特許第6606989号(P6606989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6606989-車両制御装置 図000002
  • 特許6606989-車両制御装置 図000003
  • 特許6606989-車両制御装置 図000004
  • 特許6606989-車両制御装置 図000005
  • 特許6606989-車両制御装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606989
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20191111BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20191111BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20191111BHJP
   B60W 30/18 20120101ALI20191111BHJP
【FI】
   F02D29/02 301Z
   F02D29/02 331Z
   B60W10/00 102
   B60W10/02
   B60W10/04
   B60W30/18
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-223305(P2015-223305)
(22)【出願日】2015年11月13日
(65)【公開番号】特開2017-89572(P2017-89572A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年2月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 達也
【審査官】 戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−031945(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/002207(WO,A1)
【文献】 特開2014−083895(JP,A)
【文献】 特開2014−92102(JP,A)
【文献】 特開2015−59639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
B60W 10/02
B60W 10/04
B60W 30/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動源としてのエンジン(10)と、クラッチ(13)を介して前記エンジンと駆動力を供給可能に接続された駆動輪(19)とを備える車両に適用され、車両走行中に所定の実施条件の成立に応じて前記クラッチを動力遮断状態にして前記エンジンから前記駆動輪への駆動力の供給を停止するコースティングを実施する車両制御装置(20)であって、
前記車両の運転者によるアクセルの操作量を示すアクセル開度を取得する開度取得部と、
車速を取得する車速取得部と、
前記アクセル開度との比較を行うための閾値を、取得した前記車速が速いほど前記閾値が大きくなるように求め、前記閾値よりも前記アクセル開度が小さい場合に、前記コースティングを実施する走行制御部と、を備え、
前記閾値として、第1閾値と、前記第1閾値よりも小さい第2閾値が設けられており、
前記アクセル開度が前記第1閾値よりも小さく前記第2閾値以上であれば、前記エンジンの回転数をアイドリング回転数として前記コースティングを行い、前記アクセル開度が前記第2閾値以下であれば、前記エンジンへの燃料の供給を停止して前記コースティングを行うことを特徴とする、車両制御装置。
【請求項2】
前記走行制御部は、前記アクセル開度が減少している場合に、前記コースティングを実施することを特徴とする、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記閾値は、前記車速と前記アクセル開度との相関を示す関数よりも前記アクセル開度が小さい側に設定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを駆動源とする車両制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、減速時に内燃機関から駆動輪への駆動力の供給を停止し、惰性走行を行うことで燃費を向上させるコースティングが行われている。
【0003】
コースティングに関するものとして、特許文献1に記載の車両制御装置がある。特許文献1に記載の車両制御装置では、車両が走行する道路の勾配を検出し、その勾配に応じてコースティングを行うか否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5304350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車両制御装置では、運転者によるアクセルペダルの操作量がゼロである場合に限定し、さらに路面の勾配を用いてコースティングを行うか否かを判定している。このようにコースティングを行う条件を限定すれば、コースティングが可能な期間が短くなり、燃費の向上効果は限定的なものとなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、運転者のアクセル操作に沿った走行を行いつつ燃費を向上させることが可能な車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、走行駆動源としてのエンジンと、エンジンと駆動力を供給可能に接続された駆動輪とを備える車両に適用され、車両走行中に所定の実施条件の成立に応じてエンジンから駆動輪への駆動力の供給を停止するコースティングを実施する車両制御装置であって、車両の運転者によるアクセルの操作量を示すアクセル開度を取得する開度取得部と、車速を取得する車速取得部と、アクセル開度との比較を行うための閾値を、取得した車速に基づいて求め、閾値よりもアクセル開度が小さい場合に、コースティングを実施する走行制御部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
平坦路での走行において、アクセル開度と車速とには相関がある。そのため、運転者が車速の維持を必要とするならば、車速に応じたアクセル開度を維持し、運転者が加速を必要とするならば、アクセルペダルを踏み増してアクセル開度を増加させる。道路が登り勾配であり、運転者が車速の維持や加速を必要とするならば、運転者はアクセルペダルを踏み増すため、車速に対するアクセル開度は大きくなる。また、道路が下り勾配であれば、車速の維持に必要なトルクが減少するため、車速に対するアクセル開度は小さくなる。また運転者が加速の必要が無いと判断した場合には、アクセルペダルの踏込量を小さくしたり、アクセルペダルの操作を中止したりする。すなわち、運転者はいずれの走行の場合でも、車速が遅いと感じればアクセル開度を増加させ、速いと感じれば、アクセル開度を減少させる。よって、車速とアクセル開度との関係により閾値を設定し、アクセル開度がその閾値よりも小さい場合でコースティングを行うものとすることで、運転者が車速が十分であると判断している場合にコースティングを行うものとすることができる。したがって、運転者の操作意思に沿いつつ、燃費を向上させることができる。
【0009】
第2の発明では、第1の発明に加えて、走行制御部は、アクセル開度が減少している場合に、コースティングを実施することを特徴とする。
【0010】
運転者がアクセルペダルを踏み込み、アクセル開度が増加した場合、運転者は車速を増加させる意思を示しているといえる。上記構成では、アクセル開度の増加を条件としてコースティングを中止しているため、運転者の意図に沿った制御を行うことができる。
【0011】
第3の発明では、第1又は第2の発明に加えて、閾値は、車速とアクセル開度との相関を示す関数に基づいて設定されることを特徴とする。
【0012】
一般的に、車速とアクセル開度の相関を関数で表すことができる。本構成では、コースティングを行うか否かを判定するための閾値も車速とアクセル開度との相関を示す関数に基づいて設定しているため、コースティングを行うか否かの判定を精度よく行うことができる。
【0013】
第4の発明では、第1〜第3の発明のいずれかに加えて、閾値として、第1閾値と、第1閾値よりも小さい第2閾値が設けられており、アクセル開度が第1閾値よりも小さく第2閾値以上であれば、エンジンの回転数をアイドリング回転数としてコースティングを行い、アクセル開度が第2閾値以下であれば、エンジンへの燃料の供給を停止してコースティングを行うことを特徴とする。
【0014】
運転者がアクセルペダルを踏んでいれば、アクセルを踏み増すことで加速する可能性がある。本構成では、アクセル開度が第1閾値よりも小さく第2閾値以上である場合にエンジンの回転数をアイドリング回転数としているため、運転者がアクセルペダルを踏み増した際に応答性良く加速させることができる。加えて、運転者がアクセルペダルを踏んでいない場合には、運転者が直ちに再加速を行おうとする可能性は低いといえる。本構成では、アクセル開度が第2閾値よりも小さい場合にエンジンへの燃料の供給を停止してコースティングを行うものとしているため、燃費をさらに向上させることができる。
【0015】
第5の発明では、第1〜第4の発明のいずれかに加えて、エンジンの出力軸の回転数を取得する回転数取得部をさらに備え、走行制御部は、車速の増加速度及び増加量の少なくとも一方が所定値よりも大きく、且つ、回転数の増加速度及び増加量の少なくとも一方が所定値よりも大きい状態で、アクセル開度の減少速度及び減少量の少なくとも一方が所定値よりも小さい場合に、コースティングを実施することを特徴とする。
【0016】
エンジンの回転数の増加速度又は増加量が所定値以上であり、且つ、車速の増加速度又は増加量が所定値以上であれば、運転者がアクセルペダルの踏込量を低減させアクセル開度を小さくしたとしても、その減少速度又は減少量が所定値以下であれば、車両の加速状態を維持することができる。本構成では、上記の条件を満たした場合にコースティングを行うものとしているため、車両の急加速時にもコースティングを行うことができ、燃費を向上させることができる。
【0017】
第6の発明では、走行駆動源としてのエンジンと、エンジンと駆動力を供給可能に接続された駆動輪とを備える車両に適用され、所定の実施条件の成立に応じてエンジンから駆動輪への駆動力の供給を停止するコースティングを実施する車両制御装置であって、車両の運転者によるアクセルの操作量を示すアクセル開度を取得する開度取得部と、車速を取得する車速取得部と、エンジンの出力軸の回転数を取得する回転数取得部と、車速の増加速度及び増加量の少なくとも一方が所定値よりも大きく、且つ、回転数の増加速度及び増加量の少なくとも一方が所定値よりも大きい状態で、アクセル開度の減少速度及び減少量の少なくとも一方が所定値よりも小さい場合に、コースティングを実施する走行制御部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
この第6の発明は、第5の発明と同等の効果を奏する。
【0019】
第7の発明は、第1〜第6の発明のいずれかに加えて、エンジンと駆動輪とはクラッチを介して接続されており、走行制御部は、コースティングを実施する際に、クラッチの接続状態を制御することを特徴とする。
【0020】
この構成により、運転者による再加速が行われる可能性が高い場合には、クラッチの接続状態を維持し、運転者による再加速の指示が行われた場合の応答性の向上を図ることができる。また、路面が下り勾配である場合にクラッチを接続状態とすることで、車両が坂道を転がり落ちることで生ずる運転者の意図しない加速を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】車両制御装置を含む車両制御システムの概略構成図である。
図2】車速とアクセル開度との関係を示す図である。
図3】第1実施形態において車両制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
図4】車両を急加速させる際のタイムチャートである。
図5】第2実施形態において車両制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0023】
<第1実施形態>
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、走行駆動源としてのエンジンを備える車両において、クラッチを動力伝達状態にして走行する通常走行と、クラッチを動力遮断状態にして走行する惰性走行(コースティング走行)とを選択的に実施するものとしている。
【0024】
図1において、エンジン10は、ガソリンや軽油等の燃料の燃焼により駆動される多気筒内燃機関であり、周知のとおり燃料噴射弁や点火装置等を備えている。エンジン10には、スタータモータ11が設けられている。スタータモータ11の回転軸はエンジン10の出力軸12に対して駆動連結されている。エンジン10の始動時には、スタータモータ11の回転によりエンジン10に初期回転(クランキング回転)が付与される。
【0025】
エンジン10の出力軸12には、クラッチ13を介して変速機14が接続されている。クラッチ13は例えば摩擦式クラッチであり、エンジン10の出力軸12に接続されたエンジン10側の円板(フライホイール等)と、変速機14の入力軸15に接続された変速機14側の円板(クラッチディスク等)とを有する一組のクラッチ機構を備えている。クラッチ13において両円板が相互に接触することで、エンジン10と変速機14との間で動力が伝達される動力伝達状態となり、両円板が相互に離間することで、エンジン10と変速機14との間の動力伝達が遮断される動力遮断状態となる。本実施形態のクラッチ13は、接続状態と遮断状態との切り替えをモータ等のアクチュエータによって行う自動クラッチとして構成されている。なお、変速機14の内部にクラッチ13が設けられる構成であってもよい。
【0026】
変速機14は複数の変速段を有する自動変速機である。変速機14は、入力軸15から入力されるエンジン10の動力を、車速やエンジン回転数、シフト位置に応じた変速比により変速して出力軸16に出力する。シフト位置は、運転席に設けられたシフト操作部材としてのシフトレバー(図示略)をドライバが操作することにより選択される。本システムでは、シフト位置として前進レンジ(Dレンジ)、後退レンジ(Rレンジ)及びニュートラルレンジ(Nレンジ)が設けられている。変速機14はモータや油圧装置等のアクチュエータよりなる自動シフト機構を備えており、走行レンジであるDレンジでは変速段が自動的に切り替えられる。変速機14の出力軸16には、ディファレンシャルギア17及びドライブシャフト18を介して駆動輪19が接続されている。
【0027】
本システムでは、システム全体を統括する制御装置としてECU20と、クラッチ13を制御するクラッチ制御装置21、及び変速機14を制御するトランスミッション制御装置22とを備えている。これらECU20、クラッチ制御装置21、及びトランスミッション制御装置22は、いずれもマイクロコンピュータ等を備えてなる周知の電子制御装置であり、本システムに設けられている各種センサの検出結果等に基づいて、エンジン10、クラッチ13、及び変速機14等の制御を実施する。ECU20とクラッチ制御装置21及びトランスミッション制御装置22は相互に通信可能に接続されており、制御信号やデータ信号等を互いに共有できるものとなっている。なお本実施形態では、ECU20により「車両制御装置」を構成するが、これに限らず、ECU20、クラッチ制御装置21、及びトランスミッション制御装置22により車両制御装置を構成する等してもよい。
【0028】
ECU20は、バッテリ23と電気的に接続され、バッテリ23から供給される電力により動作する。このバッテリ23は、リレー24を介してスタータモータ11と接続されている。リレー24はECU20からの駆動信号により接続状態となり、バッテリ23からスタータモータ11へ電力が供給されることとなる。
【0029】
センサ類としては、アクセル操作部材としてのアクセルペダル31の踏み込み操作量を検出するアクセルセンサ32、ブレーキペダル33の踏み込み操作量を検出するブレーキセンサ34、駆動輪19の回転速度を検出する車輪速センサ35、エンジン10の出力軸12の時間当たりの回転数であるエンジン回転数を検出する回転数センサ36等が設けられている。これらのセンサからの検出信号はECU20に逐次入力される。アクセルセンサ32が検出したアクセルペダル31の踏み込み操作量は、ECU20がアクセル開度として取得する。車輪速センサ35が検出した駆動輪19の回転速度は、ECU20が車速として取得する。このとき、ECU20は、アクセル開度を取得するうえで開度取得部として機能し、エンジン回転数を取得するうえで回転数取得部として機能し、車速を取得するうえで車速取得部として機能する。なお、本システムにはこれらのセンサ以外のセンサも設けられているが、図示は省略している。
【0030】
ECU20は、各センサの検出結果やトランスミッション制御装置22からの送信情報等に基づいて、燃料噴射弁による燃料噴射量制御及び点火装置による点火制御などの各種エンジン制御を実施する。クラッチ制御装置21は、ECU20からの送信情報に基づいて、クラッチ13の接続状態と遮断状態とを切替制御を実施する。トランスミッション制御装置22はECU20からの送信情報に基づいて、変速機14の変速段の切替制御を実施する。
【0031】
本実施形態の車両では、エンジン10からの駆動力により車両を走行させている状況下で所定の実施条件が成立した場合に、クラッチ13を遮断状態とすることでコースティングに移行できるものとなっており、こうしたコースティングの実施により燃費改善効果を図るようにしている。このとき、ECU20は走行制御部として機能する。また、本実施形態では、コースティングとして、エンジン10への燃料供給を行い回転数をアイドリング回転数とし、且つクラッチ13を遮断状態にする「第1コースティング」と、エンジン10への燃料供給を停止し、かつクラッチ13を遮断状態にする「第2コースティング」を行うものとしており、それらの各コースティングが選択的に実施されるようになっている。
【0032】
このコースティングを行ううえで、本実施形態では、アクセルセンサ32により検出したアクセル開度と車速センサにより検出した車速とを用いて、実施条件が成立したか否かを判定する。アクセル開度と車速の関係について、図2を用いて説明する。
【0033】
車両が平坦路を走行する場合、変速機14の変速比が一定であり、車両が加減速を行っていないのならば、ある車速に対するアクセル開度は一定の値となる。したがって、アクセル開度と車速との相関関係は、図2における破線で示す一次関数F1で近似することができる。図2では、変速機14の変速比が6段階で切り替え可能とされており、3速から4速へと切り替わる車速である50km/hの点で、変速比の傾向が変化するものとしている。そのため、破線で示す一次関数F1は、車速が50km/hの点で係数を変化させている。
【0034】
ゆえに、ある車速において、その関数により求められるアクセル開度よりも検出したアクセル開度が小さければ、運転者は車両を加速させようとしていないといえる。また、車両が走行する路面が登り勾配である場合に、運転者が車速を維持しようとすれば、運転者はアクセルペダル31の踏み増しを行う。すなわち、運転者が加速の必要があると判断していたり、車速を維持しようとしていたりすれば、取得されるアクセル開度は車速に対応するものよりも大きくなり、そうでなければ、アクセル開度は車速に対応するものよりも小さくなる。車両が走行する路面が下り勾配である場合、運転者が加速を必要としていなければ、取得されるアクセル開度は車速に対応するものよりも小さくなる。
【0035】
そこで、本実施形態では、平坦路におけるアクセル開度と車速との関係を示す値よりも小さい値としてアクセル開度についての閾値を求めるものとする。より具体的には、変速比に応じて設定される複数の一次関数の組み合わせにより、閾値を算出するものとする。この閾値を示す一次関数F2は、図2において実線で示すものであり、車速とアクセル開度との実際の相関よりも小さい値が閾値として算出されるものとしている。そして、運転者のアクセル操作に基づくアクセル開度がその閾値以下である場合に、コースティングを行うものとする。すなわち、運転者に加速する意思が無いと推定できる場合に、コースティングを行う。
【0036】
このとき、運転者がアクセルペダル31の踏込を戻している途中であっても、アクセル開度がゼロでなければ、運転者はアクセルペダル31の踏込を再開する可能性があるといえる。そのため、アクセル開度がゼロでない場合には、内燃機関への燃料の供給を継続し、アイドル状態でのコースティングである第1コースティングを行う。一方、アクセル開度がゼロである場合には、内燃機関への燃料の供給を停止して第2コースティングを行う。なお、運転者がアクセルペダル31への踏み込みを終了してから、アクセル開度がゼロとなるまでに時間を要する。そのため、アクセル開度がゼロであることを条件とする代わりに、アクセルペダル31が踏まれていないことを条件としてもよい。
【0037】
続いて、本実施形態に係るECU20が実行する一連の処理について、図3のフローチャートにより説明する。図3のフローチャートに係る処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0038】
まず、車速が閾値以上であるか否かを判定する(S101)。この閾値は、コースティングを許可できる車速であるか否かを判定するための値として予め設定されているものであり、数十km/hに設定されている。車速が閾値以上でなければ(S101:NO)、運転者が車両を停止させようとしている場合や、徐行運転を行っている場合等であり、車速の維持を必要としないため、そのまま一連の処理を終了する。車速が閾値以上であれば(S101:YES)、アクセル開度が増加しているか否かを判定する(S102)。
【0039】
S102の処理では、例えば、前制御周期におけるアクセル開度と今回の制御周期で取得したアクセル開度とを比較し、今回の制御周期で取得したアクセル開度のほうが大きければ、アクセル開度が増加していると判定する。アクセル開度が増加していれば、運転者は車両を加速させる意思を示しているといえる。そのため、アクセル開度が増加していると判定すれば(S102:YES)、コースティング中であるか否かを判定する(S103)。コースティング中であれば(S103:YES)、コースティングを中止し(S104)、一連の処理を終了する。また、コースティング中でなければ(S103:NO)、そのまま一連の処理を終了する。
【0040】
アクセル開度が増加していなければ(S102:NO)、エンジン回転数の増加速度が所定値以上であるか否かを判定する(S105)。すなわち、車両が加速している状態であるか否かを判定する。このS105の判定を行ううえで、エンジン回転数の増加速度が所定値以上であると判定された後、エンジン回転数が一旦減少したとしても、車両は加速状態を維持することができる。そのため、エンジン回転数の増加速度が所定値以上であると判定すれば、所定の制御周期の間、その判定結果を保持する。
【0041】
エンジン回転数の増加速度が所定値以上であれば(S105:YES)、車両が加速している状態であるため、運転者がさらなる加速を要求しているかを判定すべく、アクセル開度の減少速度が所定値以上であるか否かを判定する(S106)。アクセル開度の減少速度が所定値以上であれば(S106:YES)、運転者がアクセルペダル31の踏み込みを終了し、加速を中止しようとしていると類推できる。そのため、第1コースティングを開始し(S107)、一連の処理を終了する。一方、アクセル開度の減少速度が所定値以上でない場合には(S106:NO)、運転者が加速を継続しようとしている可能性が高いため、そのまま一連の処理を終了する。
【0042】
エンジン回転数の増加速度が所定値以上でない場合(S105:NO)、すなわち、車両の加速度が小さい場合や、定速走行をしていたり減速をしていたりする場合等では、運転者によるアクセル操作が減速の意思を示すものであるかを判定すべく、取得した車速に基づいて、アクセル開度の閾値を算出する(S108)。このとき、上述した図2に基づく閾値が求められる。続いて、算出した閾値とアクセル開度とを比較し、アクセル開度が閾値以下であるか否かを判定する(S109)。
【0043】
アクセル開度が閾値以下でなければ(S109:NO)、車両を定速走行させるべく、運転者がアクセル開度を保っている場合や、登り勾配の道路で運転者がアクセルを踏み込んでいる場合等が想定される。これらの場合には、車両を減速させるべきではないため、コースティングを行わずそのまま一連の処理を終了する。アクセル開度が閾値以下であれば(S109:YES)、運転者によりアクセルがONであるか否かを判定する(S110)。このS110の判定では、図2についての説明で詳述したとおり、アクセル開度がゼロとなっているか否かを判定するが、アクセルペダル31の操作量がゼロであるか否かにより判定してもよい。アクセルがONであれば(S110:YES)、第1コースティングを行う(S111)。一方、アクセルがONでなければ(S110:NO)、第2コースティングを行う(S112)。
【0044】
第2コースティングを行う場合、さらに運転者によりブレーキペダル33が踏まれているか否かを判定する(S113)。ブレーキペダル33が踏まれていれば(S113:YES)、その操作量が閾値以上であるか否かを判定する(S114)。ブレーキペダル33の操作量が閾値以上であれば(S114:YES)、運転者は、より大きな制動力を必要としているため、エンジンブレーキを利かせるべく、コースティングを中止する。一方、ブレーキペダル33が踏まれていない場合(S113:NO)、又は、ブレーキが踏まれていてもその操作量が閾値よりも小さい場合(S113:YES,S114:NO)には、運転者は大きな減速力を必要としていないため、第2コースティングが行われる。
【0045】
なお、前制御周期以前でアクセル開度が閾値以下となり(S109:YES)、コースティング開始されている状態で、今回の制御周期で取得したアクセル開度が閾値を超える場合には、S102及びS103で肯定的な判定が行われ、コースティングが中止されることとなる。また、第1コースティングが行われている状態で、S107又はS111の処理が行われる場合には、第1コースティングが継続されることとなる。
【0046】
上記構成により、本実施形態に係る車両制御装置は以下の効果を奏する。
【0047】
・平坦路での走行において、アクセル開度と車速とには相関がある。そのため、運転者が車速の維持を必要とするならば、車速に応じたアクセル開度を維持し、運転者が加速を必要とするならば、アクセルペダル31を踏み増し、アクセル開度を増加させる。道路が登り勾配であり、運転者が車速の維持や加速を必要とするならば、運転者はアクセルペダル31を踏み増すため、車速に対するアクセル開度は大きくなる。また、道路が下り勾配であれば、車速の維持に必要なトルクが減少するため、車速に対するアクセル開度は小さくなる。また運転者が加速の必要が無いと判断した場合には、アクセルペダル31の踏込量を小さくしたり、アクセルペダル31の操作を中止したりする。すなわち、運転者はいずれの走行の場合でも、車速が遅いと感じればアクセル開度を増加させ、速いと感じれば、アクセル開度を減少させる。よって、平地での走行で得た車速とアクセル開度との関係により閾値を設定し、アクセル開度がその閾値よりも小さい場合でコースティングを行うものとすることで、運転者が車速が十分であると判断している場合にコースティングを行うものとすることができる。したがって、運転者の操作意思に沿いつつ、燃費を向上させることができる。
【0048】
・平坦路での走行では車速とアクセル開度の相関は、一次式で表すことができる。本実施形態では、コースティングを行うか否かを判定するための閾値も車速とアクセル開度との相関を示す一次式に基づいて設定しているため、コースティングを行うか否かの判定を精度よく行うことができる。
【0049】
・運転者がアクセルペダル31を踏んでいれば、アクセルを踏み増すことで加速する可能性がある。本実施形態では、アクセル開度が閾値以下であり、且つ運転者がアクセルペダル31を踏んでいれば、エンジン10への燃料の供給を中止しない第1コースティングを行うものとしている。これにより、運転者がアクセルペダル31を踏み増した際に応答性良く加速させることができる。
【0050】
・運転者がアクセルペダル31を踏んでいない場合には、運転者が直ちに再加速を行おうとする可能性は低い。本実施形態では、運転者がアクセルペダル31を踏んでおらずアクセル開度がゼロである場合に、エンジン10への燃料の供給を停止する第2コースティングを行うものとしている。この第2コースティングを行うことにより、燃費をさらに向上させることができる。
【0051】
・運転者がブレーキペダル33を踏む場合、運転者は車両を減速させようとしているといえる。本実施形態では、運転者がブレーキペダル33を踏むことを条件にコースティングを中止するものとしているため、運転者に減速の意図がある場合にエンジンブレーキを作用させることができる。
【0052】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態におけるコースティングを行うか否かの判定処理に、一部の処理を追加している。
【0053】
図4は、運転者がアクセルを大きく踏み込み、車両を急加速させる際の車速、エンジン10の回転数、及びアクセル開度を示している。時刻t1で運転者がアクセルペダル31の踏み込みを開始すれば、それに伴い回転数及び車速が増加する。時刻t2で運転者がアクセルペダル31の踏込量を減少させれば、それに伴い回転数も低下する。このときに、トランスミッション制御装置22は変速機14の変速制御を行う。一方、時刻t2の時点で車両の加速度が十分なものであれば、加速時に得た慣性力により加速を継続することができる。そして、時刻t3で運転者がアクセルペダル31の踏込量を増加させれば、加速度が増加する。時刻t4から時刻t5にかけても同様である。
【0054】
このとき、運転者がアクセルペダル31の踏込量を減少させる時刻t2から時刻t3の間、及び時刻t4から時刻t5の間でコースティングを行えば、車両の加速への悪影響を抑制しつつ、燃費の改善効果が期待できる。そこで、本実施形態では、車速の増加速度が所定値以上であり、且つ、回転数の増加速度が所定値以上であり、且つ、アクセル開度の減少速度が所定値以下である場合に、コースティングを行うものとする。この場合のコースティングは、エンジン10の回転数をアイドル回転数に維持する第1コースティングである。
【0055】
図5は、本実施形態に係るECU20が実行する一連の処理を示すフローチャートである。図5のフローチャートに係る処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0056】
S101〜S115の処理は、第1実施形態と同等の処理が行われるため、説明を省略する。回転数の増加速度が所定値以上であり(S105:YES)、アクセル開度の減少速度が所定値よりも小さいと判定した場合(S106:NO)、運転者は車両を加速させようとしているものの、図4で示したとおりコースティングを行ったとしても加速状態を維持できる可能性がある。そこで、コースティングを行ったとしても車両の加速状態を維持できるか否かを判定すべく、車速の増加速度が所定値以上であるか否かを判定する(S116)。車速の増加速度が所定値以上であれば、コースティングを行ったとしても加速状態を維持できるため、第1コースティングを行う(S117)。一方、車速の増加速度が所定値以上でなければ、そのまま一連の処理を終了する。
【0057】
なお、本実施形態におけるフローチャートでは、回転数の増加速度が所定値よりも小さい場合における処理であるS108〜S115の処理も記載しているが、これらの処理は本実施形態に係る処理において必須の構成ではない。
【0058】
上記構成により、本実施形態に係る車両制御装置は以下の効果を奏する。
【0059】
・エンジン10の回転数の増加速度が所定値以上であり、且つ、車速の増加速度が所定値以上であれば、運転者がアクセルペダル31の踏込量を低減させアクセル開度を小さくしたとしても、その減少速度が所定値以下であれば、車両の加速状態を維持することができる。本実施形態では、上記の条件を満たした場合に第1コースティングを行うものとしているため、車両の急加速時にもコースティングを行うことができ、燃費を向上させることができる。
【0060】
<変形例>
・第1実施形態において、車速に対するアクセル開度の閾値について、2つの一次関数の組み合わせで設定するものとしているが、ひとつの一次関数により設定するものとしてもよいし、3以上の一次関数の組み合わせにより設けるものとしてもよい。
【0061】
・第1実施形態における、車速に対するアクセル開度の閾値について、変速機14の変速段階に応じて変更するものとしてもよい。すなわち、図2で示した例では変速比を6段階で変更するものであるため、係数の異なる6つの一次関数を組み合わせ、その一次関数に基づいて閾値を算出するものとしてもよい。また、変速機14が無段変速機である場合等では、車速とアクセル開度との関係を示す近似直線や近似曲線に基づいて、閾値を設定するものとしてもよい。
【0062】
・実施形態では、エンジン10の出力軸12と変速機14との間にクラッチ13を設け、コースティング時にはクラッチ13を切断状態としている。この点、変速機14と駆動輪19との間にもクラッチ13を設け、コースティング時にはそのクラッチ13を切断状態としてもよい。この場合には、コースティング時に駆動輪19が変速機14と接続されないため、走行抵抗をより低減することができる。
【0063】
・実施形態では、ブレーキの操作量が閾値以上である場合にコースティングを終了するものとしたが、ブレーキの操作量の時間当たりの増加量が閾値以上である場合にコースティングを終了するものとしてもよい。また、ブレーキの操作量及び操作量の時間当たりの増加量の少なくとも一方が閾値以上であることを条件に、コースティングを終了するものとしてもよい。
【0064】
・コースティング中に、アクセル開度が所定値よりも小さくなった後、ブレーキの操作が所定時間以内に行われた場合に、コースティングを中止するものとしてもよい。この場合には、運転者がアクセルペダル31への踏み込みを中止し、直ちにブレーキペダル33の操作を開始したことを意味する。そのため、コースティングを中止することで、エンジンブレーキを作用させることができ、運転者の意図に沿った減速を行うことができる。
【0065】
・実施形態では、アクセル開度が閾値以下であり且つゼロよりも大きい場合に、第1コースティングを行うものとし、アクセル開度がゼロである場合に第2コースティングを行うものとした。この点、アクセル開度に対する閾値として第1閾値と第1閾値よりも小さい第2閾値とを設け、アクセル開度が第1閾値以下であり第2閾値よりも大きい場合には第1コースティングを行うものとし、アクセル開度が第2閾値以下である場合には、第2コースティングを行うものとしてもよい。なお、閾値について実施形態のごとく設定する場合には、実施形態における閾値を第1閾値と称し、ゼロの値を第2閾値と称することができる。
【0066】
・第2実施形態において、車速の増加速度、及びエンジン10の回転数が所定値以上であることをコースティングを行う条件とした。この点、所定制御周期前と判定を行う制御周期との間での車速の増加量やエンジン10の回転数の増加量を用いて、コースティングを行うか否かの判定を行ってもよい。同様に、アクセル開度の減少量が所定値以下であるか否かに基づいて判定を行うものとしてもよい。
【0067】
・第1実施形態では、コースティングを行う際にクラッチ13を遮断状態としているが、コースティングの際にクラッチ13の接続状態を維持するものとしてもよい。車両が下り勾配の道路を走行する際には、クラッチ13を遮断状態とすれば運転者の意図しない加速が行われる可能性がある。そのため、アクセル開度と閾値を比較してコースティングを行うか否かの判定を行う際に、車速の増加速度が増加傾向であるか否かをさらに判定し、車速が増加していればクラッチ13を接続し、さらなる車速の増加を抑制するものとしてもよい。また、運転者による再加速が行われる可能性が高い場合には、クラッチ13の接続状態を維持し、運転者による再加速の指示が行われた場合の応答性の向上を図ることができる。
【0068】
・運転者がアクセルペダル31から足を離し、直ちにブレーキペダル33を踏み込む場合、アクセル開度がゼロとなる前にブレーキセンサ34がブレーキ操作を検出することとなる場合がある。このような場合には、運転者は急激な減速を望んでいるといえる。そのため、運転者のアクセル開度を減少させる操作からブレーキペダル33の踏み込みを開始するまでの時間を計時し、その時間が所定値以下であれば、コースティングへ移行しないものとしてもよい。こうすることで、運転者が急激な減速を望んでいる場合にエンジンブレーキを作用させることができ、運転者の意図に沿った制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0069】
10…エンジン、13…クラッチ、19…駆動輪、20…ECU。
図1
図2
図3
図4
図5