特許第6606483号(P6606483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンファインテックミヨタ株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧

特許6606483圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法
<>
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000004
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000005
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000006
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000007
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000008
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000009
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000010
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000011
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000012
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000013
  • 特許6606483-圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606483
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 23/26 20060101AFI20191031BHJP
   G01L 19/14 20060101ALI20191031BHJP
   G01L 23/10 20060101ALI20191031BHJP
   F02D 35/00 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   G01L23/26
   G01L19/14
   G01L23/10
   F02D35/00 368Z
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-187827(P2016-187827)
(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公開番号】特開2018-54347(P2018-54347A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友亮
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和生
(72)【発明者】
【氏名】須藤 亜木
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓介
(72)【発明者】
【氏名】永井 正勝
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−139453(JP,A)
【文献】 特開2013−156171(JP,A)
【文献】 特開2004−037388(JP,A)
【文献】 特開2002−257658(JP,A)
【文献】 米国特許第05777239(US,A)
【文献】 特開2017−211349(JP,A)
【文献】 特開2005−207828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00−23/32
G01L 27/00−27/02
F02D 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体で構成される筒状の胴体部と、
導電体で構成されるとともに前記胴体部の一端部側に取り付けられ、外部から圧力を受ける受圧部と、
前記胴体部の内側に設けられ、前記受圧部と電気的に接続されるとともに当該受圧部が受けた圧力に応じた信号を発生する信号発生部と、
前記胴体部および前記受圧部よりも熱伝導率が低い絶縁体で構成され、当該受圧部の外周面および当該胴体部の当該受圧部側の外周面を連続して覆う被覆部と
を有する圧力検出装置。
【請求項2】
前記被覆部は、前記胴体部および前記受圧部の上に設けられる第1被覆層と、当該第1被覆層の上に設けられるとともに当該第1被覆層よりも気孔率が高い第2被覆層とを備えることを特徴とする請求項1記載の圧力検出装置。
【請求項3】
前記被覆部は、前記第2被覆層の上に設けられるとともに当該第2被覆層よりも気孔率が低い第3被覆層をさらに備えることを特徴とする請求項2記載の圧力検出装置。
【請求項4】
一端部側となる燃焼室内と他端部側となる燃焼室外とを連通する連通孔が形成されたシリンダヘッドと、
前記連通孔に挿入されることで前記シリンダヘッドに取り付けられるとともに、前記燃焼室内の圧力を検出する圧力検出装置と
を備え、
前記圧力検出装置は、
前記連通孔の内部と外部とに跨って配置され、導電体で構成される筒状の胴体部と、
導電体で構成されるとともに前記胴体部の前記一端部側に取り付けられ、前記燃焼室から圧力を受ける受圧部と、
前記胴体部の内側に設けられ、前記受圧部と電気的に接続されるとともに当該受圧部が受けた圧力に応じた信号を発生する信号発生部と、
前記胴体部および前記受圧部よりも熱伝導率が低い絶縁体で構成され、当該受圧部の外周面および当該胴体部の外周面のうち、前記連通孔の内部に位置する部位を連続して覆う被覆部と
を有する圧力検出装置付き内燃機関。
【請求項5】
導電体で構成される筒状の胴体部の一端部側に、導電体で構成されるとともに外部から圧力を受ける受圧部を、電気的に接続した状態で取り付け、
前記胴体部および前記受圧部の外周面に、エアロゾルデポジション法を用いて、無機絶縁体からなる被覆部を形成し、
前記胴体部の内側に、前記受圧部が受けた圧力に応じた信号を発生する信号発生部を、当該受圧部と電気的に接続した状態で取り付ける、
圧力検出装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力検出装置、圧力検出装置付き内燃機関、圧力検出装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関等の燃焼室内の圧力を検出する圧力検出装置として、圧電素子等の信号発生部を使用したものが提案されている。
【0003】
特許文献1には、金属製の筒状のハウジング(筐体)と、筐体の先端側に取り付けられることで外部から圧力を受ける金属製のダイアフラムヘッド(受圧部)と、筐体内であって受圧部の後端側に配置され、受圧部を介して作用する圧力を検出する圧電素子(信号発生部)とを備え、受圧部を介して信号発生部のグランドと筐体とを電気的に接続した圧力検出装置が記載されている。また、特許文献1には、この圧力検出装置を、内燃機関のシリンダヘッドに設けられた連通孔に挿入することで、筐体とシリンダヘッドとを電気的に接続するとともに、受圧部を燃焼室に対向させて配置することが記載されている。なお、特許文献1では、シリンダヘッドが接地体として機能しており、信号発生部のグランドは、受圧部、筐体およびシリンダヘッドを介して接地されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−156171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、信号発生部のグランドと電気的に接続された筐体(導電体)を、導電体で構成された被装着体(例えばシリンダブロック)に取り付けることで筐体と被装着体とを導通させ、さらに、この被装着体を接地する構成を採用した場合、被装着体から筐体を介して、圧力検出装置にノイズが侵入することがある。そして、このようなノイズは、信号発生部からの出力に基づいて求められる圧力に誤差を生じさせる要因となり得る。
【0006】
また、受圧部が受けた圧力を信号発生部に伝達する構成を採用した場合、受圧部に圧力とともに熱が加えられると、受圧部が熱膨張によって変形し、受圧部から信号発生部に伝達される圧力が、本来伝達されるべき大きさに比べて増加または減少するという事態が生じる。すると、信号発生部で生じる出力値が、本来出力されるべき大きさに比べて増加または減少することとなってしまい、信号発生部の出力に基づいて求められる圧力に誤差が含まれることになってしまう。
【0007】
本発明は、外部からのノイズに起因する出力値の誤差の低減と、圧力を受ける受圧部の熱膨張に起因する出力値の誤差の低減とを図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧力検出装置は、導電体で構成される筒状の胴体部と、導電体で構成されるとともに前記胴体部の一端部側に取り付けられ、外部から圧力を受ける受圧部と、前記胴体部の内側に設けられ、前記受圧部と電気的に接続されるとともに当該受圧部が受けた圧力に応じた信号を発生する信号発生部と、前記胴体部および前記受圧部よりも熱伝導率が低い絶縁体で構成され、当該受圧部の外周面および当該胴体部の当該受圧部側の外周面を連続して覆う被覆部とを有している。
ここで、前記被覆部は、前記胴体部および前記受圧部の上に設けられる第1被覆層と、当該第1被覆層の上に設けられるとともに当該第1被覆層よりも気孔率が高い第2被覆層とを備えるとよい。
また、前記被覆部は、前記第2被覆層の上に設けられるとともに当該第2被覆層よりも気孔率が低い第3被覆層をさらに備えるとよい。
また、他の観点から捉えると、本発明の圧力検出装置付き内燃機関は、一端部側となる燃焼室内と他端部側となる燃焼室外とを連通する連通孔が形成されたシリンダヘッドと、前記連通孔に挿入されることで前記シリンダヘッドに取り付けられるとともに、前記燃焼室内の圧力を検出する圧力検出装置とを備え、前記圧力検出装置は、前記連通孔の内部と外部とに跨って配置され、導電体で構成される筒状の胴体部と、導電体で構成されるとともに前記胴体部の前記一端部側に取り付けられ、前記燃焼室から圧力を受ける受圧部と、前記胴体部の内側に設けられ、前記受圧部と電気的に接続されるとともに当該受圧部が受けた圧力に応じた信号を発生する信号発生部と、前記胴体部および前記受圧部よりも熱伝導率が低い絶縁体で構成され、当該受圧部の外周面および当該胴体部の外周面のうち、前記連通孔の内部に位置する部位を連続して覆う被覆部とを有している。
さらに、他の観点から捉えると、本発明の圧力検出装置の製造方法は、導電体で構成される筒状の胴体部の一端部側に、導電体で構成されるとともに外部から圧力を受ける受圧部を、電気的に接続した状態で取り付け、前記胴体部および前記受圧部の外周面に、エアロゾルデポジション法を用いて、無機絶縁体からなる被覆部を形成し、前記胴体部の内側に、前記受圧部が受けた圧力に応じた信号を発生する信号発生部を、当該受圧部と電気的に接続した状態で取り付けるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外部からのノイズに起因する出力値の誤差の低減と、圧力を受ける受圧部の熱膨張に起因する出力値の誤差の低減とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る圧力検出システムの概略構成図である。
図2図1のII部の拡大図である。
図3】圧力検出装置の概略構成図である。
図4図3のIV−IV部の断面図である。
図5図4のV部の拡大図である。
図6図5のVI部の拡大図である。
図7】圧力検出装置の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図8】絶縁層の形成に用いられる成膜装置の概略構成図である。
図9】(a)〜(g)は、アンテナ照射試験の結果を示す図である。
図10】(a)〜(g)は、アンテナ照射試験の結果(続き)を示す図である。
図11】(a)〜(g)は、アンテナ照射試験の結果(続き)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[圧力検出システムの構成]
図1は、本実施の形態に係る圧力検出システムの概略構成図である。
図2は、図1のII部の拡大図である。
この圧力検出システムは、内燃機関1における燃焼室C内の圧力(燃焼圧)を検出する圧力検出装置5と、圧力検出装置5に対する給電を行うとともに圧力検出装置5が検出した圧力に基づいて内燃機関1の動作を制御する制御装置6と、圧力検出装置5と制御装置6とを電気的に接続して電気信号を伝送する伝送ケーブル8と、を備えている。
【0012】
ここで、圧力の検出対象となる内燃機関1は、内部にシリンダ2aが形成されたシリンダブロック2と、シリンダ2a内を往復動するピストン3と、シリンダブロック2に締結されてピストン3等とともに燃焼室Cを構成するシリンダヘッド4とを有している。また、シリンダヘッド4には、燃焼室Cと外部とを連通する連通孔4aが設けられている。連通孔4aは、燃焼室C側から、第1の孔部4bと、第1の孔部4bの孔径から徐々に径が拡大している傾斜部4cと、第1の孔部4bの孔径よりも孔径が大きい第2の孔部4dと、を有している。本実施の形態において、シリンダブロック2およびシリンダヘッド4は、導電性を有する金属材料(鋳鉄やアルミニウム)で構成されている。このため、シリンダヘッド4に設けられた連通孔4aの内周面には、金属が露出している。
【0013】
[圧力検出装置]
以下に、圧力検出装置5について詳述する。
図3は、圧力検出装置5の概略構成図である。図4は、図3のIV−IV部の断面図である。図5は、図4のV部の拡大図である。図6は、図5のVI部の拡大図である。
【0014】
圧力検出装置5は、燃焼室C内の圧力を電気信号に変換する圧電素子10を有するセンサ部100と、センサ部100からの電気信号を処理する信号処理部200と、信号処理部200を保持する保持部材300と、を備えている。この圧力検出装置5をシリンダヘッド4に装着する際には、センサ部100の後述するダイアフラムヘッド40の方から先に、シリンダヘッド4に形成された連通孔4aに挿入していく。以下の説明において、図4の左側を圧力検出装置5の先端側(一端部側)、右側を圧力検出装置5の後端側(他端部側)とする。
【0015】
(センサ部)
先ずは、センサ部100について説明する。
センサ部100は、受けた圧力を電気信号に変換する圧電素子10と、筒状であってその内部に圧電素子10などを収納する円柱状の孔が形成されたハウジング30と、を備えている。以下では、ハウジング30に形成された円柱状の孔の中心線方向を、単に中心線方向と称す。
【0016】
また、センサ部100は、ハウジング30における先端側の開口部を塞ぐように設けられて、燃焼室C内の圧力が作用するダイアフラムヘッド40と、ダイアフラムヘッド40と圧電素子10との間に設けられた第1の電極部50と、圧電素子10に対して第1の電極部50とは反対側に配置された第2の電極部55と、を備えている。
【0017】
さらに、センサ部100は、第2の電極部55を電気的に絶縁する絶縁リング60と、絶縁リング60よりも後端側に設けられて、信号処理部200の後述する覆い部材23の端部を支持する支持部材65と、第2の電極部55と後述する伝導部材22との間に介在するコイルスプリング70と、絶縁体からなる膜で構成され、ダイアフラムヘッド40の外周面およびハウジング30における先端側の外周面を連続して覆うように設けられた絶縁層80と、を備えている。
【0018】
信号発生部の一例としての圧電素子10は、圧電縦効果の圧電作用を示す圧電体を有している。圧電縦効果とは、圧電体の電荷発生軸と同一方向の応力印加軸に外力を作用させると、電荷発生軸方向の圧電体の表面に電荷が発生する作用をいう。本実施の形態に係る圧電素子10は、中心線方向が応力印加軸の方向となるようにハウジング30内に収納されている。ここで、圧電素子10とハウジング30とは、互いに直接接触しないよう、圧電素子10の側面とハウジング30の内壁面との間に空隙を持って配置される。
【0019】
次に、圧電素子10に圧電横効果を利用した場合を例示する。圧電横効果とは、圧電体の電荷発生軸に対して直交する位置にある応力印加軸に外力を作用させると、電荷発生軸方向の圧電体の表面に電荷が発生する作用をいう。薄板状に薄く形成した圧電体を複数枚積層して構成しても良く、このように積層することで、圧電体に発生する電荷を効率的に集めてセンサの感度を上げることができる。圧電単結晶としては、圧電縦効果及び圧電横効果を有するランガサイト系結晶(ランガサイト、ランガテイト、ランガナイト、LGTA)や水晶、ガリウムリン酸塩などを使用することを例示することができる。なお、本実施の形態の圧電素子10には、圧電体としてランガテイト単結晶を用いている。
【0020】
胴体部の一例としてのハウジング30は、先端側に設けられた第1のハウジング31と、後端側に設けられた第2のハウジング32と、を有する。
第1のハウジング31は、内部に、先端側から後端側にかけて段階的に径が異なるように形成された円柱状の孔310が形成された薄肉円筒状の部材である。第1のハウジング31の外周面には、中心線方向の中央部に、外周面から突出する突出部315が周方向の全域に渡って設けられている。
孔310は、先端側から後端側にかけて順に形成された、第1の孔311と、第1の孔311の孔径よりも大きな孔径の第2の孔312と、から構成される。突出部315は、先端部に、先端側から後端側にかけて徐々に径が大きくなる傾斜面315aを有し、後端部に、中心線方向に垂直な垂直面315bを有している。
【0021】
第2のハウジング32は、内部に、先端側から後端側にかけて段階的に径が異なるように形成された円柱状の孔320が形成された筒状の部材であり、外部に、先端側から後端側にかけて段階的に径が異なるように形成された外周面330が設けられている。
孔320は、先端側から後端側にかけて順に形成された、第1の孔321と、第1の孔321の孔径よりも小さな孔径の第2の孔322と、第2の孔322の孔径よりも大きな孔径の第3の孔323と、第3の孔323の孔径よりも大きな孔径の第4の孔324と、第4の孔324の孔径よりも大きな孔径の第5の孔325と、から構成される。
第2のハウジング32における先端部は、第1のハウジング31における後端部にしまりばめで嵌合(圧入)されるように、第1の孔321の孔径は、第1のハウジング31の外周面の径以下となるように設定されている。
【0022】
外周面330は、先端側から後端側にかけて、第1の外周面331と、第1の外周面331の外径よりも大きな外径の第2の外周面332と、第2の外周面332の外径よりも大きな外径の第3の外周面333と、第3の外周面333の外径よりも大きな外径の第4の外周面334と、第4の外周面334の外径よりも小さな外径の第5の外周面335と、から構成される。第3の外周面333には、後述する第1のシール部材71がすきまばめで嵌め込まれ、第3の外周面333の外径と第1のシール部材71の内径との寸法公差は、例えば零から0.2mmとなるように設定される。第4の外周面334における後端部は、周方向に等間隔に6つの面取りを有する正六角柱に形成されている。第5の外周面335における中心線方向の中央部には、外周面から凹んだ凹部335aが全周に渡って形成されている。
【0023】
また、第2のハウジング32のうち、第4の孔324から第5の孔325への移行部分すなわち第5の孔325における先端部には、信号処理部200の後述する覆い部材23の基板被覆部232における先端側の端面が突き当たる突当面340が設けられている。突当面340には、後述する信号処理部200のプリント配線基板210の第2の接続ピン21bが差し込まれるピン用凹部340aが形成されている。
【0024】
第1のハウジング31および第2のハウジング32は、燃焼室Cに近い位置に存在するため、少なくとも、−40〜350〔℃〕の使用温度環境に耐える材料を用いて製作することが望ましい。具体的には、耐熱性の高いステンレス鋼材、例えば、JIS規格のSUS630、SUS316、SUS430等を用いることが望ましい。
【0025】
受圧部の一例としてのダイアフラムヘッド40は、円筒状を呈する筒状部41と、板状を呈するとともに筒状部41の先端側に設けられて筒状部41の先端側を塞ぐ閉塞部42と、を有している。また、ダイアフラムヘッド40は、筒状部41と閉塞部42との境界部における外周面を45°に面取加工することで設けられた面取部43をさらに有している。ダイアフラムヘッド40の材料としては、高温でありかつ高圧となる燃焼室C内に存在するため、弾性が高く、かつ耐久性、耐熱性、耐触性等に優れた合金製であることが望ましく、例えばSUH660であることを例示することができる。
【0026】
閉塞部42は、先端側すなわちその表面の中央部に設けられ、圧電素子10側に凹んだ表面凹部421と、後端側すなわちその裏面の中央部に設けられ、圧電素子10側に突出した裏面凸部422と、を有している。この閉塞部42では、表面凹部421の背面に裏面凸部422が位置している。
【0027】
第1の電極部50は、先端側から後端側にかけて段階的に径が異なるように形成された円柱状の部材であり、第1の円柱部51と、第1の円柱部51の外径よりも大きな外径の第2の円柱部52と、から構成される。第1の円柱部51の外径はダイアフラムヘッド40の筒状部41の内径よりも小さく、第2の円柱部52の外径は第1のハウジング31の第1の孔311の孔径と略同じである。そして、第1の円柱部51における先端側の端面がダイアフラムヘッド40の閉塞部42の裏面凸部422と、第2の円柱部52における後端側の端面が圧電素子10における先端側の面と接触するように配置される。第2の円柱部52の外周面が第1のハウジング31の内周面と接触すること、および/または第1の円柱部51における先端側の端面がダイアフラムヘッド40と接触することによって、圧電素子10における先端部は、ハウジング30と電気的に接続される。
第1の電極部50は、燃焼室C内の圧力を圧電素子10に作用させるものであり、圧電素子10側の端面である第2の円柱部52における後端側の端面が圧電素子10の端面の全面を押すことが可能な大きさに形成される。また、第1の電極部50は、ダイアフラムヘッド40から受ける圧力を均等に圧電素子10に作用させることができるように、中心線方向の両端面が平行(中心線方向に直交)かつ平滑面に形成されている。
第1の電極部50の材質としては、ステンレスであることを例示することができる。
【0028】
第2の電極部55は、円柱状の部材であり、先端側の端面が圧電素子10における後端側の端面に接触し、一方の端部側の端面が絶縁リング60に接触するように配置される。第2の電極部55における後端側の端面には、この端面から後端側に突出する円柱状の突出部55aが設けられている。突出部55aは、端面側の基端部と、この基端部の外径よりも小さな外径の先端部と、を有する。突出部55aの外径は絶縁リング60の内径よりも小さく設定されるとともに、突出部55aの長さは絶縁リング60の幅(中心線方向の長さ)よりも長く設定され、突出部55aの先端が絶縁リング60から露出している。この第2の電極部55は、第1の電極部50との間で圧電素子10に対して一定の荷重を加えるように作用する部材であり、圧電素子10側の端面は、圧電素子10の端面の全面を押すことが可能な大きさに形成されるとともに平行かつ平滑面に形成されている。第2の電極部55の外径は第1のハウジング31の第2の孔312の孔径よりも小さくなるように設定されており、第2の電極部55の外周面と第1のハウジング31の内周面との間には隙間がある。
第2の電極部55の材質としては、ステンレスであることを例示することができる。
【0029】
絶縁リング60は、アルミナセラミックス等により形成された円筒状の部材であり、内径(中央部の孔径)は、第2の電極部55の突出部55aの基端部の外径よりもやや大きく、外径は、第1のハウジング31の第2の孔312の孔径と略同じに設定されている。第2の電極部55は、突出部55aが絶縁リング60の中央部の孔に挿入されて配置されることで、中心位置と第1のハウジング31の第2の孔312の中心とが同じになるように配置される。
【0030】
支持部材65は、先端側から後端側にかけて、内部に、径が異なる複数の円柱状の孔650が形成され、外周面が同一の、筒状の部材である。
孔650は、先端側から後端側にかけて順に形成された、第1の孔651と、第1の孔651の孔径よりも大きな孔径の第2の孔652と、第2の孔652の孔径よりも大きな孔径の第3の孔653と、から構成される。第1の孔651の孔径は、第2の電極部55の突出部55aの基端部の外径よりも大きく、この突出部55aが支持部材65の内部まで露出する。第2の孔652の孔径は、後述する信号処理部200の伝導部材22における先端部の外径よりも大きい。第3の孔653の孔径は、後述する信号処理部200の覆い部材23の端部の外径よりも小さく、この覆い部材23が第3の孔653を形成する周囲の壁にしまりばめで嵌合される。これにより、支持部材65は、覆い部材23の端部を支持する部材として機能する。
【0031】
コイルスプリング70は、内径が、第2の電極部55の突出部55aの先端部の外径以上で基端部の外径より小さく、外径が、後述する伝導部材22の挿入孔22aの径よりも小さい。コイルスプリング70の内側に第2の電極部55の突出部55aの先端部が挿入されるとともに、コイルスプリング70は、後述する伝導部材22の挿入孔22aに挿入される。コイルスプリング70の長さは、第2の電極部55と伝導部材22との間に圧縮した状態で介在することができる長さに設定されている。コイルスプリング70の材質としては、弾性が高く、かつ耐久性、耐熱性、耐触性等に優れた合金を用いるとよい。また、コイルスプリング70の表面に金メッキを施すことで、電気伝導を高めるとよい。
【0032】
被覆部の一例としての絶縁層80は、熱伝導率が低い絶縁材料で形成されるものであって、ダイアフラムヘッド40において外側に露出する面のすべてと、第1のハウジング31において外側に露出する面のすべてと、第2のハウジング32において外側に露出する面の先端側の一部(相対的に後端側となる第4の外周面334および第5の外周面335を除いた、第1の外周面331、第2の外周面332および第3の外周面333)とを、連続的に覆っている。
【0033】
この絶縁層80の材質としては、絶縁材料であれば、無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。ここで、絶縁層80を構成する無機材料としては、耐久性、耐熱性、耐食等に優れたセラミックス(アモルファスを含む)を用いるとよく、例えばジルコニア、アルミナ、シリカ、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)等を挙げることができる。また、ここに挙げた以外の酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、炭化物セラミックス等を用いてもよい。他方、絶縁層80を構成する有機材料としては、PI(ポリイミド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)等を挙げることができる。
【0034】
また、本実施の形態では、複数の層を積層してなる絶縁層80を用いている。より具体的に説明すると、本実施の形態の絶縁層80は、形成対象(ハウジング30、ダイアフラムヘッド40)の外周面上に形成される第1絶縁層81(第1被覆層の一例)と、第1絶縁層81とは異なる特性を有し且つ第1絶縁層81上に形成される第2絶縁層82(第2被覆層の一例)と、第2絶縁層82とは異なる特性を有し且つ第2絶縁層82上に形成される第3絶縁層83(第3被覆層の一例)とを備えている。ただし、第1絶縁層81および第3絶縁層83は、同じ特性を有するものであってもよい。
【0035】
ここで、「特性が異なる」とは、構成材料そのものが異なることで特性が異なるもの、構成材料は同じであってもその構造が異なることで特性が異なるもの、の両者を含んでいる。そして、後者については、例えば、結晶/アモルファス、粒径、気孔率等が挙げられる。
【0036】
本実施の形態では、絶縁層80を構成する第1絶縁層81〜第3絶縁層83として、それぞれ、ジルコニアに安定化剤として酸化イットリウムを添加した安定化ジルコニアを用いた。そして、本実施の形態では、第1絶縁層81および第3絶縁層83を、第2絶縁層82と比べて密な膜とした(第2絶縁層82を、第1絶縁層81および第3絶縁層83に比べて疎な膜とした)。
【0037】
なお、本実施の形態では、絶縁層80を3層構成としたが、単層構成、2層構成、4層構成以上のいずれとしてもよい。
【0038】
ではここで、圧力検出装置5に基いられるハウジング30(第1のハウジング31、第2のハウジング32)およびダイアフラムヘッド40と、絶縁層80との関係について、説明しておく。なお、以下では、ハウジング30およびダイアフラムヘッド40を合わせて、「ハウジングユニット」と称する。
【0039】
本実施の形態のハウジングユニットは、上述したように金属材料(この例ではステンレス)で構成される。これに対し、絶縁層80は、上述したように無機材料(この例では安定化ジルコニア)で構成される。したがって、本実施の形態では、絶縁層80の導電率が、ハウジングユニットの導電率よりも低くなっている。
【0040】
そして、本実施の形態では、絶縁層80の熱伝導率が、ハウジングユニットの熱伝導率よりも低くなるように、各々の材料の選択が行われている。この例において、安定化ジルコニアの熱伝導率は2〜3(W/m・K)であり、ステンレスの熱伝導率は16〜27(W/m・K)である。
【0041】
また、本実施の形態では、絶縁層80の融点が、ハウジングユニットの融点よりも高くなるように、各々の材料の選択が行われている。この例において、安定化ジルコニアの融点は2715(℃)であり、ステンレスの融点は1400〜1500(℃)である。
【0042】
さらに、本実施の形態では絶縁層80の線膨張係数が、ハウジングユニットの線膨張係数に近くなるように、各々の材料の選択が行われている。この例において、安定化ジルコニアの線膨張係数は10〜11(10−6/K)であり、ステンレスの線膨張係数は9〜18(10−6/K)である。
【0043】
(信号処理部)
次に、信号処理部200について説明する。
信号処理部200は、センサ部100の圧電素子10から得られる微弱な電荷である電気信号を少なくとも増幅処理する回路基板部21と、圧電素子10に生じた電荷を回路基板部21まで導く棒状の伝導部材22と、これら回路基板部21、伝導部材22などを覆う覆い部材23と、回路基板部21などを密封するOリング24と、を備えている。
【0044】
回路基板部21は、センサ部100の圧電素子10から得られる微弱な電荷を増幅するための回路を構成する電子部品などが実装されたプリント配線基板210を有する。プリント配線基板210における先端部には、伝導部材22における後端部を電気的に接続するための第1の接続ピン21aと、接地用および位置決め用の第2の接続ピン21bとが、半田付けなどにより接続されている。また、プリント配線基板210における後端部には、伝送ケーブル8の先端部のコネクタ8aを介して制御装置6と電気的に接続する第3の接続ピン21cが3つ、半田付けなどにより接続されている。3つの第3の接続ピン21cは、それぞれ、制御装置6からプリント配線基板210への電源電圧およびGND電圧の供給、プリント配線基板210から制御装置6への出力電圧の供給に用いられる。
【0045】
伝導部材22は、棒状(円柱状)の部材であり、先端部には、第2の電極部55の突出部55aの先端部が挿入される挿入孔22aが形成されている。伝導部材22における後端部は、回路基板部21のプリント配線基板210に、導線を介して電気的に接続される。伝導部材22の材質としては、真鍮及びベリリウム銅等を例示することができる。この場合、加工性およびコストの観点からは、真鍮が望ましい。これに対して、電気伝導性、高温強度、信頼性の観点からは、ベリリウム銅が望ましい。
【0046】
覆い部材23は、伝導部材22の外周を覆う伝導部材被覆部231と、回路基板部21のプリント配線基板210の側面および下面を覆う基板被覆部232と、プリント配線基板210に接続された第3の接続ピン21cの周囲を覆うとともに伝送ケーブル8の先端部のコネクタ8aが嵌め込まれるコネクタ部233と、を有している。
【0047】
伝導部材被覆部231は、中心線方向には、伝導部材22における先端部を露出するように覆っており、先端側から後端側にかけて段階的に径が異なるように形成された外周面240が設けられている。外周面240は、先端側から後端側にかけて、第1の外周面241と、第1の外周面241の外径よりも大きな外径の第2の外周面242と、第2の外周面242の外径よりも大きな外径の第3の外周面243と、第3の外周面243の外径よりも大きな外径の第4の外周面244と、から構成される。第1の外周面241の径は、支持部材65の第3の孔653の孔径よりも大きく、伝導部材被覆部231における先端部が、支持部材65の第3の孔653を形成する周囲の壁にしまりばめで嵌合(圧入)される。第2の外周面242の径は、第2のハウジング32の第2の孔322の孔径よりも小さく形成され、第3の外周面243の径は、第2のハウジング32の第3の孔323の孔径よりも小さく形成されている。また、第4の外周面244の径は、第2のハウジング32の第4の孔324の孔径よりも大きく、伝導部材被覆部231における後端部が、第2のハウジング32の第4の孔324を形成する周囲の壁にしまりばめで嵌合(圧入)される。これらにより、伝導部材被覆部231は、少なくとも中心線方向の両端部が、それぞれ支持部材65、第2のハウジング32に接触することで支持されているので、劣悪な振動環境であっても、伝導部材22に与える悪影響を抑制することができ、振動に起因して伝導部材22の接続部の断線や接触不良等を回避することが可能になっている。
【0048】
基板被覆部232は、基本的には円筒状の部位であり、その側面には、プリント配線基板210を内部に設置するための矩形の開口部232aが設けられている。また、基板被覆部232における後端側には、ハウジング30内およびプリント配線基板210の設置部を密封するためのOリング24用のリング溝232bが形成されている。
【0049】
コネクタ部233は、基板被覆部232における後端側の端面232cから突出し、プリント配線基板210に接続された3つの第3の接続ピン21cの周囲を覆うように形成された薄肉の部位である。コネクタ部233における後端部は開口しており、内部に伝送ケーブル8の先端部に設けられたコネクタ8aを受け入れることが可能になっている。また、コネクタ部233における後端側には、内部と外部とを連通する孔233aが形成されており、伝送ケーブル8のコネクタ8aに設けられたフックがこの孔233aに引っ掛ることで、伝送ケーブル8のコネクタ8aがコネクタ部233から脱落することが抑制される。
【0050】
以上のように構成された覆い部材23は、樹脂などの絶縁性を有する材料にて成形されている。また、覆い部材23は、伝導部材22、第1の接続ピン21a、第2の接続ピン21bおよび3つの第3の接続ピン21cとともに一体成形されている。より具体的には、覆い部材23は、これら伝導部材22、第1の接続ピン21a、第2の接続ピン21bおよび3つの第3の接続ピン21cをセットした金型に加熱した樹脂が押し込まれることで成形される。
【0051】
信号処理部200をユニット化するにあたっては、成形された覆い部材23の開口部232aから、回路基板部21のプリント配線基板210を挿入し、基板被覆部232の中央部に設置する。プリント配線基板210を設置する際、板厚方向に貫通されたスルーホールに、第1の接続ピン21a、第2の接続ピン21bおよび3つの第3の接続ピン21cの先端を通し、半田付けする。その後、第1の接続ピン21aと伝導部材22とを導線を用いて接続する。また、覆い部材23の基板被覆部232のリング溝232bにOリング24を装着する。Oリング24は、フッ素系ゴムからなる周知のO状のリングである。
【0052】
(保持部材)
次に、保持部材300について説明する。
保持部材300は、薄肉円筒状の部材であり、後端部に内周面から内側に突出した突出部300aが設けられている。保持部材300は、第2のハウジング32に装着された後、外部から、第5の外周面335に設けられた凹部335aに対応する部位が加圧されることでかしめられる。これにより、保持部材300は、ハウジング30に対して移動し難くなり、信号処理部200がハウジング30に対して移動することを抑制する。
【0053】
[圧力検出装置における電気的な接続構造]
次に、圧力検出装置5における電気的な接続構造について説明を行う。
【0054】
(正の経路)
圧力検出装置5において、圧電素子10の後端側の端面(正極)は、金属製の第2の電極部55と電気的に接続され、第2の電極部55は、突出部55aを介して金属製のコイルスプリング70と電気的に接続される。また、コイルスプリング70は、金属製の伝導部材22と電気的に接続され、伝導部材22は、第1の接続ピン21aを介して、プリント配線基板210の正の信号電極と電気的に接続される。以下では、圧電素子10の後端側の端面から、伝導部材22等を介してプリント配線基板210の正の信号電極に至る電気的な経路を、『正の経路』と称する。
【0055】
(負の経路)
一方、圧力検出装置5において、圧電素子10の先端側の端面(負極)は、金属製の第1の電極部50およびダイアフラムヘッド40を介して、金属製の第1のハウジング31および第2のハウジング32(ハウジング30)と電気的に接続される。また、第2のハウジング32は、第2の接続ピン21bを介して、プリント配線基板210の負の信号電極と電気的に接続される。以下では、圧電素子10の先端側の端面から、ダイアフラムヘッド40およびハウジング30等を介してプリント配線基板210の負の信号電極に至る電気的な経路を『負の経路』と称する。
【0056】
(正の経路と負の経路との関係)
本実施の形態の圧力検出装置5では、正の経路の外側に負の経路が存在している。換言すれば、負の経路の内部に正の経路が収容されている。そして、正の経路と負の経路との間には、それぞれが絶縁体で構成された、絶縁リング60、支持部材65および覆い部材23が配置されている。それゆえ、正の経路と負の経路とは、これら絶縁リング60、支持部材65および覆い部材23と、両経路の間の一部に存在するエアギャップとによって、電気的に絶縁されている。
【0057】
[圧力検出装置の取り付け]
以上のように構成された圧力検出装置5を、内燃機関1のシリンダヘッド4に装着する際には、センサ部100のダイアフラムヘッド40の方から先にシリンダヘッド4に形成された連通孔4aに挿入する。圧力検出装置5のシリンダヘッド4への装着は、シリンダヘッド4と圧力検出装置5との間に、第1のシール部材71と第2のシール部材72とを配置した状態で行われる。このとき、ダイアフラムヘッド40における筒状部41および面取部43の外周面と、第1のハウジング31の外周面と、第2のハウジング32における第1の外周面331と、第2の外周面332とが、シリンダヘッド4の連通孔4aの内周面に対向する。ここで、本実施の形態では、圧力検出装置5を構成するハウジングユニット(ハウジング30およびダイアフラムヘッド40)のうち、連通孔4a内に収容される部位の外周面のすべてに、絶縁層80が設けられており、実際は、圧力検出装置5に設けられた絶縁層80が、シリンダヘッド4の連通孔4aの内周面に対向することになる。一方、第2のハウジング32のうち絶縁層80が設けられていない第4の外周面334は、シリンダヘッド4の外部に露出した状態となる。
【0058】
そして、内燃機関1のシリンダヘッド4に圧力検出装置5を挿入した状態で、圧力検出装置5における第4の外周面334の後端部に形成された正六角柱の部位に、図示しないクランプを装着する。このクランプは、その表面が絶縁体で覆われており、シリンダヘッド4と図示しないボルトで固定され、このクランプにより圧力検出装置5はシリンダヘッド4に押圧固定される。
【0059】
このようにすることで、圧力検出装置5をシリンダヘッド4に装着した場合に、ハウジング30およびダイアフラムヘッド40からなるハウジングユニットは、金属製のシリンダヘッド4とは電気的に接続されず、プリント配線基板210を介して制御装置6のGND電圧と接続されている。このように、本実施の形態の圧力検出装置5は、絶縁層80を備えていることにより、装着対象となるシリンダヘッド4とは電気的に絶縁された状態となっている。
【0060】
[シール部材]
次に、シール部材7について説明する。
シール部材7は、シリンダヘッド4における連通孔4aを形成する周囲の壁の圧力検出装置5の締め付け方向の端面と、圧力検出装置5のハウジング30の第4の外周面334が設けられた円柱状の部位の先端側の端面との間に配置され、シリンダヘッド4と圧力検出装置5との間をシールする第1のシール部材71を有している。また、シール部材7は、シリンダヘッド4の連通孔4aの傾斜部4cと、圧力検出装置5のハウジング30の第1のハウジング31の傾斜面315aとの間に配置され、シリンダヘッド4と圧力検出装置5との間をシールする第2のシール部材72を有している。
【0061】
第1のシール部材71は、PTFEなどの絶縁体から構成されたガスケットであることを例示することができる。断面形状はS字状、または略矩形に形成されているとよい。第1のシール部材71は、圧力検出装置5がシリンダヘッド4に締め付けられる際に、締め付け方向の力を受けて、締め付け方向の長さが短くなるように変形し、燃焼室C内の気密性を高める。すなわち、圧力検出装置5がシリンダヘッド4にねじ込まれることで、第1のシール部材71とシリンダヘッド4との間に生じる接触圧力、および第1のシール部材71と圧力検出装置5のハウジング30との間に生じる接触圧力が高まる。これにより、第1のシール部材71とシリンダヘッド4との間、および第1のシール部材71と圧力検出装置5のハウジング30との間から燃焼ガスが漏れることが抑制される。また、第1のシール部材71が絶縁体から構成されていることで、圧力検出装置5の第4の外周面334が設けられた円柱状の部位の先端側の端面とシリンダヘッド4とを、電気的に接続しないようにしている。
【0062】
第2のシール部材72は、ステンレスやアルミニウムからなり、断面が円形であるリング状のOリングであることを例示することができる。第2のシール部材72は、圧力検出装置5がシリンダヘッド4に締め付けられる際に、シリンダヘッド4の連通孔4aの傾斜部4cと、ハウジング30の第1のハウジング31の傾斜面315aとにより、締め付け方向とは交差する方向の力を受けて変形し、燃焼室C内の気密性を高める。すなわち、圧力検出装置5がシリンダヘッド4にねじ込まれることで、第2のシール部材72とシリンダヘッド4の連通孔4aの傾斜部4cとの間に生じる接触圧力、および第2のシール部材72とハウジング30の第1のハウジング31の傾斜面315aとの間に生じる接触圧力が高まる。これにより、第2のシール部材72とシリンダヘッド4との間、および第2のシール部材72と圧力検出装置5のハウジング30との間から燃焼ガスが漏れることが抑制される。
【0063】
[圧力検出装置の製造方法]
図7は、圧力検出装置5の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0064】
最初に、第1のハウジング31とダイアフラムヘッド40とを溶接するとともに、第1のハウジング31と第2のハウジング32とを溶接する溶接工程を実行する(ステップ10)。より具体的に説明すると、まず、ダイアフラムヘッド40の後端側から第1のハウジング31の先端側を挿入(圧入)し、ダイアフラムヘッド40の後端側と第1のハウジング31の先端側とが接触している部位(外周面)に、中心線方向に交差する方向(例えば中心線方向に直交する方向)からレーザビームを照射して、ダイアフラムヘッド40と第1のハウジング31とを溶接(接合)する。続いて、第1のハウジング31の後端側から第2のハウジング32の先端側を挿入(圧入)し、第1のハウジング31の後端側と第2のハウジング32の先端側とが接触している部位(外周面)に、中心線方向に交差する方向(例えば中心線方向に直交する方向)からレーザビームを照射して、第1のハウジング31と第2のハウジング32とを溶接(接合)する。これにより、ダイアフラムヘッド40と、第1のハウジング31および第2のハウジング32とを一体化してなるハウジングユニットが得られる。なお、ステップ10では、レーザ溶接の順番の前後を入れ替えてもかまわない。また、ステップ10では、レーザ溶接以外の溶接方法を用いてもかまわない。
【0065】
次に、ステップ10で得られたハウジングユニットの外周面に、絶縁層80を形成する絶縁層形成工程を実行する(ステップ20)。ここで、本実施の形態の絶縁層形成工程では、3層構成の絶縁層80を得るために、最初に、第1絶縁層81を形成する第1絶縁層形成工程を実行し(ステップ21)、次いで、第2絶縁層82を形成する第2絶縁層形成工程を実行し(ステップ22)、最後に、第3絶縁層83を形成する第3絶縁層形成工程を実行する(ステップ23)。また、本実施の形態の絶縁層形成工程では、ハウジングユニットの外周面のうち、第2のハウジング32における第4の外周面334および第5の外周面335には、絶縁層80を形成しないようにする。そして、本実施の形態では、絶縁層80の形成方法として、乾燥させた原料(ここではセラミックス)の微粉体(原料粒子)を、固相状態のままガス(キャリアガス)で搬送し、ノズルより噴射して形成対象(ここではハウジングユニット)に衝突させ、低温且つ高速の厚膜コーティングを実現するAD(エアロゾルデポジション)法を用いた。なお、AD法による成膜の詳細については後述する。
【0066】
続いて、ステップ20で外周面に絶縁層80が形成されたハウジングユニットの後端側から、圧電素子10など、圧力検出装置5を構成する各種部材を組み付ける組付工程を実行する(ステップ30)。以上により、圧力検出装置5が得られる。
【0067】
[成膜装置]
図8は、絶縁層80の形成に用いられる成膜装置500の概略構成図である。
この成膜装置500は、成膜対象となるハウジングユニットを内部に収容するチャンバ510と、チャンバ510内に設けられ、ハウジングユニットが取り付けられる台座520と、チャンバ510に接続され、チャンバ510内を減圧するロータリポンプ530とを備えている。また、この成膜装置500は、キャリアガスを供給するガスボンベ540と、原料粒子(ここでは安定化ジルコニア粒子)550を内部に収容するとともに、ガスボンベ540から供給されるキャリアガスによって原料粒子550をエアロゾル化するエアロゾル発生器560と、チャンバ510内に設けられ、エアロゾル発生器560から供給されるエアロゾル化した原料粒子550を、台座520に取り付けられたハウジングユニットに向けて噴射するノズル570とを備えている。
【0068】
本実施の形態の成膜装置500において、台座520は、チャンバ510内であらゆる方向に移動可能に設けられており、ノズル570に対し、台座520に取り付けられたハウジングユニットを正対させるだけでなく、例えば斜めにして対向させることができるようになっている。
【0069】
そして、本実施の形態では、成膜装置500で使用する原料粒子550の粒径や、ノズル570からのキャリアガスおよび原料粒子550の噴射速度等を調整することで、特性が異なる第1絶縁層81、第2絶縁層82および第3絶縁層83の形成を行っている。
【0070】
なお、本実施の形態では、圧力検出装置5を構成する絶縁層80を、上述したAD法によって形成しているが、絶縁層80の形成方法はこれに限られない。絶縁層80の他の形成方法としては、例えば、各種PVD(物理気相成長)法、各種CVD(化学気相成長)法、各種コート(スピンコート、ディップコート、スプレーコート等)法などが挙げられる。
【0071】
[圧力検出装置による圧力検出動作]
では、圧力検出装置5による内燃機関1の圧力検出動作について説明を行う。
内燃機関1が動作しているとき、ダイアフラムヘッド40における閉塞部42の先端側(表面)に、燃焼室C内で発生した燃焼ガスによる圧力(燃焼圧)が付与される。ダイアフラムヘッド40では、表面凹部421側で受けた圧力が裏面側の裏面凸部422に伝達され、第1の電極部50と第2の電極部55とによって挟まれた圧電素子10に作用することにより、この圧電素子10に、燃焼圧に応じた電荷が生じる。そして、圧電素子10に生じた電荷は、第2の電極部55、コイルスプリング70、伝導部材22を介して回路基板部21に供給される。回路基板部21に供給された電荷は、回路基板部21にて増幅処理がなされた後、その電荷に応じた電圧が、回路基板部21に接続された第3の接続ピン21c、伝送ケーブル8を介して制御装置6に供給される。
【0072】
[本実施の形態の効果]
本実施の形態の圧力検出装置5は内燃機関1(より具体的にはシリンダヘッド4)に取り付けられており、この内燃機関1が自動車に搭載されている場合、内燃機関1の外部で発生したノイズが、内燃機関1のシリンダヘッド4に侵入してくる。
【0073】
ここで、本実施の形態では、圧力検出装置5を構成するハウジングユニット(ハウジング30およびダイアフラムヘッド40)の外周面のうち、シリンダヘッド4に設けられた連通孔4aの内周面と対向する部位に、絶縁層80を設けた。したがって、本実施の形態では、圧力検出装置5における負の経路と、内燃機関1のシリンダヘッド4とが、電気的に絶縁された状態となっている。このため、シリンダヘッド4に侵入してきたノイズは、絶縁層80が存在することにより、圧力検出装置5のハウジングユニットを介してプリント配線基板210に伝播されにくくなる。その結果、ノイズに起因する、プリント配線基板210における電位の揺れ(変動)が抑制されることになり、プリント配線基板210から外部(制御装置6等)に出力される出力信号の揺れ(変動)を低減させることが可能になる。
【0074】
また、本実施の形態の圧力検出装置5は、上述した圧力検出動作において、ダイアフラムヘッド40が、高温の燃焼ガスにさらされることで加熱され、熱膨張する。熱膨張に伴ってダイアフラムヘッド40における筒状部41が軸方向に伸びると、ダイアフラムヘッド40、第1の電極部50および第2の電極部55等を介して圧電素子10に付与している予荷重が減少する。そして、この熱膨張が解消する前すなわちダイアフラムヘッド40が収縮する前に、燃焼室Cにて次の燃焼が開始されると、圧力検出装置5からの出力値は、予荷重が減少している分、本来の出力値よりも低下してしまうことになる。
【0075】
ここで、本実施の形態では、圧力検出装置5に設けられたダイアフラムヘッド40およびハウジング30の先端側の外周面に、これらを構成する金属材料よりも熱伝導率が低い絶縁層80を連続して設けている。これにより、燃焼室C内で発生した燃焼ガスの熱は、絶縁層80を設けない場合と比較して、ダイアフラムヘッド40およびハウジング30に伝達されにくくなる。また、絶縁層80を連続して設けることにより、ダイアフラムヘッド40およびハウジング30の外周面の一部が、局所的に加熱されるという事態も生じにくい。これに伴い、燃焼ガスの熱に起因する、ダイアフラムヘッド40における筒状部41の熱膨張が生じにくくなる。その結果、ダイアフラムヘッド40等を用いて圧電素子10に付与する予荷重の変動、ひいては、圧力検出装置5からの出力値の変動が生じにくくなる。
【0076】
[その他]
なお、本実施の形態では、圧力検出装置5における圧力の検出素子として、圧電素子10を用いた場合を例として説明を行ったが、これに限られるものではなく、例えばひずみゲージや離間した電極等を用いてもかまわない。
【実施例】
【0077】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
本発明者は、ハウジングユニットにおける絶縁層80の有無やその構成を異ならせた複数の圧力検出装置5を作製し、アンテナ照射試験および加熱シミュレーション試験による評価を行った。
【0079】
表1および表2は、各実施例(実施例1〜20)および比較例のそれぞれで用いた絶縁層80の構成および評価結果を説明するための図である。なお、上述した実施の形態で説明した圧力検出装置5は、表2に示す実施例16に対応している。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
[実施例および比較例の構成について]
では、各実施例(実施例1〜20)および比較例の構成について、説明を行う。
【0083】
表1に示す実施例1〜10は、絶縁層80がZrO(実際は、酸化イットリウムが添加された安定化ジルコニア、以下同じ)の単層構成(第1絶縁層81のみが存在する)となっている。ここで、実施例1〜7における第1絶縁層81は実施例8〜10における第1絶縁層81より気孔率が高い疎の層であり、実施例8〜10における第1絶縁層81の層は実施例1〜7における第1絶縁層81より気孔率の低い密の層である。以下、本実施例における「疎」、「密」とは、実施例1〜7における第1絶縁層81と同等の気孔率を持つ層を「疎」とし、実施例8〜10における第1絶縁層81と同等の気孔率を持つ層を「密」と称する。
【0084】
また、実施例1〜10は、第1絶縁層81をAD法で作製している。そして、第1絶縁層81の膜厚は、実施例1では80μm、実施例2では55μm、実施例3では40μm、実施例4では8.0μm、実施例5では5.0μm、実施例6では2.3μm、実施例7では1.2μm、実施例8では10μm、実施例9では1.8μm、実施例10では1.0μmとなっている。
【0085】
表2に示す実施例11〜15は、絶縁層80がZrO(密)/ZrO(疎)の2層構成(第1絶縁層81および第2絶縁層82が存在する)となっている。また、実施例11〜15は、第1絶縁層81および第2絶縁層82の両者をAD法で作製している。そして、第1絶縁層81の膜厚は、実施例11〜14では1.0μm、実施例15では12.2μmとなっている。また、第2絶縁層82の膜厚は、実施例11では30μm、実施例12では17.5μm、実施例13では10μm、実施例14では4.5μm、実施例15では13.1μmとなっている。
【0086】
表2に示す実施例16は、絶縁層80がZrO(密)/ZrO(疎)/ZrO(密)の3層構成(第1絶縁層81、第2絶縁層82および第3絶縁層83が存在する)となっている。また、実施例16は、第1絶縁層81、第2絶縁層82および第3絶縁層83の3者をAD法で作製している。そして、実施例16において、第1絶縁層81の膜厚は11.6μm、第2絶縁層82の膜厚は14μm、第3絶縁層83の膜厚は8.9μmとなっている。
【0087】
表2に示す実施例17、18は、絶縁層80がSiOの単層構成(第1絶縁層81のみが存在する)となっている。また、実施例17、18は、第1絶縁層81をCVD法(より具体的にはプラズマCVD法)で作製している。そして、第1絶縁層81の厚さは、実施例17では5.0μm、実施例18では1.0μmとなっている。
【0088】
表2に示す実施例19は、絶縁層80がPI(ポリイミド)の単層構成(第1絶縁層81のみが存在する)となっている。また、実施例19は、第1絶縁層81をSC(スピンコート)法で作製している。そして、実施例19において、第1絶縁層81の膜厚は2.0μmとなっている。
【0089】
表2に示す実施例20は、絶縁層80がDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の単層構成(第1絶縁層81のみが存在する)となっている。また、実施例20は、第1絶縁層81を、PVD法とCVD法(より具体的にはプラズマCVD法)とを組み合わせた複合工法で作製している。そして、実施例20において、第1絶縁層81の厚さは1.0μmとなっている。
【0090】
一方、表2に示す比較例は、絶縁層80を有しておらず、ハウジングユニットの外周面の全面に、金属が露出した状態となっている。
【0091】
[アンテナ照射試験について]
まず、圧力検出装置5の評価に用いたアンテナ照射試験の内容について、簡単に説明を行う。
アンテナ照射試験は、自動車のEMC(Electromagnetic Compatibility)規格として定められたものであって、例えばISO11452−2:2014に規定されている。そして、ここでは、各実施例および比較例の圧力検出装置5における第2の外周面332の部位を、銅テープを用いて接地した状態で、アンテナ照射試験を行うようにした。すなわち、接地されたシリンダヘッド4に圧力検出装置5を装着(挿入)した状態を想定して、アンテナ照射試験を行った。このとき、圧力検出装置5に印加するノイズは、1000kHz(1MHz)〜2000kHz(2MHz)の範囲とした。そして、ノイズの周波数を変更しつつ、圧力検出装置5に設けられたプリント配線基板210から出力される出力電圧の変動量(出力電圧変動量と称する)を測定した。
【0092】
図9図11は、アンテナ照射試験の結果を示す図である。ここで、図9(a)〜(g)は実施例1〜7のそれぞれの結果を示しており、図10(a)〜(g)は実施例8〜14のそれぞれの結果を示しており、図11(a)〜(g)は実施例15〜20および比較例のそれぞれの結果を示している。それぞれにおいて、横軸はノイズの周波数であり、縦軸は出力電圧変動量である。なお、上述した表1および表2には、各実施例および比較例のそれぞれにおける、出力電圧変動量の最大値(最大変化量と称する)を示している。
【0093】
各実施例(実施例1〜20)において、アンテナ照射試験における最大変化量は、すべて40mV以下であった。これに対し、比較例の最大変化量は、これらよりも1桁大きい190mVであった。このように、絶縁層80を設けた圧力検出装置5では、絶縁層80を設けない圧力検出装置5と比べて、外部からのノイズに対する耐性が高められていることがわかる。
【0094】
本実施例では、絶縁層80の一例として、ZrO、SiO、PI、DLCの膜を評価した。絶縁層80としてのZrO膜、SiO膜は、直流成分に対する絶縁抵抗値が1012Ω以上であり絶縁特性に優れており、圧力検出装置5とシリンダヘッド4との間の電気的な絶縁性を良好に保つことが可能である。特にZrO膜は、ハウジングユニットを構成するステンレス等の金属材に近い線膨張係数を有するため、ハウジングユニットと絶縁層80との線膨張係数の違いに起因した絶縁層80の破壊、剥離に対して強く、激しい温度変化環境においても有効に利用することが可能となる。また、絶縁層80としてのPI膜、DLC膜は、酸化物からなる膜と比較してハウジングユニットに対する密着性が高く、絶縁層80の剥離等の不具合を生じ難い。特にDLC膜は、密着力が非常に高くさらに膜強度も高い膜であるため、擦過等に強く、様々な環境下での利用において信頼性を確保することが可能である。
【0095】
また、絶縁層80を多層構造とし、それぞれの層の気孔率を相違させることで広い周波数域におけるノイズに対し耐性を高めることができる。これは、絶縁層80の気孔率の違いにより誘電率が異なる性質を利用したものである。気孔率が高い絶縁層80は、気孔率が低い絶縁層80より誘電率が低く、この場合は高周波数のノイズを透過し難い構成とすることができる。反対に、気孔率が低い絶縁層80は、気孔率が高い絶縁層80より誘電率が高く、この場合は低周波数のノイズを透過し難い構成とすることができる。したがって、絶縁層80を、気孔率の異なる絶縁膜を積層した多層構造とすることで、広い周波数域のノイズに対し耐性を高めることができる。
【0096】
また、絶縁層80を多層構造とする場合、ハウジングユニットと直接接触する絶縁層80の第1絶縁層81を気孔率の低い膜で構成するとよい。気孔率の低い膜は、気孔率の高い絶縁膜と比較し密着力が高いため、ハウジングユニットと絶縁層80との密着力を高めることができる。さらに、絶縁層80の最表面層は気孔率の高い膜で構成するとよい。気孔率の低い膜は、気孔率の高い絶縁膜と比較して膜強度が高いので、擦過等に強い絶縁層80を構成することができる。
【0097】
また、本発明の圧力検出装置5は、絶縁層80の熱伝導率が、ハウジングユニットの熱伝導率よりも低くなるように、各々の材料の選択が行われるが、ハウジングユニットを構成するステンレスの熱伝導率16〜27(W/m・K)に対し、本実施例における絶縁層80の熱伝導率は、ZrO膜は2〜3(W/m・K)、SiO膜は1.38(W/m・K)、PI膜は0.18(W/m・K)、DLC膜は0.2〜30(代表値15)(W/m・K)と低い。したがって、絶縁層80を設けた圧力検出装置5では、絶縁層80を設けない圧力検出装置5と比べて、外部からの加熱に対する温度上昇およびこれに伴う熱膨張が抑制することが可能である。
【0098】
また、本実施例における絶縁層80の形成方法としては、例えば、各種PVD(物理気相成長)法、各種CVD(化学気相成長)法、各種コート(スピンコート、ディップコート、スプレーコート等)法などが挙げられるが、特にAD法は、積層膜の形成や膜の気孔率の管理が容易であり、所望の特性の絶縁層80を容易に得ることが可能である。また、常温での膜の形成が可能なため、ハウジングユニットに成膜による熱歪、熱応力が生じにくく、出力値の誤差の小さい圧力検出装置5を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0099】
1…内燃機関、2…シリンダブロック、3…ピストン、4…シリンダヘッド、5…圧力検出装置、6…制御装置、7…シール部材、8…伝送ケーブル、10…圧電素子、21…回路基板部、22…伝導部材、23…覆い部材、24…Oリング、30…ハウジング、40…ダイアフラムヘッド、50…第1の電極部、55…第2の電極部、60…絶縁リング、65…支持部材、70…コイルスプリング、80…絶縁層、81…第1絶縁層、82…第2絶縁層、83…第3絶縁層、100…センサ部、200…信号処理部、300…保持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11