特許第6606975号(P6606975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606975
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】光ピンセット装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/32 20060101AFI20191111BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20191111BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20191111BHJP
   G02B 21/26 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   G02B21/32
   G02B21/06
   G02B21/36
   G02B21/26
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-211815(P2015-211815)
(22)【出願日】2015年10月28日
(65)【公開番号】特開2017-83644(P2017-83644A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南里 浩太
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健介
【審査官】 貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−325223(JP,A)
【文献】 特開2013−235122(JP,A)
【文献】 特開2001−290083(JP,A)
【文献】 特開2004−303827(JP,A)
【文献】 特開平5−2136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/06 − 21/36
B25J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を出射する光源と、
前記光源からのレーザー光を集光させるレンズと、
前記レンズによりレーザー光を集光させて捕捉した微粒子と当該微粒子の近傍に位置する対象物とを相対的に移動させる駆動手段と、
捕捉した前記微粒子と前記レンズの焦点との距離を求めるための検出信号を出力する検出器と、
前記検出信号から求められた前記距離に基づいて前記微粒子の捕捉力を示す捕捉力データを求める捕捉力演算部と、
捕捉した微粒子と前記レンズの焦点との距離と、当該微粒子の捕捉力との間で成り立つ線形関係に基づいて推定される捕捉力の理論値と、前記捕捉力データが示す捕捉力との差を求める差演算部と、
前記捕捉力の差に基づいて前記光源のレーザー出力を制御する出力制御部と、
を備えている、光ピンセット装置。
【請求項2】
前記差演算部は、前記差を、前記光源からのレーザー光の出力と相関がある当該光源に入力する電流値に変換し、
前記出力制御部は、前記電流値を加減するフィードバック制御を行う、請求項1に記載の光ピンセット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピンセット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば1μm程度の微粒子を捕捉し、更には移動させる技術として光ピンセット技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。光ピンセット技術は、レーザー光をレンズにより集光させ、集光点に近づけた微粒子に作用する光圧力によってこの微粒子を捕捉することができる。この光ピンセット技術では、例えば微粒子を液体中に存在させ、この微粒子とその周囲の液体との間に屈折率の差を設け、微粒子に作用する光圧力の合力が集光点に向くことで微粒子を捕捉し続けることが可能となる。
【0003】
このような光ピンセット技術によって微粒子を捕捉するためには、微粒子が光透過性(レーザー光透過性)を有しており、また、微粒子の屈折率(n2)がその周囲の液体の屈折率(n1)よりも大きい(n2>n1)ことが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−235319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ピンセット技術では、レーザー光の集光点、つまり、レーザー光を集光させるレンズの焦点と、微粒子を含むサンプルとを相対的に移動させることで、微粒子は集光点に追従するようにして周囲の液体に対して移動することができる。また、微粒子の捕捉力はレーザー光の光圧力に起因しており、この捕捉力と、微粒子とレンズの焦点(集光点)との距離とは線形関係にあることが知られている。
【0006】
更に、光ピンセット技術により捕捉した微粒子を、サンプル内に存在させた対象物の表面から離れた領域で移動させる場合は、前記のように捕捉力と、微粒子と焦点との距離との関係は線形にあるが、対象物の表面に近い領域で微粒子を移動させる場合、捕捉力と前記距離との関係が非線形になってしまうことが知られている。その原因としては、静電気、レーザー光の反射による定在波等が挙げられる。このため、捕捉した微粒子を移動させようとしても、対象物の表面付近では、それ以外の領域と異なる挙動を示し、また、その挙動は予測不能である。
【0007】
そして、光ピンセット技術を用いて、対象物との間の表面力や表面形状の計測等を行うことがあるが、この場合、微粒子を捕捉して対象物の表面付近を移動させる必要がある。しかし、前記のとおり、対象物の表面に近い領域では、微粒子の捕捉力と前記距離との関係が非線形であることから、表面と離れた領域の場合と同様に線形条件に基づいて光ピンセット装置を制御しても、微粒子が意図せぬ挙動を示し、微粒子を逸脱してしまうことがある。
【0008】
そこで、本発明は、対象物の表面に近い領域で捕捉した微粒子を移動させる場合であっても、その微粒子を安定して捕捉し移動させることを可能とする光ピンセット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光ピンセット装置は、レーザー光を出射する光源と、前記光源からのレーザー光を集光させるレンズと、前記レンズによりレーザー光を集光させて捕捉した微粒子と当該微粒子の近傍に位置する対象物とを相対的に移動させる駆動手段と、捕捉した前記微粒子と前記レンズの焦点との距離を求めるための検出信号を出力する検出器と、前記検出信号から求められた前記距離に基づいて前記微粒子の捕捉力を示す捕捉力データを求める捕捉力演算部と、捕捉した微粒子と前記レンズの焦点との距離と、当該微粒子の捕捉力との間で成り立つ線形関係に基づいて推定される捕捉力の理論値と、前記捕捉力データが示す捕捉力との差を求める差演算部と、前記捕捉力の差に基づいて前記光源のレーザー出力を制御する出力制御部と、を備えている。
【0010】
捕捉している微粒子の捕捉力と、微粒子とレンズの焦点との距離との関係は、対象物の表面から離れた領域では線形であるのに対して、表面付近では非線形であり予測不能であるが、前記光ピンセット装置によれば、対象物の表面に近い領域で捕捉した微粒子を移動させる場合であっても、光源のレーザー出力を制御して、微粒子の捕捉力を、微粒子とレンズの焦点との距離との関係が線形に近づくように補うことができ、この結果、微粒子を安定して捕捉し移動させることが可能となる。
【0011】
また、前記差演算部は、前記差を、前記光源からのレーザー光の出力と相関がある当該光源に入力する電流値に変換し、前記出力制御部は、前記電流値を加減するフィードバック制御を行うのが好ましい。この構成によれば、光源のレーザー光の出力を調整して所望の捕捉力を得ることが容易となり、微粒子をより一層安定して捕捉し移動させることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象物の表面に近い領域で捕捉した微粒子を移動させる場合であっても、その微粒子を安定して捕捉し移動させ、微粒子の逸脱を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】光ピンセット装置の全体構成を説明する説明図である。
図2】検出器の機能を説明するためのイメージ図である。
図3】捕捉する微粒子及びレンズ等を示す説明図である。
図4】微粒子の捕捉力と、微粒子−焦点間の距離との関係を示す説明図である。
図5】光源に入力する電流値と、光源からのレーザー光の出力(パワー)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、光ピンセット装置1の全体構成を説明する説明図である。光ピンセット装置1は、レーザー光用の光源10、導光手段(21〜27)、第一レンズ28、照明用の光源30、第二レンズ31、ミラー(第三ミラー)33、検出器40、装置ベース45、ステージ46、駆動手段48、撮像手段50、及び制御手段60を含む。
【0015】
この光ピンセット装置1では、後にも説明するが、作業床に固定状態にある装置ベース45に対してステージ46が駆動手段48によって移動可能として構成されており、その他の機器である光源10、レンズ28,31、検出器40、撮像手段50等は装置ベース45に固定状態として設けられており、これらは装置ベース45に対して移動しない。
【0016】
レーザー光用の光源10は、レーザー光(レーザービーム)Lを出射するレーザー装置であり、制御手段60からの制御信号に基づいて第一波長のレーザー光Lを出射する。このレーザー光Lに基づく光ピンセット技術によって、ステージ46に搭載されている保持部材(例えばプレパラート)47に保持されている微粒子が捕捉される(光トラップされる)。
【0017】
導光手段(21〜27)は、光源10から出射させたレーザー光Lを、第一レンズ28へと導くためのものである。導光手段(21〜27)を順に説明する。
第一反射ミラー21は、光源10からのレーザー光Lを反射して第一絞り22へ入射させる。第一絞り22は、入射したレーザー光Lの径を絞って第一コリメートレンズ23へ出射する。第一コリメートレンズ23は、レーザー光Lの径を拡大して第二コリメートレンズ24へ出射する。第二コリメートレンズ24は、径が拡大されたレーザー光Lを平行光に変換して第二絞り25へ出射する。第二絞り25は、平行光とされたレーザー光Lの径を絞って第一ミラー26に向けて出射する。第一ミラー26は、入射するレーザー光Lを第二ミラー27に向けて反射する。第二ミラー27は、入射するレーザー光Lを第一レンズ28に向けて反射する。
【0018】
第一レンズ28は、第二ミラー27から入射するレーザー光Lを保持部材47に設定した焦点位置に向けて集光する。このレンズ28により集光させたレーザー光Lによって、その集光点(レンズ28の焦点)に近づけた微粒子を捕捉することができる。また、集光させたレーザー光Lは、微粒子を透過して第二レンズ31に入射する。微粒子を透過して第二レンズ31に入射したレーザー光Lは、第三ミラー33に向けて出射され、第三ミラー33によって反射され、検出器40に入射する。また、ミラー33,26は、照明用の光源30からの照明光Sを透過させる。
【0019】
照明用の光源30は例えばLED照明であり、制御手段60からの制御信号に基づいて第二波長の照明光Sを出射する。この照明光Sは、保持部材47に保持されている微粒子の状態を観測する撮像手段50のための照明となる。照明光Sは、第三ミラー33を透過し、第二レンズ31によって集光され、その後、第一レンズ28を透過し、第二ミラー27によって反射され、第一ミラー26を透過し、撮像手段50に到達する。
【0020】
ステージ46は、微粒子を保持する保持部材47を搭載する。保持部材47には(図3参照)、流体W、及び、この流体Wに含まれ捕捉の対象とする微粒子Cが保持されている。また、保持部材47には、レーザー光Lによって捕捉されない対象物Bが保持されている。この対象物Bと捕捉した微粒子Cとが相対的に移動することとなる。また、この流体Wには、捕捉の対象としない微粒子(図示せず)が含まれていてもよい。本実施形態では、前記流体Wは液体である。なお、この流体Wの屈折率(n1)は、微粒子の屈折率(n2)よりも小さい(n1<n2)。
【0021】
ステージ46は、前後、左右、上下に移動可能として支持されており、駆動手段48がステージ46を前後、左右、上下に移動させる。図1では、前後方向、左右方向、及び上下方向をそれぞれX軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向として示している。駆動手段48は、制御手段60からの制御信号に基づいて、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の少なくとも一方向にステージ46を移動させることで、保持部材47を同方向に移動させる。駆動手段48は、例えばピエゾ素子を用いたアクチュエータからなる。本実施形態では、X−Y平面に沿ってX軸方向にステージ46を移動させる場合について説明する。
【0022】
このように、図1に示す光ピンセット装置1では、駆動手段48によって集光点(レンズ28の焦点)は移動せず、この結果、この集光点(焦点)に近づいて捕捉される微粒子は、駆動手段48によって移動しない。これに対して、駆動手段48によってステージ46が保持部材47と共に移動することから、前記集光点に近づいて捕捉される微粒子Cに対して(図3参照)、その周囲の流体W、前記対象物B(及び、流体Wに含まれる捕捉されていない微粒子)が移動することとなる。また、以下では、保持部材47(図3参照)内の前記対象物Bの表面付近を、この表面に沿って微粒子Cが相対的に移動する場合について説明する。
なお、図1に示す形態とは異なって、ステージ46は固定であり、集光点(レンズ28)が移動する構成であってもよい。
【0023】
検出器40は、基準位置に対するレーザー光Lの入射位置を検出する位置検出器からなり、本実施形態の検出器40は四分割光検出器である。図2は、検出器40の機能を説明するためのイメージ図である。検出器40は、平面部を複数(四つ)に分割して得られた受光部A1,A2,A3,A4を有している。図3は、捕捉する微粒子C及びレンズ28等を示す説明図である。レンズ28(図3参照)の焦点Qを含むX−Y平面座標と、受光部A1,A2,A3,A4(図2参照)におけるX−Y平面座標とが対応付けられており、レンズ28の焦点Qの位置が、受光部A1,A2,A3,A4の中央の基準位置Nに対応している。そして、受光部A1,A2,A3,A4それぞれは、レーザー光Lの受光位置Jに応じた検出信号(電圧信号)を出力する。
【0024】
ここで、前記のとおり、レンズ28(図3参照)に対して、捕捉している微粒子Cを含む保持部材47がX軸方向に移動することから、この微粒子Cは、レンズ28の焦点Qに追従するようにしてX軸方向(移動方向の反対向き)に移動する。
したがって、光源10側からのレーザー光Lが捕捉対象の微粒子Cを通過し、受光部A1,A2,A3,A4に到達するレーザー光Lは、レンズ28の焦点Qの位置に対応している前記基準位置N(図2参照)から、X軸方向に距離d0について離れた位置で受光される。検出器40は四分割光検出器であるため、距離d0は電圧(電圧信号)[V]として出力される。
【0025】
この距離d0[V]は、レーザー光Lにより捕捉している微粒子C(微粒子Cの中心位置)とレンズ28の焦点Qとの間の距離d[m](図3参照)と相関があり、距離d0[V]が刻々と出力される。つまり、検出器40からは、捕捉した微粒子Cとレンズ28の焦点Qとの距離dを求めるための検出信号(電圧信号)[V]が刻々と出力される。
この検出信号は、後に説明する制御手段(コンピュータ装置)60に入力され、この制御手段60が備えている距離演算部61(図1参照)によって処理され、捕捉している微粒子Cの中心とレンズ28の焦点Qとの距離dが刻々と求められる。なお、この距離dは、X−Y平面における値となる。また、前記距離d0は、ステージ46の移動速度によって変動することから、前記距離dも変動する。
【0026】
図1において、撮像手段50は、例えばCCDカメラやCMOSカメラであり、集光点及びその周囲を含む領域を撮像する。撮像手段50は、撮像して得た画像データを制御手段60に出力する。
【0027】
制御手段60は、例えばコンピュータ装置であり、前記のとおり各制御信号を出力し、また、撮像手段50から画像データを取り込む。また、制御手段60は、コンピュータ装置に記憶されているコンピュータプログラムが実行されることで実現される機能部として、距離演算部61、捕捉力演算部62、差演算部63、及び出力制御部64を備えている。
【0028】
距離演算部61は、検出器40からの前記検出信号(電圧信号)に基づいて、捕捉した微粒子Cとレンズ28の焦点Qとの距離d(図3参照)を演算により求める。なお、以下において、捕捉した微粒子Cとレンズ28の焦点Qとの距離dを「微粒子−焦点間の距離d」と呼ぶ。検出器40及び距離演算部61による前記距離dの演算は、光ピンセット技術において従来用いられている手段により行うことが可能であるが、前記距離dの演算処理の一例を説明する。前記のとおり検出器40からは距離d0[V]が刻々と検出される。そこで距離演算部61は、検出された距離d0[V]を、微粒子−焦点間の距離d[m]に校正する(変換する)。つまり、距離演算部61は、式〔d0=−R×d〕を用いて、各時刻における距離d0[V]から距離d[m]を求める。
なお、この式中の「R」は、別の処理により予め求めた値である。「R」は次のようにして求められる。例えば、レーザー光(焦点)に対して、保持部47に固定の微粒子を等速で横切らせる(通過させる)。この際、微粒子はレーザー光により捕捉されない。この等速による操作は、駆動手段48が有するピエゾ素子に与える電圧Vによって行われる。そこで、この電圧Vに対応する距離d0[V]を検出(非線形)し、式〔V=h×d〕により校正を行う。なお、前記式中の「h」は検出器40の特性により既知である。そして、求められた距離d[m]に対応する距離d0[V]の線形部分を抽出することで、式〔d0=−R×d〕の係数「R」が求められる。
【0029】
捕捉力演算部62は、検出器40の前記検出信号から距離演算部61が求めた微粒子−焦点間の距離dに基づいて、微粒子Cの捕捉力を示す捕捉力データを求める。この捕捉力データを求める処理については、後に説明する。
【0030】
ここで、図4は、微粒子Cの捕捉力Txと、微粒子−焦点間の距離dとの関係を示す説明図である。図4のグラフの縦軸が微粒子Cの捕捉力Txを示し、横軸が微粒子−焦点間の距離dを示す。また、図4(A)は、捕捉する微粒子Cが対象物Bの表面から離れた領域を移動する場合を示しており、図4(B)は、捕捉する微粒子Cが対象物Bの表面に接近した領域を移動する場合を示している。図4(A)のグラフに示すように、対象物Bの表面から離れた領域を微粒子Cが移動する場合、距離dと捕捉力Txとは線形関係(比例関係)を有する。これに対して、図4(B)のグラフに示すように、対象物Bの表面の近傍を微粒子Cが移動する場合、距離dと捕捉力Txとは、距離dが小さい範囲では線形関係を有するが、距離dが大きくなると非線形の関係になり、また、相互の関係が不規則である。
【0031】
一般的に、捕捉力Txは、ばね力と同じように線形であり(図4(A)参照)、その線形関係は、式「Tx=k×d+f」で表現される。この式におけるkは定数(光トラップのばね定数)であり、fは外力である。
【0032】
そこで、捕捉力演算部62は、距離演算部61が求めた微粒子−焦点間の距離dに基づいて、式〔Tx=k×d+f〕により、前記捕捉力データを求める。つまり、定数kが定まれば、距離d(d0)を検出することで、捕捉力Txを刻々と求めることができる。
定数kの定め方の一例について説明する。レーザー光によって捕捉した微粒子を等速運動させ、この場合における前記距離d[m]を、距離演算部61による前記の方法で求める。ここで、距離d[m]が一定となっている部分(つまり、加速、減速部分を除いた部分)が存在することから、この際の、距離d[m]をd′[m]とすると、等速であるためTx=0となるため、前記式により式〔k=f/d′〕となり、定数kを求めることができる。この定数kを用いて、式〔Tx=k×d+f〕により、前記捕捉力データが求められる。
【0033】
そして、差演算部63は、微粒子−焦点間の距離dと、微粒子Cの捕捉力Txとの間で成り立つ(対象物Bの表面から離れた領域で得られる)線形関係に基づいて推定される捕捉力の理論値Txiと、前記捕捉力演算部62が求めた前記捕捉力データが示す捕捉力Txaとの差(Txi−Txa)を求める。捕捉力の理論値Txiは、式〔Txi=k×d+f〕で求められる。なお、図4(B)中の二点鎖線は、図4(A)の線形関係を示す直線(Tx=k×d+f)であり、差演算部63は、前記差(Txi−Txa)として、図4(B)に示すΔTの値を求める。
【0034】
ここで、対象物B(図3参照)の表面近傍の微粒子Cに関して、捕捉力演算部62が求める捕捉力Txaは、式〔Txa=k×d+f−β〕で表される。この式中の「β」は、対象物Bに起因する、静電気、レーザー光の反射による定在波等の影響部分であり、変数となる。前記のとおり、差演算部63が差(Txi−Txa)=ΔTを求めるということは、この影響部分であるβ(=ΔT)を求めることであり、後にも説明するが、本実施形態の光ピンセット装置1では、このΔT(β)に基づいて、出力制御部64によるレーザー出力の制御が刻々と繰り返されるフィードバック制御が行われる。
【0035】
なお、捕捉する微粒子C(図3参照)が対象物Bの表面に接近した領域を移動する場合であっても、距離dが小さい場合(図4(B)参照)、微粒子−焦点間の距離dと、微粒子Cの捕捉力Txとの間で線形関係が成り立ち、前記差ΔTの値はゼロとなる。距離dは、例えば捕捉する微粒子Cとの相対的な移動が低速である場合に小さくなり、これとは反対に、移動が高速である場合に大きくなる。
【0036】
そこで、差演算部63は、前記のとおり、対象物Bの表面から離れた領域で得られるはずである線形関係の式に基づいて差ΔT(Txi−Txa)を求めてもよいが、対象物Bの表面の近傍を微粒子Cが移動する場合であって距離dが小さい範囲(図4(B)のkの領域)の線形関係を延長して設定した式に基づいて、差ΔT(Txi−Txa)を求めてもよい。なお、図4(A)に示す直線と(B)に示す直線とで定数kは同じとなる。また、図4(A)(B)に示す関係(データ)は、実験値や計算値から求めることができる。
【0037】
出力制御部64は、前記差演算部63が求めた捕捉力TXの差ΔT(Txi−Txa)に基づいて、光源10のレーザー出力を制御する。すなわち、図4(B)において、微粒子−焦点間の距離dと微粒子の捕捉力Txとが、図4(A)の場合と同様に、全領域で線形関係を得るためには、出力制御部64は、求められた前記捕捉力Txの差ΔT(Txi−Txa)を補うように光源10のレーザー出力を制御する。具体的に説明すると、本実施形態では、捕捉力の差(Txi−Txa)が正の値であり、線形関係を確保するためには捕捉力が不足していることから、差ΔT(Txi−Txa)について捕捉力を増加させるために、光源10のレーザー出力を増やす制御を行う。なお、差ΔT(Txi−Txa)が負の値である場合、レーザー出力を下げる制御が行われる。
【0038】
本実施形態の光源10は、半導体レーザーを用いたものであり、図5に示すように、この半導体レーザーに入力する電流値Iと、光源10からのレーザー光Lの出力(パワー)Pとは比例関係にある。さらに、レーザー光Lの出力Pと、レーザー光Lによる微粒子の捕捉力Tとは、次の式(1)に示すように比例関係にある。なお、式(1)中のαは、微粒子の屈折率、透過率、周囲の液体(溶媒)の屈折率、レーザー光Lのビームウエストに起因する係数である。
【0039】
【数1】
【0040】
図5に示す電流値Iと出力Pとの比例関係、及び前記式(1)に示す出力Pと捕捉力Tとの比例関係により、電流値Iと捕捉力Tとの間においても比例関係がある。そこで、この対応関係についての情報が、出力制御部64の内部メモリに記憶されており、出力制御部64は、この情報に基づいて、前記差演算部63が求めた捕捉力の差ΔT(Txi−Txa)に相当する電流値(ΔI)を求め、この電流値(ΔI)を増加(又は減少)させる信号を生成し、この信号により光源10の出力を制御する。
【0041】
そして、これまで説明した、検出器40による距離d0(図2参照)の検出、この距離d0に基づく距離演算部61による微粒子−焦点間の距離d(図3参照)の取得、この距離dに基づく捕捉力演算部62による捕捉力データの取得、この捕捉力データに基づく捕捉力の差ΔT(Txi−Txa)の取得、及び、この差ΔT(Txi−Txa)に基づく出力制御部64によるレーザー出力の制御が刻々と繰り返されるフィードバック制御が、光ピンセット装置1によって行われる。これにより、微粒子Cが対象物Bの表面の近傍を移動する場合であっても、微粒子−焦点間の距離dと捕捉力Tとの関係を、比例関係に近づけることができる。この結果、微粒子−焦点間の距離dとの関係で捕捉力Tを適切に確保して、微粒子Cを逸脱させないようにすることが可能となる。
【0042】
以上、本実施形態の光ピンセット装置1は前記のように構成されているが、例えば図1示す導光手段(21〜27)は他の構成であってもよい。すなわち、光ピンセット装置1は、レーザー光Lを出射する光源10と、この光源10からのレーザー光Lを集光させるレンズ28と、捕捉する対象となる微粒子Cを含む保持部材47を搭載するステージ46とレンズ28とを相対的に移動させる駆動手段48と、捕捉した微粒子Cとレンズ28の焦点Qとの距離dを求めるための検出信号を出力する検出器40と、各種の処理を行うコンピュータ装置からなる制御手段60とを備えている。
【0043】
そして、保持部材47には(図3参照)、液体Wの他に、捕捉する微粒子Cとの関係を調べる対象となる対象物Bが設けられている。したがって、駆動手段48によれば、レンズ28によりレーザー光Lを集光させて捕捉した微粒子Cと、この微粒子Cの近傍に位置する対象物Bとを相対的に移動させることができる。特に本実施形態では、対象物Bの表面付近をこの表面に沿って微粒子Cを移動させる。
【0044】
以上より、捕捉している微粒子Cの捕捉力Tと、微粒子−焦点間の距離dとの関係は、対象物Bの表面から離れた領域では線形であるのに対して、表面付近では非線形であり予測不能であるが、前記構成を備えている光ピンセット装置1によれば、対象物Bの表面に近い領域で捕捉した微粒子Cを移動させる場合であっても、光源10のレーザー出力を制御して、微粒子Cの捕捉力Tを、微粒子−焦点間の距離dとの関係が線形に近づくように補うことができる。この結果、微粒子Cを安定して捕捉し移動させることが可能となる。つまり、対象物Bの表面に近い領域で微粒子Cを捕捉し移動させる場合であっても、その微粒子Cの逸脱を防止することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態では、差演算部63は、前記捕捉力Tの差ΔT(Txi−Txa)を、光源10からのレーザー光Lの出力と相関がある(比例関係にある)光源10に入力する電流値Iに変換し、出力制御部64は、この電流値Iを加減するフィードバック制御を行う。この構成によれば、光源10のレーザー光Lの出力を調整して所望の捕捉力Tを得ることが容易となり、微粒子Cをより一層安定して捕捉し移動させることが可能となる。
【0046】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の光ピンセット装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
また、前記光ピンセット装置1を用いて、微粒子を捕捉して対象物との間で相対的に移動させることで、対象物の表面形状を計測したり、対象物との間の表面力を計測したり、対象物に対してマイクロ加工することができる。また、微粒子の捕捉力を求めることで、対象物B周囲の液体Wの粘性等の検出を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0047】
1:光ピンセット装置 10:レーザー光用の光源 28:レンズ
40:検出器 48:駆動手段 62:捕捉力演算部
63:差演算部 64:出力制御部 L:レーザー光
Q:焦点 d:距離 C:微粒子
B:対象物
図1
図2
図3
図4
図5