特許第6606994号(P6606994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606994
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20191111BHJP
【FI】
   B60C13/00 E
   B60C13/00 G
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-227605(P2015-227605)
(22)【出願日】2015年11月20日
(65)【公開番号】特開2017-94841(P2017-94841A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年11月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 栄星
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智行
(72)【発明者】
【氏名】北村 臣将
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/152188(WO,A1)
【文献】 特開平06−106922(JP,A)
【文献】 特開平07−276909(JP,A)
【文献】 特開平08−085303(JP,A)
【文献】 特開昭62−199506(JP,A)
【文献】 特開平06−211007(JP,A)
【文献】 特開平07−215018(JP,A)
【文献】 特開2001−191765(JP,A)
【文献】 特開2004−058807(JP,A)
【文献】 特開2004−284554(JP,A)
【文献】 特開2013−039851(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第1640188(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架された空気入りタイヤにおいて、
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層が発泡ゴムで構成されており、タイヤ断面高さをhとし、リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.7倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を外側領域とし、前記リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.2倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を内側領域としたとき、前記発泡ゴムの前記内側領域での比重dINが前記発泡ゴムの前記外側領域での比重dOUT よりも小さいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記発泡ゴムの前記内側領域での比重dINが0.65〜0.97であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記発泡ゴムの前記内側領域での比重dOUT と前記発泡ゴムの前記内側領域での比重dINとの比dOUT /dINが1.2≦dOUT /dIN≦1.7であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカス層のタイヤ幅方向外側かつ前記内側領域の少なくとも一部にタイヤ周方向に対して0°〜30°の角度で配向された補強コードを含むサイド補強層を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記サイド補強層に含まれる補強コードが有機繊維コードであることを特徴とする請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層の最小厚さが1.2mm〜3.0mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層の厚さが前記リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍〜0.7倍の領域で最小になることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール部に発泡ゴムが用いられた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、騒音性能を良好に維持しながら、タイヤ重量を軽減することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気入りタイヤでは、省資源化や省エネルギーの観点から、タイヤを構成する材料の使用量を抑えたり、燃費を低減するために、タイヤ重量を軽減することが行われている。このようなタイヤの軽量化の手法としては、例えば、サイドウォール部を構成するゴムとして発泡ゴムを用いることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかしながら、サイドウォール部に発泡ゴムを用いた場合、径方向1次モードの固有振動周波数に対する寄与が大きいトレッド部近傍においても重量が低減して、低周波ロードノイズが悪化し易くなるという問題があった。そのため、サイドウォール部に発泡ゴム層を採用してタイヤ重量の軽減を図るにあたって、軽量化の効果を損なうことなく、騒音性能(特に低ロードノイズ性)の低下を防止するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07‐101211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、サイドウォール部に発泡ゴムが用いられた空気入りタイヤであって、騒音性能を良好に維持しながら、タイヤ重量を軽減することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間にカーカス層が装架された空気入りタイヤにおいて、前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層が発泡ゴムで構成されており、タイヤ断面高さをhとし、リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.7倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を外側領域とし、前記リムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.2倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を内側領域としたとき、前記発泡ゴムの前記内側領域での比重dINが前記発泡ゴムの前記外側領域での比重dOUT よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、サイドウォール部におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層を発泡ゴムで構成してタイヤの軽量化を図るにあたって、この発泡ゴムの比重を前述のように設定して、内側領域での比重dINを外側領域での比重dOUT よりも小さくしているので、トレッド部側の重量については相対的に大きく保つことができ、径方向1次モードの固有振動周波数を小さくすることができる。また、比重が相対的に小さい部分では、縦剛性を低減することができるので、この縦剛性の影響によっても径方向1次モードの固有振動周波数を小さくすることができる。従って、優れた騒音性能(低ロードノイズ性)を維持しながら、効果的にタイヤ重量を低減することができる。
【0008】
本発明では、発泡ゴムの内側領域での比重dINが0.65〜0.97であることが好ましい。このように内側領域での比重dINを適切な範囲に設定することで、優れた騒音性能とタイヤの軽量化の効果とをバランスよく両立することが可能になる。
【0009】
本発明では、発泡ゴムの外側領域での比重dOUT と発泡ゴムの内側領域での比重dINとの比dOUT /dINが1.2≦dOUT /dIN≦1.7であることが好ましい。このように比重の比dOUT /dINを設定することで、サイドウォール部のタイヤ径方向の位置に応じて発泡ゴムの比重のバランスを良好にすることができ、優れた騒音性能とタイヤの軽量化の効果とを両立するには有利になる。
【0010】
本発明では、カーカス層のタイヤ幅方向外側かつ内側領域の少なくとも一部にタイヤ周方向に対して0°〜30°の角度で配向された補強コードを含むサイド補強層を備えることが好ましい。このようにサイド補強層を設けることで、縦剛性を大きく増加させることなく周方向剛性を高めて、回転ねじれモーメントの固有振動数を低減することができる。即ち、騒音性能を改善するには有利になる。
【0011】
このとき、サイド補強層に含まれる補強コードが有機繊維コードであることが好ましい。このようにスチールコード等に比べて軽量である有機繊維コードを用いることで、タイヤ重量の低減には有利になる。
【0012】
本発明では、サイドウォール部におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層の最小厚さが1.2mm〜3.0mmであることが好ましい。このように厚さを設定することで、優れた騒音性能とタイヤの軽量化の効果とをバランスよく両立することが可能になる。
【0013】
本発明では、サイドウォール部におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム層の厚さがリムベースラインからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍〜0.7倍の領域で最小になることが好ましい。このようにゴム層が最小厚さとなる位置を設定することで、トレッド部近傍において適切なゴム厚さを確保して、重量を充分に保つことができるので、騒音性能を改善するには有利になる。
【0014】
尚、本発明において、発泡ゴムの「比重」とは、気泡を含んだ発泡ゴム全体の見かけ比重であって、発泡ゴム中の気泡の大きさや分布密度によって変量するものである。その数値としては、JIS K6268に準拠して測定した値を用いる。
【0015】
また、本発明において、タイヤの寸法は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した無負荷状態で測定したものであり、「リムベースライン」とは、空気入りタイヤが装着される正規リムのリム径位置を示す基準線である。尚、「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”であり、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車である場合には180kPaとする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図2】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図3】本発明の別の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。尚、図1では、タイヤ赤道CLに対して一方側のみを示しているが、タイヤ赤道CLに対して他方側も同様の構造を有する。
【0019】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
【0020】
本発明は、後述のようにサイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向外側に位置するサイドゴム層G(図の斜線部)の構造を規定するものであるので、その断面構造は上述の基本構造に限定されるものではない。
【0021】
本発明では、サイドゴム層Gが発泡ゴムで構成されている。発泡ゴムとは、例えば成形時に発泡剤を添加して加硫時に気泡を発生させることで得られた連続気泡または独立気泡を含んだゴム組成物である。このような発泡ゴムは、通常の非発泡のゴムと比較して比重が小さいので、サイドゴム層Gに採用することで、タイヤを軽量化することができる。
【0022】
このとき、発泡ゴムの比重はサイドゴム層Gの全体で一定ではなく、トレッド部1側よりもビード部3側で小さくなるように設定されている。具体的には、タイヤ断面高さをhとし、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.7倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を外側領域AOUT とし、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.2倍の位置からタイヤ径方向内外にタイヤ断面高さhの0.1倍ずつ離れた位置の間に含まれる領域を内側領域AINとしたとき、発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINが発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT よりも小さくなっている。このように発泡ゴムの比重が設定されているので、トレッド部1側については重量を相対的に大きく保つことができ、径方向1次モードの固有振動周波数を小さくすることができる。また、比重が相対的に小さい部分では、縦剛性を低減することができるので、この縦剛性の低減によっても径方向1次モードの固有振動周波数を小さくすることができる。このように径方向1次モードの固有振動周波数を小さくすることは、125Hz〜160Hz程度の低周波数領域の音圧レベルの低減に対して有効であり、優れた騒音性能(低ロードノイズ性)を発揮することができる。このとき、上述の構造ではトレッド部1側の比重が相対的に大きくなっているが、サイドゴム層Gは発泡ゴムで構成されることで全体として充分に低比重になっているので、充分にタイヤ重量を軽減することができる。
【0023】
発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINが小さいほど、タイヤ重量を軽減することができるうえ、縦剛性の低減による径方向1次モードの固有振動周波数の低減(低ロードノイズ性の向上)を図れるが、発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINが極端に小さくなると、サイドウォール部2(特に内側領域AIN近傍)の周方向剛性が低下して、回転ねじれモードの固有振動数が低下するため、40Hz〜50Hz帯の音圧レベルが増大して、却って騒音性能が悪化する傾向にある。そのため、発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINは好ましくは0.65〜0.97、より好ましくは0.70〜0.85に設定するとよい。このように内側領域での比重dINを適切な範囲に設定することで、優れた騒音性能とタイヤの軽量化の効果とをバランスよく両立することが可能になる。このとき、発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINが0.65よりも小さいと、上述のように40Hz〜50Hz帯の音圧レベルが増大して、騒音性能を良好に維持することが難しくなる。発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINが0.97よりも大きいと、比重が充分に小さくないため、軽量化の効果とロードノイズの低減効果とを充分に発揮することが難しくなる。
【0024】
上述のように、発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINを発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT に対して小さくすること、即ち、発泡ゴムの内側領域AINでの比重dINと発泡ゴムの外側領域AOUT での比重dOUT との比dOUT /dINを大きくすることで、縦剛性の低減による径方向1次モードの固有振動周波数の低減(低ロードノイズ性の向上)を図れるが、この比dOUT /dINが極端に大きくなると、サイドウォール部2(特に内側領域AIN近傍)の周方向剛性が相対的に低下して、回転ねじれモードの固有振動数が低下するため、40Hz〜50Hz帯の音圧レベルが増大して、却って騒音性能が悪化する傾向にある。そのため、比dOUT /dINは好ましくは1.2≦dOUT /dIN≦1.7、より好ましくは1.35≦dOUT /dIN≦1.6に設定するとよい。このように比重の比dOUT /dINを適切な範囲に設定することで、サイドウォール部2のタイヤ径方向の位置に応じた発泡ゴムの比重のバランスを良好にすることができ、優れた騒音性能とタイヤの軽量化の効果とを両立するには有利になる。このとき比dOUT /dINが1.2よりも小さいと、ロードノイズの低減効果を充分に発揮することが難しくなる。比dOUT /dINが1.7よりも大きいと、上述のように40Hz〜50Hz帯の音圧レベルが増大して、騒音性能を良好に維持することが難しくなる。
【0025】
本発明では、発泡ゴムの比重を変化させるにあたって、例えばトレッド部1側からビード部3側に向かって比重が漸減する仕様にすることもできる。或いは、図2に示すように、比重の異なる発泡ゴムをタイヤ径方向に組み合わせてサイドゴム層Gを構成して、比重が段階的に変化する仕様にすることもできる。図2の例では、比重の異なる2種類の発泡ゴムが用いられ、相対的に比重の大きい発泡ゴムが外側領域AOUT を含む部位に配置され、相対的に比重の小さい別の発泡ゴムが内側領域AINを含む部位に配置されることで、s外側領域AOUT での比重dOUT よりも内側領域AINでの比重dINが小さくなっている。このように比重を段階的に変化させる場合、比重の異なる発泡ゴムの境界は、図2に示すように、タイヤ幅方向に対して傾斜していることが好ましい。
【0026】
前述のように、発泡ゴムは、連続気泡または独立気泡を含んだゴム組成物であるが、連続気泡を含む発泡ゴムと独立気泡を含む発泡ゴムとを比較すると、両者が同等の比重を有する場合には、独立気泡からなる発泡ゴムの方が連続気泡からなる発泡ゴムよりも破断強度が高い。そのため、本発明では、同じ比重で高い破断強度が得られる独立気泡からなる発泡ゴムを用いることが好ましい。これにより、発泡ゴムを用いていても、タイヤとしての耐外傷性を、従来の非発泡ゴムを用いた空気入りタイヤと同程度に発揮することができる。このように独立気泡からなる発泡ゴムを用いる場合、独立気泡の平均気泡径は例えば10μm〜100μmであるとよい。
【0027】
上述の構成に加えて、サイドゴム層Gの厚さを小さくすることで、更なるタイヤの軽量化を図ることができるうえ、縦剛性も低減できるので、径方向1次モードの固有振動周波数を低減する(低ロードノイズ性を向上する)効果も改善が見込める。しかしながら、ゴム層Gが極端に薄くなるとサイドウォール部2の周方向剛性が低下して、回転ねじれモードの固有振動数が低下するため、40Hz〜50Hz帯の音圧レベルが増大して、却って騒音性能が悪化する傾向にある。そのため、ゴム層Gの最小厚さは、好ましくは1.2mm〜3.0mm、より好ましくは1.8mm〜2.6mmに設定するとよい。このとき、ゴム層Gの最小厚さが1.2mmよりも小さいと、上述のように40Hz〜50Hz帯の音圧レベルが増大して、騒音性能を良好に維持することが難しくなる。ゴム層Gの最小厚さが3.0mmよりも大きいと、ロードノイズの低減効果を充分に発揮することが難しくなる。
【0028】
尚、トレッド部1近傍の重量を大きく保ち易くするために、サイドゴム層Gの厚さが最小になる部位が、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.3倍〜0.7倍の領域に位置するようにすることが好ましい。このようにサイドゴム層Gが最小厚さとなる位置を設定することで、トレッド部1近傍において適切なゴム厚さを確保して、重量を充分に保つことができるので、騒音性能を改善するには有利になる。
【0029】
本発明では、図3に示すように、カーカス層4のタイヤ幅方向外側であって内側領域AINの少なくとも一部にサイド補強層9を備えた仕様にすることもできる。このサイド補強層9は、当該部位においてタイヤ周方向に延在して環状をなし、タイヤ周方向に対して0°〜30°の角度で配向された複数本の補強コードを含んでいる。このように、周方向に近い角度に配向された補強コードからなるサイド補強層9を設けることで、縦剛性を大きく増加させることなく周方向剛性を高めて、回転ねじれモーメントの固有振動数を低減し、40Hz〜50Hz帯の音圧レベルを低減することができる。即ち、騒音性能を改善するには有利になる。尚、サイド補強層9に含まれる補強コードの周方向に対する傾斜角度が30°よりも大きいと、縦剛性を小さく維持することが難しくなり、低ロードノイズ性を維持することが難しくなる。
【0030】
サイド補強層9に含まれる補強コードは特に限定されず、スチールコードまたは有機繊維コードを用いることができるが、タイヤ重量を低減することを鑑みると、スチールコードに比べて軽量である有機繊維コードを用いることが好ましい。有機繊維コードとしては、アラミド繊維、ナイロン繊維、PET繊維、PEN繊維のいずれかを撚り合わせたコード、或いはそれらを複合して撚り合わせたコードを例示することができる。これらの中では、特に、高い弾性率を有する点でアラミド繊維コードまたはアラミド繊維とナイロン繊維とを撚り合わせた複合コードを用いることが好ましい。
【0031】
サイド補強層9は、前述のように内側領域AINの少なくとも一部に設けられるが、好ましくは、内側領域AINの60%以上を占めるとよい。言い換えれば、内側領域AIN内においてタイヤ径方向に断面高さhの0.12倍〜0.2倍の範囲を覆うようにサイド補強層9が設けられていることが好ましい。特に、サイド補強層9は、リムベースラインBLからタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さhの0.1倍の位置(内側領域AINのタイヤ径方向内側端部)と位置PINからタイヤ径方向外側に断面高さhの0.02倍〜0.1倍離れた位置との間を覆うように設けられていることが好ましい。
【実施例】
【0032】
タイヤサイズが205/55R16であり、図1に示す基本構造を有し、サイドゴム層Gについて、構成する材質(発泡ゴムまたは非発泡ゴム)、比重(外側領域AOUT での比重dOUT 、内側領域AINでの比重dIN)、これら比重の比dOUT /dIN、最小厚さ、最小厚さ位置、サイド補強層の有無、サイド補強層に含まれる補強コードの材質、サイド補強層の大きさをそれぞれ表1〜2のように設定した従来例1、比較例1〜3、実施例1〜17の21種類の空気入りタイヤを作製した。
【0033】
尚、サイド補強層を設けた例において、サイド補強層に含まれる補強コードは周方向に対して20°の角度で配向している。また、サイド補強層は、内側領域の全体に亘って、カーカス層に沿うように設けられている。
【0034】
表1〜2の「材質」の欄について、サイドゴム層Gを構成する材質が発泡ゴムの場合は「発泡」、非発泡ゴムの場合は「非発泡」と示した。
【0035】
これら21種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、タイヤ重量、騒音性能(低周波ロードノイズ、こもり音)を評価し、その結果を表1〜2に併せて示した。
【0036】
タイヤ重量
各試験タイヤの重量を測定した。評価結果は、従来例1の測定値の逆数を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤ重量が小さいことを意味する。
【0037】
騒音性能(低周波ロードノイズ、こもり音)
各試験タイヤを、リムサイズ16×6.5JJのホイールに組み付け、空気圧230kPaとして排気量1600ccの試験車両(前輪駆動車)に装着し、乾燥路面からなるテストコースを速度60km/hで走行し、走行中の騒音の音圧レベルを運転席窓側に取り付けたマイクで測定した。尚、低周波ロードノイズの指標として、1/3オクターブバンド波形における125Hz〜160Hz帯の音圧を測定し、こもり音の指標として、1/3オクターブバンド波形における40Hz〜50Hz帯の音圧を測定した。評価結果は、従来例1の測定値に対する各例の測定値の差(dB)で示した。この差が小さい(差が負の値であって、その絶対値が大きい)ほど、基準となる従来例1の測定値よりも音圧レベルが低く、騒音性能に優れることを意味する。尚、少なくとも低周波ロードノイズの音圧レベルを低減することができれば、実用上充分な騒音性能を発揮することができており、こもり音の音圧レベルについても低減することができれば、より優れた騒音性能が得られたことを意味する。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表1〜2から明らかなように、実施例1〜17はいずれも、従来例1に対して、騒音性能を良好に発揮しながらタイヤ重量を低減した。一方、比較例1は、サイドゴム層Gが非発泡ゴムで構成されるため、騒音性能およびタイヤ重量が悪化した。比較例2は、サイドゴム層Gの全体を一定の比重(低比重)の発泡ゴムで構成したため、タイヤ重量は大きく軽減できるが、騒音性能は充分に得られなかった。比較例3は、比重の大小関係が逆転しているため、タイヤ重量は軽減できるが、騒音性能を改善することはできなかった。
【符号の説明】
【0041】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
9 サイド補強層
G サイドゴム層
OUT 外側領域
IN 内側領域
CL タイヤ赤道
図1
図2
図3