(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プレス成形して使用される自動車用の鋼板には、車体の軽量化による燃費向上と、衝突事故時の安全性向上とを図るため、例えば引張強さ340MPa以上の高強度と、高い防錆性とが求められる。このため、自動車のドアーアウターパネルやフードアウターパネルといった外板パネルには、引張強さ340MPa級の高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板が用いられる。
【0003】
自動車のドアやフードなどの外板パネルは、最終製品の外観に当たる部分であり美観が求められる。このため、外板パネルに用いられる高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板には、指で押したりしたときの押圧により永久変形である凹み疵(デント)を起こし難い性質(耐デント性)を備えることも要求される。耐デント性は、プレス成形後に塗装焼付け処理を施した後の降伏強さが高いほど、また、鋼板の板厚が厚いほど、向上する。このため、プレス成形後に塗装焼付け処理を施した後の降伏強さが高い鋼板を使用すれば薄肉化が可能となる。
【0004】
また、高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板に張出し成形によるプレス加工を行って外板パネルに成形する場合には、優れた耐パウダリング性(加工時のめっき剥がれに対する抵抗性)とともに高い形状凍結性(プレス型に良くなじみ、かつ、成形品をプレス型から外したときにスプリングバックの発生が少なく、金型通りの寸法や形状を確保できる性質)も要求される。このため、外板パネルの素材として用いる鋼板にはプレス成形前の降伏強さが低いことも要求される。
【0005】
したがって、プレス成形前の降伏強さが低く、かつプレス成形後に塗装焼付けした後においては高い降伏強さを有する鋼板が外板パネル用の高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板として適する。
【0006】
さらに、外板パネルに用いられる鋼板は、その塗装後の外観の美麗さを極めて高いレベルで要求される。プレス成形性のような機械特性の不足分は、金型などの製造条件を調整することによりある程度は補償できるが、鋼板に存在する表面欠陥を補償する術はなく、プレス成形品の廃却、つまり歩留まりの低下に直結する。このため、使用される鋼板自体の表面性状が厳格に管理され、表面欠陥のない鋼板が求められる。しかし、高張力鋼板において目的の高強度を確保するために添加される様々な合金元素の多くは一般に易酸化元素である。このため、高張力鋼板はスケール疵(表面欠陥)を発生し易い傾向にあり、安定して高品質の表面性状を有する高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することは容易ではない。
【0007】
従来より、耐デント性を有する鋼板として焼付け硬化性鋼板(BH鋼板)が知られている。BH鋼板は、固溶C,N原子が転位上に偏析して転位を固着して降伏強さを上昇させる、いわゆる歪時効硬化現象を利用した鋼板である。BH鋼板を利用してプレス成形および焼付け塗装を施す過程では、プレス成形時に導入された転位が、塗装焼付け時に固溶C,Nによって固着されて固定化されるため、プレス成形時に比べて焼付け塗装後の降伏強さが上昇する。BH鋼板に関してはこれまでに多くの提案がなされている。
【0008】
特許文献1には、C:0.0010〜0.0020%(本明細書においては特に断りがない限り化学組成に関する「%」は「質量%」を意味する)、Si:0.03%以下、Mn:0.1〜1.0%、P:0.005〜0.06%、S:0.003〜0.02%、sol.Al:0.03〜0.2%、N:0.0020%以下、Nb:0.005〜0.010%を含有し、350〜450℃の温度T(℃)における高温強度が、高温強度(MPa)≦120または285−0.3T≦高温強度(MPa)を満たし、下降伏応力で測定した塗装焼付硬化量が30〜45MPaであることにより、プレス加工後の表面品質に優れた焼付硬化性高強度冷延鋼板が開示されている。
【0009】
特許文献2には、C:0.0005%以上0.030%未満、Si:0.1%以下、Mn:0.05〜2.0%、P:0.005〜0.06%、S:0.020%以下、sol.Al:0.0005〜0.08%およびN:0.005%以下を含有し、フェライト面積率90%以上、粒径0.20μm以下のMnSの個数割合10%以下、清浄度d0.05%以下、および降伏比75%以下の機械特性を有することにより、プレス成形前においては降伏強さが低くプレス成形性に優れ、プレス成形後においては熱処理により降伏強さが高められて良好な耐デント性を示す冷延鋼板が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1,2により開示された発明のように、P,Mnを多量に含有することにより、引張強度340MPa以上の高強度を容易に得られるものの、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、表面品質および耐パウダリング性が悪化する。このため、特許文献1,2により開示された発明では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面品質および耐パウダリング性が問題にならない程度の低P含有量(P≦0.035%)および低Mn含有量(Mn≦0.74%)で、引張強さ340MPa以上および降伏強さ250MPa以下を兼ね備える外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得られない。
【0012】
また、ドアーアウターパネルやフードアウターパネル等の外板パネルには、優れた耐デント性が要求されるが、外板パネルの造形によっては絞り深さが浅い形状の外板パネルが存在する。このような外板パネルではプレス成形による加工硬化が少ないために耐デント性が不足することがあり、プレス成形に供される前の降伏強さが高いことが要求される。しかし、特許文献1,2により開示された発明では、日本鉄鋼連盟規格JFS A 3011:2014の340BHの規格(JAC340H、YS=195MPa以上、295MPa以下、ただし、板厚0.4mm以上、0.8mm未満の場合)の中でプレス成形に供される前の降伏強さを高め(230〜270MPa)に制御して所望の耐デント性を得られない。
【0013】
本発明は、従来の技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、表面品質および耐パウダリング性が問題にならない程度の低P含有量(0.035%以下)および低Mn含有量(0.74%以下)で、自動車の外板パネル用の、耐デント性に優れる引張強さが340MPa以上の合金化溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、TS340MPa級の溶融亜鉛めっき鋼板について、自動車外板パネルに用いるべく鋭意検討を重ね、以下に列記の知見(i)〜(iii)を得て、本発明を完成した。
【0015】
(i)自動車の外板パネルに用いられる溶融亜鉛めっき鋼板には、表面品質および耐パウダリング性が求められる。表面品質および耐パウダリング性を向上させるには、Mn含有量,P含有量およびSi含有量を減少させればよい。しかしながら、Mn含有量,P含有量の減少は引張強さの低下につながる。目標とする340MPa以上の引張強さを得るためには、Bを添加して鋼組織を細粒化すればよい。Bを添加して仕上圧延における仕上圧延温度を低下させて圧延することにより、再結晶オーステナイト粒が微細化し、仕上圧延後の冷却で粒成長を抑制することができる。
【0016】
(ii)耐デント性は、降伏強さを高めに制御すること、具体的には降伏強さを230MPa以上に制御することにより向上させることができる。降伏強さは、B添加量により制御できる。すなわち、Bを熱間圧延時にBNとして析出させて鋼中の固溶Nを低減することにより、その後の冷間圧延および再結晶焼鈍時の微細窒化物の析出が抑制され、粒成長が起こり、降伏強さは低くなる。このため、Bの添加を抑制し、固溶Nを残存させることにより、降伏強さを230MPa以上に高めることができる。ただし、上述したように、Bには引張強さを高める効果もあり、引張強さと降伏強さのバランスをとりながらB含有量を適量に、具体的にはB含有量を7ppm未満に制御する。
【0017】
(iii)このように、引張強さ340MPa級の合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、所望の表面品質、耐パウダリング性および耐デント性(降伏強さ230MPa以上)を確保するには、Mn含有量,P含有量およびB含有量を適正にバランスすることが重要となるが、Mn含有量,P含有量およびB含有量のバランスを適正化するだけでは、表面品質および耐パウダリング性を確実に確保することができない。さらにTiおよびNbを複合添加することにより、表面品質および耐パウダリング性を確実に確保できる。上述した特許文献1,2には、Ti,NbおよびBを複合添加した実施例は記載されていない。
【0018】
本発明は、以下に列記の通りである。
(1)C:0.0010〜0.0030%、Si:0.005〜0.10%、Mn:0.30〜0.74%、P:0.010〜0.035%、S:0.015%以下、Al:0.001〜0.050%、N:0.0035%以下、Ti:0.001〜0.015%、Nb:0.001〜0.015%、B:0.0001〜0.0007%未満、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、結晶粒径がJIS G 0551(2013)に規定される粒度番号で9.5超のフェライト組織を主体とする金属組織を有するとともに、引張強さが340MPa以上であり、降伏強さが230〜280MPaであるとともに、JIS G 3135(2013)に規定される塗装焼付硬化量が30〜80MPaである機械特性を有することを特徴とする自動車の外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0019】
(2)前記化学組成は、Mo:0.050%以下を有する1項に記載された自動車の外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0020】
(3)C:0.0010〜0.0030%、Si:0.005〜0.10%、Mn:0.30〜0.74%、P:0.010〜0.035%、S:0.015%以下、Al:0.001〜0.050%、N:0.0035%以下、Ti:0.001〜0.015%、Nb:0.001〜0.015%、B:0.0001〜0.0007%未満を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学組成を有するスラブを、880〜930℃で熱間仕上げ圧延を行い、450〜800℃で巻取った後、60〜95%の圧下率の冷間圧延を行い、連続溶融亜鉛めっきラインで720〜860℃で焼鈍することを特徴とする自動車の外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0021】
(4)前記化学組成は、Mo:0.050%以下を有する3項に記載された自動車の外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、表面品質および耐パウダリング性が問題にならない程度の低P含有量(0.035%以下)および低Mn含有量(0.74%以下)で、自動車の外板パネル用の、耐デント性に優れる引張強さが340MPa以上の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供できる。このため、本発明によれば、合金コストを抑制しつつ引張強さ340MPa以上を確保でき、耐デント性が特に必要な平坦なドア等に用いることによる板厚の低下(軽量化)に資することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る自動車の外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板の化学組成、金属組織、機械特性、用途および製造方法の限定理由を説明する。
【0024】
1.化学組成
(1−1)C:0.0010〜0.0030%
Cは、固溶状態で鋼中に存在することにより焼付硬化能を発揮する作用を有する。C含有量が0.0010%未満では、上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、C含有量は
0.0010%以上とする。一方、C含有量が0.0030%超では、成形性の低下が著しくなる場合がある。したがって、C含有量は0.0030%以下とする。好ましくは0.0028%以下である。
【0025】
(1−2)Si:0.005〜0.10%
Siは、延性の低下を抑制しつつ強度を高めるのに有効な元素でもあり、めっき密着性を高める作用を有する。したがって、Si含有量は0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.020%以上である。しかし、Si含有量が0.10%を超えると合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面品質および耐パウダリング性が低下する。したがって、Si含有量は0.10%以下とする。好ましくは0.08%以下、さらに好ましくは0.06%以下である。
【0026】
(1−3)Mn:0.30〜0.74%
Mnは、鋼の強度を容易に高めるのに有効な元素である。本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、強度を高めるための他の元素(P,B)との関係でMn含有量が0.30%未満では、鋼の引張強さを340MPa以上に高めることができない。したがって、Mn含有量は0.30%以上とする。一方、Mn含有量が0.74%超では、所望の表面品質および耐パウダリング性を確保することができない。したがって、Mn含有量は0.74%以下とする。
【0027】
(1−4)P:0.010〜0.035%
Pも、鋼の強度を容易に高めるのに有効な元素である。鋼の強度を高めるための他の元素(Mn,B)との関係でP含有量が0.010%未満では、鋼の引張強さを340MPa以上とすることができない。したがって、P含有量は0.010%以上とする。一方、P含有量が0.035%超では、表面品質および耐パウダリング性を確保することができない。したがって、P含有量は0.035%以下とする。P含有量は好ましくは0.030%以下である。
【0028】
(1−5)S:0.015%以下
Sは、不純物として含有され、粒界に偏析して鋼を脆化させる作用を有する。また、脆化を抑制するためにMnを含有させてMnSとして固定したとしても、MnSの絶対量が過剰であると、MnSが起点となってプレス成形時に割れを誘発する。したがって、S含有量は0.015%以下とする。S含有量は好ましくは0.012%以下である。S含有量は、少ないほど好ましいので下限を限定する必要はないが、溶製コストの観点からは0.002%以上とすることが好ましい。
【0029】
(1−6)Al:0.001〜0.050%
Alは、脱酸により鋼を健全化する作用を有する。また、鋼中のNをAlNとして固定することにより、固溶Nによる常温時効を抑制する作用を有する。Al含有量が0.001%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Al含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.005%以上である。一方、Al含有量を0.050%超としても上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利になる。したがって、Al含有量は0.050%以下とする。Al含有量は好ましくは0.040%以下である。
【0030】
(1−7)N:0.0035%以下
Nは、鋼中に不可避的に含有される元素であり、延性、深絞り性および耐常温時効性を劣化させる。このため、N含有量は0.0035%以下とする。好ましくは0.0030%以下である。N含有量は少ないほど好ましいのでN含有量の下限を規定する必要はない。ただし、過度に極低窒素化することは、製鋼コストの著しい上昇を伴う。したがって、N含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
【0031】
(1−8)Ti:0.001〜0.015%
Tiは、表面品質および耐パウダリング性を向上させる作用を有する。この効果を適切に得るためには、Ti含有量は0.001%以上とする。Ti含有量は好ましくは0.02%以上である。しかしながら、Ti含有量が多くなると、合金化熱処理時に亜鉛との界面付近の鋼中粒界から異常に早い鉄拡散が起こる、いわゆるアウトバースト反応が起こり易くなる。この結果、溶融亜鉛めっき鋼板の表面には、合金化過程で合金相結晶が形成される際に部分的に合金相結晶が異常成長することにより鋼板表面に表面凹凸が形成され、めっきの外観の不均一化や表面粗さが増大する。よって、Ti含有量は0.015%以下とする。Ti含有量は好ましくは0.010%以下である。
【0032】
(1−9)Nb:0.001〜0.015%
Nbも、Tiと同様に表面品質および耐パウダリング性を向上させる作用を有する。また、Tiによるアウトバースト反応を抑制する効果も有する。この効果を適切に得るために、Nb含有量を0.001%以上とする。Nb含有量は好ましくは0.002%以上である。しかしながら、Nb含有量が多くなると、その効果が飽和するだけでなく、焼鈍時に粒成長が阻害されて結晶粒が微細化されるので、成形性が劣化する場合がある。よって、Nb含有量は0.015%以下とする。Nb含有量は好ましくは0.010%以下である。
【0033】
(1−10)B:0.0001〜0.0007%未満
Bは、熱間圧延時に不純物として含有するNと反応しBNとして析出し、固溶Nを低減させる。B含有量が0.0001%未満であると、焼鈍時に容易に結晶粒が成長し、降伏強さが230MPa未満に低下して所望の耐デント性を得ることができなくなる。また、鋼の強度を高めるための他の元素(Mn,P)との関係でB含有量が0.0001%未満であると、鋼の引張強さを340MPa以上に高めることができない。このため、B含有量は0.0001%以上とする。B含有量は望ましくは0.0003%以上である。しかし、B含有量が0.0007%以上では、窒素と反応して生成したBNが粗大となり、微細窒化物が減少して結晶粒が成長する。この場合にも降伏強さが低下して所望の耐デント性を得られない。このため、B含有量は0.0007%未満とする。
【0034】
(1−11)Mo:0.080%以下
Moは、必要に応じて含有する任意元素であり、常温でのCとの相互作用により耐時効性を向上させる作用を有する。したがって、Moを含有させてもよい。しかしながら、Mo含有量が0.080%を超えて含有させても上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Mo含有量は0.080%以下とする。Mo含有量は好ましくは0.050%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Mo含有量を0.005%以上含有させることが好ましい。
【0035】
上記以外の残部は、Feおよび不純物である。
【0036】
2.金属組織
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、金属組織がフェライトを主体とする。金属組織がフェライトであれば、自動車の外板パネル用の合金化溶融亜鉛めっき鋼板として必要な成形性(延性)および溶接性を確保することができる。
【0037】
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、基本的にフェライトからなる組織であるが、フェライト以外にも不可避的なベイナイトやパーライトなどが含まれていてもよい。ただし、フェライト以外の組織が5.0面積%超含まれていると、本発明が得ようとする強度を満足しなくなる。したがって、不可避的に含まれるフェライト以外の組織は5面積%以下である。
【0038】
本発明におけるフェライト組織の結晶粒径は、JIS G 0551(2013)に規定される粒度番号で9.5
超とする。結晶粒径が粒度番号で9.5
以下であると、降伏強さが高くなり、所望の形状凍結性を得られなくなる。
【0039】
3.機械特性
本発明に係る合金化溶融亜鉛めっき鋼板の引張強さは340MPa以上であり、降伏強さは230MPa以上280MPa以下(望ましくは230〜270MPaさらに望ましくは235〜270MPa)であるとともに、JIS G 3135(2013)に規定される塗装焼付硬化量は30MPa以上80MPa以下である。降伏強さが230MPaを下回ると、所望の耐デント性を確保することができない。
【0040】
4.用途
本発明に係る外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、例えば、自動車のドアーアウターパネルやフードアウターパネル、トランクリッドアウターパネル、さらにはフロントフェンダパネル等の外板パネルに用いられる。
【0041】
5.製造方法
本発明に係る外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、特定の方法により製造されるものではなく、上記化学組成、金属組織および機械特性を有することができれば如何なる方法により製造されてもよいが、量産性等を勘案した好適な製造法の一例を以下に説明する。
【0042】
本発明に係る外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、上記化学組成を有する鋼塊または鋼片に、例えば、スラブ加熱工程、熱間圧延工程、酸洗工程、冷間圧延工程、連続焼鈍工程、溶融亜鉛めっき工程および合金化処理工程を経て、製造される。
【0043】
スラブ加熱工程においては、上述した化学組成を有するスラブを加熱炉に装入して表面温度を例えば1150℃以上1350℃以下にすることが例示される。スラブは、常法により溶製された溶鋼を連続鋳造法により、または、鋼塊とした後に分塊圧延を施すことにより製造することができる。加熱炉に装入されるスラブは、常温まで冷却されたものであってもよく、連続鋳造または分塊圧延後の高温状態にあるものであってもよい。最終製品における表面性状をさらに良好にするために、加熱炉に装入する前のスラブに、冷間もしくは温間で表面手入れを施すことが好ましい。
【0044】
熱間圧延工程では、加熱炉から抽出されたスラブに、仕上温度:880℃以上930℃以下で熱間圧延を施し、巻取温度450〜800℃で熱延鋼板とする。
【0045】
冷間圧延後に上記金属組織を得るためには、熱延鋼板の結晶粒径を細粒にすることが好ましい。したがって、熱間圧延における仕上温度はオーステナイト域の低温域とすることが好ましい。仕上温度が930℃超であったり、880℃未満であったりすると、熱延鋼板が粗粒となってしまう。したがって、熱間圧延の仕上温度は880℃以上930℃以下とする。
【0046】
また、巻取温度が450℃未満であると冷却時に鋼板上に水が部分的にのる現象が発生しやすく、平坦不良となり、一方巻取温度が800℃超であるとスケールが厚くなるため酸洗時の脱スケールが困難となる。このため、熱間圧延後の巻取温度は450℃以上800℃以下とする。
【0047】
酸洗工程においては、上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗を施して酸洗鋼板とする。酸洗は常法でよい。なお、スケール疵をさらに低減させるために、酸洗前または酸洗後に表面研削を施してもよい。
【0048】
冷間圧延工程においては、上記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に60〜95%の圧下率の冷間圧延を施して冷延鋼板とする。
【0049】
上述した金属組織を得るためには、冷間圧延における圧下率を60%以上とすることが好ましい。一方、冷間圧延における圧下率が95%を超えると圧延荷重が大きくなり、圧延機への負荷が過大となる場合がある。したがって、冷間圧延における圧下率は95%以下とすることが好ましい。なお、冷延鋼板には、必要に応じて公知の方法に従って脱脂などの処理が施される。また、スケール疵をさらに低減させるために、冷間圧延後焼鈍前に表面研削を施してもよい。
【0050】
さらに、このようにして得られた冷延鋼板に、連続溶融亜鉛めっきラインで焼鈍、溶融亜鉛めっきおよび合金化処理を施す。
【0051】
焼鈍は、720℃以上860℃以下で行う。焼鈍温度が720℃未満や860℃超であると、上記金属組織を得られない。
【0052】
このようにして得られた冷延鋼板に常法にしたがって溶融亜鉛めっきおよび合金化処理を行う。めっき方法やめっき膜の化学組成は限定されない。
【0053】
このようにして得られた本発明に係る外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板には、常法にしたがって調質圧延を施してもよいが、調質圧延による降伏比の増加および伸びの低下を抑制するために、調質圧延の伸び率を1.8%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは1.6%以下である。
【実施例】
【0054】
表1に示す化学組成の鋼を試験転炉で溶製し、連続鋳造試験機にて250mm厚のスラブを製造した。
【0055】
【表1】
【0056】
得られたスラブを加熱して熱間圧延試験機を用いて4.0mm厚まで熱間圧延した。熱間圧延条件として、仕上圧延温度(熱間圧延完了温度)、および巻取温度を、表1に示す。
【0057】
得られた熱延鋼板を塩酸酸洗によりスケール除去した後に、表1に示す圧下率で0.65mm厚まで冷間圧延した。
【0058】
得られた冷延鋼板を表1に示す焼鈍温度で焼鈍した。溶融亜鉛めっきについては、焼鈍後の冷却途中で460℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを施し、めっき後に加熱して合金化処理を行った。溶融めっき後、伸び率1.4%の調質圧延を行った。
【0059】
このようにして得られた試料No.1〜25(本発明例)と、試料No,X1〜X8(比較例)について、圧延90°方向からJIS5号引張試験片を採取し、引張試験を行うことにより、降伏強さ(YS)および引張強さ(TS)を求めた。
【0060】
また、圧延90°方向からJIS5号引張試験片を採取し、JIS G 3135(2013)で規定される塗装焼付硬化量試験方法により、塗装焼付硬化量(BH量)を求めた。
【0061】
さらに、得られた鋼板の表面を目視で観察し、その表面品質を評価するとともに、耐パウダリング性を以下のように評価した。すなわち、(円筒絞り条件ブランク直径:90mm、絞り高さ:30mm、潤滑油:一般防錆油(Nox−Rust550HN;パーカー興産))により深絞り成形を行い、その側壁部にテープを貼付してから剥離し、この剥離の前後の重量差より、耐パウダリング性を表2に示す基準で評価した。
【0062】
【表2】
【0063】
また、フェライト組織の結晶粒径はJIS G 0551(2013)に基づき、板厚中央部近傍の組織写真を光学顕微鏡で撮影し、画像処理によって求めた。
【0064】
結果を表1にまとめて示す。
表1における試料No.1〜25は、本発明が規定する条件を全て満足する本発明例であり、試料No.X1〜X8は、この条件を満足しない比較例である。
【0065】
試料No.1〜25は、いずれも、340MPa以上の引張強さと、230MPa以上280MPa以下の降伏強さと、30MPa以上80MPa以下の塗装焼付硬化量とを兼ね備え、片面あたり45〜52g/m
2のめっき付着量を有するとともに、耐パウダリング性および表面外観ともに良好であった。このため、試料No.1〜25は、優れた形状凍結性および耐デント性を特に要求される例えばドアーアウターパネル等に用いるのに好適である。
【0066】
なお、試料No.18,25の表面外観には、極軽度のめっきムラが認められたが実用上問題ない程度であった。
【0067】
これに対し、試料No.x1は、C含有量が0.0035%と本発明の範囲の上限を上回るため、塗装焼付硬化量が84MPaと過大になり、成形性が不芳であった。
【0068】
試料No.x2は、Si含有量が0.105%と本発明の範囲の上限を上回るため、耐パウダリング性およびめっきの外観が不芳であった。
【0069】
試料No.x3は、Mn含有量が0.89%と本発明の範囲の上限を上回るため、耐パウダリング性およびめっきの外観が不芳であった。
【0070】
試料No.x4は、Nb含有量が0.017%と本発明の範囲の上限を上回るため、焼鈍時に粒成長が進行し、塗装焼付硬化量が不芳になった。
【0071】
試料No.x5は、Ti含有量が0.017%と本発明の範囲の上限を上回るため、耐パウダリング性およびめっきの外観が不芳であった。
【0072】
試料No.x6は、B含有量が0.0008%と本発明の範囲の上限を上回り、また結晶粒径が粒度番号で本発明の範囲の下限を下回るため、降伏強さが225MPaと過小になった。
【0073】
試料No.x7は、P含有量が0.045%と本発明の範囲を上回るため、表面品質および耐パウダリング性が低下した。
【0074】
さらに、試料No.x8は、N含有量が0.0040%と本発明の範囲の上限を上回るため、耐常温時効性を劣化し、塗装焼付硬化量が不芳になった。