(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第一実施形態]
以下、本発明の係る第一実施形態の波長可変干渉フィルターに関して説明する。
[波長可変干渉フィルターの構成]
図1は、第一実施形態に係る波長可変干渉フィルター5の概略構成を示す平面図である。
図2は、
図1における波長可変干渉フィルター5をA−A線で切断した際の断面図である。
波長可変干渉フィルター5は、
図1及び
図2に示すように、透光性の固定基板51及び可動基板52を備えている。これらの固定基板51及び可動基板52は、それぞれ例えば、ソーダガラス、結晶性ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、カリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等の各種ガラスや、水晶等により形成されている。そして、これらの固定基板51及び可動基板52は、例えばシロキサンを主成分とするプラズマ重合膜等により構成された接合膜53により接合されることで、一体的に構成されている。
【0019】
固定基板51の可動基板52に対向する対向面には、本発明における第二反射膜である固定反射膜54が設けられ、可動基板52の固定基板51に対向する対向面には、本発明における第一反射膜である可動反射膜55が設けられている。これらの固定反射膜54及び可動反射膜55は、ギャップGを介して対向配置されている。
また、波長可変干渉フィルター5には、ギャップGの寸法(ギャップ寸法)を調整(変更)するのに用いられる、本発明のギャップ変更部である静電アクチュエーター56が設けられている。この静電アクチュエーター56は、固定基板51に設けられた固定電極561と、可動基板52に設けられた可動電極562とにより構成される。
なお、以降の説明に当たり、固定基板51又は可動基板52の基板厚み方向から見た平面視、つまり、固定反射膜54、可動反射膜55の膜厚方向から波長可変干渉フィルター5を見た平面視を、フィルター平面視と称する。また、本実施形態では、フィルター平面視において、固定反射膜54の中心点及び可動反射膜55の中心点は、一致し、平面視におけるこれらの反射膜54,55の中心点をOで示す。
【0020】
(固定基板51の構成)
固定基板51は、
図2に示すように、例えばエッチング等により形成された電極配置溝511および反射膜設置部512を備える。また、固定基板51の一端側(
図1における辺C1−C2)は、可動基板52の基板端縁(
図1における辺C5−C6)よりも外側に突出しており、第一端子取出部514を構成している。
【0021】
電極配置溝511は、フィルター平面視で、固定基板51のフィルター中心点Oを中心とした環状に形成されている。反射膜設置部512は、フィルター平面視において、電極配置溝511の中心部から可動基板52側に突出して形成されている。この電極配置溝511の溝底面には、静電アクチュエーター56の固定電極561が設けられている。また、反射膜設置部512の突出先端面は、固定反射膜54が設けられている。
また、固定基板51には、電極配置溝511から、固定基板51の外周縁に向かって延出する電極引出溝(図示略)が設けられている。
【0022】
固定電極561は、例えば円弧状(略C字状)に形成されており、
図1に示すように、辺C1−C2に近接する一部にC字開口部が設けられる。また、固定電極561上に、可動電極562との間の絶縁性を確保するための絶縁膜が積層される構成としてもよい。
そして、固定電極561は、電極引出溝に沿って第一端子取出部514まで延出する固定引出電極563を備えている。
【0023】
反射膜設置部512は、
図2に示すように、電極配置溝511の中心部から可動基板52側に突出している。
この反射膜設置部512の突出先端面には、固定反射膜54が設けられる。
図3は、固定反射膜54及び可動反射膜の55の膜構成を示す概略図である。
この固定反射膜54は、
図3に示すように、高屈折層54A(例えばSi)と低屈折層54B(例えばSiO
2)とを交互に積層した誘電体多層膜により構成されている。このような誘電体多層膜では、各高屈折層及び各低屈折層の層厚寸法により、所望の反射特性を有する光学膜に形成することができる。
なお、固定反射膜54の光学特性(反射特性)についての詳細な説明については、後述する。
【0024】
また、固定反射膜54の可動基板52側の表層には、例えばITO等の電極材料により導電性膜54Cが積層し、ITOの膜厚tはt=30nmとしている。この導電性膜としては、広波長域に対して高反射率特性を有する、例えばAg合金等の反射膜を用いてもよい。
【0025】
そして、固定基板51には、
図1に示すように、固定反射膜54(導電性膜54C)の外周縁に接続され、固定電極561のC字開口部を通り、第一端子取出部514に向かって延出する第一検出電極541が設けられている。この第一検出電極541は、固定反射膜54の形成時に、同時に成膜されることで形成されている。
【0026】
(可動基板の構成)
可動基板52は、本発明における基板を構成し、静電アクチュエーター56により静電引力を作用させた際に、可動基板52の一部(可動部521)が固定基板51側に撓むことにより、固定反射膜54及び可動反射膜55の間のギャップ寸法が変更される。
この可動基板52は、
図1に示すようなフィルター平面視において、フィルター中心点Oを中心とした例えば円形状の可動部521と、可動部521と同軸であり可動部521を保持する保持部522と、保持部522の外側に設けられた基板外周部525と、を備えている。
また、可動基板52には、
図1に示すように、一端側(
図1における辺C7−C8)は、固定基板51の基板端縁(
図1における辺C3−C4)よりも外側に突出しており、第二端子取出部524を構成している。
【0027】
可動部521は、
図2に示すように、保持部522よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、可動基板52の厚み寸法と同一寸法に形成されている。この可動部521は、フィルター平面視において、少なくとも反射膜設置部512の外周縁の径寸法よりも大きい径寸法に形成されている。そして、この可動部521には、可動反射膜55、及び可動電極562が設けられている。
【0028】
可動電極562は、フィルター平面視において、可動反射膜55の外周側に設けられ、固定電極561に対してギャップを介して対向配置されている。この可動電極562は、円弧状(略C字状)に形成されており、
図1に示すように、辺C7−C8に近接する一部にC字開口部が設けられている。また、固定電極561と同様に、可動電極562上に絶縁膜が積層される構成としてもよい。
ここで、
図1に示すように、フィルター平面視において、可動電極562と固定電極561とが重なる円弧領域(
図3において右上がり斜線部で示される領域)により、静電アクチュエーター56が構成されている。この静電アクチュエーター56は、
図1に示すように、フィルター平面視において、フィルター中心点Oに対して互いに点対称となる形状及び配置となる。したがって、静電アクチュエーター56に電圧を印加した際に発生する静電引力も、フィルター中心点Oに対して点対称となる位置に作用し、バランスよく可動部521を固定基板51側に変位させることが可能となる。
【0029】
また、
図1に示すように、可動電極562は、第二端子取出部524に向かって延出する可動引出電極564が設けられている。この可動引出電極564は、固定基板51に設けられた電極引出溝に対向する位置に沿って配置される。
【0030】
可動反射膜55は、可動部521の固定基板51に対向する面の中心部に設けられ、固定反射膜54とギャップGを介して対向する。この可動反射膜55は、
図3に示すように、高屈折層55A(例えばSi)と低屈折層55B(例えばSiO
2)と積層した誘電体多層膜を用いることができる。
なお、可動反射膜55の光学特性(反射特性)についての詳細な説明は後述する。
【0031】
また、可動反射膜55の表層には、固定反射膜54と同様、例えばITO等の電極材料により構成される導電性膜55Cが設けられている。
そして、可動基板52には、
図1に示すように、可動反射膜55(導電性膜55C)の外周縁に接続され、可動電極562のC字開口部を通り、第二端子取出部524に向かって延出する第二検出電極551が設けられている。
【0032】
なお、本実施形態では、
図2に示すように、電極561,562間のギャップがギャップGよりも大きい例を示すがこれに限定されない。例えば、測定対象光として赤外光を対象とする場合等、測定対象波長域によっては、ギャップGが、電極561,562間のギャップよりも大きくなる構成としてもよい。
【0033】
保持部522は、可動部521の周囲を囲うダイヤフラムであり、可動部521よりも厚み寸法が小さく形成されている。このような保持部522は、可動部521よりも撓みやすく、僅かな静電引力により、可動部521を固定基板51側に変位させることが可能となる。この際、可動部521が保持部522よりも厚み寸法が大きく、剛性が大きくなるため、保持部522が静電引力により固定基板51側に引っ張られた場合でも、可動部521の形状変化が抑制される。したがって、可動部521に設けられた可動反射膜55の撓みも発生しにくく、固定反射膜54及び可動反射膜55を常に平行状態に維持することが可能となる。
なお、本実施形態では、ダイヤフラム状の保持部522を例示するが、これに限定されず、例えば、フィルター中心点Oを中心として、等角度間隔で配置された梁状の保持部が設けられる構成などとしてもよい。
【0034】
基板外周部525は、フィルター平面視において保持部522の外側に設けられる。基板外周部525の固定基板51に対向する面は、接合膜53を介して固定基板51に接合される。
【0035】
上記のような波長可変干渉フィルター5では、固定引出電極563及び可動引出電極564から、静電アクチュエーター56を構成する固定電極561及び可動電極562に駆動電極を印加することで、固定反射膜54及び可動反射膜55の間(ギャップG)のギャップ寸法を変更することが可能となる。この際、第一検出電極541及び第二検出電極551を介して、固定反射膜54(導電性膜54C)及び可動反射膜55(導電性膜55C)間に高周波電圧を印加し、反射膜54,55間の静電容量を電圧値に変換して測定することができる。このような構成では、測定された静電容量に基づいて、静電アクチュエーター56に印加する駆動電圧をフィードバック制御することで、ギャップGのギャップ寸法をより精度よく制御することが可能となる。
【0036】
[固定反射膜54及び可動反射膜55の光学特性(反射特性)]
ところで、上記のような波長可変干渉フィルター5では、固定反射膜54及び可動反射膜55の間(ギャップG)のギャップ寸法により、透過光の波長が定まる。従って、波長可変干渉フィルター5から所望の波長の光を出射させるためには、ギャップGのギャップ寸法を高精度に制御する必要がある。
【0037】
ここで、本実施形態では、上記のように、反射膜54,55間の静電容量を測定し、静電アクチュエーター56に印加する駆動電圧をフィードバック制御することが可能となる。しかしながら、反射膜54,55間の静電容量の測定では、測定誤差(測定分解能)によって、必ずしも同じ電圧値が出力されるとは限らない。例えば、ギャップ寸法が一定値の場合でも、静電容量の測定値(電圧値)にばらつきが生じる。
このような測定誤差が生じると、フィードバック制御により制御される静電アクチュエーター56への印加電圧が測定誤差に応じて変化するため、波長可変干渉フィルター5から透過される透過光の波長も当該測定誤差の影響を受けて変動する。
ここで、ギャップGのギャップ寸法をdとし、反射膜54,55間の静電容量をC、反射膜54,55の面積をS、比誘電率をε
0とすると、ギャップ寸法dと静電容量Cは、下記式(1)の関係が成り立つ。
【0039】
従って、反射膜54,55間の静電容量の測定誤差をΔCとし、測定誤差ΔCによって生じるギャップ寸法の変動量をΔdとすると、式(1)より下記式(2)が導ける。
【0041】
また、式(2)において、静電容量Cが測定誤差ΔCよりも十分に大きい場合、下記式(3)が導ける。
【0043】
式(3)に示すように、ギャップ寸法の変動量Δdを抑制するためには、ギャップ寸法dを小さくする、若しくは、静電容量Cを大きくすることが挙げられる。
ここで、静電容量Cを大きくすることで、測定誤差に起因するギャップ寸法dのばらつきを抑制してもよい。ただし、静電容量Cを大きくするためには、反射膜54,55の面積Sを大きくする必要があり、この場合、波長可変干渉フィルター5の平面サイズを大きくする必要がある。また、反射膜54,55の面積Sを大きくすると、反射膜54,55が撓みやすくなり、この点で、波長可変干渉フィルターの分解能が低下するおそれもある。
【0044】
従って、ギャップ寸法dを制御することで、ギャップ寸法dのばらつきを抑制することが好ましい。ここで、
図4に、反射膜54,55間のギャップ寸法と、フィードバック時におけるギャップ寸法のばらつきの関係(実測値)を示す。
図4及び式(3)から、反射膜54,55間のギャップ寸法を小さくすることで、ギャップ寸法のばらつきを小さくできることが確認できる。
【0045】
ところで、本実施形態の固定反射膜54及び可動反射膜55の反射特性は、波長可変干渉フィルター5から出射(透過)させる光の波長域(対象波長域)に基づいて設定される。すなわち、波長可変干渉フィルター5は、入射光から、対象波長域に含まれる複数波長の光を分光して透過させる。なお、この対象波長域は、波長可変干渉フィルター5を適用する装置(例えば分光装置等)に応じて適宜設定される。
よって、波長可変干渉フィルター5には、対象波長域に含まれる各波長の光を高い分解能で(半値幅が狭くなるように)出射させるような分光特性を有することが求められる。このような分光特性を決定する1つの要素として、固定反射膜54及び可動反射膜55の光学特性(反射特性)が挙げられる。
【0046】
ここで、波長可変干渉フィルター5により分光させる光の対象波長域を1100nmから1200nmとし、ギャップ寸法を走査して例えば10nm間隔となる各波長の光を出射させるケースを例示して、固定反射膜54及び可動反射膜55の反射特性について説明する。
図5は、可動反射膜55の反射特性におけるピーク中心波長(第一中心波長λ1)と、固定反射膜54の反射特性におけるピーク中心波長(第二中心波長λ2)との組み合わせに対し、波長可変干渉フィルター5から対象波長域の最
短波長(=1100nm)の光をピーク波長として透過させるために必要な反射膜54,55間のギャップ寸法(最小ギャップ寸法)を示す図である。
図6は、第一中心波長λ1と、第二中心波長λ2との組み合わせに対し、波長可変干渉フィルター5から対象波長域における最
長波長(=1200nm)の光をピーク波長として透過させるために必要な反射膜54,55間のギャップ寸法(最大ギャップ寸法)を示す図である。
図7は、第一中心波長λ1と、第二中心波長λ2との組み合わせに対し、波長可変干渉フィルター5を透過する透過光の半値幅の最小値を示す図である。
図8は、第一中心波長λ1と、第二中心波長λ2との組み合わせに対し、波長可変干渉フィルター5を透過する透過光の半値幅の最大値を示す図である。
図9は、第一中心波長λ1と、第二中心波長λ2との組み合わせに対し、波長可変干渉フィルター5を透過する透過光の透過率の最小値を示す図である。
図10は、第一中心波長λ1と、第二中心波長λ2との組み合わせに対し、波長可変干渉フィルター5を透過する透過光の透過率の最大値を示す図である。
図11は、第一中心波長λ1と、第二中心波長λ2との組み合わせに対し、対象波長域に対して波長走査を行う場合の駆動量を示す図である。すなわち、最大ギャップと最小ギャップの差である。
【0047】
ここで、可動反射膜55の反射特性のピーク中心波長である第一中心波長をλ1と、固定反射膜54の反射特性のピーク中心波長である第二中心波長をλ2とした際に、波長可変干渉フィルター5から第一波長λαの光を出射させる際のギャップGのギャップ寸法をdα(λ1,λ2)とする。
波長可変干渉フィルター5から対象波長域に含まれる任意の波長の光を出射させる際に、同じ次数で出射させる場合、対象波長域における最
短波長λs(=1100nm)の光を出射させる際に、反射膜54,55間のギャップ寸法が最小ギャップ(ds(λ1,λ2))となる。一方、対象波長域における最
長波長λl(=1200nm)の光を出射させる際に、反射膜54,55間のギャップ寸法が最大ギャップ(dl(λ1,λ2))となる。
【0048】
図5に示すように、対象波長域における最
短波長λs(=1100nm)の光を出射させる場合、仮に第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2を測定中心波長λ0に設定し、波長可変干渉フィルター5から対象波長域における最
短波長λsの光を透過させる場合の、ギャップGのギャップ寸法(最小ギャップds(λ0,λ0))は、314.4nmとなる。
一方、第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2の組合せ(λ1,λ2)を(1050,1350)、(1150,1250)、(1150,1350)、(1250,1250)、(1250,1350)、(1350,1350)(単位はnm)とした場合、いずれも最小ギャップds(λ1,λ2)は、ds(λ0,λ0)よりも小さくなる。
【0049】
また、上述したように、波長可変干渉フィルター5の透過光の透過波長と、ギャップ寸法とは比例するため、対象波長域の最
長波長λl(=1200nm)の光を透過させる場合も同様である。すなわち、
図6に示すように、仮に第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2を測定中心波長λ0に設定し、波長可変干渉フィルター5から対象波長域の最
長波長λlの光を透過させる際のギャップ寸法(最大ギャップdl(λ0,λ0))は、469.8nmである。上記の組合せ(λ1,λ2)=(1050,1350)、(1150,1250)、(1150,1350)、(1250,1250)、(1250,1350)、(1350,1350)の場合、いずれも最大ギャップdl(λ1,λ2)は、dl(λ0,λ0)よりも小さくなる。
【0050】
一方、上記の組合せ(λ1,λ2)=(1050,1350)、(1150,1250)、(1150,1350)、(1250,1250)、(1250,1350)、(1350,1350)において、半値幅及び透過率を検証する。波長可変干渉フィルター5における各反射膜54,55の透過率が大きい場合、入射光の一部が、そのまま波長可変干渉フィルター5を透過するため、分解能が低下する(半値幅が小さくなる)。
仮に第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2を測定中心波長λ0に設定する際の透過率は、
図9及び
図10に示すように、最小値で0.53、最大値で、0.58となり、半値幅は、
図7及び
図8に示すように、最小値で6.0nm、最大値で7.8nmとなる。
また、対象波長域の各波長を10nm間隔で走査させる場合、半値幅も10nm未満に設定することが好ましい。第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2を測定中心波長λ0に設定する場合は、上述のように、半値幅が10nm未満となり、波長可変干渉フィルター5において必要とされる分解能を十分満たしていると判断できる。
一方、上記組合せ(λ1,λ2)では、
図7から
図10に示すように、(λ1,λ2)=(1350,1350)の場合、透過率の最大値が大きく、半値幅の最大値が10nmよりも大きくなる。したがって、上記の組合せ(λ1,λ2)のうち、(1050,1350)、(1150,1250)、(1150,1350)、(1250,1250)、(1250,1350)の組合せが好ましいと判断できる。
【0051】
以上より、波長可変干渉フィルター5における分解能の低下による測定精度の低下を抑制し、かつ、静電アクチュエーター56をフィードバック制御した際の駆動再現性を最も向上させることができる組合せ(λ1,λ2)は、(1250,1350)と判断できる。
この場合、
図11に示すように、反射膜54,55の間のギャップ寸法を、最大ギャップdlから最小ギャップdsまで駆動させた際の駆動量も、上記組合せ(λ1,λ2)のうちで最小となる。したがって反射膜54,55の間のギャップ寸法を制御する際の駆動電圧の変更量も少なくてよく、ギャップ変更時における可動部521の振動も抑制される。可動部521の振動を抑制することで、反射膜54,55の間のギャップ寸法が所望の目標寸法となるまでの時間も短縮される。すなわち、波長可変干渉フィルター5が目標波長の光が透過可能な状態となるまでの待機時間も短くできる。
なお、本実施形態では、λ1<λ2となっている。反射特性の中心波長をλとした誘電体多層膜を形成する場合、各層の層厚aは、a=λ/4n(nは各層の屈折率)とすればよい。したがって、λ1<λ2の場合、可動反射膜55の膜厚寸法は、固定反射膜54の膜厚寸法よりも小さくなる。本実施形態では、可動基板52は、可動部521を固定基板51側に撓ませる構造であり、固定基板51よりも、膜が形成された際の膜応力の影響を強く受ける。よって、上記のように、λ1<λ2とすることで、例えばλ1=1350nm、λ2=1250nmとした場合に比べて、可動基板52が受ける膜応力の影響を抑制でき、これによる基板の撓みを抑制することが可能となる。
【0052】
図12は、第一中心波長λ1と、第二中心波長λ2とを同一値とした場合における、波長可変干渉フィルター5から対象波長域の最
短波長(=1100nm)の光をピーク波長として透過させるために必要な反射膜54,55間のギャップ寸法(最小ギャップ寸法)を示す図である。
本発明においては、固定反射膜54及び可動反射膜55の反射特性におけるピーク中心波長を同じ波長に設定してもよい。
図12に示すように、ピーク中心波長を大きくする程、最小ギャップds(λ1,λ2)も小さくなる。
なお、この場合においてもλ1=λ2=1350nmとすると、対象波長域を10nm間隔で走査する際に、半値幅が走査間隔を超える。よって、λ1=λ2=1250nmと設定することが好ましい。また、例えば、走査間隔を20nm等にする場合では、例えばλ1=λ2=1350nmに設定してもよく、より大きいピーク中心波長が設定されていてもよい。
【0053】
[波長可変干渉フィルターの設計方法及び製造方法]
次に、上記のような波長可変干渉フィルターの設計方法及び製造方法について説明する。
(設計方法)
波長可変干渉フィルター5の各反射膜54,55を設計するためには、例えば設計装置を用いて、フィルター特性のシミュレーション処理を実施し、各反射膜54,55の各層の寸法を設計することが好ましい。
この設計装置は、例えば
図13に示すように、入力部101、表示部102、記憶部103、及び演算部104等を備えた一般的な汎用コンピューターを用いることができる。
入力部101は、例えばユーザーの入力操作に応じた操作信号を演算部104に入力する。
表示部102は、演算部104の制御の下、画像を表示させる。
記憶部103は、波長可変干渉フィルター5を設計するための各種データや、各種プログラムを記憶する。
演算部104は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算回路や、メモリー等の記憶回路等により構成され、記憶部103に記憶された各種プログラムを読み込み実行する。
【0054】
図14は、波長可変干渉フィルターの設計方法を示すフローチャートである。
波長可変干渉フィルター5を設計するためには、まず、波長可変干渉フィルター5において必要とされるフィルター条件を取得する(ステップS1)。このフィルター条件は、例えば入力部101から入力される。フィルター条件としては、波長可変干渉フィルター5において分光させたい光の対象波長域、波長走査をさせる際の走査間隔等を含む。
【0055】
この後、演算部104は、対象波長域における測定中心波長λ0を中心とした所定の波長範囲内において、第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2の組合せ(λ1,λ2)を設定する。そして、これらの組合せ(λ1,λ2)のそれぞれに対して、対象波長域の最
短波長λsの光を波長可変干渉フィルター5から透過させる際の最小ギャップds(λ1,λ2)、及びその際の半値幅の最大値を、シミュレーション処理により算出する(ステップS2)。例えば、
図5や
図8に示すようなシミュレーション結果を算出する。
【0056】
そして、演算部104は、算出された半値幅の最大値のシミュレーション結果から、フィルター条件における走査間隔よりも小さい半値幅となる組合せ(λ1,λ2)を抽出する。さらに、演算部104は、抽出された組合せ(λ1,λ2)から、最小ギャップds(λ1,λ2)が最小となる組合せ(λ1,λ2)を取得する(ステップS3)。
【0057】
この後、演算部104は、取得したλ1,λ2に基づいて、固定反射膜54及び可動反射膜55の膜設計を行う(ステップS4)。すなわち、各反射膜54,55を構成する誘電体多層膜の各層の層厚を算出する。例えば、可動反射膜55の高屈折層55Aの層厚d
1Hは、高屈折層55Aの屈折率n
H(Siの場合、n
H≒3.5)と、第一中心波長λ1とを用いて、d
1H=λ1/4n
Hにより算出できる。また、可動反射膜55の低屈折層55Bの膜層d
1Lは、低屈折層55Bの屈折率n
L(SiO
2の場合、n
L≒1.45)と、第一中心波長λ1とを用いて、d
1L=λ1/4n
Lにより算出できる。同様に、固定反射膜54の高屈折層54Aの層厚d
2Hは、高屈折層54Aの屈折率n
H(Siの場合、n
H≒3.5)と、第二中心波長λ2とを用いて、d
2H=λ2/4n
Hにより算出できる。また、固定反射膜54の低屈折層54Bの膜層d
2Lは、低屈折層54Bの屈折率n
L(SiO
2の場合、n
L≒1.45)と、第二中心波長λ2とを用いて、d
2L=λ2/4n
Lにより算出できる。
【0058】
(製造方法)
図15は、本実施形態における波長可変干渉フィルターの製造方法におけるフローチャートである。
波長可変干渉フィルター5の製造では、
図15に示すように、可動基板形成ステップS11を実施する。このステップS11では、可動基板52の母材となるガラス基板に対して、フォトリソグラフィ法等により、保持部522の形成位置が開口するレジストを形成してエッチング処理を実施し、可動部521及び保持部522を形成してレジストを除去する。
次に、可動電極形成ステップS12を実施して、可動電極562を形成する。ステップS12では、可動基板52の一面(エッチング処理した面とは反対側の面)に電極材料を例えば蒸着法やスパッタリング等により形成する。そして、電極材料の上からレジストを塗布し、フォトリソグラフィ法を用いて可動電極562及び可動引出電極564の形状に合わせてレジストをパターニングし、エッチング処理により、可動電極562及び可動引出電極564をパターニングした後、レジストを除去する。
【0059】
この後、可動反射膜形成ステップS13(本発明の第一ステップ)を実施して、可動反射膜55を形成する。
このステップS13では、フォトリソグラフィー法等により、可動基板52の可動反射膜55の形成部分以外にレジスト(リフトオフパターン)を形成する。そして、可動反射膜55を形成するための高屈折層55A及び低屈折層55Bを積層する。
この際、
図14に示した設計方法により設計(算出)された可動反射膜55の各層の層厚d
1H,d
1Lに従って、高屈折層55A及び低屈折層55Bを交互に所定数積層形成する。また、誘電体多層膜の表層面に導電性膜55C(例えばITO)を積層する。導電性膜55Cの膜厚d
1eとしては、高屈折層55A及び低屈折層55Bの層厚と同様、導電性膜55Cの屈折率n
eとして、d
1e=λ1/4n
eにより算出された膜厚となる。
各層を積層した後、リフトオフにより、不要部分の膜を除去する。
更に、この後、第二検出電極551の電極材料を成膜し、パターニングする。
【0060】
次に、固定基板形成ステップS14を実施する。このステップS14では、固定基板51の母材となるガラス基板に対して、フォトリソグラフィー法によるレジスト形成、及びエッチング処理を多段階実施することで、電極配置溝511および反射膜設置部512を形成する。
この後、可動電極形成ステップS15を実施して、固定電極561及び固定引出電極563を形成する。ステップS15では、ステップS12と同様、固定基板51の一面(エッチング処理した面とは反対側の面)に電極材料を、例えば蒸着法やスパッタリング等により形成し、エッチング処理により固定電極561及び固定引出電極563をパターニングする・
【0061】
この後、固定反射膜形成ステップS16(本発明の第二ステップ)を実施して、固定反射膜54を形成する。
このステップS16では、フォトリソグラフィー法等により、固定基板51の固定反射膜54の形成部分以外にレジスト(リフトオフパターン)を形成する。そして、固定反射膜54を形成するための高屈折層54A及び低屈折層54Bを積層する。
この際、ステップS13と同様、
図14に示した設計方法により設計(算出)された固定反射膜54の各層の層厚d
2H,d
2Lに従って、高屈折層54A及び低屈折層54Bを交互に所定数積層形成する。また、誘電体多層膜の表層面に導電性膜54Cを積層する。この導電性膜54Cの膜厚d
2eとしては、高屈折層54A及び低屈折層54Bの層厚と同様、導電性膜54Cの屈折率n
eとして、d
2e=λ2/4n
eにより算出された膜厚となる。
各層を積層した後、リフトオフにより、不要部分の膜を除去する。
更に、この後、第一検出電極541の電極材料を成膜し、パターニングする。
【0062】
この後、ステップS11からステップS13により形成された可動基板52と、ステップS14からステップS16により形成された固定基板とを、接合する(基板接合ステップ:ステップS17)。
なお、
図15に示す例では、ステップS12の後に、ステップS13を実施したが、先にステップS13により可動反射膜55を形成した後、ステップS12を実施して可動電極562及び可動引出電極564を形成してもよい。この場合、ステップS12において、可動電極562及び可動引出電極564の形成時に、同時に、第二検出電極551を形成することができる。
固定基板51においても同様であり、ステップS16により固定反射膜54を形成した後、ステップS15により固定電極561、固定引出電極563、及び第一検出電極541を同時に形成してもよい。
また、ステップS11からステップS13により可動基板52を形成した後に、ステップS14からステップS16により固定基板51を形成したが、先にステップS14からステップS16を実施した後に、ステップS11からステップS13を実施してもよい。
【0063】
[第一実施形態の作用効果]
本実施形態の波長可変干渉フィルター5は、固定反射膜54と、固定反射膜54に対向する可動反射膜55と、固定反射膜54及び可動反射膜55の間のギャップ寸法を変更する静電アクチュエーター56とを備える。そして、可動反射膜55及び固定反射膜54の反射特性におけるピーク中心波長は、ds(λ1,λ2)<ds(λ0,λ0)を満たす。
【0064】
このような構成では、波長可変干渉フィルター5から対象波長域に含まれる波長の光を透過させる際に、反射膜54,55の間のギャップ寸法が小さくなり、静電アクチュエーター56における駆動電圧をフィードバック制御した際(ギャップGのギャップ寸法を制御した際)のギャップ寸法のばらつきを抑制できる。つまり、波長可変干渉フィルター5における駆動再現性を向上させることができる。これにより、波長可変干渉フィルター5から、所望波長の光を高精度に透過させることができ、波長可変干渉フィルター5の分光精度の向上を図れる。
【0065】
本実施形態では、波長可変干渉フィルター5から対象波長域における最
短波長λsの光を透過させる際のギャップ寸法(最小ギャップds(λ1,λ2))に基づいて、固定反射膜54及び可動反射膜55の反射特性におけるピーク中心波長を設定する。
波長可変干渉フィルター5から同じ次数で出射光を出射させる場合、最
短波長λsを出射させる際のギャップ寸法が最小となる。また、波長可変干渉フィルター5の透過光の波長と、反射膜54,55の間のギャップ寸法とは比例の関係となる。よって、最
短波長λsに対応した最小ギャップを用いることで、例えば、対象波長域における全波長の光を透過させるために必要なギャップ寸法を調査することなく、第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2を容易に求めることができる。
【0066】
本実施形態では、第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2は、λ1≧λ0、かつλ2>λ0を満たすことが好ましい。すなわち、
図5、
図6、及び
図12に示すように、第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2が、大きくなるほど、最小ギャップds(λ1,λ2)が小さくなる。よって、λ1≧λ0、かつλ2>λ0とすることで、ギャップGのフィードバック制御時におけるギャップ寸法のばらつきを抑制でき、駆動再現性の向上を図ることができる。
【0067】
本実施形態では、固定反射膜54及び可動反射膜55は、誘電体多層膜により構成されている。このため、例えば、固定反射膜54及び可動反射膜55として金属膜を用いる場合に比べて、波長可変干渉フィルター5の透過光の半値幅を狭くでき、高分解能を実現できる。
【0068】
本実施形態では、λ1<λ2の関係を満たす。すなわち、可動反射膜55の厚み寸法が固定反射膜54よりも小さくなる。この場合、可動反射膜55から可動基板52に伝わる膜応力を小さくできる。特に本実施形態では、保持部522を撓ませて可動部521を固定基板51側に変位させることで、ギャップGのギャップ寸法を変更する。このような構成では、可動基板52が変形しやすいため、上記のように膜応力の影響を抑制することで、分光測定精度(分解能)の低下を抑制できる。
【0069】
本実施形態では、波長可変干渉フィルター5から、対象波長域内の波長を所定の波長間隔(例えば10nm)で走査させて透過光を透過させた際に、透過光の半値幅が波長間隔である10nm未満となるように、第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2を取得し、固定反射膜54及び可動反射膜55を設計する。このため、波長可変干渉フィルター5から透過される透過光の半値幅を、例えば分光測定等に影響しない程度に十分に小さくでき、高い分光精度を維持できる。
【0070】
[第二実施形態]
次に、本発明に係る第二実施形態について説明する。
第二実施形態では、上記第一実施形態において説明した波長可変干渉フィルター5が組み込まれた電子機器の一例を図面に基づいて説明する。
【0071】
[プリンターの概略構成]
図16は、第二実施形態のプリンター10の外観の構成例を示す図である。
図17は、本実施形態のプリンター10の概略構成を示すブロック図である。
図16に示すように、プリンター10は、供給ユニット11、搬送ユニット12と、キャリッジ13と、キャリッジ移動ユニット14と、制御ユニット15(
図17参照)と、を備えている。このプリンター10は、例えばパーソナルコンピューター等の外部機器20から入力された印刷データに基づいて、各ユニット11,12,14及びキャリッジ13を制御し、媒体A上に画像を印刷する。また、本実施形態のプリンター10は、予め設定された較正用印刷データに基づいて媒体A上の所定位置に測色用のカラーパッチを形成し、かつ当該カラーパッチに対する分光測定を行う。これにより、プリンター10は、カラーパッチに対する実測値と、較正用印刷データとを比較して、印刷されたカラーに色ずれがあるか否か判定し、色ずれがある場合は、実測値に基づいて色補正を行う。
以下、プリンター10の各構成について具体的に説明する。
【0072】
供給ユニット11は、画像形成対象となる媒体Aを、画像形成位置に供給するユニットである。この供給ユニット11は、例えば媒体Aが巻装されたロール体111(
図16参照)、ロール駆動モーター(図示略)、及びロール駆動輪列(図示略)等を備える。そして、制御ユニット15からの指令に基づいて、ロール駆動モーターが回転駆動され、ロール駆動モーターの回転力がロール駆動輪列を介してロール体111に伝達される。これにより、ロール体111が回転し、ロール体111に巻装された紙面がY方向(副走査方向)における下流側(+Y方向)に供給される。
なお、本実施形態では、ロール体111に巻装された紙面を供給する例を示すがこれに限定されない。例えば、トレイ等に積載された紙面等の媒体Aをローラー等によって例えば1枚ずつ供給する等、如何なる供給方法によって媒体Aが供給されてもよい。
【0073】
搬送ユニット12は、供給ユニット11から供給された媒体Aを、Y方向に沿って搬送する。この搬送ユニット12は、搬送ローラー121と、搬送ローラー121と媒体Aを挟んで配置され、搬送ローラー121に従動する従動ローラー(図示略)と、プラテン122と、を含んで構成されている。
搬送ローラー121は、図示略の搬送モーターからの駆動力が伝達され、制御ユニット15の制御により搬送モーターが駆動されると、その回転力により回転駆動されて、従動ローラーとの間に媒体Aを挟み込んだ状態でY方向に沿って搬送する。また、搬送ローラー121のY方向の下流側(+Y側)には、キャリッジ13に対向するプラテン122が設けられている。
【0074】
キャリッジ13は、媒体Aに対して画像を印刷する印刷部16と、媒体A上の所定の測定位置R(
図17参照)の分光測定を行う分光器17と、を備えている。
このキャリッジ13は、キャリッジ移動ユニット14によって、Y方向と交差する主走査方向に沿って移動可能に設けられている。
また、キャリッジ13は、フレキシブル回路131により制御ユニット15に接続され、制御ユニット15からの指令に基づいて、印刷部16による印刷処理及び、分光器17による分光測定処理を実施する。
なお、キャリッジ13の詳細な構成については後述する。
【0075】
キャリッジ移動ユニット14は、本発明における移動機構を構成し、制御ユニット15からの指令に基づいて、キャリッジ13をX方向に沿って往復移動させる。
このキャリッジ移動ユニット14は、例えば、キャリッジガイド軸141と、キャリッジモーター142と、タイミングベルト143と、を含んで構成されている。
キャリッジガイド軸141は、X方向に沿って配置され、両端部がプリンター10の例えば筐体に固定されている。キャリッジモーター142は、タイミングベルト143を駆動させる。タイミングベルト143は、キャリッジガイド軸141と略平行に支持され、キャリッジ13の一部が固定されている。そして、制御ユニット15の指令に基づいてキャリッジモーター142が駆動されると、タイミングベルト143が正逆走行され、タイミングベルト143に固定されたキャリッジ13がキャリッジガイド軸141にガイドされて往復移動する。
【0076】
次に、キャリッジ13に設けられる印刷部16及び分光器17の構成について、図面に基づいて説明する。
[印刷部16の構成]
印刷部16は、媒体Aと対向する部分に、インクを個別に媒体A上に吐出して、媒体A上に画像を形成する。
この印刷部16は、複数色のインクに対応したインクカートリッジ161が着脱自在に装着されており、各インクカートリッジ161からインクタンク(図示略)にチューブ(図示略)を介してインクが供給される。また、印刷部16の下面(媒体Aに対向する位置)には、インク滴を吐出するノズル(図示略)が、各色に対応して設けられている。これらのノズルには、例えばピエゾ素子が配置されており、ピエゾ素子を駆動させることで、インクタンクから供給されたインク滴が吐出されて媒体Aに着弾し、ドットが形成される。
【0077】
[分光器の構成]
図18は、分光器17の概略構成を示す断面図である。
分光器17は、本発明における光学モジュールであり、
図18に示すように、光源部171と、光学フィルターデバイス172、受光部173と、導光部174と、筐体175と、を備えている。
この分光器17は、光源部171から媒体A上の測定位置Rに照明光を照射し、測定位置Rで反射された光成分を、導光部174により光学フィルターデバイス172に入射させる。そして、光学フィルターデバイス172は、この反射光から所定波長の光を出射(透過)させて、受光部173により受光させる。また、光学フィルターデバイス172は、制御ユニット15の制御に基づいて、透過波長を選択可能であり、可視光における各波長の光の光量を測定することで、媒体A上の測定位置Rの分光測定が可能となる。
【0078】
[光源部の構成]
光源部171は、光源171Aと、集光部171Bとを備える。この光源部171は、光源171Aから出射された光を媒体Aの測定位置R内に、媒体Aの表面に対する法線方向から照射する。
光源171Aとしては、可視光域における各波長の光を出射可能な光源が好ましい。このような光源171Aとして、例えばハロゲンランプやキセノンランプ、白色LED等を例示でき、特に、キャリッジ13内の限られたスペース内で容易に設置可能な白色LEDが好ましい。集光部171Bは、例えば集光レンズ等により構成され、光源171Aからの光を測定位置Rに集光させる。なお、
図18においては、集光部171Bでは、1つのレンズ(集光レンズ)のみを表示するが、複数のレンズを組み合わせて構成されていてもよい。
【0079】
[光学フィルターデバイスの構成]
光学フィルターデバイス172は、筐体6と、筐体6の内部に収納された波長可変干渉フィルター5とを備えている。筐体6は、内部に収容空間を有し、この収容空間内に波長可変干渉フィルター5が収納されている。また、筐体6は、波長可変干渉フィルターの固定引出電極563、可動引出電極564、第一検出電極541、及び第二検出電極551に接続された端子部を有し、当該端子部が制御ユニット15に接続されている。そして、制御ユニット15からの指令信号に基づいて、波長可変干渉フィルター5の静電アクチュエーター56に所定の電圧が印加され、これにより、波長可変干渉フィルター5から印加電圧に応じた波長の光が出射される。また、第一検出電極541及び第二検出電極551からの信号に基づいて、反射膜54,55の間のギャップ寸法に応じた静電容量が検出される。
【0080】
[受光部及び導光光学系の構成]
受光部173は、
図18に示すように、波長可変干渉フィルター5の光軸上に配置され、当該波長可変干渉フィルター5を透過した光を受光する。そして、受光部173は、制御ユニット15の制御に基づいて、受光量に応じた検出信号(電流値)を出力する。なお、受光部173により出力された検出信号は、I−V変換器(図示略)、増幅器(図示略)、及びAD変換器(図示略)を介して制御ユニット15に入力される。
導光部174は、反射鏡174Aと、バンドパスフィルター174Bとを備えている。
この導光部174は、測定位置Rで、媒体Aの表面に対して45°で反射された光を反射鏡174Aにより、波長可変干渉フィルター5の光軸上に反射させる。バンドパスフィルター174Bは、可視光域(例えば380nm〜720nm)の光を透過させ、紫外光及び赤外光の光をカットする。これにより、波長可変干渉フィルター5には、可視光域の光が入射されることになり、受光部173において、可視光域における波長可変干渉フィルター5により選択された波長の光が受光される。
【0081】
[制御ユニットの構成]
制御ユニット15は、本発明の制御部であり、
図17に示すように、I/F151と、ユニット制御回路152と、メモリー153と、CPU(Central Processing Unit)154と、を含んで構成されている。
I/F151は、外部機器20から入力される印刷データをCPU154に入力する。
ユニット制御回路152は、供給ユニット11、搬送ユニット12、印刷部16、光源171A、波長可変干渉フィルター5、受光部173、及びキャリッジ移動ユニット14をそれぞれ制御する制御回路を備えており、CPU154からの指令信号に基づいて、各ユニットの動作を制御する。なお、各ユニットの制御回路が、制御ユニット15とは別体に設けられ、制御ユニット15に接続されていてもよい。
【0082】
メモリー153は、プリンター10の動作を制御する各種プログラムや各種データが記憶されている。
各種データとしては、例えば、波長可変干渉フィルター5を制御する際の、静電アクチュエーター56への印加電圧に対する、波長可変干渉フィルター5を透過する光の波長を示したV−λデータ、印刷データとして含まれる色データに対する各インクの吐出量を記憶した印刷プロファイルデータ等が挙げられる。また、光源171Aの各波長に対する発光特性(発光スペクトル)や、受光部173の各波長に対する受光特性(受光感度特性)等が記憶されていてもよい。
【0083】
CPU154は、メモリー153に記憶された各種プログラムを読み出し実行することで、供給ユニット11、搬送ユニット12、及びキャリッジ移動ユニット14の駆動制御、印刷部16の印刷制御、分光器17による測定制御(波長可変干渉フィルター5の静電アクチュエーター56の駆動制御、受光部173の受光制御)、分光器17を用いた分光測定結果に基づいた測色処理や、印刷プロファイルデータの補正(更新)処理等を実施する。
【0084】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の分光器17は、上記第一実施形態にて説明した波長可変干渉フィルター5と、波長可変干渉フィルター5を透過した光を受光する受光部173とを備えている。
ここで、波長可変干渉フィルター5は、上述のように、ギャップGのギャップ寸法を制御した際のばらつきを低減でき、高い分光精度で所望波長の光を透過させることが可能である。よって、受光部173により当該光を受光することで、測定対象となるカラーパッチに対する分光測定を高精度に実施できる。
【0085】
また、本実施形態のプリンター10は、このような分光器17により測定された分光測定結果に応じてカラーパッチ等に対する測色処理を実施して、その結果に応じて印刷プロファイルデータを更新する。この際、上述のように、分光器17により高精度な分光測定を実施することができるので、カラーパッチに対する正確な色度を測定することができ、その測定結果に基づいて印刷プロファイルデータを更新(補正)することで、ユーザーが再現した色を忠実に印刷部16により媒体A上に印刷することができる。
【0086】
[その他の実施形態]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、固定反射膜54及び可動反射膜55として、誘電体多層膜を用いる例を示したが、これに限定されない。例えば、固定反射膜54及び可動反射膜55として、Ag膜やAg合金膜等の金属膜を用いてもよく、この場合では、各反射膜54,55の素材を選定する際に、上記第一実施形態におけるステップS1からステップS3を実施して、反射膜54,55の反射特性における最適なピーク中心波長の組合せ(λ1,λ2)を設定する。この後、当該組合せ(λ1,λ2)に対応した素材(金属膜や金属合金膜)を設計すればよい。
【0087】
上記第一実施形態において、第一波長λαとして最
短波長λsを用い、最
短波長λsの光を透過させる際のギャップ寸法(最小ギャップds(λ1,λ2))が、ds(λ1,λ2)<ds(λ0,λ0)を満たすように、固定反射膜54及び可動反射膜55を設計したが、これに限定されない。
上述したように、波長可変干渉フィルター5から同じ次数で対象波長域に含まれる各波長の光を透過させる場合、透過光の波長とギャップ寸法とは比例の関係となる。したがって、例えば波長可変干渉フィルター5から最
長波長λlの光を透過させる際のギャップGのギャップ寸法(最大ギャップ)が最小となるように、第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2を設定してもよい。
【0088】
また、上述した実施形態では、波長可変干渉フィルター5から同じ次数で対象波長域に含まれる各波長の光を透過させる場合の例であるが、透過光の波長域によって、次数を変更してもよい。
例えば、波長可変干渉フィルター5から1100nmから1150nmの光を透過させる場合には、3次の透過光を用い、1160nmから1200nmの光を透過させる場合には、2次の透過光を用いてもよい。
この場合、例えば3次の最
短波長λs(=1100nm)に対応する最小ギャップに基づいて、第一中心波長λ1及び第二中心波長λ2を設定することが好ましい。すなわち、波長可変干渉フィルター5からの波長λの光を次数1で透過させる場合の反射膜54,55の間のギャップ寸法をd
λ1とすると、波長可変干渉フィルター5からの波長λの光を次数2で透過させる場合では、反射膜54,55の間のギャップ寸法は2d
λ1となる。また、波長可変干渉フィルター5からの波長λの光を次数3で透過させる場合では、反射膜54,55の間のギャップ寸法は3d
λ1となる。このように、波長λの光を透過させる際の次数を上げると、ギャップ寸法も次数に応じて大きくなる。
したがって、対象波長域の光を複数の次数で分割して透過させる場合、高次の次数で透過させる波長域において、ギャップ寸法も大きくなる傾向があり、フィードバック制御時のギャップ寸法のばらつきも大きくなる。このため、上記のように、高次の次数で透過させる波長域における最
短波長λsに対応した最小ギャップds(λ1,λ2)が最小となるように、第一中心波長λ1,第二中心波長λ2を設定することで、対象波長域に含まれる各波長に対応するギャップ寸法をそれぞれ小さくでき、フィードバック制御時におけるギャップ寸法のばらつきも低減できる。
【0089】
上記実施形態では、波長可変干渉フィルターとして、入射光から所定波長の光を分光して透過させる光透過型の波長可変干渉フィルター5を例示したが、これに限定されない。例えば、波長可変干渉フィルターとして、入射光から所定波長の光を分光して反射させる光反射型の波長可変干渉フィルターを用いてもよい。
【0090】
本発明の電子機器として、上記第二実施形態では、プリンター10を例示したが、その他、様々な分野により本発明の電子機器を適用することができる。
例えば、本発明の電子機器として、特定物質の存在を検出するための光ベースのシステム等に用いてもよい。このようなシステムとしては、例えば、本発明の光学モジュールを用いた分光計測方式を採用して特定ガスを高感度検出する車載用ガス漏れ検出器や、呼気検査用の光音響希ガス検出器等のガス検出装置を例示できる。その他、特定物質の存在を検出するためのシステムとして、近赤外線分光による糖類の非侵襲的測定装置や、食物や生体、鉱物等の情報の非侵襲的測定装置等の、物質成分分析装置を例示できる。
さらに、例えば、各波長の光の強度を経時的に変化させることで、各波長の光でデータを伝送させることも可能であり、この場合、波長可変干渉フィルターにより特定波長の光を分光し、受光部で受光させることで、特定波長の光により伝送されるデータを抽出することができる。このような電子機器により、各波長の光のデータを処理することで、光通信を実施することもできる。
さらには、電子機器としては、本発明の波長可変干渉フィルター5により光を分光して、分光画像を撮像する分光カメラ、分光分析機などにも適用できる。
【0091】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等に適宜変更できる。