特許第6606971号(P6606971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6606971ボールねじ、ボールねじ用ナットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606971
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】ボールねじ、ボールねじ用ナットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20191111BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   F16H25/22 C
   F16H25/24 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-209969(P2015-209969)
(22)【出願日】2015年10月26日
(65)【公開番号】特開2017-82852(P2017-82852A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(72)【発明者】
【氏名】坂井 幹史
(72)【発明者】
【氏名】平田 清孝
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−094790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸が内挿され、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、
前記ナットの螺旋溝と前記ねじ軸の螺旋溝で形成される軌道と、
前記軌道の終点と始点を接続して循環路を形成する戻し路と、
前記軌道および前記戻し路に配置された複数のボールと、
前記戻し路を構成する循環溝であって、前記ナットの内周面に直接形成された凹部からなり、前記軌道の終点および始点に対する接続部分である一対の直線部と、前記一対の直線部の間に配置された中間部と、前記中間部と前記一対の直線部との間を接続する一対の湾曲部と、を有する循環溝と、
前記直線部の前記湾曲部との境界を含む部分である掬い上げ部に形成された掬い上げ壁であって、前記湾曲部の外周側に配置され、前記ナットの内周面から、前記ナットの径方向で前記軌道内の前記複数のボールの中心を結んだ円の位置より内側の位置まで突出する掬い上げ壁と、
前記ナットの内周面の前記掬い上げ壁の外側に形成された凹部およびこの凹部の外側に形成された凸部と、
を備え、
前記軌道内を負荷状態で転動する前記ボールを介して前記ナットが前記ねじ軸に対して相対移動するボールねじ。
【請求項2】
内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、前記ナットの螺旋溝と前記ねじ軸の螺旋溝で形成される軌道と、前記軌道の終点と始点を接続して循環路を形成する戻し路と、前記軌道および前記戻し路に配置された複数のボールと、前記戻し路を構成する循環溝と、を備え、前記軌道内を負荷状態で転動する前記ボールを介して前記ナットが前記ねじ軸に対して相対移動するボールねじの前記ナットの製造方法であって、
前記循環溝は、前記ナットの内周面に直接形成された凹部からなり、前記軌道の終点および始点に対する接続部分である一対の直線部と、前記一対の直線部の間に配置された中間部と、前記中間部と前記一対の直線部との間を接続する一対の湾曲部と、を有し、
前記直線部の前記湾曲部との境界を含む部分である掬い上げ部の前記湾曲部の外周側に、前記ナットの内周面から、前記ナットの径方向で前記軌道内の前記複数のボールの中心を結んだ円の位置より内側の位置まで突出する掬い上げ壁を備え、
円筒状のナット素材の内周面に対して、前記循環溝および前記掬い上げ壁、パンチを有する金型を用いた冷間鍛造により形成する工程を有し、
前記パンチは、循環溝形成部と掬い上げ壁形成部とからなり、前記掬い上げ壁形成部の先端に、前記循環溝形成部との間に前記掬い上げ壁の厚さ分の隙間を開けて、前記ナット素材の内周面を押圧する凸部が形成され、前記凸部の両側に凹部が存在するものであるボールねじ用ナットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールねじとボールねじ用ナットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ねじ軸に内挿され、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道と、軌道の終点と始点を接続して循環路を形成する戻し路と、軌道および戻し路に配置された複数のボールと、を備え、軌道内を負荷状態で転動するボールを介してナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。
このようなボールねじは、一般的な産業用機械の位置決め装置等だけでなく、自動車、二輪車、船舶等の乗り物に搭載される電動アクチュエータにも使用されている。
ボールねじの戻し路には循環チューブ方式やコマ方式などがあり、コマ方式の場合は、戻し路をなす凹部が形成されたコマをナットの貫通穴に嵌めている。
【0003】
特許文献1には、コマ式ボールねじが記載されている。コマ式ボールねじでは、コマによる循環溝の深さを十分に確保して、ボールの掬い上げ性を良好にするために、コマの内径をナットの内径より小さく形成している。具体的にはボールねじのBCD(Ball Center Diameter、ボール中心径、軌道内の複数のボールの中心を結んだ円の直径)よりも小さくしている。
特許文献2および3には、戻し路をなす凹部(循環溝)を、ナット素材の内周面に塑性加工(鍛造)で直接形成する方法が記載されている。
円筒状のナット素材の内周面に循環溝が鍛造工程により形成されたボールねじ用ナットでは、ナットの内径が循環溝の周辺部とそれ以外の部分とで略同じである。そのため、コマ式ボールねじと比較して、循環溝内へボールが掬い上げにくくなる。
また、鍛造工程でパンチが押し込まれて成形された循環溝の周縁部には、塑性変形により輪郭形状が崩れて丸くなった部分(ダレ)が生じ易い。特許文献2に記載された方法では、仕上げ加工の際にバリを出にくくするために、ダレを残している。
【0004】
しかし、ダレがあると、掬い上げ時のボールと循環溝との接触点が、ダレがない場合よりもナットの径方向外側になるため、ダレが大きいほど凹部内へのボールの掬い上げ性が低下する。
なお、鍛造工程でダレの発生を抑制するためには工程数が多くなるため、製造コストが増大する。また、鍛造工程で生じたダレを除去する工程を行う場合も、工程数が増えるため、製造コストが増大する。
特許文献3には、さらに、循環溝にダレを有するナットのボール掬い上げを円滑にするために、戻し路の境界位置(軌道の終点および始点に対する接続部分である直線状の両端部と、曲線状の中間部との境界位置)でのボールの接触状態を規定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−45096号公報
【特許文献2】特開2013−79689号公報
【特許文献3】特開2013−76463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載された方法には、循環溝にダレを有するナットのボール掬い上げを円滑にするという点で改善の余地がある。
この発明の課題は、戻し路を構成する凹部(循環溝)がナットの内周面に直接形成され、戻し路でのボールの掬い上げ性が良好で、コストの低い方法で製造可能なボールねじを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明の第一態様は下記の構成(1)〜(4)を有するボールねじを提供する。
(1)外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、このねじ軸が内挿され、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、上記ナットの螺旋溝と上記ねじ軸の螺旋溝で形成される軌道と、上記軌道の終点と始点を接続して循環路を形成する戻し路と、上記軌道および上記戻し路に配置された複数のボールと、上記戻し路を構成する循環溝とを備える。上記軌道内を負荷状態で転動する前記ボールを介して上記ナットが前記ねじ軸に対して相対移動する。
(2)上記循環溝は、上記ナットの内周面に直接形成された凹部からなり、上記軌道の終点および始点に対する接続部分である一対の直線部と、上記一対の直線部の間に配置された中間部と、上記中間部と上記一対の直線部との間を接続する一対の湾曲部と、を有する。
(3)上記直線部の上記湾曲部との境界を含む部分である掬い上げ部に形成された掬い上げ壁であって、上記湾曲部の外周側に配置され、上記ナットの内周面から、上記ナットの径方向で上記軌道内の上記複数のボールの中心を結んだ円の位置より内側の位置まで突出する掬い上げ壁を備える。
(4)ナットの内周面の上記掬い上げ壁の外側に形成された凹部およびこの凹部の外側に形成された凸部を備える。
【0008】
この発明の第二態様は、上記構成(1)〜(3)を有するボールねじのナットの製造方法であって、下記の構成(5)を有する。
(5)円筒状のナット素材の内周面に対して、上記循環溝および掬い上げ壁、パンチを有する金型を用いた冷間鍛造により形成する工程を有する。上記パンチは、循環溝形成部と掬い上げ壁形成部とからなり、上記掬い上げ壁形成部の先端に、上記循環溝形成部との間に上記掬い上げ壁の厚さ分の隙間を開けて、前記ナット素材の内周面を押圧する凸部が形成され、上記凸部の両側に凹部が存在するものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、戻し路を構成する凹部(循環溝)がナットの内周面に直接形成され、戻し路でのボールの掬い上げ性が良好で、コストの低い方法で製造可能なボールねじが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態のボールねじを示す断面図である。
図2】実施形態のボールねじを構成するナットの循環溝を示す平面図である。
図3図2のA−A断面に対応するボールねじの部分断面図である。
図4】実施形態のボールねじを構成するナットの製造方法を説明する図である。
図5】実施形態のナットの製造方法で使用する金型のパンチを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態について説明するが、この発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、この発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定はこの発明の必須要件ではない。
【0012】
図1に示すように、この実施形態のボールねじ10は、ねじ軸1とナット2と複数のボール3を備えている。ねじ軸1の外周面11に螺旋溝12が形成されている。ナット2の内周面21に螺旋溝22が形成されている。ナット2はフランジ23を有する。ねじ軸1がナット2に内挿されている。
ボールねじ10は四つの循環路を有する。各循環路は、 ナット2の螺旋溝22とねじ軸1の螺旋溝12とが向かい合って形成された軌道と、軌道の終点と始点を接続する戻し路4とで構成されている。戻し路4は、ナット2の内周面21に直接形成された凹部からなる循環溝5と、ねじ軸1の外周面の循環溝5と対向する部分で構成される。
【0013】
図2に示すように、循環溝5は、軌道の終点および始点に対する接続部分である一対の直線部51と、一対の直線部51の間に配置された中間部52と、中間部52と一対の直線部51との間を接続する一対の湾曲部53とからなる。直線部51の湾曲部53との境界を含む部分である掬い上げ部54に、掬い上げ壁55が形成されている。掬い上げ壁55は、湾曲部53の外周側に配置されている。掬い上げ壁55の外側に凹部56が形成されている。循環溝5の周縁部の掬い上げ壁55が形成されていない部分にダレ58が存在する。
【0014】
図3に示すように、掬い上げ壁55は、ナット2の内周面21から、ナット2の径方向で、軌道内の複数のボール3の中心を結んだ円の位置(BCDの位置)Lより内側の位置まで突出している。また、凹部56の外側に凸部57が形成されている。図2では凸部57が省略されている。さらに、掬い上げ壁55の角部55aは丸く形成されている。角部55aの丸みは、ボール3がスムーズにねじ軸1の外周面11を乗り越えられる程度に形成されている。
ナット2は、図4に示す方法で製造されたものである。
先ず、図4(a)に示すように、鋼製の円筒状素材20を用意する。次に、円筒状素材20を冷間鍛造により塑性加工し、ナット2と略同一形状のフランジ23が付いたブランク25を得る。図4(b)はこの状態を示す。
【0015】
次に、図5に示すパンチ7を有する金型を用い、冷間鍛造工程により、ブランク25の内周面(つまり、ナット2の内周面21になる面)に循環溝5と掬い上げ壁55を形成する。金型のパンチ7は、循環溝形成部71と掬い上げ壁形成部72とからなる。掬い上げ壁形成部72の先端に、 循環溝形成部71との間に掬い上げ壁55の厚さ分の隙間を開けて凸部72aが形成されている。凸部72aの両側に凹部72b,72cが存在する。
具体的には、カムドライバ(図示せず)と、パンチ7を有するカムスライダ(図示せず)と、を有するカム機構の金型を用いて、冷間鍛造工程を行う。詳述すると、ブランク25の外周面を保持した状態で、ブランク25内にカムドライバとカムスライダを挿入し、カムスライダをブランク25とカムドライバとの間に配置するとともに、パンチ7をブランク25の内周面に向けて配置する。カムスライダとカムドライバは、ブランク25の軸方向から若干傾斜した方向に延びる傾斜面を有し、両傾斜面が相互に接触する。
【0016】
カムドライバをブランク25の軸方向に沿って移動させると、両傾斜面で構成されるカム機構(くさびの作用)によりカムスライダがブランク25の径方向外方に移動する。すなわち、カムドライバの傾斜面からカムスライダの傾斜面に力が伝達され、カムドライバの軸方向の力がカムスライダを径方向外方へ動かす力に変換される。その結果、カムスライダのパンチ7がブランク25の内周面を強く押圧することで、ブランク25の材料がパンチ7の形状に合わせて塑性変形する。
これにより、ブランク25の内周面に循環溝5が形成される。また、この塑性変形の際に、掬い上げ壁形成部72側の凹部72bに入った材料により、循環溝5の掬い上げ部54に掬い上げ壁55が形成される。また、凸部72aに対応する凹部56と、凹部72cに対応する凸部57も形成される。図4(c)は、パンチ7を用いた冷間鍛造工程後のブランク25の状態を示す。
【0017】
次に、図4(d)に示すように、ブランク25の内周面に、切削加工又は研削加工により、各循環路毎に循環溝5の一対の直線部51と接続する螺旋溝22を形成する。これにより、内周面21に循環溝5と螺旋溝22が形成されたナット2が得られる。
このようにして得られたナット2では、図2および図3に示すように、冷間鍛造工程でパンチ7が押し込まれて成形された循環溝5の周縁部のうち、掬い上げ壁55が形成されていない部分にはダレ58が生じている。しかし、循環溝5に入ったボール3が当たる位置に掬い上げ壁55が形成されていることで、ボール3の掬いあげ接点がナットの径方向でBCD位置より内側になるため、 ボール3の掬い上げ性が良好になる。また、ダレ58を除去する必要がないため、製造コストが低く抑えられる。
【0018】
つまり、この実施形態のボールねじは、戻し路4を構成する凹部(循環溝5)がナット2の内周面に鍛造工程で直接形成され、戻し路4でのボール3の掬い上げ性が良好で、コストの低い方法で製造可能なものである。
【符号の説明】
【0019】
10 ボールねじ
1 ねじ軸
11 ねじ軸の外周面
12 ねじ軸の螺旋溝
2 ナット
20 円筒状素材
21 ナットの内周面
22 ナットの螺旋溝
23 フランジ
25 ブランク
3 ボール
4 戻し路
5 循環溝(ナットの内周面に直接形成された凹部)
51 直線部
52 中間部
53 湾曲部
54 掬い上げ部
55 掬い上げ壁
55a 掬い上げ壁の角部
56 凹部
57 凸部
58 ダレ
7 パンチ
71 循環溝形成部
72 掬い上げ壁形成部
72a 掬い上げ壁形成部の凸部
72b,72c 掬い上げ壁形成部の凹部
L ナットの径方向におけるBCDの位置(ボールの中心点を結んだ円の位置)
図1
図2
図3
図4
図5