(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1支持領域を複数備え、前記ケースにおける鉛直最下方の位置に配置されている前記第1支持領域とは異なる第1支持領域が、前記ケースにおける鉛直最上方の位置に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の船尾管密封構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、シールリングに形成されたリップ部の摺動面の摩耗を抑制することのできる船尾管シール装置及び船尾管密封構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
すなわち、本発明に係る船尾管シール装置は、
プロペラ軸の外周に設けられたライナと、前記プロペラ軸が挿通された船尾管との間の環状隙間を封止する船尾管シール装置において、
前記船尾管に対して固定される環状のケースと、
前記ケースに対して固定されるゴム状弾性体製のシールリングと、
を備える船尾管シール装置であって、
前記シールリングは、
前記ライナの外周面に摺動するリップ部と、
前記リップ部よりも径方向外側に設けられ、径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側に延びる屈曲部と、
を備え、
前記ケースは、
前記屈曲部における径方向外側かつ軸方向他方側に延びる部分を支持する第1支持領域と、
前記第1支持領域よりも径方向内側に延びる、前記屈曲部における径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びる部分を径方向内側から支持する内側支持部が周方向に複数形成された第2支持領域と、を周方向に備えることを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、シールリングの屈曲部は、その形状から、径方向と軸方向に弾性的に変形することができる。したがって、プロペラ軸の回転中においても、ライナの外周面に対するリップ部の接触状態が好適に維持されることによって、ライナと船尾管との間の環状隙間が封止される。ここで、ケースは、シールリングの屈曲部における径方向外側かつ軸方向他方側に延びる部分(つまり、屈曲部の径方向外側の部分)を支持する第1支持領
域と、径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びる部分(つまり、屈曲部の径方向内側の部分)を径方向内側から支持する内側支持部が周方向に複数形成された第2支持領域と、を周方向に備えている。そのため、船尾管シール装置の使用時において、環状隙間における高圧側から低圧側に向かう軸方向の流体圧力が、シールリングの屈曲部に対して軸方向の他方側(屈曲部の開いた側)から作用したときは、これら複数の内側支持部に支持されている部位は、他の部位に比べて弾性的な変形が抑制される。つまり、シールリングの屈曲部において、ケースの内側支持部によって支持された部位における軸方向の変形が、他の部位における軸方向の変形よりも小さくなるため、シールリングのリップ部においても、ケースの内側支持部近傍の部位と他の部位との間で、軸方向の変形量に差が出る(内側支持部近傍の部位の変形が相対的に小さくなる)。そのため、ライナの外周面上に形成されるリップ部のシールラインは概ね波形形状となる。シールラインの波形における谷から山に遷移する部分には、プロペラ軸の回転によって高圧側の領域内の流体が周方向の流れとなって導かれるため、当該部分において動圧が発生する。このようにして発生した動圧は、リップ部の摺動面を押し上げるように作用するため、リップ部の緊迫力が低減される。その結果、リップ部の摺動面の摩耗が抑制される。
【0007】
なお、流体圧力によってシールリングの屈曲部が変形した際に、変形した屈曲部における内側支持部に当接している部位はそれ以上の変形が規制される。したがって、高い流体圧力が作用した場合であっても、シールリングの変形量を規制することができるため、摺動面が過大になることを抑制でき、ひいてはリップ部の摩耗を抑制することができる。
【0008】
また、本発明に係る船尾管密封構造は、
プロペラ軸の外周に設けられたライナと、
前記プロペラ軸が挿通された船尾管と、
前記ライナと前記船尾管との間の環状隙間を封止する船尾管シール装置と、
を備える船尾管密封構造において、
前記船尾管シール装置は、
前記船尾管に対して固定される環状のケースと、
前記ケースに対して固定されるゴム状弾性体製のシールリングと、
を備え、
前記シールリングは、
前記ライナの外周面に摺動するリップ部と、
前記リップ部よりも径方向外側に設けられ、径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側に延びる屈曲部と、
を備え、
前記ケースは、
前記屈曲部における径方向外側かつ軸方向他方側に延びる部分を支持する第1支持領域と、
前記第1支持領域よりも径方向内側に延びる、前記屈曲部における径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びる部分を径方向内側から支持する内側支持部が周方向に複数形成された第2支持領域と、を周方向に備えることを特徴とする。
【0009】
この船尾管密封構造においても、上記の船尾管シール装置と同様の作用が生じるため、リップ部の摺動面の摩耗が抑制される。
【0010】
また、本発明に係る船尾管密封構造は、前記第1支持領域が、前記ケースにおける鉛直最下方の位置に配置されているようにしてもよい。
【0011】
第1支持領域が配置されている位置においては、シールリングの屈曲部の変形が抑制されない(阻害されない)ため、変形の自由度が確保される。したがって、プロペラ軸が船
尾管の軸孔内で偏心しても(軸心が径方向に移動しても)、ライナの外周面に対するリップ部の追随性が高くなる。ここで、船舶のプロペラ軸は、船舶のサイズによっては重量が大きくなるため、プロペラ軸を軸支する軸受けが経時的に摩耗して、プロペラ軸が降下する(傾く)ことがある。そこで、ケースにおける鉛直方向下方の位置に第1支持領域を配置すること、つまり、内側支持部を形成しないことによって、シールリングの屈曲部の下方の部位の変形の自由度を確保すれば、プロペラ軸が降下した場合であっても、ライナの外周面と、内側支持部とが接触しなくなるため、シールリングの密封性に影響を与えることがない。これにより、本発明に係る船尾管密封構造の密封性を好適に維持することが可能になる。
【0012】
また、本発明に係る船尾管密封構造は、前記第1支持領域を複数備え、前記ケースにおける鉛直最下方の位置に配置されている前記第1支持領域とは異なる第1支持領域が、前記ケースにおける鉛直最上方の位置に配置されているようにしてもよい。
【0013】
これにより、シールリングの屈曲部における鉛直方向上方の部位の変形の自由度も確保されるため、ライナの外周面に対するリップ部の追随性を保つことができる。これにより、本発明に係る船尾管密封構造の密封性を好適に維持することが可能になる。
【0014】
また、前記内側支持部は、周方向に一定の間隔で配置されているようにしてもよい。
【0015】
これにより、ライナの外周面上に形成されるシールラインの山と谷が一定の間隔で形成されるようになるため、動圧効果を周方向において一定の間隔で発生させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、リップ部の摺動面の摩耗を抑制することのできる船尾管シール装置及び船尾管密封構造が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
(実施例)
図1〜
図4を参照して、本発明の実施例に係る船尾管シール装置及び船尾管密封構造について説明する。
【0020】
<船尾管密封構造の全体構成>
図1を参照して、本発明の実施例に係る船尾管密封構造の全体構成について説明する。この船尾管密封構造には、本発明の実施例に係る船尾管シール装置が用いられている。
図1は、実施例に係る船尾管密封構造の構成を示す模式的断面図である。
【0021】
船尾管シール装置100は、船舶のプロペラ軸210の外周に設けられたライナ220と、プロペラ軸210が挿通された船尾管300との間の環状隙間を封止する。これにより、図中左側の領域W内にある海水が船内に浸入することが防止されると共に、図中右側の領域L内にある潤滑液が船外に漏出することが防止される。プロペラ軸210にはプロペラ230が取り付けられており、プロペラ軸210と共に回転する。円筒状の部材から構成されるライナ220は、ボルトによってプロペラ230に固定されており、プロペラ軸210の外周を覆っている。プロペラ230の内周側には環状の切り欠き231が設けられており、この切り欠き231に密封部材240が装着されている。この密封部材240によって、プロペラ軸210とライナ220との間に海水等が浸入してしまうことが抑制される。なお、ライナ220と、船尾管300と、船尾管シール100とが、本実施例に係る船尾管密封構造10を構成する。
【0022】
プロペラ軸210は軸受け250によって軸支されている。本実施例においては、潤滑液としては、水、または水溶性の潤滑剤が溶解した水を主成分とする潤滑液が用いられているため、ゴム材又は樹脂材から成る滑り軸受けが軸受け250として用いられている。一般に、水または水溶性潤滑剤が用いられた潤滑液は、漏出したとしても海洋を汚染しにくいため、環境性に優れている。なお、水等に替えて、潤滑液として油(潤滑油)が用いられる場合には、金属製の軸受けが軸受け250に用いられる。
【0023】
船尾管シール装置100は、船尾管300に対して固定される環状のケース110と、ケース110に対して固定されるゴム状弾性体製のシールリング121,122,123,124とを備えている。ケース110は、船尾管300に対してボルトによって固定された金属製のフランジリング111と、複数の金属製の中間リング112,113,114と、金属製のカバーリング115とから構成される。これらの金属製の5つのリングは、軸方向に挿通される不図示のボルトによって組み合わされている。そして、4つのシールリングは、それぞれの外周側がこれら5つのリングの間に締め付けられた状態で固定されている。
【0024】
シールリング121,122,123,124のそれぞれは、ライナ220の外周面に対して摺動するリップ部を備えており、リップ部の摺動面によって隔てられた2つの領域間を封止している。また、4つのシールリングのそれぞれは、リップ部よりも径方向外側に設けられ、径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側に延びる屈曲部を備えている。本実施例においては、これら4つのシールリングは同一の形状を有している。そして、これら4つのシールリングによって隔てられた環状の空間S1,S2,S3内には、潤滑液が封入(充填)されている。ここで、領域L、領域W、及び3つの空間S1,S2,S3内の流体圧力を、それぞれP
L,P
W,P
S1,P
S2,P
S3とすると、本実施例においては、P
L>P
S1>P
S2、及び、P
W>P
S3>P
S2が成立している。なお、これら3つの空間内には、潤滑液に替えて他の液体や空気などの気体が封入されていてもよい。この場合であっても、各流体圧力は上記の2つの関係を満たすように設定される。
【0025】
<シールリング及びケースの構成>
図2〜
図4を参照して、本発明の実施例に係るシールリング及びケースの構成について説明する。
図2は、実施例に係るケースが備える中間リングの正面図である(固定用ボルトの挿通孔は省略されている)。ここで正面図とは、船尾管シール装置が装着された際において、中間リングをその高圧側から軸方向に見たときの図である。
図3は、実施例に係る船尾管シール装置の使用時(装着時)における部分断面図であって、中間リングについては
図2におけるAA断面が示されている。なお、AA線は、船尾管シール装置の使用時(船尾管密封構造への装着時)には水平方向の線となるため、シールリング等も使用時における水平面で切断したときの断面が示されている。
図4は、実施例に係る船尾管シール
装置の使用時における部分断面図であって、中間リングについては
図2におけるBB断面が示されている。なお、BB線は、船尾管シール装置の使用時には鉛直方向の線となるため、シールリング等も使用時における鉛直方向の面で切断したときの断面が示されている。なお、
図3、4では、説明のために切断端面のみが描かれている。なお、本実施例においては、中間リング112,113,114は、特徴的な部分については(特に高圧側から見たときには)、概ね同様の形状を有するため、以下においては中間リング114を例にして説明する。また、本実施例においては、シールリング121,122,123,124は全て同一の形状を有するため、以下においてはシールリング124を例にして説明する。
【0026】
シールリング124は、ライナ220の外周面に対して摺動するリップ部1240と、リップ部1240よりも径方向外側に設けられ、径方向外側かつ軸方向一方側(
図3、4中の右側、すなわち低圧側)へ向かって延びた後に屈曲して径方向外側かつ軸方向他方側(
図3、4中の左側、すなわち高圧側)に延びる屈曲部1241と、中間リング114とカバーリング115とによって締め付けられる固定部1242とを備えている。つまり、屈曲部1241は、径方向外側かつ軸方向一方側へ向かって延びる径方向内側部1241aと、径方向外側かつ軸方向他方側へ向かって延びる径方向外側部1241bとから構成される、断面がV字型になる部分である。そして、シールリング124は、リップ部1240が高圧側に配置されるように、すなわち、屈曲部1241の開いた側(径方向内側部1241aと径方向外側部1241bとの間の角度が小さい側)が高圧側となるように、ケース110に対して固定される。なお、リップ部1240の外周側には、環状溝が形成されており、リップ部1240をライナ220の外周面に対して押圧するためのガータースプリング130が装着されている。
【0027】
中間リング114は、カバーリング115と中間リング113との間で固定される固定部1140と、シールリング124の固定部1240が装着されて、カバーリング115との間でこの固定部1240を締め付ける環状溝1141とを備えている。また、中間リング114は、屈曲部1241の径方向外側部1241bを低圧側(
図3、4中の右側)から支持する環状支持部1142と、屈曲部1241の径方向内側部1241aを径方向内側かつ低圧側から支持する、環状支持部1142から径方向内側に延びる複数の内側支持部1143a,1143b,1143c,1143d,1143e,1143fを周方向に備えている。つまり、ケース110を構成する中間リング114は、屈曲部1241における径方向外側部1241bを支持する第1支持領域1142A,1142Bと、屈曲部1241における径方向内側部1241aを支持する内側支持部1143a〜1143fが形成された第2支持領域1143A,1143Dを周方向に備えている。第1支持領域1142Aと1142Bは、中間リング114における鉛直最上方の位置と鉛直最下方の位置にそれぞれ配置されている。また、第2支持領域1143A,1143Dは、径方向において対向する位置に形成されており、第2支持領域1143A内に内側支持部1143a〜1143cが形成されると共に、第2支持領域1143D内に内側支持部1143d〜1143fが形成されている。これら6つの内側支持部は、
図2に示されるように、左右に3つずつ一定の間隔で形成されており、中間リング114における鉛直方向(BB線方向)の上方と下方の部位(つまり、第1支持領域1142A,1142B内)には形成されていない。なお、水平方向(AA線方向)の一方側に配置された3つの内側支持部1143a〜1143cの各々の間に形成された切り欠き1144a,1144bと、水平方向の他方側に配置された内側支持部1143d〜1143fの各々の間に形成された切り欠き1144c,1144dは、周方向寸法(周方向長さ)が、第1支持領域1142A,1142Bよりも小さく形成されている。なお、切り欠き1144a〜1144dの周方向寸法、すなわち、内側支持部1143a〜1143cの各々の間の間隔と内側支持部1143d〜1143fの各々の間の間隔は、既に述べたように一定(同一)である。本実施例においては、これら6つの内側支持部は同一の形状を有しており、それぞ
れが径方向の幅を一定にして周方向に延びるように、かつ、環状支持部1142から高圧側(
図3、4中の左側)且つ径方向内側へ向かって突出するように形成されている。なお、切り欠き1144a〜1144dの軸方向寸法は屈曲部1241近傍まで届くように形成され、周方向寸法は適宜設定される。内側支持部1143bを例にして詳細に説明すると、
図3に示されるように、内側支持部1143bは、屈曲部1241の径方向内側部1241aの一部を径方向内側から支持しているため、屈曲部1241における当該部位は、内側支持部によって支持されていない他の部位(第1支持領域1142A,1142Bや切り欠き1144a〜1144dが形成された位置に対応する屈曲部1241における部位)に比べて弾性的な変形が抑制される。これに対し、内側支持部によって支持されていない屈曲部1241の部位、つまり、屈曲部1241における鉛直方向の上方と下方の部位(
図4参照)は、内側支持部が形成された位置に対応する屈曲部1241における箇所に比べて変形の自由度が確保されている。
また、屈曲部1241における内側支持部によって支持されている部位と、内側支持部によって支持されていない他の部位(切り欠きが形成された位置に対応する部位)は、密封流体の圧力によりシール箇所がそれぞれ軸方向で異なるため、シール箇所が周方向において軸方向に前後する(全周で直線状になるのではなく、波形のように軸方向に前後する)。
【0028】
なお、既に述べたように、中間リング112,113,114は、特徴的な部分については概ね同様の形状を有する。つまり、
図1に示されるように、中間リング112は、その高圧側(
図1中の右側)に、シールリング121の径方向内側部を径方向内側から支持する6つの内側支持部を備える。そのため、中間リング112をその高圧側から見たときの形状は、概ね
図2に示される形状になる。また、
図1に示されるように、中間リング113は、軸方向の両側(
図1中の左右両側)が、その高圧側になる。つまり、軸方向の両側が、中間リング113内の空間S2に対する高圧側となる。そのため、中間リング113は、その右側に、シールリング122の径方向内側部を径方向内側から支持する6つの内側支持部を備えると共に、その左側に、シールリング123の径方向内側部を径方向内側から支持する6つの内側支持部を備える。ゆえに、中間リング113をその左右両側から見たときの形状は、何れも概ね
図2に示される形状になる。
【0029】
そして、フランジリング111と、中間リング112,113,114と、カバーリング115とが固定されてケース110が構成されるときには、ケース110における鉛直方向の上方と下方の部位に、3つの中間リングの内側支持部が配置されないように、つまり、それぞれの中間リングの第1支持領域が鉛直方向における上方と下方に配置されるように固定される。このようにしてケース110が構成されることで、ケース110における鉛直方向の上方と下方の部位に第1支持領域が配置される構成を得ることができる。なお、本実施例においては、中間リングの各部分は切削加工によって形成される。
【0030】
<船尾管シール装置の使用時のメカニズム>
特に
図3、4を参照して、本実施例に係る船尾管シール装置の使用時のメカニズムについて説明する。上述したように、シールリング121,122,123,124は、それぞれのリップ部が高圧側と低圧側とをシールするようにしてケース110に対して固定されているため、これら4つのシールリングのそれぞれに対して、流体の差圧による力が、高圧側から低圧側に向かって軸方向に作用する。シールリング124を例にすると、流体圧力は、屈曲部1241に対して
図3、4中の左側から作用する。そのため、屈曲部1241は、全体として軸方向右側に向かって弾性的に変形するが、6つの内側支持部1143a〜1143fによって支持された部位における軸方向の変形量は、支持部によって支持されていない他の部位(第1支持領域1142A,1142Bや切り欠き1144a〜1144dが形成された位置に対応する部位)における変形量よりも小さくなる。これにより、リップ部1240においても、これら6つの内側支持部近傍の部位における変形量
が、他の部位における変形量より小さくなる。したがって、リップ部1240の摺動面がライナ220の外周面上に形成するシールラインSL(リップ部1240とライナ220との接触面の高圧側の端縁全周に相当)は、
図3、4に示されるように概ね波形形状となる。
【0031】
詳細には、リップ部1240における、6つの支持部1143a〜1143fの内径方向箇所が、シールラインSLの波形形状の高圧側に突出する山を形成する。つまり、これら6つの支持部は、対応する中間リングの左右に分かれて3つずつ間隔を詰めて形成されているため、シールラインSLは、左右に3つの山が間隔を詰めて形成された波形となる(
図4参照)。ここで、点Xは、リップ部1240における支持部1143bの内径方向箇所が形成する山の位置を示している。一方、屈曲部1241における鉛直方向の上方と下方の部位は、支持部によって支持されていないため、リップ部1240における鉛直方向の上方と下方の部位が、シールラインSLにおける最も深い谷を形成する(
図3、4における点Y参照)。ただし、これは鉛直方向の上方と下方の部位にかかる圧力が同圧の場合であり、プロペラ軸が大径で上方と下方の部位において鉛直方向の上方と下方の部位にかかる圧力が無視できないほど大きい場合は、下方の部位がシールラインSLにおける最も深い谷を形成する。
【0032】
そして、プロペラ軸210の回転中には、矢印Rで示される回転方向と同一方向、すなわち、
図3、4における上方から下方へ向かう流れが発生する。したがって、シールラインSLの波形における谷から山に遷移する部分には、高圧側の流体が、
図3、4中の矢印Fで示される流れとなって導かれるため、当該部分において動圧が発生する。このようにして発生した動圧は、リップ部1240の摺動面を押し上げるように作用するため、リップ部1240の緊迫力が低減される。このような効果は、4つのシールリング121,122,123,124において同様に発揮される。
【0033】
なお、流体圧力によって屈曲部1241が変形した際には、径方向内側部1241aにおける内側支持部1143a〜1143fに当接している部位はそれ以上の変形が規制される。したがって、高い流体圧力が作用した場合であっても、屈曲部1241の変形量を規制することができるため、リップ部1240摺動面が過大になることを抑制でき、ひいてはリップ部1240の摩耗を抑制することができる。また、この効果を生じる切り欠き1144a〜1144dの各々の周方向寸法、つまり、内側支持部1143a〜1143cの各々の間隔(ピッチ)と、内側支持部1143d〜1143fの各々の間隔としては、50〜200mmとするとよい。このような間隔とした場合には、良好な結果を得ることができた。
【0034】
なお、一般に、船舶のプロペラ軸は、船舶のサイズによっては重量が大きくなるため、プロペラ軸を軸支する軸受けが経時的に摩耗して、プロペラ軸が降下する(軸受け近傍のプロペラ軸の降下量に比べ、プロペラ近傍のプロペラ軸の降下量が大きくなるように傾く)ことがある。特に、本実施例のように、軸受け250としてゴム材又は樹脂材から成る滑り軸受けが採用されている場合には、摩耗が進行しやすいため、プロペラ軸210の降下(下方への傾き)が生じやすい。ただし、船尾管密封構造10においては、ケース110(中間リング112,113,114)における鉛直方向の上方と下方の部位には内側支持部が形成されていない(第1支持領域が設けられている)ため、4つのシールリングのそれぞれにおける上方と下方の部位は内側支持部によって支持されていない。つまり、4つのシールリングのそれぞれの屈曲部における上方と下方の部位は、変形が阻害されにくい。シールリング124を例にすると、プロペラ軸210が降下しても、屈曲部1241における上方及び下方の部位の変形の自由度は高いため、上方の部位が伸び、下方の部位が縮むことによって、ライナ220の外周面に対するリップ部1240の追随性が確保される。
【0035】
なお、中間リング112〜114の各々について、中間リングの上方と下方における部位、つまり、第1支持領域が設けられている箇所は、下方においては、プロペラ軸210が降下した際に、プロペラ軸210と内側支持部とが接触するおそれがある。そのため、第1支持領域の周方向寸法は、下方においては、軸降下が生じても接触しない程度の寸法、つまり、最下方から周方向両側に30度ずつ(併せて60度)以上の角度寸法が必要であり、上方においては、プロペラ軸210が降下した際に、シールリングがその弾性によりプロペラ軸210に追随してシール可能な程度の寸法、つまり、最上方から周方向両側に40度ずつ(併せて80度)以上の角度寸法であるとよい。
【0036】
<本実施例に係る船尾管シール装置及び船尾管密封構造の優れた点>
以上のように、船尾管シール装置100によれば、シールリング121,122,123,124によってライナ220の外周面上に形成されるシールラインは、何れも波形形状となるため、プロペラ軸210の回転によって生じた高圧側流体の流れによって、リップ部の摺動面を押し上げるような動圧が発生する。これにより、ライナ220の外周面に対するリップ部の緊迫力が低減されるため、リップ部の摺動面の摩耗が抑制される。その結果、これら4つのシールリングの締め代の減少を防止することができるため、船尾管密封構造の密封能力を好適に維持することが可能になる。特に本実施例のように、潤滑液として、水や水を主成分としたものなどの粘性の低い液体を使用したとしても、摺動面の摩耗を抑制することが可能になる。
【0037】
また、船尾管シール装置100によれば、流体圧力によってシールリングの屈曲部が変形した場合であっても、ケース110の内側支持部に当接した部位についてはそれ以上の変形が規制される。したがって、高い流体圧力が作用した場合であっても、シールリングの変形量を規制することができるため、リップ部の摺動面が過大になることを抑制でき、ひいてはリップ部の摩耗を抑制することができる。
【0038】
また、船尾管密封構造10によれば、ケース110における鉛直方向の上方と下方の部位には内側支持部が形成されていない。そのため、各シールリングのリップ部における上方と下方の部位の変形が阻害されないため、ライナ220の外周面に対する追随性を確保することができる。したがって、プロペラ軸210が自重によって経時的に降下した場合であっても、船尾管密封構造の密封性を好適に維持することが可能になる。これにより、本実施例のように、軸受け250としてゴム材又は樹脂材から成る滑り軸受けを採用することが可能になるため、潤滑液として環境性に優れた水や水を主成分としたものを用いることが可能になる。
【0039】
(その他)
本発明では、ケースに設けられる内側支持部の個数や形状は、上記の実施例で説明した態様に限られず、その作用効果が発揮される限りにおいて、種々の態様を採用することができる。また、ケースを構成する中間リングの個数も上記の実施例で説明した数に限られない。そして、ケースが複数の中間リングを備える場合には、各中間リングに設けられる内側支持部の個数や形状を、中間リング毎に変更してもよい。
【0040】
なお、上記の実施例においては、ケース110における鉛直方向の上方と下方の部位に第1支持領域を設ける構成、つまり、内側支持部を設けない構成を採用したが、これに替えて、ケース110における鉛直方向の上方の部位のみに第1支持領域を設ける構成を採用してもよい。つまり、3つの中間リングの何れについても、鉛直方向の下方の部位には内側支持部を形成してもよい(第2支持領域を設けてもよい)。ここで、中間リングの下方の部位に内側支持部が形成されることによって、シールリングの屈曲部の下方の部位が支持されていたとしても、プロペラ軸210が降下した場合には、プロペラ軸210の重
量によって屈曲部の下方の部位はある程度変形し得る。したがって、少なくとも中間リングにおける鉛直方向の上方の部位に内側支持部を形成しなければ、プロペラ軸210の降下時におけるリップ部の追随性は確保される。