強化ガラスの表面に反射防止膜を有する強化ガラス製品を製造することができる。得られた強化ガラスは、多層からなる反射防止膜を有するので、最低反射率が下がる、又は、広範囲の波長の光に対して反射防止性に優れる。
このような強化ガラス製品は、ガラス基板の薄い製品、例えば静電容量式タッチパネルの全面保護パネルや、デジタルカメラ、携帯電話などの各種モバイル機器のディスプレイなどの用途に好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<反射防止膜の形成>
本発明において、反射防止膜が三層からなる場合は、中屈折率層、高屈折率層および低屈折率層が順に積層され、中屈折率層がガラス基板に密着している。反射防止膜が二層からなる場合は、中屈折率層が存在せずに、高屈折率層および低屈折率層が順に積層され、高屈折率層がガラス基板に密着している。
【0015】
<ガラス基板>
ガラス基板としては、化学強化処理による強化が可能な組成を有するものである限り、種々の組成のものを使用することができるが、イオン半径がより小さいアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンを含むガラスが好適である。例えば、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、含アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、含アルカリホウケイ酸塩ガラスなどが好適であり、これらの中でもNaイオンを含むものが最も好適である。Naイオンを5重量%以上含むガラスは、最も好適である。
このガラス基板の厚みは、特に制限されるものではないが、一般に、後述する化学強化処理を効果的に行うために、通常、1mm以下の範囲にあることが好ましい。
【0016】
<低屈折率層の形成>
低屈折率層は屈折率が1.45以下の層であって、下記成分を含んでなる低屈用コーティング液を被覆、乾燥、加熱して形成する。即ち、低屈用コーティング液は、
(a)式(1)で表されるケイ素化合物、
R
n−Si(OR
1)
4−n (1)
式中、Rは、アルキル基またはアルケニル基であり、
R
1は、アルキル基またはアルコキシアルキル基であり、
nは、0〜2の整数である、
(d)内部に空洞を有する中空シリカ粒子、および
(c)金属キレート化合物、
を含み、前記ケイ素化合物(a)と中空シリカ粒子(d)との質量比(a/d)が50/50〜99/1の範囲で、前記金属キレート化合物(c)は、ケイ素化合物(a)と中空シリカ粒子(d)との合計量100重量部当り、20重量部以下の範囲で構成される。
【0017】
(a)ケイ素化合物
ガラス基板に対して密着性が良好で且つ緻密で高強度の膜を形成するためのバインダーの役目をなす成分であり、上記式(1)で表される。
具体的に化合物を例示すると、n=0のケイ素化合物として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルコキシシラン;n=1のケイ素化合物として、メチルトリメトキシ(エトキシ)シラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシ(エトキシ)シラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン;n=2のケイ素化合物として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシランなどを挙げることができる。
本発明においては、上記で例示した化合物の中でも特に、n=0及びn=1であるケイ素化合物が強度保持の点で好適であり、中でもテトラエトキシシラン及びγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが、三次元網目状に連なった緻密で高強度の膜を形成しうるため、最適である。
【0018】
(d)中空シリカ粒子
内部に空洞を有するシリカからなる粒子であり、通常その粒径(レーザ回折散乱法による体積基準の平均粒径)が5〜150nmで、外殻層の厚みが1〜15nm程度の範囲にある微細な中空粒子である。その内部空洞を利用してイオン交換を行うが、屈折率が1.45以下の層を形成して優れた反射防止能を発揮するために必要な成分でもある。このため、中空シリカ粒子の屈折率が、1.20〜1.38の範囲のものを選択することが好適である。
当該中空シリカ粒子(d)は、例えば特開2001−233611号公報等により公知のものであるが、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールに分散させた分散液の状態で一般に市販されているので、市販品を入手して利用することが好ましい。
【0019】
ケイ素化合物(a)と中空シリカ粒子(d)との質量比(a/d)は50/50〜99/1であることが必要である。
両者の配合比における、中空シリカ粒子の下限値[1]は、イオン交換を容易にして強化処理が可能となる観点から決定され、上限値[50]は、得られる低屈折率層の耐擦傷性並びに高屈折率層との密着性の観点から決定される。即ち下限値未満では効果的な化学強化処理ができず、上限値を超えると低屈折率層の機械的強度低下し且つ高屈折率層から剥がれやすくなる。上記観点から、質量比(a/d)が80/20〜98/2が好ましい。
【0020】
(c)金属キレート化合物
架橋剤としての機能を有する成分であり、形成される反射防止膜をより緻密なものとし、前述した中空シリカゾルの配合による膜の強度や硬度の低下を有効に抑制する。
該金属キレート化合物(c)は、二座配位子を代表例とするキレート剤が、チタン、ジルコニウム、アルミニウムなどの金属に配位した化合物である。
具体的には、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトネート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトネート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトネート)チタン、テトラキス(アセチルアセトネート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトネート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトネート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトネート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等のチタンキレート化合物;
トリエトキシ・モノ(アセチルアセトネート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトネート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトネート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトネート)ジルコニウム、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ(アセチルアセトネート)トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ビス(アセチルアセトネート)ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリス(アセチルアセトネート)モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物;
ジエトキシ・モノ(アセチルアセトネート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトネート)アルミニウム、ジ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトネート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物
などが挙げられる。
【0021】
上記金属キレート化合物(c)は、ケイ素化合物(a)と中空シリカ粒子(d)との合計量100重量部当り、20重量部以下、好ましくは0.01〜20重量部、特に好ましくは0.1〜10重量部以下である。この配合量が多すぎると、金属キレート化合物が反射防止膜中に析出し、外観不良を引き起こしてしまう。この配合量が少ないと、反射防止膜の強度や硬度が低下し、ガラス基板の化学強化処理の実効性が不満足なものとなってしまう。
【0022】
前記低屈用コーティング液は、通常、被覆を容易にするため、有機溶媒に上記必須成分を溶解或いは分散させて使用される。代表的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルセロソルブ、エチレングリコール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒が使用される。特にアルコール系溶媒が好ましく使用される。
有機溶媒の使用量は、低屈用コーティング液の粘度が垂れ等を生ぜず、コーティングに適した範囲となるような量であればよい。一般的には、全固形分濃度が全重量の0.1〜20重量%になる様な量で有機溶媒を使用すればよい。尚、前述した中空シリカ粒子(d)は、アルコール系溶媒等の分散媒に分散されて市販されているため、上記の有機溶媒量は、この分散媒の量を含めた値である。
さらに、ケイ素化合物(a)の加水分解、縮合を促進させるために、塩酸水溶液等の酸水溶液を適宜の量で低屈用コーティング液中に配合することもできる。
【0023】
上記低屈用コーティング液を、後述する高屈折率層の上に塗布、乾燥し、次いで加熱して低屈折率層を形成するが、加熱による熱処理は通常各層を塗布、乾燥した後に一括して実施する。
塗布方法は特に制限されず、ディップコート法、ロールコート法、ダイコート法、フローコート法、スプレー法等の方法が採用されるが、外観品位や膜厚制御の観点からディップコート法が好適である。
【0024】
<高屈折率層の形成>
低屈折率層は屈折率が1.60以上2.00未満の層であって、下記成分を含んでなる高屈用コーティング液を塗布、乾燥、加熱して形成する。即ち、高屈用コーティング液は、
(a)前記式(1)で表されるケイ素化合物、
(b)ジルコニアおよび/またはチタニア粒子からなる高屈折率用無機酸化物粒子、および
(c)金属キレート化合物、
を含み、前記ケイ素化合物(a)と高屈折率用無機酸化物粒子(b)との質量比(a/b)が50/50〜95/5の範囲にあり、前記金属キレート化合物(c)は、ケイ素化合物(a)と高屈折率用無機酸化物粒子(b)との合計量100重量部当り、20重量部以下の範囲で構成される。
高屈用コーティング液に使用される、(a)ケイ素化合物および(c)金属キレート化合物は、前記低屈用コーティング液に使用されるものがそのまま、同様の配合量で使用される。
【0025】
(b)高屈折率用無機酸化物粒子
当該高屈折率用無機酸化物粒子は、屈折率が2.10で内部に空洞を有しないジルコニア粒子、同じく内部に空洞を有しない屈折率が2.72のチタニア粒子を単独、または混合して、高屈折率層の屈折率が1.60以上2.00未満の層となるように適宜決定され用いられる。
ケイ素化合物(a)と高屈用無機酸化物粒子(b)との質量比(a/b)は、50/50〜95/5とする必要がある。
両者の配合比における、高屈用無機酸化物粒子の下限値[5]は、イオン交換を容易にして強化処理が可能となる観点から決定され、粒子間の空隙を形成させるため、中空シリカより比較的多くの量が必要となる。上限値[50]は、得られる高屈折率層の耐擦傷性並びにガラス基板との密着性の観点から決定される。即ち下限値未満では効果的な化学強化処理ができず、上限値を超えると高屈折率層の機械的強度低下し且つガラス基板から剥がれやすくなる。上記観点から、質量比(a/b)が55/45〜90/10が好ましい。
当該高屈折率用無機酸化物粒子(b)は、通常アルコール系溶媒等の分散媒に分散されて市販されているため、中空シリカ粒子(d)同様、この分散媒はコーティング液中の有機溶媒として考慮しなければならない。
【0026】
(c)金属キレート化合物
金属キレート化合物(c)は、低屈折率層のものと同一のものを使用できる。また配合量も同様の量である。
【0027】
高屈用コーティング液は、低屈用コーティング液と同じく、有機溶媒や酸水溶液が適宜使用される。ガラス基板上への塗布方法も同様な方法が採用されるが、ディップコート法が好適である。
【0028】
<中屈折率層の形成>
反射防止膜が三層からなる場合は、高屈折率層とガラス基板との間に、屈折率が1.50以上1.75未満の中屈折率層が設けられる。なお、この中屈折率層の屈折率は、その上に積層される高屈折率層の屈折率より、必ず小さいものとする必要がある。
中屈折率層は、下記成分を含んでなる高屈用コーティング液、
(a)前記式(1)で表されるケイ素化合物、
(e)ジルコニアおよび/またはチタニア粒子からなる中屈折率用無機酸化物粒子、および
(c)金属キレート化合物、
を含み、前記ケイ素化合物(a)と中屈折率用無機酸化物粒子(e)との質量比(a/e)が50/50〜95/5の範囲から構成される。質量比(a/e)が55/45〜90/10が好ましい。
当該質量比(a/e)の範囲並びにその限定理由は、高屈折率層のそれらに準じる。また、金属キレート化合物(c)、有機溶媒や酸水溶液も低屈用コーティング液に準じて適宜使用され、ガラス基板上への塗布方法も同様な方法が採用されるが、ディップコート法が好適である。
中屈用コーティング液に使用される、(a)ケイ素化合物、(e)ジルコニアおよび/またはチタニア粒子からなる中屈折率用無機酸化物粒子、および(c)金属キレート化合物は、前記高屈用コーティング液に使用されるものがそのまま使用されるが、ジルコニアおよび/またはチタニア粒子からなる中屈折率用無機酸化物粒子(e)は、中屈折率層の前記屈折率の範囲並びに高屈折率層より小さくすることを考慮して、その使用及び混合比が決定される。中屈折率用無機酸化物粒子(e)の分散媒についても同様に有機溶媒としての考慮が必要である。
【0029】
<ガラス基板上への反射防止膜の形成>
前出のガラス基板上へ、反射防止膜が二層の場合は、高屈用コーティング液を塗布、乾燥し、次いで低屈用コーティング液を塗布、乾燥し、その後加熱による熱処理をして硬化、焼付けを行う。反射防止膜が三層の場合は、高屈用コーティング液の塗布に先立って、中屈用コーティング液を塗布し乾燥する。
乾燥処理は特に限定されないが、通常、70〜100℃の温度で、0.5〜1時間程度実施すればよい。
本発明においては、乾燥後に一括して実施される加熱条件が極めて重要であり、100℃〜500℃の範囲で加熱して硬化、焼付け処理を実施しなければならない。100℃未満の加熱では、ケイ素化合物(a)の加水分解及び金属キレート化合物を適宜取り込んでの縮合が十分進行せず十分な強度の反射防止膜が形成されない。500℃を超えると、加水分解及び縮合が進みすぎて、ケイ素化合物(a)がほぼ完全にシリカ成分となってしまい、後述の反射防止層を通してのイオン交換が進行せずに強化処理が困難となる。当該理由から、加熱は、200℃〜300℃が特に好ましい。
得られる反射防止膜の各層の厚みは、反射防止性能とイオン交換の観点から、通常50〜150nmの範囲とされる。更に、好ましい各層の厚みは70〜100nmの範囲に設定される。
【0030】
≪形状加工≫
上記方法に従って、ガラス基板上に強固な反射防止膜が形成された基板は、化学強化処理を行うに先立って、用途に応じた形状加工、例えば切断、端面加工、穴あけ加工などの機械的加工が行われる。即ち、化学強化処理を行ってガラス基板を強化ガラスとした後では、このような機械加工が困難となってしまうためである。かかる形状加工によって、反射防止膜を備えたガラス基板は、最終の製品形状とされる。
【0031】
≪化学強化処理≫
ガラス基板上に強固な反射防止膜が形成された基板は、形状加工の有無に係わらず、次に化学強化処理が実施される。ガラス基板中に含まれるイオン半径の小さな金属イオンを、イオン半径の大きな金属イオンに置換することにより、表面に圧縮応力層が形成されガラス基板の高強度化を図るものである。これによって、表面に反射防止膜を備えた強化ガラス製品を得ることができる。
この化学強化処理は、具体的には、反射防止膜を備えたガラス基板を、大きな金属イオンを含むイオン交換用金属塩の融液に浸漬などによって接触させることにより、ガラス基板中の小さな金属イオンが大きな金属イオンと置換される。例えば、Naイオンを含むガラス基板に硝酸カリウム等のカリウム塩の金属塩融液と接触させることにより、イオン半径の小さなNaイオンは、イオン半径の大きなKイオンに置換され、高強度の強化ガラスとなる。
本発明においては、中空シリカ粒子を含む反射防止層に加えて内部空間を有さないジルコニア粒子やチタニア粒子を含む反射防止層があるため、両層を通してイオン交換するには、金属塩融液中での加熱温度の制御が重要となり、380℃〜500℃の範囲で実施しなければならない。380℃未満では、硝酸カリウムが十分溶融できずイオン交換が不十分となる。500℃を超えると硝酸カリウムの分解が始まるため、化学強化処理に危険性が伴う。そのため、380℃〜480℃の範囲が好ましい。処理時間は、通常、3〜16時間程度である。
【0032】
本発明によって得られる高反射防止強化ガラスは、前記層構成のものに限定されない。例えば、反射防止膜の保護の目的で、反射防止膜の表面にオーバーコート層を設けることができる。このようなオーバーコート層としては、耐磨耗性、耐擦傷性を付与する有機ポリシロキサン系材料やフッ素樹脂系のコート層を挙げることができる。
更に、ガラス基板の裏側には、アクリル系、ゴム系、シリコーン系の粘着剤からなる、粘着剤層を設けることができる。更にまた、ガラス基板の表及び裏の両面に、反射防止膜を形成してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
以下の実施例及び比較例で用いた各種成分と略号、並びに試験方法は、次の通りである。
【0034】
(a)ケイ素化合物
TEOS:テトラエトキシシラン
(b),(e)無機酸化物粒子
ZrO
2粒子:ジルコニア粒子(平均粒径:61.9nm、固形分:30重量%、
分散溶媒:メタノール、屈折率:2.40)
TiO
2粒子:チタニア粒子(平均粒径:108.8nm、固形分:15重量%、
分散溶媒:メタノール、屈折率:2.71)
(c)金属キレート化合物
AlAA:アルミニウムモノアセチルアセトネートビス
(エチルアセトアセテート)
(d)中空シリカ粒子
平均粒径:40nm、屈折率:1.25(イソプロピルアルコールを分散溶媒とし
た、固形分20重量%のシリカゾルを使用)
(f)その他
溶媒 :イソプロピルアルコール(IPA)
加水分解触媒 :0.05N塩酸
ガラス基板 :ソーダライムガラス製板ガラス(50mm×90mm×1.1m)
【0035】
(1)光線反射率
日本分光(株)社製「V−570」試験機を使用して、最低反射率について、測定した。
(2)表面硬度
スチールウール♯0000を使用し、1kg/cm
2の荷重をかけながら試験体表面を20往復摺擦し(1往復/秒、距離45mm/1往復)、反射防止膜表面の傷の発生の有無を肉眼で観察し、以下の基準で評価を行った。
○:反射防止膜の変化が認められない
△:線状の擦り跡はあるが反射防止膜自体の剥がれは認められない
×:反射防止膜の剥がれが認められる
(3)圧縮応力値測定(ガラス強度)
(有)折原製作所製「FSM−6000LE」を使用して、化学強化ガラス表面の屈折率差(イオン置換起因)による表面応力CS(MPa)及び応力層深さDOL(μm)を測定した。CS及びDOL値は大きいほど強化度が大きいことを示す。ソーダライムガラスを強化する場合、DOL値は10μm程度あれば十分強化ガラスとして機能する。
【0036】
実施例1
下記組成の低屈用コーティング液と高屈用コーティング液を用意した。
低屈用コーティング液:
TEOS :97.5g
0.05N塩酸 :46.4g
中空シリカ粒子 :2.5g
IPA :839.0g
AlAA :6.83g
を、室温で混合して調製した。
高屈用コーティング液:
TEOS :54.0g
0.05N塩酸 :25.7g
ZrO
2粒子 :46.0g
IPA :767.0g
AlAA :0.95g
を、室温で混合して調製した。
先ず、上記高屈用コーティング液を、ディップコート法によりガラス基板(ソーダライムガラス)に塗布し、100℃で0.5時間乾燥した。次いで同様に低屈用コーティング液を塗布し、100℃で0.5時間乾燥した。その後、300℃で2時間加熱して、二層からなる反射防止膜の形成(硬化、焼付け)を行った。
次に、反射防止膜が形成されたガラス基板を、溶融した硝酸カリウムに390℃で16時間浸漬して化学強化処理を行って、高反射防止強化ガラスを得た。
当該ガラス試料を5個作成し、それぞれ、前述した方法にしたがって、光線反射率、ガラス強度及び表面硬度の評価を行い、その結果をコーティング液(反射防止膜)の組成と共に、表1に示した。尚、光線反射率及びガラス強度については、5つの試料の平均値を示した。
【0037】
実施例2〜6
表1に示す組成の、低屈用コーティング液および高屈用コーティング液を用いた以外は、実施例1と同様にして、高反射防止強化ガラスを作製し、同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0038】
実施例7
実施例2において、450℃で4時間浸漬して化学強化処理を行った以外は、同様に処理して高反射防止強化ガラスを作製し、同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0039】
実施例8
実施例5において、450℃で4時間浸漬して化学強化処理を行った以外は、同様に処理して高反射防止強化ガラスを作製し、同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0040】
実施例9
実施例5において、150℃で2時間加熱して反射防止膜の形成を行った以外は同様に処理して高反射防止強化ガラスを作製し、同様に測定を行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例10
実施例5において、450℃で2時間加熱して反射防止膜の形成を行った以外は同様に処理して高反射防止強化ガラスを作製し、同様に測定を行った。結果を表2に示す。
【0043】
実施例11
下記組成の低屈用コーティング液と高屈用コーティング液を用意した。
低屈用コーティング液:
TEOS :97.5g
0.05N塩酸 :46.41g
SiO
2粒子 :2.5g
IPA :839.0g
AlAA :6.83g
を、室温で混合して調製した。
高屈用コーティング液:
TEOS :80.0g
0.05N塩酸 :38.08g
TiO
2粒子 :20.0g
IPA :744.0g
AlAA :5.61g
を、室温で混合して調製した。
実施例1と同様にして、ガラス基板上に高屈用コーティング液、低屈用コーティング液を順次塗布、乾燥した後、500℃で2時間加熱して、反射防止膜の形成を行い、次いで溶融した硝酸カリウムに、390℃で16時間浸漬して化学強化処理を行って高反射防止強化ガラスを得た。結果を表2に示す。
【0044】
比較例1〜3
表1に示す組成の高屈用コーティング液、低屈用コーティング液を用いて、実施例1と同様の処理を行って高反射防止強化ガラスの作製を試みた。
比較例1においては、高屈用コーティング液中のジルコニア粒子の含有量を本発明の範囲の上限を超える量とした。比較例2においては、反射防止膜の形成(硬化、焼付け)温度を550℃、比較例3においては、形成温度を600℃とした。結果を表2に示す。
比較例2および3においては、CS,DOLともに測定不能であり、ガラス強化がなされていないことが分かった。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例12
実施例1において、下記組成の高屈用コーティング液と中屈用コーティング液を使用して、高屈用コーティング液の塗布に先立って、同様の条件で中屈用コーティング液を塗布、乾燥した以外は、実施例1と同様にして三層の反射防止膜を有する高反射防止強化ガラスを作製し、同様に測定を行った。結果を表3に示す。三層からなる反射防止膜を形成したガラス基板においても、本発明の方法により十分なガラスの強化が進行することが分かった。
高屈用コーティング液:
TEOS :59.0g
0.05N塩酸 :28.08g
TiO
2粒子 :41.0g
IPA :636.0g
AlAA :4.14g
を、室温で混合して調製した。
中屈用コーティング液:
TEOS :80.0g
0.05N塩酸 :38.08g
ZrO
2粒子 :20.0g
IPA :815.0g
AlAA :1.40g
を、室温で混合して調製した。
【0047】
【表3】