特許第6606503号(P6606503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6606503多結晶材料製の試料内の結晶方位をマッピングするための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606503
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】多結晶材料製の試料内の結晶方位をマッピングするための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2251 20180101AFI20191031BHJP
   G01N 23/2255 20180101ALI20191031BHJP
   G01N 23/203 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   G01N23/2251
   G01N23/2255
   G01N23/203
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-548128(P2016-548128)
(86)(22)【出願日】2015年1月23日
(65)【公表番号】特表2017-504032(P2017-504032A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】EP2015051313
(87)【国際公開番号】WO2015113898
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2017年12月15日
(31)【優先権主張番号】1400207
(32)【優先日】2014年1月28日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507111195
【氏名又は名称】アンスティテュ、ナショナール、デ、スィアンス、アプリケ、ド、リヨン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DES SCIENCES APPLIQUEES DE LYON
(73)【特許権者】
【識別番号】594016872
【氏名又は名称】サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス)
(73)【特許権者】
【識別番号】596096180
【氏名又は名称】ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100108785
【弁理士】
【氏名又は名称】箱崎 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】シリル、ラングロワ
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−512174(JP,A)
【文献】 特開2012−154891(JP,A)
【文献】 特表2012−507838(JP,A)
【文献】 特開2005−147851(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0011958(US,A1)
【文献】 Vasilisa Veligura et al.,"Channeling in helium ion microscopy: Mapping of crystal orientation",Beilstein Journal of Nanotechnology,2012年 7月10日,Vol.3,pp.501-506,URL,http://dx.doi.org/10.3762/bjnano.3.57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/2251
G01N 23/2255
G01N 23/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨された面を有する試料(31)の結晶方位をマッピングするための方法であって、
前記試料(31)の画像(4a〜4e)の系列を受信すること(21)であって、前記画像は、荷電粒子のビームを前記研磨された面に放出するのに適した取得デバイス(3)により異なる試料照射ジオメトリで取得され、各画像(4a〜4e)が、それぞれの照射ジオメトリにおける前記試料の点の電子的強度を表す画素を含む画像(4a〜4e)の系列を受信すること(21)と、
前記画像の系列から、前記試料の少なくとも1つの点について、それぞれが照射ジオメトリに応じた着目点に関する電子的強度を表す少なくとも1つの電子的強度プロファイルを推定すること(22)と、
前記試料の各着目点について、前記着目点に関する前記電子的強度プロファイルを、データベースに含まれるシグネチャであって既知の結晶方位の電子的強度プロファイルの理論上のシグネチャと比較すること(23)により、結晶方位を決定すること(24)と
を備える、方法。
【請求項2】
前記推定ステップが、前記試料の各着目点について、前記画像の系列の前記画像内の前記着目点を表す同類画素をグループ化することと、照射ジオメトリに応じて前記着目点の電子的強度(51)のプロット(50)を生成することとを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記画像の系列の前記画像が、
前記試料(31)の前記研磨された面の法線(33)と、前記荷電粒子のビームの軸(32)との間の一定の傾斜角(αconstant)で、かつ、
前記試料(31)の前記研磨された面の前記法線(33)を中心とした異なる回転角(β0〜β4)で
取得される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記画像の系列の画像を矯正するステップをさらに備え、前記矯正するステップが、非ゼロの回転角で得られた前記画像の系列の画像を、ゼロの回転角で得られる画像に対応させるように回転させることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記画像の系列の2つの連続する画像の間の前記回転角(β0〜β4)が、1゜と15゜の間に含まれるステップで変化する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記回転角(β0〜β4)のダイナミック・レンジが、180°以上であり、好ましくは270°以上であり、より好ましくは360°である、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記画像の系列の前記画像が、前記試料(31)の前記研磨された面と、前記取得デバイス(3)によって放出される前記荷電粒子のビームの軸(32)に垂直な平面(P)との間の異なる傾斜角(α0〜α4)において取得される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記画像の系列の各画像の前記傾斜角が、−60°と+60°の間に含まれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記画像の系列の2つの連続する画像の間の前記傾斜角が、1°と10°の間に含まれるステップで変化する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記画像の系列の画像を変形するステップをさらに備え、前記変形ステップが、非ゼロの傾斜角で得られた前記画像の系列の画像を、ゼロの傾斜角で得られる画像に対応させるように延伸することを含む、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
集束イオン・ビーム・デバイスなどの取得デバイスにおいて、前記試料の前記研磨された面と前記荷電粒子のビームの軸に垂直な平面との間の異なる傾斜角において前記試料の画像の系列を取得することをさらに備え、各画像がそれぞれの傾斜角における前記試料の点の電子的強度を表す画素を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記画像の系列の各画像に対して中間分割画像を計算するステップと、
前記中間分割画像を重ね合わせて最終分割画像を形成するステップと
をさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
プログラミング・コード命令を備えるコンピュータ・プログラム製品であって、前記プログラミング・コード命令がコンピュータ上で実行された場合に、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法のステップを実行するように意図されたプログラミング・コード命令を備える、コンピュータ・プログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶材料製の試料の特性評価の一般的な技術分野に関する。これらの材料は、たとえばセラミックス、金属などである。
【背景技術】
【0002】
ただ1つの結晶から成る単結晶材料、および長距離秩序を持たない非晶質材料とは対照的に、多結晶材料は、様々な結晶方位と大きさとの、「結晶粒」と呼ばれる、複数の小結晶で構成される固体材料である。
【0003】
(マイクロエレクトロニクス、将来のエネルギー源、合金、セラミックス、鉱物の分野における)ほとんどの材料は、異なる大きさと形状と構造との結晶で構成される。
【0004】
多結晶材料の異方性は、その特性、特にその機械的性質(耐亀裂性、降伏強度など)、またはそれらの電気的性質にさえ、多様に影響を与える。
【0005】
したがって、多結晶材料の結晶粒の結晶方位を決定できることは非常に重要である。
【0006】
現在、電子後方散乱回折法(EBSD:electron backscatter diffraction)として知られている技法が、結晶の特性評価を行うために用いられている。
【0007】
EBSDは、特に、多数の単結晶材料または多結晶材料の結晶方位を測定可能にする微細構造結晶学的技法である。EBSDは、7つの結晶系、すなわち、
− 三斜晶系と、
− 単斜晶系と、
− 斜方晶系と、
− 正方晶系と、
− 三方晶系と、
− 六方晶系と、
− 立方晶系と
に属する結晶相を指数付けし、識別するために使用されてよい。
【0008】
EBSDは、少なくとも1つの蛍光スクリーンと、小型の対物レンズ(compact objective)と、低光量のCCDビデオカメラと含むEBSD検出器を備えた走査電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)を用いて行われる。
【0009】
EBSD測定を行うために、多結晶試料がSEMの室内に配置され、この際、後方散乱電子顕微鏡写真のコントラストを増大させるために、回折ビデオカメラに対して大きな角度(水平に対して約70°)で配置される。
【0010】
蛍光スクリーンは、ビームの軸に対して約90°の角度でSEMの試料室内に配置され、かつ、小型の対物レンズに結合され、該対物レンズは、蛍光スクリーン上に生成された画像をCCDビデオカメラに合焦させる。
【0011】
この構成では、試料に達した電子の一部は、後方散乱し、試料を脱出する前に、構造の原子格子の周期的な面の間隔に依存するブラッグ条件が満たされた場合に、試料の結晶面により回折する。これらの回折した電子の一部は、蛍光スクリーンに当たり励起させ、蛍光を生じさせる。
【0012】
複数の異なる面が電子を回折して、格子の回折面の各々に対応する菊池ライン(または菊池バンド)を形成する場合に、電子後方散乱回折像(すなわちEBSP:electron backscatter diffraction pattern)が形成される。
【0013】
システムのジオメトリが十分に記述されている場合、EBSP像に存在するバンドを、電子的相互作用のボリューム内に配置された材料の結晶相と方位とに関連付けることが可能である。
【0014】
これを行うために、取得された画像は、各結晶粒の方位の特性評価を行うことを可能にするアルゴリズムを用いて処理される。
【0015】
上記技法の1つの欠点は、蛍光スクリーンとCCDビデオカメラの対物レンズとから構成されるアセンブリがSEMの室内に設置される必要があり、これによりSEMのコストが増大することである。
【0016】
他の欠点は画像取得時間に関し、これは所望の画質によっては非常に長くなり得る(すなわち、数時間)。具体的には、画像の必要な空間分解能が高いほど、画像取得時間はより長くならなければならない。
【0017】
この技法の他の欠点は、菊池ラインが得られるようにする場合には、試料に向けて放出される電子ビームが、試料の表面の法線に対して約70°の角度をなす必要があるということである。試料の表面の法線に対する電子ビームのそのような傾斜は、画像の空間分解能を低下させ、これにより結晶方位の決定の精度が低下する。
【0018】
これらの欠点を軽減するために、仏国特許第2988841号の明細書では、光ビームを用いることが提案されている。仏国特許第2988841号によれば、これは、走査電子顕微鏡(仏国特許第2988841号2頁13−25行参照)、より一般的には荷電粒子のビームを利用する取得デバイスが必要ないことを意味する。
【0019】
仏国特許第2988841号によれば、光ビームを用いることによって、工業生産上の制約に適合する試料の結晶粒の結晶方位をマッピングするための方法を得ることが可能になる(3頁21−23行参照)。
【0020】
より正確には、仏国特許第2988841号は、光ビームを用いることによって、簡単、迅速かつ実装が安価なマッピング方法が得られることを当業者に教示している。分析される試料の表面を研磨する必要がある荷電粒子のビームを用いた方法とは対照的に、仏国特許第2988841号に記載された方法を実施するためには、分析される試料の表面が粗くなければならない(1頁3−9行参照)。
【0021】
本発明の文脈では、「研磨された面」という表現は、典型的には3μmの結晶粒径(たとえば、ダイヤモンド・スラリ)までの範囲の異なる結晶粒径で研磨された、またはより好ましくはコロイダル・シリカ・スラリ内で振動研磨を受けた表面を意味するものと理解される。
【0022】
しかしながら、そのような方法は、多くの欠点を有する。詳細には、光ビームを用いた取得デバイスで取得された画像の空間分解能は、結晶粒内の結晶方位の変化を検出可能にするのに十分に高くない。具体的には、仏国特許第2988841号では、最小の空間分解能は、光ビームの波長の半分に等しい。言い換えれば、仏国特許第2988841号に記載された方法では、半波長未満の距離で分離された2点間の結晶方位の差を区別することができない。
【0023】
その上、仏国特許第2988841号は、所与の結晶粒の2点について強度を測定可能にすることはなく、所与の結晶粒の全ての点について平均強度を推定可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の一目的は、荷電粒子(イオンまたは電子)のビームを放出する取得デバイスを用いて取得された画像から多結晶材料製の試料の結晶方位をマッピングするための方法であって、EBSD技法に関する上述の欠点の少なくとも1つを軽減可能にする方法を提供することである。より正確には、本発明の一目的は、荷電粒子のビームを放出する取得デバイスを用いて取得された画像に基づいて多結晶材料製の試料の結晶方位をマッピングするための簡単、迅速かつ安価な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この目的のために、本発明は、研磨された面を有する試料の結晶方位をマッピングするための方法であって、
− 試料の画像の系列であって、取得デバイスにより異なる試料照射ジオメトリで取得され、各画像が、それぞれの照射ジオメトリにおける試料の点の強度を表す画素を含む画像の系列を受信することと、
− 画像の系列から、材料の少なくとも1つの点について、それぞれが前記系列の各画像についての照射ジオメトリに応じた着目点(point in question)に関する強度を表す少なくとも1つの強度プロファイルを推定することと、
− 材料の各着目点について、前記着目点に関する強度プロファイルを、データベースに含まれる既知の結晶方位の強度プロファイルの理論上のシグネチャと比較することにより、結晶方位を決定することと
を備える、方法を提供する。
【0026】
本発明の文脈では、「研磨された面」という表現は、典型的には3μmの結晶粒径(たとえば、ダイヤモンド・スラリ)までの範囲の異なる結晶粒径で研磨された、またはより好ましくはコロイダル・シリカ・スラリ内で振動研磨を受けた表面を意味するものと理解される。
【0027】
以下は、本発明による方法の好ましいが非限定的な態様である。
【0028】
− 推定ステップが、材料の各着目点について、画像の系列の画像内の前記着目点を表す同類画素(homologous pixel)をグループ化することと、照射ジオメトリに応じて着目点の強度のプロットを生成することとを備える。
【0029】
− 画像の系列の画像が、
○ 試料の表面の法線と、荷電粒子のビームの軸との間の一定の傾斜角で、かつ、
○ 試料の表面の法線を中心とした異なる回転角で
取得される。
【0030】
− 方法は、一定の傾斜角を補正するステップと、画像の系列の画像を矯正(rectify)するステップとをさらに備え、前記変換ステップが、非ゼロの回転角で得られた画像の系列の画像を、ゼロの傾斜角で得られる画像に対応させるように回転させることを含む。
【0031】
− 画像の系列の2つの連続する画像の間の回転角が、1゜と15゜の間に含まれるステップで変化する。
【0032】
ステップのサイズを増加させることは、画像の系列内の画像の数が減少するので、取得時間を減少させることを可能にする。
【0033】
− 回転角(β0〜β4)のダイナミック・レンジが、180°以上であり、好ましくは270°以上であり、より好ましくは360°である。
【0034】
「ダイナミック・レンジ」という表現は、最初の画像の回転角と、画像の系列の最後の画像の回転角との間の差を意味するものと理解される。
【0035】
ダイナミック・レンジが高いほど、結晶方位の決定における誤りの危険性が小さくなる。
【0036】
具体的には、180°に等しいダイナミック・レンジについて、試料の点の強度プロファイルは、複数の理論上のシグネチャに対応し得る。
【0037】
270°以上の、より好ましくは360°に等しいダイナミック・レンジを用いることは、所与の強度プロファイルに関する理論上のシグネチャにおける曖昧さを取り除くことを可能にする。
【0038】
− 画像の系列の画像が、試料の表面と、取得デバイスによって放出される荷電粒子(すなわちイオンまたは電子)のビームの軸に垂直な平面との間の異なる傾斜角において取得される。
【0039】
− 画像の系列の各画像の傾斜角が、−60°と+60°の間に含まれる。
【0040】
− 画像の系列の2つの連続する画像の間の傾斜角が、1°と10°の間に含まれるステップで変化する。
【0041】
− 方法は、画像の系列の画像を変形するステップをさらに備え、前記変形ステップが、非ゼロの傾斜角で得られた画像の系列の画像を、ゼロの傾斜角で得られる画像に対応させるように延伸することを含む。
【0042】
− 方法は、集束イオン・ビーム・デバイスなどの取得デバイスにおいて、材料の表面と荷電粒子のビームの軸に垂直な平面との間の異なる傾斜角において多結晶材料の画像の系列を取得することをさらに備え、各画像がそれぞれの傾斜角における材料の点の強度を表す画素を含む。
【0043】
− 方法は、
○ 画像の系列の一部の画像、より好ましくは全ての画像に対して中間分割画像を計算するステップであって、第1の値が、分割画像を得るために画像の系列の画像の画素に割り当てられるステップと、
○ 中間分割画像を重ね合わせて最終分割画像を形成するステップと
をさらに備える。
【0044】
また、本発明は、コンピュータ・プログラム製品であって、前記プログラムがコンピュータ上で実行された場合に、上述の方法のステップを実行するように意図されたプログラミング・コード命令を備える、コンピュータ・プログラム製品に関する。
【0045】
本発明の他の特徴と目的と利点とは、純粋に例示的かつ非限定的であり、添付の図面に関して読まれるべき以下の説明からより明確に明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】多結晶材料製の試料の結晶方位をマッピングするための一例示的方法の図である。
図2】様々な傾斜角における多結晶材料製の試料の画像を取得するための第1のモードの図である。
図3】様々な回転角における多結晶材料製の試料の画像を取得するための第2のモードの図である。
図4】取得に使用される角度に応じた多結晶材料の点の強度を表す例示的強度プロファイルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
ここで、多結晶材料の試料の結晶方位をマッピングするための方法が、図1から図4を参照してより詳細に説明される。
【0048】
この方法は、多結晶材料製の試料の各結晶粒41−46における結晶方位を決定するために実施されてよい。多結晶材料は、結晶方位をマッピングすることが所望される金属でもよいし、セラミックスでもよいし、他のいかなる多結晶材料とでもよい。
【0049】
方法の第1の段階10において、多結晶材料の試料の複数の画像が取得される。
【0050】
方法の第2の段階20において、多結晶材料製の試料の結晶粒41−46の結晶方位を決定するために、取得された画像が処理される。
【0051】
指向性照射の下で照射される結晶の強度が、使用されるビームの方向に対する結晶の方位に依存することが知られている。したがって、多結晶材料の場合、各結晶粒41−46の強度は、使用されるビームの方向に対する結晶の方位に応じて変化する。
【0052】
以下に記載される方法は、この効果を用いて多結晶材料製の試料の様々な構成要素の結晶粒41−46の結晶方位を決定することに基づいている。
【0053】
取得段階
第1の段階は、多結晶材料の試料の画像4a〜4eの系列を取得することを備える。取得段階は、供給源から荷電粒子(イオンまたは電子)のビームを放出し、試料により放出された粒子を検出器で収集するのに適した取得デバイスにおいて実施される。
【0054】
取得デバイスは、当業者に知られている走査型電子顕微鏡3でよく、これは以下で簡単に説明される。
【0055】
走査型電子顕微鏡は、走査電子の一次的なビームを供給源から発生させることによって機能し、走査電子は試料に当たり、試料の表面が画像形式で再生される。
【0056】
結果として、二次的な後方散乱電子が試料の表面により放出され、それらのそれぞれの経路は、(軸方向として知られている)試料の領域に垂直なビームの元の方向と逆方向であり、元の方向とは相違する角度である。
【0057】
放出された電子は、試料の上方に配置された検出器によって収集される。検出器は、試料が電子ビームにさらされたときに試料の表面から放出される収集された電子から信号を生成する。
【0058】
検出器からの信号は、典型的には、試料の表面の画像を生成するために処理される。
【0059】
変形例として、取得デバイスは、集束イオン・ビーム・デバイスであってもよい。集束イオン・ビーム・デバイス(すなわちFIB:focused ion beam)の動作原理は、走査型電子顕微鏡(SEM)と同様である。
【0060】
しかしながら、集束イオン・ビーム・デバイスは、試料を照射するために集束イオン、一般的にはガリウム・イオンのビームを使用するという点で、走査型電子顕微鏡とは異なる。
【0061】
集束イオン・ビーム・デバイスを使用すると、多結晶材料の試料の様々な結晶粒41−46の間の強度の変化を増大させることが可能になる。
【0062】
どのような取得デバイスが使用されても、そのデバイスにより、試料の画像4a〜4eの系列を取得することが可能になる。
【0063】
有利には、試料の画像4a〜4eは、様々な照射ジオメトリで取得される。より正確には、多結晶試料の所与の結晶粒を考慮して、各画像は、結晶粒の結晶構造に対して異なる向きのビームを用いて取得される。
【0064】
所与の結晶粒について、検出器によって受信される強度が、ビームに対するその結晶方位に依存するので、この結晶粒の強度は、画像の系列の様々な画像において異なる。
【0065】
2つの異なる取得モードは、観察される領域における結晶粒の結晶方位を決定するのに使用され得る画像の系列を取得することを可能にする。
【0066】
第1の取得モード−図2
図2は、傾斜角を変化させて画像の系列の画像が取得される第1の取得モードを示す。
【0067】
本発明の文脈では、「傾斜角」という表現は、材料の表面31と荷電粒子のビームの軸32に垂直な平面Pとの間の角度「α」を意味するものと理解される。したがって、角度αは、材料の表面31の法線33と荷電粒子のビームの軸32との間の角度に対応する。
【0068】
荷電粒子のビームと分析される領域の様々な構成要素の結晶粒との間の照射ジオメトリを変化させるために、荷電粒子のビームの軸32に垂直であり、したがって平面Pに含まれる旋回軸を中心に試料が回転されてよい。このように、連続した画像が取得される際に、傾斜角が変化する。
【0069】
有利には、傾斜角αは、−60°と+60°の間に含まれる範囲で変化し得る。これにより、材料の様々な結晶粒41−46の結晶方位が第2の段階20で決定されるのに十分に大きい角度範囲を得ることが可能になる。
【0070】
意図する用途とユーザのニーズとに応じて、傾斜角は2つの連続取得の間に、使用される測角ステージ(goniometric stage)の制御システムにより許容可能な最小ステップ(たとえば0.001°、または典型的にはSEMで1°)と、典型的には数度との間のステップで修正され得る。
【0071】
取得デバイスの動作原理は、以下の通りである。試料は、荷電粒子のビームの軸32に垂直な旋回軸を中心に回転可能な支持体に取り付けられる。支持体は、第1の端位置(たとえばα0=−60°)に回転される。第1の画像が取得される。そして、支持体は、選択された角度ステップに対応する角度だけ回転され、これにより試料の回転が生じる。試料の第2の画像が取得される。そして、回転ステップと取得ステップとが、第2の端位置に到達するまで(たとえばα4=+60°)繰り返される。
【0072】
このようにして、
− 1°のステップサイズの場合に−60°と60°の間で変化する傾斜角で、120枚の画像の系列が得られ、または、
− 2°のステップサイズの場合は−60°と60°の間で変化する傾斜角で、1°のステップサイズの場合は−30°と30°の間で変化する傾斜角で、60枚の画像の系列が得られる。
【0073】
そして、画像の系列は、方法の第2の段階を実施するために処理デバイスに送信される。
【0074】
第2の取得モード−図3
図3は、回転角を変化させて画像の系列の画像が取得される第2の取得モードを示す。
【0075】
本発明の文脈において、また、この第2の取得モードについて、「回転角」という表現は、材料の表面31の法線33を中心とした回転の角度「β」を意味するものと理解される。表面と荷電粒子のビームとの間の角度として定義される傾斜角αconstantは、有利には、画像の取得を最適化するために約40°に設定される。
【0076】
もちろん、他の非ゼロの傾斜角、たとえば、[−80,0[および]0,+80°]の間に含まれる値が使用され得ることを当業者は理解するであろう。
【0077】
荷電粒子のビームと分析される領域の様々な構成要素の結晶粒との間の照射ジオメトリを変化させるために、連続画像が取得される際に、材料の表面31の法線33を中心として試料が回転されてよい。このようにして、連続した画像が取得される際に、回転角βが変化する。
【0078】
有利には、回転角は360°、すなわち完全な一周をカバーしてよい。意図する用途とユーザのニーズとに応じて、回転角は2つの連続取得の間に、使用される測角ステージの制御システムにより許容可能な最小ステップ(たとえば0.001°、または典型的にはSEMでは1°)と、典型的には数度との間のステップで修正されてよい。
【0079】
取得デバイスの動作原理は、以下の通りである。試料は、材料の表面31の法線33に垂直な旋回軸を中心として回転可能な支持体に取り付けられる。支持体は、初期位置(たとえば、β=0°)に回転される。第1の画像が取得される。そして、支持体は、選択された角度ステップに対応する角度だけ回転され、これにより試料の回転が生じる。試料の第2の画像が取得される。そして、回転ステップと取得ステップとが、最終位置(たとえば、β=360°)に到達するまで繰り返される。
【0080】
たとえば、完全な一周(すなわち、0°から360°まで変化する回転角)について、2°のステップサイズで180枚の画像の系列が得られ、1°のステップサイズで360枚の画像の系列が得られる。
【0081】
そして、画像の系列は、方法の第2の段階を実施するために処理デバイスに送信される。
【0082】
加えて、試料の表面から検出器への電子の放出の角度が画像の系列の取得中に不変であるので、画像の平均強度は、系列の様々な画像において同一である。
【0083】
これは、様々な画像における平均強度を調和させるステップが必要ないことを意味するが、そのようなステップは第1の取得モードによる取得の場合におそらく実施されることになる。
【0084】
具体的には、第1の取得モードでは、傾斜角の変化は、試料の表面から検出器への電子の放出の角度に(したがって、系列の様々な画像における平均強度に)変化があることを意味する。
【0085】
処理段階
処理デバイス2は、材料の試料の結晶方位をマッピングすることを可能にする。
【0086】
処理デバイス2は、以下に詳細に説明されるように、特に、強度プロファイルを推定することを可能にするプロセッサを備えることができる。
【0087】
プロセッサは、たとえば、1つまたは複数のコンピュータ、1つまたは複数の処理ユニット、1つまたは複数のマイクロコントローラ、1つまたは複数のマイクロコンピュータ、1つまたは複数のプログラム可能なコントローラ、1つまたは複数の特定用途向け集積回路、1つまたは複数の他のプログラム可能な回路、またはコンピュータを含む1つまたは複数の他のデバイス(たとえばワークステーション)である。
【0088】
処理デバイス2は、取得デバイス3に統合されてもよく、または取得デバイス3から分離されてもよい。
【0089】
プロセッサは、プロセッサに統合されても、またはプロセッサから分離されてもよいメモリに(または2つ以上のメモリに)接続される。メモリは、ROM/RAMメモリ、USBキー、または中央サーバのメモリでよい。このメモリは、処理段階20のステップを実行するように意図されたプログラミング・コード命令、またはプロセッサにより使用される他のデータを格納することを可能にしてよい。
【0090】
第1のステップでは、処理デバイス2は、取得デバイス3により取得された画像の系列の画像4a〜4eを受信する。取得された各画像4a〜4eは、グレー・レベルが検出器により受信された電子的強度を表す画素で構成され、グレー・レベルは0と255の間に含まれ、または取得された画像がより多数のビット(たとえば16もしくは32ビット)で符号化される場合には、0と255を超える値との間に含まれる。
【0091】
より正確には、各画素のグレー・レベルは、試料の対応点の強度を表す。この強度は、着目点における結晶方位と、取得ジオメトリ(すなわち試料に対する供給源と検出器との位置)により定義される角度とに依存する。
【0092】
画像の系列の画像4a〜4eは、多結晶材料の試料の所与の点47に対応する同類画素を含む。
【0093】
同類画素のグレー・レベルが、連続して取得された2つの画像間で変化し、その理由は、これらの連続した画像が取得される際に、取得ジオメトリ(すなわち傾斜角α)が変化するためである。
【0094】
したがって、試料の、したがってより一般的には所与の結晶粒41−46の所与の点47の強度は、図2に示されるように、画像4a〜4eの系列の画像において変化する。
【0095】
取得モード1について、画像は様々な傾斜角で取得されるので、画像は互いに対して変形している。この理由のために、方法は、画像の系列の画像を変形するステップを備えることができ、前記変形ステップは、非ゼロの傾斜角で得られた画像の系列の画像を、ゼロの傾斜角で得られる画像に対応させるように延伸することを含む。
【0096】
また、取得モード2について、取得モード1で得られた画像の場合と同様に、試料の傾斜を補正することが必要である。しかしながら、この傾斜角は、全ての画像について同一である。しかしながら、画像は試料の様々な回転角について得られているので、方法は、画像の系列の画像を矯正するステップを備えることができ、前記矯正ステップは、非ゼロの回転角で得られた画像の系列の画像を、ゼロの回転角で得られる画像に対応させるように旋回させることを含む。
【0097】
方法の他のステップ22において、強度プロファイルが推定される。
【0098】
試料の各点について、様々な画像の同類画素がグループ化される。強度を表す各同類画素の値は、同類の点が属する画像を取得するのに使用された角度に応じてプロットされる。
【0099】
試料の点について推定された例示的強度プロファイル50が図4に示されている。この強度プロファイル50は、角度52に応じた試料の点の強度51を示す。強度51が角度52に応じて変化することが分かるであろう。詳細には、強度プロファイルは、強度の低下に対応する4つの谷53を含む。これらの4つの谷53を除けば、試料の点の強度は、角度に関係なく、実質的に一定のままである。
【0100】
試料の各点について強度プロファイルを推定する代わりに、推定ステップは、試料の各結晶粒41−46のうちの1点、2点、または3点において実施されてよい。これは、処理段階を加速することを可能にする。この場合、方法は、推定ステップが実施されるべき試料の点を選択するステップを備える。この選択ステップは、自動であっても手動(すなわち、ユーザにより実施される)であってもよい。
【0101】
選択ステップの実施を容易にするために、方法は、結晶粒の境界を検出するステップを備えることができ、このステップは、当業者に知られている任意の境界検出アルゴリズムに基づく。
【0102】
境界は、有利には画像の系列の複数の画像において、好ましくは画像の系列の全ての画像において検出される。具体的には、画像の系列の1つの画像を用いて境界検出ステップを実施することは、全ての結晶粒の境界を識別することを可能にしない場合があり、その理由は、特定の場合において、2つの隣接する結晶粒が、画像の系列の所与の画像において同じグレー・レベルを有し得るためである。この理由のために、複数の画像を用いて境界検出ステップを実施することが好ましい。境界検出ステップの終了時に、複数の中間分割画像が得られる。そして、これらの中間分割画像が重ね合わされて、試料の結晶粒の最終分割画像が形成される。
【0103】
そして、試料の結晶粒分割画像の各結晶粒において1つまたは複数の点が選択され、選択された各点について強度プロファイルが推定される。
【0104】
強度プロファイルは、以下のように解釈されてよい。強度が一定である場合、ビームと着目点における結晶面との間の配向は確定できない。強度が変化する場合、ビームは、試料の着目点における結晶面にほぼ平行である。
【0105】
強度の低下の振幅は、結晶面の種類に依存する。たとえば、窒化チタン(TiN)の立方構造について、ビームが[1 1 1]平面と平行になる場合、強度の低下は、ビームが[1 1 0]平面と平行になる場合よりも小さい。同様に、ビームが[1 1 0]平面と平行になる場合、強度の低下は、ビームが[1 0 0]平面と平行になる場合よりも小さい。したがって、強度の低下の振幅は、試料の点に存在する結晶面の種類を定義することを可能にする。
【0106】
しかしながら、この解釈は、試料の点の結晶方位を直接計算の方法により決定することを可能にしない。具体的には、取得中に、複数の[1 1 1]結晶面が、たとえば所与の傾斜角においてビームに平行である場合、2つの低振幅の谷が2つの効果の加算によって大振幅の谷を出現させることがあり、これにより試料の点における結晶面の特性評価に誤りが生じ得る。
【0107】
このため、本発明者らは、各強度プロファイルを結晶方位が既知である理論上の強度プロファイル・シグネチャと比較すること(ステップ23)を提案する。これらの理論上のシグネチャは、7つの結晶系、すなわち、
− 三斜晶系、
− 単斜晶系、
− 斜方晶系、
− 正方晶系、
− 三方晶系、
− 六方晶系、
− 立方晶系
についてのデータベースに含まれる。
【0108】
したがって、推定された各強度プロファイルが、データベースに含まれる理論上の強度プロファイル・シグネチャと比較される(ステップ23)。結晶方位は、推定された強度プロファイルと最大の相関を有する理論上のシグネチャの方位であると決定される。
【0109】
推定ステップと比較ステップとが、試料の様々な点について繰り返される。このようにして、多結晶材料の試料の結晶粒の結晶方位のマップが得られる。
【0110】
読者は、開示された新規な教示の範囲から実質的に逸脱することなく多くの修正が上述の方法になされ得ることを理解するであろう。
【0111】
たとえば、本方法は、単結晶材料の結晶方位を決定するために使用され得る。
【0112】
したがって、上記で与えられた例は単に例示的であって、限定的とは決して意図されていないことは理解されよう。
図1
図2
図3
図4