特許第6606513号(P6606513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606513
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】水潤滑式軸受材料
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20191031BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20191031BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20191031BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20191031BHJP
   B63H 23/36 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   F16C33/20 A
   C08K7/06
   C08L27/18
   C08J5/04CEW
   B63H23/36
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-569349(P2016-569349)
(86)(22)【出願日】2016年1月12日
(86)【国際出願番号】JP2016050621
(87)【国際公開番号】WO2016114244
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2018年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-7305(P2015-7305)
(32)【優先日】2015年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【弁理士】
【氏名又は名称】天坂 康種
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(72)【発明者】
【氏名】松本 敬宣
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−268126(JP,A)
【文献】 特表2005−511980(JP,A)
【文献】 特開2013−7006(JP,A)
【文献】 特開平9−157532(JP,A)
【文献】 特開平10−204282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/20,17/14
B63H 23/34
C08K 7/06
C08L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
12重量%〜25重量%のテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA樹脂)、18重量%〜33重量%の炭素繊維、及び残部がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂および/または変性PTFE樹脂を含有してなり、前記炭素繊維が、湾曲・ひねり状炭素繊維である水潤滑式軸受材料。
【請求項2】
前記炭素繊維が、ピッチ系の炭素繊維である、請求項1に記載の水潤滑式軸受材料。
【請求項3】
湾曲・ひねり状炭素繊維の曲率半径が、50〜1500μmの範囲である、請求項1又は2に記載の水潤滑式軸受材料。
【請求項4】
前記炭素繊維の長さが、70〜200μmである、請求項1〜の何れか1項に記載の水潤滑式軸受材料。
【請求項5】
船舶用水循環式シールシステム用軸受に用いられてなる請求項1〜の何れか1項に記載の水潤滑式軸受材料。
【請求項6】
変性PTFEが、テトラフルオロエチレンと、フルオロアルキルトリフルオロエチレン、エチレン、及びプロピレンからなる群から選ばれる不飽和化合物との共重合体である、請求項1〜のいずれか1項に記載の水潤滑式軸受材料。
【請求項7】
PFAが、ASTMD3307に準拠したメルトフローレート値(MFR)が15g/10min未満のPFAである、請求項1〜のいずれか1項に記載の水潤滑式軸受材料。
【請求項8】
金属部材の内側に設けられてなる請求項1〜のいずれか1項に記載の水潤滑式軸受材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受材料、特に船舶用船尾管における水潤滑式軸受材料に関するものであり、具体的には、PTFE又は変性PTFE樹脂とPFA樹脂とからなる樹脂原料に炭素繊維が配合された樹脂組成物により構成される水潤滑式軸受材料に関する。
【背景技術】
【0002】
滑り軸受は、その潤滑方式により、無潤滑方式、固体潤滑方式、及び流体潤滑方式に大別され、流体潤滑方式はさらに水(海水又は淡水)潤滑式軸受と油潤滑式軸受に分けられる。油潤滑式軸受の場合は、摩擦や粘度の調整剤などを配合した潤滑油により軸受の摺動面に安定な油膜を形成することで、摩擦や摩耗、焼付きがある程度防止される。また、水潤滑式軸受の場合は、潤滑剤として働く水の動粘度が潤滑油と比較してはるかに低いため、摺動面の相手材との直接接触による激しい摩耗や焼付きが発生しやすい。そのために、水潤滑式軸受材料には、より優れた耐摩耗性などの摺動特性が要求される。
そのような理由から従来は油潤滑式軸受が主流であったが、近年、軸受からの潤滑油流出による河川や海洋の環境の汚染を防止するために、水潤滑式軸受を採用したいというニーズが高まってきている。例えば、河川での水力発電用の水車などの水車の軸受として油潤滑式軸受を使用した場合には、その潤滑油の流出による河川汚染が問題になってきているし、また船舶の船尾管内のプロペラ軸又は多軸船における船尾管軸を支える船尾管軸受として油潤滑式軸受を使用した場合には、その潤滑油の流出による海洋汚染が問題になってきている。
【0003】
このような水潤滑式軸受における摺動面に用いるために開発された耐水性、自己潤滑性と共に、耐摩耗性にも優れた樹脂材料としては、ポリエチレンワックスを添加したポリウレタン樹脂材料(特許文献1)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等の熱可塑性樹脂材料(特許文献2)、炭素繊維含有ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂材料(特許文献3〜6)の他、ニトリ−ル系ゴム、超高分子ポリエチレン(PE) 、架橋PE、ポリプロピレン(PP)などの樹脂材料(特許文献7)が挙げられる。
【0004】
一方、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂は、自己潤滑性、耐熱性、耐腐食性が高く加工特性にも優れているため、炭素繊維(CF)を含有させて耐摩耗性を高めたCF含有PTFE樹脂が各種軸受材料として用いられている。
【0005】
しかしながら、PTFE樹脂材料は、上述の各樹脂材料と比較して耐摩耗性が低く、CFを充填剤として含有させた場合でも、過酷な水潤滑式軸受用樹脂材料としては十分ではなかった。CF含有PTFE樹脂を用いた態様も報告されている(特許文献8)が、これは相手材となる固定部材摺動面が窒化チタン(TiN)膜で形成されている特殊な条件下での使用である。
また、無循環方式の複層系軸受材料における、ステンレス鋼表面に形成された多孔質の青銅粉末層用含浸被覆組成物として、PTFEを主成分とする樹脂材料に炭素繊維(CF)と共に、硫化モリブデン、平均粒子径1〜50μmの粒状無機充填剤、又はモース硬度4以下のウィスカを配合した樹脂組成物を用いることが報告されている(特許文献9〜11)。しかし、当該樹脂組成物は、硫化モリブデンなどの粒状の鉱物などの固体潤滑剤の配合を必須とするものである上に、複層系軸受の多孔質青銅粉末層の含浸用樹脂組成物として用いられたものであり、樹脂組成物単独で軸受摺動面を形成させることは想定されていない。
【0006】
以上のことから、滑り軸受材料、特に船尾管軸受材料などの水潤滑式軸受材料とした場合に、自己摩耗を十分に防ぐことができ、優れた摺動特性を有するCF含有PTFE樹脂組成物の提供が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−7006号公報
【特許文献2】特開2001−124070号公報
【特許文献3】特開2010−7805号公報
【特許文献4】特開2009−257590号公報
【特許文献5】特開2008−202649号公報
【特許文献6】特開2007−247478
【特許文献7】特開平5−131570号公報
【特許文献8】特開平10−184692号公報
【特許文献9】特開2010−159808号公報
【特許文献10】特開2002−327750号公報
【特許文献11】特開2000−55054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、水潤滑式軸受材料、特に水潤滑用船尾管軸受材料としても使用可能な、優れた耐摩耗性などの摺動特性を有するPTFE樹脂組成物からなる水潤滑式軸受材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水潤滑式軸受材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂または変性PTFE樹脂、炭素繊維(CF)、及びテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)を含有してなる樹脂組成物により構成される軸受材料であって、PFA及び炭素繊維(CF)を比較的多量に配合することを特徴とするものであり、PFA及び炭素繊維(CF)を比較的多量に配合することにより無機充填剤や硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を配合することなく、十分な耐摩耗性が得られることを特徴とするものである。
すなわち、本発明は、13重量%〜30重量%の PFA樹脂、18重量%〜35重量%の炭素繊維、及び残部がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂および/または変性PTFE樹脂を含有してなる水潤滑式軸受材料に関する。
【0010】
より詳細には、本発明は以下の態様を含んでいる。
[1]12重量%〜25重量%のテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA樹脂)、18重量%〜33重量%の炭素繊維、及び残部がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂および/または変性PTFE樹脂を含有してなる水潤滑式軸受材料。
[2]炭素繊維が、ピッチ系の炭素繊維である、前記[1]に記載の水潤滑式軸受材料。
[3]炭素繊維が、湾曲・ひねり状炭素繊維である、前記[1]又は[2]に記載の水潤滑式軸受材料。
[4]湾曲・ひねり状炭素繊維の曲率半径が、50〜1500μmの範囲である、前記[3]に記載の水潤滑式軸受材料。
[5]炭素繊維の長さが、70〜200μmである、前記[1]から[4]の何れか1項に記載の水潤滑式軸受材料。
[6]船舶用水循環式シールシステム用軸受に用いられてなる、前記[1]から[5]に記載の水潤滑式軸受材料。
[7]変性PTFEが、テトラフルオロエチレンと、フルオロアルキルトリフルオロエチレン、エチレン、及びプロピレンからなる群から選ばれる不飽和化合物との共重合体である、前記[1]から[6]に記載の水潤滑式軸受材料。
[8]PFAが、ASTMD3307に準拠したメルトフローレート値(MFR)が15g/10min未満のPFAである、前記[1]から[7]のいずれか1項に記載の水潤滑式軸受材料。
[9]金属部材の内側に設けられてなる前記[1]から[8]のいずれか1項に記載の水潤滑式軸受材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水潤滑式軸受材料は、PTFEまたは変性PTFE樹脂に13重量%〜30重量%のPFA樹脂及び18重量%〜35重量%の炭素繊維をブレンドすることで、優れた耐摩耗性、低相手攻撃性を有し、摺動発熱量も低いという、優れた摺動特性を有している。また、本発明の水潤滑式軸受材料は、PFA及び炭素繊維を比較的多量に含有させることにより、硫化モリブデンや無機充填剤などの固体潤滑剤を含有させなくても、優れた耐摩耗性及び優れた摺動特性を有しており、簡便な組成で優れた軸受材料として使用することができる。
さらに、本発明の水潤滑式軸受材料は耐摩耗性に加えて耐水性にも優れており、水潤滑式軸受の軸受材料として特に適している。そして、舶用清水潤滑シールシステム用軸受材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】フィラー比率に応じた比摩耗量(DRY)の測定結果を示す図である。
図2】樹脂原料中の配合比率に応じた比摩耗量(DRY)の測定結果を示す図である。
図3】樹脂原料中の配合比率に応じた相手攻撃性の測定結果を示す図である。
図4】配合する炭素繊維形状の違いによる摺動発熱の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のPTFE 樹脂としては、-(CF2-CF2)n-で表される一般のPTFE樹脂(融点327℃)を用いることができる。
本発明において、変性PTFE樹脂としては、2重量%以下の共重合可能な単量体、例えばパーフルオロアルキルエーテル基、フルオロアルキル基またはその他のフルオロアルキル基を有する側鎖基で変性されたPTFEの共重合体が用いられる。典型的な変性PTFE樹脂は、テトラフルオロエチレンと、フルオロアルキルトリフルオロエチレン、エチレン、及びプロピレンからなる群から選ばれる不飽和化合物との共重合体である、と表現することができる。変性PTFE樹脂は、一般に耐圧縮特性がPTFE樹脂より優れているため、好適に使用できる。なお、一般のPTFE樹脂と変性PTFE樹脂を併用してもよい。
これらのPTFE樹脂および変性PTFE樹脂は、数平均分子量(Mn)が約500,000〜10,0000,000が好ましく、500,000〜3,000,000がさらに好ましい。PTFE樹脂の市販品としては、テフロン(登録商標)7J(三井・デュポンフロロケミカル社製)を用いることができ、また変性PTFE樹脂の市販品としては、テフロン(登録商標)NXT70(三井・デュポンフロロケミカル社製)の他、テフロン(登録商標)TG70J(三井・デュポンフロロケミカル社製)、ポリフロンM111、ポリフロンM112(ダイキン工業社製)、ホスタフロンTFM1600、ホスタフロンTFM1700(ヘキスト社製)等を例示できる。
【0014】
PTFE樹脂原料に配合する熱可塑性樹脂のPFA共重合樹脂は分岐構造があるため、炭素繊維との相溶性が良く、マトリックスの補強効果があり、配合により耐摩耗性も向上し相手攻撃性も低下する。
本発明のPFA共重合樹脂としては、MFR(メルトフローレート)値(ASTMD3307に準拠して測定)が小さい(分子量が大きい)方が炭素繊維との相溶性がよく、15g/10min未満のPFA樹脂であることが好ましい。4〜8g/10minがより好ましく、5〜7 g/10minのものが特に好ましい。
具体的なPFA樹脂市販品としては、ACX21(ダイキン工業製)などを例示することができる。
PFA共重合樹脂の配合量は、全樹脂原料(100重量%)に対して18〜30重量%、特に20〜25重量%であることが好ましい。この範囲内であれば、摺動特性に優れ、かつ相手攻撃性の低いPTFE製品が製造できることが期待できる。PFA樹脂の配合量が、18重量%未満ではマトリックスの補強効果が得られず、30重量%を超えて用いられると摺動発熱が大きくなることで耐摩耗性が悪化する。なお、全樹脂組成物あたりの好ましい配合量は、全樹脂組成物100重量%に対して13〜30重量%、好ましくは15〜23重量%となる。
【0015】
本発明で用いる炭素繊維は、炭素繊維を粉砕処理して短繊維化したミルドファイバーであって、平均繊維径が5〜20μm、平均繊維長が約70〜200μmのピッチ系の短繊維が樹脂組成物における分散性が優れており好ましい。また、通常の約1000℃程度の焼成品(炭化品)よりも、2000℃以上の温度での高温焼成品(黒鉛化品)の方が好適に使用できる。炭素繊維としては、繊維径あるいは繊維長などについては、平均繊維径が5〜20μm、平均繊維長が約70〜200μmのピッチ系のものが用いられる。好ましくは、高黒鉛化ピッチ系のものが用いられる。ピッチ系炭素繊維としては、製造原料により光学的等方性ピッチと光学的異方性ピッチ(メソフェースピッチ)に分けられるが、本発明のピッチ系炭素繊維としては、光学的異方性ピッチ(メソフェースピッチ)の方が、サイジング後の強度が高く、弾性力も高いので好ましい。
【0016】
また、形状についてはストレート状ではなく、曲率半径50〜1500μmの範囲である湾曲・ひねり状のものが用いられる。曲率半径が50μm未満ではPTFE材料の圧縮成形過程で炭素繊維が折れ、適正な繊維長を維持できない。曲率半径1500μm以上ではPTFEとの絡み合いが不十分で炭素繊維の脱落を十分に抑制できない。なお、曲率半径は電子顕微鏡(日本電子製品JSM-5900LV)で撮影した2次電子像を画像解析ソフト(MediaCybernetics製品、Image-Pro Plus version7.0)により測定した。
こうして選択した湾曲・ひねり状の炭素繊維は、摺動発熱により軸受材が軟化して炭素繊維保持力が低下しても湾曲・ひねり部分がPTFEと絡み合っているため脱落しにくい。
具体的な湾曲・ひねり状の炭素繊維の市販品としては、炭素質グレードのS-2404N、S249K、及びS-241(大阪ガスケミカル社製)など、高黒鉛化グレードのSG-249及びSG-241(大阪ガスケミカル社製)等が例示できる。
なお、炭素繊維としては、ピッチ系炭素繊維以外にPAN系炭素繊維が汎用的に用いられているが、PAN系であっても、上記曲率半径50〜1500μmの湾曲・ひねり状の形状の炭素繊維であれば同様に用いることができる。
【0017】
湾曲・ひねり状炭素繊維の配合量(フィラー比率)は、全樹脂組成物100重量%に対して18〜35重量%であることが求められ、特に20〜30重量%であることが好ましい。炭素繊維は摺動から樹脂組成物を守る役割をしているため、配合量が少ないと柔らかい樹脂の露出が増え摩耗しやすくなり、配合量が多すぎると樹脂が炭素繊維をつなぎ止めにくくなる。
CF配合量が、20重量%未満では、樹脂組成物の耐摩耗性が低くなり、CF配合量が、35重量%を超えると割れが発生し好ましくない。
【0018】
以上のことから、炭素繊維の全樹脂組成物中の配合量は、全樹脂組成物(100重量%)に対して18〜35重量%、好ましくは20〜30重量%であり、PFA樹脂配合量は、全樹脂組成物(100重量%)に対して12〜25重量%、好ましくは14〜20重量%となり、残量がPTFE又は変性PTFE配合量となる。
尚、残量部分は不可避の他の材料が配合されていてもよい。
【0019】
PTFE(変性PTFE)樹脂及びPFA樹脂の混合、及び樹脂原料への炭素繊維の配合は、2種類の樹脂原料及びフィラーの炭素繊維の三者の良好な分散状態が得られる方法であれば任意のブレンド方法を採用することができ、一般的には、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機を用いてブレンドが行われる。配合順序も適宜設定できる。
【0020】
本発明の樹脂組成物を用いた軸受材の加工方法は、一般的なCF含有PTFE(又は変性PTFE)樹脂組成物による軸受の製造方法を適用することができる。
具体的には、上記ブレンド物を約70〜80MPaの圧力で成形し、さらに約360〜390℃で3時間程度加熱処理した後、切削加工することなどの方法によって行われる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。なお、試験例中の%は全て重量%を表す。
【0022】
(試験例1)フィラー比率に応じた比摩耗量(DRY)の測定
PTFE樹脂原料として変性PTFE(三井デュポンフロロケミカル製品NXT70)を、炭素繊維(CF)としてピッチ系、高黒鉛化炭素繊維(CF)(大阪ガスケミカル製SG-249)を用い、PTFE樹脂に対するCFの配合比率(フィラー比率)が10%、15%、20%、25%、30%、35%及び40%になるように配合し、ヘンシェルミキサー(型式FM20C/I)を用いて良く混合した後、60〜70MPaで圧縮成形した。次いで、焼成炉にて360〜390℃で3時間焼成して円盤状の試験片(外径40mm、厚さ2mm)を製造した。
摺動特性(動摩擦係数)試験は、JISK7218A規格に従ったリングオンディスク法を用いて比摩耗量を測定した。相手材(リング材)はS45C(炭素含有率0.45%炭素鋼)(外径25.6mm、内径20mm、高さ15mm)を用い、ドライ環境で圧力0.8Mpa、速度0.5m/sで24時間円盤状の試験片を回転させた。
その結果、CFの配合比率(フィラー比率)が18〜33%程度、特に20〜30%の範囲内の場合が比摩耗量が低く、摺動特性に優れていることがわかった(図1)。
【0023】
(試験例2)PFAブレンド比率に応じた比摩耗量(DRY)の測定
試験例1の結果に基づき、PTFE樹脂に対するCFのフィラー比率を25%に固定し、PTFE樹脂原料中の変性PTFEとPFAとのブレンド比率を変えて比摩耗量の値を測定し、試験例1と同様の摺動特性試験を行った。
具体的には、試験例1と同様のピッチ系、高黒鉛化CF 25%に対して75%のPTFE樹脂原料を配合するに際して、変性PTFE (NXT70)に対して、PFA(ダイキン工業製ACX21)を全樹脂原料量の0%、10%、15%、20%、25%、30%及び35%のブレンド比率で配合し、試験例1と同様の方法で円盤状の試験片を製造した。
次いで、試験例1と同様のリングオンディスク法(JISK7218A規格)を用いてドライ環境下で相手材S45Cに対する比摩耗量を測定した。
その結果、全樹脂原料量に対するPFAのブレンド比率が18〜35%程度、特に20〜30%の範囲内であれば、比摩耗量が低く、摺動特性に優れていることがわかった(図2)。
【0024】
(試験例3)PFAブレンド比率に応じた相手攻撃性の測定
試験例2と同様に、CFのフィラー比率を25%に固定し、PTFE原料中の変性PTFEとPFAとのブレンド比率を変えて相手攻撃性試験を行った。
具体的には、試験例2と同様に、全体の75%のPTFE樹脂原料中でのPFAの配合割合を、全樹脂原料量の0%、10%、15%、20%、25%及び30%のブレンド比率とし、試験例1と同様の方法で円盤状の試験片を製造した。
次いで、PFAブレンド比率の異なる試験片毎に、JIS0601-1976表面粗さの規格に準拠して、相手材のRz(十点平均粗さ)の変化率(%)をドライ環境下で測定することで、相手攻撃性試験を行った。
相手材としては、試験例1,2で用いたと同じ炭素鋼S45Cを用いた。試験前の表面粗さをJIS0601-1976触針式表面粗さ測定器により測定し、Rzを算出すると、Rz1.5μmであった。
試験は、試験例1,2と同様、ドライ環境で圧力0.8Mpa、速度0.5m/sで24時間円盤状の各試験片を回転させた後にRz値を測定し、試験前のRz1.5μmと比較した相手粗さ変化率(%)を測定した。
ここで、相手粗さ変化率(%)はマイナスで表示されるが、ゼロに近いほど低攻撃性であると評価される。
その結果、PFAブレンド比率が18〜30%程度、特に20〜25%の場合が低攻撃性であることがわかった(図3)。
試験例2及び試験例3の結果をあわせると、全PTFE原料中でのPFAのブレンド比率は、18〜30%程度、特に20〜25%であれば、摺動特性に優れ、かつ相手攻撃性の低いPTFE製品が製造できることが期待できる。試験例1からは、CFの最適フィラー比率が18〜33%、特に20〜30%であることが求められているので、摺動特性に優れ、かつ相手攻撃性の低いPTFE製品の全体でのPFAの配合比率は、12〜25%、好ましくは14〜20%となる。PTFEはPFA及びCFの残量となるので、PFA:CF:PTFE=12〜25:18〜33:残部であり、好ましい場合がPFA:CF:PTFE=14〜20:20〜30:残部となる。
【0025】
(試験例4)炭素繊維(CF)の種類による摺動発熱の違い
本試験では、PTFE樹脂原料に配合するCFとして、より摺動発熱性の低いCFを選択するために、PTEF樹脂70%に対するCFのフィラー比率を30%に固定して、配合するCFの種類を変えた円盤状試験片を試験例1と同様の方法で製造した。
ここで、PTFE樹脂としてはPTFE(三井・デュポンフロロケミカル社製テフロン7J)を用い、配合する炭素繊維(CF)としては、ピッチ系CFのうちのストレート状CF(クレハ製M2007SA)、ひねり状CFの炭素質グレード(大阪ガスケミカル製S-2404N、S249K、及びS-241)、ひねり状高黒鉛化グレード(大阪ガスケミカル製SG-249及びSG-241)を用いた。
摺動発熱試験は、試験例1〜3と同様に、相手材としてS45C炭素鋼を用い、ドライ環境で圧力0.8Mpa、速度0.5m/sで24時間円盤状の試験片を回転させた後に、摺動部近傍温度を測定して行った(図4)。なお、摺動試験前の摺動部近傍温度は、室温(25℃)に調整して行われた。
その結果、ピッチ系炭素繊維(CF)のうちで、ストレート状の場合は、摺動部近傍温度が約150℃にまで上昇し、摺動発熱が高くて使用に耐えないが、ひねり状のCFであれば、いずれも摺動発熱は100℃未満に抑えられ十分に使用可能であることがわかった。特に、高黒鉛化されているCFを用いると摺動発熱が低く、より好ましいことがわかった。
【0026】
(実施例1)
変性PTFE(三井デュポンフロロケミカル製品NXT70)55重量部、PFA(ダイキン工業製品ACX21)20重量部およびピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維(大阪ガスケミカル製品S-249;平均繊維径13μm、平均繊維長90μm)25重量部を、ヘンシェルミキサー(型式FM20C/I)を用いて混合した後、プレス等によって60〜70MPaで圧縮成形した。次いで、焼成炉にて360〜390℃で3時間、焼成した。
その後切削加工により試験用NZ-7280型軸受を作製し、軸受運転を168h行い、軸受機能特性評価試験を実施し、以下の製品評価基準に従い評価した。
【0027】
<評価項目>
1.耐摩耗性:
試験後の軸受摺動面の摩耗量をISK7214K規格に従って測定し、比摩耗量が2.0×10-12mm2/N未満のものを◎、2.0〜4.0×10-12mm2/Nのものを○、4.0×10-12mm2/N以上のものを×とした。
2.製品の割れ:
軸受運転後の試験製品を目視により観察し、ひびの存在を確認したものを「割れあり」とした。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0028】
(実施例2)
実施例1において変性PTFE量が65重量部に、PFAが20重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が15重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0029】
(実施例3)
実施例1において変性PTFE量が60重量部に、PFAが15重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が25重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0030】
(比較例1)
実施例1において変性PTFE量が45重量部に、PFAが20重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が35重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0031】
(比較例2)
実施例1において変性PTFE量が45重量部に、PFAが30重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が25重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0032】
(比較例3)
実施例1においてPFAは配合せず、変性PTFE量が75重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が25重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
以上の結果から、CFの配合割合が全組成物(100重量%)中の35重量%を超えると製品割れが発生して好ましくなく、PFA樹脂配合割合が30重量%を超えると耐摩耗性が悪くなることが確認された。
図1
図2
図3
図4