(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属層と、接着性樹脂層と、熱接着性樹脂層とが、この順で積層された電気化学セル用包装材料であって、前記金属層と前記接着性樹脂層との間に下地皮膜層を備え、前記下地皮膜層が、平均粒径が1nm以上500nm以下の範囲内であるジルコニウム酸化物(A)と、ホスホン基を1分子当たり4個以上有するリン化合物群から選ばれる1種又は2種以上のリン含有化合物(B)と、酸変性ポリオレフィン樹脂(C)とを少なくとも含有することを特徴とする電気化学セル用包装材料。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が、前記下地皮膜層の全固形分に対して24質量%以上96質量%以下の範囲内である、請求項1又は2に記載の電気化学セル用包装材料。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の電気化学セル用包装材料について詳細に説明する。なお、従来例の
図4〜
図6と共通する部分については説明を省略する。
【0015】
図1は本発明の実施形態の一例である電気化学セル用包装材料における層構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る電気化学セル用包装材料110は基材層111、金属層112、接着性樹脂層114、熱接着性樹脂層115が順次積層して構成されており、金属層112と接着性樹脂層114との間には、例えば、接着性樹脂層114側の金属層112表面には、下地皮膜層113が形成されている。なお、本発明の電気化学セル用包装材料110は、上記各層以外に1又は2以上の異なる層をさらに含んでいてもよい。異なる層は、上記各層間、金属層112側とは反対側の基材層111の表面上、接着性樹脂層114とは反対側の熱接着性樹脂層115の表面上等の一部又は全部に配置されていてもよい。
【0016】
図2は本発明の電気化学セル用包装材料110を用いて形成されたパウチ型の外装体120を有するリチウムイオン電池121の斜視図であり、
図3は
図2中のリチウムイオン電池121のA−A’における断面構造を示す図である。
図2及び
図3に示すように、外装体120は金属端子124を挟み込んだ状態で、その挟み込んだ部分を含む周縁部がヒートシールされ、外装体120内部に、電解液を含むリチウムイオン電池本体122が収納されている。
【0017】
ここで、金属層112表面に形成された下地皮膜層113は絶縁層としての機能を有しており、リチウムイオン電池本体122の発熱により接着性樹脂層114及び熱接着性樹脂層115の一部が溶融した場合でも、下地皮膜層113は溶融しない。このため、接着性樹脂層114及び熱接着性樹脂層115の溶融した部位から下地皮膜層113まで電解液が浸透した場合でも、電解液は下地皮膜層113により遮断され金属層112とリチウムイオン電池本体122とが導通しない。これにより、リチウムイオン電池121における短絡発生が防止される。
【0018】
また、ヒートシール部120aにおいて、金属端子124に発生したバリが、ヒートシール時に接着性樹脂層114及び熱接着性樹脂層115に噛み込んだ場合でも、本発明においては、金属端子124と金属層112とが導通して発生する短絡を防ぐことができる。また、下地皮膜層113自体の水蒸気透過性が低いため、電気化学セル用包装材料110の水蒸気バリア性にも優れる。また、本発明においては、下地皮膜層113と接着性樹脂層114との接着性が長期間変化せず、下地皮膜層113と接着性樹脂層114との間において高いラミネート強度を有する。また、下地皮膜層113と接着性樹脂層114との接着は電解液に対しても安定しており、電解液の影響による、下地皮膜層113と接着性樹脂層114との間のラミネート強度低下も少ない。
【0019】
また、図示していないが、下地皮膜層113を基材層111側の金属層112表面に形成してもよい。このように、基材層111側の金属層112表面に下地皮膜層113を形成することにより、リチウムイオン電池121をスタック状に複数並べて使用する際にリチウムイオン電池121の一部が放電しても、隣接するリチウムイオン電池121の絶縁性を確保できる。
【0020】
以下、下地皮膜層113について詳細に説明する。なお、本発明は、その要旨を含む範囲で任意に変更可能であり、下記の実施形態のみに限定されない。
【0021】
[下地皮膜層]
下地皮膜層113は、平均粒径が1nm以上500nm以下の範囲内であるジルコニウム酸化物(A)と、ホスホン基を1分子当たり4個以上有するリン化合物群から選ばれる1種又は2種以上のリン含有化合物(B)と、酸変性ポリオレフィン樹脂(C)とを少なくとも含有する。
【0022】
以下、下地皮膜層113の構成要素及び下地皮膜層113の形成方法について詳しく説明する。
【0023】
下地皮膜層113は、平均粒径が1nm以上500nm以下の範囲内であるジルコニウム酸化物(A)と、ホスホン基を1分子当たり4個以上有するリン化合物群から選ばれる1種又は2種以上のリン含有化合物(B)と、酸変性ポリオレフィン樹脂(C)とを少なくとも含有する下地皮膜形成剤で形成された皮膜である。その形成方法は、下地皮膜形成剤を金属層112の表面に接触させる工程(接触工程)と、下地皮膜形成剤を接触させた金属層112を水洗することなく乾燥する工程(乾燥工程)とを有する。なお、下地皮膜層113の形成方法は、接触工程前に、金属層112を予め脱脂又は酸洗浄等する前処理工程を有していても構わない。
【0024】
(ジルコニウム酸化物)
ジルコニウム酸化物(A)としては、平均粒径が1nm以上500nm以下の範囲内であるジルコニウムの酸化物を挙げることができる。具体的には、酸化ジルコニウム(IV)(ZrO
2)を挙げることができる。
なお、下地皮膜層113は、水酸化ジルコニウム(IV)(Zr(OH)
2)を含有していてもよい。
【0025】
ジルコニウム酸化物(A)は、その固体粒子を水性溶媒中に分散させた状態(例えばゾル等の状態)で使用することが好ましい。この分散溶液は、ジルコニウム酸化物(A)の固体粒子そのものよりも取り扱いが容易であり、下地皮膜形成剤の製造が容易になるという利点がある。
上記分散溶液は、公知の方法により製造することができる。
【0026】
水性溶媒とは、水を50質量%以上含有する溶媒のことである。水性溶媒に含まれる水以外の溶媒としては、ヘキサン、ペンタン等のアルカン系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒;エタノール、1−ブタノール、エチルセロソルブ等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブトキシエチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホン系溶媒;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のリン酸アミド系溶媒;等を挙げることができる。これらの水以外の溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
下地皮膜層113におけるジルコニウム酸化物(A)の含有量は特に限定されないが、下地皮膜層113の全固形分(乾燥状態の皮膜質量)に対して、1質量%以上60質量%以下の範囲内であることが好ましい。なかでも、電気化学セル用包装材料110の耐電解液性がより優れる点で、3質量%以上がより好ましく、電気化学セル用包装材料110の水蒸気バリア性がより優れる点で、54質量%以下がより好ましい。
【0028】
下地皮膜層113におけるジルコニウム酸化物(A)の平均粒径は、1nm以上500nm以下の範囲内である。なかでも、電気化学セル用包装材料110の耐電解液性がより優れる点で、5nm以上200nm以下の範囲内であることが好ましく、10nm以上100nm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
下地皮膜層113中のジルコニウム酸化物(A)の平均粒径は、例えば、下地皮膜層113の表面又は断面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を備える、走査型電子顕微鏡(SEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)又は電界放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM)により観察することにより求めることができる。具体的には、FE−SEMを用いて観察した下地皮膜層113の視野範囲において、Zr及びOを有する粒子をEDS分析により特定した後、特定した粒子の中から無作為に選定した10個の粒子の径(長径及び短径がある場合は長径を意味する)を測定し、測定した各粒子径の平均を算出することにより、ジルコニウム酸化物(A)の平均粒径を求めることができる。
【0030】
(リン含有化合物)
リン含有化合物(B)としては、ホスホン基(−P(=O)(OH)
2)を1分子当たり4個以上有するリン化合物であればよく、具体的には、フィチン酸及びその塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩等)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸及びその塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩等)等を挙げることができる。これらのリン化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
下地皮膜層113におけるリン含有化合物(B)の含有量は特に限定されないが、ジルコニウム酸化物(A)におけるジルコニウム原子のモル量の総和(Zr)に対する、リン含有化合物(B)におけるリン原子のモル量の総和(P)の割合(P/Zr)が、下地皮膜層113と接着性樹脂層114との間の初期密着性及び電気化学セル用包装材料110の耐電解液性の点で、0.01以上5.0以下の範囲内であることが好ましく、0.1以上2.0以下の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
(酸変性ポリオレフィン樹脂)
酸変性ポリオレフィン樹脂(C)としては、公知の酸変性ポリオレフィン樹脂を適用可能である。
酸変性ポリオレフィン樹脂(C)は、水溶性及び水分散性(エマルション、ディスパーション)のいずれであっても構わない。また、酸変性ポリオレフィン樹脂(C)は、下地皮膜形成剤の安定性を損なわない限り、カチオン性、ノニオン性、及び、アニオン性のいずれであっても構わない。
【0033】
酸変性ポリオレフィン樹脂(C)としては、ポリプロピレン;ポリエチレン;プロピレンとエチレンとα−オレフィンとの共重合体;等のポリオレフィンを、不飽和カルボン酸やその無水物で変性した酸変性ポリオレフィン樹脂を挙げることができる。これらの酸変性ポリオレフィン樹脂に、さらに他のエチレン性不飽和モノマーを少量、共重合させたものでもよい。酸変性ポリオレフィン樹脂(C)を水に溶解させる、又は、水に分散させる手段としては、酸変性ポリオレフィン樹脂(C)に含まれるカルボキシル基を、アンモニアやアミン類で中和する手段を挙げることができる。
【0034】
不飽和カルボン酸やその無水物としては、公知の物質が適用可能である。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等を例示することができる。なかでも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、無水マレイン酸がより好ましい。不飽和カルボン酸やその無水物は、ポリオレフィンに共重合されていればよく、その形態は特に限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合(グラフト変性)等を挙げることができる。なお、不飽和カルボン酸の無水物をポリオレフィンに導入した場合には、樹脂の乾燥状態では隣接するカルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、樹脂が水中に分散することで、酸無水物構造の一部又は全部が加水分解してカルボキシル基又はその塩の構造をとる場合がある。
【0035】
上記した酸変性ポリオレフィン樹脂(C)は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
下地皮膜層113における酸変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量は特に限定されないが、下地皮膜層113の全固形分(乾燥状態の皮膜質量)に対して、5質量%以上98質量%以下の範囲内であることが好ましい。なかでも、電気化学セル用包装材料110の水蒸気バリア性がより優れる点で、24質量%以上がより好ましく、電気化学セル用包装材料110の耐電解液性がより優れる点で、96質量%以下がより好ましい。
【0037】
(その他)
下地皮膜層113及び下地皮膜形成剤は、上述したジルコニウム酸化物(A)、リン含有化合物(B)、及び、酸変性ポリオレフィン樹脂(C)以外の成分を含有していてもよい。
例えば、下地皮膜形成剤は、金属層112の表面に接触させる際の作業性の観点から、必要に応じて各種の溶媒を含有してもよい。溶媒としては、例えば、水;ヘキサン、ペンタン等のアルカン系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒;エタノール、1−ブタノール、エチルセロソルブ等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブトキシエチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホン系溶媒;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のリン酸アミド系溶媒;等を挙げることができる。これらのうち、1種の溶媒を用いてもよいし、2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
下地皮膜形成剤は、この他に、樹脂、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、架橋剤、可塑剤、防菌剤、防黴剤、着色剤等の添加剤を、本発明の趣旨及び該下地皮膜形成剤によって形成される下地皮膜層113の性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0039】
消泡剤としては、例えば、鉱油系消泡剤、脂肪酸系消泡剤、シリコーン系消泡剤等を用いることができる。
【0040】
レベリング剤としては、例えば、ノニオン性又はカチオン性の界面活性剤、ポリアセチレングリコールのポリエチレンオキサイド又はポリプロピレンオキサイドの付加物、アセチレングリコール化合物等の公知の化合物を用いることができる。
【0041】
なお、架橋剤としては、ジルコニウム酸化物(A)や酸変性ポリオレフィン樹脂(C)と結合し強固な下地皮膜層113を形成するようなものであれば特に限定されないが、例えば、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート、エポキシ化合物、アミン、多価アルコール、多価フェノール、多価カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、リン酸又はリン酸化合物(リン含有化合物(B)は含まれない。)、多価金属化合物等を挙げることができる。架橋剤を用いる場合、架橋を促進させるために適宜硬化触媒をさらに用いてもよい。
【0042】
メラミン樹脂としては、公知のメラミン樹脂を用いることができる。具体的には、下式(1)で表される完全アルキル化型のメラミン樹脂、式(1)中の(ROCH
2)
2N−基の少なくとも1つが式(2)で表される基で置換されたメチロール基型のメラミン樹脂、式(1)中の(ROCH
2)
2N−基の少なくとも1つが式(3)で表される基で置換されたイミノ基型のメラミン樹脂、又は、式(1)中の(ROCH
2)
2N−基の少なくとも1つが式(4)で表される基で置換されたメチロール/イミノ基型のメラミン樹脂を例示することができる。
【化1】
【0043】
ブロックイソシアネートとしては、公知のイソシアネートにおけるイソシアネート基をブロック化剤と反応させたブロックイソシアネートを使用することができる。イソシアネートとしては、具体的には、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)等の有機ポリイソシアネート、又はこれらのビュレット化物、イソシアヌレート化物、カルボジイミド変性体、又はこれらの混合物等を例示することができる。
【0044】
ブロック化剤としては、例えば、フェノール、ブチルフェノール、クロロフェノール、フェニルフェノール等のフェノール類;メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサンオキシム、アセトオキシム等のオキシム類;イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール類;重亜硫酸ソーダ等の重亜硫酸塩を挙げることができる。これらのなかで、比較的低温で且つ短時間で解離し易いことから、重亜硫酸ソーダを用いることが好ましい。重亜硫酸ソーダ等の重亜硫酸塩は、親水基導入剤としての機能も併せもつ。
また、ブロックイソシアネートは、エマルションの形態で用いてもよい。上記エマルションは、例えば、非イオン性界面活性剤を用いて水中でブロックイソシアネートを乳化して得られる。
なお、ブロックイソシアネートとしては、以下の(i)〜(iii)に示す、水溶性又は水分散性を有するブロックイソシアネートを用いてもよい。
(i)タウリンソーダ等のスルホン酸基又はその塩及び活性水素含有基(例えば、水酸基、1級アミノ基)を有する化合物とポリイソシアネートとを反応させて生成物を得た後に、得られた生成物中に残存するイソシアネート基とブロック化剤とを反応させて得られる、スルホン酸基又はその塩を有するブロックイソシアネート。
(ii)ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールとポリイソシアネートとを反応させてウレタンプレポリマーを得た後に、得られたウレタンプレポリマーが有する末端イソシアネート基とブロック化剤と反応させて得られる、ポリアルキレングリコール鎖を有するブロックイソシアネート。
(iii)N−メチルジエタノールアミン等の三級アミノ基及び活性水素含有基を有する化合物とポリイソシアネートとを反応させて生成物を得た後、得られた生成物中に残存するイソシアネート基とブロック化剤とを反応させ、さらに、得られた生成物中の三級アミノ基を四級化剤によって四級化することで得られる、四級アンモニウム基を有するブロックイソシアネート。
なお、上記四級化剤としては、アルキルハライドやジエチル硫酸等を例示することができる。
【0045】
エポキシ化合物としては、公知のエポキシ化合物を用いることができる。具体的には、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等を例示することができる。
【0046】
アミンとは、アンモニア(NH
3)中の少なくとも1つの水素原子が、それぞれ独立に、アルキル基、アミノアルキル基、N−アミノアルキル−アミノアルキル基、N−[N−(アミノアルキル)アミノアルキル]アミノアルキル基又はヒドロキシアルキル基で置換された化合物を意味し、公知のアミンを用いることができる。具体的には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンへキサミン、ヘキサメチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を例示することができる。
【0047】
多価アルコールとは、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物を意味し、公知の多価アルコールを用いることができる。具体的には、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリトリトール、ポリペンタエリトリトール等を例示することができる。
【0048】
多価フェノールとは、2個以上のフェノール性水酸基を有する芳香族化合物を意味し、公知の多価フェノールを用いることができる。具体的には、ヘキサヒドロキシベンゼン、ピロガロール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、フロログルシノール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、5−メチルピロガロール、2−メチルレソルシノール、5−メチルレソルシノール、2,5−ジメチルレソルシノール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、メチルヒドロキノン、2,6−ジメチルヒドロキノン、5−メトキシレソルシノール、3−メトキシカテコール、メトキシヒドロキノン、2,5−ジヒドロキシ−1,4−ベンゾキノン等を例示することができる。
【0049】
多価カルボン酸とは、2個以上のカルボキシル基を有する化合物を意味し、公知の多価カルボン酸を用いることができる。具体的には、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アコニット酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等を例示することができる。
【0050】
ヒドロキシカルボン酸とは、ヒドロキシ基及びカルボキシル基を有する化合物を意味し、公知のヒドロキシカルボン酸を用いることができる。具体的には、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、γ−ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、サリチル酸、クレオソート酸、バニリン酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、没食子酸、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、メリロト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸等を例示することができる。
【0051】
リン酸又はリン酸化合物としては、公知の無機リン酸類、リン酸エステル類等を用いることができる。無機リン酸類としては、例えば、リン酸(オルトリン酸)及びその塩;メタリン酸、ポリリン酸、ウルトラリン酸等の縮合リン酸及びその塩等を挙げることができる。リン酸エステル類としては、例えば、モノメチルホスフェート、ジメチルホスフェート、エチルホスフェート、ジエチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、リン酸澱粉、グルコース一リン酸及びグルコース六リン酸、並びにそれらの塩等を挙げることができる。なお、塩としては、例えば、アンモニウム塩;リチウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;等を挙げることができる。
【0052】
多価金属化合物とは、2価以上のイオンを形成する金属原子を含む化合物を意味する。
多価金属化合物としては、公知の、Mg、Al、Zr、Ti、W、Mo及びVから選ばれる1種又は2種以上の金属原子を含む無機化合物等を用いることができる。具体的には、ビス(アセチルアセトナト)ジアクアマグネシウム(II)、安息香酸マグネシウム、蟻酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、タングステン酸マグネシウム、メタニオブ酸マグネシウム、モリブデン酸マグネシウム、ニリン酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、リン酸アンモニウムマグネシウム、リン酸水素マグネシウム、酸化マグネシウム等のマグネシウム塩等;アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトネート)、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、リン酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酢酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、グルコン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、乳酸アルミニウム等のアルミニウム塩等;テトラキス(アセチルアセトナト)ジルコニウム(IV)、ケイ酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、ヘキサフルオロジルコニウム(IV)酸アンモニウム、ヘキサフルオロジルコニウム(IV)酸カリウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニルアンモニウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニウム(IV)、硫酸ジルコニル、ヘキサフルオロジルコニウム酸、オキシリン酸ジルコニウム、ピロリン酸ジルコニウム、リン酸二水素ジルコニル、フッ化ジルコニウム、酢酸ジルコニル等のジルコニウム塩等;オキシ二蓚酸チタン二アンモニウム、オキシ二蓚酸チタン二カリウム、オキシ硫酸第二チタン、塩基性リン酸チタン、臭化チタン(IV)、メタチタン酸、メタチタン酸亜鉛(II)、チタン酸アルミニウム(III)、メタチタン酸カリウム、メタチタン三コバルト(II)、チタン酸ジルコニウム、メタチタン三鉄(III)、メタチタン酸銅(II)、チタン酸ナトリウム、二チタン酸ネオジム(III)、メタチタン酸バリウム、メタチタン酸ビスマス(III)、メタチタン酸マグネシウム、チタン酸マグネシウム、メタチタン酸マンガン(II)、二チタン酸ランタン(III)、メタチタン酸リチウム、ヘキサフルオロチタン(IV)酸アンモニウム、ヘキサフルオロチタン(IV)酸カリウム、硫酸チタン(III)、硫酸チタン(IV)、塩化チタン、硝酸チタン、硫酸チタニル、フッ化チタン(IV)、ヘキサフルオロチタン酸、乳酸チタン、ペルオキソチタン酸、チタニウムアセチルアセトネート等のチタン塩等又はチタン酸塩等;塩化タングステン(VI)、酸化タングステン酸鉄(III)、二酸化タングステン、三酸化タングステン、メタタングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸ナトリウム、タングステン酸亜鉛(II)、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸コバルト(II)、タングステン酸銅(II)、タングステン酸ニッケル、タングステン酸バリウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸マンガン(II)、タングステン酸リチウム、リンタングステン酸、リンタングステン酸アンモニウム、リンタングステン酸ナトリウム等のタングステン塩等又はタングステン酸塩等;酸化モリブデン(IV)、酸化モリブデン(VI)、モリブデン酸亜鉛(II)、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸コバルト(II)、モリブデン酸ニッケル(II)、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸ビスマス(III)、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸リチウム、パラモリブデン酸リチウム、リンモリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、パラモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム等のモリブデン塩等又はモリブデン酸塩等;酸化バナジウム、四バナジン酸鉄(III)、オキシ蓚酸バナジウム、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、ピロバナジン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセテート、バナジウムアセチルアセテート、リンバナドモリブデン酸等のバナジウム塩等又はバナジン酸塩等;を例示することができる。
【0053】
上記各種架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種又は3種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
可塑剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,3ペンタンジオールモノイソブチレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等を挙げることができる。
【0055】
下地皮膜形成剤のpHは、3以上11以下の範囲内にあることが好ましく、6以上10以下の範囲内にあることがより好ましい。pHが上記範囲内であれば、電気化学セル用包装材料110の耐電解液性がより優れる。
【0056】
(下地皮膜形成剤の製造)
下地皮膜形成剤の製造方法は特に限定されない。例えば、ジルコニウム酸化物(A)又はその分散溶液と、リン含有化合物(B)と、酸変性ポリオレフィン樹脂(C)と、必要に応じて、添加剤及び/又は溶媒とを、混合し、適宜pHを調整することにより、下地皮膜形成剤を製造することができる。
【0057】
[下地皮膜層の製造方法]
下地皮膜層113は、上記した下地皮膜形成剤で形成された皮膜である。その皮膜の製造方法は、下地皮膜形成剤を金属層112の表面に接触させる工程(接触工程)と、その接触工程の後に、下地皮膜形成剤を接触させた金属層112の表面を水洗することなく乾燥する工程(乾燥工程)とを有する。なお、上記皮膜の製造方法は、接触工程前に、金属層112の表面を予め脱脂又は酸洗等する前処理工程を有していても構わない。
【0058】
(接触工程)
下地皮膜形成剤と金属層112の表面との接触方法は、下地皮膜形成剤を金属層112の表面に接触させることができれば特に限定されず、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スピンコート法、バーコート法、及び、これらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0059】
下地皮膜形成剤の接触条件は特に限定されないが、例えば、下地皮膜形成剤又は金属層112の温度は、10℃以上90℃以下の範囲内であることが好ましく、20℃以上60℃以下の範囲内であることがより好ましい。温度が60℃以下の場合は、無駄なエネルギーの使用を抑制することができるので、経済的な観点からより好ましい。また、接触時間は適宜設定される。
【0060】
(乾燥工程)
乾燥工程では、接触工程後に、下地皮膜形成剤を接触させた金属層112の表面を水洗することなく乾燥が行われる。この工程によって、下地皮膜層113を形成することができる。乾燥条件としては、金属層112の最高到達温度(PMT)が50℃以上250℃以下の範囲内であることが好ましい。最高到達温度が50℃以上の場合は、下地皮膜形成剤中の溶媒の蒸発がより短時間で進行し、好ましい。また、最高到達温度が250℃以下の場合、エネルギーを無駄に使用することなく、経済的な観点から好ましい。
乾燥方法は特に限定されず、バッチ式の乾燥炉、連続式の熱風循環型乾燥炉、コンベアー式の熱風乾燥炉、又は、IHヒーターを用いた電磁誘導加熱炉等を利用した乾燥方法を挙げることができる。乾燥方法で設定する風量や風速等は任意に設定される。
【0061】
(下地皮膜層)
下地皮膜層113は、上記した製造方法で得ることができる。
下地皮膜層113の皮膜量は特に限定されないが、100mg/m
2以上5000mg/m
2以下の範囲内が好ましい。下地皮膜層113の皮膜量を、この範囲内とすることにより下地皮膜層113と接着性樹脂層114との間の初期密着性、並びに、電気化学セル用包装材料110の耐電解液性及び絶縁性を向上させることができる。これらの特性について、より好ましい皮膜量は、200mg/m
2以上3000mg/m
2以下の範囲内であり、特に好ましい皮膜量は、400mg/m
2以上2000mg/m
2以下の範囲内である。
【0062】
下地皮膜層113中のジルコニウム酸化物(A)の存在は、得られた下地皮膜層113を有する金属層112を、薄膜X線回折法を用いて分析することにより確認可能である。具体的には、下地皮膜層113を有する金属層を、薄膜X線回折法を用いて分析し(PANalytical製のXpert−MPD、広角法、管電圧電流:45kV−40mA、スキャン速度:0.025°/秒)、得られた回折パターンから下地皮膜層113中のジルコニウム酸化物(A)の存在を確認することができる。
また、下地皮膜層113中のリン含有化合物(B)の存在は、下地皮膜層113の成分を溶媒(例えば、クロロホルム、DMSO等)で抽出し、
31P−NMR測定により確認することができる。
また、下地皮膜層113中の酸変性ポリオレフィン樹脂(C)の存在は、IR測定により確認することができる。
【0063】
こうして得られた下地皮膜層113は、金属層112と接着性樹脂層114との間に設けられて、両者との密着性を向上させることができるとともに、金属層112の耐食性を向上させることができる。また、金属層112と、接着性樹脂層114との間に上記下地皮膜層113を形成させた、本発明の電気化学セル用包装材料は、優れた耐電解液性を有する。
【0064】
以下、本実施形態に係る電気化学セル用包装材料110の下地皮膜層113以外の各種層について詳細に説明する。
【0065】
[接着性樹脂層]
接着性樹脂層114は、下地皮膜層113と熱接着性樹脂層115との間に配置される層である。
接着性樹脂層114には、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂が含まれる。酸変性ポリオレフィン樹脂としては、酸変性ポリプロピレンが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸やその無水物で酸変性した樹脂を挙げることができる。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂の種類は、熱接着性樹脂層115に用いる樹脂種に合わせて適宜選択して用いることが好ましい。
接着性樹脂層114の厚みは特に限定されない。
また、接着性樹脂層114の形成方法は特に限定されず、公知の方法を採用でき、例えば、押出成形法、ディスパーション法等を挙げることができる。
なお、接着性樹脂層114には、必要に応じて、ブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよい。
【0066】
[熱接着性樹脂層]
熱接着性樹脂層115には、例えば、ポリオレフィンが含まれる。ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンが好ましい。
ポリプロピレンにはプロピレン以外の他のα−オレフィン(例えば、エチレン)由来の繰り返し単位が含まれていてもよく、そのようなポリプロピレンとしてはランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等の各タイプのものを挙げることができる。
ポリプロピレン以外のポリオレフィンとしては、例えば、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン及び中密度ポリエチレンのブレンド樹脂等を挙げることができる。なお、中密度ポリエチレンとは、密度930kg/m
3以上942kg/m
3未満のポリエチレンである。また、線状低密度ポリエチレンとは、エチレンと少量のα−オレフィンとを重合したものである。
熱接着性樹脂層115の厚みは特に限定されない。
また、熱接着性樹脂層115の形成方法は特に限定されず、公知の方法を採用でき、例えば、押出成形法、ディスパーション法等を挙げることができる。
なお、熱接着性樹脂層115は、単層であっても多層であってもよい。熱接着性樹脂層115が多層の場合、各層は同一のポリオレフィンを含むものであってもよいが、異なるポリオレフィンを含むものであってもよい。
【0067】
[金属層]
金属層112は、電気化学セル用包装材料110の強度向上の他、外部から基材層111を介してリチウムイオン電池121の内部に水蒸気が浸入することを防止するための層である。
金属層112を構成する金属としては、具体的には、アルミニウム、ステンレス、チタン等を挙げることができるが、アルミニウムであることが好ましい。
金属層112は、金属箔であっても、金属蒸着等により形成された層であってもよいが、金属箔であることが好ましく、アルミニウム箔であることがより好ましい。包装材料の製造時に、金属層112にしわやピンホールが発生することを防止する観点から、例えば、焼きなまし処理済みのアルミニウム(JIS A8021P−O、JIS A8079P−O)等の軟質アルミニウム箔を用いることがさらに好ましい。
金属層112の厚みは、水蒸気等のバリア層としての機能を発揮すれば特に限定されないが、例えば、10μm〜50μm程度、好ましくは10μm〜40μm程度とすることができる。
金属層112としてのアルミニウム箔としては、例えば、純アルミニウム箔、鉄を含有するアルミニウム箔等を挙げることができる。
【0068】
[基材層]
基材層111は、電気化学セル用包装材料110の最外層側に位置する層である。基材層111を形成する素材については、絶縁体であれば特に限定されない。
基材層111を形成する素材としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、珪素樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルイミド、ポリイミド、及びこれらの混合物又は共重合体を挙げることができる。
ポリエステルとしては、分子内にエステル結合(−COO−)を有する重合体であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等を挙げることができる。
ポリアミドとして、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等を挙げることができる。
なお、これらの素材を用いた基材層111は、これらの素材を含む処理剤を金属層112の表面上にコーティングすることにより形成することができる。
基材層111は、上記素材を含む樹脂フィルム、又はそれを1軸若しくは2軸延伸した樹脂フィルムであってもよい。なかでも、配向結晶化することにより耐熱性が向上することから、基材層111は、2軸延伸された樹脂フィルムであることが好ましい。なお、基材層111が上記樹脂フィルムである場合には、金属層112の表面上に基材層111を接着したり、貼り付けたりすることにより、基材層111を金属層112上に配置することができる。
【0069】
また、基材層111は、耐ピンホール性、及び、電気化学セル用包装材料110を電池の外装体として使用した時の外装体の絶縁性を向上させるために、異なる材質のフィルムを積層させた積層体であってもよい。
【0070】
また、
図2及び
図3においてはリチウムイオン電池121について述べているが、リチウムイオン電池本体122以外の電気化学セル本体を、電気化学セル用包装材料110からなる外装体120で包装して、リチウムイオン電池121以外の電気化学セルを作製してもよい。
例えば、電気化学セルとはリチウムイオン電池以外にニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムメタル一次電池又は二次電池、リチウムポリマー電池等の化学電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ、電解コンデンサが含まれる。ここで、電気化学セル本体とは、電気化学セル用包装材料に封入前の正極活物質及び正極集電材からなる正極と、負極活物質及び負極集電材からなる負極と、正極及び負極間に充填される電解液とを含有するセル(蓄電部)と、セル内の正極及び負極に連結される電極端子等、電気エネルギーを発生させる電気デバイス要素全てを包含する。
【0071】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0073】
[1.下地皮膜層付きアルミニウム箔の作製]
溶媒である水に、表1に示す各成分を加えて混合した後、アンモニア又は酢酸を用いてpH調整を行って、表1に示す各下地皮膜形成剤を準備した。なお、表1中の「pH」は、各下地皮膜形成剤のpHである。
その後、アルミニウム箔(厚さ40μm)の片面に、表1に示す各下地皮膜形成剤をSUSワイヤーバーを用いたバーコート法によって塗布した。その後、各下地皮膜形成剤を塗布したアルミニウム箔を180℃で1分間乾燥することによって、アルミニウム箔の表面に表2に示す各下地皮膜層が形成された、下地皮膜層付きアルミニウム箔を作製した。
なお、表2中の「濃度(%)」欄は、下地皮膜層の全固形分に対する各成分の含有量(質量%)を表し、所定の下地皮膜層を形成できるように、表1に示す各下地皮膜形成剤中のジルコニウム化合物(a)、リン含有化合物(b)、及び、水溶性又は水分散性の樹脂(c)の濃度を適宜調整した。また、表2に、ジルコニウム化合物(a)におけるジルコニウム原子のモル量の総和(Zr)に対する、リン含有化合物(b)におけるリン原子のモル量の総和(P)の割合(P/Zr)、及び、各下地皮膜層の皮膜量(g/m
2)を示す。
【0074】
<ジルコニウム化合物(a)>
表1中、(a)成分の欄に記載された各記号に対応するジルコニウム化合物の種類を以下に示す。なお、以下に示すa1〜a3の酸化ジルコニウムゾルの平均粒径は、大塚電子株式会社製のダイナミック光散乱光度計(DLC−6500)を用いて測定した値である。
【0075】
a1;酸化ジルコニウム(IV)ゾル(固形分20質量%、平均粒径30nm)
a2;酸化ジルコニウム(IV)ゾル(固形分15質量%、平均粒径250nm)
a3;酸化ジルコニウム(IV)ゾル(固形分25質量%、平均粒径1μm)
a4;酢酸ジルコニウム(固形分20質量%)
a5;炭酸ジルコニウムアンモニウム(固形分31質量%)
【0076】
<リン含有化合物(b)>
表1中、(b)成分の欄に記載された各記号に対応するリン含有化合物の種類を以下に示す。
b1;フィチン酸[C
6H
18O
24P
6]
b2;エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸[C
6H
20N
2O
12P
4]
b3;リン酸アンモニウム[(NH
4)
3PO
4]
b4;ヒドロキシエチリデンジホスホン酸[C
2H
8O
7P
2]
【0077】
<水溶性又は水分散性の樹脂(c)>
表1中、(c)成分の欄に記載された各記号に対応する水溶性樹脂又は水分散性樹脂の種類、及び、それらの溶液の製造方法を以下に示す。
(c1;酸変性ポリプロピレン樹脂)
アイソタクチック構造のホモポリプロピレン樹脂(MFR=0.1g/10分−170℃・2160g)に窒素ガスを供給しながら、常圧において、360℃で80分間熱減成を行った。得られたポリプロピレン樹脂1000質量部を窒素ガス中で、180℃まで加熱昇温し溶融させた後、無水マレイン酸125質量部を加えて混合した。この混合物に、ジクミルパーオキサイド6.3質量部を溶解させたキシレン125質量部を滴下し、180℃で3時間撹拌し反応させた。その後、減圧下でキシレンを留去し、得られた反応物をアセトンに注入し、樹脂を固化させ、回収した。この樹脂を細かく切断した後、ペレット状に加工した。加工した樹脂をアセトンで2回洗浄した後、減圧乾燥して酸変性ポリプロピレン樹脂を得た。次いで、上記酸変性ポリプロピレン樹脂150.0質量部、イソプロパノール60.0質量部、テトラヒドロフラン340.0質量部、ジメチルアミノエタノール30.0質量部、及び、蒸留水420.0質量部を300rpmで撹拌し、樹脂の沈澱が認められない状態(浮遊状態)に保った。10分後に加熱し、150℃で60分間さらに撹拌した後、自然冷却した。80℃まで冷却した上記撹拌物に、テトラヒドロフラン120.0質量部、ジメチルアミノエタノール20.0質量部、及び、蒸留水100.0質量部を追加投入した後、300rpmで撹拌しながら再度加熱(再昇温)し、140℃で60分間撹拌した。続いて、80℃まで冷却した後、真空ポンプにより、イソプロパノール、テトラヒドロフラン及び水を減圧留去した。その後、35℃まで冷却してから残渣(酸変性ポリプロピレン樹脂)に水を加えて、酸変性ポリプロピレン樹脂の濃度を20質量%に調整した。酸変性ポリプロピレン樹脂を分散させた水性分散体を、180メッシュのステンレス製フィルターで加圧濾過し、酸変性ポリプロピレン樹脂の水性エマルションを得た。
【0078】
(c2;アクリル樹脂)
室温にて、イソプロピルアルコール210質量部と、N−メチロールアクリルアミド120質量部と、アクリルアミド30質量部とを、イオン交換水390質量部に混合し、溶解させた。この混合物に過硫酸カリウム1.5質量部と、亜硫酸水素ナトリウム0.06質量部と、無水酢酸ナトリウム1.5質量部とを加え、溶解させた。この溶解物を窒素雰囲気下で、30分かけて65℃まで昇温し、65℃で3時間反応させた。反応生成物を室温まで冷却した後、ろ過してろ液を回収した。ろ液として回収されたアクリル樹脂の水溶液は、不揮発分濃度が20質量%、粘度が2.86dPa・s、pH=5.6であった。
【0079】
(c3;エラストマー)
エラストマーとして、カルボキシル基及びメチロール基を有するアクリロニトリルブタジエンスチレンゴムの水分散体(固形分濃度:47%、pH:8、粘度:45mPa・s、Tg:18℃、比重:1.01)を用いた。
【0080】
(c4;エポキシ樹脂)
エポキシ当量が188であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(ビスフェノール−A−ジグリシジルエーテル)6150質量部、ビスフェノールA1400質量部、ドデシルフェノール335質量部、p−クレゾール470質量部及びキシレン441質量部を窒素雰囲気下で125℃に加熱し、10分間反応させた。次に、反応物を130℃に加熱した後、N,N’−ジメチルベンジルアミン23質量部を反応物に添加した。エポキシ当量が880に達するまでこの温度に保った。続いて、ポリエーテル(BYK Chemie社製、商品名:K−2000)90質量部を反応物にさらに添加した後、混合物を100℃で保管した。30分後にブチルアルコール211質量部及びイソブタノール1210質量部を混合物に添加した。
【0081】
ジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンを混合した後、130℃〜150℃で加熱還流を行って生成水を除去し、ケチミンを別途得た。
得られたケチミン467質量部とメチルエタノールアミン450質量部を、上記ブチルアルコール及びイソブタノール等を含む混合物に添加し、100℃に調整した。30分後に温度を105℃に上げ、N,N’−ジメチルアミノプロピルアミン80質量部を混合物にさらに添加した。N,N’−ジメチルアミノプロピルアミンの添加から75分後、混合物にプロピレングリコール化合物(BASF社製、商品名:Plastilit 3060)903質量部とプロピレングリコールフェニルエーテル725質量部とを順次添加し、アミノ基含有エポキシ樹脂を作製した。次に、アミノ基含有エポキシ樹脂87.5質量部と10%酢酸13質量部とを配合して混合物を得た後、脱イオン水193.5質量部を強く撹拌しながら、約15分間かけて上記混合物を上記脱イオン水に滴下して、エポキシ樹脂のエマルションを得た。
【0082】
[2.下地皮膜層の表面SEM観察]
作製した上記下地皮膜層付きアルミニウム箔における下地皮膜層1及び下地皮膜層3について、FE−SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、S−4700 TypeII型)で表面観察を行ったところ、下地皮膜層1及び下地皮膜層3における酸化ジルコニウムの粒径(長径及び短径がある場合は長径を意味する)は500nm以下であることが確認された。すなわち、500nmを超える酸化ジルコニウムは確認できなかった。なお、表面観察は、加速電圧2kV、倍率5000倍で、ランダムに選択した十数か所の視野(1cm角)に対して行った。
【0083】
[3.電気化学セル用包装材料]
上記の下地皮膜層付きアルミニウム箔について、下地皮膜層の上面に酸変性ポリプロピレン(厚さ20μm)を溶融押出するとともにその上からポリプロピレン(厚さ15μm)を溶融押出して、アルミニウム箔層/下地皮膜層/酸変性ポリプロピレン層/ポリプロピレン層で構成される電気化学セル用包装材料を得た。
【0084】
[4.電解液浸漬後のラミネート強度の評価(耐電解液性)]
電気化学セル用包装材料を裁断して15mm×250mmの試験片を作製し、その試験片を、イオン交換水を1000ppm添加した85℃の電解液(製品名:LBG−00015(キシダ化学株式会社製)、電解質:1M−LiPF
6、溶媒:エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(体積比))中に2週間ドブ漬けした。その後、引張り試験機(島津製作所製、AGS−50D(商品名))により、アルミニウム箔と酸変性ポリプロピレン層との間を、チャック間距離50mm、引張速度300mm/分で180°方向に剥離しながら、剥離時の強度を測定した。その測定結果を下記のランク1〜4で評価した。評価結果を表3に示す。ランク3以上が合格である。
【0085】
ランク4:ラミネート強度が10N/15mm以上である。
ランク3:ラミネート強度が6N/15mm以上10N/15mm未満の範囲にある。
ランク2:ラミネート強度が3N/15mm以上6N/15mm未満の範囲にある。
ランク1:酸変性ポリプロピレン層とポリプロピレン層で構成されるラミネートフィルムが既に剥離している、又は、ラミネート強度が3N/15mm未満である。
【0086】
[5.水蒸気バリア性の評価]
電気化学セル用包装材料を裁断して120×120mmの試験片を作製し、その試験片を二つ折りにした。二つ折りにして重ね合った60mmの辺縁部分の一方を3mm巾でヒートシールした。また、二つ折りにすることにより、120mmの辺縁同士を重ね合わせた部分を10mm巾でヒートシールした後、ヒートシールした部分のうち7mm巾分を切断し、他方の60mmの辺縁部分が開口した120×53mmの外寸からなる袋を作製した。次に、ドライルーム(露点−50℃)において上記袋に3gの電解液溶媒〔エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(容積比)〕を注入した後、開口部を10mm巾でヒートシールし、水蒸気バリア性評価サンプルを作製した。この水蒸気バリア性評価サンプルを65℃、90%RHの恒温恒湿槽に336時間静置し、電解液溶媒において増加した水分濃度(質量ppm)をカールフィッシャー法で測定した。その測定結果を下記のランク1〜3で評価した。なお、120mmの辺縁同士を重ね合わせた部分のヒートシール条件は190℃、2.0MPa、3.0秒であり、60mmの辺縁部分のヒートシール条件は190℃、1.0MPa、3.0秒で行った。評価結果を表3に示す。ランク2以上が合格である。
【0087】
ランク3:増加水分濃度が150質量ppm以下である。
ランク2:増加水分濃度が150質量ppm超過200質量ppm以下の範囲にある。
ランク1:増加水分濃度が200質量ppm超過である。
【0088】
[6.絶縁性の評価]
電気化学セル用包装材料を40mm×120mmの試験片に裁断した後、アルミニウムタブ(30mm×100mm)と電気化学セル用包装材料のポリプロピレン層側の面とで金属ワイヤー(内径が25.4μm)を挟み込んで、ヒートシールバーを1.0MPa、190℃で押圧し続けた。このとき、ワイヤーがヒートシールバーの押圧により酸変性ポリプロピレン層及びポリプロピレン層へ食い込み、アルミニウムタブと電気化学セル用包装材料のアルミニウム箔層との間で絶縁性が低下する時間を測定した。なお、絶縁性が低下する時間とは、ヒートシールを開始すると同時に、アルミニウムタブと電気化学セル用包装材料のアルミニウム箔層との間に100Vの電圧を印加し続け、抵抗値が200MΩ以下に到達するまでに要した時間(到達時間;秒)をいい、下記のランク1〜4で評価した。評価結果を表3に示す。ランク3以上が合格である。
【0089】
ランク4:到達時間が60秒以上である。
ランク3:到達時間が30秒以上60秒未満の範囲にある。
ランク2:到達時間が5秒以上30秒未満の範囲にある。
ランク1:到達時間が5秒未満である。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示すように、実施例1〜7の電気化学セル用包装材料は、優れた耐電解液性、及び、水蒸気バリア性を備えつつ、十分な絶縁性を有することが判った。