特許第6607006号(P6607006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6607006ハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストの調製方法
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  • 6607006-ハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストの調製方法 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607006
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】ハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストの調製方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/14 20060101AFI20191111BHJP
   B23K 35/26 20060101ALI20191111BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20191111BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20191111BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20191111BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20191111BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20191111BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   B23K35/14 Z
   B23K35/26 310A
   B23K35/30 310B
   B22F1/00 K
   B22F1/02 A
   H05K3/34 507H
   H05K3/34 512C
   C22C5/06 Z
   C22C13/00
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-234641(P2015-234641)
(22)【出願日】2015年12月1日
(65)【公開番号】特開2017-100156(P2017-100156A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】植杉 隆二
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−193474(JP,A)
【文献】 特開2012−157870(JP,A)
【文献】 特開平2−179385(JP,A)
【文献】 特開2010−99736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30 − 35/34
B22F 1/00 − 1/02
C22C 5/06
C22C 13/00
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心核と前記中心核を被覆する被覆層で構成され、前記中心核が銀からなり、前記被覆層が錫からなるハンダ粉末において、
前記中心核と前記被覆層の間にニッケルからなる拡散防止層が形成され、
前記ハンダ粉末の平均粒径が1μm以上30μm以下であり、
前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対し、銀の含有割合が10質量%以上81質量%以下である
ことを特徴とするハンダ粉末。
【請求項2】
前記ニッケルからなる拡散防止層の厚さが前記中心核の半径を1とするときに0.04以上0.50以下の比率である請求項1記載のハンダ粉末。
【請求項3】
請求項1又は2記載のハンダ粉末とハンダ用フラックスを混合してペースト化することによりハンダ用ペーストを調製する方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法により調製されたハンダ用ペーストを用いて電子部品を実装する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品等の実装に用いられる、中心核が銀からなり、被覆層が錫からなるハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中心核が銀からなり、被覆層が錫からなる、平均粒径が5μm以下のハンダ粉末が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このハンダ粉末は、環境の面から鉛フリーであって、微細であるため、印刷性に優れる。また中心核を構成する金属元素を銀とすることにより、リフロー時に被覆層のみならず中心核が溶融してAg−Sn合金を形成するため、形成されるAg−Sn合金により、ハンダの機械的強度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−138266号公報(請求項1、段落[0005]、段落[0014])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された中心核が銀からなり、被覆層が錫からなるハンダ粉末は、ハンダ粉末を製造後、長期間保管すると、銀の錫への拡散係数が大きいため、中心核の銀が被覆層の錫に拡散し、中心核と被覆層の間にAgSn及び/又はAgSnの融点の高い金属間化合物層を形成するか、又は中心核のすべての銀が被覆層の錫中に拡散し被覆層全体又は被覆層の一部が銀と錫との金属間化合物となるおそれがあった。被覆層全体又は被覆層の一部がこの種の金属間化合物層を形成したハンダ粉末は、上記金属間化合物を有しないハンダ粉末と比較して凝固開始温度が上昇する。このため、長期間保管したハンダ粉末と、保管前又は保管期間の短いハンダ粉末とは、上記金属間化合物の有無の違い又は上記金属間化合物の形成量の違いにより、凝固開始温度に差異を生じ、長期間保管したハンダ粉末を、保管前又は保管期間の短いハンダ粉末が溶融する温度で、リフローさせた場合、リフロー時の溶融ムラや溶融性不良による接合不良を生じることがあった。
【0005】
本発明の第1の目的は、粉末保管時に中心核の銀の被覆層への拡散やこの被覆層の錫の中心核への拡散が抑制されたハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストを提供することにある。また本発明の第2の目的は、長期間保管したハンダ粉末を、保管前又は保管期間の短いハンダ粉末が溶融する温度で、リフローさせても、ハンダが十分に溶融しないことに起因した接合不良を生じないハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストを提供することにある。また本発明の第3の目的は、リフロー後、再溶融及び接合強度の低下が起こりにくく、特に高温雰囲気に晒される電子部品等の実装に好適なハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストの調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、ニッケル中での銀及び錫の拡散係数は非常に小さいことから、ニッケルを銀の中心核と錫の被覆層の間に拡散防止層として介装させれば、銀の錫への拡散は勿論、錫の銀への拡散も防止できることを見い出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明の第1の観点は、図1に示すように、銀からなる中心核11と中心核11を被覆する錫からなる被覆層12で構成され、中心核11と被覆層12の間にはニッケルからなる拡散防止層13が形成されたハンダ粉末10であることを特徴とする。ハンダ粉末10の平均粒径は1μm以上30μm以下であり、ハンダ粉末10の全体量100質量%に対し、銀の含有割合が10質量%以上81質量%以下である。
【0008】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、ニッケルからなる拡散防止層の厚さが前記中心核の半径を1とするときに0.04以上0.50以下の比率であることを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点のハンダ粉末とハンダ用フラックスを混合してペースト化することによりハンダ用ペーストを調製する方法である。
【0010】
本発明の第4の観点は、第3の観点の方法により調製されたハンダ用ペーストを用いて電子部品を実装する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の観点のハンダ粉末は、中心核と中心核を被覆する被覆層で構成され、中心核が銀からなり、被覆層が錫からなるハンダ粉末において、中心核と被覆層の間にニッケルからなる拡散防止層が形成され、ハンダ粉末の平均粒径が1μm以上30μm以下であり、ハンダ粉末の全体量100質量%に対し、銀の含有割合が10質量%以上81質量%以下である。このように、本発明のハンダ粉末では、銀の中心核と錫の被覆層の間にニッケルからなる拡散防止層が介装されるので、中心核の銀が被覆層の錫に拡散することは勿論、被覆層の錫が中心核の銀に拡散することを防止できる。この結果、長期間保管したハンダ粉末を、保管前又は保管期間の短いハンダ粉末が溶融する温度で、リフローさせても、ハンダが十分に溶融しないことに起因した接合不良を生じることがない優れた効果を奏する。また、リフロー後は、AgSn、AgSn、NiSn、NiSn、NiSn、NiSn等の融点の高い金属間化合物及び銀からなる接合層が形成されるため、リフロー後、再溶融及び接合強度の低下が起こりにくく、特に高温雰囲気に晒される電子部品等に好適に実装される。
【0012】
本発明の第2の観点のハンダ粉末は、ニッケルからなる拡散防止層の厚さが前記中心核の半径を1とするときに0.04以上0.50以下の比率であるため、中心核が銀からなり、被覆層が錫を含むハンダ粉末のハンダ特性を大幅に変えることなく、粉末保管時に中心核の銀の被覆層の錫への拡散及び被覆層の錫の中心核の銀への拡散を防止することができる。
【0013】
本発明の第3の観点の方法により調製されたハンダ用ペーストは、上記本発明のハンダ粉末を用いて得られる。そのため、このハンダ用ペーストは、リフロー時の溶融が速く、溶融性に優れる。
【0014】
本発明の第4の観点の電子部品を実装する方法では、上記本発明のハンダ用ペーストを用いるため、リフロー時にはハンダ用ペーストの溶融の速さ、優れた溶融性により、簡便に、かつ高い精度で電子部品を実装することができる。この電子部品を実装した接合体は、リフロー時に被覆層のみならず中心核が溶融してAg−Sn合金又はSn−Ni−Ag合金を形成するため、形成されるAg−Sn合金又はSn−Ni−Ag合金により、ハンダ接合後に高温雰囲気に晒されても、再溶融及び接合強度の低下が起こりにくい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態の被覆層が錫からなるハンダ粉末の断面構造の一例を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
〔ハンダ粉末〕
本実施形態のハンダ粉末は、図1に示すように、中心核11と中心核11を被覆する被覆層12で構成され、中心核11が銀からなり、被覆層12が錫からなり、かつ中心核と被覆層の間にニッケルからなる拡散防止層13を有する。本実施形態のハンダ粉末は、このように、銀からなる中心核が、融点の低い錫からなる被覆層で被覆された構造になっているため、リフロー時の溶融性に優れる。また、粉末を構成する一つの金属粒子内において、銀と錫が含まれるため、リフロー時の溶融ムラや組成ズレが起こりにくく、高い接合強度が得られる。更に、ハンダ粉末が中心核と被覆層の間にニッケルからなる拡散防止層を有するため、銀の錫への拡散及び錫の銀への拡散を防止することができる。更に、リフロー後は、AgSn、AgSn、NiSn、NiSn、NiSn、NiSn等の融点の高い金属間化合物及び銀からなる接合層が形成されるため、リフロー後、再溶融及び接合強度の低下が起こりにくく、特に高温雰囲気に晒される電子部品等に好適に実装される。
【0018】
ニッケルからなる拡散防止層13は、その厚さが中心核の半径を1とするときに0.04以上0.50以下の比率であることが好ましく、0.05以上0.20以下の比率であることが更に好ましい。0.04未満では銀又は錫の拡散を防止することが困難であり、0.50を超えるとハンダ粉末の溶融性が低下し易い。
【0019】
本実施形態のハンダ粉末10は、平均粒径が1μm以上30μm以下である。ハンダ粉末の平均粒径を1μm以上30μm以下に限定したのは、30μmを越えるとバンプを形成する場合においてバンプのコプラナリティが低下するという不具合を生じ、また、パターン表面をハンダでコートする場合に塗布ムラが生じ、パターン全面を均一にコートできないという不具合を生じるからである。なお、1μm未満になると、比表面積が高くなり、粉末の表面酸化層の影響によりハンダの溶融性が低下する。ハンダ粉末の平均粒径は2〜20μmの範囲とするのが好ましい。なお、本明細書において、粉末の平均粒径とは、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置(堀場製作所社製、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950)にて測定した体積累積中位径(Median径、D50)をいう。
【0020】
また、本実施形態のハンダ粉末10は、粉末の全体量100質量%に対し、銀の含有割合が10質量%以上81質量%以下である。従来のハンダ粉末では、Sn−Pb系共晶ハンダ(組成比 Sn:Pb=63:37質量%)の代替として使用されるため、融点が近く、共晶組成が求められるという理由から、銀の割合を1.0〜3.5質量%程度と、比較的少なめに含有させている。一方、本実施形態のハンダ粉末では、これより多めの上記範囲で含ませることにより、リフロー後に、880〜600℃程度の高い凝固開始温度を有するSn−Ag合金又は800〜450℃程度の高い凝固開始温度を有するSn−Ni−Ag合金を形成する。なお、銀の含有割合が少なくても、リフロー後は、錫よりも凝固開始温度の高いSn−Ag合金又はSn−Ni−Ag合金を形成するが、銀をより多く含有させることで、凝固開始温度が更に上昇するのは、合金中に高い融点を有する金属間化合物の比率がより一層高くなるという理由からである。これにより、このハンダ粉末を含むハンダ用ペーストのリフローによって形成されるハンダバンプでは、耐熱性が大幅に向上し、再溶融及び接合強度の低下を防止することができる。このため、特に高温雰囲気に晒される電子部品等の実装に用いられる高温ハンダとして好適に用いることができる。銀の含有割合が10質量%未満では、凝固開始温度が低くなることから、リフロー後に形成されるハンダバンプにおいて十分な耐熱性が得られず、高温雰囲気での使用の際に再溶融が起こり、高温ハンダとして用いることができない。一方、81質量%を越えると凝固開始温度が高くなりすぎて、ハンダが十分に溶融しないため、接合不良が発生するという不具合が生じる。このうち、粉末の全体量100質量%に占める銀の含有割合は、10質量%以上51質量%以下とするのが好ましい。
【0021】
また、ハンダ粉末中のニッケルの含有割合は、ハンダ粉末の全体量100質量%に対して1質量%以上15質量%未満、好ましくは2質量%以上10質量%以下である。この含有割合に応じて、前述したニッケルからなる拡散防止層の厚さが決められる。ニッケルの含有割合が1質量%未満では銀又は錫の拡散を防止することが困難であり、15質量%以上では、ハンダ粉末の溶融性が低下するという不具合を生じる。
【0022】
更に、ハンダ粉末中の錫の含有割合は、粉末中の上記銀及びニッケル以外の残部、即ちハンダ粉末の全体量100質量%に対して10質量%以上80質量%未満、好ましくは15質量%以上70質量%以下である。錫の含有割合が10質量%未満では、リフロー時においてハンダ粉末に必要とされる低融点を示さないからである。また、80質量%以上では、結果的に銀の含有割合が少なくなり、リフロー後に形成されるハンダバンプの耐熱性が低下する。即ち、高温雰囲気に実装後のハンダが晒されると実装後のハンダが再溶融するか、又はハンダの一部において液相が生じて、基板等との接合強度が低下するおそれがある。
【0023】
〔ハンダ粉末の製造方法〕
続いて、ハンダ粉末中の銀の含有割合に応じた本実施形態のハンダ粉末の製造方法について説明する。
【0024】
先ず、銀粉末と分散剤を溶媒に添加混合して銀粉末の分散液を調製し、これに上記ニッケルを含む化合物を添加混合しこの化合物が溶解した溶解液を調製する。溶解液中における銀粉末及びニッケル化合物の割合は、ハンダ粉末製造後に、各金属元素の含有割合が上記範囲になるように調整する。
【0025】
溶媒としては、水、アルコール、エーテル、ケトン、エステル等が挙げられる。また、分散剤としては、セルロース系、ビニル系、多価アルコール等が挙げられ、その他にゼラチン、カゼイン等を用いることができる。なお、溶媒に上記金属化合物をそれぞれ添加して溶解させた後、錯化剤を加えて、各金属元素を錯体化した後に、分散剤を添加してもよい。錯化剤を加えることでpHが酸性からアルカリ側の広い範囲にわたり、金属イオンが沈殿せず、広いpHの範囲での合成が可能となる。錯化剤としては、コハク酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、フタル酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、エチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸又はその塩等が挙げられる。
【0026】
次いで、還元剤を溶解した水溶液を調製し、この水溶液のpHを、上記調製した溶解液と同程度に調整する。還元剤としては、ホスフィン酸ナトリウム等のリン酸系化合物、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン等のホウ素水素化物、ヒドラジン等の窒素化合物、三価のチタンイオンや2価のクロムイオン等の金属イオン等が挙げられる。
【0027】
次に、上記溶解液に還元剤水溶液を添加して混合することにより、溶解液中の銀イオン、ニッケルイオンが還元され、液中に金属粉末が分散した分散液が得られる。この還元反応では、上記銀を含む化合物、ニッケルを含む化合物が溶解する溶解液を用いているので、先ず、ニッケルよりも貴な銀が還元され、続いてニッケルが還元される。溶解液と還元剤水溶液を混合する方法としては、容器内の溶解液に所定の添加速度で還元剤水溶液を滴下し、スターラ等で攪拌する方法や、所定の径を有する反応チューブを用い、この反応チューブ内に両液を所定の流量で注ぎ込み、混合させる方法等が挙げられる。
【0028】
次に、この分散液を、デカンテーション等によって固液分離し、回収した固形分を水又はpHを調整した水溶液、或いはメタノール、エタノール、アセトン等で洗浄する。洗浄後は、再度固液分離して固形分を回収する。洗浄から固液分離までの工程を、好ましくは2〜5回繰り返す。回収した固形分を真空乾燥させることにより、銀からなる中心核と、この中心核を被覆するニッケル層で構成されたAg核Ni層付きの金属粉末を形成する。
【0029】
出発原料の銀粉末は、0.1μm以上27μm以下の平均粒径を有することが好ましい。この下限値未満では、ハンダ粉末の平均粒径が1μm未満になり易く、上述した不具合を生じ、またハンダ粉末を構成する銀の含有量10質量%以上にすることが困難になる。また上限値を超えると、ハンダ粉末の平均粒径が30μmを超え易くなり、上述した不具合を生じる。銀粉末の平均粒径は2〜20μmであることが更に好ましい。この銀粉末は、還元反応による化学的手法で得られる他、アトマイズ法のような物理的手法によって得られる。
【0030】
次に、上記溶解液に上述した還元剤水溶液と同じ還元剤水溶液を添加して混合することにより、溶解液中のニッケルイオンが還元され、液中に金属粉末が分散した分散液が得られる。この分散液を、上述した方法と同じ方法で固液分離し、回収した固形分を上述した方法と同じ方法で洗浄し真空乾燥させることにより、銀からなる中心核と、この中心核を被覆するニッケル層で構成されたAg核Ni層付きの金属粉末を形成する。
【0031】
続いて、上述した方法で得られたAg核Ni層付きの金属粉末と分散剤を溶媒に添加混合してAg核Ni層付きの金属粉末の分散液を調製し、これに錫を含む化合物を添加混合してAg核Ni層付きの金属粉末が分解した錫イオンを含む溶解液を得る。錫化合物としては、塩化錫(II)、硫酸錫(II)、酢酸錫(II)、シュウ酸錫(II)等が挙げられる。錫を含む化合物の添加割合は、ハンダ粉末製造後に、各金属元素の含有割合が上記範囲になるように調整する。分散媒及び溶媒には、上述した分散媒及び溶媒が用いられる。
【0032】
更に続いて、上記錫イオンを含む溶解液に上述した還元剤と同じ還元剤を溶解した還元剤水溶液を上述した方法と同じ方法で添加混合することにより、溶解液中の錫イオンが還元され、液中にAg核Ni層付きの金属粉末の表面に錫層が形成された粉末が分散した分散液を得る。この分散液を、上述した方法と同じ方法で洗浄する。洗浄後は、再度固液分離して固形分を回収する。洗浄から固液分離までの工程を、好ましくは2〜5回繰り返す。回収した固形分を真空乾燥させることにより、Ag核Ni層付きの金属粉末を錫が被覆したハンダ粉末が得られる。
【0033】
〔ハンダ用ペースト及びその調製方法〕
以上の工程により、得られた本実施形態のハンダ粉末は、ハンダ用フラックスと混合してペースト化して得られるハンダ用ペーストの材料として好適に用いられる。ハンダ用ペーストの調製は、ハンダ粉末とハンダ用フラックスとを所定の割合で混合してペースト化することにより行われる。ハンダ用ペーストの調製に用いられるハンダ用フラックスは、特に限定されないが、溶剤、ロジン、チキソ剤及び活性剤等の各成分を混合して調製されたフラックスを用いることができる。
【0034】
上記ハンダ用フラックスの調製に好適な溶剤としては、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、α−テルピネオール等の沸点が180℃以上である有機溶剤が挙げられる。また、ロジンとしては、ガムロジン、水添ロジン、重合ロジン、エステルロジン等が挙げられる。
【0035】
また、チキソ剤としては、硬化ひまし油、脂肪酸アマイド、天然油脂、合成油脂、N,N’−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリルアミド、12−ヒドロキシステアリン酸、1,2,3,4−ジベンジリデン−D−ソルビトール及びその誘導体等が挙げられる。
【0036】
また、活性剤としては、ハロゲン化水素酸アミン塩が好ましく、具体的には、トリエタノールアミン、ジフェニルグアニジン、エタノールアミン、ブチルアミン、アミノプロパノール、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンラウレルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メトキシプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、エチルヘキシルアミン、エトキシプロピルアミン、エチルヘキシルオキシプロピルアミン、ビスプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ピペリジン、2,6−ジメチルピペリジン、アニリン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、3−アミノ−1−プロペン、イソプロピルアミン、ジメチルヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン等のアミンの塩化水素酸塩又は臭化水素酸塩が挙げられる。
【0037】
ハンダ用フラックスは、上記各成分を所定の割合で混合することにより得られる。フラックス全体量100質量%中に占める溶剤の割合は30〜60質量%、チキソ剤の割合は1〜10質量%、活性剤の割合は0.1〜10質量%とするのが好ましい。溶剤の割合が下限値未満では、フラックスの粘度が高くなりすぎるため、これを用いたハンダ用ペーストの粘度も応じて高くなり、ハンダの充填性低下や塗布ムラが多発する等、印刷性が低下する不具合を生じる場合がある。一方、上限値を越えるとフラックスの粘度が低くなりすぎるため、これを用いたハンダ用ペーストの粘度も応じて低くなることから、ハンダ粉末とフラックス成分が沈降分離する不具合を生じる場合がある。また、チキソ剤の割合が下限値未満では、ハンダ用ペーストの粘度が低くなりすぎるため、ハンダ粉末とフラックス成分が沈降分離するという不具合を生じる場合がある。一方、上限値を越えるとハンダ用ペーストの粘度が高くなりすぎるため、ハンダ充填性や塗布ムラ等の印刷性低下という不具合を生じる場合がある。
【0038】
また、活性剤の割合が下限値未満では、ハンダ粉末が溶融せず、十分な接合強度が得られないという不具合を生じる場合があり、一方、上限値を越えると保管中に活性剤がハンダ粉末と反応し易くなるため、ハンダ用ペーストの保存安定性が低下するという不具合を生じる場合がある。この他、ハンダ用フラックスには、粘度安定剤を添加しても良い。粘度安定剤としては、溶剤に溶解可能なポリフェノール類、リン酸系化合物、硫黄系化合物、トコフェノール、トコフェノールの誘導体、アルコルビン酸、アルコルビン酸の誘導体等が挙げられる。粘度安定剤は、多すぎるとハンダ粉末の溶融性が低下する等の不具合が生じる場合があるため、10質量%以下とするのが好ましい。
【0039】
ハンダ用ペーストを調製する際のハンダ用フラックスの混合量は、調製後のペースト100質量%中に占める該フラックスの割合が5〜30質量%になる量にするのが好ましい。下限値未満ではフラックス不足でペースト化が困難になり、一方、上限値を越えるとペースト中のフラックスの含有割合が多すぎて金属の含有割合が少なくなってしまい、ハンダ溶融時に所望のサイズのハンダバンプを得るのが困難になるからである。
【0040】
このハンダ用ペーストは、上記本発明のハンダ粉末を材料としているため、リフロー時の溶融が速く、溶融性に優れる一方、リフロー後は、溶融するハンダ粉末が融点の高い金属間化合物を形成し、耐熱性が上昇するため、熱による再溶融が起こりにくい。このため、本発明のハンダ用ペーストは、特に高温雰囲気に晒される電子部品等の実装に好適に用いることができる。
【0041】
〔ハンダ用ペーストを用いた電子部品の実装方法と接合体〕
上述した方法で調製されたハンダ用ペーストを用いてシリコンチップ、LEDチップ等の電子部品を各種放熱基板、FR4(Flame Retardant Type 4)基板、コバール等の基板に実装するには、ピン転写法にて上記基板の所定位置にハンダ用ペーストを転写するか、又は印刷法により所定位置にハンダ用ペーストを印刷する。次いで、転写又は印刷されたペースト上に電子部品であるチップ素子を搭載する。この状態で、リフロー炉にて窒素雰囲気中、250〜400℃の温度で、5〜120分間保持して、ハンダ粉末をリフローする。場合によっては、チップと基板とを加圧しながら接合してもよい。これにより、チップ素子と基板とを接合させて接合体を得て、電子部品を基板に実装する。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0043】
<実施例1>
先ず、水50mLに硫酸ニッケル(II)を4.92×10−3mol、ホスフィン酸ナトリウムを1.1×10−3mol、クエン酸ナトリウムを3.88×10−4molを加え、スターラを用いて回転速度300rpmにて5分間攪拌し、溶解液を調製した。この溶解液を硫酸にてpHを5.0に調整した後、分散剤としてポリビニルアルコール500(平均分子量が500のポリビニルアルコール)を0.2g加え、更に回転速度300rpmにて10分間攪拌した。次いで、この溶解液に、水50mLに分散剤としてポリビニルアルコール500(平均分子量が500のポリビニルアルコール)を0.2g溶解し、かつ、平均粒径が0.32μmの銀粉末3.41gを分散させた分散液を添加し、回転速度500rpmにて10分間攪拌し、銀粉末表面にニッケルを析出させたニッケル被覆銀粉末が分散する分散液を得た。この分散液を60分間静置して生成した粉末を沈降させた後、上澄み液を捨て、ここに水100mLを加えて回転速度300rpmにて10分間攪拌する操作を4回繰返し、洗浄を行った。最後にこれを真空乾燥機にて乾燥することにより、銀を中心核に、ニッケルを第1被覆層(拡散防止層)とする粉末を得た。
【0044】
引続き、水50mLに上記粉末0.37gを分散させて分散液を調製した。この分散液に硫酸錫(II)2.56×10−2molを加え、スターラを用いて回転速度300rpmにて5分間撹拌し、混合液を調製した。この混合液を硫酸にてpHを0.5に調整した後、分散剤としてポリビニルアルコール500(平均分子量が500のポリビニルアルコール)を0.5g加え、更に回転速度300rpmにて10分間撹拌した。次いで、この混合液にpHを0.5に調整した1.58mol/Lの2価クロムイオン水溶液50mLを、添加速度50mL/minにて加え、回転速度500rpmにて10分間撹拌して錫イオンを還元することにより、ニッケル被覆銀粉末表面に錫を析出させた最外層が錫からなるニッケル被覆銀粉末が分散する分散液を得た。この分散液を60分間静置して生成した粉末を沈降させた後、上澄み液を捨て、ここに水100mLを加えて回転速度300rpmにて10分間攪拌する操作を4回繰返し、洗浄を行った。最後にこれを真空乾燥機にて乾燥することにより、平均粒径が1.2μmであって、銀を中心核に、ニッケルを第1被覆層(拡散防止層)に、錫を第2被覆層(最外層)にそれぞれ形成したハンダ粉末を得た。
【0045】
<実施例2〜41、比較例1〜36>
実施例2〜41、比較例1〜36においても、用いる銀粉末の粒径及び銀粉末の添加量、硫酸ニッケル(II及び硫酸錫(II)の添加量、並びに他成分の割合を調整することにより、所定の銀中心核半径、ニッケル拡散防止層及び錫最外層の厚さ、更には所定の粒径のハンダ粉末に制御したこと以外は、実施例1と同様にしてハンダ粉末を得た。
【0046】
<比較試験及び評価>
実施例1〜41及び比較例1〜36で得られたハンダ粉末について、次に述べる方法により、ハンダ粉末の銀の含有割合[質量%]、平均粒径[μm]、銀からなる中心核の平均半径[μm]、ニッケルからなる拡散防止層の平均厚さ[μm]、錫からなる被覆層の平均厚さ[μm]を測定した。これらの結果を以下の表1〜表4に示す。また、これらのハンダ粉末を用いてハンダ用ペーストをそれぞれ調製し、リフロー時の最大保持温度を変えたときの接合強度を評価した。これらの結果を以下の表5〜表8に示す。なお、銀からなる中心核の平均半径と、ニッケルからなる拡散防止層の平均厚さと、錫からなる被覆層の平均厚さとの和をハンダ粉末の平均半径とした。これらの平均値は30個のハンダ粉末の平均値である。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
(1) ハンダ粉末の銀の含有割合の分析:誘導結合プラズマ発光分光分析(島津製作所社製 ICP発光分析装置:ICPS−7510)により、ハンダ粉末の銀の含有割合の分析を行った。
【0052】
(2) ハンダ粉末の平均粒径:レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置(堀場製作所社製、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950)にて粒径分布を測定し、その体積累積中位径(Median径、D50)をハンダ粉末の平均粒径とした。
【0053】
(3) 銀からなる中心核の半径、ニッケルからなる拡散防止層の厚さ及び錫からなる被覆層の厚さの測定:ハンダ粉末を熱硬化性エポキシ樹脂に埋め込み、ハンダ粉末の断面を乾式研磨した後、電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて観察し、ハンダ粉末30個について、各々銀からなる中心核の半径、ニッケルからなる拡散防止層の厚さ及び錫からなる被覆層の厚さを測定し、各々の平均値を求めた。更に、上記測定から得られたニッケルからなる拡散防止層の厚さ及び銀からなる中心核の半径より厚さの平均値の比率(拡散防止層厚さ/中心核の半径)を算出した。
【0054】
(4) 接合強度:溶剤として50質量%のジエチレングリコールモノヘキシルエーテルと、ロジンとして46質量%の重合ロジン(軟化点95℃)と、活性剤としてシクロヘキシルアミン臭化水素酸塩1.0質量%と、チキソ剤として硬化ひまし油3.0質量%とを混合してフラックスを調製した。次に、このフラックスと、実施例1〜25及び比較例1〜12で得られたハンダ粉末とを、フラックスを88質量%、ハンダ粉末を12質量%の割合で混合してハンダ用ペーストをそれぞれ調製した。
【0055】
上記調製したペーストをピン転写法にて先端部の直径100μmのピンを用いて0.5mm厚のコバール(Fe−Ni−Co系合金)基板の所定位置に転写した。なお、コバール基板上にはNiメッキ、更にその上にAuフラッシュメッキを行った。続いて、転写されたペースト上に0.9mm□のLEDチップを搭載した。更に、加圧用治具を用いて、LEDチップ及び基板とを1.0MPaの圧力で加圧しながら、赤外線加熱炉にて窒素雰囲気中、0.17時間、所定の最大保持温度でリフローし、LEDチップとコバール基板とを接合させることにより、接合サンプルを得た。なお、上記リフロー時の最大保持温度を250℃、300℃、350℃の異なる温度に設定し、実施例又は比較例ごとにそれぞれ3つずつ接合サンプルを得た。
【0056】
上記接合したコバール基板及びLEDチップとの接合強度について、JIS Z 3198−7に記されている鉛フリーハンダ試験方法−第7部の「チップ部品におけるハンダ接合のシェア強度測定方法」に準拠して、室温及び300℃で0日及び30日保管後の条件下で接合シェア強度をそれぞれ測定し、室温におけるシェア強度を100としたときの300℃での0日及び30日保管後の相対的シェア強度を求めた。表中、「優」は、相対的シェア強度が90以上であった場合を示し、「良」は、90未満から80以上であった場合を示し、「可」は、80未満から70以上であった場合を示し、「不可」は、70未満であった場合を示す。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
表5〜表8から実施例1〜41と比較例1〜36とを比較すると次のことが分かった。
【0062】
比較例1では、ハンダ粉末の平均粒径が0.5μmと小さすぎ、粉末表面の酸化膜の影響で、ハンダ粉末を保管する前から、ハンダ粉末が溶融しなかった。比較例2、4、5、7〜9、11〜14、16〜18、23、29、33、35では、銀の含有量が5質量%程度で少なすぎ、凝固開始温度が低くなり、十分な耐熱性が得られなかったため、ハンダ粉末を保管前及び30日保管後の各350℃のリフロー温度では接合強度が不可であった。比較例3、6、10、15、28では、銀の含有量が83質量%程度で多すぎ、凝固開始温度が高くなりすぎ、ハンダ粉末を保管前及び30日保管後の250℃のリフロー時並びに30日保管後の300℃のリフロー時にハンダが溶融せず、接合強度が不可であった。比較例19〜36では、ハンダ粉末の平均粒径が40μm程度で大きすぎ、リフロー後において大きなボイド(空孔)を有した接合層となり緻密な接合層が得られなかった。このためハンダ粉末を保管前及び30日保管後の250℃、300℃、350℃のいずれかのリフロー温度で接合強度が不可であった。
【0063】
これに対して、ハンダ粉末の平均粒径が1μm以上30μm以下の範囲内にあり、ハンダ粉末の全体量100質量%に対し、銀の含有割合が10質量%以上81質量%以下の範囲内にある実施例1〜41では、ハンダ粉末を保管前及び30日保管後の各250℃、300℃、350℃のすべてのリフロー温度において接合強度が可、良又は優であった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、長期間保管することがあるハンダ粉末に好適に利用できる。また電子部品の実装、特に高温雰囲気に晒される電子部品の実装に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0065】
10 ハンダ粉末
11 中心核
12 被覆層
13 ニッケルからなる拡散防止層
図1