【0013】
本発明のPTFE 樹脂としては、-(CF
2-CF
2)
n-で表される一般のPTFE樹脂(融点327℃)を用いることができる。
本発明において、変性PTFE樹脂としては、2重量%以下の共重合可能な単量体、例えばパーフルオロアルキルエーテル基、フルオロアルキル基またはその他のフルオロアルキル基を有する側鎖基で変性されたPTFEの共重合体が用いられる。典型的な変性PTFE樹脂は、テトラフルオロエチレンと、フルオロアルキルトリフルオロエチレン、エチレン、及びプロピレンからなる群から選ばれる不飽和化合物との共重合体である、と表現することができる。変性PTFE樹脂は、一般に耐圧縮特性がPTFE樹脂より優れているため、好適に使用できる。なお、一般のPTFE樹脂と変性PTFE樹脂を併用してもよい。
これらのPTFE樹脂および変性PTFE樹脂は、数平均分子量(Mn)が約500,000〜10,0000,000が好ましく、500,000〜3,000,000がさらに好ましい。PTFE樹脂の市販品としては、テフロン(登録商標)7J(三井・デュポンフロロケミカル社製)を用いることができ、また変性PTFE樹脂の市販品としては、テフロン(登録商標)NXT70(三井・デュポンフロロケミカル社製)の他、テフロン(登録商標)TG70J(三井・デュポンフロロケミカル社製)、ポリフロンM111、ポリフロンM112(ダイキン工業社製)、ホスタフロンTFM1600、ホスタフロンTFM1700(ヘキスト社製)等を例示できる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。なお、試験例中の%は全て重量%を表す。
【0022】
(試験例1)フィラー比率に応じた比摩耗量(DRY)の測定
PTFE樹脂原料として変性PTFE(三井デュポンフロロケミカル製品NXT70)を、炭素繊維(CF)としてピッチ系、高黒鉛化炭素繊維(CF)(大阪ガスケミカル製SG-249)を用い、PTFE樹脂に対するCFの配合比率(フィラー比率)が10%、15%、20%、25%、30%、35%及び40%になるように配合し、ヘンシェルミキサー(型式FM20C/I)を用いて良く混合した後、60〜70MPaで圧縮成形した。次いで、焼成炉にて360〜390℃で3時間焼成して円盤状の試験片(外径40mm、厚さ2mm)を製造した。
摺動特性(動摩擦係数)試験は、JISK7218A規格に従ったリングオンディスク法を用いて比摩耗量を測定した。相手材(リング材)はS45C(炭素含有率0.45%炭素鋼)(外径25.6mm、内径20mm、高さ15mm)を用い、ドライ環境で圧力0.8Mpa、速度0.5m/sで24時間円盤状の試験片を回転させた。
その結果、CFの配合比率(フィラー比率)が18〜33%程度、特に20〜30%の範囲内の場合が比摩耗量が低く、摺動特性に優れていることがわかった(
図1)。
【0023】
(試験例2)PFAブレンド比率に応じた比摩耗量(DRY)の測定
試験例1の結果に基づき、PTFE樹脂に対するCFのフィラー比率を25%に固定し、PTFE樹脂原料中の変性PTFEとPFAとのブレンド比率を変えて比摩耗量の値を測定し、試験例1と同様の摺動特性試験を行った。
具体的には、試験例1と同様のピッチ系、高黒鉛化CF 25%に対して75%のPTFE樹脂原料を配合するに際して、変性PTFE (NXT70)に対して、PFA(ダイキン工業製ACX21)を全樹脂原料量の0%、10%、15%、20%、25%、30%及び35%のブレンド比率で配合し、試験例1と同様の方法で円盤状の試験片を製造した。
次いで、試験例1と同様のリングオンディスク法(JISK7218A規格)を用いてドライ環境下で相手材S45Cに対する比摩耗量を測定した。
その結果、全樹脂原料量に対するPFAのブレンド比率が18〜35%程度、特に20〜30%の範囲内であれば、比摩耗量が低く、摺動特性に優れていることがわかった(
図2)。
【0024】
(試験例3)PFAブレンド比率に応じた相手攻撃性の測定
試験例2と同様に、CFのフィラー比率を25%に固定し、PTFE原料中の変性PTFEとPFAとのブレンド比率を変えて相手攻撃性試験を行った。
具体的には、試験例2と同様に、全体の75%のPTFE樹脂原料中でのPFAの配合割合を、全樹脂原料量の0%、10%、15%、20%、25%及び30%のブレンド比率とし、試験例1と同様の方法で円盤状の試験片を製造した。
次いで、PFAブレンド比率の異なる試験片毎に、JIS0601-1976表面粗さの規格に準拠して、相手材のRz(十点平均粗さ)の変化率(%)をドライ環境下で測定することで、相手攻撃性試験を行った。
相手材としては、試験例1,2で用いたと同じ炭素鋼S45Cを用いた。試験前の表面粗さをJIS0601-1976触針式表面粗さ測定器により測定し、Rzを算出すると、Rz1.5μmであった。
試験は、試験例1,2と同様、ドライ環境で圧力0.8Mpa、速度0.5m/sで24時間円盤状の各試験片を回転させた後にRz値を測定し、試験前のRz1.5μmと比較した相手粗さ変化率(%)を測定した。
ここで、相手粗さ変化率(%)はマイナスで表示されるが、ゼロに近いほど低攻撃性であると評価される。
その結果、PFAブレンド比率が18〜30%程度、特に20〜25%の場合が低攻撃性であることがわかった(
図3)。
試験例2及び試験例3の結果をあわせると、全PTFE原料中でのPFAのブレンド比率は、18〜30%程度、特に20〜25%であれば、摺動特性に優れ、かつ相手攻撃性の低いPTFE製品が製造できることが期待できる。試験例1からは、CFの最適フィラー比率が18〜33%、特に20〜30%であることが求められているので、摺動特性に優れ、かつ相手攻撃性の低いPTFE製品の全体でのPFAの配合比率は、12〜25%、好ましくは14〜20%となる。PTFEはPFA及びCFの残量となるので、PFA:CF:PTFE=12〜25:18〜33:残部であり、好ましい場合がPFA:CF:PTFE=14〜20:20〜30:残部となる。
【0025】
(試験例4)炭素繊維(CF)の種類による摺動発熱の違い
本試験では、PTFE樹脂原料に配合するCFとして、より摺動発熱性の低いCFを選択するために、PTEF樹脂70%に対するCFのフィラー比率を30%に固定して、配合するCFの種類を変えた円盤状試験片を試験例1と同様の方法で製造した。
ここで、PTFE樹脂としてはPTFE(三井・デュポンフロロケミカル社製テフロン7J)を用い、配合する炭素繊維(CF)としては、ピッチ系CFのうちのストレート状CF(クレハ製M2007SA)、ひねり状CFの炭素質グレード(大阪ガスケミカル製S-2404N、S249K、及びS-241)、ひねり状高黒鉛化グレード(大阪ガスケミカル製SG-249及びSG-241)を用いた。
摺動発熱試験は、試験例1〜3と同様に、相手材としてS45C炭素鋼を用い、ドライ環境で圧力0.8Mpa、速度0.5m/sで24時間円盤状の試験片を回転させた後に、摺動部近傍温度を測定して行った(
図4)。なお、摺動試験前の摺動部近傍温度は、室温(25℃)に調整して行われた。
その結果、ピッチ系炭素繊維(CF)のうちで、ストレート状の場合は、摺動部近傍温度が約150℃にまで上昇し、摺動発熱が高くて使用に耐えないが、ひねり状のCFであれば、いずれも摺動発熱は100℃未満に抑えられ十分に使用可能であることがわかった。特に、高黒鉛化されているCFを用いると摺動発熱が低く、より好ましいことがわかった。
【0026】
(実施例1)
変性PTFE(三井デュポンフロロケミカル製品NXT70)55重量部、PFA(ダイキン工業製品ACX21)20重量部およびピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維(大阪ガスケミカル製品S-249;平均繊維径13μm、平均繊維長90μm)25重量部を、ヘンシェルミキサー(型式FM20C/I)を用いて混合した後、プレス等によって60〜70MPaで圧縮成形した。次いで、焼成炉にて360〜390℃で3時間、焼成した。
その後切削加工により試験用NZ-7280型軸受を作製し、軸受運転を168h行い、軸受機能特性評価試験を実施し、以下の製品評価基準に従い評価した。
【0027】
<評価項目>
1.耐摩耗性:
試験後の軸受摺動面の摩耗量をISK7214K規格に従って測定し、比摩耗量が2.0×10
-12mm
2/N未満のものを◎、2.0〜4.0×10
-12mm
2/Nのものを○、4.0×10
-12mm
2/N以上のものを×とした。
2.製品の割れ:
軸受運転後の試験製品を目視により観察し、ひびの存在を確認したものを「割れあり」とした。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0028】
(実施例2)
実施例1において変性PTFE量が65重量部に、PFAが20重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が15重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0029】
(実施例3)
実施例1において変性PTFE量が60重量部に、PFAが15重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が25重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0030】
(比較例1)
実施例1において変性PTFE量が45重量部に、PFAが20重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が35重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0031】
(比較例2)
実施例1において変性PTFE量が45重量部に、PFAが30重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が25重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0032】
(比較例3)
実施例1においてPFAは配合せず、変性PTFE量が75重量部、ピッチ系湾曲・ひねり状炭素繊維量が25重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
これらの評価結果を下記(表1)に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
以上の結果から、CFの配合割合が全組成物(100重量%)中の35重量%を超えると製品割れが発生して好ましくなく、PFA樹脂配合割合が30重量%を超えると耐摩耗性が悪くなることが確認された。