【文献】
太田節三,やさしいフォーム印刷,日本,株式会社印刷出版研究所,1980年 8月10日,第1頁、第28−31頁、第100−102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
(タルク含有紙)
本発明は、パルプと無機填料を含有する紙に関する。本発明の紙中の無機填料の含有量は、パルプの全質量に対して2〜40質量%である。さらに、無機填料はタルクを含有し、タルクの含有量は、無機填料の全質量に対して10〜100質量%である。また、紙中のタルクの全質量に対する石英の含有量は1.2質量%以下である。本発明では、紙中のタルクに対する石英の含有量を一定値以下とすることにより、印刷時の版の摩耗を引き起こしにくい紙であって、印刷時の走行性が良好な紙を得ることができる。
【0013】
従来の紙においては、印刷時の走行性を高めるために無機填料としてタルクを多く含有させることが行われていた。確かに、タルクを多く含有させることにより、紙の静摩擦係数は小さくなり、印刷時の走行性を高めることはできる。しかし、このような紙を用いると、印刷時に版の摩耗が生じやすくなることが本発明者らの分析により明らかとなった。ここで、版磨耗とは、印刷用の版の表面が用紙の填料・顔料、インキ顔料粒子などによって磨耗され、その結果、版画線部へのインキ付着が悪化し、濃度が薄くなったり、白抜け状になる現象をいう。本発明者らは、版の摩耗の原因を突き止めるために、従来用いられていなかった分析手法が用いて、版の摩耗の原因を分析した。その結果、タルクに含まれる石英が版の摩耗に関与していることを突き止めることに成功した。すなわち、本発明の紙は、タルク中に含まれる石英の含有量を抑えることにより、印刷時の良好な走行性を発揮しつつも、版の摩耗を抑制できるものである。
【0014】
本発明の紙の静摩擦係数は、0.35〜0.75であることが好ましく、0.45〜0.65であることがより好ましい。静摩擦係数を上記範囲内とすることにより、紙の滑り性を改善することができ、印刷時における紙の走行性を良化させることができる。
【0015】
本発明の紙の灰分は、40質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。ここでは、灰分の含有量は、JIS P 8251:2003に記載の灰分試験方法(525℃燃焼法)によって測定される。
【0016】
本発明の紙の坪量は特に限定されないが、40〜150g/m
2であることが好ましい。紙の坪量を上記範囲内とすることにより、印刷時に紙にしわが入ることを防ぐことができる。さらに、紙の滑り性を適切な範囲とすることができ、箱詰めや梱包作業がしやすくなる。
【0017】
(無機填料)
本発明の紙は、無機填料を含有し、無機填料の含有量は、パルプの全質量に対して2〜40質量%であり、3〜25質量%であることが好ましく、4〜15質量%であることがより好ましい。また、無機填料はタルクを含有し、タルクの含有量は、無機填料の全質量に対して10〜100質量%であり、30〜90質量%であることが好ましく、40〜85質量%であることがより好ましく、60〜85質量%であることがさらに好ましい。このように、上記範囲内で無機填料としてタルクを含有することにより紙の静摩擦係数を好ましい範囲内とすることができ、印刷時の走行性を向上させることができる。つまり、印刷時の走行性を向上させるとは、重送を抑制し、かつ空送も防ぐことをいう。
【0018】
紙中のタルクの全質量に対する石英の含有量は、1.2質量%以下であり、1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。タルク中の石英を除去するコストから、石英の含有量は0.15%以上であってもよい。タルクに対する石英の含有量を一定値以下とすることにより、印刷時に版が摩耗することを効果的に抑制することができる。
【0019】
タルクは、含水ケイ酸マグネシウム(3MgO・4SiO
2・H
2O)を主成分とするものである。上述したように紙中のタルクに対する石英の含有量を一定値以下とするためには、含水ケイ酸マグネシウム中の石英(SiO
2)の含有量が少ないタルクを用いることが好ましい。すなわち、無機填料として用いられるタルク中の石英の含有量が1.2質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.8質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。なお、タルク中の石英の含有量は0質量%であってもよい。
【0020】
本発明で用いるタルクの粒径は特に制限されるものではないが、具体的には平均粒径が50μm以下のものを用いることができる。タルク中の石英の平均粒径は、30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。石英の平均粒径を上記範囲内とすることにより、版の摩耗をより抑制することができる。石英のモース硬度が大きいため、上記範囲内とすることが好ましい。なお、タルクのモース硬度は小さいため、粒径が大きくても版の摩耗への影響が小さいと推察される。
ここで、タルクの平均粒径とは、レーザー回折法によるタルク粒子の粒度分布曲線の50体積%(D
50)の粒子径である。石英の平均粒径は、JIS P8136にある学振式摩擦試験機(昭和重機製)を用いて、紙とPS(Pre−Sensitized)版を接触させた後、200gの荷重を負荷し、移動距離100mm、摩擦台を毎分30往復の走行スピードで、50回往復させた後に、版と擦った紙の表面を分析し、SiとOのみが検出された全ての粒子を電子顕微鏡で撮影し、その平均粒径を求めたものである。平均粒径は個々の粒子の長軸径と短軸径(何れも投影径)の平均値である。
【0021】
タルク粉末の製造方法は、タルク粉末が得られる製造方法であれば、どのような方法でもよい。タルク粉末の製造方法としては、具体的には、タルク原石を所望の粒径になるまで機械的に粗粉砕又は微粉砕し、分級する方法が挙げられる。粗粉砕後のタルクの直径は、通常、10cm以下、好ましくは8cm以下、さらに好ましくは5cm以下であることが好ましい。粗粉砕に好適な粉砕機としては、大きな石を砕くのに適することから、ハンマークラッシャー、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー等のクラッシャータイプの乾式粉砕機が挙げられる。微粉砕に適する乾式粉砕法としては、例えば、摩砕式粉砕法、衝撃式粉砕法、衝突式粉砕法等が挙げられる。摩砕式粉砕法は、タルクを磨り潰すように粉砕する手法である。具体的な機械としては、ローラーミル、竪型ミルマスコロイダー等の石臼型粉砕機等が挙げられる。衝撃式粉砕法は、粉体に粉砕機により衝撃を与える事により粉砕する手法である。具体的な機械としては、アドマイザー、ハンマーミル、ミクロンミル等が挙げられる。衝突式粉砕法は、粉体を衝突により粉砕する手法である。具体的な機械としては、乾式流動床式ジェットミル等のジェット型粉砕機、遊星ボールミル等のボールミルの粉砕機が挙げられる。
【0022】
粉砕されたタルクは、分級することによってその粒度を調整する。分級は、乾式粉砕後に乾式の分級を行い、分級機の条件を調節することにより、目的とする粒度のタルク微末を取り出すことができる。また、分級前のタルクが大きい場合などには、複数回、分級を繰り返してもよい。乾式分級機としては、例えば、サイクロン、サイクロンエアセパレーター等が挙げられる。
【0023】
紙に使用するタルクは石英を含むことが多いが、本発明においては、石英の含有量が少ない方がよい。具体的には、タルクの全質量に対する石英の含有量は、1.2質量%以下であり、1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように、石英の含有量が少ないタルクを得るためには、タルクから石英を除去することが好ましい。タルク中の石英除去方法としては、粗粉砕機、微粉砕機の粉砕または分級機で分級時に、装置底の残存物(底の残存物は硬い石英などの鉱物が多く存在)を抜き出し、タルク製品に混ざらないようにする方法、分級した製品ロット中の石英有無を後述するようなX線回折法で測定し、石英の含有量が多い製品を除去する方法、タルクの鉱床別に把握し、石英の多い鉱床を避ける方法などが挙げられる。
【0024】
本発明では、紙中において、タルクに含まれる微量の石英を検出することに初めて成功した。タルクに含まれる石英の量は微量であるため、従来のX線回折法等の測定方法を用いた場合、紙中に含まれる微量の石英の量を正確に測定することは困難であった。しかし、本発明では、X線回折法で前処理の検討を行い、微量分析可能な方法を確立することに成功した。さらに、電子顕微鏡による分析や学振式摩擦試験を組み合わせることにより、無機填料中の石英含有量が版摩耗と相関があることを突き止めた。これにより、版摩耗の原因を突き止めることに成功し、耐版摩耗性と良好な走行性を兼ね備えた紙を製造することに成功した。
【0025】
摩擦試験を行う装置として、学振式摩擦試験機を用いることができる。学振式摩擦試験機としては、例えば、昭和重機製の学振式摩擦試験機などが挙げられる。学振式摩擦試験は、紙とPS(Pre−Sensitized)版を接触させた後、200gの荷重を負荷し、移動距離200mm、摩擦台を毎分30往復の走行スピードで、50回往復させる条件で行う。PS版の傷判定は5段階の目視評価で行うことができる。
【0026】
印刷不良が認められた時のブランケット付着物や学振式摩擦試験を行った後のPS版の付着物は電子顕微鏡で観察することができる。ここで、ブランケットとは、PS版に着いたインクを転写するものであり、ブランケットを介して印刷用紙に印刷が行われる。ブランケット付着物はセロハンテープにて回収し、試料として使用した。
電子顕微鏡としては、日立製作所製のS3600Nを用いることができる。ここでは、加速電圧を15kv、エミッション電流を44μA、低真空を30Paの条件とし、反射電子像は300又は2000倍とし、市販のカーボンテープ(日新EM製)にて採取し、無蒸着で観察することが好ましい。
【0027】
図1(a)は、300倍の倍率で観察したブランケット付着物を示す。
図1(a)からわかるように、ブランケット付着物には、Si、O、Mg、Caが多く、それ以外の元素は確認されなかった。なお、付着物は、微小な無機填料粒子であり、その比率はタルクが6割(タルク、またはMg、Caを多く含むマグネサイト、ドロマイト)、石英は4割であった。ブランケットに付着した石英はタルク中の割合より大幅に多いことから、石英が紙から選択的に剥離し、版に堆積したものと考えられる。
また、
図1(b)は、2000倍の倍率で観察したブランケット付着物を示す。付着物は一辺約40μmの三角形でSi、Oのみ検出したことから、タルク(3MgO・4SiO
2・H
2O)に付随する石英(SiO
2)の可能性が高いことがわかった。
【0028】
学振式摩擦試験を行った後のPS版の付着物についても電子顕微鏡で観察することができる。
図2(a)は、300倍の倍率で観察したPS版付着物を示す。
図2(a)からわかるように、PS版付着物には、Si、O、Mg、Caが多く、それ以外の元素は確認されなかった。また、
図2(b)は、2000倍の倍率で観察したPS版付着物を示す。付着物は一辺約40μmの四角形でSi、Oのみ検出されたことから、ブランケット付着物同様に石英の可能性が高いことがわかった。
【0029】
以上のような分析を行い、本発明者らは、版磨耗の原因がタルク中の微量石英であることを見出した。次いで、本発明者らは、電子顕微鏡で観察したタルク中の石英についてX線回折法を用いて分析を行った。
【0030】
X線回折法は、試料に単色X線を照射し、回折されたX線の強度を測定することにより試料の結晶構造の情報を得る分析法である。X線回折法の比較的新しい一手法として、平行X線光学系X線回折法がある。この方法は多層膜結晶によって平行ビーム化された入射X線を使用するものである。
X線回折装置としては、例えばリガク社製のRINT−UltimaIII (Cu管球、CuKa 1.541871Å)を用いることができる。ここでは、光学系は平衡ビーム光学系(CBO)、X線管電圧40kV、管電流40mAの条件にすることが好ましい。X線回折用試料は、前処理を行ったものを用いることが好ましい。前処理の条件は、例えば、混合は粉砕機を使用して10分間、成型は3点の平均、好ましくは5点の平均、さらに好ましくは10点の平均であることが好ましい。回転は1分間に120回転とすることができる。
【0031】
図3(a)には、石英のX線プロファイルを示す。
図3(a)に示されているように、石英の最強線は2θ=26.6°となる。
図3(b)には石英の検量線を示す。検量線はタルクに対して石英を0重量%、0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%、5.0重量%濃度になるように前処理した後、X線回折法で測定し、横軸は石英濃度、縦軸は回折強度をそれぞれプロットした。検量線の傾きは0.0021、相関係数1.000で0点を通過し、直線性も良好であった。なお、
図3(c)は、各濃度の2θ=26.6°のピークプロファイルの例を示している。
この検量線を用いることにより、X線回折法でタルク中の微量石英を定量分析することができる。X線回折法による分析結果は、電子顕微鏡観察及び学振式摩擦試験機を用いた解析結果とも同じ傾向であった。このように、本発明では、石英が版磨耗の原因であることを突き止めただけではなく、X線回折法で填料中の石英定量分析することにより版磨耗評価を迅速に行うスクリーニング法も示すことにも成功した。
【0032】
なお、無機填料には、
本発明の効果を損なわない範囲で、タルク以外の填料が含まれていてもよい。タルク以外の無機填料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、石膏
、水和ケイ酸塩、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、若しくは水酸化亜鉛等の無機顔料や尿素・ホルマリン樹脂微粒子、若しくは微小中空粒子等の有機顔料を挙げることができる。また、古紙や損紙等をパルプ原料として用いた場合には、これらに含まれる填料も含有することができる。なお、無機填料は2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
(パルプ原料)
本発明の紙はパルプを含み、例えば、広葉樹由来のパルプ、針葉樹由来のパルプ、非木材由来のパルプを用いることができる。広葉樹クラフトパルプとしては、例えば、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ等を挙げることができる。また、針葉樹クラフトパルプとしては、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、針葉樹亜硫酸パルプ等を挙げることができる。
【0034】
また、本発明の紙に含まれるパルプには、アカシア由来の広葉樹パルプが含まれることが好ましい。アカシア由来の広葉樹パルプの含有量は、パルプの原材料全体の質量に対して30質量%以上であることが好ましい。アカシア由来の広葉樹パルプの含有量は、パルプの原材料全体の質量に対して30〜100質量%であればよく、50〜100質量%であることが好ましく、70〜100質量%であることがより好ましい。アカシア由来のパルプの含有量を上記範囲内とすることにより、静摩擦係数の小さい紙を製造することができる。さらに、アカシア由来の広葉樹パルプの含有量を上記範囲内とすることにより、製造工程における紙の乾燥時間を短縮することができる。
【0035】
アカシア由来のパルプとしては、例えば、Acacia mangium(アカシアマンギューム)、A.auriculiformis(アカシアアウリカルフォルミス)、A.catechu(アカシアカテキュー)、A.decurrens(アカシアデカレンス)、A.holosericea(アカシアホロセリシア)、A.leptocarpa(アカシアレプトカルパ)、A.maidenii(アカシアマイデニアイ)、A.mearnsii(アカシアメランシー)、A.melanoxylon(アカシアメラノキシロン)、A.neriifolia(アカシアネリフォーラ)、A.silvestris(アカシアシリベストリス)、又はA.peregrinalis(アカシアペレグリナリス)等やこれらの交雑種(hybrid:ハイブリッド)であるアカシアから得られるパルプを用いることができる。
【0036】
本発明では、針葉樹クラフトパルプと広葉樹クラフトパルプに加えて、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、または離解・脱墨・漂白古紙パルプ、あるいはケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等の公知の種々のパルプを用いることができる。なお、紙の全質量に対する古紙パルプの含有率は、30質量%未満であることが好ましく、20質量%未満であることがより好ましく、10質量%未満であることがさらに好ましい。
【0037】
本発明で用いるパルプ原料のフリーネスは350〜650mlCSFであることが好ましい。なお、フリーネスとは、JIS−P8220に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS−P8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて測定した濾水度の値である。
【0038】
(内添薬品)
本発明では、上述した無機填料以外の内添薬品を加えてもよい。内添薬品としては、例えば、硫酸バンド等の薬品定着剤、ロジン等のサイズ剤、ポリアクリルアマイド、澱粉等の紙力増強剤、ポリアマイド等の濾水度歩留り向上剤、ポリアミド、ポリアミン、エピクロルヒドリン等の耐水化剤、消泡剤、塩基性染料、酸性染料、アニオン性直接染料、カチオン性直接染料等の公知の種々のものを挙げることができる。
【0039】
さらに、本発明では、上述した原料パルプにカチオン化澱粉を含有させてもよい。カチオン化澱粉の含有率は、原料パルプの全質量に対して、0.2質量%以下であること好ましく、0.01〜0.05質量%であることがより好ましい。カチオン化澱粉を加えることにより、紙の強度が増強され、かつ破断伸びのよい紙を得ることができる。
【0040】
(製造方法)
<蒸解工程>
蒸解工程は、上述したパルプ原料をチップなどの形態にして蒸解し、未漂白パルプを得る工程である。蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸解、又はアルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができる。
【0041】
<漂白工程>
漂白工程は、蒸解工程により得られた未漂白パルプに対して、粗選及び精選を適宜行ってから、漂白を行う工程である。漂白工程としては、アルカリ酸素漂白法、及び多段漂白などを順次実施する工程が挙げられる。これらの各漂白の間には洗浄を行い、最後の漂白の後には洗浄及び脱水を行うことが好ましい。
【0042】
<叩解工程>
漂白工程により得られた漂白パルプは、叩解工程を経て抄紙工程へ送られることが好ましい。叩解工程では、パルプのフリーネスが350〜650mlCSFとなるように叩解することが好ましい。
【0043】
<抄紙方法>
抄紙方法としては、酸性抄紙法あるいは中性ないしアルカリ性抄紙法が任意に採用できる。抄紙機としては、ツインワイヤー式抄紙機、ギャップフォーマー式抄紙機、長網抄紙機、円網抄紙機、オントップ型抄紙機、又はヤンキー抄紙機等を用いることができる。中でも、抄紙工程では、ツインワイヤー式抄紙機又はギャップフォーマー式抄紙機を用いることが好ましく、ギャップフォーマー式抄紙機を用いることが特に好ましい。ツインワイヤー式抄紙機やギャップフォーマー式抄紙機は、原料を2枚のワイヤーに挟みながら走行させることにより、上下両方に脱水する型式の抄紙機である。このため、原料はその両側でほぼ均等に脱水され、脱水速度が高められる。すなわち、ツインワイヤー式抄紙機やギャップフォーマー式抄紙機はでは高速抄紙が可能となり、かつ得られた紙の裏表間の風合いの差が小さくなるという利点がある。
【0044】
ギャップフォーマー式抄紙機では、抄紙する際の抄紙幅は、2500mm以上であることが好ましく、3500mm以上であることがより好ましく、4500mm以上であることがさらに好ましい。また、抄紙速度は、800m/min以上であることが好ましく、900m/min以上であることがより好ましく、1000m/min以上であることがさらに好ましい。このように、ギャップフォーマー式抄紙機では、抄紙幅を広くとることができ、より高速抄紙が可能となり、生産効率をより高めることができる。
【0045】
<その他の処理>
本発明の紙の製造工程では、表面強度を向上させたり、接着剤との接着性を高めるため、紙の表面に平滑化処理を施しても良い。この平滑化処理は、例えば加圧可能なリール間で紙を加圧処理することにより実施することが好ましい。また、平滑化処理を施す際に、紙の表面に接するロールは平滑な表面を有し、加熱可能な金属製ロールがあることが好ましい。
【0046】
なお、紙における平滑化処理は、上記の平滑化処理の他、紙を抄紙する過程で、例えば一対の金属製ロールを一組または複数組備えたカレンダーロールによるカレンダー処理(マシンカレンダーによるカレンダー処理)、金属製ロールと樹脂製ロールとを一組または複数組備えたカレンダーロールによるカレンダー処理(ソフトカレンダーによるカレンダー処理)、又はヤンキードライヤーによる乾燥処理等により実施することもできる。このような製造方法とすることにより、紙の表面の平滑性が向上し、より高精度な印刷が可能となる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0048】
(実施例1)
広葉樹晒クラフトパルプ(質量比として、アカシアアウリカリフォルミス:ユーカリカマルドレンシス:ユーカリグロブラス=40:40:20)からなるパルプスラリー100質量部に、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤(荒川化学工業社製、ファイブラン81K)0.04質量部(対パルプ、固形分換算)、硫酸アルミニウムを0.5質量部(対パルプ、固形分換算)、カチオン化澱粉(王子コーンスターチ社製、王子エースK)1.1質量部(対パルプ、固形分換算)、無機填料8質量部(対パルプの全質量、固形分換算)を添加して紙料を調整した。無機填料は、平均粒径9.5μmのタルクA(石英含有量:0.7質量%、平均粒径:9μm)70質量%と、軽質炭酸カルシウム(平均粒径:2μm)30質量%を併用したものを用いた。
この紙料を表1に示す抄紙速度でギャップフォーマー方式により紙層を形成し、ロールプレスで搾水後、ドライヤーで乾燥し、2ロールサイズプレス装置で表面サイズ処理を行った。表面サイズ処理では、酸化澱粉2質量部、スチレン−メタクリル酸共重合体系表面サイズ剤(荒川化学工業社製、ポリマロンNP−25)0.10質量部、及び芒硝0.3質量部よりなるサイズプレス液を固形分で0.5g/m
2となるように塗布し、カレンダー処理して、水分4.5質量%、坪量64g/m
2の紙を得た。
【0049】
(実施例2)
タルクAを平均粒径が7μmのタルクB(石英含有量:測定できる下限値以下)に変更した以外は実施例1と同様にして紙を抄造した。ここで、石英含有量測定下限は0.1質量%であった。
【0050】
(実施例3)
タルクAを平均粒径が7μmのタルクC(石英含有量:0.7質量%、平均粒径:8μm)に変更した以外は実施例1と同様にして紙を抄造した。
【0051】
(実施例4)
タルクAを平均粒径が7μmのタルクD(石英含有量:1.1質量%、平均粒径:8μm)に変更した以外は実施例1と同様にして紙を抄造した。
【0052】
(実施例5)
タルクAを、タルクBと平均粒径7μmのタルクE(石英含有量:2.2質量%、平均粒径:6μm)の混合品(混合比率は質量比として1:1、石英含有量:1.1質量%)に変更した以外は実施例1と同様にして紙を抄造した。
【0053】
(実施例6)
タルクAを平均粒径11μmのタルクF(石英含有量:0.7質量%、平均粒径:14μm)に変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0054】
(実施例7)
タルクAを平均粒径11μmのタルクG(石英含有量:0.3質量%、平均粒径:12μm)に変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0055】
(実施例8)
タルクAを平均粒径18μmのタルクH(石英含有量:0.7質量%、平均粒径:25μm)に変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0056】
(実施例9)
タルクAを平均粒径18μmのタルクI(石英含有量:測定できる下限値以下)に変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0057】
(実施例10)
無機填料は、タルクA50質量%と、軽質炭酸カルシウム(平均粒径:2μm)50質量%を併用したものを用いた。それ以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0058】
(実施例11)
無機填料は、タルクA25質量%と、軽質炭酸カルシウム(平均粒径:2μm)75質量%を併用したものを用いた。それ以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0059】
(実施例12)
広葉樹晒クラフトパルプの原料をアカシアアウリカリフォルミスのみにし、抄紙速度を変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0060】
(実施例13)
広葉樹晒クラフトパルプの原料をユーカリカマルドレンシスのみにし、抄紙速度を変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0061】
(実施例14)
パルプスラリーを針葉樹晒クラフトパルプ(質量比として、ダグラスファー:ラジアータパイン:カリビアンパイン=1:1:1)30質量部と広葉樹晒クラフトパルプ(質量比として、アカシアアウリカリフォルミス:ユーカリカマルドレンシス:ユーカリグロブラス=40:40:20)70質量部からなるパルプスラリーに変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0062】
(比較例1)
タルクAを平均粒径7μmのタルクJ(石英含有量:1.4質量%、平均粒径:8μm)に変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0063】
(比較例2)
タルクAを平均粒径11μmのタルクK(石英含有量:1.4質量%、平均粒径:15μm)に変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0064】
(比較例3)
タルクAをタルクEに変更した以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0065】
(比較例4)
無機填料を軽質炭酸カルシウム(平均粒径:2μm)のみにした以外は実施例1と同様に紙を抄造した。
【0066】
<版摩耗評価>
一定条件で摩擦試験を行う装置として、JIS P8136にある学振式摩擦試験機(昭和重機製)を使用した。この試験機は紙とPS(Pre−Sensitized)版を接触させた後、200gの荷重を負荷し、移動距離100mm、摩擦台を毎分30往復の走行スピードで、50回往復させる条件で行った。PS版の傷判定は5段階の目視評価で行い、数値が小さい程、版磨耗が大きい指標なる。
5:磨耗が見られない。
4:僅かに磨耗があった。
3:少し磨耗が見られたが、実用上問題ないレベル。
2:摩耗が多く見られ、実用上問題のあるレベル。
1:磨耗がかなりひどい。
【0067】
<走行性評価>
走行性評価は、セイコーエプソン(株)製のモノクロレーザープリンタLP8600を用い、23℃、相対湿度50%の環境下で実施した。給紙サンプルは、包装開封後、直ちに複写機の手差しトレイに置き、1000枚走行させ、その時の走行不良(空送、紙詰まり及び重送)の発生枚数の合計を走行トラブル数としてカウントした。走行不良の発生枚数を下記の基準で判定し、表1に記載する。
A:0〜3枚
B:4〜6枚
C:7〜10枚
D:11枚以上
【0068】
【表1】
【0069】
実施例1〜14では、版の摩耗が抑制されており、かつ印刷時の走行不良の発生が抑制されていることがわかる。特に、実施例2及び9では、石英の含有量が少ないタルクを所定量以上使用しているため、耐版摩耗性に優れかつ走行性に優れていることがわかる。
一方、比較例1〜3では、版の摩耗が多く見られ、実用上問題のあるレベルであった。また、比較例4では。走行不良が多く発生しており、実用上問題のあるレベルであった。