(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態について説明する。以下説明は、図中に矢印で示す左右、前後、上下を使用する。
【0010】
図1〜
図3を参照し、ミシン1の構成を説明する。
図1に示すように、ミシン1は、支持部2、脚柱部3、アーム部4等を備える。支持部2はミシン1全体を支持する。脚柱部3は支持部2の後端部に設けられ、上方へ延びる。アーム部4は、脚柱部3の上端部から前方へ向けて、後述するシリンダベッド10に対向して延びる。アーム部4の前端部には頭部5が設けられる。
【0011】
支持部2は平面視略U字形状に形成される。支持部2は、一対の脚部21,22と基台部23を備える。一対の脚部21,22は夫々前後方向に延び、左右方向に並べて配置される。基台部23は、脚部21,22夫々の後部側で、脚部21と脚部22の間に配置される。基台部23は左右方向に延び、脚部21と脚部22を接続する。
【0012】
基台部23は、左右方向略中央に、前方へ延びる筒状のシリンダベッド10を備える。シリンダベッド10の上面には、布(図示略)が配置される。シリンダベッド10の内部には、釜機構(図示略)が設けられる。基台部23内からシリンダベッド10内に延びるように下軸(図示略)が設けられる。下軸は後述する主軸17によって回転駆動される。釜機構には、下軸を介し、後述するミシンモータ16の駆動力が伝達される。釜機構は、シリンダベッド10の先端部の内部に配置される釜(図示略)を回転駆動する。釜は下糸(図示略)が巻回されたボビン(図示略)を収容する。
【0013】
シリンダベッド10の先端部の上面には、平面視矩形状の針板11が設けられる。針板11は釜の上方に配置される。針板11には針穴12が形成される。針穴12には、後述する針棒30(
図2参照)の下端部に装着された縫針9が挿通される。縫針9の左方には、正面視略L字状の布押え足38(
図2,
図3参照)が設けられる。布押え足38は、針板11上に載置される布(図示略)を押える。布押え足38の下端部には、縫針9が挿通する穴38A(
図2参照)が形成される。
【0014】
図1に示すように、脚部21,22夫々の上面には、前後方向に延びる一対の案内溝24が形成される。一対の案内溝24は、キャリッジ25の前後方向への移動を案内する。キャリッジ25は左右方向に延び、一対の脚部21,22間に架け渡される。キャリッジ25は内部に移動機構(図示略)を備える。移動機構は、キャリッジ25の前側に配置されるホルダ26を左右方向へ移動させる。ホルダ26には、布を保持する刺繍枠(図示略)が装着される。ミシン1は、キャリッジ25の前後方向への移動(即ち、移動機構全体の前後方向への移動)と、移動機構によるホルダ26の左右方向への移動とによって、ホルダ26に装着された刺繍枠を前後及び左右方向に移動させる。
【0015】
脚柱部3の内部には、ミシンモータ16、ミシン1の制御部(図示略)等が設けられる。ミシンモータ16は、アーム部4内に設けられる主軸17を回転駆動する。主軸17と支持部2内の下軸は、タイミングベルト(図示略)で連結される。それ故、主軸17の回転は下軸に伝達され、主軸17と下軸が同期して回転する。
【0016】
主軸17は、アーム部4の内部に設けられ、前後方向に延びる。主軸17は、頭部5内部に設けられた後述する天秤機構20、針棒駆動機構40、布押え駆動機構60等を駆動する。アーム部4の上面には、糸立台7が設けられる。糸立台7は、複数(例えば4本)の糸立棒14を立設する。夫々の糸立棒14には、上糸15が巻回された複数(例えば4つ)の糸駒13の貫通穴が挿通される。糸立台7は、複数の糸駒13を載置できる。
【0017】
頭部5上部には、糸調子器18が設けられる。糸調子器18は、糸立台7から供給される上糸15に張力を付与する。頭部5の右側には、操作部6が設けられる。操作部6は、液晶ディスプレイ27、タッチパネル28、スタート/ストップスイッチ29等を備える。液晶ディスプレイ27には、例えば、ユーザが指示を入力するための操作画面等、各種情報が表示される。タッチパネル28は、ユーザからの指示を受け付ける。スタート/ストップスイッチ29は、縫製の開始又は停止を指示するためのスイッチである。
【0018】
図2〜
図7を参照し、頭部5の内部構成を説明する。頭部5の内部には、機枠5A、針棒フレーム31、針棒30、天秤機構20、針棒駆動機構40、針棒釈放機構50、布押え駆動機構60、駆動装置(図示略)等が設けられる。
【0019】
針棒フレーム31は、頭部5内の前側に上下方向に延設され、機枠5Aに固定される。針棒フレーム31は、上端部と下端部に、上支持部36及び下支持部37を備える。針棒30は、頭部5内の前側で上下方向に延び、針棒フレーム31の上支持部36及び下支持部37によって上下動可能に支持される。針棒30の上下方向の中間部、即ち上支持部36と下支持部37の間には、連結部材33が固定される。連結部材33は、後方へ向けて径方向外側に突出する連結ピン34を備える。連結部材33は、針棒釈放機構50の後述する伝達部材51と連結し、ミシンモータ16の駆動力を針棒30に伝達する。
【0020】
連結部材33の上端部には、例えばゴム製で環状のスペーサ35が固定される。スペーサ35は、針棒30が上下方向に移動可能な範囲における上死点に位置する場合に、機枠5Aに固定された当接部材61(
図3参照)に当接する。針棒30の上端にはネジ32が締結される。ネジ32の頭部の外径は、針棒30の外径よりも大きい。針棒30の外周面で、ネジ32の頭部座面と上支持部36との間の部分には、圧縮バネ(図示略)が外嵌めされる。圧縮バネは、ネジ32の頭部座面を上方に押圧するので、針棒30は上方へ付勢される。連結部材33と伝達部材51が連結していない場合、針棒30は、圧縮バネの付勢力により上方に移動し、上死点に位置する。針棒30の下端部は、頭部5の下端部から下方に延びる。針棒30の下端部には、縫針9が着脱可能に装着される。縫針9には、上糸15が挿通される目孔9A(
図2参照)が形成される。
【0021】
図4に示すように、天秤機構20は、天秤19、リンク部材200、引張ばね210等を備える。天秤19は、後方から前方に向けて上方が凸となる略円弧状に延びる。天秤19の後端部は、機枠5Aに設けられた支軸191によって回転可能に軸支される。それ故、天秤19の前端部は、支軸191を中心に上下方向に揺動可能である。天秤19の後端部には、側面視略U字状の把持部192が設けられる。リンク部材200は、側面視略L字状に形成され、軸受部201、第1リンク部202、第2リンク部203を備える。
【0022】
軸受部201は、リンク部材200の略中央部に設けられ、左右方向に延びる貫通穴(図示略)を有する略円筒状に形成される。軸受部201の貫通穴には、機枠5Aに固定されたホルダ212に支持される軸211が挿通され、回転可能に軸支される。第1リンク部202は、軸受部201から天秤19の後端部に向けて斜め上方に延びる。第1リンク部202の先端部に、作用部205を備える。作用部205には、天秤19の把持部192の内側に挿入されて係合するコロ(図示略)が回転可能に設けられる。第2リンク部203は、軸受部201から後方に対して斜め下方に延び、後端部に摺動部206を備える。摺動部206には、コロ(図示略)が回転可能に設けられる。摺動部206のコロは、主軸17に固定された天秤カム73の第3カム面73Aに当接する。なお、詳しくは後述するが、天秤カム73は、複合カム70の後端に形成される。
【0023】
引張ばね210は、リンク部材200の第1リンク部202の上端部に設けられたバネ固定部208と、機枠5Aに固定されたホルダ212に形成されたバネ固定部209との間に前後方向に掛け渡される。引張ばね210は、第1リンク部202を後方に常時付勢する。即ち、リンク部材200は、軸受部201を中心に右側面視時計回り方向に常時付勢される。それ故、第2リンク部203の摺動部206のコロは、天秤カム73の第3カム面73Aに常時当接する。
【0024】
ミシンモータ16の駆動で主軸17が回転すると、天秤カム73が回転する。天秤カム73の回転により、天秤カム73の第3カム面73Aの形状に応じて、第2リンク部203、即ちリンク部材200が揺動する。リンク部材200の揺動により、第1リンク部202の作用部205が把持部192を揺動させる。把持部192の揺動により、天秤19の先端(前端)は支軸191を中心に上下方向に揺動する。このように、天秤機構20は、主軸17の回転によって天秤19を上下動させる。また、天秤19は、針棒30と同期して上下動する。縫製時、針棒30は釜と協働し、縫針9の目孔9Aに通された上糸15を、釜が収容するボビンから引き出された下糸に絡める。天秤19は、下糸に絡んだ上糸15を針板11上に引き上げる。よって、上糸15と下糸が締まり、布上に縫目が形成される。
【0025】
図2,
図4に示すように、針棒駆動機構40は、主軸17を介して伝達されるミシンモータ16の駆動力を回転運動から上下運動に変換し、針棒30を上下に駆動する機構である。針棒駆動機構40は、基針棒41、駆動部材42、クランクロッド46、針棒クランク47等を備える。基針棒41は、上下方向に延びる略円柱状の棒材である。基針棒41は、針棒30の後側に設けられ、針棒30と平行に配置される。駆動部材42は、基針棒41に外嵌めされ、基針棒41に対して上下動可能且つ回動不能に設けられる。駆動部材42は、上端部43、下端部44、中間部45を有する。上端部43と下端部44は、夫々基針棒41に外嵌めされ、上下方向に間隙を空けて配置される。中間部45は、基針棒41から離れて設けられ、上端部43と下端部44に夫々接続する。上端部43と下端部44の間には、後述する針棒釈放機構50が設けられる。
【0026】
クランクロッド46は、長尺状に形成され、駆動部材42の下端部44と針棒クランク47を連結する。針棒クランク47は、主軸17の前端部に固定され、主軸17と一体的に回転する。クランクロッド46の一端部(上端部)は、針棒クランク47に回動可能に連結し、他端部(下端部)は、駆動部材42の下端部44と回動可能に連結する。それ故、主軸17及び針棒クランク47の回転運動は、クランクロッド46により、駆動部材42の下端部44の上下運動に変換されるので、駆動部材42は、基針棒41に沿って上下方向に往復移動する。針棒釈放機構50が針棒30への駆動力の伝達を接続する状態では、主軸17を介して針棒駆動機構40に伝達されるミシンモータ16の駆動力が、針棒30に伝達される。この場合、基針棒41に沿って上下方向に往復移動する駆動部材42に連動して、針棒釈放機構50と針棒30が上下方向に往復移動する。
【0027】
針棒釈放機構50は、針棒駆動機構40から針棒30へのミシンモータ16の駆動力の伝達を接続又は遮断する機構である。針棒釈放機構50は、伝達部材51及び巻きバネ55を備える。伝達部材51は、基針棒41に外嵌めされ、基針棒41の外周面に対して上下動可能且つ回動可能に設けられる。伝達部材51には、上係合突起52、下係合突起53、当接柱54(
図5,
図6参照)が設けられる。上係合突起52と下係合突起53は、伝達部材51の外周面から径方向外向きに突出し、上下方向に間隙を有する。
【0028】
図5に示すように、上係合突起52は、上面が左斜め下方に傾斜する斜面状に形成される。上係合突起52と下係合突起53の間には、針棒30の連結ピン34が係合する。当接柱54は、上下方向に延びる棒状に形成され、伝達部材51の外周面から径方向外向きに突出する部位に設けられる。当接柱54には、駆動装置(図示略)の第1ピン142が後側から当接する。伝達部材51は、第1ピン142によって当接柱54が前方へ押圧された場合(
図6中一点鎖線で示す。)、平面視反時計回りに回動する(
図6参照)。伝達部材51の上係合突起52と下係合突起53は、基針棒41の右斜め前方に移動する。この場合、上係合突起52及び下係合突起53と、針棒30の連結ピン34との係合が解除される。針棒駆動機構40から針棒30への駆動力の伝達が遮断されると、針棒30は、圧縮バネの付勢力により上方に移動して、上死点に位置する。
【0029】
巻きバネ55は、伝達部材51の上部に接続され、駆動部材42の上端部43に外嵌めされる。巻きバネ55は、駆動部材42に対し、伝達部材51を平面視時計回りに付勢する。伝達部材51の当接柱54が駆動装置(図示略)の第1ピン142に押圧されていない場合、巻きバネ55によって伝達部材51が回動する。上係合突起52と下係合突起53は、基針棒41の前方に移動する。即ち、上係合突起52と下係合突起53は、針棒30の連結ピン34に係合可能な位置に移動する。
【0030】
上記構成のミシン1が使用される場合、ミシン1の制御部は、ミシンモータ16を駆動し、針棒駆動機構40の駆動部材42を、基針棒41に沿って上方に移動させる。針棒釈放機構50の伝達部材51が駆動部材42によって上方に移動されると、上係合突起52は、針棒30の連結ピン34に対し、下方から当接する。連結ピン34は、斜面形成された上係合突起52の上面を押圧し、伝達部材51を平面視反時計回りに回動させる。伝達部材51がさらに上方に移動して上係合突起52が連結ピン34よりも上側に位置すると、上係合突起52及び下係合突起53は、巻きバネ55によって、基針棒41の前方に移動する。連結ピン34が上係合突起52と下係合突起53の間に挟まれ、針棒30の連結部材33は、針棒釈放機構50の伝達部材51と係合する。これにより、ミシン1は、針棒30と主軸17の間でミシンモータ16の駆動力の伝達が接続された接続状態となる。
【0031】
図2〜
図4,
図5を参照し、布押え駆動機構60の構成を説明する。布押え駆動機構60は、針棒30の上下動に同期して、布押え足38を上下動させる機構である。布押え駆動機構60は、押え部材111、押え抱き113、押えバネ114、複合カム70、二又部材80、駆動機構90等を備える。
図3に示すように、押え部材111は、側面視略L字状に形成され、その下端部には、環状部112が設けられる。環状部112の内側には、針棒30が上下方向に挿通されている。環状部112の外側部には、上述の布押え足38が下方に延びるように連結される。押え抱き113は、押え部材111の上端部にネジで固定される。押え抱き113は、上下方向に貫通する貫通穴(図示略)が形成される。貫通穴には針棒30が挿通される。また、押え抱き113の背面には、後方に突出する被当接部115(
図4参照)が設けられる。被当接部115は、針棒フレーム31に固定されたガイド板39に形成された上下方向に延びるガイド溝31A(
図2参照)に挿入される。それ故、押え抱き113及び押え部材111は、針棒30に対しては上下動可能且つ回動不能に設けられる。押えバネ114は、例えばコイルバネであり、押え抱き113の上端部において針棒30に装着される。押えバネ114の上端は、連結部材33の下部に当接する。それ故、押えバネ114は、針棒30によってガイドされ、押え抱き113を常時下方に付勢する。
【0032】
図10〜
図13を参照し、複合カム70の構造を説明する。複合カム70は、主軸17の前端側で且つ針棒クランク47の背面側に固定されている。複合カム70は、軸線方向の一端側から他端側に向かって順に、本体カム71、補助カム72、天秤カム73を備え、軸中心に沿って貫通する軸穴75を備える。複合カム70は、軸穴75に主軸17が挿通された状態で固定される。本体カム71は一般的な三角カムの形状の一部を変形させた形状をなす。これは、布押え足38が上下動する移動軌跡を、一般的な三角カムを用いる構成よりも、より好適な移動軌跡にする為である。なお、布押え足38の移動軌跡は、例えば、主軸17が1回転するときの所定角度毎の、針板11上面からの布押え足38の高さで表される。本体カム71は、外周面に第1カム面71Aを備える。
【0033】
補助カム72は、外周面に第2カム面72Aを備える。第2カム面72Aは、後述する二又部材80の内側に挟み込まれる距離を一定に維持する為のカム形状を備える。従来のミシンでは、一枚の三角カムのみを用いて布押え足を上下動させる構成のミシンもあるが、この場合、布押え足が上下動する移動軌跡は三角カムの形状に依存する。それ故、仮に移動軌跡を変更する為に、三角カムの形状を変形させると、三角カムの外径寸法が不均等になる。即ち、二又部材の内側に挟み込まれる距離が一定にならないため、二又部材の揺動運動が不安定になる。よって、一枚の三角カムでは、設計の自由度が制限されてしまう。そこで、本実施形態の複合カム70は、本体カム71に加えて補助カム72を備えるので、本体カム71のカム形状に応じて、二又部材80の内側に挟み込まれる距離を一定に保持できる。これにより、ミシン1は、移動軌跡の設計の自由度を損なわないようにできる。
【0034】
天秤カム73は、軸穴75と同軸上に設けられ、軸方向から見て略円形状に形成されている。天秤カム73は周知の端面カムであり、軸方向の後端側に対向する端面で形成された第3カム面73Aを備える。第3カム面73Aには、天秤機構20のリンク部材200の後端部に設けられた摺動部206のコロが当接して摺動する。天秤カム73は複合カム70に一体的に設けられているので、ミシン1は天秤機構20を小型化できる。
【0035】
図13を参照し、第1カム面71A及び第2カム面72Aの傾斜について説明する。本体カム71の第1カム面71Aは、主軸17の延設方向において後方から前方に下り傾斜する傾斜面であり、補助カム72側とは反対側に向かうほど主軸17側に近くなるように傾斜する傾斜面である。第1カム面71Aの傾斜角度は、例えば1°未満である。これに対し、補助カム72の第2カム面72Aは、第1カム面71Aとは逆に、主軸17の延設方向において前方から後方に下り傾斜する傾斜面であり、本体カム71側とは反対側に向かうほど主軸17側に近くなるように傾斜する傾斜面である。第2カム面72Aの傾斜角度も、例えば1°未満である。第1カム面71Aには、二又部材80の後述する本体側当接部811が当接する。第2カム面72Aには、二又部材80の後述する補助側当接部821が当接する。第1カム面71A及び第2カム面72Aを傾斜させたことによる作用効果は後述する。なお、
図13に示す第1カム面71Aと第2カム面72Aの傾斜角度は、説明の都合上、1°よりも大きな角度で誇張して示している。
【0036】
図2,
図7を参照し、二又部材80の構成を説明する。二又部材80は、本体部材81、補助部材82、引張ばね83等を備える。本体部材81は、正面視略L字状に形成されている。本体部材81は、略L字状に屈曲する略中央部位において枢支軸98によって回動可能に軸支されている。それ故、二又部材80は枢支軸98を中心に揺動可能である。枢支軸98は左右方向に延び、機枠5Aの左斜め前方部に設けられている。本体部材81は、本体側当接部811及び支持部812を備える。本体側当接部811は、枢支軸98から右斜め上方に延び、複合カム70に対向する側に接触面811Aを備える。接触面811Aは、複合カム70の本体カム71の第1カム面71Aと当接する。接触面811Aは、第1カム面71Aの傾斜面に密着するように、第1カム面71Aの傾斜方向と同一方向に傾斜する。支持部812は、枢支軸98から右斜め下方に延びる。支持部812の下端部は、後述する駆動機構90の押上リンク88の一端部に回動可能に連結される。
【0037】
補助部材82は、略直線状に形成され、本体部材81の本体側当接部811に対して、複合カム70を内側に挟むように配置されている。それ故、本体部材81及び補助部材82は、全体として二又状に形成される。補助部材82には、支軸85が前方に延びるように設けられる。支軸85は、本体部材81の支持部812に形成された前後方向に延びる貫通穴(図示略)に挿通され、止め輪(図示略)によって抜け止めされる。このように、補助部材82は、支軸85を中心に揺動可能に本体部材81に支持される。補助部材82は、補助側当接部821と支持部822を備える。補助側当接部821は、支軸85から左斜め上方に延び、複合カム70に対向する側に接触面821Aを備える。接触面821Aは、複合カム70の補助カム72の第2カム面72Aと当接する。接触面821Aは、第2カム面72Aの傾斜面に密着するように、第2カム面72Aの傾斜方向と同一方向に傾斜する。支持部822は、支軸85から左斜め下方に延びる。
【0038】
引張ばね83は、本体部材81の支持部812の下端部と、補助部材82の支持部822の下端部との間に掛け渡される。引張ばね83は、支持部822の下端部を、支持部812の下端部側に引っ張るように常時付勢する。即ち、引張ばね83は、支持部822の下端部を、複合カム70側とは反対側に常時付勢する。それ故、補助部材82は、支軸85を中心に、正面視反時計回り方向に回動する。補助部材82の補助側当接部821は、補助カム72の第2カム面72Aに常時当接する。これにより、二又部材80は複合カム70を確実に挟むことができる。
【0039】
ここで、引張ばね83を取り付ける位置について説明する。
図2,
図7に示すように、本実施形態では、二又部材80の複合カム70に接触する側の周囲は、機枠5A、クランクロッド46等の複数の他部材が配置されて狭くなっているので、引張ばね83を取り付けることが困難である。そこで、本実施形態は、上述のように、引張ばね83を、本体部材81の支持部812の下端部と、補助部材82の支持部822の下端部との間に掛け渡して取り付けている。これにより、ミシン1は、複合カム70に接触する側とは反対側であって、スペース的に余裕のある空間内に引張ばね83を配置できるので、ミシン1の頭部5の内部における限られたスペースの有効利用を図ることができる。
【0040】
図2,
図4,
図7を参照し、駆動機構90の構成を説明する。駆動機構90は、押上ロッド91及び昇降部92を備える。押上ロッド91は棒状に形成され、その一端部は、本体部材81の支持部812の下端部に回動可能に連結される。昇降部92は、円筒部93及び連結部94を備える。円筒部93は基針棒41の下端側に装着され、基針棒41に沿って昇降可能である。連結部94は、円筒部93の右側部に一体して設けられ、押上ロッド91の他端部と回動可能に連結される。
図4に示すように、円筒部93の外周面の前側部には、前方に略水平に突出する略L字状の当接部95が設けられる。当接部95の上面には、緩衝部材96が固定される。緩衝部材96は、樹脂又はゴム製の板状に形成される。緩衝部材96の上面には、押え抱き113の背面から後方に突出する被当接部115の下面が当接可能である。緩衝部材96は、当接部95の上面と被当接部115の下面とが当接する際の衝撃を緩和する。
【0041】
上記の通り、針棒30に装着された押えバネ114は、押え抱き113を常時下方に付勢する。これにより、押え抱き113に設けられた被当接部115は当接部95を下方に付勢するので、昇降部92及び押上ロッド91を介して、本体部材81の支持部822の下端部は下方に付勢される。それ故、二又部材80は、枢支軸98を支点として、複合カム70を時計回り方向に常時圧迫して付勢する。
【0042】
図4,
図7〜
図9を参照し、布押え駆動機構60の動作を説明する。ミシンモータ16が駆動されると、主軸17が回転する。主軸17の回転に伴い、複合カム70が回転する。本体カム71の第1カム面71Aには、二又部材80の本体側当接部811の接触面811Aが摺動する。補助カム72の第2カム面72Aには、二又部材80の補助側当接部821の接触面821Aが摺動する。これにより、二又部材80は枢支軸98を支点として揺動する。
【0043】
図7は、主軸角度が0°のときの二又部材80の位置を示す。この状態から主軸17が時計回り方向に回転し、主軸角度が120°になると、
図8に示すように、二又部材80は枢支軸98を中心に、時計回り方向に揺動する。このとき、本体部材81の支持部812の下端部は下方に移動するので、押上ロッド91を介して昇降部92を押し下げる。すると、それまで押え抱き113の被当接部115を下方から押し上げていた当接部95が下方に移動するので、押え抱き113は、押えバネ114の付勢力で押し下げられる。これにより、押え部材111及び布押え足38は下方に移動する。
【0044】
主軸17がさらに時計回り方向に回転し、針棒30が下死点に達した後、二又部材80は揺動方向を逆転し、反時計回り方向に揺動を開始する。
図9に示すように、主軸角度が330°では、本体部材81の支持部812の下端部は上方に移動するので、押上ロッド91を介して昇降部92を引き上げる。昇降部92の当接部95は、押え抱き113の被当接部115を、押えバネ114の付勢力に抗して押し上げる。これにより、押え抱き113は上方に移動するので、押え部材111及び布押え足38は上方に移動する。布押え駆動機構60は、上述の動作を繰り返すことにより、布押え足38の上下方向の往復運動を行うことができる。なお、本実施形態では、押え部材113及び布押え足38は、例えば上下ストローク10〜12mmの往復運動をする。従って、ミシン1は、針棒30の上下運動に同期して、布押え足38の上下方向の往復運動を行うことができる。
【0045】
図13を参照し、複合カム70の第1カム面71Aと第2カム面72Aを傾斜させたことによる作用効果を説明する。上記の通り、本体カム71の第1カム面71Aには、二又部材80の本体側当接部811の接触面811Aが当接する。他方、補助カム72の第2カム面72Aには、二又部材80の補助側当接部821の接触面821Aが当接する。即ち、複合カム70に対して、本体側当接部811の接触面811Aが当接する位置と、補助側当接部821の接触面821Aが当接する位置とは、主軸17の延設方向に互いにずれている。それ故、二又部材80には、二又部材80を枢支する枢支軸98を中心とする揺動中心線と直交する方向を中心Pとする回転モーメントQが生じ易い。仮に回転モーメントQが大きくなると、二又部材80が主軸17の延設方向に対して傾いてしまうので、枢支軸98に対して捩じる方向の負荷がかかる。この場合、二又部材80の揺動動作が不安定になる可能性がある。
【0046】
そこで、本実施形態の複合カム70は、第1カム面71Aを、主軸17の後方から前方に下り傾斜する傾斜面とし、第2カム面72Aを、第1カム面71Aとは逆に、主軸17の前方から後方に下り傾斜する傾斜面としている。即ち、本実施形態は、第1カム面71Aと第2カム面72Aを互いに逆方向に傾斜させている。これにより、第1カム面71Aに対して本体側当接部811が当接する力の方向F1と、第2カム面72Aに対して補助側当接部821が当接する力の方向F2とを、互いに対向するように近づけることができる。そして、二又部材80に付与される方向F1とF2は互いに打ち消し合うように作用し、ミシン1は、二又部材80に生じる回転モーメントQを効果的に軽減できる。これにより、枢支軸98にかかる捩じる方向の負荷が軽減され、二又部材80の揺動動作が安定化するので、ミシン1は布押え足38を良好に駆動できる。
【0047】
また、本体側当接部811の接触面811Aは、第1カム面71Aの傾斜方向と同一方向に傾斜し、補助側当接部821の接触面821Aは、第2カム面72Aの傾斜方向と同一方向に傾斜する。これにより、接触面811A、接触面821Aは、第1カム面71A及び第2カム面72Aに対して均一に接触できる。よって、二又部材80は安定して揺動できる。また、接触面811A、接触面821Aが、第1カム面71A及び第2カム面72Aに対して均一に接触するので、第1カム面71A及び第2カム面72Aの摩耗を軽減できる。
【0048】
上記説明において、複合カム70が本発明の「カム部材」の一例である。本体カム71が本発明の「第1カム」の一例である。補助カム72が本発明の「第2カム」の一例である。駆動機構90が本発明の「押え機構」の一例である。支軸85が本発明の「支軸」の一例である。本体部材81の本体側当接部811の接触面811Aが本発明の「本体側接触面」の一例である。補助部材82の補助側当接部821の接触面821Aが本発明の「補助側接触面」の一例である。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のミシン1は、主軸17、複合カム70、二又部材80、引張ばね83、布押え駆動機構60を備える。主軸17は、ミシンモータ16で回転する。複合カム70は、本体カム71及び補助カム72を備え、主軸17に固定されて一体的に回転する。本体カム71及び補助カム72は、主軸17の延設方向に並設される。本体カム71の外周には、第1カム面71Aが形成される。補助カム72の外周には、第2カム面72Aが形成される。二又部材80は、ミシン1の機枠5Aに固定された枢支軸98により揺動可能に枢支される。二又部材80は、本体部材81と、該本体部材81に揺動可能に支持された補助部材82を備える。枢支軸98は、主軸17と平行に設けられる。二又部材80は、これら本体部材81と補助部材82とで複合カム70を挟むように配置され、第1カム面71A及び第2カム面72Aに夫々接触する。引張ばね83は、補助部材82を複合カム70を挟む方向に常時付勢する。布押え駆動機構60は、複合カム70の回転による二又部材80の揺動により、布押え足38を駆動する。
【0050】
上記構成を備えるミシン1において、複合カム70の第1カム面71A及び第2カム面72Aは、主軸17の延設方向に対して傾斜する。これにより、ミシン1は、本体部材81が複合カム70に接触する方向と、補助部材82が複合カム70に接触する方向とを、互いに対向するように近づけることができるので、二又部材80に生じる回転モーメントQを軽減できる。これにより、枢支軸98にかかる捩じる方向の負荷が軽減され、二又部材80の揺動動作が安定化するので、ミシン1は布押え足38を良好に駆動できる。
【0051】
また、上記実施形態では、第1カム面71Aには、二又部材80の本体部材81の接触面811Aが接触し、第2カム面72Aには、二又部材80の補助部材82の接触面821Aが接触する。接触面811Aは、第1カム面71Aの傾斜方向と同一方向に傾斜し、接触面821Aは、第2カム面72Aの傾斜方向と同一方向に傾斜する。これにより、接触面811A,821Aは、第1カム面71A及び第2カム面72Aに対して均一に接触できるので、二又部材80は安定して揺動できる。また、第1カム面71A及び第2カム面72Aの摩耗を軽減できる。
【0052】
また、上記実施形態では、第1カム面71Aは、補助カム72側とは反対側に向かうほど主軸17側に近くなるように傾斜し、第2カム面72Aは、本体カム71側とは反対側に向かうほど主軸17側に近くなるように傾斜する。これにより、本体部材81が複合カム70に接触する方向と、補助部材82が複合カム70に接触する方向とを互いに対向するように近づけることができるので、二又部材80に生じる回転モーメントQを抑制できる。
【0053】
また、上記実施形態では、引張ばね83は、補助部材82を揺動可能に支持する支軸85に対して、複合カム70に接触する補助側当接部821とは反対側の支持部822の下端部に接続され、当該下端部を複合カム70側とは反対側に常時付勢する。これにより、ミシン1は、二又部材80のうち複合カム70に接触する側とは反対側であってスペース的に有利な位置に引張ばね83を配置できる。
【0054】
また、上記実施形態では、複合カム70には、天秤19を駆動する端面カムである天秤カム73が一体的に設けられているので、天秤機構20を小型化できる。
【0055】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。本実施形態のミシン1は、一本の針棒を有する刺繍ミシンであるが、例えば、複数の針棒を有する所謂多針の刺繍ミシンであってもよい。
【0056】
上記実施形態の複合カム70は種々の変型が可能である。例えば、第1カム面71Aと第2カム面72Aの傾斜する方向を変えてもよい。例えば、
図14に示す複合カム170は、第1カム171、第2カム172、天秤カム73を備える。上記実施形態とは逆に、第1カム171の第1カム面171Aは、第2カム172側とは反対側に向かうほど主軸17側から離れるように傾斜する。第2カム172の第2カム面172Aは、第1カム171側とは反対側に向かうほど主軸17側から離れるように傾斜する。なお、
図14に示す第1カム面171Aと第2カム面172Aの傾斜角度は、説明の都合上、実際よりも大きな角度で誇張して示している。後述する
図15、
図16のカム面についても同様である。
【0057】
この構成の場合、引張ばね83の付勢力によって、第1カム面171Aに当接する本体部材81の本体側当接部811は、第1カム面171Aの傾斜面に沿って、第2カム面172A側に移動する方向の分力が発生する。他方、第2カム面172Aに当接する補助部材82の補助側当接部821は、第2カム面172Aの傾斜面に沿って、第1カム面171A側に移動する方向の分力が発生する。これにより、本体側当接部811及び補助側当接部821は、主軸17の延設方向において互いに近づくように作用するので、本体部材81が複合カム170に接触する方向と、補助部材82が複合カム170に接触する方向とを、互いに対向するように近づけることができる。従って、ミシン1は、引張ばね83の付勢力と、第1カム面171A及び第2カム面172Aの傾斜角度とに依存するが、複合カム170を用いることでも、二又部材80に生じる回転モーメントQを軽減できる。
【0058】
また、上記実施形態の複合カム70と、変形例である複合カム170は、第1カム面71A(171A)及び第2カム面72A(172A)の両方を主軸17の延設方向に対して傾斜させているが、何れか一方のみを傾斜させてもよい。
【0059】
例えば、
図15に示す複合カム270は、第1カム271、第2カム272、複合カム873を備える。第1カム271の第1カム面271Aは、主軸17の延設方向に対して平行であるが、第2カム272の第2カム面272Aは、第1カム271側とは反対側に向かうほど主軸17側に近くなるように傾斜する。
【0060】
図16に示す複合カム370は、第1カム371、第2カム372、複合カム873を備える。第2カム272の第2カム面272Aは、主軸17の延設方向に対して平行であるが、第1カム371の第1カム面371Aは、第2カム372側とは反対側に向かうほど主軸17側に近くなるように傾斜する。これら複合カム270,370を用いることでも、上記実施形態と同様に、二又部材80に生じる回転モーメントQを軽減できる。
【0061】
なお、複合カム270の第2カム面272Aの傾斜する方向は、第1カム271側とは反対側に向かうほど、主軸17側から離れるように傾斜させてもよい。また、複合カム370の第1カム面371Aの傾斜する方向は、第2カム372側とは反対側に向かうほど、主軸17側から離れるように傾斜させてもよい。
【0062】
また、上記実施形態の複合カム70には、天秤カム73が一体的に設けられているが、天秤カム73は、複合カム70とは別体にしてもよい。
【0063】
また、
図10,
図11に示す本体カム71の形状は、上記実施形態に限定されず、目標とする布押え足38の移動軌跡に合わせて適宜変形すればよい。本体カム71の形状に合わせて、補助カム72の形状を変形すればよい。