特許第6606972号(P6606972)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606972
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 9/00 20060101AFI20191111BHJP
   F16D 27/12 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   F16D9/00 300
   F16D27/12 Z
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-210987(P2015-210987)
(22)【出願日】2015年10月27日
(65)【公開番号】特開2017-82888(P2017-82888A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽介
(72)【発明者】
【氏名】橋長 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中島 雅文
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 陽平
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−127436(JP,A)
【文献】 特開2005−201459(JP,A)
【文献】 特開2014−035016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 9/00
F16D 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源(6)から出力される回転駆動力を駆動対象装置(2)に伝達する動力伝達装置であって、
前記駆動源から出力される回転駆動力によって回転する駆動側回転体(11)と、
前記駆動側回転体に連結されることによって前記駆動対象装置の回転軸(21)と共に回転する従動側回転体(13)と、
前記従動側回転体を前記駆動側回転体に連結させる電磁力を発生させる電磁石(12)と、を備え、
前記従動側回転体は、前記回転軸の一端側が挿入される挿入穴(151a)が形成されており、
前記従動側回転体および前記回転軸は、前記挿入穴の内周側に形成された雌ネジ(31)、および前記回転軸に形成されて前記回転軸が前記挿入穴に挿入された状態で前記雌ネジに螺合された雄ネジ(32)を有する締結部(30)によって連結されており、
前記雌ネジのネジ山は、前記回転軸の回転方向に作用するトルクによって発生する軸力に対する破断強度が、前記雄ネジのネジ山の前記破断強度よりも小さくなっており、
前記回転軸における前記雌ネジに対向するネジ対向部位(211)には、前記雄ネジが形成されたネジ形成部位(211a)と、前記雄ネジが形成されていない非ネジ形成部位(211b、211c)とが設定されており、
前記非ネジ形成部位は、前記ネジ対向部位のうち、少なくとも前記ネジ形成部位よりも前記回転軸の根元側に近い部位に設定されている動力伝達装置。
【請求項2】
前記非ネジ形成部位(211c)は、前記ネジ対向部位のうち、前記ネジ形成部位よりも前記回転軸の先端側に近い部位にも設定されている請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
駆動源(6)から出力される回転駆動力を駆動対象装置(2)に伝達する動力伝達装置であって、
前記駆動源から出力される回転駆動力によって回転する駆動側回転体(11)と、
前記駆動側回転体に連結されることによって前記駆動対象装置の回転軸(21)と共に回転する従動側回転体(13)と、
前記従動側回転体を前記駆動側回転体に連結させる電磁力を発生させる電磁石(12)と、を備え、
前記従動側回転体は、前記回転軸の一端側が挿入される挿入穴(151a)が形成されており、
前記従動側回転体および前記回転軸は、前記挿入穴の内周側に形成された雌ネジ(31)、および前記回転軸に形成されて前記回転軸が前記挿入穴に挿入された状態で前記雌ネジに螺合された雄ネジ(32)を有する締結部(30)によって連結されており、
前記雄ネジのネジ山は、前記回転軸の回転方向に作用するトルクによって発生する軸力に対する破断強度が、前記雌ネジのネジ山の前記破断強度よりも小さくなっており、
前記挿入穴の内周側における前記雄ネジに対向するネジ対向部位(153)には、前記雌ネジが形成されたネジ形成部位(153a)と、前記雌ネジが形成されていない非ネジ形成部位(153b、153c)とが設定されており、
前記非ネジ形成部位は、前記ネジ対向部位のうち、少なくとも前記ネジ形成部位よりも前記回転軸の根元側に近い部位に設定されている動力伝達装置。
【請求項4】
前記非ネジ形成部位(153c)は、前記ネジ対向部位のうち、前記ネジ形成部位よりも前記回転軸の先端側に近い部位にも設定されている請求項3に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源から出力される回転駆動力を駆動対象装置に伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置の圧縮機は、駆動源であるエンジンからの駆動力の断続を、動力伝達装置である電磁クラッチを用いて行うものがある。この種の動力伝達装置は、駆動源から出力される回転駆動力によって回転する駆動側回転体と、駆動側回転体と連結されることによって回転する従動側回転体と、駆動側回転体と従動側回転体とを連結する電磁力を発生させる電磁石とを有する。
【0003】
このように構成される動力伝達装置において、従動側回転体に対して圧縮機がロックした際に破断するリミッタを設けると共に、回転軸に対してリミッタが破断した際に従動側回転体の脱落を防止するストッパを設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−127436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の構成では、従動側回転体が回転軸から切り離された際の従動側回転体の脱落を防止するストッパを回転軸に対して新たに追加する必要がある。このことは、動力伝達装置の部品点数の増加を招くことから好ましくない。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、部品点数を増やすことなく、従動側回転体が回転軸から切り離された際の従動側回転体の脱落を防止可能な動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1および請求項3に記載の発明は、駆動源(6)から出力される回転駆動力を駆動対象装置(2)に伝達する動力伝達装置を対象としている。
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1および請求項3に記載の発明では、
駆動源から出力される回転駆動力によって回転する駆動側回転体(11)と、
駆動側回転体に連結されることによって駆動対象装置の回転軸(21)と共に回転する従動側回転体(13)と、
従動側回転体を駆動側回転体に連結させる電磁力を発生させる電磁石(12)と、を備える。
【0009】
そして、請求項1に記載の発明では、従動側回転体に、回転軸の一端側が挿入される挿入穴(151a)が形成されている。また、従動側回転体および回転軸は、挿入穴の内周側に形成された雌ネジ(31)、および回転軸に形成されて回転軸が挿入穴に挿入された状態で雌ネジに螺合された雄ネジ(32)を有する締結部(30)によって連結されている。さらに、雌ネジのネジ山は、回転軸の回転方向に作用するトルクによって発生する軸力に対する破断強度が、雄ネジのネジ山の破断強度よりも小さくなっている。
【0010】
また、回転軸における雌ネジに対向するネジ対向部位(211)には、雄ネジが形成されたネジ形成部位(211a)と、雄ネジが形成されていない非ネジ形成部位(211b、211c)とが設定されている。そして、非ネジ形成部位は、ネジ対向部位のうち、少なくともネジ形成部位よりも回転軸の根元側に近い部位に設定されている。
【0011】
これによると、締結部に対して過大な軸力が作用すると、雌ネジにおける回転軸のネジ形成部に対向する部位のネジ山が破断することで、従動側回転体が回転軸から切り離される。これにより、従動側回転体から回転軸への動力の伝達が遮断される。
【0012】
また、雌ネジにおける回転軸の根元側に存する非ネジ形成部位に対向する部位は、締結部に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸の根元側に残存した雌ネジのネジ山が、回転軸の軸方向において、回転軸に存する雄ネジのネジ山と干渉する配置構造となる。このため、従動側回転体は、回転軸から切り離された後も回転軸から脱落することはない。
【0013】
従って、部品点数を増やすことなく、従動側回転体が回転軸から切り離された際の従動側回転体の脱落を防止可能な動力伝達装置を実現することができる。なお、破断強度とは、ネジに作用する軸力によりネジ山が破断するときの応力、すなわち、引張り強さを意味する。
【0014】
また、請求項3に記載の発明では、従動側回転体に、回転軸の一端側が挿入される挿入穴(151a)が形成されている。また、従動側回転体および回転軸は、挿入穴の内周側に形成された雌ネジ(31)、および回転軸に形成されて回転軸が挿入穴に挿入された状態で雌ネジに螺合された雄ネジ(32)を有する締結部(30)によって連結されている。さらに、雄ネジのネジ山は、回転軸の回転方向に作用するトルクによって発生する軸力に対する破断強度が、雌ネジのネジ山の破断強度よりも小さくなっている。
【0015】
また、挿入穴の内周側における雄ネジに対向するネジ対向部位(153)には、雌ネジが形成されたネジ形成部位(153a)と、雌ネジが形成されていない非ネジ形成部位(153b、153c)とが設定されている。そして、非ネジ形成部位は、ネジ対向部位のうち、少なくともネジ形成部位よりも回転軸の根元側に近い部位に設定されている。
【0016】
これによると、締結部に対して過大な軸力が作用すると、雄ネジにおける挿入穴のネジ形成部に対向する部位のネジ山が破断することで、従動側回転体が回転軸から切り離される。これにより、従動側回転体から回転軸への動力の伝達が遮断される。
【0017】
また、雄ネジにおける回転軸の根元側に存する非ネジ形成部位に対向する部位は、締結部に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸の根元側に残存した雄ネジのネジ山が、回転軸の軸方向において、挿入穴に存する雌ネジのネジ山と干渉する配置構造となる。このため、従動側回転体は、回転軸から切り離された後も回転軸から脱落することはない。
【0018】
従って、部品点数を増やすことなく、従動側回転体が回転軸から切り離された際の従動側回転体の脱落を防止可能な動力伝達装置を実現することができる。
【0019】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態の動力伝達装置が適用される冷凍サイクルの全体構成図である。
図2】第1実施形態の動力伝達装置の軸方向断面図である。
図3図2に示すIII部の拡大図である。
図4】第1実施形態の雄ネジと雌ネジとの破断強度を説明するための説明図である。
図5】第1実施形態の動力伝達装置にて回転軸がロックした際の締結部の拡大図である。
図6】比較例の動力伝達装置における正常時の締結部の拡大図である。
図7】比較例の動力伝達装置にて回転軸がロックした際の締結部の拡大図である。
図8】比較例の動力伝達装置にて回転軸がロックした際の締結部の拡大図である。
図9】第2実施形態の動力伝達装置における正常時の締結部の拡大図である。
図10】第2実施形態の雄ネジと雌ネジとの破断強度を説明するための説明図である。
図11】第2実施形態の動力伝達装置にて回転軸がロックした際の締結部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明を実施する形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0022】
また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。
【0023】
以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0024】
(第1実施形態)
本実施形態について、図1図8を参照して説明する。本実施形態では、図1に示す蒸気圧縮式の冷凍サイクル1の圧縮機2に対して、動力伝達装置10を適用した例を説明する。
【0025】
冷凍サイクル1は、車室内の空調を行う車両用空調装置において車室内へ送風する空気の温度を調整する装置として機能する。この冷凍サイクル1は、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機2、圧縮機2から吐出された冷媒を放熱させる放熱器3、放熱器3から流出した冷媒を減圧する膨張弁4、膨張弁4で減圧された冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる蒸発器5を環状に接続して構成される。
【0026】
圧縮機2としては、例えば、斜板式可変容量型の圧縮機を採用することができる。なお、圧縮機2としては、回転駆動力の伝達により冷凍サイクル1の冷媒を圧縮して吐出するものであれば、他の形式の可変容量型の圧縮機や、スクロール型、ベーン型などの固定容量型の圧縮機を採用してもよい。
【0027】
本実施形態の圧縮機2は、回転軸21の一部が外側に露出している。そして、回転軸21における外側に露出した部位に対して、動力伝達装置10が取り付けられている。圧縮機2には、動力伝達装置10を介してエンジン6から出力される回転駆動力が伝達される。
【0028】
動力伝達装置10は、車両走行用の駆動源であるエンジン6から出力される回転駆動力を駆動対象装置である圧縮機2へ断続的に伝達する装置である。動力伝達装置10は、Vベルト7を介してエンジン6の回転出力部6aに接続されている。
【0029】
図2は、動力伝達装置10を圧縮機2の回転軸21の軸方向に沿って切断した際の断面図である。なお、図2に示すADは、回転軸21の軸方向に沿って延びる方向として規定した回転軸方向を示している。また、図2に示すRDは、回転軸方向と直交する方向として規定した径方向を示している。図2に示すCLは、回転軸21の中心線を示している。なお、これらのことは、図2以外の図面においても同様である。
【0030】
図2に示すように、動力伝達装置10は、プーリ11、プーリ11に連結されることによって圧縮機2の回転軸21と共に回転する従動側回転体13、従動側回転体13とプーリ11とを連結させる電磁力を発生させる電磁石12を有する。
【0031】
プーリ11は、エンジン6から出力される回転駆動力によって回転する駆動側回転体を構成する。本実施形態のプーリ11は、外側円筒部111、内側円筒部112、および端面部113を有する。
【0032】
外側円筒部111は、円筒形状に構成されており、回転軸21に対して同軸上に配置されている。内側円筒部112は、円筒形状に構成されており、外側円筒部111の内周側に配置されると共に、回転軸21に対して同軸上に配置されている。
【0033】
端面部113は、外側円筒部111と内側円筒部112の回転軸方向ADの一端側同士を結ぶ連結部である。端面部113は、円盤形状に構成されている。すなわち、端面部113は、回転軸21の径方向RDに広がると共に、その中央部に表裏を貫通する円形状の貫通穴が形成されている。
【0034】
本実施形態のプーリ11は、回転軸方向ADの断面がC字形状となっている。そして、外側円筒部111と内側円筒部112との間には、端面部113を底面部とする円環状の空間が形成されている。
【0035】
外側円筒部111と内側円筒部112との間に形成される空間は、回転軸21に対して同軸上となっている。外側円筒部111と内側円筒部112との間に形成される空間には、電磁石12が配置されている。
【0036】
ここで、電磁石12は、ステータ121、およびステータ121の内部に配置されたコイル122等を有する。ステータ121は、鉄等の強磁性材料で環状に形成されている。コイル122は、エポキシ樹脂等の絶縁性の樹脂材料でモールディングされた状態でステータ121に固定されている。なお、電磁石12への通電は、図示しない空調制御装置から出力される制御電圧によって行われる。
【0037】
外側円筒部111、内側円筒部112、および端面部113は、鉄等の強磁性材料で一体的に形成されている。外側円筒部111、内側円筒部112、および端面部113は、電磁石12に通電することによって生じる磁気回路の一部を構成する。
【0038】
外側円筒部111の外周側には、複数のV字状の溝が形成された樹脂製のV溝部114が形成されている。V溝部114には、エンジン6から出力される回転駆動力を伝達するVベルト7が掛け渡されている。
【0039】
内側円筒部112の内周側には、ボールベアリング17の外周側が固定されている。そして、ボールベアリング17の内周側には、図示しない圧縮機2の外殻を構成するハウジングから動力伝達装置10側へ向けて突出した円筒状のボス部22が固定されている。これにより、プーリ11は、圧縮機2のハウジングに対して回転自在に固定されている。なお、ボス部22は、回転軸21におけるハウジングの外側に露出した根元部分を覆っている。
【0040】
また、端面部113における回転軸方向ADの一端側の外側面は、プーリ11と後述する従動側回転体13のアーマチュア14が連結された際に、当該アーマチュア14と接触する摩擦面を形成している。
【0041】
本実施形態では、図示しないが、端面部113の表面の一部に、端面部113の摩擦係数を増加させるための摩擦部材を配置している。この摩擦部材は、非磁性材料で形成される。摩擦部材としては、アルミナを樹脂で固めたものや、アルミニウム等の金属粉末の焼結体等を採用することができる。
【0042】
続いて、従動側回転体13は、アーマチュア14、インナーハブ15、板バネ16等を有している。アーマチュア14は、径方向RDに広がると共に、その中央部に表裏を貫通する貫通穴が形成された円環状の板部材である。
【0043】
アーマチュア14は、鉄等の強磁性材料で形成されている。アーマチュア14は、プーリ11と共に、電磁石12に通電された際に生じる電磁力の磁気回路の一部を構成する。
【0044】
アーマチュア14は、所定の微小間隙(例えば、0.5mm程度)を隔ててプーリ11の端面部113に対向配置されている。アーマチュア14のうち、プーリ11の端面部113に対向する平坦部は、プーリ11とアーマチュア14とが連結された際に、端面部113と接触する摩擦面を形成している。
【0045】
また、本実施形態のアーマチュア14は、径方向の中間部分に磁気遮断用の溝部141が形成されている。この溝部141は、アーマチュア14の円周方向に沿って延びる円弧状の形状で複数個形成されている。本実施形態のアーマチュア14は、溝部141の外周側に位置する外周部142と、溝部141の内周側に位置する内周部143とに区分される。アーマチュア14の外周部142は、リベット等の締結部材18により後述する板バネ16の外周環状部162に接続されている。
【0046】
インナーハブ15は、アーマチュア14と圧縮機2の回転軸21とを連結する連結部材を構成する。インナーハブ15は、鉄系の金属材料にて形成されている。本実施形態のインナーハブ15は、円筒部151、およびフランジ部152を有する。
【0047】
円筒部151は、円筒形状に構成されており、回転軸21に対して同軸上に配置されている。円筒部151には、回転軸21の一端側が挿入される挿入穴151aが形成されている。インナーハブ15および回転軸21は、挿入穴151aに挿入された状態で締結部30によって連結されている。なお、締結部30の詳細については後述する。
【0048】
円筒部151には、円筒部151の回転軸方向ADの一端側から径方向RDの外側に広がるフランジ部152が一体に形成されている。フランジ部152は、径方向RDに広がる円盤形状に構成されている。フランジ部152は、リベット等の締結部材19により後述する板バネ16の内周環状部161に接続されている。
【0049】
板バネ16は、アーマチュア14に対してプーリ11から離れる方向に付勢力を作用させる部材である。この付勢力によって、電磁石12が非通電状態となっていて電磁力を発生させていないときには、アーマチュア14の平坦部とプーリ11の端面部113との間に隙間が生ずる。
【0050】
板バネ16は、鉄系の金属材料にて構成される円形の板状部材である。板バネ16は、中心部が開口した内周環状部161、内周環状部161の径方向RDの外側に配置された外周環状部162を有する。前述の如く、板バネ16は、内周環状部161がインナーハブ15のフランジ部152に接続され、外周環状部162がアーマチュア14の外周部142に接続されている。
【0051】
内周環状部161と外周環状部162との間には、複数の開口窓部163が形成されている。複数の開口窓部163は、板バネ16の円周方向に等間隔に形成されている。なお、図示しないが、板バネ16のうち、複数の開口窓部163それぞれの間には、径方向RDに延びる連結部が形成される。この連結部によって、内周環状部161と外周環状部162とが一体に連結されている。
【0052】
また、図示しないが、板バネ16とアーマチュア14との間には、板状の弾性部材が介在されている。この弾性部材および締結部材18によって、板バネ16の外周環状部162とアーマチュア14の外周部142との間が一体に結合されている。弾性部材は、板バネ16とアーマチュア14との間のトルク伝達機能を果たすと共に、振動抑制作用を果たすゴム系の弾性材である。
【0053】
次に、従動側回転体13を構成するインナーハブ15と回転軸21とを締結する締結部30について、図3を参照して説明する。図3は、図2における締結部30を含む要部の拡大図である。
【0054】
図3に示すように、締結部30は、円筒部151の挿入穴151aの内周側に形成された雌ネジ31、および回転軸21に形成されて回転軸21が挿入された状態で雌ネジ31に螺合された雄ネジ32で構成されている。雄ネジ32は、所定の締付トルクで雌ネジ31に締結される。
【0055】
本実施形態では、円筒部151の挿入穴151aの内周側の全域に雌ネジ31が形成されている。なお、雌ネジ31は、円筒部151の挿入穴151aの内周側の一部に形成されていてもよい。
【0056】
また、回転軸21における雌ネジ31に対向するネジ対向部位211には、雄ネジ32が形成されたネジ形成部位211aと、雄ネジ32が形成されていない非ネジ形成部位211b、211cとが設定されている。
【0057】
本実施形態では、ネジ対向部位211のうち、ネジ形成部位211aよりも回転軸21の根元側に近い部位に非ネジ形成部位211bを設けている。また、本実施形態では、ネジ対向部位211のうち、ネジ形成部位211aよりも回転軸21の先端側に近い部位に非ネジ形成部位211cを設けている。すなわち、本実施形態では、非ネジ形成部位211b、211cが、ネジ対向部位211のうち、回転軸21の先端側および回転軸21の根元側の部位の双方に設定されている。
【0058】
そして、ネジ形成部位211aは、回転軸方向ADにおいて、非ネジ形成部位211b、211cの間に設定されている。なお、回転軸21における先端側の部位は、回転軸21における従動側回転体13側に露出した部位の先端側の部位に相当する。また、回転軸21の根元側の部位は、回転軸21における従動側回転体13側に露出した部位の根元側の部位に相当する。
【0059】
そして、締結部30は、圧縮機2がロックした際に、回転軸21に形成した雄ネジ32よりも先に、インナーハブ15側の雌ネジ31が破断するように、雌ネジ31の強度が設定されている。
【0060】
雌ネジ31のネジ山は、回転軸21の回転方向に作用する方向によって発生する軸力に対する破断強度が、図4に示すように、雄ネジ32のネジ山の破断強度よりも小さくなっている。なお、破断強度とは、ネジに作用する軸力によりネジ山が破断するときの応力、すなわち、引張り強さを意味する。
【0061】
本実施形態では、雌ネジ31が形成されたインナーハブ15を、雄ネジ32が形成された回転軸21よりも強度の低い材料で構成することで、雌ネジ31のネジ山の破断強度を雄ネジ32のネジ山の破断強度よりも小さくしている。具体的には、インナーハブ15を炭素の含有量が0.3%以下の低炭素鋼で構成し、回転軸21を炭素の含有量が0.7%以上の高炭素鋼で構成している。なお、雌ネジ31のネジ山は、締付トルクが作用した際に生ずる軸力に耐えられる破断強度に設定されている。
【0062】
雌ネジ31および雄ネジ32の破断強度は、回転軸21を回転しないように固定した状態で、インナーハブ15に加えるトルクを増加させた際に、雌ネジ31および雄ネジ32のいずれが先に破断するかによって大小を比較することができる。
【0063】
例えば、雄ネジ32よりも雌ネジ31の方が先に破断した場合には、雌ネジ31の破断強度が雄ネジ32の破断強度よりも小さいことになる。逆に、雌ネジ31よりも雄ネジ32の方が先に破断した場合には、雄ネジ32の破断強度が雌ネジ31の破断強度よりも小さいことになる。
【0064】
また、本実施形態の締結部30は、圧縮機2がロックした際に、回転軸21よりも先に破断するように強度が設定されている。締結部30の強度は、雌ネジ31と雄ネジ32との嵌め合い長さが短くなるに伴って低下する。このため、本実施形態では、雌ネジ31と雄ネジ32との嵌め合い長さが、締結部30が回転軸21よりも強度が小さくなるように、設定されている。
【0065】
ここで、本実施形態の回転軸21は、インナーハブ15の内周側に位置付けられるネジ対向部位211の径をハウジング側の部位の径よりも小さい径とするための段差部212が形成されている。この段差部212とインナーハブ15の円筒部151の端部との間には、円筒状のスペーサ35が配置されている。
【0066】
スペーサ35は、電磁石12を非通電状態とした際のアーマチュア14の平坦部とプーリ11の端面部113との隙間を調整するために設けられている。また、スペーサ35は、インナーハブ15の座金としても機能する。
【0067】
次に、本実施形態の動力伝達装置10の作動を説明する。電磁石12が非通電状態になっている場合には、電磁石12の電磁力が生じない。このため、アーマチュア14は、板バネ16の付勢力によってプーリ11の端面部113から所定間隔離れた位置に保持される。
【0068】
これにより、エンジン6からの回転駆動力はVベルト7を介してプーリ11に伝達されるだけで、アーマチュア14およびインナーハブ15へは伝達されず、プーリ11だけがボールベアリング17上で空転する。すなわち、駆動対象装置である圧縮機2は停止している。
【0069】
これに対して、電磁石12が通電状態になっている場合には、電磁石12の電磁力が発生する。当該電磁力によって、アーマチュア14が板バネの付勢力に抗してプーリ11の端面部113側に吸引されることで、アーマチュア14がプーリ11に吸着される。これにより、プーリ11の回転がアーマチュア14へ伝達されて、板バネ16、インナーハブ15を構成する従動側回転体13が回転する。
【0070】
この際、圧縮機2にロックが生じていなければ、インナーハブ15の回転が、圧縮機2の回転軸21に伝達されることで、圧縮機2が作動する。すなわち、エンジン6から出力された回転駆動力が、動力伝達装置10を介して圧縮機2に伝達されることで、圧縮機2が作動する。
【0071】
一方、圧縮機2にロックが生じ、回転軸21が回転できない場合には、インナーハブ15が回転することで、締結部30の雌ネジ31が雄ネジ32に締め付けられて軸力が発生する。
【0072】
この際、インナーハブ15の回転軸方向ADの位置は、回転軸21の段差部212によって規制されている。このため、締結部30の雌ネジ31および雄ネジ32に対して過大な軸力が作用する。
【0073】
ここで、本実施形態の雌ネジ31のネジ山は、雄ネジ32のネジ山よりも破断強度が小さくなっている。このため、締結部30の雌ネジ31および雄ネジ32に対して過大な軸力が作用すると、雄ネジ32のネジ山よりも先に雌ネジ31のネジ山が削れて破断する。
【0074】
締結部30の雌ネジ31が破断すると、図5に示すように、インナーハブ15は、従動側回転体13が回転軸21から切り離される。このため、プーリ11の回転が、アーマチュア14およびインナーハブ15に伝達されるだけで、回転軸21には伝達されず、プーリ11、アーマチュア14、インナーハブ15が回転軸21上で空転する。すなわち、エンジン6から圧縮機2への回転駆動力の伝達が遮断される。
【0075】
ここで、図6は、本実施形態の比較例となる動力伝達装置の正常時における締結部30Aの拡大図である。比較例は、図6に示すように、回転軸21Aにおける雌ネジ31Aに対向するネジ対向部位211Aに雄ネジ32Aが形成されたネジ形成部位211aだけが設定されており、非ネジ形成部位211bが設定されていない点が本実施形態と異なる。比較例の他の構成については、本実施形態と同様に構成されている。
【0076】
比較例の如く、回転軸21Aのネジ対向部位211にネジ形成部位211aだけが設定された構成では、締結部30の雌ネジ31Aおよび雄ネジ32Aに対して過大な軸力が作用すると、図7に示すように、雌ネジ31Aのネジ山の全てが削れて破断する。
【0077】
そして、雌ネジ31Aの破断によって、インナーハブ15Aが回転軸21Aから切り離される。この後、図8に示すように、インナーハブ15Aに対して回転軸21Aの根元側から先端側に向かう力が作用すると、インナーハブ15Aが回転軸21Aから脱落する。
【0078】
これに対して、本実施形態では、ネジ対向部位211のうち、回転軸21の根元側に非ネジ形成部位211bを設定している。このため、図5に示すように、雌ネジ31における非ネジ形成部位211bに対向する部位は、締結部30に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、挿入穴151aにおける回転軸21の根元側に残存した雌ネジ31のネジ山が、回転軸方向ADにおいて、回転軸21の雄ネジ32のネジ山と干渉する配置構造となる。このため、インナーハブ15は、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後も回転軸21から脱落することはない。
【0079】
以上説明した本実施形態の動力伝達装置10は、締結部30に対して過大な軸力が作用すると、雌ネジ31における回転軸21のネジ形成部位211aに対向する部位のネジ山が破断する。これにより、従動側回転体13が回転軸21から切り離され、従動側回転体13から回転軸21への動力の伝達が遮断される。
【0080】
また、雌ネジ31における回転軸21の根元側に存する非ネジ形成部位211bに対向する部位では、締結部30に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸21の根元側に残存した雌ネジ31のネジ山が、回転軸21の軸方向において、回転軸21の雄ネジ32のネジ山と干渉する配置構造となる。このため、従動側回転体13は、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後も回転軸21から脱落することはない。
【0081】
このように、本実施形態では、雌ネジ31における回転軸21の根元側に存する非ネジ形成部位211bに対向する部位に形成されるネジ山が、従動側回転体13の回転軸21からの脱落を防止するストッパとして機能する。従って、部品点数を増やすことなく、従動側回転体13が回転軸21から切り離された際の従動側回転体13の脱落を防止可能な動力伝達装置10を実現することができる。
【0082】
ここで、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後は、従動側回転体13の回転が不安定となり、従動側回転体13が意図せずに他の部材に接触して、他の部材が損傷してしまうことが懸念される。
【0083】
これに対して、本実施形態では、ネジ対向部位211のうち、ネジ形成部位211aよりも回転軸21の先端側に近い部位にも非ネジ形成部位211cを設定している。このため、雌ネジ31における回転軸21の先端側に存する非ネジ形成部位211cに対向する部位では、締結部30に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸21の先端側に残存した雌ネジ31のネジ山が、回転軸21の軸方向において、回転軸21に形成された雄ネジ32のネジ山と干渉する配置構造となる。
【0084】
このため、従動側回転体13は、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後も、回転軸方向ADにおける位置が、各非ネジ形成部位211b、211cにより規制される。これにより、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後に、従動側回転体13の回転が不安定となってしまうことを抑制することができる。
【0085】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図9図11を参照して説明する。本実施形態では、圧縮機2がロックした際に、インナーハブ15側の雌ネジ31よりも先に、回転軸21に形成された雄ネジ32が破断する構成としている点が第1実施形態と異なっている。
【0086】
本実施形態のインナーハブ15と回転軸21とを締結する締結部30について、図9を参照して説明する。図9は、第1実施形態の図3に対応しており、締結部30を含む要部の拡大図である。
【0087】
図9に示すように、回転軸21には、回転軸方向ADのほぼ全域に雄ネジ32が形成されている。なお、雄ネジ32は、回転軸21における回転軸方向ADの一部に形成されていてもよい。
【0088】
また、挿入穴151aの内周側における雄ネジ32に対向するネジ対向部位153には、雌ネジ31が形成されたネジ形成部位153aと、雌ネジ31が形成されていない非ネジ形成部位153b、153cとが設定されている。
【0089】
本実施形態では、ネジ対向部位153のうち、ネジ形成部位153aよりも回転軸21の根元側に近い部位に非ネジ形成部位153bを設けている。また、本実施形態では、ネジ対向部位153のうち、ネジ形成部位153aよりも回転軸21の先端側に近い部位に非ネジ形成部位153cを設けている。すなわち、本実施形態では、非ネジ形成部位153b、153cが、ネジ対向部位153のうち、回転軸21の先端側および回転軸21の根元側の部位の双方に設定されている。
【0090】
そして、ネジ形成部位153aは、回転軸方向ADにおいて、非ネジ形成部位153b、153cの間に設定されている。なお、挿入穴151aにおける回転軸21の先端側の部位は、挿入穴151aにおける回転軸21の先端側に近い部位に相当する。また、挿入穴151aにおける回転軸21の根元側の部位は、挿入穴151aにおける回転軸21の根元側に近い部位に相当する。
【0091】
そして、締結部30は、圧縮機2がロックした際に、インナーハブ15側の雌ネジ31よりも先に、回転軸21に形成した雄ネジ32が破断するように、雄ネジ32の強度が設定されている。
【0092】
雄ネジ32のネジ山は、回転軸21の回転方向に作用する方向によって発生する軸力に対する破断強度が、図10に示すように、雌ネジ31のネジ山の破断強度よりも小さくなっている。
【0093】
本実施形態では、雌ネジ31が形成されたインナーハブ15を雄ネジ32が形成された回転軸21よりも強度の高い材料で構成することで、雄ネジ32のネジ山の破断強度を雌ネジ31のネジ山の破断強度よりも小さくしている。
【0094】
具体的には、インナーハブ15を高炭素鋼で構成し、回転軸21を炭素の含有量が0.3%を超え0.7%未満の中炭素鋼で構成している。なお、雌ネジ31のネジ山は、締付トルクが作用した際に生ずる軸力に耐えられる破断強度に設定されている。
【0095】
ここで、雌ネジ31および雄ネジ32の破断強度は、回転軸21を回転しないように固定した状態で、インナーハブ15に加えるトルクを増加させた際に、雌ネジ31および雄ネジ32のいずれが先に破断するかによって大小を比較することができる。
【0096】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。以下、本実施形態の動力伝達装置10の作動について説明する。なお、本実施形態の動力伝達装置10は、圧縮機2にロックが生じていない場合の作動が、第1実施形態と同様となることから、その説明を省略する。
【0097】
本実施形態の動力伝達装置10は、圧縮機2にロックが生じ、回転軸21が回転できない場合、インナーハブ15が回転することで、締結部30の雌ネジ31が雄ネジ32に締め付けられて軸力が発生する。この際、インナーハブ15の回転軸方向ADの位置は、回転軸21の段差部212によって規制されている。このため、締結部30の雌ネジ31および雄ネジ32に対して過大な軸力が作用する。
【0098】
ここで、本実施形態の雄ネジ32のネジ山は、雌ネジ31のネジ山よりも破断強度が小さくなっている。このため、締結部30の雌ネジ31および雄ネジ32に対して過大な軸力が作用すると、雌ネジ31のネジ山よりも先に雄ネジ32のネジ山が削れて破断する。
【0099】
締結部30の雄ネジ32が破断すると、図11に示すように、インナーハブ15は、従動側回転体13が回転軸21から切り離される。これにより、エンジン6から圧縮機2への回転駆動力の伝達が遮断される。
【0100】
また、本実施形態では、ネジ対向部位153のうち、挿入穴151aにおける回転軸21の根元側に非ネジ形成部位153bを設定している。このため、図11に示すように、雄ネジ32における非ネジ形成部位153bに対向する部位は、締結部30に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸21の根元側に残存する雄ネジ32のネジ山が、回転軸方向ADにおいて、挿入穴151aに形成された雌ネジ31のネジ山と干渉する配置構造となる。このため、インナーハブ15は、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後も回転軸21から脱落することはない。
【0101】
以上説明した本実施形態の動力伝達装置10は、締結部30に対して過大な軸力が作用すると、雄ネジ32におけるネジ形成部位153aに対向する部位のネジ山が破断する。これにより、従動側回転体13が回転軸21から切り離され、従動側回転体13から回転軸21への動力の伝達が遮断される。
【0102】
また、雄ネジ32における回転軸21の根元側に存する非ネジ形成部位153bに対向する部位では、締結部30に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸21の根元側に残存した雄ネジ32のネジ山が、回転軸21の軸方向において、挿入穴151aに形成された雌ネジ31のネジ山と干渉する配置構造となる。このため、従動側回転体13は、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後も回転軸21から脱落することはない。
【0103】
このように、本実施形態では、雄ネジ32における回転軸21の根元側に存する非ネジ形成部位153bに対向する部位に形成されるネジ山が、従動側回転体13の回転軸21からの脱落を防止するストッパとして機能する。従って、部品点数を増やすことなく、従動側回転体13が回転軸21から切り離された際の従動側回転体13の脱落を防止可能な動力伝達装置10を実現することができる。
【0104】
さらに、本実施形態では、ネジ対向部位153のうち、ネジ形成部位153aよりも回転軸21の先端側に近い部位にも非ネジ形成部位153cを設定している。このため、雄ネジ32における回転軸21の先端側に存する非ネジ形成部位153cに対向する部位では、締結部30に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸21の先端側に残存した雄ネジ32のネジ山が、回転軸21の軸方向において、挿入穴151aの内周側に形成された雌ネジ31のネジ山と干渉する配置構造となる。
【0105】
このため、従動側回転体13は、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後も、回転軸方向ADにおける位置が、各非ネジ形成部位153b、153cにより規制される。これにより、従動側回転体13が回転軸21から切り離された後に、従動側回転体13の回転が不安定となってしまうことを抑制することができる。
【0106】
(他の実施形態)
以上、代表的な実施形態について説明したが、これに限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0107】
上述の第1実施形態では、インナーハブ15を低炭素鋼で構成し、回転軸21を高炭素鋼で構成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、インナーハブ15を炭素の含有量が0.3%を超え0.7%未満の中炭素鋼で構成し、回転軸21を高炭素鋼で構成してもよい。また、インナーハブ15の強度が回転軸21の強度よりも低い構成であれば、インナーハブ15および回転軸21それぞれを炭素鋼以外の材料で構成してもよい。
【0108】
上述の第1実施形態では、非ネジ形成部位211b、211cをネジ対向部位211のうち、回転軸21の根元側に近い部位、および先端側に近い部位の双方に設定する例について説明したが、これに限定されない。例えば、回転軸21の根元側に近い部位に非ネジ形成部位211bを設定し、回転軸21の先端側に近い部位に非ネジ形成部位211cを設定しない構成としてもよい。
【0109】
また、ネジ対向部位211に対してネジ形成部位を2つ以上設定してもよい。この場合、非ネジ形成部位は、複数のネジ形成部位のうち、最も先端側に近いネジ形成部よりも回転軸21の根元側に近い部位に設定すればよい。
【0110】
上述の第2実施形態では、インナーハブ15を高炭素鋼で構成し、回転軸21を中炭素鋼で構成する例について説明したが、これに限定されない。例えば、インナーハブ15を中炭素鋼で構成し、回転軸21を低炭素鋼で構成してもよい。また、インナーハブ15の強度が回転軸21の強度よりも高い構成であれば、インナーハブ15および回転軸21それぞれを炭素鋼以外の材料で構成してもよい。
【0111】
上述の第2実施形態では、非ネジ形成部位153b、153cをネジ対向部位153のうち、回転軸21の根元側に近い部位、および先端側に近い部位の双方に設定する例について説明したが、これに限定されない。例えば、回転軸21の根元側に近い部位に非ネジ形成部位153bを設定し、回転軸21の先端側に近い部位に非ネジ形成部位153cを設定しない構成としてもよい。
【0112】
また、ネジ対向部位153に対してネジ形成部位を2つ以上設定してもよい。この場合、非ネジ形成部位は、複数のネジ形成部位のうち、最も先端側に近いネジ形成部よりも回転軸21の根元側に近い部位に設定すればよい。
【0113】
上述の実施形態では、アーマチュア14とインナーハブ15とを板バネ16で連結する例について説明したが、これに限定されず、例えば、ゴム等の弾性部材によりアーマチュア14とインナーハブ15とを連結してもよい。
【0114】
上述の各実施形態では、動力伝達装置10をエンジン6から圧縮機2への回転駆動力の断続に適用した例について説明したが、これに限定されない。例えば、エンジン6や電動モータ等の駆動源と回転駆動力によって作動する発電機との動力伝達の断続等に動力伝達装置10を適用してもよい。
【0115】
ここで、回転軸21には、通常時においても大きなトルクが作用する場合があり、その強度を充分に確保することが望ましい。このため、第2実施形態の構成よりも第1実施形態の構成の方が、回転軸21の強度を充分に確保することができる点で有効である。
【0116】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0117】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0118】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0119】
(まとめ)
上述の実施形態の一部または全部で示された第1の観点によれば、動力伝達装置は、従動側回転体および回転軸を、従動側回転体の挿入穴の内周側に形成された雌ネジ、および回転軸に形成された雄ネジを有する締結部によって連結する構成となっている。そして、雌ネジのネジ山の破断強度を雄ネジのネジ山の破断強度よりも小さくする。さらに、回転軸における雌ネジに対向するネジ対向部位に、雄ネジが形成されたネジ形成部位と、雄ネジが形成されていない非ネジ形成部位とを設定する。さらに、非ネジ形成部位を、ネジ対向部位のうち、少なくともネジ形成部位よりも回転軸の根元側に近い部位に設定する。
【0120】
また、第2の観点によれば、第1の観点において、非ネジ形成部位を、ネジ対向部位のうち、ネジ形成部位よりも回転軸の先端側に近い部位にも設定する。これによると、雌ネジにおける回転軸の先端側に存する非ネジ形成部位に対向する部位では、締結部に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸の先端側に残存した雌ネジのネジ山が、回転軸の軸方向において、回転軸の雄ネジのネジ山と干渉する配置構造となる。このため、従動側回転体は、回転軸から切り離された後も、回転軸方向における位置が、各非ネジ形成部位により規制される。これにより、従動側回転体が回転軸から切り離された後に、従動側回転体の回転が不安定となってしまうことを抑制することができる。
【0121】
また、第3の観点によれば、動力伝達装置は、従動側回転体および回転軸を、従動側回転体の挿入穴の内周側に形成された雌ネジ、および回転軸に形成された雄ネジを有する締結部によって連結する構成となっている。そして、雄ネジのネジ山の破断強度を雌ネジのネジ山の破断強度よりも小さくする。さらに、挿入穴の内周側における雄ネジに対向するネジ対向部位に、雌ネジが形成されたネジ形成部位と、雌ネジが形成されていない非ネジ形成部位とを設定する。さらに、非ネジ形成部位を、ネジ対向部位のうち、少なくともネジ形成部位よりも回転軸の根元側に近い部位に設定する。
【0122】
また、第4の観点によれば、第3の観点において、非ネジ形成部位を、ネジ対向部位のうち、ネジ形成部位よりも回転軸の先端側に近い部位にも設定する。これによると、雄ネジにおける回転軸の先端側に存する非ネジ形成部位に対向する部位では、締結部に対して過大な軸力が作用してもネジ山が破断せずに残存する。そして、回転軸の先端側に残存した雄ネジのネジ山が、回転軸の軸方向において、挿入穴に形成された雌ネジのネジ山と干渉する配置構造となる。このため、従動側回転体は、回転軸から切り離された後も、回転軸方向における位置が、各非ネジ形成部位により規制される。これにより、従動側回転体が回転軸から切り離された後に、従動側回転体の回転が不安定となってしまうことを抑制することができる。
【符号の説明】
【0123】
11 プーリ(駆動側回転体)
12 電磁石
13 従動側回転体
21 回転軸
211 ネジ対向部位
211a ネジ形成部位
211b 非ネジ形成部位
30 締結部
31 雌ネジ
32 雄ネジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11