特許第6606877号(P6606877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士通株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6606877-無線通信装置 図000002
  • 特許6606877-無線通信装置 図000003
  • 特許6606877-無線通信装置 図000004
  • 特許6606877-無線通信装置 図000005
  • 特許6606877-無線通信装置 図000006
  • 特許6606877-無線通信装置 図000007
  • 特許6606877-無線通信装置 図000008
  • 特許6606877-無線通信装置 図000009
  • 特許6606877-無線通信装置 図000010
  • 特許6606877-無線通信装置 図000011
  • 特許6606877-無線通信装置 図000012
  • 特許6606877-無線通信装置 図000013
  • 特許6606877-無線通信装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606877
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20191111BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20191111BHJP
   H03F 1/02 20060101ALI20191111BHJP
   H03F 1/07 20060101ALI20191111BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   H04B1/04 B
   H03F3/24
   H03F1/02
   H03F1/07
   H03F1/32
   H04B1/04 R
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-117016(P2015-117016)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-5478(P2017-5478A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】春日井 大輝
(72)【発明者】
【氏名】本田 弘毅
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−204229(JP,A)
【文献】 特開2010−011062(JP,A)
【文献】 特開2014−110565(JP,A)
【文献】 特表2013−545400(JP,A)
【文献】 特開平11−041118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
H03F 1/02
H03F 1/07
H03F 1/32
H03F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号の電力を増幅する増幅器と、
前記送信信号のキャリアの帯域幅が第一の帯域幅である場合は、前記増幅器の出力インピーダンスを第一のインピーダンスに制御する一方で、前記帯域幅が前記第一の帯域幅より大きい第二の帯域幅である場合は、前記出力インピーダンスを前記第一のインピーダンスより大きい第二のインピーダンスに制御するインピーダンス制御部と、
を具備する無線通信装置。
【請求項2】
前記増幅器での増幅後の信号の隣接チャネル漏洩電力を、測定対象の周波数である対象周波数において測定する測定部と、
前記キャリアの周波数に関する情報であるキャリア情報に基づいて前記対象周波数を設定し、前記対象周波数において前記測定部によって測定された前記隣接チャネル漏洩電力の値に応じて、前記増幅器のバイアス電圧を制御するバイアス電圧制御部と、
をさらに具備する請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記バイアス電圧制御部は、前記バイアス電圧を制御することにより前記隣接チャネル漏洩電力の値を所定値に近づける、
請求項に記載の無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば無線通信システムにおける基地局及びユーザ端末等の無線通信装置には、送信信号の電力を増幅する増幅器(Power Amplifier;以下では「PA」と呼ぶことがある)が備えられている。無線通信装置では、PAの電力効率を高めるために、PAの飽和領域付近でPAを動作させることがある。しかし、PAを飽和領域付近で動作させると非線形歪が増加する。また、非線形歪の増加に伴って、ACP(Adjacent Channel leakage Power:隣接チャネル漏洩電力)が増加する。一方で、非線形歪を減少させてACPを減少させるために、PAを線形領域で動作させると、PAの電力効率が低下するため、消費電力が増加する。つまり、PAの電力効率とPAの歪特性とはトレードオフの関係にあり、PAの電力効率を高めるほど歪特性は劣化し、PAの歪特性を良好にするほど電力効率は低下する傾向にある。
【0003】
近年、通信速度の高速化及び通信量の増大に伴い、無線通信の広帯域化が進んでいる。一方で、常に使用可能帯域の全域を用いて通信が行われる訳ではなく、通信量が少ない場合等には、使用可能帯域の一部を用いた狭帯域の通信が行われることもある。つまり、同一のPAを用いて、広帯域通信が行われるときと、狭帯域通信が行われるときとがある。よって、広帯域であったり、狭帯域であったりという様々なキャリアコンフィグレーションに対応した装置運用が重要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−006164号公報
【特許文献2】特開2007−019578号公報
【特許文献3】特表平10−513631号公報
【特許文献4】特表2009−525695号公報
【特許文献5】特開2004−140633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、広帯域の無線通信と、狭帯域の無線通信とを比較した場合、一般に、広帯域の方が狭帯域よりもPAの歪特性が悪く、逆に、狭帯域の方が広帯域よりもPAの電力効率が悪い傾向にある。これに対し、広帯域通信時の歪特性を良好にするために、広帯域通信に合わせてPAのパラメータを設定したのでは、狭帯域通信時には、過剰に良好な歪特性となってしまい、無駄な電力が消費されてしまう。逆に、狭帯域通信時の電力効率を上げるために、狭帯域通信に合わせてPAのパラメータを設定したのでは、広帯域通信時の歪特性が悪くなり、ACPが増加してしまう。PAに設定されるパラメータとして、例えば、PAの出力インピーダンスや、PAのバイアス電圧等が挙げられる。
【0006】
つまり、広帯域通信または狭帯域通信のどちらか一方に合わせてPAのパラメータを設定すると、広帯域通信が行われるときと、狭帯域通信が行われるときがある通信システムでは、PAの電力効率と、PAの歪特性とのバランスを図ることが難しい。
【0007】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、PAの電力効率と、PAの歪特性とのバランスを図って両者を最適化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示の態様では、無線通信装置は、PAと、インピーダンス制御部とを有する。前記PAは、送信信号の電力を増幅する。前記インピーダンス制御部は、前記送信信号のキャリアの周波数に関する情報であるキャリア情報に基づいて、前記PAの出力インピーダンスを制御する。
【発明の効果】
【0009】
開示の態様によれば、PAの電力効率と、PAの歪特性とのバランスを図って両者を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1の基地局の構成例を示す図である。
図2図2は、実施例1の歪補償部の構成例を示す図である。
図3図3は、実施例1のインピーダンス変換器の構成例を示す図である。
図4図4は、実施例1のインピーダンス制御の一例を示す図である。
図5図5は、実施例1のインピーダンス制御の一例を示す図である。
図6図6は、実施例1のインピーダンス制御の一例を示す図である。
図7図7は、実施例2の基地局の構成例を示す図である。
図8図8は、実施例2のバイアス電圧の制御例の説明に供する図である。
図9図9は、実施例2のバイアス電圧制御テーブルの一例を示す図である。
図10図10は、実施例2の対象周波数の設定の一例を示す図である。
図11図11は、実施例2の対象周波数の設定の一例を示す図である。
図12図12は、実施例2の対象周波数の設定の一例を示す図である。
図13図13は、RRHのハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願の開示する無線通信装置の実施例を図面に基づいて説明する。なお、この実施例により本願の開示する無線通信装置が限定されるものではない。また、各実施例において同一の機能を有する構成部には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
[実施例1]
<基地局の構成例>
図1は、実施例1の基地局の構成例を示す図である。図1に示す基地局1は、制御装置10と、RRH(Remote Radio Head)20とを有する。RRH20は、無線通信装置の一例である。
【0013】
制御装置10は、BBU(Base Band Unit)11を有する。
【0014】
RRH20は、歪補償部201と、DAC(Digital to Analog Converter)203と、アップコンバータ205と、分配器251と、増幅器25と、インピーダンス変換器257と、カプラ213と、アンテナ215とを有する。また、RRH20は、ダウンコンバータ217と、ADC(Analog to Digital Converter)219と、インピーダンス制御部221とを有する。
【0015】
増幅器25は、キャリアアンプ253と、ピークアンプ255とを有する。つまり、増幅器25は、ドハティ型の増幅器である。
【0016】
制御装置10において、BBU11は、入力されるデータに対して符号化処理及び変調処理等のベースバンド処理を行って送信信号x(t)を生成し、生成した送信信号x(t)をRRH20の歪補償部201へ出力する。また、BBU11は、送信信号x(t)のキャリア(つまり、変調処理に用いたキャリア)の周波数に関する情報(以下では「キャリア情報」と呼ぶことがある)をRRH20のインピーダンス制御部221へ出力する。
【0017】
歪補償部201は、送信信号x(t)に歪補償係数を乗算して送信信号x(t)にプリディストーション(Pre-Distortion;以下では「PD」と呼ぶことがある)を施すことにより、増幅器25での増幅後の信号に生じる歪を補償する。以下では、送信信号x(t)に歪補償係数を乗算した後の信号を「プリディストーション信号(PD信号)」と呼ぶことがある。歪補償部201は、送信信号x(t)に歪補償係数を乗算してPD信号y(t)を生成し、生成したPD信号y(t)をDAC203へ出力する。
【0018】
DAC203は、PD信号をデジタル信号からアナログ信号に変換し、アナログのPD信号をアップコンバータ205へ出力する。
【0019】
アップコンバータ205は、アナログのPD信号をアップコンバートし、アップコンバート後のPD信号を分配器251及びインピーダンス制御部221へ出力する。
【0020】
分配器251は、アップコンバータ205から入力されるPD信号の電力値が閾値TH未満の場合は、キャリアアンプ253へのみPD信号を出力する。一方で、分配器251は、PD信号の電力値が閾値TH以上の場合は、キャリアアンプ253及びピークアンプ255の双方へPD信号を出力する。
【0021】
キャリアアンプ253は、入力電力が小さい場合における線形性を備えたPAであり、分配器251から入力されたPD信号の電力を増幅し、増幅後の信号をインピーダンス変換器257へ出力する。これに対し、ピークアンプ255は、入力電力が大きい場合にのみ使用されるPAであり、分配器251から入力されたPD信号の電力を増幅し、増幅後の信号をインピーダンス変換器257へ出力する。
【0022】
インピーダンス変換器257は、分配器251に入力されたPD信号の電力値が閾値TH未満の場合は、キャリアアンプ253からだけ信号を入力されるため、キャリアアンプ253から入力された信号をカプラ213へ出力する。一方で、インピーダンス変換器257は、分配器251に入力されたPD信号の電力値が閾値TH以上の場合は、キャリアアンプ253及びピークアンプ255の双方から信号を入力される。このため、インピーダンス変換器257は、キャリアアンプ253から出力された信号とピークアンプ255から出力された信号とが合成された合成信号のインピーダンスを調整し、インピーダンス調整後の合成信号をカプラ213へ出力する。インピーダンス変換器257は、合成信号のインピーダンスを調整することで、キャリアアンプ253及びピークアンプ255の各出力端の合成点からキャリアアンプ253及びピークアンプ255を見た負荷インピーダンス(つまり、増幅器25の出力インピーダンス)を調整する。また、インピーダンス変換器257は、インピーダンス制御部221からの制御の下で、増幅器25の出力インピーダンスを調整する。
【0023】
カプラ213は、インピーダンス変換器257から出力された増幅後の信号を、アンテナ215と、ダウンコンバータ217とに分配する。これにより、増幅器25での増幅後の信号が、ダウンコンバータ217及びADC219を介して歪補償部201へフィードバックされる。
【0024】
アンテナ215は、増幅後の信号を無線送信する。
【0025】
ダウンコンバータ217は、カプラ213から入力される信号をダウンコンバートし、ダウンコンバート後の信号をADC219へ出力する。
【0026】
ADC219は、ダウンコンバート後の信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、変換後のデジタル信号をフィードバック信号z(t)として歪補償部201へ出力する。
【0027】
インピーダンス制御部221は、PD信号の電力値とキャリア情報とに基づいて、インピーダンス変換器257におけるインピーダンス調整を制御することにより増幅器25の出力インピーダンスを制御する。出力インピーダンスの制御の詳細は後述する。
【0028】
<歪補償部の構成例>
図2は、実施例1の歪補償部の構成例を示す図である。図2において、歪補償部201は、PD部231と、アドレス生成部233と、歪補償テーブル235と、誤差算出部237と、歪補償係数更新部239とを有する。
【0029】
歪補償部201において、送信信号x(t)が、PD部231及びアドレス生成部233に入力される。また、送信信号x(t)は、参照信号として、誤差算出部237に入力される。
【0030】
アドレス生成部233は、送信信号x(t)の振幅値を求め、求めた振幅値に応じたアドレスを生成し、生成したアドレスを歪補償テーブル235に指定するとともに、歪補償係数更新部239へ出力する。
【0031】
歪補償テーブル235は、複数のアドレスと、それら複数のアドレスのそれぞれに対応する複数の歪補償係数を格納する。歪補償テーブル235は、アドレス生成部233から指定されたアドレスに対応する歪補償係数をPD部231へ出力する。
【0032】
PD部231は、歪補償テーブル235から入力された歪補償係数を用いて、送信信号x(t)に対してPDを施す。すなわち、PD部231は、送信信号x(t)に歪補償係数を乗算し、乗算後の信号をPD信号y(t)としてDAC203へ出力する。
【0033】
誤差算出部237は、送信信号x(t)とフィードバック信号z(t)との誤差を算出し、算出した誤差を歪補償係数更新部239へ出力する。
【0034】
歪補償係数更新部239は、例えばLMS(Least Mean Square)アルゴリズム等を用いて、誤差算出部237から入力された誤差を最小にする歪補償係数を算出する。歪補償係数更新部239は、歪補償テーブル235に格納されている複数の歪補償係数のうち、アドレス生成部233から入力されたアドレスに対応する歪補償係数を、算出した歪補償係数によって更新する。
【0035】
<インピーダンス変換器の構成例>
図3は、実施例1のインピーダンス変換器の構成例を示す図である。図3において、インピーダンス変換器257は、スイッチS1,S2と、コンデンサC1,C2とを有する。コンデンサC2の容量は、コンデンサC1の容量より小さい。インピーダンス変換器257では、図3に示すように、コンデンサC1,C2の一端がスイッチS1,S2を介して電送線路に接続され、コンデンサC1,C2の他端がグランド(GND)に接続されている。コンデンサC1,C2は並列に接続されている。例えば、キャリアアンプ253の出力側の伝送線路L1のインピーダンス、ピークアンプ255の出力側の伝送線路L2のインピーダンス、及び、インピーダンス変換器257の入力側の伝送線路L3のインピーダンスは共に50Ωである。
【0036】
スイッチS1,S2のオン/オフは、インピーダンス制御部221により制御される。インピーダンス制御部221は、PD信号の電力値及びキャリア情報に基づいてスイッチS1,S2のオン/オフを制御することにより、増幅器25の出力インピーダンスを制御する。
【0037】
PD信号の電力値が閾値TH未満の場合は、インピーダンス変換器257へは、キャリアアンプ253からだけ信号が入力される。インピーダンス制御部221は、PD信号の電力値が閾値TH未満の場合は、スイッチS1,S2の双方をオフにする。この場合、キャリアアンプ253及びピークアンプ255の各出力端の合成点CPからキャリアアンプ253を見た負荷インピーダンス(つまり、増幅器25の出力インピーダンス)は50Ωとなっている。
【0038】
これに対し、PD信号の電力値が閾値TH以上の場合は、インピーダンス変換器257へは、キャリアアンプ253及びピークアンプ255の双方から信号が入力される。PD信号の電力値が閾値TH以上で、かつ、スイッチS1,S2の双方がオフの場合は、合成点CPからキャリアアンプ253及びピークアンプを見た負荷インピーダンス(つまり、増幅器25の出力インピーダンス)は25Ωとなっている。
【0039】
インピーダンス制御部221は、PD信号の電力値を測定し、PD信号の電力値が閾値TH以上の場合に、以下の制御例1〜3のようにして、増幅器25の出力インピーダンスを制御する。図4〜6は、実施例1のインピーダンス制御の一例を示す図である。
【0040】
<制御例1(図4)>
制御例1では、キャリア情報が、送信信号x(t)のキャリアの帯域幅を示す場合について説明する。ここでは、キャリアの帯域幅の一例として、60MHzと20MHzの二通りの帯域幅を挙げる。60MHzは広帯域の一例であり、20MHzは狭帯域の一例である。ここでは、帯域幅が60MHzの場合でも20MHzの場合でも、送信信号x(t)の中心周波数は同一であるとする。
【0041】
図4に示すように、インピーダンス制御部221は、帯域幅が20MHz(つまり、狭帯域)の場合は、スイッチS1をオンにし、スイッチS2をオフにする。一方で、インピーダンス制御部221は、帯域幅が60MHz(つまり、広帯域)の場合は、スイッチS1をオフにし、スイッチS2をオンにする。コンデンサC2の容量はコンデンサC1の容量より小さいため、帯域幅が60MHzのときの増幅器25の出力インピーダンスは、帯域幅が20MHzのときの増幅器25の出力インピーダンスよりも大きくなる。例えば、スイッチS1がオンで、スイッチS2がオフのときに増幅器25の出力インピーダンスが22.5ΩになるようにコンデンサC1の容量が設定されている。また例えば、スイッチS1がオフで、スイッチS2がオンのときに増幅器25の出力インピーダンスが27.5ΩになるようにコンデンサC2の容量が設定されている。
【0042】
PD信号の電力値が閾値TH以上で、かつ、スイッチS1,S2の双方がオフの場合は、増幅器25の出力インピーダンスは上記のように25Ωである。これに対し、PD信号の電力値が閾値TH以上で、かつ、帯域幅が20MHzの場合は、インピーダンス制御部221によって、増幅器25の出力インピーダンスが22.5Ωに制御される。つまり、帯域幅が20MHzの場合は、増幅器25の出力インピーダンスが25Ωから22.5Ωに減少するように制御される。よって、帯域幅が20MHz(つまり、狭帯域)の場合は、増幅器25の出力インピーダンスが25Ωのときに比べて、増幅器25の歪特性が劣化する一方で、増幅器25の電力効率が上がって消費電力が抑制される。
【0043】
また、PD信号の電力値が閾値TH以上で、かつ、帯域幅が60MHzの場合は、インピーダンス制御部221によって、増幅器25の出力インピーダンスが27.5Ωに制御される。つまり、帯域幅が60MHzの場合は、増幅器25の出力インピーダンスが25Ωから27.5Ωに増加するように制御される。よって、帯域幅が60MHz(つまり、広帯域)の場合は、増幅器25の出力インピーダンスが25Ωのときに比べて、増幅器25の電力効率が低下する一方で、増幅器25の歪特性は改善される。
【0044】
上記のように、一般に、広帯域の方が狭帯域よりも増幅器25の歪特性が悪く、逆に、狭帯域の方が広帯域よりも増幅器25の電力効率が悪い傾向にある。このため、送信信号x(t)の帯域幅が狭帯域(ここでは、20MHz)である場合には、増幅器25の電力効率を上げるように増幅器25の出力インピーダンスを制御するのが好ましい。逆に、送信信号x(t)の帯域幅が広帯域(ここでは、60MHz)である場合には、増幅器25の歪特性を改善するように増幅器25の出力インピーダンスを制御するのが好ましい。
【0045】
そこで、制御例1では、以上のようにして、送信信号x(t)のキャリアの帯域幅に応じて増幅器25の出力インピーダンスを制御する。これにより、増幅器25の電力効率と、増幅器25の歪特性とのバランスを図って両者を最適化することができる。
【0046】
<制御例2(図5)>
制御例2では、送信信号x(t)が複数の互いに異なるキャリア周波数の信号を含むマルチキャリア信号である場合について説明する。例えば、送信信号x(t)は、キャリア周波数f1の信号とキャリア周波数f2(f1<f2)の信号とを含む。この場合、キャリア情報は、キャリア周波数f1及びキャリア周波数f2を示す。ここで、「f2−f1」は、送信信号x(t)におけるキャリアの周波数間隔になる。つまり、キャリア情報には、送信信号x(t)の複数のキャリアの周波数間隔(以下では「キャリア間隔」と呼ぶことがある)が示されている。ここでは、キャリア間隔の一例として、60MHzと20MHzの二通りのキャリア間隔を挙げる。60MHzは広いキャリア間隔の一例であり、20MHzは狭いキャリア間隔の一例である。ここでは、キャリア間隔が60MHzの場合でも20MHzの場合でも、送信信号x(t)の中心周波数は同一であるとする。
【0047】
図5に示すように、インピーダンス制御部221は、キャリア間隔が20MHzの場合(つまり、キャリア間隔が狭い場合)は、スイッチS1をオンにし、スイッチS2をオフにする。一方で、インピーダンス制御部221は、キャリア間隔が60MHzの場合(つまり、キャリア間隔が広い場合)は、スイッチS1をオフにし、スイッチS2をオンにする。制御例1と同様に、例えば、スイッチS1がオンで、スイッチS2がオフのときに増幅器25の出力インピーダンスが22.5ΩになるようにコンデンサC1の容量が設定されている。また、制御例1と同様に、例えば、スイッチS1がオフで、スイッチS2がオンのときに増幅器25の出力インピーダンスが27.5ΩになるようにコンデンサC2の容量が設定されている。
【0048】
よって、PD信号の電力値が閾値TH以上で、かつ、キャリア間隔が20MHzの場合は、インピーダンス制御部221によって、増幅器25の出力インピーダンスが22.5Ωに制御される。つまり、キャリア間隔が20MHzの場合は、増幅器25の出力インピーダンスが25Ωから22.5Ωに減少するように制御される。よって、キャリア間隔が20MHzの場合(つまり、キャリア間隔が狭い場合)は、増幅器25の出力インピーダンスが25Ωのときに比べて、増幅器25の歪特性が劣化する一方で、増幅器25の電力効率が上がって消費電力が抑制される。
【0049】
また、PD信号の電力値が閾値TH以上で、かつ、キャリア間隔が60MHzの場合は、インピーダンス制御部221によって、増幅器25の出力インピーダンスが27.5Ωに制御される。つまり、キャリア間隔が60MHzの場合は、増幅器25の出力インピーダンスが25Ωから27.5Ωに増加するように制御される。よって、キャリア間隔が60MHzの場合(つまり、キャリア間隔が広い場合)は、増幅器25の出力インピーダンスが25Ωのときに比べて、増幅器25の電力効率が低下する一方で、増幅器25の歪特性は改善される。
【0050】
ここで、一般に、キャリア間隔が広いときの方がキャリア間隔が狭いときよりも増幅器25の歪特性が悪く、逆に、キャリア間隔が狭いときの方がキャリア間隔が広いときよりも増幅器25の電力効率が悪い傾向にある。このため、送信信号x(t)のキャリア間隔が狭い場合(ここでは、20MHzの場合)は、増幅器25の電力効率を上げるように増幅器25の出力インピーダンスを制御するのが好ましい。逆に、送信信号x(t)のキャリア間隔が広い場合(ここでは、60MHzの場合)は、増幅器25の歪特性を改善するように増幅器25の出力インピーダンスを制御するのが好ましい。
【0051】
そこで、制御例2では、以上のようにして、送信信号x(t)のキャリア間隔に応じて増幅器25の出力インピーダンスを制御する。これにより、増幅器25の電力効率と、増幅器25の歪特性とのバランスを図って両者を最適化することができる。
【0052】
<制御例3(図6)>
制御例3では、キャリア情報が、送信信号x(t)のキャリアの周波数位置(以下では「キャリア位置」と呼ぶことがある)を示す場合について説明する。ここでは、キャリア位置の一例として、800MHzと1.5GHzの二通りのキャリア位置を挙げる。800MHzは低周波の一例であり、1.5GHzは高周波の一例である。
【0053】
図6に示すように、インピーダンス制御部221は、キャリア位置が800MHz(つまり、低周波)の場合は、スイッチS1をオンにし、スイッチS2をオフにする。一方で、インピーダンス制御部221は、キャリア位置が1.5GHz(つまり、高周波)の場合は、スイッチS1をオフにし、スイッチS2をオンにする。ここでは、キャリア位置が800MHzであるときにスイッチS1がオンでスイッチS2がオフであると、増幅器25の出力インピーダンスが25ΩになるようにコンデンサC1の容量が設定されている。また、キャリア位置が1.5GHzであるときにスイッチS1がオフでスイッチS2がオンであると、増幅器25の出力インピーダンスが25ΩになるようにコンデンサC2の容量が設定されている。
【0054】
つまり、インピーダンス制御部221は、キャリア位置が低周波の場合は、低周波での歪特性を改善するために、低周波に対して増幅器25の出力インピーダンスが最適になるようにインピーダンス変換器257を制御する。一方で、インピーダンス制御部221は、キャリア位置が高周波の場合は、高周波での歪特性を改善するために、高周波に対して増幅器25の出力インピーダンスが最適になるようにインピーダンス変換器257を制御する。これにより、キャリア位置が低周波の場合でも高周波の場合でも、良好な歪特性を得ることができる。
【0055】
[実施例2]
<基地局の構成例>
図7は、実施例2の基地局の構成例を示す図である。図7に示す基地局2は、制御装置10と、RRH30とを有する。RRH30は、無線通信装置の一例である。
【0056】
RRH30は、実施例1のRRH20の構成(図1)に加え、さらに、FFT(Fast Fourier Transform)部301と、ACP測定部303と、バイアス電圧制御部305とを有する。
【0057】
FFT部301にはフィードバック信号z(t)が入力され、FFT部301は、入力されたフィードバック信号z(t)に対してFFTを行う。このFFTにより、サンプリング周期をΔtとすれば、周波数Δf(=1/Δt・N)間隔でN/2個のスペクトルが得られる。FFT部301は、FFTにより得たスペクトルをACP測定部303へ出力する。
【0058】
ACP測定部303は、FFT部301から入力されるスペクトルを用いて、フィードバック信号z(t)(つまり、増幅器25での増幅後の信号)のACPを測定する。ACP測定部303は、隣接チャネルの周波数帯域に属するスペクトルを加算してACPを測定する。このとき、ACP測定部303は、隣接チャネルの周波数範囲のうち、ACPの測定対象となる周波数(以下では「対象周波数」と呼ぶことがある)においてACPを測定する。対象周波数は、バイアス電圧制御部305によって設定される。ACP測定部303は、対象周波数において測定したACPの値をバイアス電圧制御部305へ出力する。
【0059】
バイアス電圧制御部305には、BBU11からキャリア情報が入力される。バイアス電圧制御部305は、入力されたキャリア情報に基づいて、対象周波数をACP測定部303に設定する。また、バイアス電圧制御部305は、設定した対象周波数においてACP測定部303によって測定されたACPの値に基づいて、キャリアアンプ253及びピークアンプ255(つまり、増幅器25)のバイアス電圧を制御する。
【0060】
<バイアス電圧の制御例>
図8は、実施例2のバイアス電圧の制御例の説明に供する図である。送信信号x(t)のキャリアCAに隣接してチャネルCH11,CH12,CH13,CH21,CH22,CH23の各チャネルが存在する。チャネルCH11,CH12,CH13,CH21,CH22,CH23のうち、チャネルCH11,CH21は、キャリアCAに最も近接する「最近接チャネル」である。対象周波数が最近接チャネルである場合、ACP測定部303は、チャネルCH11のACPを測定しても良く、チャネルCH21のACPを測定しても良く、または、チャネルCH11のACPとチャネルCH21のACPとの平均値を測定値としても良い。
【0061】
バイアス電圧制御部305は、ACP測定部303によって測定されたACPの値pに基づいて増幅器25のバイアス電圧Vを制御する。バイアス電圧制御部305は、以下の式(1)に従って、所定値βに対するACPの値pの差分値αを算出する。所定値βは、例えば、増幅器25におけるACPのスペック値である。
α=β−p …(1)
【0062】
よって、差分値αが正の値になるときは、ACPの値pがスペック値βより小さいとき、つまり、増幅器25の歪特性にマージンがあるときである。また、差分値αが負の値になるときは、ACPの値pがスペック値βより大きいとき、つまり、増幅器25の歪特性がスペックを満たしていないときである。
【0063】
そこで、バイアス電圧制御部305は、差分値αに応じてバイアス電圧VをΔVだけ変化させる。図9は、実施例2のバイアス電圧制御テーブルの一例を示す図である。図9に示すバイアス電圧制御テーブルはRRH30が有するメモリ(図示せず)に記憶されており、バイアス電圧制御テーブルには、差分値αの複数の範囲にそれぞれ対応するΔV(HEX値)が予め設定されている。バイアス電圧制御部305は、差分値αを用いてバイアス電圧制御テーブルを参照し、差分値αに対応するΔVだけ増幅器25のバイアス電圧Vを変化させる。例えば、差分値αが1.5であるときは、バイアス電圧制御部305は、増幅器25のバイアス電圧VをΔV=0004(HEX値)だけ減少させる。また例えば、差分値αが−0.8であるときは、バイアス電圧制御部305は、増幅器25のバイアス電圧VをΔV=0002(HEX値)だけ増加させる。
【0064】
このように、バイアス電圧制御部305が差分値αに応じてバイアス電圧Vを増加または減少させることにより、ACP測定部303によって測定されるACPの値pがスペック値βに近づく。すなわち、差分値αが正の値になるとき、つまり、増幅器25の歪特性にマージンがあるときは、バイアス電圧Vを減少させることにより、増幅器25の歪特性を劣化させる一方で、増幅器25の電力効率を向上させて消費電力を抑制する。また、差分値αが負の値になるとき、つまり、増幅器25の歪特性がスペックを満たしていないときは、バイアス電圧Vを増加させることにより、増幅器25の歪特性を改善する。これにより、増幅器25の電力効率と、増幅器25の歪特性とのバランスを図って両者を最適化することができる。
【0065】
<対象周波数の設定例>
図10〜12は、実施例2の対象周波数の設定の一例を示す図である。以下、設定例1〜3について説明する。
【0066】
<設定例1(図10)>
設定例1では、キャリア情報が、送信信号x(t)のキャリアの帯域幅を示す場合について説明する。ここでは、キャリアの帯域幅の一例として、60MHzと20MHzの二通りの帯域幅を挙げる。60MHzは広帯域の一例であり、20MHzは狭帯域の一例である。ここでは、帯域幅が60MHzの場合でも20MHzの場合でも、送信信号x(t)の中心周波数は同一であるとする。図10に示すように、バイアス電圧制御部305は、帯域幅が60MHzの場合でも20MHzの場合でも、対象周波数を最近接チャネルに設定する。対象周波数を最近接チャネルに設定するのは、通常、ACPのうち最近接チャネルにおけるACPが最大になるからである。
【0067】
<設定例2(図11)>
設定例2では、送信信号x(t)が複数の互いに異なるキャリア周波数の信号を含むマルチキャリア信号であり、キャリア情報がキャリア間隔を示す場合について説明する。図11に示すように、バイアス電圧制御部305は、キャリア間隔Lが0である場合、つまり、2つのキャリアが接している場合は、対象周波数を最近接チャネルに設定する。一方で、バイアス電圧制御部305は、キャリア間隔Lが0より大きい場合、つまり、2つのキャリアが離れた位置にある場合は、対象周波数を、キャリア間隔Lの中間周波数、つまり、キャリア間隔Lの2分の1の周波数に設定する。対象周波数をキャリア間隔Lの中間周波数に設定するのは、2つのキャリアからのACPが合成された結果、合成後のACPがキャリア間隔Lの中間周波数において最大になる場合が多いと想定されるからである。
【0068】
<設定例3(図12)>
設定例3では、キャリア情報が、送信信号x(t)のキャリア位置を示す場合について説明する。ここでは、キャリア位置の一例として、800MHzと1.5GHzの二通りのキャリア位置を挙げる。800MHzは低周波の一例であり、1.5GHzは高周波の一例である。図12に示すように、バイアス電圧制御部305は、周波数位置が800MHzの場合でも1.5GHzの場合でも、対象周波数を最近接チャネルに設定する。
【0069】
設定例1〜3の何れにおいても、ACPが最大になるチャネルに対象周波数が設定されるので、上記のようなバイアス電圧の制御に対し、最適な対象周波数を設定することができる。
【0070】
[他の実施例]
RRH20,30は、例えば、次のようなハードウェア構成により実現することができる。図13は、RRHのハードウェア構成例を示す図である。図13に示すように、RRH20,30は、ハードウェアの構成要素として、プロセッサ51と、メモリ52と、無線通信モジュール53とを有する。プロセッサ51の一例として、CPU(Central Processing Unit),DSP(Digital Signal Processor),FPGA(Field Programmable Gate Array)等が挙げられる。また、RRH20,30は、プロセッサ51と周辺回路とを含むLSI(Large Scale Integrated circuit)を有してもよい。メモリ52の一例として、SDRAM等のRAM,ROM,フラッシュメモリ等が挙げられる。
【0071】
例えば、DAC203と、アップコンバータ205と、分配器251と、増幅器25と、インピーダンス変換器257と、カプラ213と、アンテナ215と、ダウンコンバータ217と、ADC219とは、無線通信モジュール53により実現される。また例えば、歪補償部201と、インピーダンス制御部221と、FFT部301と、ACP測定部303と、バイアス電圧制御部305とは、プロセッサ51により実現される。また例えば、図9に示すようなバイアス電圧制御テーブルはメモリ52に記憶される。
【符号の説明】
【0072】
1,2 基地局
10 制御装置
11 BBU
20,30 RRH
25 増幅器
251 分配器
253 キャリアアンプ
255 ピークアンプ
257 インピーダンス変換器
221 インピーダンス制御部
301 FFT部
303 ACP測定部
305 バイアス電圧制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13